説明

酸化物超電導線材とその製造方法及びそれに用いる基板の製造装置

【課題】金属基板上の中間層及び超電導層の配向度を向上させる。
【解決手段】線材送出部11と線材巻取部14との間に、配向熱処理部12と中間層成膜部21を配置し、この装置全体を還元性雰囲気に制御されたチャンバー15内部に配置した。中間層成膜部21は、それぞれ加熱部を備えたRFスパッタリング装置からなる第1中間層成膜部21a、第2中間層成膜部21b及びRFスパッタリング装置からなる第3中間層成膜部21cにより構成され、線材送出部から送出されたNi−W合金テープは、配向熱処理部で2軸配向化され、第1乃至第3中間層成膜部において、それぞれCeO、YSZ及びCeOが蒸着され、さらにその上にTFA−MOD法により厚さ1.0μmのYBCO層が成膜された。2軸配向後のNi−W合金基板及びCeO中間層の面内配向度は、それぞれΔφ=6.5度及び6.0度を示し、YBCO層はIc=300A/cm−w、Jc=3.0MA/cmの値を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導マグネット、超電導ケーブル、超電導エネルギー貯蔵装置、電動機や変圧器等の超電導電力機器等に有用な酸化物超電導線材に係り、特に金属基板上にMOD法による超電導層の形成に適した酸化物超電導線材とその製造方法及びそれに用いる基板の製造装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、従来のNbSnやNbAl等の金属系超電導体と比較して臨界温度(Tc)が高く、送電ケーブル、変圧器、モーター、電力貯蔵システム等の超電導応用機器を液体窒素温度で運用できることから、その線材化の研究が精力的に行われている。
【0003】
酸化物超電導体を上記の分野に適用するためには、臨界電流密度(Jc)が高く、かつ高い臨界電流(Ic)値を有する長尺の線材を製造する必要があり、一方、長尺線材を得るためには、強度及び可撓性の観点から金属基体上に酸化物超電導体を形成する必要がある。
【0004】
酸化物超電導体のうち、ReBaCu(ここで、y=6.2〜7であり、Reは、Y、Yb、Tm、Er、Pr、Ho、Dy、Gd、Eu、Sm、Nd又はLaから選択された少なくとも1種以上の元素を示す。以下、ReBCOと称する。)酸化物超電導体は、高磁場領域における通電電流の減衰が小さく磁場特性に優れていることから、次世代の超電導材料としてその線材化が期待されている。
【0005】
このReBCO酸化物超電導体の結晶系は斜方晶であり、x軸、y軸及びz軸の3辺の長さが異なり、単位胞の3つの角度も微妙に異なるために双晶を形成し易くBi系酸化物超電導体に比べてその線材化が困難であるという問題がある。
【0006】
また、ReBCO酸化物超電導体は、その結晶方位により超電導特性が変化することから、Jcを向上させるためには、その面内配向性を向上させることが必要であり、この面内配向性は下地となる中間層や配向金属基板の配向性及び表面平滑性に著しく影響を受ける。ReBCO酸化物超電導体の面内配向性を向上させるためには、酸化物超電導体をテープ状の基板上に形成する必要があり、このため、面内配向性の高い基板上に酸化物超電導体をエピタキシャル成長させる成膜プロセスが採用されている。
【0007】
この場合、Jcを向上させるためには、酸化物超電導体のc軸を基板面に垂直に配向させ、かつそのa軸(又はb軸)を基板面に平行に面内配向させて、超電導状態の量子的結合性を良好に保持する必要があり、このため、面内配向性の高い(2軸配向した)金属基板上に面内配向度と方位を向上させた中間層を1層又は複数層形成し、この中間層の結晶格子をテンプレートとして用いることによって、超電導層の結晶の面内配向度と方位を向上させることが行われており、更に超電導層の表面保護と電気的接触の向上及び過通電時の保護回路としての役割を担う銀等の安定化層を超電導層上に積層した構造が採用されている。
【0008】
上記の2軸配向した金属基板は、通常、強圧延加工した金属基板に配向熱処理を施すことにより得られているが、この配向金属基板の形成工程は、強圧延加工を施したテープ状の金属基板を送出する線材送出装置と線材巻取装置との間に金属基板を2軸配向させるための配向熱処理炉を配置した所謂Reel to Reel方式により行われており、一方、中間層の形成工程も2軸配向したテープ状の金属基板を送出する線材送出装置と線材巻取装置との間に中間層成膜装置(例えば、仮焼膜形成装置及び仮焼膜の熱処理炉)をそれぞれ配置したReel to Reel方式により行われている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0009】
この場合、2軸配向したテープ状の金属基板上の中間層及び超電導層は自由に選択可能であることから、それぞれの工程は、その効率を向上させるために、最適条件に設定された走行速度で金属基板がReel to Reel方式により、別工程で配向熱処理炉、仮焼膜形成装置及び仮焼膜の熱処理炉を通過する。例えば、配向熱処理炉においては約5m/hrで、一方、RFスパッタリング装置からなる中間層成膜装置においては約1m/hr程度の走行速度が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−286212号
【特許文献2】特開2007−234531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような方法において、超電導層の特性を向上させるために、金属基板及び中間層の配向性を向上させることが種々試みられているが、そのJcは1MA/cm程度に留まり、配向熱処理炉又は中間層成膜装置の最適条件の選択によりそれ以上にJcを向上させることは困難であった。
【0012】
即ち、ReBCO酸化物超電導体の特性は金属基板やこの上に形成される中間層の結晶配向に大きく依存するが、Reel to Reel方式により金属基板の配向熱処理及び中間層の成膜処理を別工程で施した場合にはそのJcの向上には限界があるという問題がある。
【0013】
本発明は、以上の問題を解決するためになされたもので、本発明者は、鋭意研究の結果、これらの原因がReel to Reel方式における金属基板の配向熱処理後に、2軸配向した金属基板が大気中に暴露されることに起因することを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0014】
即ち、従来、配向熱処理後に金属基板を大気中に暴露した後、配向金属基板上に中間層の成膜処理が施されているため、配向金属基板の表面の酸化物層の形成やコンタミネーションを完全に除去できず、配向金属基板表面に形成される中間層の配向性が金属基板の配向性に比較して低下し、その結果、中間層上の超電導層の配向性も中間層の配向性の影響を受けて超電導特性が低下することを知見するに至った。
【0015】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、Reel to Reel方式によりReBCO酸化物超電導体の配向性をより向上させることにより、超電導特性に優れたReBCO酸化物超電導線材及びその製造方法を提供することをその目的とする。
【0016】
また、本発明は、Reel to Reel方式により配向性金属基板上に1層又は2層以上の中間層を形成した酸化物超電導線材用基板の製造装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の酸化物超電導線材は、以上の問題を解決するためになされたもので、配向性を有する金属基板上に1層又は2層以上の中間層を介して酸化物超電導層を形成した酸化物超電導線材において、中間層を還元性雰囲気中で金属基板を2軸配向させるための配向熱処理に続く中間層成膜処理により形成するようにしたものである。
【0018】
この場合において、上記の配向熱処理に続く中間層成膜処理後に大気中に暴露した上、MOD法やRFスパッタリング法等により、さらに他の中間層を積層し、この中間層上に酸化物超電導層を形成してもよい。
【0019】
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、配向性金属基板上に1層又は2層以上の中開層を介して酸化物超電導層を形成した酸化物超電導線材の製造方法であって、金属基板に圧延加工を施す工程と、圧延加工後の金属基板を2軸配向させるための配向熱処理工程と、配向後の金属基板上に中間層を形成するための1又は2以上の中間層成膜工程及び中間層形成後の金属基板上に酸化物超電導層を形成するための超電導層成膜工程とを備え、少なくとも配向熱処理工程及び中間層成膜工程を還元性雰囲気条件下で連続して施すようにしたものである。
【0020】
この場合においても、上記の配向熱処理工程に続く中間層成膜処理工程後に大気中に暴露した上、MOD法やRFスパッタリング法等により、さらに他の中間層形成工程を介在させた後、超電導層成膜工程を備えるようにしてもよい。
【0021】
以上の発明における酸化物超電導層は、ReBaCu(Reは、Y、Yb、Tm、Er、Pr、Ho、Dy、Gd、Eu、Sm、Nd又はLaから選択された少なくとも1種以上の元素を示し、x≦2及びy=6.2〜7である。以下同じ。)超電導体からなることが好ましい。
【0022】
ReBaCuO超電導体中のBa元素のモル比は、1.3≦x≦2.0の範囲内、特に、1.3≦x≦1.8の範囲内であることが好ましい。Baのモル比が2.0を超えるに従って超電導特性が低下し、同様にBaのモル比が1.3未満より少なくなるに従って超電導特性が低下するためである。また、酸化物超電導層は、厚膜化と高速仮焼プロセスを可能とするために、MOD法により、特に、TFA塩を出発原料とするTFA―MOD法により形成することが好ましい。
【0023】
酸化物超電導線材は、基板上に1層又は2層以上の中間層を介してReBaCu超電導体の原料溶液をMOD法により塗布後、熱処理を施す工程を繰り返して複数の仮焼膜を形成した後、結晶化熱処理を施すことにより製造される。
【0024】
金属基板としては、Ni又はNiに、W、Mo、Cr、Fe、Co、V及びMnから選択された一種類以上の添加元素を含むNi基合金が用いられ、強圧延加工後の金属基板には、Ni基合金とステンレス、ハステロイ、インコネル、ニクロムから選択されたいずれか1種の耐熱金属を積層させた複合基板を用いることもできる。圧延加工後の金属基板は、配向熱処理により2軸配向されるが、この場合の熱処理は800〜1300℃の温度範囲内で施されることが好ましい。
【0025】
2軸配向された金属基板上の中間層は、CeO、Y、YSZ、Gd又はREZr(RE=Ce又はGdを示す。)酸化物をPLD法、RFスパッタリング法、CVD法又はEB法のいずれか一つの方法を用いて成膜することにより形成し、成膜後の中間層は、400〜800℃の温度範囲内加熱することが好ましい。
【0026】
上記の配向熱処理及び中間層の成膜は、還元性雰囲気条件下で連続して、即ち、大気中に暴露することなく施され、例えば、Ar−H又はN−H等の還元性雰囲気で酸素濃度0.1ppm以下の条件を採用することが好ましい。
【0027】
以上述べた本発明による酸化物超電導線材及びその製造方法に用いられる配向性金属基板上に1層又は2層以上の中間層を形成した酸化物超電導線材用基板は、圧延加工を施したテープ状の金属基板を送出する線材送出部と、金属基板を2軸配向させるための配向熱処理部と、配向後の金属基板の表面に中間層を形成するための1又は2以上の中間層成膜部と、中間層形成後の金属基板を巻き取る線材巻取部とを備え、少なくとも配向熱処理部と中間層成膜部が同一のチャンバー内に配置され、このチャンバーの内部を還元性雰囲気に制御する雰囲気制御部が接続された酸化物超電導線材用基板の製造装置により製造することができる。
【0028】
上記の発明における酸化物超電導線材用基板の製造装置においては、少なくとも配向熱処理部と中間層成膜部が同一のチャンバー内に配置されるが、この場合、線材送出部、配向熱処理部、中間層成膜部及び線材巻取部を同一のチャンバー内に配置し、このチャンバーにその内部を還元性雰囲気に制御する雰囲気制御部を接続するようにしてもよい。
【0029】
また、中間層成膜部は、成膜後の中間層を加熱するための加熱部を備え、複数の中間層を形成する場合には、各中間層成膜部毎に加熱部が備えられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明による酸化物超電導線材及びその製造方法においては、金属基板を2軸配向させるための配向熱処理に続く中間層成膜処理が還元性雰囲気中で、即ち、大気中に暴露することなく施されるため、配向金属基板表面の酸化物層の形成やコンタミネーションを完全に除去することができ、その結果、配向金属基板表面に形成される中間層の配向性を金属基板の配向性と同程度に維持することができ、優れた超電導特性を有する酸化物超電導線材が得られる。また、このように優れた配向性を有する酸化物超電導線材用基板は、本発明による酸化物超電導線材用基板の製造装置により製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による酸化物超電導線材及びその製造方法に用いられる酸化物超電導線材用基板の製造装置の一実施例を示す概略図である。
【図2】本発明による酸化物超電導線材及びその製造方法に用いられる酸化物超電導線材用基板の製造装置の他の実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図2は、本発明による酸化物超電導線材及びその製造方法に用いられる酸化物超電導線材用基板の製造装置の概略を示したもので、基板の製造装置10は、Ni−W合金等に強圧延加工を施したテープ状の金属基板をリール上に巻回しこれを送出する線材送出部11と、金属基板を2軸配向させるための800〜1300℃の温度範囲に加熱された熱処理炉からなる配向熱処理部12と、配向後の金属基板の表面に中間層を形成するためのPLD装置、RFスパッタリング装置、CVD装置又はEB装置のいずれか一つからなる中間層成膜部13及び中間層形成後の金属基板を巻き取る線材巻取部14とを備え、配向熱処理部12と中間層成膜部13はチャンバー15内部に配置され、配向熱処理部12の内部は800〜1300℃の温度範囲に制御されるとともに、中間層成膜部13は、成膜後の中間層を加熱するための400〜800℃の温度範囲に制御された加熱部を備えている。
【0033】
中間層成膜部13においては、CeO、Y、YSZ又は、Gd又はREZr層が成膜される。
【0034】
このチャンバー15の内部は、真空ポンプ及び還元性ガス供給装置等からなる雰囲気制御部16に接続されており、配向熱処理部12と中間層成膜部13は同一の条件下で還元性雰囲気、例えば、酸素濃度0.1ppm以下のAr−H、N−H等の還元性雰囲気に制御される。この場合、線材送出部11、配向熱処理部12、中間層成膜部13及び線材巻取部14全体をチャンバー15´内部に配置し、雰囲気制御部16に接続してもよい。
【0035】
線材送出部11に巻回された強圧延加工後のテープ状の金属基板17aは、線材送出部11と線材巻取部14との間を走行し、配向熱処理部12において金属基板が2軸配向され、次いで加熱部を備えた中間層成膜部13で2軸配向金属基板上にCeO等の中間層が成膜された後、この中間層が形成された金属基板17bは線材巻取部14でリール上に巻き取られる。
【0036】
前述のように、配向熱処理工程と中間層成膜工程が独立して(別工程で)施される場合には、通常、金属基板の走行速度は中間層成膜工程に比べて配向熱処理工程で著しく大きい。本発明においては、配向熱処理工程と中間層成膜工程が連続して施されることから、当然のことながら金属基板は同一の走行速度で配向熱処理と中間層成膜処理が行われる。以上の装置においては、金属基板の走行速度は中間層成膜工程で決定され、配向熱処理工程の熱処理炉の長さはその走行速度の低下に応じて短く設計される。
【0037】
以上の酸化物超電導線材用基板の製造装置10により2軸配向金属基板上にCeO等の中間層が成膜されたテープ状の金属基板17b上に、通常の工程に従って、例えば、TFA−MOD法によりYBCO超電導層が成膜される。
【0038】
図1は、本発明による酸化物超電導線材及びその製造方法に用いられる他の酸化物超電導線材用基板の製造装置を示したもので、図2と同一部分は同符号で示してある。酸化物超電導線材用基板の製造装置20は、線材送出部11と、配向熱処理部12と、中間層成膜部21及び線材巻取部14とを備えており、図2と同様に、配向熱処理部12及び中間層成膜部21はチャンバー15内に配置され、雰囲気制御部16によりその内部が還元性雰囲気に制御される。
【0039】
図1において、基板の製造装置20の中間層成膜部21は、3層の中間層を形成するための3つの中間層成膜部からなり、第1中間層成膜部21a、第2中間層成膜部21b及び第3中間層成膜部21cとから構成され、第1乃至第3中間層成膜部は、成膜後の中間層を加熱するための400〜800℃の温度範囲に制御された加熱部を備えている。
【0040】
線材送出部11に巻回された強圧延加工後のテープ状の金属基板17aは、線材送出部11と線材巻取部14との間を走行し、配向熱処理部12において金属基板が2軸配向され、次いで中間層成膜部21で2軸配向金属基板上に隣接する中間層が異なるように3層の中間層、例えば、第1中間層成膜部21a、第2中間層成膜部21b及び第3中間層成膜部21cでそれぞれCeO、YSZ及びCeO中間層が順次成膜された後、この中間層が形成された金属基板17cが線材巻取部14のリール上に巻き取られる。
【0041】
この3層の中間層が成膜されたテープ状の金属基板17c上に、通常の工程に従って、例えば、TFA−MOD法によりYBCO超電導層が成膜される。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0043】
実施例1
図2の酸化物超電導線材用基板の製造装置を用いて金属基板上に中間層を形成した。配向熱処理部は1,050℃に加熱された熱処理炉からなり、一方、中間層成膜部は400℃の加熱部を備えたRFスパッタリング装置により構成された。
【0044】
配向熱処理部及び中間層成膜部は、線材送出部及び線材巻取部とともに、雰囲気制御部により酸素濃度0.05ppmのAr−Hガス雰囲気に制御されたチャンバー内に配置され、線材送出部から送出された強圧延Ni−W合金テープは、線材送出部と線材巻取部との間を走行し、配向熱処理部で2軸配向化され、次いでこの2軸配向Ni−W合金基板上に中間層成膜部においてCeOが蒸着された。
【0045】
上記の2軸配向後のNi−W合金基板及びCeO中間層の面内配向度をX線回折により測定した結果、それぞれΔφ(半値幅)は6.5deg.及び6.0deg.であった。
【0046】
このCeO中間層上に、MOD法によるCe−Zr−O中間層及びRFスパッタリング法によるCeO中間層を成膜した後、さらにその上にTFA−MOD法により、YBCO超電導層を形成した。この超電導層は、以下の方法により形成した。
【0047】
まず、Y―TFA塩、Ba―TFA塩及びCuのナフテン酸塩をY:Ba:Cuのモル比が1:1.5:3となるように2―オクタノン中に混合した混合溶液をディップコーティング法を用いてCeO中間層上に塗布し、水蒸気モル分率2.0%、760Torrの酸素ガス雰囲気中で最高加熱温度480℃に加熱した後、常温まで炉冷して仮焼膜を形成し、この工程を繰り返して超電導層の仮焼膜を複数層形成した。
【0048】
以上のようにして超電導層の仮焼膜を形成した後、水蒸気モル分率7.5%未満、炉内圧力760Torr未満の酸素−アルゴンガス雰囲気中で最高加熱温度700~780℃の焼成条件で結晶化熱処理、即ち、超電導体生成の熱処理を施して超電導層を形成した。
【0049】
以上のようにして製造した超電導層の膜厚は1.0μmであった。この超電導線材のIc及びJcを測定した結果、自己磁界(77K)中でIc=280A/cm−w、Jc=2.8MA/cmの値を示した。
【0050】
実施例2
図1の酸化物超電導線材用基板の製造装置を用いて金属基板上に中間層を形成した。中間層成膜部は、700℃の加熱部を備えたRFスパッタリング装置からなる第1中間層成膜部、650℃の加熱部を備えたRFスパッタリング装置からなる第2中間層成膜部及び700℃の加熱部を備えたRFスパッタリング装置からなる第3中間層成膜部により構成し、他の構成は実施例1と同様とした。
【0051】
線材送出部から送出された強圧延Ni−W合金テープは、線材送出部と線材巻取部との間を走行し、配向熱処理部で2軸配向化され、次いでこの2軸配向Ni−W合金基板上に第1中間層成膜部においてCeO中間層が、第2中間層成膜部においてYSZ中間層が、また、第3中間層成膜部においてCeOが蒸着された。
【0052】
上記の2軸配向後のNi−W合金基板及びCeO中間層(最上層部)の面内配向度をX線回折により測定した結果、それぞれΔφ(半値幅)は6.5deg.及び6.0deg.であった。
【0053】
この3層構造の中間層上に、実施例1と同様のTFA−MOD法によりYBCO超電導層を形成した。
【0054】
以上のようにして製造した超電導層の膜厚は1.0μmであった。この超電導線材Ic及びJcを測定した結果、自己磁界(77K)中でIc=300A/cm−w、Jc=3.0MA/cmの値を示した。
【0055】
比較例
線材送出部及び線材巻取部との間に配向熱処理部を設け、配向熱処理部を1,050℃に加熱するとともに、これらの全体を酸素濃度0.05ppmのAr−Hガス雰囲気に制御されたチャンバー内に配置して、線材送出部から送出された強圧延Ni−W合金テープに2軸配向熱処理を施した。
【0056】
上記の2軸配向後のNi−W合金基板の面内配向度をX線回折により測定した結果、Δφ(半値幅)は6.5deg.であった。
【0057】
一方、2軸配向したNi−W合金テープの線材送出部及び線材巻取部との間に中間層成膜部を設け、これらの全体を酸素濃度0.05ppmのAr−Hガス雰囲気に制御されたチャンバー内に配置した。中間層成膜部は700℃の加熱部を備えたRFスパッタリング装置により構成された。
【0058】
線材送出部から送出された2軸配向Ni−W合金テープ上に中間層成膜部でCeO中間層を蒸着した。
【0059】
上記のCeO中間層の面内配向度をX線回折により測定した結果、Δφ(半値幅)は7.0deg.であった。
【0060】
このCeO中間層上に、MOD法によるCe−Zr−O中間層及びRFスパッタリング法によるCeO中間層を成膜した後、実施例1と同様の方法により、さらにその上にTFA−MOD法によるYBCO超電導層を形成した。
【0061】
以上のようにして製造した超電導層の膜厚は1.0μmであった。この超電導線材のIc及びJcを測定した結果、自己磁界(77K)中でIc=150A/cm−w、Jc=1.5MA/cmの値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明による酸化物超電導線材及びその製造方法は、送電ケーブルや電力貯蔵システムのような電力機器及びモーターなどの動力機器への使用に適した酸化物超電導体への利用が可能である。また、本発明による酸化物超電導線材用基板の製造装置は、上記の酸化物超電導線材及びその製造方法への使用に適する。
【符号の説明】
【0063】
10、20 酸化物超電導線材用基板の製造装置
11 線材送出部
12 配向熱処理部
13、21 中間層成膜部
14 線材巻取部
15、15´ チャンバー
16 雰囲気制御部
17a 金属基板
17b、17c 中間層形成後の金属基板
21a 第1中間層成膜部
21b 第2中間層成膜部
21c 第3中間層成膜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向性を有する金属基板上に1層又は2層以上の中間層を介して酸化物超電導層を形成した酸化物超電導線材において、前記中間層は、還元性雰囲気中で前記金属基板を2軸配向させるための配向熱処理に続く中間層成膜処理により形成されていることを特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項2】
配向性金属基板上に1層又は2層以上の中間層を介して酸化物超電導層を形成した酸化物超電導線材の製造方法であって、金属基板に圧延加工を施す工程と、圧延加工後の金属基板を2軸配向させるための配向熱処理工程と、配向後の金属基板上に中間層を形成するための1又は2以上の中間層成膜工程及び中間層形成後の金属基板上に酸化物超電導層を形成するための超電導層成膜工程とを備え、少なくとも前記配向熱処理工程及び前記中間層成膜工程を還元性雰囲気条件下で連続して施すことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
酸化物超電導層は、ReBaCu(Reは、Y、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Eu、Sm、Nd又はLaから選択された少なくとも1種以上の元素を示し、x≦2及びy=6.2〜7である。)超電導体からなることを特徴とする請求項2記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
金属基板は、Ni又はNi基合金からなることを特徴とする請求項2又は3記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
圧延加工後の金属基板は、強圧延加工後のNi又はNi基合金とステンレス、ハステロイ、インコネル、ニクロムから選択されたいずれか1種の耐熱金属を積層させた複合基板からなることを特徴とする請求項2又は3記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
中間層は、CeO、Y、YSZ、Gd又はREZr(RE=Ce又はGdを示す。)酸化物からなることを特徴とする請求項2乃至5いずれか1項記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
配向熱処理工程は、800〜1300℃の温度範囲内で施されることを特徴とする請求項2乃至6いずれか1項記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項8】
中間層成膜工程は、PLD法、RFスパッタリング法、CVD法又はEB法のいずれか一つからなることを特徴とする請求項2乃至7いずれか1項記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項9】
中間層成膜工程は、400〜800℃の温度範囲内の加熱工程を含むことを特徴とする請求項2乃至8いずれか1項記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項10】
配向熱処理工程及び中間層成膜工程は、酸素濃度0.1ppm以下の還元性雰囲気条件下で連続して施すことを特徴とする請求項2乃至9いずれか1項記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項11】
配向性金属基板上に1層又は2層以上の中両層を形成した酸化物超電導線材用基板の製造装置であって、前記製造装置は、圧延加工を施したテープ状の金属基板を送出する線材送出部と、前記基板を2軸配向させるための配向熱処理部と、配向後の金属基板の表面に中間層を形成するための1又は2以上の中間層成膜部及び中間層形成後の金属基板を巻き取る線材巻取部とを備え、少なくとも前記配向熱処理部と前記中間層成膜部が同一のチャンバー内に配置され、前記チャンバーにその内部を還元性雰囲気に制御する雰囲気制御部が接続されていることを特徴とする酸化物超電導線材用基板の製造装置。
【請求項12】
線材送出部、配向熱処理部、中間層成膜部及び線材巻取部は、同一のチャンバー内に配置され、前記チャンバーにその内部を還元性雰囲気に制御する雰囲気制御部が接続されていることを特徴とする請求項11記載の酸化物超電導線材用基板の製造装置。
【請求項13】
中間層成膜部は、成膜後の中間層を加熱するための加熱部を備えたことを特徴とする請求項11又は12記載の酸化物超電導線材用基板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−238634(P2010−238634A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87670(P2009−87670)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】