説明

酸化物超電導線材の接続構造体及び酸化物超電導線材の接続方法

【課題】接続部分に段差を発生させることなく、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材の接続構造体及び酸化物超電導線材の接続方法の提供。
【解決手段】本発明の酸化物超電導線材10の接続構造体20は、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされ、この二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端21近傍の基材から銀層までをはんだ層12が露出するように除去された少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材10aが、露出させたはんだ層12同士を一体化して接続されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材の接続構造体及び酸化物超電導線材の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示し、電流損失が低いため、実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体あるいは磁気コイル等として使用することが要望されている。この酸化物超電導体を線材に加工するための方法として、金属基材テープ上に酸化物超電導層を形成する方法が研究されている。
【0003】
酸化物超電導線材にあっては、酸化物超電導層上に薄い銀の安定化層を形成し、その上に銅などの良導電性金属材料からなる厚い安定化層を設けた2層構造の安定化層を積層する構造が採用されている。前記銀の安定化層は、酸化物超電導層を水分から保護する目的のためにも設けられており、銅の安定化層は、酸化物超電導層が外乱を受けて超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、該酸化物超電導層の電流を転流させるバイパスとして機能させ、酸化物超電導線材を電気的に保護するための目的で設けられている。
【0004】
このような酸化物超電導線材を実用機器に応用するためには、酸化物超超電導導体を接続する技術の開発が要望されている。
従来の酸化物超電導線材の接続方法としては、はんだにより安定化層の外表面側同士を貼り合わせる方法や、安定化層同士を接触させ、熱を加えることにより、拡散接合させる方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−234957号公報
【特許文献2】特開2007−12582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法により接続された接続構造体は、接続部分の線材に段差が生じてしまうため、線材をコイル状に巻き線加工すると、段差部分の上側にある線材に負荷がかかり、その部分で超電導特性が劣化してしまうおそれがある。
特許文献2に開示された方法により接続された接続構造体おいても、接続するために別の線材を張り合わせる構造であるため、特許文献1に開示された方法と同様に、線材に段差が生じてしまう。
【0007】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、段差を発生させることなく接続が可能であり、接続部分の酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材の接続構造体及び酸化物超電導線材の接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の接続構造体は、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされ、この二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去された少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材が、前記露出させたはんだ層同士を一体化して接続されてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の接続構造体は、酸化物超電導層が基材に挟まれるように、超電導積層体が二つ折りにされ、この二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去してなる第1の酸化物超電導線材同士が接続されてなる構成である。
そのため、線材の全体の厚さを厚くすることなく、酸化物超電導層が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材を段差が生じることなく接続された構成を実現できる。
従って、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層が水分によりダメージを受けることがなく、超電導特性が劣化することを防止でき、さらに段差を有しないので、コイル形状に巻線した際、局所劣化が生じることがない。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の接続構造体は、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされ、この二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去されて第1の酸化物超電導線材が構成され、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されて第2の酸化物超電導線材が構成され、前記少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材の前記接続端が対向配置され、
前記第1の酸化物超電導線材の露出されたはんだ層と前記第2の酸化物超電導線材が接続されてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の接続構造体は、接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去してなる2本の第1の酸化物超電導線材に対し、はんだ層露出部分の段差を埋めるように、1本の第2の酸化物超電導線材を接続しているため、線材の全体の厚さを厚くすることなく、酸化物超電導層が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材を段差が生じることなく接続された構成を実現できる。
従って、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層が水分によりダメージを受けることがなく、超電導特性が劣化することを防止でき、さらに段差を有しないので、コイル形状に巻線した際、局所劣化が生じることがない。
【0010】
また、本発明の酸化物超電導線材の接続構造体において、前記酸化物超電導線材は、銀層上に更に金属安定化層が積層されたものとすることもできる。
この場合、酸化物超電導層のはんだ層側の面に銀層と金属安定化層を備える構成となるため、酸化物超電導層を安定化する効果が更に高まる。また、酸化物超電導層のはんだ層側の面が銀層、および金属安定化層により積層される構成となり、さらに効果的に酸化物超電導層への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層が水分によりダメージを受けることがなくなり、超電導特性が劣化することをより確実に防止できる。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の接続構造体は、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、金属安定化層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされて、第3の酸化物超電導線材が構成され、前記第3の酸化物超電導線材の接続端の金属安定化層が、基材の接続端から外方に所定長さ延出されるとともに、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、金属安定化層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされ、接続端近傍の金属安定化層が除去され、露出した銀層上にはんだ層が形成されて、第4の酸化物超電導線材が構成され、
第4の酸化物超電導線材の二つ折り部分に前記第3の酸化物超電導線材の金属安定化層の延出部分が挟まれてはんだ層により接続されてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、酸化物超電導層が基材に挟まれるように、超電導積層体を二つ折りにしてなる第3の酸化物超電導線材と、該第3の酸化物超電導線材の接続端の金属安定化層を介して、超電導積層体を二つ折りにし、接続端近傍の金属安定化層が除去されてなる第4の酸化物超電導線材と、を接続してなる構成であるため、線材の全体の厚さを厚くすることなく、酸化物超電導層が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材を段差が生じることなく接続された構成を実現できる。
従って、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層が水分によりダメージを受けることがなく、超電導特性が劣化することを防止でき、さらに段差を有しないので、コイル形状に巻線した際、局所劣化が生じることがない。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされてなる酸化物超電導線材において、二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去し、第1の酸化物超電導線材を得る第1工程と、前記第1の酸化物超電導線材を少なくとも2本準備し、各々の第1の酸化物超電導線材の接続端について露出させたはんだ層同士を重ねて加熱しはんだ層同士を一体化し、前記第1の酸化物超電導線材同士を接続する第2工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、酸化物超電導層が基材に挟まれるように、超電導積層体を二つ折りにして酸化物超電導線材を得た後、その酸化物超電導線材の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去して得られた第1の酸化物超電導線材同士を接続する構成である。
前記接続方法は、第1の酸化物超電導線材において、基材から銀層までを除去して露出したはんだ層同士を重ねて加熱し、第1の酸化物超電導線材同士を接続する構成であるため、酸化物超電導層が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材を段差が生じることなく接合することができる。
従って、コイル形状に巻線した際、段差による局所劣化が生じることなく、超電導特性に優れた酸化物超電導線材の接続体を提供できる。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされてなる酸化物超電導線材において、二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去し、第1の酸化物超電導線材を得る第1工程と、前記第1の酸化物超電導線材を少なくとも2本準備し、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる第2の酸化物超電導線材を少なくとも1本準備し、前記少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材の前記接続端を対向配置し、前記露出させたはんだ層に対し、前記第2の酸化物超電導線材の銀層を重ねて加熱し、前記少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材と前記少なくとも1本の第2の酸化物超電導線材を接続する第3工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、対向配置した第1の酸化物超電導線材の露出させたはんだ層に対し、前記第2の酸化物超電導線材の銀層を重ねてはんだ層の部分の段差を埋めてから加熱し、前記第1の酸化物超電導線材と第2の酸化物超電導線材を接続する構成であるため、酸化物超電導層が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材を段差が生じることなく接合することができる。
従って、コイル形状に巻線した際、段差による局所劣化が生じることなく、超電導特性に優れた酸化物超電導線材の接続体を提供できる。
【0014】
また、本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、前記酸化物超電導線材が、銀層上に更に金属安定化層が積層されたものとすることもできる。
この場合、酸化物超電導層のはんだ層側の面に銀層と金属安定化層を形成する構成となるため、酸化物超電導層を安定化する効果が更に向上した酸化物超電導線材の接続体を提供できる。
また、酸化物超電導層のはんだ層側の面が銀層、および金属安定化層により積層される構成の酸化物超電導線材の接続体が製造できるため、さらに効果的に酸化物超電導層への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することをより確実に防ぐことができる酸化物超電導線材の接続体を提供できる。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、金属安定化層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされてなる酸化物超電導線材において、接続端側の金属安定化層が基材の外方に突出された第3の酸化物超電導線材を得る第4工程と、
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体の金属安定化層側を、該超電導積層体の幅方向の中間部から長手方向に沿って金属安定化層から基材に達するように溝加工して溝加工部を設け、該溝加工部が設けられた前記金属安定化層側の上面にはんだ層を形成し、該はんだ層が内側となるように、前記溝加工部を介して前記超電導積層体を二つ折りにし、接続端近傍の金属安定化層を除去し、露出した銀層上にはんだ層を形成し、第4の酸化物超電導線材を得る第5工程と、
前記第3の酸化物超電導線材を少なくとも1本準備し、前記第4の酸化物超電導線材を少なくとも1本準備し、第3の酸化物超電導線材の外方に突出された金属安定化層を、前記第4の酸化物超電導線材の露出した銀層上に形成したはんだ層が挟み込むように、重ねて加熱し、前記少なくとも1本の第3の酸化物超電導線材と前記少なくとも1本の第4の酸化物超電導線材を接続する第6工程と、
を備えることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の接続方法は、酸化物超電導層が基材に挟まれるように、超電導積層体を二つ折りにして、接続端側の金属安定化層が基材の外方に突出された第3の酸化物超電導線材を得た後、その第3の酸化物超電導線材の外方に突出された金属安定化層を挟むように、超電導積層体を二つ折りにし、第4の酸化物超電導線材を得ると同時に、前記外方に突出された金属安定化層を介して、第3の酸化物超電導線材と第4の酸化物超電導線材とを接続する構成であるため、酸化物超電導層が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材を段差が生じることなく接合することができる。
従って、コイル形状に巻線した際、段差による局所劣化が生じることなく、超電導特性に優れた酸化物超電導線材の接続体を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接続部分に段差を発生させることなく、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材の接続構造体及び酸化物超電導線材の接続方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る接続構造体の第1実施形態に用いられる酸化物超電導線材を示す断面斜視図である。
【図2】本発明に係る接続構造体の第1実施形態に用いられる超電導積層体を示す断面斜視図である。
【図3】第1実施形態に用いられる酸化物超電導線材の製造方法の一例を説明する図である。
【図4】本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法の第1実施形態の一例を説明する図である。
【図5】本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法の第1実施形態の一例を説明する図である。
【図6】本発明に係る接続構造体の第2実施形態に用いられる超電導積層体を示す断面斜視図である。
【図7】本発明に係る接続構造体の第2実施形態に用いられる酸化物超電導線材を示す断面斜視図である。
【図8】第2実施形態に用いられる酸化物超電導線材の製造方法の一例を説明する図である。
【図9】本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法の第2実施形態の一例を説明する図である。
【図10】本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法の第2実施形態の一例を説明する図である。
【図11】本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法の第3実施形態の一例を説明する図である。
【図12】本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法の第4実施形態の一例を説明する図である。
【図13】本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法の第5実施形態の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の接続方法、及び酸化物超電導線材の接続構造体(以下、接続構造体ということもある。)の実施形態について、図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る接続構造体の第1実施形態に用いられる酸化物超電導線材を示す断面斜視図である。図1に示すように、本実施形態に用いられる酸化物超電導線材10は、酸化物超電導層3を基材1で挟むように、溝加工部11を介して、基材1を二つ折りにしてなる構造となっている。
【0019】
図2は、本発明に係る接続構造体の第1実施形態に用いられる超電導積層体5の断面斜視図である。
図2に示す超電導積層体5は、基材1の上に中間層2と酸化物超電導層3と銀層7が順次積層された構造となっている。
【0020】
<酸化物超電導線材>
基材1は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材1としてニッケル(Ni)合金などに集合組織を導入した配向金属基材を用い、その上に中間層2および酸化物超電導層3を形成してもよい。
基材1の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましい。
【0021】
中間層2は、酸化物超電導層3の結晶配向性を制御し、基材1中の金属元素の酸化物超電導層3への拡散を防止するものである。さらに、基材1と酸化物超電導層3との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材1と酸化物超電導層3との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層2の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物が例示できる。
中間層2は、単層でも良いし、複数層でも良い。
【0022】
さらに、本実施形態において、中間層2は、基材1側に拡散防止層とベッド層が積層された複数層構造でもよい。この場合、基材1とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造となる。拡散防止層は、基材1の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。基材1とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl、ベッド層としてYを用いる組み合わせを例示することができる。
【0023】
また中間層2は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、酸化物超電導層3の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層3を構成する元素の中間層2への拡散や、酸化物超電導層3積層時に使用するガスと中間層2との反応を抑制する機能等を有するものである。
【0024】
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。
【0025】
中間層2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
【0026】
中間層2は、スパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層3やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。
【0027】
酸化物超電導層3は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層3は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層3の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0028】
酸化物超電導層3の上面を覆うように形成されている銀層7は、スパッタ法などの気相法により成膜されており、その厚さを1〜30μm程度とされる。
銀層7を備える構成とする理由としては、銀は良導電性かつ酸化物超電導層3と接触抵抗が低くなじみの良い点、及び、酸化物超電導層3に酸素をドープするアニール工程においてドープした酸素を酸化物超電導層3から逃避し難くする性質を有する点を挙げることができる。
【0029】
本実施形態に用いられる酸化物超電導線材10の詳細は後述するが、図1に示されるように、酸化物超電導線材10は、超電導積層体5の銀層7側に、該超電導積層体5の幅方向の中間部から長手方向に沿って銀層7から基材1に達するように溝加工部11が設けられ、溝加工部11が設けられた銀層7側の上面に被着するようにはんだ層12が積層され、はんだ層12が内側となるように溝加工部11を介して超電導積層体5が二つ折りにされてなる。
すなわち、酸化物超電導線材10は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層7がこの順に積層されてなる超電導積層体5が、銀層7から基材1まで達する溝加工部11を介し、はんだ層12を挟んで二つ折りにされてなる構造となっている。
【0030】
次に図3を参照して、本実施形態に用いられる酸化物超電導線材10の製造方法について説明する。
本実施形態に用いられる酸化物超電導線材10の製造方法は、基材1と、中間層2と、酸化物超電導層3と、銀層7と、がこの順に積層されてなる超電導積層体5を準備する工程Aと、超電導積層体5の銀層7側を、該超電導積層体5の幅方向の中間部から長手方向に沿って銀層7から基材1に達するように溝加工して溝加工部11を設ける工程Bと、溝加工部11が設けられた銀層7側の上面にはんだ層12を形成する工程Cと、はんだ層12が内側となるように、溝加工部11を介して超電導積層体5を二つ折りにする工程Dと、二つ折りにされた超電導積層体5を加熱してはんだ層12を溶融凝固させて超電導積層体5を固定する工程Eと、を備える。
【0031】
まず、前述した超電導積層体5を準備する(工程A)。一例として、基材1上にスパッタ法で拡散防止層とベッド層を形成した後、このベッド層の上にIBAD法で中間層2を形成し、さらにPLD法でキャップ層と酸化物超電導層3を形成し、次に、酸化物超電導層3の上面に銀層7を形成して超電導積層体5を作製する。
銀層7の形成方法は特に限定されず従来公知の方法を適用できるが、気相法により形成することが好ましい。
【0032】
次に、超電導積層体5の銀層7側を、超電導積層体5の幅方向の中間部から長手方向に沿って銀層7から基材1に達するように溝加工して溝加工部11を設ける(工程B)。溝加工部11の形成方法は特に限定されず従来公知の方法を適用できるが、レーザー又は回転刃により形成することが好ましい。図3に示すように、レーザー加工機13を用いる場合には、加工時に超電導積層体5が応力や圧力により変形するおそれがない。レーザーの出力や回転刃の厚さを調整することで容易に溝加工部11の幅及び深さを調整できる。また、超電導積層体5の搬送速度を変えることにより、更に正確な調節が可能となる。
溝加工部11の幅は、20〜100μm程度とされ、溝加工部11の深さは、基材1の厚さの1/3〜1/2程度の深さに達する程度とされる。
溝加工部11を設けずに基材1を二つ折りにすると、酸化物超電導層3の折り曲げ部分に不定形のクラックが多数生じてしまうので、酸化物超電導線材10の超電導特性が劣化してしまう。一方、溝加工部11を設けることにより、超電導積層体5を二つ折りにする際、酸化物超電導層3に不用なクラックが生じないので、超電導特性の劣化を抑制した酸化物超電導線材10を提供することができる。
【0033】
次に溝加工部11が設けられた銀層7側の上面にはんだ層12を形成する(工程C)。はんだ層12の厚さは、20〜30μm程度とされる。はんだ層は、はんだテープを被着させたものであっても、はんだ層を塗布することによって形成したものであってもよい。また、はんだ層の材料として錫、錫−銀系合金や錫−ビスマス系合金等を適宜用いることができる。
【0034】
次にはんだ層12が内側となるように、溝加工部11を介して超電導積層体5を二つ折りにする(工程D)。溝加工部11を介することにより超電導積層体5を折り曲げやすくすることができる。尚、上述したように、折り曲げの観点から基材1の厚さの1/3〜1/2程度の深さに達するように溝加工部11を設けることが好ましい。
【0035】
次に二つ折りにされた超電導積層体5を加熱してはんだ層12を溶融凝固させて超電導積層体5を固定する(工程E)。
以上の工程により、酸化物超電導線材10を製造できる。
【0036】
<酸化物超電導線材の接続構造体>
次に本実施形態の酸化物超電導線材10aの接続方法、及び接続構造体20について説明する。
まず、第1の酸化物超電導線材10aを得る(第1工程)。図3を用いて説明したように、超電導積層体5を二つ折りにし、二つ折りにされた超電導積層体5を加熱してはんだ層12を溶融凝固させて超電導積層体5を固定し、酸化物超電導線材10を製造する。
次いで、図4において、酸化物超電導線材10の接続端21から、長手方向10〜500mmに接続端21と平行に切れ込みを入れ、加熱をし、二つ折りにした酸化物超電導線材10の層全体の半分に相当する基材1から銀層7までを広げる。そして、広げた部分をはんだ層12が露出するように除去し、段差部19を有する第1の酸化物超電導線材10aを作製する。
【0037】
次いで、第1の酸化物超電導線材10aを2本準備し、第1の酸化物超電導線材10aの段差部19のはんだ層12同士を重ねて、段差部19同士を互い違いにして段差を打ち消すように重ねてから加熱し、はんだ層12同士を一体化し、2本の第1の酸化物超電導線材10a同士を接続し、接続部22を形成する(第2工程)。
【0038】
本実施形態においては、2本の第1の酸化物超電導線材10aを、超電導積層体を二つ折りに重ねることにより生じた折り目が同じ側になるように接続しているが、図5に示されるように、第1工程において、二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち除去される部分が、上半分と下半分とで互いに異なる2種類の第1の酸化物超電導線材10a,10a’を用意し、第2工程において、2本の第1の酸化物超電導線材10a,10a’をその折り目が互いに反対側になるように接続する形態とすることもできる。
【0039】
また、第1工程において、酸化物超電導線材10の両端を接続端21とし、両端のはんだ層12を露出させてもよい。本実施形態においては、かかる酸化物超電導線材の両端に、片端のはんだ層12が露出した第1の酸化物超電導線材10aをそれぞれ接続する形態とすることもできる。
また、かかる形態において、用いる酸化物超電導線材の数を適宜調整することにより、更に長尺の接合体を得ることができる。
【0040】
従って、酸化物超電導層3を外部から遮蔽した構成の酸化物超電導線材10を段差が生じることなく接合することができるので、コイル形状に巻線した際、段差のない円周状の円弧を描くことができる。そして、線材に加わる応力は、線材全体に均一にかかるようになるため、局所劣化が生じることなく、超電導特性に優れ、線材の全体の厚さを必要以上に厚くすることなく、酸化物超電導層3を外部から遮蔽した構成の酸化物超電導線材10aの接続体20を提供できる。
また、万一、銀層7の一部が剥離して剥離部が形成され、酸化物超電導層3の一部が露出している場合にも、溶融したはんだ層12により銀層7の剥離部が埋められ、酸化物超電導層3を外部から遮蔽する構造を実現できる。
よって、酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けることがなく、超電導特性の劣化を防止する酸化物超電導線材10aの接続体20を提供できる。
【0041】
また、本実施形態の酸化物超電導線材10aの接続構造体20は、基材1を酸化物超電導層3より外側に位置した構成である。
従って、酸化物超電導層3が基材1により外部から遮蔽された構成を実現できるので、外部からの衝撃によるダメージを受けることがなく、超電導特性が劣化することを防止できる。
【0042】
また、本実施形態の酸化物超電導線材10aの接続構造体20は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層7がこの順に積層されてなる超電導積層体5が、銀層7から基材1まで達する溝加工部11を介し、はんだ層12を挟んで二つ折りにされてなる構成である。そのため、酸化物超電導層3は、酸化物超電導線材10aの中立軸の近くに位置し、引張応力及び圧縮応力を受けにくい。従って、線材を巻胴などに巻回してコイル加工して超電導コイルとする際に、線材の表裏を考慮する必要がないため、本実施形態の接続構造体20を備えた酸化物超電導線材10aを超電導コイルとして好適に用いることができる。
【0043】
さらに、本実施形態の酸化物超電導線材10aの接続構造体20は、上記の如くはんだ層12のみが積層された超電導積層体5を、二つ折りにしてなる構成であるため、線材の小型化が可能であり、線材をコイル加工して超電導コイルとする際にも巻回しに要する時間を短縮でき、取り扱い性が良好である。
【0044】
[第2実施形態]
<酸化物超電導線材>
図6は、本発明に係る接続構造体の第2実施形態に用いられる超電導積層体5Bを示す断面斜視図である。
図6に示す超電導積層体5Bは、基材1の上に、中間層2と、酸化物超電導層3と、銀層7と、を順次積層し、この銀層7上に、金属安定化層8が積層された構造となっている。
また、図7は、本発明に係る接続構造体の第2実施形態に用いられる酸化物超電導線材10Bを示す断面斜視図である。
【0045】
酸化物超電導線材10Bに用いられる超電導積層体5Bは、酸化物超電導線材10に用いられる超電導積層体5の構成に加え、酸化物超電導層3の上面に形成された銀層7の上に金属安定化層8が積層された構成となっている。図7において、上記第1実施形態における酸化物超電導線材10と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0046】
金属安定化層8は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、銀層7とともに、酸化物超電導層3の電流が転流するバイパスとして機能する。
金属安定化層8を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがら銅製が好ましい。
なお、酸化物超電導線材10Bを超電導限流器に使用する場合は、金属安定化層8は抵抗金属材料より構成され、Ni−Cr等のNi系合金などを使用できる。
【0047】
金属安定化層8の形成方法は特に限定されず、例えば、銅などの良導電性材料よりなる金属テープをはんだなどの接合剤を介して銀層7上に積層することにより形成できる。
金属安定化層8の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜300μmとすることが好ましい。下限値以上とすることにより酸化物超電導層3を安定化する一層高い効果が得られ、上限値以下とすることにより酸化物超電導線材10Bを薄型化できる。
【0048】
酸化物超電導線材10Bは、超電導積層体5Bの金属安定化層8側に、該超電導積層体5Bの幅方向の中間部から長手方向に沿って金属安定化層8から基材1に達するように溝加工部11Bが設けられ、溝加工部11Bが設けられた金属安定化層8側の上面に被着するようにはんだ層12が積層され、はんだ層12が内側となるように溝加工部11Bを介して超電導積層体5Bが二つ折りにされてなる。
すなわち、酸化物超電導線材10Bは、はんだ層12と銀層7との間に金属安定化層8が介在されてなる構造となっている。
従って、酸化物超電導線材10Bは、酸化物超電導層が積層された超電導積層体の外周全面に銀の安定化層を設け、さらに銅の安定化層を設けた構造と比較して、線材の全体の厚さが厚くならず、臨界電流密度が低くなってしまうおそれがない。
【0049】
次に図8を参照して、本実施形態に用いられる酸化物超電導線材10Bの製造方法について説明する。
本実施形態に用いられる酸化物超電導線材10Bの製造方法は、まず、前述の第1実施形態に用いられた酸化物超電導線材10の製造方法の工程Aにおいて、銀層7を積層した後に、銀層7上に金属安定化層8を積層して超電導積層体5Bを準備する。
次いで、前述の酸化物超電導線材10の製造方法の工程Bにおいて、超電導積層体5Bの金属安定化層8側を、該超電導積層体5Bの幅方向の中間部から長手方向に沿って銀層7から基材1に達するように溝加工して溝加工部11Bを設ける。
次いで、前述の酸化物超電導線材10の製造方法の工程Cにおいて、溝加工部11Bが設けられた金属安定化層8側の上面にはんだ層12を形成する。
その後、前述の酸化物超電導線材10の製造方法の工程D及び工程Eと同様の工程を行う。
以上の工程により、本実施形態に用いられる酸化物超電導線材10Bを製造できる。
【0050】
工程Aにおいて、金属安定化層8を金属テープの貼り合わせにより形成することができる。金属テープの厚さを調整することで容易に金属安定化層8の厚さを調整できるので、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材10Bとなる。
次いで、工程Bにおいて、超電導積層体5Bの金属安定化層8側を溝加工して溝加工部11Bを設けるが、前述の酸化物超電導線材10の製造方法の第2工程と第3工程の間に、折り曲げ後の超電導積層体5Bの幅と同じ幅の金属テープ2枚を、溝加工部11Bを覆わないように銀層7に貼り合わせてもよい。
【0051】
また、工程Aにおいて、金属安定化層8は、電気めっきによりすることもできる。金属安定化層8を構成する材質としては、良導電性の金属が好ましく、Cu、Alなどが挙げられ、高い導電性を有するためCuが特に好ましい。金属安定化層8の厚さは特に限定されず、適宜変更可能であるが、10〜100μm程度とすることができ、20μm以上100μm以下とすることが好ましく、20μm以上50μm以下とすることがより好ましい。
金属安定化層8の厚さを10μm以上とすることにより酸化物超電導層3を安定化する一層高い効果が得られ、100μm以下とすることにより酸化物超電導線材10Bを薄型化できる。
【0052】
<酸化物超電導線材の接続構造体>
次に、本実施形態の酸化物超電導線材10bの接続方法、及び接続構造体20Bについて説明する。
まず、第1の酸化物超電導線材10bを得る(第1工程)。図8を用いて説明したように、超電導積層体5Bを二つ折りにし、二つ折りにされた超電導積層体5を加熱してはんだ層12を溶融凝固させて超電導積層体5を固定し、酸化物超電導線材10Bを製造する。
次いで、図9において、酸化物超電導線材10Bの接続端21から、長手方向10〜500mmに接続端21と平行に切れ込みを入れ、加熱をし、二つ折りにした酸化物超電導線材10の層全体の半分に相当する基材1から金属安定化層8までを広げる。そして、広げた部分をはんだ層12が露出するように除去し、段差部19を有する第1の超電導積層体10bを作製する。
【0053】
次いで、第1の酸化物超電導線材10bを2本準備し、第1の酸化物超電導線材10bの段差部19のはんだ層12同士を重ねて、段差部19同士を互い違いにして段差を打ち消すように重ねてから加熱し、はんだ層12同士を一体化し、2本の第1の酸化物超電導線材10b同士を接続し、接続部22を形成する(第2工程)。
【0054】
本実施形態においては、2本の第1の酸化物超電導線材10bを、超電導積層体を二つ折りに重ねることにより生じた折り目が同じ側になるように接続しているが、図10に示されるように、第1工程において、二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち除去される部分が、上半分と下半分とで互いに異なる2種類の第1の酸化物超電導線材10b,10b’を用意し、第2工程において、2本の第1の酸化物超電導線材10b,10b’をその折り目が互いに反対側になるように接続する形態とすることもできる。
【0055】
また、第1工程において、酸化物超電導線材10の両端を接続端21とし、両端のはんだ層12を露出させてもよい。本実施形態においては、かかる酸化物超電導線材の両端に、片端のはんだ層12が露出した第1の酸化物超電導線材10bをそれぞれ接続する形態とすることもできる。
また、かかる形態において、用いる酸化物超電導線材の数を適宜調整することにより、更に長尺の接合体を得ることができる。
【0056】
本実施形態の酸化物超電導線材10bの接続方法は、酸化物超電導層3のはんだ層12側の面に銀層7と金属安定化層8を形成する構成となるため、酸化物超電導層3を安定化する効果が更に向上した酸化物超電導線材10bの接続体20Bを提供できる。
また、酸化物超電導層3のはんだ層12側の面が銀層7、および金属安定化層8により積層される構成の酸化物超電導線材10bの接続体20Bが製造できるため、さらに効果的に酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することをより確実に防ぐことができる酸化物超電導線材10bの接続体20Bを提供できる。
【0057】
本実施形態の酸化物超電導線材10bの接続方法は、前述した酸化物超電導線材10bの製造方法の工程Aにおいて、銀層7上に金属テープを貼り合わせることにより、又は銀層7を金属でめっきするにより銀層7上に金属安定化層8を積層する工程を有する構成とすることもできる。
金属安定化層8を金属テープの貼り合わせにより形成する場合、金属テープの厚さを調整することで容易に金属安定化層8の厚さを調整できるので、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材10bを製造することができる。また、金属安定化層8をめっきにより形成する場合、銀層7の表面を覆うように金属安定化層8を形成する工程を有する構成となる。そのため、超電導積層体5Bを外部からより効果的に遮蔽することができるので、水分による酸化物超電導層3の劣化をさらに確実に抑制する酸化物超電導線材10bの接続体20を提供できる。
【0058】
[第3実施形態]
<酸化物超電導線材の接続構造体>
次に図11を参照して、本実施形態の酸化物超電導線材10aの接続方法、及び接続構造体20Cについて説明する。
第1実施形態と同様に、第1の酸化物超電導線材10aを2本準備するとともに、基材1と、中間層2と、酸化物超電導層3と、銀層7と、がこの順に積層されてなる第2の酸化物超電導線材10cを1本準備する。第2の酸化物超電導線材10cは、上述した超電導積層体5と同様の層構造である。第2の酸化物超電導線材10cの長手方向の長さは、対向配置した2本の第1の酸化物超電導線材10aにおいて、はんだ層12が露出するように除去した部分に相当する長さであり、20〜1000mmである。
次いで、第1の酸化物超電導線材10aの接続端21(先端)同士をそれらの段差部19が対向するように配置する。そして、第1の酸化物超電導線材10aにおいて露出させたはんだ層12に対し、第2の酸化物超電導線材10cの銀層7を段差部19,19の部分を埋めるように重ねて加熱し、2本の第1の酸化物超電導線材10aと1本の第2の酸化物超電導線材10cを接続し、接続部22a,22b,22cを一体化する(第3工程)。
【0059】
また、第1工程において、酸化物超電導線材10の両端を接続端21とし、両端のはんだ層12を露出させてもよい。本実施形態においては、片端のはんだ層12が露出した第1の酸化物超電導線材と、両端のはんだ層12が露出した酸化物超電導線材と、第2の酸化物超電導線材とを組み合わせた形態とすることもできる。
また、かかる形態において、用いる酸化物超電導線材の数を適宜調整することにより、更に長尺の接合体を得ることができる。
【0060】
本実施形態の酸化物超電導線材10aの接続方法は、上述のように段差部19,19を酸化物超電導線材10cで埋めるように接続したため、酸化物超電導層3が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材10aを段差が生じることなく接合することができる。
従って、コイル形状に巻線した際、段差による局所劣化が生じることなく、超電導特性に優れた酸化物超電導線材の接続体20Cを提供できる。
【0061】
本実施形態によれば、先の実施形態と同じように酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けることがなく、超電導特性が劣化することを防止でき、さらに段差を有しないので、コイル形状に巻線した際、段差のない円周状の円弧を描くことができ、線材に加わる応力は、線材全体に均一にかかるようになるため局所劣化が生じることがない。
【0062】
[第4実施形態]
<酸化物超電導線材の接続構造体>
次に図12を参照して、本実施形態の酸化物超電導線材10bの接続方法、及び接続構造体20Dについて説明する。
本実施形態の酸化物超電導線材10bの接続方法は、図8を用いて説明した酸化物超電導線材10Bの製造方法により得られた酸化物超電導線材10Bを用いて、第1の酸化物超電導線材10bを2本準備し、更に基材1と、中間層2と、酸化物超電導層3と、銀層7と、金属安定化層8、とがこの順に積層されてなる第2の酸化物超電導線材10dを1本準備し、第1の酸化物超電導線材10bの接続端21同士をそれらの段差部19,19が並ぶように対向配置し、露出させたはんだ層12に対し、第2の酸化物超電導線材10dの金属安定化層8を重ねて加熱し、2本の第1の酸化物超電導線材10bと1本の第2の酸化物超電導線材10dを接続する第3工程を有する。
【0063】
第3工程により、2本の第1の酸化物超電導線材10bと1本の第2の酸化物超電導線材10dを接続し、接続部22d,22e,22fを形成する(第3工程)。
【0064】
本実施形態の酸化物超電導線材10bの接続方法は、酸化物超電導層3のはんだ層12側の面に銀層7と金属安定化層8を形成する構成となるため、酸化物超電導層3を安定化する効果が更に向上した酸化物超電導線材10bの接続体20Dを提供できる。
【0065】
本実施形態の酸化物超電導線材10bの接続構造体20Dは、酸化物超電導層3のはんだ層12側の面に銀層7と金属安定化層8を備える構成となるため、酸化物超電導層3を安定化する効果が更に高まる。また、酸化物超電導層3のはんだ層12側の面が銀層7、および金属安定化層8により積層される構成となり、さらに効果的に酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けることがなくなり、超電導特性が劣化することをより確実に防止できる。
【0066】
[第5実施形態]
<酸化物超電導線材の接続構造体>
次に図13を参照して、本実施形態の酸化物超電導線材10eの接続方法、及び接続構造体20Eについて説明する。
まず、第3の酸化物超電導線材10eを得る(第4工程)。第3の酸化物超電導線材10eは、図7を用いて説明した酸化物超電導線材10Bにおいて、第4の酸化物超電導線材10fと接続するための金属安定化層8eを有するものである。図13に示されるように、金属安定化層8eは、酸化物超電導線材10eの接続端21e側から基材1の外方に突出されてなる。
【0067】
次いで、第4の酸化物超電導線材10fを得る(第5工程)。第4の酸化物超電導線材10fは図7を用いて説明した酸化物超電導線材10Bにおいて、溝加工部11を介して超電導積層体5Bを二つ折りにした後、接続端21eから、長手方向10〜500mmに接続端21eと平行に切れ込みを入れ、加熱をし、二つ折りにした酸化物超電導線材10Bの層全体の半分に相当する基材1から金属安定化層8までを広げ、広げた部分のうち、金属安定化層8を銀層7が露出するように除去し、露出した銀層7上にはんだ層12を形成してなるものである。
【0068】
次いで、第3の酸化物超電導線材10eを1本準備し、第4の酸化物超電導線材10fを1本準備し、第3の酸化物超電導線材10eの外方に突出された金属安定化層8eを、第4の酸化物超電導線材10fのはんだ層12が挟み込むように、重ねて加熱し、1本の第3の酸化物超電導線材10eと1本の第4の酸化物超電導線材10fを接続し、接続部22g,22hを形成する(第6工程)。
【0069】
また、第4工程において、第3の酸化物超電導線材10eの両端が金属安定化層8eを有していてもよい。本実施形態においては、2本の第4の酸化物超電導線材10fを準備し、対向配置し、両端の金属安定化層8eを挟むようにして接続する形態とすることもできる。
【0070】
また、第5工程において、超電導積層体5Bの代わりに、超電導積層体5を用いてもよい。即ち、第4の酸化物超電導線材10fとして、最初から金属安定化層8を有さないものを用いてもよい。
かかる場合、第4の酸化物超電導線材10fは、溝加工部11を介して超電導積層体5を二つ折りにする際、第4の酸化物超電導線材10fのはんだ層12が内側となり、第3の酸化物超電導線材10eの外方に突出された金属安定化層8eを挟むように、二つ折りにされてなるものである(図13参照)。
次いで、第6工程において、第3の酸化物超電導線材10eを1本準備し、第4の酸化物超電導線材10fを1本準備し、第3の酸化物超電導線材10eの外方に突出された金属安定化層8eを、第4の酸化物超電導線材10fのはんだ層12が挟み込むように、重ねて加熱し、1本の第3の酸化物超電導線材10eと1本の第4の酸化物超電導線材10fを接続し、接続部22g、22hを形成する形態としてもよい。
【0071】
このように、本実施形態の酸化物超電導線材の接続方法は、基材1から金属安定化層8までを有する第3の酸化物超電導線材10eと、基材1から銀層7までを有する第4の酸化物超電導線材10fとを、外方に突出された金属安定化層8eを介して接続する構成であり、金属安定化層8eと第4の酸化物超電導線材10fが同じ長さであれば、酸化物超電導層3が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材を段差が生じることなく接続することができる。
従って、コイル形状に巻線した際、段差による局所劣化が生じることなく、超電導特性に優れた酸化物超電導線材の接続体20Eを提供できる。
【0072】
本実施形態の酸化物超電導線材の接続構造体20Eは、酸化物超電導層3が基材1に挟まれるように、超電導積層体5Dを二つ折りにしてなる第3の酸化物超電導線材10eと、第3の酸化物超電導線材10eの有する外方に突出された金属安定化層8eを介して、金属安定化層8を除去してなる第4の酸化物超電導線材10fと、を接続してなる構成であるため、そのため、線材の全体の厚さを厚くすることなく、酸化物超電導層3が外部から遮蔽された構成の酸化物超電導線材10eを段差が生じることなく接続された構成を実現できる。
従って、酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けることがなく、超電導特性が劣化することを防止でき、さらに段差を有しないので、コイル形状に巻線した際、段差のない円周状の円弧を描くことができ、線材に加わる応力は、線材全体に均一にかかるようになるため局所劣化が生じることがない。
【0073】
以上、本発明の酸化物超電導線材の接続方法及び酸化物超電導線材の接続構造体について説明したが、上記実施形態は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えばエネルギー貯蔵機、変圧器、モーター、発電機など、各種電力機器に用いられる酸化物超電導線材に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…基材、2…中間層、3…酸化物超電導層、5、5B、5D…超電導積層体、7…銀層、8、8e…金属安定化層、10、10B、10a、10a’、10b、10b’、10c、10d、10e、10f…酸化物超電導線材、11、11B…溝加工部、12…はんだ層、19…段差部、20、20B、20C、20D、20E…酸化物超電導線材の接続構造体、21、21e…接続端、22、22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h…接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされ、この二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去された少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材が、前記露出させたはんだ層同士を一体化して接続されてなることを特徴とする酸化物超電導線材の接続構造体。
【請求項2】
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされ、この二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去されて第1の酸化物超電導線材が構成され、
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されて第2の酸化物超電導線材が構成され、
前記少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材の前記接続端が対向配置され、
前記第1の酸化物超電導線材の露出されたはんだ層と前記第2の酸化物超電導線材が接続されてなることを特徴とする酸化物超電導線材の接続構造体。
【請求項3】
前記酸化物超電導線材は、銀層上に更に金属安定化層が積層されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物超電導線材の接続構造体。
【請求項4】
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、金属安定化層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされて、第3の酸化物超電導線材が構成され、
前記第3の酸化物超電導線材の接続端の金属安定化層が、基材の接続端から外方に所定長さ延出されるとともに、
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、金属安定化層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされ、接続端近傍の金属安定化層が除去され、露出した銀層上にはんだ層が形成されて、第4の酸化物超電導線材が構成され、
第4の酸化物超電導線材の二つ折り部分に前記第3の酸化物超電導線材の金属安定化層の延出部分が挟まれてはんだ層により接続されてなることを特徴とする酸化物超電導線材の接続構造体。
【請求項5】
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされてなる酸化物超電導線材において、二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去し、第1の酸化物超電導線材を得る第1工程と、
前記第1の酸化物超電導線材を少なくとも2本準備し、各々の第1の酸化物超電導線材の接続端について露出させたはんだ層同士を重ねて加熱しはんだ層同士を一体化し、前記第1の酸化物超電導線材同士を接続する第2工程と、
を備えることを特徴とする酸化物超電導線材の接続方法。
【請求項6】
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、銀層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされてなる酸化物超電導線材において、二つ折りに重ねられた超電導積層体のうち一方の接続端近傍の基材から銀層までをはんだ層が露出するように除去し、第1の酸化物超電導線材を得る第1工程と、
前記第1の酸化物超電導線材を少なくとも2本準備し、基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、がこの順に積層されてなる第2の酸化物超電導線材を少なくとも1本準備し、前記少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材の前記接続端を対向配置し、前記露出させたはんだ層に対し、前記第2の酸化物超電導線材の銀層を重ねて加熱し、前記少なくとも2本の第1の酸化物超電導線材と前記少なくとも1本の第2の酸化物超電導線材を接続する第3工程と、
を備えることを特徴とする酸化物超電導線材の接続方法。
【請求項7】
前記酸化物超電導線材は、銀層上に更に金属安定化層が積層されたものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の酸化物超電導線材の接続方法。
【請求項8】
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体が、金属安定化層から基材まで達する溝加工部を介し、はんだ層を挟んで二つ折りにされてなる酸化物超電導線材において、接続端側の金属安定化層が基材の外方に突出された第3の酸化物超電導線材を得る第4工程と、
基材と、中間層と、酸化物超電導層と、銀層と、金属安定化層と、がこの順に積層されてなる超電導積層体の金属安定化層側を、該超電導積層体の幅方向の中間部から長手方向に沿って金属安定化層から基材に達するように溝加工して溝加工部を設け、該溝加工部が設けられた前記金属安定化層側の上面にはんだ層を形成し、該はんだ層が内側となるように、前記溝加工部を介して前記超電導積層体を二つ折りにし、接続端近傍の金属安定化層を除去し、露出した銀層上にはんだ層を形成し、第4の酸化物超電導線材を得る第5工程と、
前記第3の酸化物超電導線材を少なくとも1本準備し、前記第4の酸化物超電導線材を少なくとも1本準備し、第3の酸化物超電導線材の外方に突出された金属安定化層を、前記第4の酸化物超電導線材の露出した銀層上に形成したはんだ層が挟み込むように、重ねて加熱し、前記少なくとも1本の第3の酸化物超電導線材と前記少なくとも1本の第4の酸化物超電導線材を接続する第6工程と、
を備えることを特徴とする酸化物超電導線材の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−37991(P2013−37991A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174903(P2011−174903)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】