説明

酢酸菌のアルコール脱水素酵素遺伝子

酢酸菌の染色体DNAライブラリーから、酢酸含有培地で増殖促進機能を有する遺伝子を取得する方法により、グルコンアセトバクター属に属する実用酢酸菌から酢酸発酵を実用レベルで向上させる機能を有する新規な遺伝子をクローニングした。また、該遺伝子を酢酸菌に導入した形質転換株においては、エタノール存在下で培養した場合、増殖誘導期が著しく短縮され、酢酸発酵速度を顕著に向上させることを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、微生物に由来する増殖促進機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、これのコピー数を増幅した微生物、特にアセトバクター属(Acetobacter)及びグルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)に属する酢酸菌、及びこれらの微生物を用いて高濃度の酢酸を含有する食酢を効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
酢酸菌は食酢製造に広く利用されている微生物であり、特にアセトバクター属及びグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌が工業的な酢酸発酵に利用されている。
酢酸発酵では、培地中のエタノールが酢酸菌によって酸化されて酢酸に変換され、その結果、酢酸が培地中に蓄積することになるが、酢酸は酢酸菌にとっても阻害的であり、酢酸の蓄積量が増大して培地中の酢酸濃度が高くなるにつれて酢酸菌の増殖能力や発酵能力は次第に低下する。
特に、発酵を開始してから実際に酢酸菌の増殖が開始し、酢酸の蓄積が確認できるようになるまでの期間、すなわち増殖誘導期は、酢酸濃度が高くなればなるほど長くなる傾向がある。
そのため、酢酸発酵においては、高い酢酸濃度でも増殖誘導期をより短くすることが求められており、その一手段として、発酵液中にPQQ(4,5−ジヒドロ−4,5−ジオキソ−1H−ピロロ[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸)を添加して増殖を促進し、いわゆる増殖誘導期を短縮する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、PQQを大量に入手することは難しく、かつ、高価であるため、工業的な規模での実施には障害がつきまとうなどの問題があったことから、酢酸菌の増殖を促進して、いわゆる増殖誘導期を短縮できる機能を有するタンパク質をコードする遺伝子(増殖促進遺伝子)をクローニングし、その増殖促進遺伝子を用いて酢酸菌を育種、改良することが試みられてきた。
しかし、これまでに酢酸菌の増殖促進遺伝子については、全く分離されたことがなく、このような実情から、酢酸菌の増殖を実用レベルで促進し、増殖誘導期を短縮する機能を有するタンパク質をコードする新規な増殖促進遺伝子の分離、及びこの増殖促進遺伝子を用いてより強い増殖機能を有する酢酸菌を育種することが望まれていた。
【特許文献1】:特開昭61−58584号広報
【特許文献2】:特開昭60−9488号公報
【特許文献3】:特開昭60−9489号公報
【特許文献4】:特願2003−350265号明細書
【非特許文献1】:
「バイオキミカ・アト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta)」,1088巻,p.292−300,1991年
【非特許文献2】:
「アプライド・オブ・エンバイロメト・アンド・マイクロバイオロジー(Applied of Environment and Microbiology)」,55巻,p.171−176,1989年
【非特許文献3】:
「アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricaltural and Biological Chemistry)」,52巻,p.3125−3129,1988年
【非特許文献4】:
「アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricaltural and Biological Chemistry)」,49巻,p.2091−2097,1985年
【非特許文献5】::
「バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Bioscience,Biotechnology and Biochemistry),58巻,p.974−975,1994年
【非特許文献6】:
「ユーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European Journal of Biochemistry)」,254巻,p.356−362,1998年
【非特許文献7】:
「メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology.)」,89巻,p.450−457,1982年
【非特許文献8】:
「メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology.)」,89巻,p.491−496,1982年
【非特許文献9】:
「セルロース(Cellulose)」,p.153−158、1989年
【発明の開示】
前述のとおり、これまでに酢酸菌の増殖促進機能を遺伝子レベルで解明し、高い増殖促進機能を有する実用酢酸菌の開発に成功した例は報告されていない。そこで、本発明者らは、本発明により実用レベルで増殖促進機能を向上させ得るタンパク質をコードする新規なアルコール脱水素酵素遺伝子を分離すること、このアルコール脱水素酵素遺伝子を用いてより優れた増殖促進機能を有する酢酸菌を育種すること、この酢酸菌を用いて、より高酢酸濃度の食酢を効率良く製造する方法を提供することを目的とした。
本発明者らは、酢酸存在下でも増殖し、発酵することができる酢酸菌には、他の微生物には存在しない特異的な増殖促進遺伝子が存在するとの仮説を立て、こうした遺伝子を用いれば、従来以上に微生物の増殖促進機能を向上させることができ、さらには高濃度の酢酸を含有する食酢を従来よりも効率的に製造する方法を開発することが可能になるとの新規着想を得、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は次のとおりである。
(1)下記の(A)、又は(B)に示すタンパク質ADH。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質ADH。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADH。
(2)下記の(A)、又は(B)に示すタンパク質ADHをコードする遺伝子のDNA。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質ADH。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADH。
(3)下記の(A)、(B)又は(C)のDNAからなる遺伝子。
(A)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号359〜1390からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号359〜1390の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADHをコードするDNA。
(C)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号359〜1390の塩基配列からなるDNAの一部から作製したプローブとなりうる塩基配列からなるDNAと、ストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADHをコードするDNA。
(4)(2)又は(3)に記載のDNAを含む組換えベクター。
(5)(4)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(6)(2)又は(3)に記載のDNAの細胞内でのコピー数が増幅されたことにより、アルコール脱水素酵素活性が増強された微生物。
(7)微生物がアセトバクター属又はグルコンアセトバクター属の酢酸菌であることを特徴とする(6)に記載の微生物。
(8)(6)又は(7)に記載の微生物をアルコール含有培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめることを特徴とする食酢の製造方法。
(9)(8)に記載の方法により得られる酢酸を高濃度に含む食酢。
(10)酢酸濃度が10〜13%である(9)に記載の食酢。
本発明によれば、微生物に対して、増殖促進機能を付与し増強することができる。そして、アルコール酸化能を有する微生物、特に酢酸菌においては、増殖誘導期が顕著に短縮し、培地中に高濃度の酢酸を効率良く蓄積する能力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
図1はグルコンアセトバクター・エンタニイ由来の遺伝子断片(pP1)の制限酵素地図等の概略図である。
図2はグルコンアセトバクター・エンタニイ由来のNAD依存型アルコール脱水素酵素遺伝子のコピー数を増幅した形質転換株の培養経過を示す図である。
図3はグルコンアセトバクター・エンタニイ由来のNAD依存型アルコール脱水素酵素遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。
図4はプライマー1の塩基配列を示す図である。
図5はプライマー2の塩基配列を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本願は2003年3月12日に出願された日本国特許出願2003−66697の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
本発明者らは、酢酸菌から増殖促進遺伝子を見出す方法について、鋭意研究を行った結果、酢酸菌の染色体DNAライブラリーを構築し、この染色体DNAライブラリーを酢酸菌に形質転換し、通常寒天培地上で1%の酢酸の存在下で生育に4日必要な株を、同培地上で3日での生育を可能にする遺伝子をスクリーニングすることによって酢酸菌から増殖促進遺伝子を分離する方法を開発した。
この方法によって、実際に食酢製造に用いられているグルコンアセトバクター属の酢酸菌から、増殖促進機能を実用レベルで向上させうる新規なアルコール脱水素酵素遺伝子(以下、adh遺伝子ということもある)をクローニングすることに初めて成功した。
得られたadh遺伝子は、DDBJ/EMBL/Genbank及びSWISS−PROT/PIRにおいてホモロジー検索した結果、大腸菌(Escheirchia coli)で見出されているadhP遺伝子やシノリゾビウム・メリロッティ(Shinorhizobium meliloti)のadhA遺伝子などによって生産される一群のタンパク質とある程度の相同性を有しており、酢酸菌のアルコール脱水素酵素遺伝子(adh遺伝子)であると推定された。
但し、本発明のadh遺伝子は、これまでに報告されている酢酸菌(Acetobacter polyoxogenes)のadh遺伝子(例えば、非特許文献1参照)とは、アミノ酸配列レベルで6.4%の極めて低い相同性であり、また予想される分子量にも大きな違いがあることから、これまでに報告されている膜タンパク質としてのadh遺伝子とは明らかに異なるものであることが確認された。
また、大腸菌のadhP遺伝子とはアミノ酸配列レベルで39%の、またシノリゾビウム・メリロッティ(Shinorhizobium meliloti)のadhA遺伝子とはアミノ酸配列レベルで56%の相同性であり、その相同性の程度は極めて低いものであったことから、他の原核生物のadh遺伝子とはある程度は似ているものの、酢酸菌に特異的な新規タンパク質(タンパク質ADHということもある)をコードする新規遺伝子であることが確認された。
本発明において、adh遺伝子をプラスミドベクターに連結して酢酸菌に形質転換して作製した、コピー数を増幅させた形質転換株においては、アルコール脱水素酵素活性が約54倍に増大し、該遺伝子が酢酸菌のアルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であることが確認された。
さらに、エタノール存在下で通気培養した場合に、酢酸発酵能、特に増殖促進機能が著しく向上し、誘導期が短縮されて、高酢酸濃度の食酢を効率的に製造できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明のDNA
本発明のDNAは、大腸菌などのadh遺伝子とある程度の相同性を有し、且つ増殖促進機能を向上させうる配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有するアルコール脱水素酵素をコードし得る塩基配列を包含し、該塩基配列の調製要素、及び該遺伝子の構造部分を含む。
本発明のDNAは、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の染色体DNAから次のようにして取得することができる。
まず、グルコンアセトバクター・エンタニイ、例えばアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(受託番号FERM BP−491で、1984年2月23日付(原寄託)で独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている)の染色体DNAライブラリーを調製する。なお、染色体DNAは、常法(例えば、特許文献3参照)により取得する。
次に得られた染色体DNAからアルコール脱水素酵素遺伝子を単離するために、染色体DNAライブラリーを作製する。まず、染色体DNAを適当な制限酵素で部分分解して種々の断片混合物を得る。切断反応時間などを調節して切断の程度を調節すれば、幅広い種類の制限酵素が使用できる。例えば、Sau3AIを温度30℃以上、好ましくは37℃、酵素濃度1〜10ユニット/mlで様々な時間(1分〜2時間)、染色体DNAに作用させてこれを消化する。なお、後記実施例ではPstIを用いた。
次いで、切断された染色体DNA断片を、酢酸菌内で自律複製可能なベクターDNAに連結し、組換えベクターを作製する。具体的には、染色体DNAの切断に用いた制限酵素PstIと相補的な末端塩基配列を生じさせる制限酵素、例えばPstIを温度37℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で、1時間以上ベクターDNAに作用させてこれを完全消化し、切断開裂する。
次に、上記のようにして得た染色体DNA断片混合物と切断開裂されたベクターDNAを混合し、これにTDNAリガーゼを温度4〜16℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で1時間以上、好ましくは6〜24時間作用させて組換えベクターを得る。
得られた組換えベクターを用いて、通常は寒天培地上で1%濃度の酢酸の存在下では増殖に4日必要な酢酸菌、例えばアセトバクター・アセチ1023(Acetobacter aceti No.1023)株(受託番号FERM BP−2287で、1983年6月27日付(原寄託)で独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている)を形質転換し、その後1%酢酸含有寒天培地に塗布し、3日間培養する。生じたコロニーを液体培地に摂取して培養し、得られる菌体からプラスミドを回収することでadh遺伝子を含むDNA断片を得ることができる。
本発明のDNAとして、具体的には、配列表の配列番号1の塩基配列を有するDNAが挙げられるが、その内、塩基番号359〜1390からなる塩基配列はコーディング領域である。
配列表の配列番号1に示す塩基配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列(図3:塩基番号359〜1390に対応)は、DDBJ/EMBL/Genbank及びSWISS−PROT/PIRにおいてホモロジー検索したところ、大腸菌(Escheirchia coli)のadhP遺伝子とはアミノ酸配列レベルで39%の、またシノリゾビウム・メリロッティ(Shinorhizobium moliloti)のadhA遺伝子とはアミノ酸配列レベルで56%の相同性を示し、タンパク質ADHをコードする遺伝子であることが推定されたが、いずれも60%以下の低い相同性であり、これらの遺伝子とは異なる新規なものであることが明白であった。
さらに、酢酸菌アセトバクター・ポリオキソゲネス(Acetobacter polyoxogenes)からadh遺伝子を取得したことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)が、この場合のadh遺伝子はそのコードするタンパク質のアミノ酸配列と塩基番号359〜1390からなる塩基配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列との相同性はわずか6.4%と非常に低く、既知のadh遺伝子とは明らかに異なり、酢酸菌の新規なadh遺伝子であることが明白であった。
本発明のDNAはその塩基配列が明らかとなったので、例えば、鋳型として酢酸菌グルコンアセトバクター・エンタニイのゲノムDNAを用い、該塩基配列にに基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR反応)によって、または該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによっても得ることができる。
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて定法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 9700を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して、定法に従って行なうことができる。
本発明の増殖促進機能を有するタンパク質ADHをコードするDNAは、コードされるタンパク質ADHのアルコール脱水素酵素活性や増殖促進機能が損なわれない限り、1又は複数の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加された、あるいは逆位とされたタンパク質をコードするものであればいずれでも良い。
このような増殖促進機能を有するアルコール脱水素酵素と実質的に同一のタンパク質ADHをコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加し、あるいは逆位として塩基配列を改変することによっても取得され得る。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。
また、一般的にタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることが知られているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、酢酸菌全般、中でもアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の種、株、変異体、変種から得ることが可能である。
具体的には、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、又は変異処理したアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列の塩基配列番号359〜1390からなる塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA又は塩基配列番号359〜1390からなる塩基配列DNAの一部から作製したプローブとなりうる塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいうストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高い核酸同士、例えば70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のハイブリダイゼーションの洗浄条件、例えば1×SSCで0.1%SDSに相当する塩濃度にて60℃で洗浄が行われる条件などが挙げられる。
(2)本発明の酢酸菌
本発明の酢酸菌はアセトバクター属及びグルコンアセトバクター属の細菌を指し、酢酸耐性が増強されたアセトバクター属細菌及びグルコンアセトバクター属細菌である。
アセトバクター属の細菌として具体的には、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)が挙げられ、アセトバクター・アセチNo.1023(Acetobacter aceti No.1023)株(特許生物寄託センターにFERM BP−2287として寄託)、アセトバクター・アセチ・サブスピーシーズ・ザイリナムIFO3288(Acetobacter aceti subsp.xylinum IFO3288)株、アセトバクター・アセチIFO3283(Acetobactor aceti IFO3283)株が挙げられる。
また、グルコンアセトバクター属の細菌としては、例えば、グルコンアセトバクター・ユウロパエウスDSM6160(Gluconacetobacter europaeus DSM6160)株、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)が挙げられ、現在特許生物寄託センターにFERM BP−491として寄託されているアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株が例示される。
増殖促進機能の増強は、例えばadh遺伝子の細胞内のコピー数を増幅すること、又は、該遺伝子の構造遺伝子を含むDNA断片をアセトバクター属細菌中で効率よく機能するプロモーター配列に連結して得られる組換えDNAを用いて、アセトバクター属細菌を形質転換することによって行われる。
また、染色体DNA上の該遺伝子のプロモーター配列を、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌中で効率よく機能する他のプロモーター配列、例えば大腸菌のプラスミドpBR322(タカラバイオ社製)のアンピシリン耐性遺伝子、プラスミドpHSG298(タカラバイオ社製)のカナマイシン耐性遺伝子、プラスミドpHSG396(タカラバイオ社製)のクロラムフェニコール耐性遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などの各遺伝子のプロモーターなど、酢酸菌以外の微生物由来のプロモーター配列に置き換えることによっても増強することができる。
該遺伝子の細胞内コピー数の増幅は、該遺伝子を保持するマルチコピーベクターをアセトバクター属酢酸菌の細胞に導入することによって行なうことができる。すなわち、該遺伝子を保持するプラスミド、トランスポゾン等をアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌の細胞に導入することによって行なうことができる。
マルチコピーベクター(酢酸菌−大腸菌シャトルベクター)としては、pMV24(例えば、非特許文献2参照)、pGI18(例えば、特許文献4参照)、pUF106(例えば、非特許文献9参照)、pTA5001(A)、pTA5001(B)(例えば、特許文献2参照)などが挙げられ、染色体組み込み型ベクターであるpMVL1(例えば、非特許文献3参照)も挙げられる。また、トランスポゾンとしては、MuやIS1452などが挙げられる。
アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌へのDNAの導入は、塩化カルシュウム法(例えば、非特許文献4参照)やエレクトロポレーション法(例えば、非特許文献5参照)等によって行うことができる。
形質転換体は少なくとも配列表の配列番号1に示す塩基配列を有するDNA断片を含んでなる組換えプラスミドであって、例えば、酢酸菌−大腸菌シャトルベクター(マルチコピーベクター)pMV24にこのDNA断片を挿入してなるプラスミドpADH1、及び/又は、このプラスミドpADH1をアセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)No.1023(FERM BP−2287)に導入することによりえられる。
アルコール酸化能を有するアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌において、上記のようにしてそのアルコール脱水素酵素活性を増大させると、増殖促進機能が増強され、誘導期が短縮されて、高濃度の酢酸を含有する食酢を効率良く生産することができる。
(3)食酢製造法
上記のようにして、adh遺伝子のコピー数が増幅されたことにより、増殖促進機能が選択的に増強されたアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌であってアルコール酸化能を有するものを、アルコール含有培地で培養し、該培地中に酢酸を生産蓄積せしめることにより、高濃度の酢酸を含有する食酢を効率よく製造することができる。
本発明の製造法における酢酸発酵は、従来の酢酸菌の発酵法による食酢の製造法と同様にして行なえば良い。酢酸発酵に使用する培地としては、炭素源、窒素源、無機物、エタノールを含有し、必要があれば使用菌株が生育に要求する栄養源を適当量含有するものであれば、合成培地でも天然培地でも良い。
炭素源としては、グルコースやシュークロースをはじめとする各種炭水化物、各種有機酸が挙げられる。窒素源としては、ペプトン、発酵菌体分解物などの天然窒素源を用いることができる。
また、培養は、静置培養法、振とう培養法、通気攪拌培養法等の好気的条件下で行ない、培養温度は20〜40℃、好ましくは25〜35℃、通常は30℃で行なう。培地のpHは通常2.5〜7の範囲であり、2.7〜6.5の範囲が好ましく、各種酸、各種塩基、緩衝液等によって調整することもできる。通常1〜21日間の培養によって、培地中に高濃度の酢酸が蓄積する。この方法による食酢の酢酸濃度は10〜13%である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)グルコンアセトバクター・エンタニイからの増殖促進機能を有する遺伝子のクローニングと塩基配列及びアミノ酸配列の決定
(1)染色体DNAライブラリーの作製
グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の1株であるアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(FERM BP−491)を6%酢酸、4%エタノールを添加したYPG培地(3%グルコース、0.5%酵母エキス、0.2%ポリペプトン)で30℃にて振とう培養を行なった。培養後、培養液を遠心分離(7,500×g、10分)し、菌体を得た。得られた菌体より、染色体DNA調製法(例えば、特許文献3参照)により、染色体DNAを調製した。
上記のようにして得られた染色体DNAを制限酵素PstI(タカラバイオ社製)で部分消化し、また大腸菌−酢酸菌シャトルベクターpMV24を制限酵素PstIで完全消化して、切断した。これらのDNAを適量ずつ混合し、ライゲーションキット(TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2、タカラバイオ社製)を用いて連結してグルコンアセトバクター・エンタニイの染色体DNAライブラリーを構築した。
(2)増殖促進機能を有する遺伝子のクローニング
上記のようにして得られたグルコンアセトバクター・エンタニイの染色体DNAライブラリーを、通常は1%酢酸を含有する寒天培地上で増殖に4日間必要なアセトバクター・アセチNo.1023株に形質転換し、1%酢酸、100μg/mlのアンピシリンを含むYPG寒天培地にて、30℃で3日間培養した。3日で生じたコロニーを100μg/mlのアンピシリン含むYPG培地に接種して培養し、得られた菌体からプラスミドを回収したところ、図1に示した約1.7kbpのPstI断片がクローン化されており、このプラスミドをpP1と命名した。さらに1%酢酸を含有するYPG寒天培地でアセトバクター・アセチNo.1023株を3日間で生育可能にする断片は、pP1にクローン化された約1.7kbpのPstI断片中の約1.2kbpのBglI断片であることが確認できた。
このようにして通常は1%酢酸を含有する寒天培地上で増殖に4日間必要なアセトバクター・アセチNo.1023株を、1%酢酸含有寒天培地において3日間で増殖を可能にする遺伝子断片を取得した。
(3)クローン化されたDNA断片の塩基配列の決定
上記のクローン化されたPstI断片をpUC19のPstI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法によって決定した結果、配列番号1に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号1記載の塩基配列中には、塩基番号359から塩基番号1390にかけて、配列番号2に記載したような344個のアミノ酸(図3)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。
(実施例2)グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での誘導期の短縮効果
(1)アセトバクター・アセチへの形質転換
上記のようにしてクローン化されたアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(FERM BP−491)由来の増殖促進機能を有する遺伝子を、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法により増幅し、増幅したDNA断片を酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpMV24(例えば、非特許文献2参照)の制限酵素SmaI切断部位に挿入したプラスミドpADH1を作製した。pADH1に挿入された増幅断片の概略を図1に示した。図1はPstIを用いてクローニングされたグルコンアセトバクター・エンタニイ由来の遺伝子断片(pP1)の制限酵素地図と増殖促進機能を有する遺伝子の位置、及びpADH1への挿入断片を示す。
PCR法は具体的には次のようにして実施した。すなわち、鋳型としてアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてプライマー1(その塩基配列を配列番号3(図4)に示す)及びプライマー2(その塩基配列を配列番号4(図5)に示す)を用いて、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を使用し、下記するPCR条件にてPCRを実施した。
すなわち、PCR法は94℃15秒、60℃30秒、68℃1分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
このpADH1をアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法(例えば、非特許文献5参照)によって形質転換した。形質転換株は100μg/mlのアンピシリン及び1%の酢酸を添加したYPG寒天培地で選択した。
選択培地上で3日で生育したアンピシリン耐性の形質転換株について、定法によりプラスミドを抽出して解析し、増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した。
(2)形質転換株の増殖促進機能
上記のようにして得られたプラスミドpADH1を有するアンピシリン耐性の形質転換株について、酢酸を添加したYPG培地での生育を、シャトルベクターpMV24のみを導入した元株アセトバクター・アセチNo.1023株と比較した。
具体的には、酢酸3%、エタノール3%とアンピシリン100μg/mlを含む100mlのYPG培地にて、30℃で振とう培養(150rpm)を行ない、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定することで比較した。
その結果、第2図に示すように、形質転換株では3%酢酸と3%エタノールを添加した培地において、元株アセトバクター・アセチNo.1023株よりも形質転換株の方が早く増殖することが確認でき、該遺伝子の増殖促進機能の増強効果が確認できた。
(3)形質転換株と元株の各種酵素活性
プラスミドpADH1を有するアンピシリン耐性の形質転換株と、シャトルベクターpMV24のみを導入した元株アセトバクター・アセチNo.1023株でNAD依存型アルコール脱水素酵素活性をバクテリアの方法(例えば、非特許文献6参照)を変法して測定した。具体的には、1mlの反応系に25mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、500mMエタノール、1.5mM NADを含み、適当量の細胞破砕液を添加し、25℃で340nmの吸光度を測定した。活性は1分あたりの1μmolNADH生成量を1Uとした。また、膜結合型アルコール脱水素酵素を酢酸菌の方法(例えば、非特許文献7参照)、膜結合型アルデヒド脱水素酵素活性を酢酸菌の方法(例えば、非特許文献8参照)にそれぞれ準じて測定した。その結果を表1に示した。


表1の結果より、形質転換株は膜結合型のアルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素の活性は元株アセトバクター・アセチNo.1023株と同レベルであったが、NAD依存型のアルコール脱水素酵素活性については形質転換株が約54倍高く、クローニングされた遺伝子はNAD依存型アルコール脱水素酵素をコードしているadh遺伝子であることが確認された。
(実施例3)グルコンアセトバクター・エンタニイ由来のadh遺伝子で形質転換した形質転換株の酢酸発酵試験
実施例2で得られたプラスミドpADH1を有するアンピシリン耐性の形質転換株について、シャトルベクターpMV24のみを有する元株アセトバクター・アセチNo.1023株と酢酸発酵能を比較した。
具体的には、5Lのミニジャー(三ツワ理化学工業社製;KMJ−5A)を用いて、酢酸1%、エタノール4%、アンピシリン100μg/mlを含む2.5LのYPG培地にて、30℃、400rpm、0.20vvmの通気攪拌培養を行ない、酢酸濃度3%まで発酵させた。その後、700mLの培養液をミニジャー中に残して培養液を取り出し、残った700mlに対して酢酸、エタノール、アンピシリン100μg/mlを含む1.8LのYPG培地を添加して、酢酸3%、エタノール4%の濃度に調整し、再び酢酸発酵を開始させ、途中培地中のエタノール濃度が1%を維持するようにエタノールを添加しつつ通気攪拌培養を継続して、形質転換株と元株の酢酸発酵能を比較した。その結果を表2にまとめた。

表2の結果から、形質転換株の方が、増殖誘導期が顕著に短縮され、効率的に酢酸発酵を行えることが確認できた。
(実施例4)グルコンアセトバクター・エンタニイ由来のadh遺伝子で形質転換した形質転換株の酢酸発酵試験
(1)アセトバクター・アルトアセチゲネスへの形質転換
アセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(FERM BP−491)由来の増殖促進機能を有する遺伝子を、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法により増幅し、増幅したDNA断片を酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpGI18(例えば、特許文献4参照)を制限酵素SmaIで切断した後、その部位に、増幅したDNA断片を挿入してプラスミドpADH2を作製した。pADH2に挿入された増幅断片の概略を図1に示した。図1はPstIを用いてクローニングされたグルコンアセトバクター・エンタニイ由来の遺伝子断片(pP1)の制限酵素地図と増殖促進機能を有する遺伝子の位置、及びpADH2への挿入断片を示す。
PCR法は具体的には次のようにして実施した。すなわち、鋳型としてアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてプライマー1(その塩基配列を配列番号3(図4)に示す)及びプライマー2(その塩基配列を配列番号4(図5)に示す)を用いて、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を使用し、下記するPCR条件にてPCRを実施した。
すなわち、PCR法は94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 1分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
このpADH2をアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株にエレクトロポレーション法(例えば、非特許文献5参照)によって形質転換した。形質転換株は100μg/mlのアンピシリン及び4%の酢酸、3%のエタノールを添加したYPG寒天培地で選択した。
選択培地上で生育したアンピシリン耐性の形質転換株について、定法によりプラスミドを抽出して解析し、adh遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した。
(2)形質転換株の酢酸発酵試験
(1)で得られたプラスミドpADH2を有するアンピシリン耐性の形質転換株について、シャトルベクターpGI18のみを有する元株アセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株と酢酸発酵能を比較した。
具体的には、5Lのミニジャー(三ツワ理化学工業社製;KMJ−5A)を用いて、アンピシリン100μg/mlを含む2.5Lの原料培地(酢酸7%、エタノール3%、酵母エキス0.2%、グルコース0.2%)にて、30℃、500rpm、0.20vvmの通気攪拌培養を行なった。菌体の明らかな増殖が認められ、残留エタノール濃度が2%になった段階で、エタノール含有液(酢酸1%、エタノール50%、酵母エキス0.2%、グルコース0.2%)を流加し、発酵液のエタノール濃度が2%になるように制御した。この酢酸発酵をさせる方法で、形質転換株と元株の酢酸発酵能を比較した。その結果を表3にまとめた。

表3の結果から、形質転換株の方が、最終到達酸度において顕著にすぐれていることが確認できた。
(実施例5)グルコンアセトバクター・エンタニイ由来のadh遺伝子で形質転換した形質転換株の酢酸発酵試験
(1)アセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムへの形質転換
実施例4で得られたプラスミドpADH2をアセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナム(Acetobacter aceti subsp.xylinum)の1株であるアセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムIFO3288(Acetobacter aceti subsp.xylinum IFO3288)株にエレクトロポレーション法(非特許文献5参照)によって形質転換した。形質転換株は100μg/mlのアンピシリンを添加したYPG寒天培地で選択した。
選択培地上で生育したアンピシリン耐性の形質転換株について、定法によりプラスミドを抽出して解析し、酢酸耐性増強遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した。
(2)酢酸発酵試験
(1)で得られたプラスミドpADH2を有するアンピシリン耐性の形質転換株について、シャトルベクターpGI18のみを導入した元株アセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムIFO3288株と酢酸発酵能を比較した。
具体的には、米糖化液を17.9%、発酵諸味を3.2%、醸造用アルコールを7.8%、水を71.1%の割合で混合して作成した原料培地(アルコール濃度7.8%、酢酸濃度0.26%)を用いて、5Lのミニジャー(三ツワ理化学工業社製;KMJ−5A)において、30℃、500rpm、0.20vvmの通気攪拌培養を行ない、酢酸濃度7.3%での連続発酵を行なった。酢酸濃度7.2%の連続発酵での原料培地の添加速度を比較し、その結果を表4に示した。また、形質転換株の原料培地添加速度を元株の酢酸濃度7.3%での連続発酵時の原料培地添加速度に合わせた場合の酢酸発酵能を比較し、その結果を表4に示した。


表4、及び表5の結果から、形質転換株の方が、連続酢酸発酵においても、生産性(原料培地添加速度)と生産酢酸濃度においても顕著にすぐれていることが確認できた。
本発明で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として組み入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明により、酢酸耐性に関与する新規な遺伝子が提供され、さらに該遺伝子を用いてより高酢酸濃度の食酢を高効率で製造可能な育種株を取得することができ、該育種株を用いたより高酢酸濃度の食酢を高効率で製造する方法が提供できた。
【配列表フリーテキスト】
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、又は(B)に示すタンパク質ADH。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質ADH。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADH。
【請求項2】
下記の(A)、又は(B)に示すタンパク質ADHをコードする遺伝子のDNA。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質ADH。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなり、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADH。
【請求項3】
下記の(A)、(B)又は(C)のDNAからなる遺伝子。
(A)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号359〜1390からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号359〜1390の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADHをコードするDNA。
(C)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号359〜1390の塩基配列からなるDNAの一部から作製したプローブとなりうる塩基配列からなるDNAと、ストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質ADHをコードするDNA。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項2又は請求項3に記載のDNAの細胞内でのコピー数が増幅されたことにより、アルコール脱水素酵素活性が増強された微生物。
【請求項7】
微生物がアセトバクター属又はグルコンアセトバクター属の酢酸菌であることを特徴とする請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の微生物をアルコール含有培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめることを特徴とする食酢の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により得られる酢酸を高濃度に含む食酢。
【請求項10】
酢酸濃度が10〜13%である請求項9に記載の食酢。

【国際公開番号】WO2004/081216
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503467(P2005−503467)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001732
【国際出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】