説明

酵素加水分解による卵白タンパク質由来の生理活性ペプチド

本発明は、酵素処理に供された卵白に由来する生理活性ペプチドを含む卵由来産物の生産に関する。前記ペプチドは、インビトロアンジオテンシン変換酵素阻害活性(ACE阻害活性)および/またはラットにおける降圧活性および/または抗酸化活性を有する。前記卵由来産物、全加水分解物、その低分子量画分、またはそれらの構成ペプチドは、ACE阻害活性および/または降圧活性および/または抗酸化活性を有する治療物質として、機能性食品、食品添加物または成分として、あるいはヒトまたは動物において高血圧を処置および/または予防するための、並びにヒトまたは動物において高血圧が関与するいずれかの疾患を処置および/または予防するためのあらゆる形態の医薬品として、使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、卵白のタンパク質に由来する生理活性卵由来産物(ovoproduct)の生産から構成される。酵素処理の後、これらは、食品および医薬品産業において利用可能な、インビトロにおけるアンジオテンシン変換酵素阻害活性 (ACE阻害活性)および/または降圧活性および/または抗酸化活性を有するペプチドを生じる。
【0002】
[背景技術]
ヒトの栄養における卵の役割は、それが栄養のある健康的な食品源を構成することから重要である。最近の新しいバイオテクノロジーおよび分離技術の発展により、様々な卵の要素を新しい食品または非食品目的に用いるために分画することが可能となり、したがって、それらの消費を増加させることに寄与する新規用途が現れつつある。そのため、卵の画分から単離される単離タンパク質の生産に携わる様々な会社は、一部の成分、例えばオボアルブミンおよびオボトランスフェリン、の用途を増加および多様化することに興味を持っている。これは、抗菌剤として使用されるリゾチームの生産に携わる産業にあてはまり、そこでは副産物として低コストなその他の窒素化(nitrogenated)画分が得られ、それは通常は動物の餌用となるか、あるいは各種食品における乳化剤およびゲル化剤として使用されている。
【0003】
近年、消費者が食事と健康との間に存在する関係に非常に注目してることにより、機能性食品が食品分野に強力に侵入してきた。食品に単なる栄養を超える特定の生理活性を与える、食品に組み込まれる機能成分、すなわち要素のうち、生理活性ペプチドは、それらの多様性および多機能性により目立った地位を占めている。生理活性ペプチドは、前駆体タンパク質内部では不活性であるがインビボまたはインビトロにおける加水分解によって放出され、それにより生物において様々な生理機能を発揮しうる断片に相当する。1979年におけるそれらの発見から、様々な生理活性を有する食物タンパク質由来のペプチドが記載されている: 降圧活性、抗血栓活性、オピエート様(opiacious)活性、抗酸化活性、免疫調節活性など。
【0004】
生理活性ペプチドの中で傑出しているのは、レニン-アンジオテンシン系の調節によって降圧活性を発揮するものである(T. Takano, Milk derived Peptides and hypertension reduction, International Dairy Journal, 1998, 8: 375-381)。集団における冠動脈疾患の発症率が高いことは良く知られており、高血圧の処置は心血管疾患のリスクを減少させるために最も良く用いられる方法の1つである。これらペプチドの作用メカニズムは、アンジオテンシン変換酵素 (ACE)の阻害によって説明されており、この酵素は、強力な血管収縮活性を有するオクタペプチドであるアンジオテンシンIIの生成を触媒し、その上血管拡張をもたらすブラジキニンを不活化する。ACE阻害(ACEI)活性を有する様々なペプチドが発見されており、それらは乳清タンパク質(WO01/85984、Enzymatic treatment of whey proteins for the production of antihypertensive peptides, the resulting products and treatment of hypertension in mammals)、カゼイン(米国特許6514941号、Method of preparing a casein hydrolysate enriched in anti-hypertensive peptides)などの酵素加水分解産物から得られる。
【0005】
非常に重要な生理活性ペプチドの別のグループは、抗酸化活性を有するペプチドのグループである。加齢や様々な病状 (神経障害、癌、白内障など)は、脂質、タンパク質、またはDNAなどの細胞成分の酸化に関係するので、食事に抗酸化物質を含ませることは予防的性質を有する。それらの抗酸化活性に加えて、これら化合物は脂肪の酸化を予防し、したがって食品における不快な匂いの発生を避けることができる。幾人かの研究者が、様々なタンパク質およびそれらの加水分解産物の抗酸化作用発揮能を示しており、それらはフリーラジカルのスカベンジャーとして作用するか(K. Suetsuna, H. Ukeda and H. Ochi, Isolation and characterization of free radical scavenging activities peptides derived from casein, Journal of Nutritional Biochemistry, 2000, 11: 128-131)、あるいは脂肪の酸化に関係する酵素を阻害するものであった (S. G. Rival, S. Fornaroli, C. G. Boeriu and H. J. Wichers, Caseins and casein hydrolysates. I. Lipoxygensase inhibitory properties, Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2001, 49: 287-294)。ACEI ペプチドおよび抗酸化物質の構造活性相関研究により両者に共通する特徴、すなわちこれら2つの生理活性におけるある疎水性アミノ酸の重要性、が明らかとなったことは特筆すべきである(H. M. Chen, K. Muramoto, F. Yamauchi, K. Fujimoto and K. Nokihara. Antioxidative properties of histidine-containing peptides designed from peptide fragments found in the digests of soybean protein, Journal of Agricultural and Food Chemistry, 1998, 46: 49-53)。
【0006】
食用の活性ペプチドを得るためによく用いられる方法の中で傑出しているのは、酵素加水分解法および発酵法である。さらにここ数年、様々な技術的処理がタンパク質の機能化について提示されている。物理的変性方法として高い水圧を使用すると、タンパク質の構造に重要な非共有結合が改変され、構造変化が生じ、折り畳まれていない状態となる。各種の研究により、高圧条件下では大気圧下で起こるものと比較してタンパク分解が加速され、様々な加水分解による産物が出現することが示された(F. Bonomi, A. Fiocchi, H. Frokiaer, A. Gaiaschi, S. Iametti, C. Poesi, P. Rasmussen, P. Restani and P. Rovere, Reduction of immunoreactivity of bovine β-lactoglobulin upon combined physical and proteolytic treatment, Journal of Dairy Research, 2003, 70: 51-59)。 大部分の酵素は最大400 MPaまでそれらの活性を維持し、より高い圧力では不活性となることにも留意すべきである。それにもかかわらず、高圧条件下における生理活性ペプチドの生産は、文献に記載されていない。
【0007】
卵は食物中の非常に重要な窒素源であるにも関わらず、他の食用タンパク質と異なり、卵タンパク質由来の生理活性ペプチドに関する研究はごく少数である。H. Fujita、K. YokoyamaおよびM. Yoshikawa (Classification and antihypertensive of angiotensin I-converting enzyme inhibitory peptides derived from food proteins, Journal of Food Science, 2000, 65: 564-569)は、ペプシンおよびサーモリシンによるオボアルブミンの加水分解産物中にACEI活性を見いだし、それらのIC50値 (酵素活性の50%を阻害する濃度)はそれぞれ45.0および83.0μg/mlであった。この著者らは、ペプシンによる加水分解産物から出発するACEI活性を有する6つのペプチド(IC50値0.4〜15μM)を単離したが、ジペプチドLWを除き、それらはいずれも自然発生高血圧ラット(SHR)において降圧活性を示さなかった。そのようなペプチドはACEの基質ではあるが真の阻害物質ではないためにインビトロアッセイにおいては見かけ上ACEI活性を示すのであろうと推測された(H. Fujita and M. Yoshikawa, LKPNM: a prodrug-type ACE-inhibitory peptide derived from fish protein, Immunopharmacology, 1999, 44: 123-127)。これらの観察は、インビトロACEI活性は、研究にとっての良い出発点ではあるが、ペプチドのバイオアベイラビリティを決定する生物における生理的変換(活性な形態にて血液に到達するための消化および胃腸管バリアの通過)を考慮していないので選択のための唯一の基準とは成りえないことを示す。
【0008】
異なる酵素で加水分解されたオボアルブミンの同じ領域から生じる血管拡張活性を有する2つのペプチドが記載されている。H. Fujita、H. Usui、K. KurahashiおよびM. Yoshikawa (Isolation and characterization of ovokinin, a bradykinin B1 agonist peptide derived from ovalbumin, Peptides, 1995, 16: 785-790)は、オボキニン、すなわちペプシンにより加水分解されたオボアルブミンから単離されたオクタペプチド (FRADHPFL)がイヌ腸間膜動脈において血管弛緩活性を示すことを見出したが、それらはACEI活性を有していなかった。オボキニンは、自然発生高血圧ラット (SHR)に100 mg/kgの用量で経口投与された場合に降圧活性を有した (H. Fujita, R. Sasaki, and M. Yoshikawa, Potentiation of the antihypertensive of orally administered ovokinin, a vasorelaxing peptide derived from albumin, by emulsification in egg phosphatidyl-choline, Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 1995, 59; 2344-2345)。N. Matoba、H. Usui、H. FujitaおよびM. Yoshikawa (A novel anti-hypertensive peptide derived from ovalbumin induces nitric oxide-mediated vasorelaxation in an isolated SHR mesenteric artery, FEBS Letters, 1999, 452: 181-184)は、オボアルブミンのキモトリプシンによる加水分解産物から出発して、オボキニンの2-7断片に相当するヘキサペプチド(RADHPF、オボキニン (2-7))を精製し、これはSHRにおいて10 mg/kgの用量で強力な血管拡張作用を発揮した。
【0009】
その後、オボキニン (2-7)のアナログがその降圧活性を増強する目的で合成された。それらのうちRPFHPFおよびRPLKPWは、SHRへの投与後にオボキニン (2-7)よりもそれぞれ10および100倍高い活性示し(最低有効用量は1および0.1 mg/kg)、これはプロテアーゼに対する消化管の耐性がより大きいことによるものであった (N. Matoba, Y. Yamada, H. Usui, R. Nakagiri and M. Yoshikawa, Designing potent derivatives of ovokinin (2-7), an anti-hypertensive peptide derived from ovalbumin, Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 2001, 65: 736-739 および Y. Yamada, N. Matoba, H. Usui and K. Onishi, Design of a highly potent anti-hypertensive peptide based on ovalbumin (2-7), Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 2002, 66: 1213-1217)。この著者らによれば、大部分の食物由来の降圧ペプチドとは異なり、オボキニン (2-7)もそのRPFHPFまたはRPLKPW誘導体もACEI活性を有さなかったことは特筆すべきである。それらは胃腸管の受容体との相互作用を介して、あるいは中枢神経系における効果によって動脈圧を低下させるのであろうと推測されている。
【0010】
卵タンパク質の高い生物学的性質を考慮すると、食事の一部として消費され、その基本的栄養機能を発揮すると同時に健康を維持するのに有用な代謝的または生理的効果をもたらすこともできるであろうそれらから出発する生理活性ペプチドを得ることは、非常に興味深い。卵白タンパク質からの生理活性ペプチドの生産は、鶏卵にその古典的食物的価値を超える新たな用途を見出すことを可能とし、それには生物医薬品および栄養補助食品の生産が含まれる。これは、卵由来産物の利用および再評価に寄与する、健康、安全かつ高品質な食品の開発の助けとなるであろう。
【0011】
[発明の開示]
[発明の簡単な説明]
本発明は、卵タンパク質の酵素加水分解によるインビトロACEI活性および/または降圧活性および/または抗酸化活性を有する生理活性ペプチドを含む卵由来産物の生産から構成される。
【0012】
生理活性ペプチドは、これら生理活性ペプチドのアミノ酸配列を含む(好ましくはオボアルブミンを含む)1以上のタンパク質、ペプチドまたはその断片の加水分解により、それらの放出に適切な場所における各タンパク質鎖の分解を可能とする酵素(好ましくはペプシン)および加水分解条件を用いて産生される。それらはまた、化学または酵素合成によって、または組換え手法などによって得ることができる。前記ペプチドは、そのまま消費されてもよく、あるいは未加工の加水分解産物、低分子量濃縮物、またはサイズ分離法またはクロマトグラフィー法によって得られる他の活性な亜画分に基づいて消費されてもよい。
【0013】
そのような加水分解産物、それらの画分またはペプチドは、食品を形成すると同時に、医薬品の一部をも形成しうる。したがって、それらは疾患の処置および予防に、特に動脈圧の調節に役立ちうる。本発明は、卵タンパク質の適用を広げ、それらの活用および再評価に貢献する。
【0014】
[発明の詳しい説明]
本発明は、卵白タンパク質から出発する活性ペプチドの生産方法を提供する。これら生理活性ペプチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8(表1)に示すアミノ酸配列により特定され、これらの一部はインビトロACEI活性および/またはインビボ降圧活性および/または抗酸化活性を有する。
【0015】
本発明のための出発物質は、対象とする生理活性ペプチドのアミノ酸配列(配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8、表1)を含む、動物または植物起源の、あるいは微生物から生じる1以上のタンパク質またはペプチドを含むいずれかの適当な基質であり、好ましくはオボアルブミンまたは卵白である。それらがすべてオボアルブミン配列に属することを考慮すると、オボアルブミンまたはいずれかのサイズのオボアルブミンのペプチドまたは断片を含む調製物はいずれも、それ単独でも他のタンパク質と混合されていても使用可能であることは明らかである。例えば、純粋なオボアルブミン、様々な存在形態の卵白および全卵、ケータリング業またはレストラン業用の卵由来産物、運動選手のための食事補完物、動物の餌用の卵由来産物などである。
【0016】
出発物質は、水または緩衝液中に、適した濃度で、タンパク分解酵素の作用に適するpHにて溶解または分散される。出発物質中に存在するタンパク質を分解し、対象とするペプチドを提供できるタンパク分解酵素はいずれも使用可能であるが、好ましくはpH 2.0-3.0におけるペプシンである。基質の発酵を行うタンパク分解微生物もまた、使用可能である。
【0017】
加水分解条件:pH、温度、圧力、酵素/基質比、反応の中断等は、最も活性ある加水分解産物を選択することを目的として最適化される。ある具体的態様において、生理活性ペプチドは、ペプシンをpH 2.0にて酵素/基質比 1/100(w/w)にて使用し、加水分解を37℃、大気圧 (0.1 MPa)下で10分〜24時間の時間、好ましくは3時間未満の時間行って得られる。最大400 MPaの高水圧を使用すると、タンパク分解酵素を阻害することなく基質の加水分解が促進され、得られるペプチドの特性が改変される。
【0018】
次に、生理活性ペプチドを濃縮することが望ましい場合、およびACEI活性を有するペプチドが約3〜6または7アミノ酸を含む (A. Pihlanto-Lippala, T. Rokka and H. Korhonen, Angiotensin-I-converting enzyme inhibitory peptides derived from bovine milk proteins, International dairy Journal, 1998, 8: 325-331)ことを考慮して、適切な孔径のメンブランを用いる限外ろ過、透析、電気透析、ゲルろ過クロマトグラフィー等のような方法により、加水分解産物から低分子量画分を得ることができる。ある具体的態様において、3000 Daの親水性メンブランを介する限外ろ過により、3000 Da未満の分子量の加水分解産物の画分が得られる。前記画分は、はじめの加水分解産物よりも優れたACEIおよび降圧活性を示す。加水分解産物の低分子量画分から出発すると、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、または好ましくは逆相高速クロマトグラフィーにより活性な亜画分を単離することができる。
【0019】
全加水分解産物およびそれらの画分に加えて、表1に示すペプチドおよび配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8で指定するペプチドは、生理活性的性質、基本的にはACEIおよび/または降圧および/または抗酸化活性を有し、それらもまた本発明の目的である。特に、配列番号2、配列番号3、配列番号5および配列番号6の配列により特定されるペプチドは強力なインビトロACEI活性を示し、また配列番号2、配列番号3および配列番号6の配列で特定されるペプチドは経口投与した場合に自然発生高血圧ラット (SHR)において降圧活性を示すが、正常血圧のWistar-Kyotoラット (WKY)においては示さない。さらに、少なくとも配列番号6で特定されるペプチドは、フリーラジカルに対して抗酸化活性を有する。強調されるべきは、これらが、副作用がほとんど無く寛容性が良好なことが期待される天然ペプチドであることである。
【0020】
同様に、加水分解産物において同定された生理活性ペプチド(配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8)は、ペプチドの化学および/または酵素合成によって、または組換え手法によって得ることができる。
【表1】

【0021】
オボアルブミン加水分解産物のインビトロACEI活性は既に示されているが(H. Fujita, K. Yokoyama and M. Yoshikawa (Classification and antihypertensive of angiotensin I-converting enzyme inhibitory peptides derived from food proteins, Journal of Food Science, 2000, 65: 564-569)、ペプシンによる卵白の加水分解産物から生理活性ペプチドを得ることはこれまで記載されていない。卵白は、生理活性ペプチドを生産するための安価で容易に利用可能なタンパク質基質であることがわかった。さらに、オボアルブミン加水分解産物のインビボ降圧活性は示されていなかった。既に説明したように、インビトロではそれ自身がACEの強力な阻害物質であることを示す多くのペプチドが、インビボで試験するとそれらの活性の全てまたは一部を失うことが非常に多いだけでなく、インビトロではACE阻害物質として優れた活性を全く示さないペプチドが、消化酵素の作用によりインビボでそのような活性を獲得することすらあるということは、強調されるべきである(M. Maeno, N. Yamamoto and T. Takano, Identification of an anti-hypertensive peptide from casein hydrolysate produced by a proteinase from Lactobacillus helveticus CP790, Journal of Dairy Science, 1996, 79: 1316-1321)。
【0022】
これらの卵由来産物:全加水分解産物、その低分子量画分、または1以上のそれらの構成生理活性ペプチド(それらの誘導体、それらの医薬上許容される塩およびそれらの混合物を含む)は、ACEI活性および/または降圧活性および/または抗酸化活性を有する治療用物質として使用することができる。前記卵由来産物は、機能性食品、食品添加物または成分として、あるいは動物、主にヒトにおける動脈性高血圧の処置および/または予防のためのあらゆる形態の医薬品として使用するために、熱処理、例えば低温殺菌に供することができ、あるいは乾燥、凍結乾燥等に供することもできる。加水分解産物、低分子量画分、ペプチド、それらの誘導体または医薬上許容される塩およびそれらの混合物の量は、いずれか特定の病状の処置のためのそれらの用量にしたがい、数多くの因子、例えば年齢、病状または機能障害の重症度、投与経路、および投与頻度に依存して変化するであろう。これら化合物はいずれの投与形態をとることもでき、例えば固体または液体であり、またいずれの適当な経路によっても、例えば経口、呼吸器、直腸または局所経路によっても投与することができるが、それらは特に経口経路による固体または液体投与用に設計される。
【0023】
一般的に、これらの卵由来産物:全加水分解産物、その低分子量画分およびそれらの構成ペプチドを得る方法は、可能性ある最大量の生理活性ペプチドの産生を目的として、あるいは通常高濃度の中間体または低分子量疎水性ペプチドにより引き起こされる苦みの出現を可能な限り調節することによって、最適化できるであろう。
【0024】
分析手順
アンジオテンシン変換酵素阻害活性(ACEI活性)の測定
アンジオテンシン変換酵素 (ACE)の阻害活性は、D. W. CushmanおよびH. S. Cheungの方法 (Spectrophotometric assay and properties of the angiotensin-converting enzyme of rabbit lung. Biochemical Pharmacology, 1971, 20: 1637-1648、後にY. K. Kim, S. Yoon, D. Y. Yu, B. LonnerdalおよびB. H. Cheungが改変 (Novel angiotensin-I-converting enzyme inhibitory peptides derived from recombinat human αs1-casein expressed in Escherichia coli, Journal of Dairy Research 1999, 66, 431-439))にしたがいインビトロで測定した。
【0025】
基質ヒプリルヒスチジルロイシン(hippuryl histidyl leucine(HHL), Sigma Chemicals Co., St. Louis, MO, USA) を、0.1 M ホウ酸緩衝液(0.3 M NaCl含有、pH 8.3)に溶解し、最終濃度を5 mMとする。100μlの基質に、ACEI活性を測定したいサンプルをそれぞれ40μl添加する。50% グリセロールに溶解したACE 酵素 (EC 3.4.15.1, Sigma)を添加して、アッセイを行う時に再蒸留水で1/10に希釈する。反応は、37℃で30分間水浴中にて行う。酵素を150μlの1N HClでpHを下げることによって不活化する。生成した馬尿酸(hippuric acid)を1000μlの酢酸エチルで抽出する。ボルテックスにて20秒間撹拌した後、4000 rpmにて10分間室温で遠心分離する。750μlの有機相を採取し、95℃で10分間加熱して蒸発させる。馬尿酸残渣を800μlの再蒸留水に再度溶解し、20秒間撹拌した後、Dur-70 分光光度計(Beckman Instruments, Inc., Fullerton, USA)にて228 nmで吸光度を測定する。
【0026】
ACEI活性のパーセンテージを計算するため、以下の式を使用する。
Aコントロール- Aサンプル
% ACEI -------------------------------------- * 100
Aコントロール- Aブランク
【0027】
ブランクは、バックグラウンドの吸光度を補正するために使用する。これは基質、酵素およびサンプルの代わりに20μlの再蒸留水を含み、またその反応は0時間で停止させる。コントロールは、阻害物質非存在下における基質に対する100%の酵素作用を意味し、サンプルのかわりに20μlの水を含み、サンプルと同じ時間インキュベートする。
【0028】
結果は、IC50 (μMまたはμg/ml)、すなわち50%の酵素活性が阻害される濃度で表す。タンパク質の濃度は、ビシンコニン酸(bicinchonomic acid, BCA) アッセイ (Pierce, Rockford, IL, USA)によりウシ血清アルブミンをリファレンスとして使用して測定する。
【0029】
抗酸化活性の測定
抗酸化活性を測定するため、R. Re, N. Pellegrini、A. Proteggente、A. Pannala、M. YangおよびC. Rice-Evans (Antioxidant applying an improved ABTS radical cation decolorization assay, Free Radical Biological Medicine, 1999, 26: 1231-1237)により開発された方法を使用する。この方法は、抗酸化活性を有する各種サンプルの還元作用によるラジカル ABTS●+ (2,2-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン)酸)の消失に基づく。ラジカル ABTS●+は、734 nmで最大吸光度を示す。その抗酸化活性は、734 nmの吸光時間における減少により検出する。
【0030】
ラジカル ABTS●+を生じさせるため、化合物 ABTS (Sigma)(濃度7 mMにて水に溶解)を2.45 mM 過硫酸カリウムと1:2の比率で24時間遮光下において接触させる。24時間後、734 nmでの吸光度を、5 mM リン酸緩衝塩溶液(phosphate buffer salt, PBS)(138 mM NaCl、pH = 7.4)にて0.70 ±0.02の値に調節する。標準的実験では、この溶液 1 mlを、0.02 M リン酸ナトリウム緩衝液(pH = 6.5)に溶解したサンプル(1.5 mM) 10μlに添加する。実験はトリプリケートで行い、各サンプルをラジカル ABTS●+と10分間37℃でインキュベートし、734 nmでの吸光度の測定値を1、6および10分の時点で得る。ブランクとして0.02 M リン酸ナトリウム緩衝液(pH = 6.5)を使用し、また、サンプルのインキュベーションを行うのと同時にラジカル ABTS●+をいずれの抗酸化物質もなしでインキュベートする (コントロール)。各サンプルの抗酸化活性は、コントロールが示す734 nmでの吸光度に対して計算する。サンプルの抗酸化活性は、ビタミンEのアナログであるTrolox (6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸) (Sigma)の抗酸化活性に関して、ある時点のTEAC値 (Trolox equivalent antioxidant capacity)を用いて表現される。
【0031】
TEAC値を計算する様々な方法が開発されている。我々は、F.W.P.C. van Overlveld、G.R.M.M. Haenen、J. Rhemrev、J.P.W. VermeidenおよびA. Bast (Tyrosine as important contributor to the antioxidant capacity of seminal plasma, Chemical and Biological Interactions, 2000, 127: 151-161) により記載される方法を使用するが、これは濃度の増加に伴い直線的に増加する吸光度における減少を引き起こす純粋化合物のTEAC値を計算するのに有効である。この場合、化合物のある一定の濃度を計算するだけで、そのTEAC値を計算できる。
Abs734 nmにおける変化
TEAC化合物 --------------------------------------
0.28045 x [化合物の濃度]
0.2845の値は、1 mMのTroloxにより起こる吸光度の低下を表す。
【0032】
逆相高速液体クロマトグラフィー (RP-HPLC)による準予備的スケールでのペプチド断片の単離
2つのプログラム可能ポンプ、Waters Delta 600 モデル、整列ダイオード検出器モデル966、自動インジェクターモデル717プラス、および自動フラクションコレクターより構成される装置(Waters Corp, Mildford, MA, USA)を使用する。C18 Prep NovaPack(登録商標) HR(7.8 x 300 mmおよび孔径 6μm)(Waters)を、カラムガードとしてのC18 (Waters) カートリッジとともに使用する。分析は30℃にて行い、検出は214および280 nmにて行う。データ収集は、Software Millennium version 3.2 (Waters)により行う。サンプルの溶出のため、水 (A相)およびアセトニトリル (B相)(それぞれ0.1% TFA含有)の二元グラジエントを使用し、流速4 ml/分とする。B相のグラジエントは15分間で2%から10%、35分間で10%から20%、20分間で20%から30%であり、カラムは70%のBで洗浄し、最後に開始時の条件下に15分間おく。注入するサンプルの容量は200μlである。注入に先立って、サンプルを0.45μmのMillipore filter (Waters)に通す。
【0033】
タンデム質量分析 (オフライン)による分析
Esquire 3000イオントラップ装置を使用する(Bruker Daltonik GmbH, Bremen, Germany)。サンプルは、タイプ22シリンジポンプ(Harvard Apparatus, South Natick, MA, USA)を用いて、エレクトロスプレースプレーヤにおいて流速 4μl/分にて注入する。この装置は、窒素をスプレーヤおよび乾燥ガスとして使用し、5 x 10-3 バールのヘリウム圧により作動する。質量スペクトルは、50〜1500 m/zの間隔にて13000 Da/秒の速度で得られる。ペプチド配列を同定するためのタンデムMSスペクトルの解釈には、Biotools 2.1 プログラムを使用する (Bruker Daltonik GmbH, Bremen, Germany)。
【0034】
タンデム質量分析にオンラインでつながったRP-HPLC (RP-HPLC-MS/MS)による分析
Esquire-LC装置を使用する (Bruker Daltonik GmbH, Bremen, Germany)。このHPLC装置 (シリーズ1100)は、Esquire 3000イオントラップ質量分析計(Bruker Daltonik)に一列になってつながった、4つ1組のポンプ、自動インジェクター、溶出物のためのガス抜きシステム、および可変波長紫外線検出器 (Agilent Technologies, Waldbronn, Germany)より構成される。カラムは、Hi-Pore C18 カラム (250 x 4.6 mm および粒子サイズ5μm) (Bio-Rad Laboratories, Richmond, CA, USA)である。溶媒Aは水およびトリフルオロ酢酸の混合物(1000:0.37)であり、溶媒Bはアセトニトリルおよびトリフルオロ酢酸の混合物(1000:0.27)である。50μlのサンプルを濃度1〜2 mg/mlにて注入する。流速0.8 ml/分にて25分間の溶媒AにおけるBの0%から30%の直線的グラジエントを使用する。溶出物は、質量分析計により214 nmにて、スプレーヤを介するサンプルの注入が60μl/分であることを除き前セクションで述べたのと同じ条件下でモニターする。
【0035】
自然発生高血圧ラットにおける降圧活性の研究
各種の同定ペプチドおよびそれらを含む幾つかの産物(例えばペプシンで3時間加水分解した卵白およびその3000 Da未満の画分)の、自然発生高血圧ラット (SHR)およびSHRの正常圧コントロールであるWistar-Kyoto ラット (WKY) の動脈圧に対する効果を研究する。
【0036】
本研究は、17-24週齢、体重300〜350 gのSHR (10) および WKY(Charles River Laboratories Espana, S.Aより入手)を用いて行う。ラットは、5匹ずつ5つのケージで飼い、25℃の一定温度で12時間の明暗サイクルにて維持し、水と餌は自由に摂取させる。収縮期動脈圧 (SAP)の測定を行うため、動物のSAPのデジタル値を自動的に与え、また心拍数(cardiac frequency)の記録を容易にする「尾バンド(tail cuff)」装置(Le5001, Letica)を使用する。信頼性あるSAP値を達成するため、複数の測定を行い、それらすべての平均を得る。静脈の拡張を促進するため、バンドおよびトランスデューサをラットの尾に取り付ける前にラットを30℃近い温度に暴露する。また、測定の信頼性を保証するため、問題とする各アッセイを行う前に2週間動物をその手順に慣らしておく。
【0037】
アッセイ対象の産物の投与は、胃内プローブを用いて午前9時から10時の間に行う。研究に使用したSHRのSAP値は、230〜280 mm Hgであった。同時に研究に使用したWKYのSAP値は、160〜200 mm Hgであった。動物のSAPは、アッセイ対象の産物の投与後2時間毎に8時間まで定期的に測定した;さらに、それら産物の投与の24時間後にSAP測定を行った。ネガティブコントロールとして (プローブを挿入したラットにおけるSAPの日内変動を定めるため)、胃内プローブにより1 mlの水を投与したラットにおいて得られたSAP測定を用いた。ポジティブコントロールとして、胃内プローブにより50 mg/kgのカプトプリル(プロトタイプACEI薬)を投与されたラットにおいて得られたSAP測定を用いた。このカプトプリルの用量は、1 mlの容量にて各ラットに投与された。これら動物の動脈圧に対する非加水分解卵白の効果を証明するため、事前に凍結乾燥した卵白 (リファレンス) 200 mg/kgを同じ手順で処置し、上記と同様のアッセイを行った。
【0038】
得られた結果をグループ化し、最低9つの同一のアッセイについて測定の平均±標準誤差(SEM)を得る。処置した動物のデータは常に、ネガティブコントロールと見なされるデータと比較する。それらを比較し、統計学的有意差を得るため、非対データに対するスチューデント t-検定を使用し、p値<0.05の差を有意と判断する。
【実施例】
【0039】
以下の実施例により本発明を説明するが、それらを本発明の範囲を限定するものとみなしてはならない。
【0040】
実施例1 大気圧下でペプシンにより加水分解された卵白から出発する、ACEIおよび降圧活性を有する生理活性ペプチドの獲得
新鮮な卵由来の、卵黄と分離され凍結乾燥されたニワトリ卵白を基質として使用して、加水分解産物を得た。酵素として、ブタ胃由来のペプシン(E.C. 3.4.23.1 タイプ A、タンパク質 10000 U/mg) (Sigma)を使用した。基質を濃度 100 mg/mlで水に溶解し、1N HCl を添加してpH 2.0に調整した。ペプシンを(酵素/基質比 1/100(w/w)にて) 添加した。加水分解は、温度37℃で24時間大気圧 (0.1 MPa)下で行った。ペプシンの不活化は、1N NaOHにてpHを7.0に上昇させることによって達成した。
【0041】
ACEI活性は、以下の様々な加水分解時間の後に回収したアリコートにおいて測定した:0、30分、3時間、5時間、8時間および24時間。結果は、非加水分解卵白はACEI活性を有さないが (IC50 > 750μg/ml)、ペプシンによる様々な加水分解時間の後はACEを活発に阻害し、3時間の加水分解後に大きな阻害に達することを示した (IC50 = 200.9 ± 1.5μg/ml、55.3 ± 2.1μg/ml、72.2 ± 2.3μg/ml、43.07 ± 1.4μg/ml、40.2 ± 0.9μg/ml、それぞれ30分、3、5、8および24時間)。
【0042】
ペプシンで3時間加水分解した卵白の3000 Da未満の画分を、3000 Daの親水性メンブラン(Centriprep, Amicon, Inc., Beverly, MA, USA)を介する限外ろ過により得て、1900 gで40分間遠心した。ACEI活性を、未透過物(retentate)(サイズ>3000 Daの画分)および透過物 (サイズ<3000 Daの画分)において測定した。IC50値はそれぞれ298.4および34.5μg/mlであった。これは、透過物が約10倍高いACEI活性を有し、それゆえこの活性は基本的に小さいサイズのペプチドによることを示す。
【0043】
ペプシンで3時間加水分解した卵白およびその3000 Da未満の画分の降圧活性を、自然発生高血圧ラット (SHR)および正常圧 Wistar-Kyoto ラット(WKY)においてアッセイした。両凍結乾燥卵由来産物を様々な濃度にて、加水分解産物の場合は100〜400 mg/kgにて、3000 Da未満の画分の場合は25〜100 mg/kgにて、動物に投与した。
【0044】
図1および2はそれぞれ、SHRにおいて、ペプシンで3時間加水分解した卵白の様々な用量での投与後、およびその加水分解産物の3000 Da未満の画分の様々な用量での投与後、相異なる時点で得られたSAPにおける降下を示す。これらアッセイの結果を、非加水分解卵白(リファレンス)(200 mg/kg)とともに図1に示す。ここで、リファレンスに相当するSAP値は、水を投与された動物のSAP値と似ていることがわかる。これらの図には、カプトプリルの投与後に観察されたSAPにおける降下も含まれる。カプトプリルは、SHRにおけるSAPに際だった降下を生じさせる。SAPにおける降下は、その薬物の投与の6時間後が最大である。卵白加水分解産物およびその3000 Da未満の画分は、動物におけるSAPに有意な用量依存的減少をもたらす。卵白加水分解産物およびこの加水分解産物の3000 Da未満の画分の投与後の低い方のSAP値もまた、それらの投与の6時間後に観察される。様々な投与の24時間後に観察されたSAPは、その動物のそれより前のSAPと同様であった。
【0045】
ACEIおよび/または降圧活性に寄与するペプチドを同定する目的で、ペプシンによる3時間の卵白の加水分解の後に得られた3000 Da未満の画分を凍結乾燥し、濃度50 mg/mlにて水に再溶解し、RP-HPLCにより準予備的スケールにて分画した。図3Aに示すように、9つの画分を回収し(約10-12の分析の後)、それを凍結し、凍結乾燥し、使用まで−20℃にて保存した。各画分をミリQ水に溶解し、ACEI活性を測定した。
【0046】
図3Bに示すように、最も活性な亜画分は6、7および8であり、これらをその構成ペプチドを決定するためタンデム質量分析により分析した。この目的で、予備的RP-HPLCにより回収したペプチド亜画分6、7および8を凍結乾燥し、濃度5-10μg/mlにて水-50% アセトニトリル混合液(0.3% ギ酸含有)に溶解した。同定されたペプチドを表2に示す。全てのペプチドがオボアルブミンに由来することは、強調されるべきである。
【表2】

【0047】
実施例2
化学合成により得られるACEIおよび降圧活性を有するペプチド
実施例1の表2に示す全ての同定ペプチドを、Fmoc法により固相においてApplied Biosystems Inc. (Uberlingen, Germany)のモデル431Aシンセサイザーを用いて化学合成した。合成ペプチドの純度は、RP-HPLC-MS/MSにより確認した。
【0048】
合成ペプチドのACEI活性を測定した。観察された活性を表3に示す。活性が際だっているのはIC50が450μM 未満のペプチドであり、とりわけIC50が34μM 未満の以下の配列である: 配列番号2、配列番号3、配列番号5および配列番号6。
【表3】

【0049】
配列番号2、配列番号3および配列番号6のペプチドを、様々な用量にてSHRおよびWKYに投与し、最大用量を常にACEI活性の単位において50 mg/kgの卵白加水分解産物の3000 Da未満の画分と同等として、降圧活性をアッセイした。ペプチドは蒸留水に溶解し、対応する用量を容量1 mlにて各ラットに投与した。
【0050】
図4、5および6は、様々な用量の配列番号6、配列番号3および配列番号2のペプチドの投与後様々な時点でSHRにおいて得られたSAPにおける降下を示す。これらペプチドの投与はこれら動物におけるSAPにおいて有意な用量依存的降下をもたらすことがわかる。SAPにおける降下はこれらペプチドの投与後6時間が最大であり、また得られた最大の降下は相異なるペプチドについてもよく似ていた。
【0051】
図7は、以下の化合物の投与後様々な時点でWKYラットにおいて得られたSAPにおける変化を示す: 400 mg/kgの卵白加水分解産物、100 mg/kgの前記加水分解産物の3000 Da未満の画分、2 mg/kgの配列番号6のペプチド、2 mg/kgの配列番号3のペプチド、および4 mg/kgの配列番号2のペプチド。50 mg/kgのカプトプリルの投与後に得られた結果もまた含まれる。これら化合物はいずれも、最高使用用量を投与した場合でもWKYラットのSAPを変化させないことがわかる。これらの結果は、正常圧被験体の動脈圧に対するアッセイ産物の望ましくない効果の可能性は考えなくてもよいことを意味する。
【0052】
提示した結果は、配列番号2、配列番号3および配列番号6の配列で特定したペプチドは、急性投与後、卵白加水分解産物またはその加水分解産物の3000 Da未満の画分を投与した場合に見られる降圧効果と同様のタイムコースにしたがう明白かつ顕著な降圧効果を有することを示す。
【0053】
実施例3
化学合成によって得られる抗酸化活性を有するペプチド
同定ペプチドの1つ、具体的には実施例1に示す配列番号6の配列、の抗酸化活性を測定した。観察された活性を以下に示す:
TEACYAEERYPIL(1分) = 0.8
TEACYAEERYPIL(6分) = 1.2
TEACYAEERYPIL(10分) = 1.3
【0054】
この結果はすなわち、1 mgのYAEERYPIL (配列番号6)は1 mgのTroloxの1.3倍の抗酸化活性を発揮することを示す。
【0055】
実施例4
ペプシンにより大気圧下で加水分解したオボアルブミンから出発する生理活性ペプチドの獲得
グレードVIのオボアルブミン(純度99%) (Sigma)を基質として使用して加水分解産物を得た。この基質を濃度100 mg/mlにて水に溶解し、1N HClを添加してpHを2.0に調節した。本発明のこの具体的態様においては、ブタ胃由来のペプシン(E.C. 3.4.23.1 タイプ A, 10000 U/mg タンパク質) (Sigma)を酵素/基質比 1/100(w/w)にて添加した。加水分解は、温度37℃にて3時間大気圧 (0.1 MPa)下にて行った。ペプシンの不活化は、1N NaOHによりpHを7.0に上昇させることで達成した。
【0056】
ACEI活性の測定により、非加水分解オボアルブミンはACEI活性を有さないが(IC50 > 750μg/ml)、ペプシンによる3時間の加水分解後はその酵素を阻害することが示された (IC50 = 129.0 ± 0.6μg/ml)。このようにして得られた加水分解産物を、 RP-HPLC-MS/MSにより分析した。少なくとも以下の配列があることがわかった:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8。これら配列のうち、配列番号2、配列番号3、配列番号5および配列番号6の配列は34μM未満のIC50 を有した(実施例2)。配列番号2、配列番号3および配列番号6はまた、ラットにおいても降圧活性を発揮し(実施例2)、配列番号6はフリーラジカルに対する抗酸化活性有する(実施例3)。
【0057】
実施例5
ペプシンにより高静水圧下で加水分解したオボアルブミンから出発する生理活性ペプチドの獲得
【0058】
加水分解産物は、オボアルブミン グレード VI(純度99%) (Sigma)を基質として用いて得た。酵素として、ブタ胃由来のペプシン(E.C. 3.4.23.1 タイプ A, 10000 U/mg タンパク質) (Sigma)を添加した。基質を水に濃度2 mg/mlにて溶解し、1N HClを添加してpHを2.0に調節した。ペプシンを(酵素/基質比 1/20(w/w)にて)添加した。加水分解は、温度37℃、30分、各種静水圧 (100、200、300および400 MPa)下にて行った。ペプシンの不活化は、1N NaOHによりpHを7.0に上昇させることで達成した。
【0059】
高圧処理は、圧力500 MPaまで達する2350 mlの容量を有する断続的静水圧装置 (900 HP Eurotherm Automation)において行った。高圧チャンバーは、圧力伝達媒体(水)で満たされたステンレススチールシリンダーより構成され、その中にEppendorfプラスチックチューブに空気の空間が残らないように封入された基質および酵素の混合物が導入された。装置は2.5 MPa/秒の速度で所望の圧力に達し、処理後、同じ速度で下がって0に戻る。その装置は、シリンダー周囲の外部ジャケットを介する水の循環により-20℃〜95℃の温度での処理を可能とする補助浴を備える。本工程の温度は、圧力伝達媒体中に沈められた熱電対により調節される。
【0060】
このようにして得られた加水分解産物を、RP-HPLC-MS/MSにより分析した。少なくとも以下の配列が見られた: 配列番号3、配列番号5および配列番号6(これらは、実施例2で述べたように、7μM未満のIC50を有する)。配列番号3および配列番号6はラットにおいても降圧活性も示し(実施例2)、また配列番号6はフリーラジカルに対する抗酸化活性を有する(実施例3)。本実施例は、高静水圧を使用すると、加水分解を大気圧下で行う場合よりも、獲得すべき活性ペプチドを含む加水分解産物がいかに迅速に得られるかを示す。これら条件下で配列番号2は得られなかったことは強調されてもよく、このことはこれら加水分解産物の産業上利用可能性に影響するかもしれない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、自然発生高血圧ラットにおいて、1 mlの水(白丸)、50 mg/kgのカプトプリル (白四角)、200 mg/kgの卵白 (EW) (X)および様々な用量の卵白加水分解産物 (EWH)(100 mg/kg (黒ダイヤ)、150 mg/kg (黒三角) 、200 mg/kg (黒四角)および400 mg/kg (白三角))の胃内プローブによる投与後に得られた収縮期動脈圧 (SAP)における降下を表す。データは、最低9動物についての平均 ± SEMを表す。横座標は、投与後の経過時間を時間単位で表す。
【図2】図2は、自然発生高血圧ラットにおいて、1 mlの水(白丸)、50 mg/kgのカプトプリル (白四角)、および様々な用量の卵白加水分解産物の3000 Da未満の画分(F<3000 Da)(25 mg/kg (黒ダイヤ)、50 mg/kg (黒三角)および100 mg/kg (黒四角))の胃内プローブによる投与後に得られた収縮期動脈圧 (SAP)における降下を表す。データは、最低9動物についての平均 ± SEMを表す。横座標は、投与後の経過時間を時間単位で表す。
【図3A】図3Aは、卵白のペプシンによる3時間の加水分解により産生された3000 Da未満の画分について、予備的スケールにて逆相高速液体クロマトグラフィー (RP-HPLC)を用いて得られたクロマトグラムであり、ここでは自動的に収集された9 画分 (F1-F9)が選択されている。横座標は、時間を分単位で表す。
【図3B】図3Bは、50%の酵素を阻害するのに要するタンパク質濃度(IC50)として表現されたACEI活性を表し、RP-HPLCによって予備的スケールにて収集された9 画分のそれぞれに対応する。
【図4】図4は、自然発生高血圧ラットにおいて、1 mlの水(白丸)、50 mg/kgのカプトプリル (白四角)および様々な用量のペプチド YAEERYPIL( 0.5 mg/kg (黒ダイヤ)、1 mg/kg (黒三角)および2 mg/kg (黒四角))の胃内プローブによる投与後に得られた収縮期動脈圧 (SAP)における降下を表す。データは、最低9動物についての平均 ± SEMを表す。横座標は、投与後の経過時間を時間単位で表す。
【図5】図5は、自然発生高血圧ラットにおいて、1 mlの水(白丸)、50 mg/kgのカプトプリル (白四角)および様々な用量のペプチド RADHPFL(0.5 mg/kg (黒ダイヤ)、1 mg/kg (黒三角) および 2 mg/kg (黒四角) の胃内プローブによる投与後に得られた収縮期動脈圧 (SAP)における降下を表す。データは、最低9動物についての平均 ± SEMを表す。横座標は、投与後の経過時間を時間単位で表す。
【図6】図6は、自然発生高血圧ラットにおいて、1 mlの水 (X)、50 mg/kgのカプトプリル (白四角) および様々な用量のペプチド IVF(1 mg/kg (黒ダイヤ)、2 mg/kg (黒三角)および4 mg/kg (黒四角) の胃内プローブによる投与後に得られた収縮期動脈圧 (SAP)における降下を表す。データは、最低9動物についての平均 ± SEMを表す。横座標は、投与後の経過時間を時間単位で表す。
【図7】図7は、Wistar - Kyoto 正常圧ラットにおいて、1 mlの水 (白丸)、50 mg/kgのカプトプリル (白四角)、200 mg/kgのEW (X)、400 mgのEWH (黒丸)、100 mg/kgのEWHの3000 Da未満の画分(F<3000 Da) (白三角)、2 mg/kgのペプチド YAEERYPIL (黒ダイヤ)、2 mg/kgのペプチド RADHPFL (黒三角)および4 mg/kgのペプチド IVF (黒四角) の胃内プローブによる投与後に得られた収縮期動脈圧 (SAP)における降下を表す。データは、最低9動物についての平均 ± SEMを表す。横座標は、投与後の経過時間を時間単位で表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を特徴とする、卵白タンパク質の酵素加水分解から同定される生理活性産物:
a.インビトロACEI活性および/またはインビボ降圧活性および/または抗酸化活性を有する、
b.分子量が365.2〜1152.58である、
c.以下の群のアミノ酸配列により特定されるペプチドである:配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号6、配列番号7および配列番号8。
【請求項2】
化学または酵素合成方法または組換え手法により得られる、請求項1記載の卵白タンパク質の酵素加水分解から同定される生理活性産物。
【請求項3】
以下を特徴とする、請求項1および2に記載の生理活性産物および配列番号2のペプチドのいずれかを生産する方法:
a. 該生理活性産物および該ペプチドが、動物または植物起源の、または微生物に由来する1以上のタンパク質またはペプチド、好ましくはオボアルブミンまたは卵白、を含むいずれかの適した基質である出発物質の加水分解により得られ、そのアミノ酸配列が請求項1に示す対象とする生理活性ペプチドまたは配列番号2のペプチドのアミノ酸配列を含む、
b.該出発物質を、適当な濃度にて水または緩衝液中に、タンパク分解酵素の作用に適するpHにて、溶解または分散する、
c.該出発物質中に存在するタンパク質を分解でき、かつ対象とするペプチドを提供できるいずれかのタンパク分解酵素を用いる、好ましくはpH 2.0〜3.0でペプシンを用いる、あるいは基質の発酵をもたらすタンパク分解微生物を用いる、および
d.反応時間は10分〜24時間の間、好ましくは3時間未満である。
【請求項4】
タンパク分解酵素を阻害することなく、および/または、得られるペプチドの特性を改変することなく、基質の加水分解を促進させるため、100〜1000 MPa、好ましくは400 MPaの高静水圧を使用することを特徴とする、請求項3に記載の生理活性産物を生産する方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法により得られることを特徴とする、卵白タンパク質の酵素加水分解から同定される生理活性ペプチド。
【請求項6】
出発物質が、特に、純粋オボアルブミン、様々な存在形態の卵白および全卵、またはケータリング業またはレストラン業用の卵由来産物、運動選手のための食事補完物、動物の餌用の卵由来産物であることを特徴とする、卵白タンパク質の酵素加水分解から同定される請求項5の生理活性産物。
【請求項7】
請求項1に示すペプチドの少なくとも1つを含む酵素加水分解産物、そのいずれかの画分またはその精製物に関することを特徴とする、卵白タンパク質の酵素加水分解から同定される請求項6の生理活性産物。
【請求項8】
請求項1、2、5、6および7に示す生理活性産物のいずれかの誘導体または医薬上許容される塩またはそれらの混合物であることを特徴とする、卵白タンパク質の酵素加水分解から同定される生理活性産物。
【請求項9】
請求項1、2、5、6および7記載のインビトロACEI活性および/またはインビボ降圧活性および/または抗酸化活性を有する生理活性産物を少なくとも1つ含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項10】
請求項1、2、5、6および7記載のインビトロACEI活性および/またはインビボ降圧活性および/または抗酸化活性を有する生理活性産物を少なくとも1つ含むことを特徴とする、機能性食品添加物、成分または栄養補助食品。
【請求項11】
請求項1、2、5、6および7記載のインビトロACEI活性および/またはインビボ降圧活性および/または抗酸化活性を有する生理活性産物を少なくとも1つ含むことを特徴とする機能性食品。
【請求項12】
高血圧の処置のための医薬の調製における、請求項9記載の医薬組成物の使用。
【請求項13】
高血圧を低下させるのに好適な機能性食品の調製における、請求項9記載の機能性食品添加物、成分の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−523045(P2007−523045A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521598(P2006−521598)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【国際出願番号】PCT/ES2004/070059
【国際公開番号】WO2005/012355
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【Fターム(参考)】