説明

酸化亜鉛ナノクリスタルおよびナノコンポジット

【課題】凝集せずに長時間にわたり安定である、粒径が数ナノメートルの酸化亜鉛結晶を提供すること、また、これにポリマーをグラフト化し、機能性を有するナノコンポジットを提供すること。
【解決手段】表面を2−ブロモ−2メチルプロピオニル基で修飾した酸化亜鉛ナノクリスタル。これは、溶解度高い亜鉛化合物(酢酸亜鉛)を出発原料として、数ナノメートルの酸化亜鉛結晶粒子の表面にOH基をもつ有機物(ヒドロキシプロピオン酸)を導入し、次に、末端OH基を酸ブロミドで修飾し、重合開始点を導入し2−ブロモ−2メチルプロピオニル基で修飾した酸化亜鉛ナノ粒子が得られ、これにリビングラジカル重合してポリマー鎖をグラフト化すればナノコンポジットが製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛ナノクリスタルおよびナノコンポジットに関し、特に、凝集せず長時間にわたって安定である、酸化亜鉛ナノクリスタルおよびこれにポリマーをグラフト化し機能材足り得るナノコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化亜鉛は電極材、半導体、発光材料として注目され、特に、結晶性のよい酸化亜鉛微粒子は発光特性等も良好であるため研究が進んでいる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−60145
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
酸化亜鉛粒子は、粒径が小さいほど凝集しやすく、時間の経過と共に大きくなってしまう性質があった。特に、ナノ粒子(ナノクリスタル)でこの傾向は強く、数ナノメートルの粒子は比較的短時間で数十ナノメートルの粒子に凝集してしまっていた。
【0005】
一方、結晶性の観点からすると凝集は構造的欠陥と粒径のばらつきを招来し、導電性、半導体特性、光学的性質など酸化亜鉛の様々な魅力的な特性を低下させてしまうという欠点があった。
【0006】
また、粒径の変化を抑え、均一なサイズであって、粒度分布の狭い(すなわち単分散の)酸化亜鉛を製造することは、酸化亜鉛をナノ材料として使用する上で重要であるため、安定なナノメートルオーダーの酸化亜鉛結晶には潜在的な需要が存在している。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、凝集せずに長時間にわたり安定である、粒径が数ナノメートルの酸化亜鉛結晶粒子を提供することを目的とする。
【0008】
また、これにポリマーをグラフト化し、機能性を有するナノコンポジットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の酸化亜鉛ナノクリスタルは、表面を2−ブロモ−2−メチルプロピオニル基で修飾したものである。
【0010】
また、請求項2に記載の酸化亜鉛ナノクリスタルは、共有結合により2−ブロモ−2−メチルプロピオニルオキシプロピオネートが連結したものである。
【0011】
また、請求項3に記載の酸化亜鉛ナノクリスタルは、請求項1または2に記載の酸化亜鉛ナノクリスタルにおいて、紫外線照射により発光する結晶性を有することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載のナノコンポジットは、表面を2−ブロモ−2−メチルプロピオニル基で修飾した酸化亜鉛ナノクリスタルに、リビングラジカル重合によってポリマーをグラフト化したものである。
【0013】
なお、粒径が数ナノメートルオーダーの酸化亜鉛結晶粒子は、ゾルゲル法などのいわば湿式法により得ることができる(燃焼などの反応(乾式法)は急激であるため、粒径は通常数十ナノメートル以上の大きさとなる)。このとき、濃度、反応時間、反応温度などを制御することにより粒径の調整が可能となる。また、湿式法を採用することにより、粒径のばらつきを抑え、粒度分布の狭い良好な単分散粒子を得ることが可能となる。本発明においては、ナノクリスタル(ナノ粒子,ナノ結晶)とは、一桁台のナノメートルから数十ナノメートル程度までの粒径を含むものとする。
【0014】
また、湿式法により酸化亜鉛ナノ結晶表面にOH基が存在することとなるのでこれを利用して表面修飾する方法を採用することができる。また、ポリマーの長さに関してはたとえば数十ナノメートルとすることができる。ここで、リビングラジカル重合を可能としているので、ポリマーの長さ制御が可能となり、修飾後の粒径分布も単分散化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化亜鉛ナノクリスタル(請求項1)によれば、安定的な被膜形成を含め、エステル結合により種々の属性ないし物性を酸化亜鉛ナノ結晶に付加させることが可能となる。また、この発明によれば、リビングラジカル重合の反応開始点が導入されるので、長さの揃ったポリマーをグラフト化可能となる。
また、本発明の酸化亜鉛ナノクリスタル(請求項2)によれば、安定な被膜が形成されるため気中でも液中でも凝集せず長期間にわたり安定的な保存が可能となる。また、この発明によれば、リビングラジカル重合の反応開始点が導入されるので、長さの揃ったポリマーをグラフト化可能となる。
また、本発明の酸化亜鉛ナノクリスタル(請求項3)によれば、いわゆる結晶性のよいナノ粒子由来の半導体的性質ないし発光特性を利用し、被膜により複合的な物性ないし機能的な物性を発揮させることが可能となる。
また、本発明のナノコンポジット(請求項4)によれば、被膜により複合的な物性ないし機能的な物性を発揮させることが可能となる。
【0016】
特に、本発明は市販の試薬を用いて合成できるという特徴があり、工業的量産にも優れる(安価に製造できる)という利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、以下の方法により製造できる。
1)溶解度の高い亜鉛化合物を出発原料として、数ナノメートルの酸化亜鉛結晶の表面に末端OH基をもつ有機物を導入する。
2)次に、末端OH基を酸ブロミドで修飾し、重合開始点を導入する。
3)次に、導入された重合開始点からリビングラジカル重合によりポリマー鎖をグラフト化し、ナノコンポジットを製造する。
【0018】
<実施例1>
ここでは、市販の試薬を用いて安価に本発明品を製造可能な態様について説明する。
まず、酢酸亜鉛二水和物(和光純薬工業株式会社製、型番:262−01162、純度99.9%)5.488gを無水エタノール(和光純薬工業株式会社社製試薬、型番:321−00025、純度99.5%)250mlに溶解し、エタノール中にZn2+が0.1mol/lとなるように調整した。蒸留装置を用い80℃〜100℃で約3時間加熱し、残留液が100ml(蒸留液が150ml)となったところで、濃縮を停止した。
【0019】
続いて、3−ヒドロキシプロピオン酸(HPA)(東京化成工業株式会社製、型番:H0297、約30%
in water)をエバポレータを用いて低温で水分除去したものを0.0563gを加え、80℃で2時間攪拌した。攪拌終了後、0℃まで冷却した(溶液1とする)。これは、ナノ結晶の成長促進のためである。
【0020】
次いで、予め無水エタノール150mlにLiOH・HO(和光純薬工業株式会社製、型番:126−01211、Assay98.0〜102.0%)1.46gを溶解した後0℃まで冷却したものを、溶液1へ加え、超音波処理をした。
【0021】
その後、室温で一晩攪拌後、遠心分離により白色粉末を得た。粉末は、図1に示したような3−ヒドロキシプロピオン酸で修飾された酸化亜鉛ナノクリスタルであると考えられたが、これをH−NMRスペクトル(図2)、FT−IR(図3)、吸光スペクトル(図4)、XRDパターン(図5)を測定することにより確認した。なお、図1では、酸化亜鉛ナノクリスタル表面に3−ヒドロキシプロピオン酸が一つ修飾されているように表記されているが、実際は被膜を形成するように多数修飾されている。以降においては、適宜この物質を、ZnO/HPAと表記することとする。なお、以上の調整は、モル比でZnO:HPA=40:1となる量であり、ZnO/HPAの収量は0.753gであった。
【0022】
図6は、ZnO/HPAのTEM画像である。画像から明らかなように、ZnO/HPAが数ナノサイズであることが確認できる。
【0023】
このような大きな結晶となっている理由は、このZnO/HPA粉末は、OH基が端部に存在しているので、凝集しやすいためと考えられる。実際、クロロホルム中で分散させUVライト(365nm)を当てると、発光が、当初青色であったのに数日でオレンジ色まで変化してしまい安定でないことが確認された。従って次に、ZnO/HPAの安定化を図ることとした。
【0024】
安定化に際しては、この、端部にOH基をもつZnO/HPAに、酸ブロミドを反応させ2−ブロモ−2−メチルプロピオニル基を導入することとした。
詳細には、まず、ZnO/HPA0.5g(約0.002934mol)に、2−ブロモ−2−メチルプロピオニルブロミド(ACROS社製、型番:403090050、純度98%)1.34g(0.00586mol)、ピリジン(和光純薬工業株式会社製、型番:166−05316、純度99.5%)0.5ml、N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、型番:042−02546、純度98%)5.75mlを加え、窒素雰囲気下で24時間攪拌した。このとき、上記ブロミド化合物の発熱反応を考慮し、最初の2時間は氷冷しながら反応させた。次いで、室温で2時間、その後80℃で20時間攪拌した。
【0025】
反応終了後、5wt%のNaHCOaq300mlにより、反応液を1時間攪拌洗浄し、塩基性を取り除き濾過した。これを更に、水300mlで1時間洗浄、濾過し、最後に、メタノールで煮沸洗浄を1時間おこなった。この操作により、白色のきめ細かな粉末が得られた。
【0026】
得られた粉末は、図7に示したような、2−ブロモ−2−メチルプロピオニル基で修飾された酸化亜鉛ナノクリスタル(共有結合により2−ブロモ−2−メチルプロピオニルオキシプロピオネートが連結した酸化亜鉛ナノクリスタル)であると考えられたが、これをH−NMRスペクトル(図8)、FT−IR(図9)を測定することにより確認した。なお、図7では、図1と同様に、修飾数が一つであるように表記されているが、実際は被膜を形成するように多数修飾されている。以降においては、適宜この物質を、ZHBと表記することとする。
【0027】
図10は、ZHBの発光スペクトルである。最大波長は399nmであった。また、この発光色は、青色であり、ZnO/HPAと異なり日数によって変化しないことを確認した。よって、ZHBは凝集せず、安定であることが確認できた。
【0028】
<実施例2>
ZHBは、その構造から明らかなようにリビングラジカル重合が可能であり、種々のポリマーを長さを揃えてグラフト化可能となる。次に、PMMA(メタクリル酸メチル樹脂)を導入する例について説明する。
【0029】
ZHB0.25g(≒8.6×10−4mol)に、ピリジン0.5ml、メチルメタクリレート(関東化学株式会社製、型番:H0087)7.39g(8.6×10−4mol)CuI(関東化学株式会社製、型番:07526−32、純度99%)0.016g(8.6×10−4mol)、N,N−ジメチルアセトアミド7mlを加え、120℃で4時間攪拌した。攪拌終盤は粘度上昇が確認された。
【0030】
攪拌後、室温まで冷却し、5wt%のNaHCOaq500mlにより反応液を1時間攪拌洗浄した。濾過後、過剰のクロロホルムを投入し、一晩攪拌してCuイオンを除去した。濾過後、濾液を濃縮し、メタノールへ滴下して再沈殿を行った。これを1時間攪拌して濾過し、乾燥させ繊維質の白色固体を得た。
【0031】
得られた固体をクロロホルムに溶解しUVライト(365nm)を当てたところ、紫色の発光が観測された。得られた固体は、図11に示したような構造であると考えられたが、これを確認するために、H−NMRスペクトル(図12)、FT−IR(図13)を測定したところ、PMMA鎖の存在が確認できた。また、示差熱熱重量同時測定装置を用いて測定したところ、図14に示したように、質量損失88%であり、ポリマー中に有機物以外の物質の存在が確認でき、約12%wt%のZnOの存在が確認できた。
【0032】
よって、得られた繊維質の白色固体は図11に示した物質、すなわち、ナノコンポジットが合成されたことが確認できた。なお、図11は、図1,図7と同様に修飾数が一つであるように表記されているが、実際は被膜を形成するように多数修飾されている。以降においては、適宜この物質を、ZnO/PMMAと表記することとする。なお、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定したところ、数平均分子量129600、重量平均分子量137500であった。なお、図10にZnO/PMMAの発光スペクトルを示しているが、最大波長は396nmであった。
【0033】
なお、以上の例は、エステル結合により酸ブロミドを修飾し、さらにはポリマーをグラフト化した例であるが、実施の態様はこれに限定されない。ZnO/HPAは末端にOH基があるため反応性が高く、ここをエステル結合とすることにより種々の物質を付加させ修飾の自由度を向上させることが可能となる。
【0034】
なお、発明者はヒドロキシプロピオン酸に変え、ヒドロキシ酢酸を用いても実験をおこなったが、得られた粉末は安定でないことが確認された。従って、脂肪酸を用いる場合はC3以上が好ましいといえ、特にヒドロキシプロピオン酸は市販されているので安価にZnO/HPA、ZHB等を合成可能といえる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、酸化亜鉛ナノクリスタルもナノコンポジットも粒径が揃っているため
光学的性質が揃い、これを利用して種々の機能材を開発可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ZnO/HPAの簡略図である。ZnOナノクリスタルは球形で示している(実際にはZnO粒子表面には、無水のヒドロキシル基が存在しており、ZnO粒子を覆うようにHPAが修飾している)。
【図2】ZnO/HPAのH−NMRスペクトルである。
【図3】ZnO/HPAのFT−IR測定結果である。
【図4】ZnO/HPAの吸光スペクトルである。
【図5】ZnO/HPAのXRDパターンである。
【図6】ZnO/HPAのTEM画像である。
【図7】ZHBの簡略図である。ZnOナノクリスタルは球形で示している(実際には、ZnO粒子表面に無数に2−ブロモ−2−メチルプロピオニルオキシプロピオネートが結合している)。
【図8】ZHBのH−NMRスペクトルである。
【図9】ZHBのFT−IR測定結果である。
【図10】ZHBおよびZnO/PMMAの発光スペクトルである。
【図11】ZnO/PMMAの簡略図である。ZnOナノクリスタルは球形で示している。
【図12】ZnO/PMMAのH−NMRスペクトルである。
【図13】ZnO/PMMAのFT−IR測定結果である。
【図14】ZnO/PMMAの示差熱熱重量同時測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を2−ブロモ−2−メチルプロピオニル基で修飾した酸化亜鉛ナノクリスタル。
【請求項2】
共有結合により2−ブロモ−2−メチルプロピオニルオキシプロピオネートが連結した酸化亜鉛ナノクリスタル。
【請求項3】
紫外線照射により発光する結晶性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化亜鉛ナノクリスタル。
【請求項4】
表面を2−ブロモ−2−メチルプロピオニル基で修飾した酸化亜鉛ナノクリスタルに、リビングラジカル重合によってポリマーをグラフト化したナノコンポジット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−46356(P2009−46356A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214870(P2007−214870)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月22日 国立大学法人 島根大学発行の「平成18年度 島根大学大学院総合理工学研究科物質科学専攻(化学系) 島根大学総合理工学部物質科学科(化学系) 修士論文発表会 卒業研究発表会 講演要旨集」に発表
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】