説明

酸化物磁性材料及び積層型インダクタ

【課題】 電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータにおいて、その動作時のインダクタ損失を低減することができる、小さな角型比(Br/Bs)を有し、保磁力Hcの増加を抑制して、増分透磁率μΔを低減させた、積層型インダクタ用酸化物磁性材料及びそれを用いた積層型インダクタの提供。
【解決手段】 電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに用いられる、積層型インダクタ用酸化物磁性材料であって、Ni-Cu-Zn系フェライトに15質量%を超え50質量%以下のZrSiO4を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータにおいて、その動作時のインダクタ損失を低減することができる、小さな角型比(Br/Bs)を有し、保磁力Hcの増加を抑制して、増分透磁率を低減させた、積層型インダクタ用酸化物磁性材料及びそれを用いた積層型インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話等の通信機器に内蔵される小型電源回路には、DC/DCコンバータが用いられている。このDC/DCコンバータは、電流連続モードと電流不連続モードで動作させることが知られている(特許文献1)。
【0003】
電流不連続モードで駆動させるICを用いたDC/DCコンバータでは、電流連続モードと比較してインダクタンスを小さくすることが可能であるため、小型化を特徴とする積層型インダクタや積層コイル基板の用途として適している。
【特許文献1】特開平3-18274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層型インダクタをDC/DCコンバータに搭載する場合、インダクタ損失Pcは、振幅磁束密度ΔBの2〜3乗に比例することから、DC/DCコンバータ動作時のインダクタ損失Pcを低減するためには、振幅磁束密度ΔBの低減が有効である。
【0005】
振幅磁束密度ΔBを低減するには、ターン数n、磁路断面積Sを大きくするとよいが、小型化を指針とする積層型インダクタにおいては、ターン数nの増加や磁路断面積Sの増加は好ましくない。
【0006】
さらに、DC/DCコンバータにおいては、ターン数n、磁路断面積Sの増加に伴い、駆動周波数は低下する方向にあり、駆動周波数fe=スイッチング周波数fsになった時点で、さらにターン数nや磁路断面積Sを増加させると発振を起こし、変換効率が低下するという問題がある。そのため、ターン数n、磁路断面積Sの増大には限界があった。
【0007】
発明者らは、上記問題を解決するため、DC/DCコンバータ動作時のインダクタに流れる電波波形を解析した。その結果、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータにおいては、インダクタを構成する酸化物磁性材料(フェライト材料)の増分透磁率μΔを小さくすることにより、振幅磁束密度ΔBを低減させることができることを知見した。すなわち、ターン数n、磁路断面積Sの増大に限界のある積層型インダクタにおいても、インダクタを構成するフェライト材料の増分透磁率μΔを小さくすることことにより、振幅磁束密度ΔBを低減させることができ、DC/DCコンバータ動作時のインダクタの損失を低減することができる。
【0008】
一般に、積層型インダクタにおいて、増分透磁率μΔを低減するためには、積層構造中に非磁性ギャップ層を挿入する構成を想定することができるが、該構成によれば、異種材料間の収縮特性差によるデラミネーション発生や、積層体内部で発生する応力により磁気特性が劣化し、DC/DCコンバータ動作時のインダクタ損失が増加するなどの問題があった。
【0009】
また、インダクタを構成するフェライト材料中に非磁性酸化物粉末を添加して増分透磁率μΔを低減する方法も想定できる。しかし、従来から一般に知られているZrO2、SiO2、CaO等の非磁性酸化物粉末の添加では、増分透磁率μΔは低減されるものの、DC/DCコンバータ等の電源回路として用いられる積層型インダクタ用のフェライト材料に要求される角型比(Br/Bs)を低減することができず、また、保磁力Hcが大きく増加するため、DC/DCコンバータ動作時のインダクタ損失が増加するという問題があった。
【0010】
この発明は、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータにおいて、その動作時のインダクタ損失を低減することができる、小さな角型比(Br/Bs)を有し、保磁力Hcの増加を抑制して、増分透磁率μΔを低減させた、積層型インダクタ用酸化物磁性材料及びそれを用いた積層型インダクタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータにおいて、その動作時のインダクタ損失の低減方法について種々検討し、インダクタに流れる電流波形を解析した。その結果、前述の通り、インダクタを構成するフェライト材料の増分透磁率μΔを小さくすることことにより、振幅磁束密度ΔBを低減させることができ、DC/DCコンバータ動作時のインダクタの損失を低減すること知見した。
【0012】
さらに、発明者らは、非磁性ギャップ層挿入によるインダクタ損失の増加、フェライト材料への非磁性酸化物粉末添加による保磁力増加、角型比(Br/Bs)を低減できないなどの問題を解決すべく、鋭意研究の結果、Ni-Cu-Zn系フェライトに比較的多量のZrSiO2を添加することにより上記問題を解決できることを確認し、この発明を完成した。
【0013】
この発明は、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに用いられる積層型インダクタ用酸化物磁性材料であって、Ni-Cu-Zn系フェライトに15質量%を超え50質量%以下のZrSiO4を添加したことを特徴とする酸化物磁性材料である。
【0014】
また、上記構成の酸化物磁性材料において、
ZrSiO4の添加量が15質量%を超え40質量%以下である構成、
角型比(Br/Bs)が0.20以下である構成、
保磁力HcがZrSiO4を添加しないNi-Cu-Zn系フェライトよりも小さい構成、を提案する。
【0015】
さらに、この発明は、磁性体層と内部導体並びに外部電極を有し、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに用いられる積層型インダクタにおいて、磁性体層が15質量%を超え50質量%以下のZrSiO4を添加したNi-Cu-Zn系フェライトである積層型インダクタである。
【0016】
また、上記構成の積層型インダクタにおいて、
ZrSiO4の添加量が15質量%を超え40質量%以下である構成、を提案する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、DC/DCコンバータ等の電源回路に用いられる積層型インダクタ用の酸化物磁性材料(フェライト材料)に要求される角型比(Br/Bs)を小さくしつつ、かつ保磁力Hcの増加を抑制しながら、増分透磁率μΔを低減させることができ、その結果、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータにおけるインダクタ損失を低減し、DC/DC変換効率を向上させることができる。
【0018】
この発明によれば、積層型インダクタ内部に非磁性ギャップ層を挿入する必要がないため、異種材料間の収縮特性差によるデラミネーション発生や、積層体内部で発生する応力により磁気特性が劣化ことがない。特に、従来の巻線型インダクタにおいて問題となっていた、ギャップ部分における漏洩磁束により周辺部品の動作が不安定になるなどの問題も解消することができ、巻線型インダクタに比べて漏洩磁束を極めて小さくすることができる。
【0019】
この発明による酸化物磁性材料を用いた積層型インダクタは、機械的強度が向上するため、実装時に発生する割れ、ヒビ等を抑制でき、信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明による酸化物磁性材料は、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに用いられる、積層型インダクタ用酸化物磁性材料であって、NiO、CuO、ZnO、Fe2O3を主成分とするNi-Cu-Zn系フェライトに15質量%を超え50質量%以下のZrSiO4を添加したことを特徴とする。
【0021】
Ni-Cu-Zn系フェライトの主成分であるNiO、CuO、ZnO、Fe2O3は、フェライトを構成できるいずれの組成も採用でき、例えば、NiOは5〜50質量%、CuOは5〜20質量%、ZnOは10〜25質量%、Fe2O3は40〜50質量%の組成が好ましい。
【0022】
ZrSiO4の添加量は、上記主成分を100質量%とした場含、15質量%を超え50質量%以下添加することが望ましい。添加量が15質量%以下では、酸化物磁性材料の増分透磁率μΔを小さくすることできず、また、角型比(Br/Bs)を小さくする効果も少ない。また、添加量が50質量%を超えると、DC/DCコンバータ動作時に、インダクタで生じる損失が増大し、また、インダクタ以外の損失(スイッチング損失、ダイオードにおける損失などの回路損失)も急激に増大し、DC/DC変換効率も低下する。さらに、機械的強度も低下する。好ましい添加量は15質量%を超え40質量%以下であり、さらに好ましくは、15質量%を超え30質量%以下である。
【0023】
Ni-Cu-Zn系フェライトの副成分として、SnO2、Co3O4、SiO2、ZrO2、Bi2O3を添加することができる。SnO2、Co3O4、SiO2、ZrO2はコアロス低減や比抵抗の増大に有効であり、その添加量は主成分100に対して1.0質量%以下、好ましくは0.6質量%以下である。また、Bi2O3は、添加量は、焼結性の向上に有効であり、その添加量は主成分100に対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0024】
この発明による酸化物磁性材料は、角型比(Br/Bs)が0.20以下となり、また、保磁力HcはZrSiO4を添加しないNi-Cu-Zn系フェライトよりも小さくなる。従って、該酸化物磁性材料を電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに用いられる積層型インダクタに適用することにより、インダクタ損失が低減され、DC/DC変換効率が向上する。
【0025】
この発明における積層型インダクタについて説明する。
図1にこの発明による積層型インダクタの模式図を図1に示す。積層型インダクタ1は、内部導体3が形成された磁性体層2が複数層積層され、その上部、下部に磁路形成のための磁性体層がさらに積層され、焼結により一体化された後、端部に内部導体3と電気的に導通する外部電極4が形成された構成である。
【0026】
磁性体層2は、Ni-Cu-Zn系フェライトに15質量%を超え50質量%以下のZrSiO4を添加した酸化物磁性材料から構成されている。各層に形成される内部導体3は、Ag系合金等が充填されたスルーホール(図示せず)を通して互いに導通することでコイルを形成している。
【0027】
上記の積層型インダクタの製造方法について説明する。
まず、主成分となるNiO、CuO、ZnO、Fe2O3の各原料粉末を準備し、ボールミル等によって混合した後、混合粉末を仮焼し、仮焼後の仮焼体を粉砕する。得られた仮焼粉末にZrSiO4を所定量添加した後、バインダー、可塑剤、溶剤などを加え、湿式混合してスラリーを作製する。シート成形機に該スラリーを供給して、グリーンシートを作製する。
【0028】
得られたグリーンシートにスルーホール加工を施し、内部導体をスクリーン印刷する。この際、内部電極の巻線パターンは任意のパターンとすることができ、また、その巻数および巻線ピッチなども用途に応じて適宜選択することができる。内部導体が印刷されたグリーンシートを積層し、プレスする。プレス後の積層体を所定の寸法に切断し、大気中で焼結する。
【0029】
焼結条件は、磁性体や導電性粒子の材質等に応じて適宜決定すればよいが、焼結温度は900℃〜950℃程度が好ましい。900℃未満ではフェライトが十分に緻密化せず、インダクタンスなどの特性が得られないので好ましくない。950℃を超えると内部導体の溶解や拡散が進むため好ましくない。焼結時間は1〜8時間程度が好ましい。
【0030】
次に、得られた焼結体に外部電極を形成する。外部電極の材質については特に限定はなく、例えば、Ag、Ni、CuおよびAg-Pd等を用いることができる。外部電極の形成方法もまた特に限定されず、例えば、印刷法、めっき法および蒸着法等、公知の種々の方法を採用することができる。
【0031】
上述した積層型インダクタを用いたDC/DCコンバータは、インダクタの駆動周波数をfe、スイッチング周波数をfsとした場合、電流連続モードでは1/fe=1/fs、電流不連続モードでは1/fe<1/fsで駆動される。ここで、Vi:入力電圧、Vo:出力電圧、n:ターン数、S:磁路断面積、le:磁路長、Io:出力電流、η:変換効率、μo:真空の透磁率、μΔ:酸化物磁性材料の増分透磁率、ΔB:振幅磁束密度として、電流不連続モードで動作する昇圧用DC/DCコンバータに搭載したインダクタに流れる電流波形を解析した。
【0032】
解析の結果、電流不連続モードにおいて、振幅磁束密度ΔBは、次式で表わすことができ、これから明らかなように、酸化物磁性材料の増分透磁率μΔを小さくすることにより、振幅磁束密度ΔBを低減できる。よって、DC/DCコンバータ動作時のインダクタ損失を低減できる。
【0033】
【数1】

【実施例】
【0034】
実施例1
主成分となるNiO、CuO、ZnO、Fe2O3の各原料粉末を表1に示す組成(1)及び組成(2)の割合(mol%)で配合した。これらをボールミルにより湿式混合を行い、その後、800℃で3時間仮焼を行い、再びボールミルにより湿式粉砕を行って、平均粒径0.5〜1.5μmの仮焼粉を得た。得られた組成(1)及び組成(2)の仮焼粉に表2に示す割合で3〜50質量%のZrSiO4を添加して、ボールミルにより湿式混合を行い、乾燥後、粉砕粉に対し1質量%のPVAを添加して造粒を行い、成形圧力150MPaでトロイダルリング(Φ9×Φ4×2.3tmm)を作製した。焼成は930℃で2時間行った。
【0035】
得られたトロイダルリングに巻線を施し、BH曲線はBHアナライザ(IWATSU製SY−8232)を用いて10kHz、H=4000A/mで測定を行った。また、増分透磁率μΔは、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータを反映して、Brを起点としてΔB=50mTで片側励磁させた場合の増分透磁率とした。測定結果を表2に示す。表中に※を付した試料は比較例である。BsはH=4000A/mで励磁した場合のBの値である。また、表2の結果をグラフ化したものを図2〜図4に示す。図2はZrSiO4添加量と角型比Br/Bsとの関係を示すグラフ、図3はZrSiO4添加量と保磁力Hcとの関係を示すグラフ、図4はZrSiO4添加量と増分透磁率μΔとの関係を示すグラフである。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表2及び図2〜図4から明らかなように、ZrSiO4の添加量を増加させることにより、角型比(Br/Bs)、保磁力Hc、増分透磁率μΔが小さくなっていることが分かる。
【0039】
実施例2
主成分となるNiO、CuO、ZnO、Fe2O3の各原料粉末を表1に示す組成(3)の割合(mol%)で配合した。これらをボールミルにより湿式混合を行い、その後、800℃で3時間仮焼を行い、再びボールミルにより湿式粉砕を行って、平均粒径0.5〜1.5μmの仮焼粉を得た。得られた組成(3)の仮焼粉に、表3に示す割合でZrSiO4、SnO2、CaO、ZrO2、Al2TiO5を添加して、ボールミルにより湿式混合を行い、乾燥後、粉砕粉に対し1質量%のPVAを添加して造粒を行い、成形圧力150Mpaでトロイダルリング(Φ9×Φ4×2.3tmm)を作製した。焼成は930℃で2時間行った。
【0040】
得られたトロイダルリングに巻線を施し、BH曲線はBHアナライザ(IWATSU製SY−8232)を用いて10kHz、H=4000A/mで測定を行った。測定結果を表3に示す。表中に※を付した試料は比較例(添加物なし)である。BsはH=4000A/mで励磁した場合のBの値である。なお、表3の試料No.16〜19は、No.15で添加したZrSiO4と同体積分のSiO2、CaO、ZrO2、Al2TiO5を添加したものである。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から明らかなように、ZrSiO4以外の添加物では、角型比(Br/Bs)及び保磁力Hcを低減することができない。従って、DC/DCコンバータ動作時のインダクタ損失を低減することができない。
【0043】
実施例3
実施例1により得られた、表1の組成(1)及び組成(2)の仮焼粉に、表2に示す割合で3〜50質量%のZrSiO4を添加した混合粉末に、該混合粉末100質量%に対して、バインダーを10質量%加えて、可塑剤及び溶剤とともにボールミルにて混練し、磁性体層用スラリーを得た。スラリーはシート成形機を用いて厚み約40μmの磁性体層に成形した。
【0044】
所定の磁性体層にスルーホールを形成し、スルーホールを形成した磁性体層及びスルーホールを形成していない磁性体層の表面に内部導体用の導体ペーストをスクリーン印刷して導体パターンを形成した。その後、導体パターンを印刷した磁性体層において、導体パターンと磁性体層との段差を無くすために導体パターンを印刷していない部分に磁性体層と向じ材料のペースト印刷を施した。
【0045】
導体パターンが印刷された磁性体層を電気的に接続させ、16.5ターンとなるように積層し、このとき目的の寸法に合わせて、上下層部に導体パターンが形成されない磁性体層を配置した。得られた積層体は、一定圧力で圧着した後、目的形状に加工し、930℃で2時間大気焼結を行ない、4.5mm×3.2m×0.5mmの積層型インダクタを得た。
【0046】
前記方法により得られた積層型インダクタを、電流不連続モードで動作する昇圧型DC/DCコンバータ(スイッチング周波数fs=1.1MHz、入力電圧Vi=3.6V、出力電圧Vo=13.3V、出力電流Io=20mA)に組み込み、DC/DC変換効率を測定した。また、動作時にインダクタに流れる電流波形解析により、インダクタンスL、駆動周波数fe、振幅磁束密度ΔBを求め、さらに損失をインダクタ損失およびインダクタ以外の損失(スイッチング損失やダイオードにおける損失など回路損失)に分離した。測定結果を表4に示す。また、表2の結果をグラフ化したものを図5及び図6に示す。図5は増分透磁率μΔとインダクタ損失及びインダクタ以外の損失との関係を示すグラフ、図6は増分透磁率μΔとDC/DC変換効率ηとの関係を示すグラフである。
【0047】
【表4】

【0048】
表4及び図5、図6から明らかなように、ZrSiO4を添加し、増分透磁率μΔを小さくすることによって、DC/DC変換効率ηが向上していることが分かる。また、ZrSiO4の添加量を多くして、増分透磁率μΔを小さくし過ぎると、インダクタ以外の損失が増大し、DC/DC変換効率ηが低下することが分かる。これらの結果から、増分透磁率μΔが10〜20、すなわち、ZrSiO4添加量が15質量%〜50質量%の時に高いDC/DC変換効率ηが得られる。
【0049】
実施例4
実施例3により得られた4.5mm×3.2m×0.5mmの積層型インダクタに対して、図7に示すように、孔あき台5に積層型インダクタ6を載置して荷重を負荷する方法で積層型インダクタが破壊される限界の荷重を測定した。測定結果を図8に示す。図8は、ZrSiO4添加量と荷重Pとの関係を示すグラフである。
【0050】
図8から明らかなように、ZrSiO4添加量が増加するにともない荷重Pが大きくなっている。すなわち、ZrSiO4を添加量を添加することにより、機械的強度が向上することが分かる。また、ZrSiO4添加量が15質量%〜40質量%付近で、もっとも機械的強度が向上していることが分かる。
【0051】
実施例5
インダクタとして、実施例3の試料No.6の積層型インダクタ(図9(3))と、比較例1として図9(1)に示すオープンタイプの巻線インダクタ、比較例2として図9(2)に示すシールドタイプの巻線インダクタを準備し、電流不連続モードで動作する昇圧型DC/DCコンバータ(スイッチング周波数fs=1.1MHz、入力電圧Vi=3.6V、出力電圧Vo=13.3V、出力電流Io=20mA)に組み込み、動作中のインダクタを直径4.8mmのループアンテナで囲い、ノイズ波形のFFTスペクトラムから漏洩磁束密度を測定した。漏洩磁束密度は、スイッチング周波数による基本波、第1高調波及び第2高調波から求めた。測定結果を表5に示す。表5から明らかなように、本発明による積層インダクタは、漏洩磁束密(mT)が小さいことが分かる。
【0052】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明による酸化物磁性材料及びそれを用いた積層型インダクタは、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに最適であり、DC/DCコンバータにおけるDC/DC変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明による積層型インダクタの構成例を示す模式説明図である。
【図2】ZrSiO4添加量と角型比Br/Bsとの関係を示すグラフである。
【図3】ZrSiO4添加量と保磁力Hcとの関係を示すグラフである。
【図4】ZrSiO4添加量と増分透磁率μΔとの関係を示すグラフである。
【図5】増分透磁率μΔとインダクタ損失及びインダクタ以外の損失との関係を示すグラフである。
【図6】増分透磁率μΔとDC/DC変換効率ηとの関係を示すグラフである。
【図7】積層型インダクタの破壊強度測定方法を示す模式図である。
【図8】ZrSiO4添加量と荷重Pとの関係を示すグラフである。
【図9】本発明の積層インダクタと比較例の巻線インダクタの構成を示す模式説明図であり、Aはオープンタイプ、Bはシールドタイプ、Cは積層タイプを示す。
【符号の説明】
【0055】
1,6 積層型インダクタ
2 磁性体層
3 内部導体
4 外部電極
5 孔あき台
7 コア
8 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに用いられる積層型インダクタ用酸化物磁性材料であって、Ni-Cu-Zn系フェライトに15質量%を超え50質量%以下のZrSiO4を添加したことを特徴とする酸化物磁性材料。
【請求項2】
ZrSiO4の添加量が15質量%を超え40質量%以下である請求項1に記載の積層型インダクタ用酸化物磁性材料。
【請求項3】
角型比(Br/Bs)が0.20以下である請求項1に記載の積層型インダクタ用酸化物磁性材料。
【請求項4】
保磁力HcがZrSiO4を添加しないNi-Cu-Zn系フェライトよりも小さい請求項1に記載の積層型インダクタ用酸化物磁性材料。
【請求項5】
磁性体層と内部導体並びに外部電極を有し、電流不連続モードで動作するDC/DCコンバータに用いられる積層型インダクタにおいて、磁性体層が15質量%を超え50質量%以下のZrSiO4を添加したNi-Cu-Zn系フェライトである積層型インダクタ。
【請求項6】
ZrSiO4の添加量が15質量%を超え40質量%以下である請求項5に記載の積層型インダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−103869(P2007−103869A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295357(P2005−295357)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000183417)株式会社NEOMAX (121)
【Fターム(参考)】