説明

酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法

【課題】食品製造施設や調理施設等の処理対象物の表面において生じる汚れ(残渣)を有効に分離除去して抗菌作用を長く保持することができる、酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法を提供する。
【解決手段】100重量の水または湯水(80℃以下)に、酵素として、パパインを0.2〜1.2重量部、パンクレアチンを0.1〜1.4重量部、助剤として、アデノシン三リン酸二ナトリウム塩を0.2〜2.4重量部、バチルス菌系プロテアーゼを0.2〜1.2重量部、L−グルタミン酸を0.2〜1.0重量部、からなる酵素処理剤を、添加混合して作成した酵素処理液を使用し、処理対象物に対し洗浄ないし塗布して抗菌処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法に関し、さらに詳細には、食品衛生、食物アレルギー、医療現場における院内感染等の問題に対処するための各種の処理対象物に対し、洗浄ないし塗布して抗菌処理を有効に達成することができる酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、食品衛生の面から、洗浄後の残留物による二次汚染の問題や、医療現場における院内感染等の問題、特に食物アレルギーによる健康被害の発生や、アレルゲンの表示欠落により、各種の食品、食物等の自主回収が多発している。
【0003】
そこで、食品衛生を監視する目的として、「ATPふき取り検査」や「タンパク質ふき取り検査」など、市販のふき取りキットを活用することで、効果的なアレルゲン対策に繋げることが、食品等の製造現場や調理現場における食物アレルギー対策の構築に役立っている。
【0004】
しかしながら、現在において、ふき取り検査はあくまで自主管理のための検査であり、検査手法、検査頻度、清浄度管理基準値の設定方法等、全てをユーザの責任において定めて、運用することが基本となっている。確かに、清浄度は、非常に現場的な業務であり、各種の事業所毎に内容が異なり、一律に標準的な方法が提示し難い性格を有していることは明らかである。
【0005】
なお、従来の検査手法では、事業所において採取した検は検査室へ持ち運ばれて検査されるが、その検査結果は次回の事業所における検査の際にそれぞれ伝達表示され、適宜指導を受けるのが一般的であった。従って、指導を受ける事業所としては、例えば1カ月以上前の作業についての指導を受けることになることから、改善に多くの時間が掛ってしまう難点があった。
【0006】
今日においては、ふき取り検査に使用するテスタが小型化し、検査コストも低減化する傾向にあるため、検査現場で直ちに検査結果が得られることから、予め良否判定の基礎となる清浄度基準値を設定しておけば、この基準値を目標として具体的な作業改善を指導することができ、迅速かつ効率的な改善を期待することができる。すなわち、前記清浄度基準値の具体的な設定を行うことにより、農林水産省の推進する食の安全および安心に寄与すると共に、食品等のトレーサビリティ制度確立の面においても、清浄工程の重要性を高めることが可能である。
【0007】
また、食中毒の発生予防対策として、食品等の製造現場や調理現場において実施されている微生物管理に比べると、アレルゲンコントロールは未だ確立されていない現状であり、そのため必要以上の警告表示や不要な原材料添加によるリスクの回避を図る傾向がみられる。
【0008】
そこで、食品等の製造現場や調理現場における食物アレルギー対策の構築に少しでも役立ち、食品衛生監視面からも、各種の洗浄後の残渣による二次汚染の問題、医療現場の院内感染等、汚染残留物に対する清浄度をいかに零に近づけることができるかが、今後の課題である。そして、前述した各種の洗浄に対する汚れの概念は、原因となる菌ばかりでなく、特に食品の残渣を含めたトータルと考えると共に、清浄度を数値化することにより、従来のような勘と経験に頼るのではなく、各種の洗浄が適正に行われるように指導できるようにすることが重要である。
【0009】
このような観点において、従来の洗浄方法としては、化学的洗浄方法と物理的洗浄方法とが知られており、さらに酵素を使用する洗浄方法が知られている(特許文献1、2参照)。すなわち、細部に至るまでの洗浄に際しては、前記化学的ないし物理的な洗浄方法に加えて、酵素による洗浄方法が必要であることが知られている。
【0010】
化学的洗浄方法としては、アルカリ水溶液やアルカリ洗浄剤等からなる洗浄液、例えばドデシル硫酸ナトリウム/水酸化ナトリウムの洗浄液の洗浄液等を使用する方法が一般的である。しかし、この種の洗浄液は、親水性高分子からなるウイルス除去膜が、アルカリや界面活性剤によって影響を受け、膜の変質が生じるという問題がある。
【0011】
物理的洗浄方法としては、スポンジボールまたは高圧水流等により強制的に付着物質を掻き取る方法を始め、液体逆洗法、気体逆洗法、加圧操作法、バブリング法、超音波法、電気泳動法等、多種多様の方法が提案されている。しかし、これらの洗浄だけでは、満足すべき洗浄を必ずしも達成できないのが現状であり、しかも高価にして特殊な装置を必要とする難点がある。
【0012】
酵素による洗浄方法としては、所要の水槽に投入した所定量の水または湯水(80℃以下)に対し、酵素クリーナ1%以上を添加混合してなる処理液中に、約15分間の漬け込み処理をすることにより、菌または残渣を剥離除去する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−055784号公報
【特許文献2】特開2006−116525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は、食品製造施設や調理施設等の処理対象物の表面において生じる汚れ(残渣)を分離除去することについて検討を行った結果、食品製造施設や調理施設等の処理対象物の表面において生じる汚れ(残渣)を分離除去することについて検討し、前記汚れ(残渣)が、植物に由来する場合、繊維細胞を接着させているリグニン等の成分に着目し、また動物由来の場合、脂肪等の成分に着目して、これらの成分を選択的に除去すると共に、それらの成分を変性させることなく分離できることが重要であることを確認した。
【0015】
その結果、酵素として、パパインとパンクレアチンを使用し、助剤として、アデノシン三リン酸二ナトリウム塩(ATP)、バチルス菌系プロテアーゼ、L−グルタミン酸を併用した酵素処理剤を得ると共に、この酵素処理剤を適量の水または80℃以下の湯水に適宜添加混合して酵素処理液を作成し、この酵素処理液を使用して所要の汚れ(残渣)を生じている対象物に対し、洗浄処理を行うことにより、植物性の物からはリグニン等の成分を分離除去し、動物性の物からは脂肪等の成分をそれぞれ有効に分離除去することができることを突き止めた。
【0016】
従って、本発明の目的は、食品製造施設や調理施設等において生じる汚れ(残渣)を有効に分離除去して抗菌作用を長く保持することができる、酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため、本発明に係る酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法は、100重量の水または湯水(80℃以下)に、
酵素として、
パパイン 0.2〜1.2重量部
パンクレアチン 0.1〜1.4重量部
助剤として、
アデノシン三リン酸二ナトリウム塩 0.2〜2.4重量部
バチルス菌系プロテアーゼ 0.2〜1.2重量部
L−グルタミン酸 0.2〜1.0重量部
からなる酵素処理剤を添加混合して作成した酵素処理液を使用し、処理対象物に対し洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明においては、前記酵素処理液を使用し、食品製造機械器具および食品調理機械器具を処理対象物としてそれらの表面に対し、洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うことができる。
【0019】
さらに、本発明においては、前記酵素処理液を使用し、果実類および野菜類を処理対象物としてそれらの外表面に対し、洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うこができる。
【0020】
さらにまた、本発明においては、前記酵素処理液を使用し、人および動物類を処理対象物としてそれらの手洗い、洗顔ないし洗髪に際して、それぞれ洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法によれば、前記酵素処理液を食品製造機械器具、食品調理機械器具等の処理対象物に対して使用することにより、前記処理対象物の洗浄および抗菌処理を、通常の洗浄ないし塗布方法により容易に行うことができると共に、使用した酵素処理液の作用によって、前記処理対象物の洗浄と抗菌作用との保持について、通常の場合よりも比較的長い期間において保持できることができる。
【0022】
また、本発明の酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法によれば、前記酵素処理液を果実類および野菜類に対して使用することにより、前記果実類および野菜類の外表面を通常の洗浄ないしは塗布方法により容易に行うことができ、しかも前記果実類および野菜類の外表面に対し、洗浄および抗菌処理を行うことができると共に、使用した酵素処理液の作用によって、前記果実類および野菜類の鮮度を、通常の場合よりも比較的長く保持できる。
【0023】
さらに、本発明の酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法によれば、前記酵素処理液を人および動物類の手洗い、洗顔ないし洗髪に際して使用することにより、通常の洗浄ないし塗布方法により容易に行うことができ、しかも前記人および動物類の手、顔ないし髪に対し、洗浄および抗菌処理を行うことができると共に、前記人および動物類の手、顔ないし髪の表面における美容効果を、使用した酵素処理液の作用によって著しく高めることができる。
【0024】
そして、本発明によれば、前述した食品に関する、洗浄、塗布および抗菌処理を行う種々の処理対象物について得られる作用および効果により、食品に対する安全、安心に繋がる点を、数値化することを可能にし、食品の二次汚染事故や食物アレルギー、医療現場の院内感染等の対策の構築に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明に係る酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法の実施形態につき、以下詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
本実施例において、100重量の水または湯水(80℃以下)に、酵素および助剤からなる酵素処理剤として、
パパイン 1.0重量部
パンクレアチン 0.5重量部
アデノシン三リン酸二ナトリウム塩 1.0重量部
バチルス菌系プロテアーゼ 0.7重量部
L−グルタミン酸 0.7重量部
をそれぞれ添加混合して、本発明に係る洗浄、塗布および抗菌処理に使用する酵素処理液を作成した。
【0027】
このようにして作成した酵素処理液を、汚れ(残渣)を生じている食品製造機械器具および食品調理機械器具等の処理対象物に対して、通常の洗浄ないしは塗布する方法により使用した。この結果、前記処理対象物に対し、洗浄および抗菌処理を行うことができると共に、使用した酵素処理液の作用によって、前記処理対象物の洗浄と抗菌作用との保持について、通常の場合よりも比較的長い期間において保持できることが確認された。また、処理対象物の用途に応じて、処理対象物を既存の洗浄剤を使用して前処理した後、本発明に係る酵素処理液を調製した処理槽に前記処理対象物を約15分間漬け込み、その後水洗いすることによっても、前述した本発明による洗浄と抗菌作用の保持効果を有効に得ることができることは勿論である。
【0028】
本発明に係る洗浄、塗布および抗菌処理方法において使用する酵素処理液を得るに際しては、植物や動物に内在するリグニン、多糖類、油脂等の夾雑物を効率よく、かつぉ完全に近い状態で除去できることが重要である。そこで、本発明においては、酵素処理剤として、酵素の働きを促進する助剤を使用することが望ましいとの観点から、酵素としてパパインとパンクレアチンを使用し、助剤としてアデノシン三リン酸二ナトリウム塩(ATP)、バチルス菌系プロテアーゼ、L−グルタミン酸を併用することにより、作成される酵素処理液の清浄処理の効率を著しく高めることが可能となっている。
【0029】
すなわち、本発明による酵素処理液を使用する清浄処理において、酵素としてパパインおよびパンクレアチンを使用することにより、前記夾雑物であるリグニン、多糖類、油脂等が介在した食品製造機械器具や食品調理機械器具などの処理対象物から分離除去することができる。また、助剤として、アデノシン三リン酸二ナトリウム塩(ATP)、バチルス菌系プロテアーゼ、L−グルタミン酸を併用することにより、前記酵素の働きを促進し、前記処理対象物から分離除去された前記夾雑物を、組織の反応系外に排出することができる。
【0030】
本発明において使用する酵素処理液の作成に際し、水または湯水(80℃以下)に対する酵素の使用量は、夾雑物であるリグニン、多糖類、油脂等が前記処理対象物から効率よく分離除去されるように、水または湯水(80℃以下)の100重量部に対し、パパインは0.2〜1.2重量部、パンクレアチンは0.1〜1.4重量部がそれぞれ好ましく、それぞれの酵素の少なくとも一種の使用量がこれよりも少なければ、前記各夾雑物の分離除去のバランスが崩れ、それぞれの酵素に対応した火雑物の残存量が多くなると共に、また前記使用量が多くなっても、前記各夾雑物の分離除去の効果が向上することなく、分解してしまうので好ましくない。
【0031】
また、本発明においては、酵素として、パパインおよびパンクレアチンと共に、他の酵素を併用することも可能である。特に、アデノシン三リン酸二ナトリウム塩(ATP)を0.2〜2.4重量部の範囲で併用することにより、パパインおよびパンクレアチンによる夾雑物の分離除去を促進する作用を早める効果が得られる。また、バチルス菌系プロテアーゼを0.2〜1.2重量部の範囲で併用することにより、パパインの使用量を低減することができる。そして、L−グルタミン酸を0.2〜1.0重量部の範囲で併用することにより、夾雑物が酵素によって、汚れ(残渣)の成分(分子)から分解させる反応を速めることができる。
【0032】
さらに、本発明において使用する酵素処理液のpH値は、処理対象物のそれぞれ洗浄処理に使用する酵素の全てが、十分有効に働くように、pH8〜10とするのが好ましい。この場合、pH調整剤としては、調整が容易であることから、重炭酸ナトリウム(重曹)が好適である。
【実施例2】
【0033】
本実施例において、100重量の水または湯水(80℃以下)に、酵素および助剤からなる酵素処理剤として、
パパイン 0.6重量部
パンクレアチン 0.4重量部
アデノシン三リン酸二ナトリウム塩 0.8重量部
バチルス菌系プロテアーゼ 0.6重量部
L−グルタミン酸 0.8重量部
をそれぞれ添加混合して、本発明に係る洗浄、塗布および抗菌処理に使用する酵素処理液を作成した。
【0034】
このようにして作成した酵素処理液を、果実類としてぶどうおよび梨を使用し、また野菜類として胡瓜および蕪を使用して、これらの果実類および野菜類の処理対象物に対して、それらの外表面を通常の洗浄ないしは塗布する方法により使用した。この結果、前記果実類および野菜類の外表面に対し、洗浄および抗菌処理を行うことができると共に、使用した酵素処理液の作用によって、前記果実類および野菜類の鮮度を、通常の場合よりも比較的長く保持できることが確認された。
【実施例3】
【0035】
本実施例において、100重量の水または湯水(80℃以下)に、酵素および助剤からなる酵素処理剤として、
パパイン 1.2重量部
パンクレアチン 0.8重量部
アデノシン三リン酸二ナトリウム塩 0.8重量部
バチルス菌系プロテアーゼ 0.4重量部
L−グルタミン酸 0.4重量部
をそれぞれ添加混合して、本発明に係る洗浄、塗布および抗菌処理に使用する酵素処理液を作成した。
【0036】
このようにして作成した酵素処理液を、人として成人女性を対象とし、動物類として家畜のプードル犬を対象として、それぞれの対象において手洗い、洗顔ないし洗髪に際して、通常の洗浄ないしは塗布する方法により使用した。この結果、前記人および動物類の手、顔ないし髪に対し、洗浄および抗菌処理を行うことができると共に、前記人および動物類の手、顔ないし髪の表面における美容効果につき、使用した酵素処理液の作用によって著しく高められることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量の水または湯水(80℃以下)に、
酵素として、
パパイン 0.2〜1.2重量部
パンクレアチン 0.1〜1.4重量部
助剤として、
アデノシン三リン酸二ナトリウム塩 0.2〜2.4重量部
バチルス菌系プロテアーゼ 0.2〜1.2重量部
L−グルタミン酸 0.2〜1.0重量部
からなる酵素処理剤を添加混合して作成した酵素処理液を使用し、処理対象物に対し洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うことを特徴とする酵素処理液を使用する洗浄、塗布および抗菌処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の酵素処理液を使用し、食品製造機械器具および食品調理機械器具を処理対象物としてそれらの表面に対し、洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うことを特徴とする洗浄、塗布および抗菌処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の酵素処理液を使用し、果実類および野菜類を処理対象物としてそれらの外表面に対し、洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うことを特徴とする洗浄、塗布および抗菌処理方法。
【請求項4】
請求項1記載の酵素処理液を使用し、人および動物類を処理対象物としてそれらの手洗い、洗顔ないし洗髪に際して、洗浄ないし塗布して抗菌処理を行うことを特徴とする洗浄、塗布および抗菌処理方法。

【公開番号】特開2012−100639(P2012−100639A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264313(P2010−264313)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(510202673)有限会社カイ (1)
【Fターム(参考)】