説明

酸廃液の処理方法及び処理装置

【課題】ケイフッ酸を含む酸廃液からの酸の回収を、効率及び酸の純度のバランス良く行うことができる方法及び装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る酸廃液の処理方法は、ケイフッ酸及び他の酸を含む酸廃液を第1ナノろ過膜33に通す工程と、第1ナノろ過膜33で分離された濃縮液を第2ナノろ過膜36に通す工程と、第2ナノろ過膜36で分離された透過液を、酸廃液とともに第1ナノろ過膜33に通し、分離された透過液を回収する工程と、を有する。酸回収路39から回収した透過液は、酸使用部20において再利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイフッ酸を含む酸廃液を処理し、有益な酸を回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多結晶太陽電池のシリコン表面処理、シリコンウエハの製造過程での表面物理ダメージ層の除去、ポリシリコンの表面洗浄等において、フッ酸及び硝酸等の酸溶液が用いられている。これらの工程を経る過程で、フッ酸及び硝酸等の一部は消費され、ケイフッ酸等の副生成物を生じる。劣化した酸溶液(以下、酸廃液という)は、処理能力が低下しているため、新しい酸溶液と交換しなければならない。
【0003】
このため、酸廃液から、拡散透析法、イオン交換樹脂法又は電気透析法を用いて酸廃液中の副生成物を除去することで、酸溶液を回収し、再利用している。しかし、フッ酸及び硝酸等の多くは環境負荷が大きいため、十分な処理を行う必要がある。そこで、従来、酸廃液をナノろ過膜(NF)に通し、ナノろ過膜を透過したフッ酸及び硝酸等の酸を含む液を回収し、ケイフッ酸等を含む濃縮液を廃棄することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−320824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ケイフッ酸等の除去すべき物質は、フッ酸及び硝酸等の酸の多くに比べるとナノろ過膜を透過しにくい性質を有するが、完全には阻止されない。このため、フッ酸及び硝酸等の酸の回収効率を高めるために、ナノろ過膜での濃縮倍率を上げると、透過液中のケイフッ酸量も増してしまい、高純度の酸を回収することができない。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、ケイフッ酸を含む酸廃液からの酸の回収を、効率及び酸の純度のバランス良く行うことができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、酸廃液のナノろ過膜による濃縮液を別のナノろ過膜に通した透過液を、酸廃液とともにナノろ過膜に通すことで、ケイフッ酸の混入量の増加を抑制しながら、従来は廃棄されてきた酸が回収されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 酸廃液を処理する方法であって、
ケイフッ酸及び他の酸を含む酸廃液を第1ナノろ過膜に通す工程と、
前記第1ナノろ過膜で分離された濃縮液を第2ナノろ過膜に通す工程と、
前記第2ナノろ過膜で分離された透過液を、前記酸廃液とともに前記第1ナノろ過膜に通し、分離された透過液を回収する工程と、を有する方法。
【0009】
(2) 前記第1ナノろ過膜又は前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液にカリウム塩を添加し、生成されるケイフッ酸カリウムを含む沈殿を分離する工程を更に有する(1)記載の方法。
【0010】
(3) 前記カリウム塩が添加された濃縮液を冷却した後に、前記沈殿を分離する(2)記載の方法。
【0011】
(4) 前記濃縮液を回収した後の前記沈殿を冷却し、前記沈殿から排除された水を分離する工程を更に有する(2)又は(3)記載の方法。
【0012】
(5) 前記沈殿が分離された濃縮液を回収する工程を更に有する(2)から(4)いずれか記載の方法。
【0013】
(6) 前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液の濃縮度を検出し、前記濃縮度が規定値に達したと判断した時点で、前記濃縮液を廃棄する(1)から(4)いずれか記載の方法。
【0014】
(7) 酸廃液を処理する装置であって、
第1ナノろ過膜と、前記第1ナノろ過膜に、ケイフッ酸及び他の酸を含む酸廃液を供給する廃液供給手段と、を有する第1分離手段と、
第2ナノろ過膜と、前記第2ナノろ過膜に、前記第1ナノろ過膜で分離された濃縮液を供給する濃縮液供給手段と、を有する第2分離手段と、
前記第2ナノろ過膜で分離された透過液を、前記第1ナノろ過膜の供給側に戻す還流手段と、
前記第1分離手段で分離された透過液を回収する酸回収手段と、を備える装置。
【0015】
(8) 前記第1ナノろ過膜又は前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液にカリウム塩を添加する添加手段と、
生成されるケイフッ酸カリウムを含む沈殿を分離する固液分離手段と、を更に備える(7)記載の装置。
【0016】
(9) 前記固液分離手段又はその上流に位置し、前記カリウム塩が添加された濃縮液を冷却する濃縮液冷却手段を更に備える(8)記載の装置。
【0017】
(10) 前記濃縮液を回収した後の前記沈殿を冷却する沈殿冷却手段と、
前記沈殿冷却手段の冷却により沈殿から排除された水を分離する水分離手段と、を更に備える(8)又は(9)記載の装置。
【0018】
(11) 前記固液分離手段により沈殿が分離された濃縮液を回収する濃縮液回収手段を更に備える(8)から(10)いずれか記載の装置。
【0019】
(12) 前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液の濃縮度を検出する検出手段と、
前記濃縮度が規定値に達したとの判断に基づき、前記濃縮液を廃棄する廃棄手段と、を更に備える(7)から(11)いずれか記載の装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1ナノろ過膜による濃縮液を第2ナノろ過膜に通し、第2ナノろ過膜で分離された透過液を酸廃液とともに第1ナノろ過膜に通し、その透過液を回収する。これにより、第1ナノろ過膜による濃縮倍率を増加させることなく、酸を回収できるため、ケイフッ酸を含む酸廃液からの酸の回収を、効率及び酸の純度のバランス良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る酸廃液の処理装置を含むシステムのブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る酸廃液の処理装置の一部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明するが、これに本発明が限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る酸廃液の処理装置30を含むシステム10のブロック図である。システム10は、酸溶液を用いる酸使用部20と、酸使用部20により使用された後の酸廃液を処理する処理装置30と、を備える。各要素の詳細を以下説明する。
【0024】
酸使用部20は、多結晶太陽電池のシリコン表面処理、シリコンウエハの製造過程での表面物理ダメージ層の除去、ポリシリコンの表面洗浄等を行う使用装置21を有する。本実施形態における使用装置21の上流には、第一の酸を供給する第一供給部23、第二の酸を供給する第二供給部25が設けられ、これら第一供給部23、第二供給部25から、種々の処理に用いる第一の酸及び第二の酸が供給される。
【0025】
第一の酸及び第二の酸としては、特に限定されず、例えば、フッ酸、硝酸、酢酸、硝酸、塩酸、有機酸等が挙げられ、本実施形態ではフッ酸及び硝酸である。本実施形態では、第一の酸及び第二の酸を別々に保管し、使用直前に混合するが、これに限られず、予め混合して保管してもよい。また、本実施形態では、複数の酸のみを供給するが、これに限られず、1種の酸のみを供給する場合もあり得る。
【0026】
使用装置21において酸が使用されると、酸の一部は消費され、副生成物を生じる。このように酸の残部と副生成物を含む酸廃液は、排出路27を経て、使用装置21から排出される。例えば、酸がフッ酸及び硝酸であり、使用装置21でシリコンウエハの表面のエッチング等を行った場合、ケイフッ酸(HSiF)が副生成物として生じる。
【0027】
処理装置30は、酸使用部20から排出された酸廃液を処理し、酸を回収するものである。具体的に、排出路27からの酸廃液は、まず酸廃液槽31に一時的に貯留され、やがてポンプ321の出力に応じ、酸廃液供給路32を通じて、第1ナノろ過膜33へと圧送される。第1ナノろ過膜33は、小分子である第一の酸及び第二の酸を透過させやすい一方、ケイフッ酸(酸廃液中では重合して存在するため、分子量が大きい)を透過させにくい。このため、第1ナノろ過膜33により分離される透過液には、酸廃液よりも高濃度の第一の酸及び第二の酸が含まれる一方、濃縮液には、酸廃液よりも高濃度のケイフッ酸が含まれる。なお、酸廃液供給路32、ポンプ321及び第1ナノろ過膜33は、第1分離手段を構成する。
【0028】
第1ナノろ過膜33の分画分子量は、大きすぎると、ケイフッ酸等の副生成物も透過させやすくなる一方、小さすぎると、第一の酸及び第二の酸も透過しにくくなるため、所望の分離性能が得られにくい。従って、第1ナノろ過膜33の分画分子量は、第一の酸、第二の酸、及び副生成物の分子量等に応じ、適宜設定され、例えば200〜1000程度であってよい。
【0029】
硝酸15%、フッ酸2.5%、ケイフッ酸5%を含む酸廃液を、通水量15L/分で、分画分子量が200、1000であるスパイラル型4インチモジュールのナノろ過膜に通したときの分離性能を表1に示す。なお、表1における透過流束は、送圧力3MPa、30℃での値である。
【0030】
【表1】

【0031】
第1ナノろ過膜33で分離された濃縮液は、濃縮液槽34に送られ、一時的に貯留された後、ポンプ351の出力に応じ、濃縮液供給路35を通じて、第2ナノろ過膜36へと圧送される。第2ナノろ過膜36も、第1ナノろ過膜33と同様の特性を有しているため、第2ナノろ過膜36により分離される透過液には、第1ナノろ過膜33の濃縮液よりも高濃度の第一の酸及び第二の酸が含まれる一方、濃縮液には、第1ナノろ過膜33の濃縮液よりも高濃度のケイフッ酸が含まれる。なお、濃縮液供給路35、ポンプ351及び第2ナノろ過膜36は、第2分離手段を構成する。
【0032】
本発明では、第2ナノろ過膜36で分離された透過液が、還流手段としての還流路37を通して、第1ナノろ過膜33の供給側に戻される。これにより、第1ナノろ過膜33の濃縮液に残存していた第一の酸及び第二の酸が、第1ナノろ過膜33を再び透過し、第1ナノろ過膜33の透過液に含まれる。このようにして得られる第1ナノろ過膜33の透過液は、酸回収手段としての酸回収路39を通じて、処理装置30から回収され、酸使用部20において再利用されることになる。
【0033】
第1ナノろ過膜33で分離された透過液は、更に別途設けられた第3ナノろ過膜で処理し、第3ナノろ過膜の透過液を回収してもよい。この場合、第3ナノろ過膜の濃縮液は、第1ナノろ過膜33の供給側に戻される。
【0034】
第1ナノろ過膜33における濃縮倍率を上げることで、第1ナノろ過膜33の透過液中の第一の酸及び第二の酸を増加させようとすると、第1ナノろ過膜33の透過液にケイフッ酸等の副生成物も多量に混入してしまう。これに対し、本発明のように、第1ナノろ過膜33とは別の第2ナノろ過膜36による透過液を回収する場合、第1ナノろ過膜33における濃縮倍率を上げなくても、第1ナノろ過膜33の濃縮液に残存する第一の酸及び第二の酸が回収されるため、ケイフッ酸を含む酸廃液からの酸の回収を、効率及び酸の純度のバランス良く行うことができる。
【0035】
第2ナノろ過膜36で分離された透過液を戻す箇所は、第1ナノろ過膜33の供給側であれば、特に限定されない。なお、本実施形態は、第1ナノろ過膜33に供給される液の組成、ひいては第1ナノろ過膜33による透過液の組成の急激な変化を抑制し、透過液を再利用する酸使用部20による製造品質コントロールを容易にできる点で好ましい。
【0036】
本実施形態において、第2ナノろ過膜36で分離された濃縮液は、切替弁381により、一部が濃縮液回収路38を通じて濃縮液槽34の供給側、例えば濃縮液槽34に戻されて、濃縮液中に残存する第一の酸及び第二の酸の回収に供され、残部は、好ましくは更なる処理を経た後、廃棄される。廃棄物処理装置40について、図2を参照しながら説明する。
【0037】
廃棄物処理装置40は、切替弁381から延びる濃縮液導入路41を有し、この濃縮液導入路41には、ケイフッ酸を多量に含み、廃棄対象になる濃縮液が流通している。しかし、濃縮液には、依然として第一の酸及び第二の酸が残存しており、環境負荷の低減等の観点から、これらを廃棄物から除去することが好ましい。
【0038】
そこで、本実施形態では、添加手段としての添加部42からカリウム塩が濃縮液へと添加され、固液分離手段としての沈殿槽44へと導入される。カリウム塩が添加されると、濃縮液に含まれる硝酸イオン及びフッ化物イオンとは析出物を生じにくい(硝酸カリウム及びフッ化カリウムの溶解度が高い)一方、ケイフッ酸との反応体であるケイフッ化カリウムは溶解度が低く、不溶化する。このような溶解度の差は、カリウム塩について顕著であり、ナトリウム塩の部分的な代用又は併用も可能ではあるが、カリウム塩の単独使用が最も好ましい。カリウム塩及びナトリウム塩の水溶解度を対比して、表2及び3に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
沈殿槽44は、撹拌装置(撹拌軸と、回転モータとを有する)を備えており、沈殿槽44内の濃縮液を撹拌することで、ケイフッ化カリウムの生成を促進させる。生成したケイフッ化カリウムはやがて沈殿し、この沈殿物を、硝酸塩及びフッ化物塩の多くが溶存する上澄み液と分離する。
【0042】
沈殿物は、そのまま廃棄してもよいが、多くの水を含むゲル状であるため、環境負荷低減及び水中の酸の分離の観点から、脱水機46において脱水させた後に汚泥として廃棄されることが好ましい。脱水機46で分離された水は、沈殿槽44で分離された上澄み液と合流されてよい。
【0043】
本実施形態に係る廃棄物処理装置40は、濃縮液冷却手段としての冷却部43を有する。不溶化物であるゲル体は、低温下において容量が小さくなる性質を有するため、冷却部43により冷却されると、水の取り込み量が小さいゲルを形成しやすい。冷却は、特に限定されないが、濃縮液の温度を10℃以下へと低下させることが好ましい。
【0044】
冷却部の設置箇所は、図1のように添加部42の下流であることが好ましく、これにより、濃縮液へのカリウム塩の添加時に生じ得る熱(例えば、中和熱)にかかわらず、ゲルの雰囲気を低温に維持することができる。ただし、冷却部を添加部42よりも上流に設置してもよく、この場合、カリウム塩の種類を適宜選択したり、発生熱を考慮して十分な程度に冷却したりすることが好ましい。また、冷却部は、沈殿槽44に併設することもできる。
【0045】
別の態様における廃棄物処理装置40は、沈殿を冷却する沈殿冷却手段を備える(図示せず)。沈殿冷却手段により冷却されると、沈殿であるゲル体から水が排除され、この水は水分離手段(図示せず)により沈殿から分離する。かかる態様は、図2の態様に比べ、冷却対象から上澄み液が除かれているため、冷却に必要なエネルギーが少なくて済む点で好ましい。ただし、濃縮液の冷却と、沈殿の冷却とを併せて行ってもよい。
【0046】
上澄み液及び沈殿から分離された水は、放出路47を通じて沈殿槽44から放出され、必要に応じてろ過等で異物が除去された後、回収することが好ましい。かかる水は、ケイフッ酸が除去される一方、第一の酸及び第二の酸を含むため、再利用に有用である。再利用する場合、その水は、酸回収路39に直接合流させてもよく、酸廃液槽31又は酸廃液供給路32に戻してもよい。
【0047】
図2に戻って、添加部42により添加するカリウム塩は、特に限定されず、任意の水溶性の塩であってよい。ただし、上澄み液及び沈殿から分離した水を再利用する場合には、元来使用された酸溶液に存在するイオンとのカリウム塩であることが好ましく、具体的には、水酸化カリウム、硝酸カリウム、フッ化カリウムが挙げられ、中でも水酸化カリウムが安価な点で好ましい。
【0048】
図1に戻って、第2ナノろ過膜36の濃縮液を回収するか、廃棄するかの判断は、第2ナノろ過膜36の濃縮液の組成に応じて行うことが好ましい。具体的に、センサ383が第2ナノろ過膜36の濃縮液の濃縮度を検出し、そのデータを制御装置50の制御部51に送信する。制御部51は、濃縮度が規定値に達したか否かを判断し、達していないと判断される間は、濃縮液を濃縮液回収路38へと流出させる一方、達したと判断した場合には、切替弁381を切替え、濃縮液を廃棄物処理装置40へと排出する。これにより、酸廃液の組成が変わる等により、第2ナノろ過膜36への導入液の組成が変動(例えば、酸の濃度が低下)しても、第一の酸及び第二の酸が十分に回収されずに廃棄されてしまうことを抑制できる。なお、切替弁381は、コントロール弁等で代替してもよい。
【0049】
濃縮度は、それに相関する、濃縮液の比重、導電率、誘電率、吸光度、超音波音速等を測定することで検出することができる。中でも簡便に測定できる点で、比重が好ましい。いずれのパラメータも、濃縮度と正の相関を有する。
【0050】
このようにして回収された第1ナノろ過膜33の透過液は、前述のように酸回収路39を通じて、再び酸使用部20へと供給される。本実施形態では、酸回収路39の途中にセンサ391が設けられており、このセンサ391は透過液中の第一の酸及び第二の酸の濃度を検出し、制御部51へと送信する。制御部51は、第一の酸及び第二の酸の濃度が必要量に比べて不足する場合には、不足する量の第一の酸及び第二の酸を補うように第一供給部23及び第二供給部25を制御する。これにより、酸使用部20において再利用される酸溶液は、常に所望の濃度で第一の酸及び第二の酸を含むため、酸使用部20における製造品質を良好に調節することができる。また、図示はしないが、濃度調整槽を設け、この濃度調整槽で第一の酸及び第二の酸の濃度を調整してもよい。
【実施例】
【0051】
<実施例1>
図1に示すシステム10を用い、太陽電池工程から排出された硝酸15%、フッ酸2.5%(第一の酸及び第二の酸)、ケイフッ酸5%を含む酸廃液を処理した。なお、第1ナノろ過膜33及び第2ナノろ過膜36としては、分画分子量が1000であるスパイラル型4インチモジュールのナノろ過膜「MPS−36」(KOCH社製)を用いた。第1ナノろ過膜33及び第2ナノろ過膜36による濃縮液及び透過液中の酸及びケイフッ酸の量を表4に示す。なお、測定は、各液の組成が安定化した、処理開始3時間後において行った。
【0052】
(比較例1)
分画分子量が1000であるスパイラル型4インチモジュールのナノろ過膜「MPS−36」(KOCH社製)1つに、実施例1で処理したものと同じ組成の酸廃液を通した。ナノろ過膜による濃縮液及び透過液中の酸及びケイフッ酸の量を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
表4に示されるように、実施例1において回収される透過液(1段目)は、比較例1における透過液に比べ、回収すべき硝酸及びフッ酸の量は同等ながらも、除去すべきケイフッ素酸の量は大幅に減っていた。これにより、第1ナノろ過膜による濃縮液を第2ナノろ過膜に通し、分離された透過液を酸廃液とともに第1ナノろ過膜に通し、その透過液を回収することで、ケイフッ酸を含む酸廃液からの酸の回収を、効率及び酸の純度のバランス良く行うことができることが分かった。
【0055】
<実施例2>
実施例1における2段目の濃縮液に、添加部42から水酸化カリウム水溶液(48%)を添加し、冷却部43により濃縮液を30℃から5℃へと冷却した。また、比較として、水酸化カリウムを添加せず、濃縮液を30℃から5℃へと冷却するのみを行った。
【0056】
前者において、沈殿槽44で回収した上澄み液における酸及びケイフッ酸の量を測定したところ、硝酸は13質量%、フッ酸は1.6質量%と、希釈による小幅の低下にとどまったのに対し、ケイフッ酸は0.1質量%へと顕著に低下した。これに対し、後者では、析出物が生じず、ケイフッ酸の量に低下は確認されなかった。これにより、第2ナノろ過膜で分離された濃縮液にカリウム塩を添加し、生成されるケイフッ酸カリウムを含む沈殿を分離することで、ケイフッ酸が顕著に分離された酸を回収できることが分かった。
【0057】
<実施例3>
冷却部43による冷却は行わず、沈殿槽44から一旦上澄み液を排出した後、残る沈殿に対し冷却を行った点を除き、実施例2と同様の手順を行った。この場合、冷却時の沈殿槽44内の収容物の容積が実施例2の約半分であり、5℃に冷却するのに必要なエネルギーも実施例2に比べ約半分で済んだ。
【0058】
<実施例4>
処理の途中で、第1ナノろ過膜33に導入する酸廃液の組成を、硝酸15%、フッ酸2.5%、ケイフッ酸2.5%に変更した点を除き、実施例1と同様の手順で処理を行った。すると、第1ナノろ過膜33による濃縮液中のケイフッ酸の量が10%に減った結果、透過液中のケイフッ酸の量が0.75%に半減し、使用装置21でのエッチングレートに影響が及んでしまった。そこで、センサ383により、第2ナノろ過膜36による濃縮液の比重を測定し、比重が約1.2に維持されるように、第1ナノろ過膜33及び第2ナノろ過膜36による濃縮倍率を調節した。すると、濃縮液中のケイフッ酸の量が20質量%、透過液中のケイフッ酸の量が1.5%で維持され、使用装置21でのエッチングレートへの影響もなくなった。
【符号の説明】
【0059】
10 システム
20 酸使用部
21 使用装置
23 第一供給部
25 第二供給部
27 排出路
30 処理装置
31 酸廃液槽
32 酸廃液供給路
321 ポンプ
33 第1ナノろ過膜
34 濃縮液槽
35 濃縮液供給路
351 ポンプ
36 第2ナノろ過膜
37 還流路(還流手段)
38 濃縮液回収路
381 切替弁
383 センサ
39 酸回収路(酸回収手段)
391 センサ
40 廃棄物処理装置
41 濃縮液導入路
42 添加部(添加手段)
43 冷却部(濃縮液冷却手段)
44 沈殿槽(固液分離手段)
46 脱水機
47 放出路
50 制御装置
51 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸廃液を処理する方法であって、
ケイフッ酸及び他の酸を含む酸廃液を第1ナノろ過膜に通す工程と、
前記第1ナノろ過膜で分離された濃縮液を第2ナノろ過膜に通す工程と、
前記第2ナノろ過膜で分離された透過液を、前記酸廃液とともに前記第1ナノろ過膜に通し、分離された透過液を回収する工程と、を有する方法。
【請求項2】
前記第1ナノろ過膜又は前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液にカリウム塩を添加し、生成されるケイフッ酸カリウムを含む沈殿を分離する工程を更に有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記カリウム塩が添加された濃縮液を冷却した後に、前記沈殿を分離する請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記濃縮液を回収した後の前記沈殿を冷却し、前記沈殿から排除された水を分離する工程を更に有する請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記沈殿が分離された濃縮液を回収する工程を更に有する請求項2から4いずれか記載の方法。
【請求項6】
前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液の濃縮度を検出し、前記濃縮度が規定値に達したと判断した時点で、前記濃縮液を廃棄する請求項1から5いずれか記載の方法。
【請求項7】
酸廃液を処理する装置であって、
第1ナノろ過膜と、前記第1ナノろ過膜に、ケイフッ酸及び他の酸を含む酸廃液を供給する廃液供給手段と、を有する第1分離手段と、
第2ナノろ過膜と、前記第2ナノろ過膜に、前記第1ナノろ過膜で分離された濃縮液を供給する濃縮液供給手段と、を有する第2分離手段と、
前記第2ナノろ過膜で分離された透過液を、前記第1ナノろ過膜の供給側に戻す還流手段と、
前記第1分離手段で分離された透過液を回収する酸回収手段と、を備える装置。
【請求項8】
前記第1ナノろ過膜又は前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液にカリウム塩を添加する添加手段と、
生成されるケイフッ酸カリウムを含む沈殿を分離する固液分離手段と、を更に備える請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記固液分離手段又はその上流に位置し、前記カリウム塩が添加された濃縮液を冷却する濃縮液冷却手段を更に備える請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記濃縮液を回収した後の前記沈殿を冷却する沈殿冷却手段と、
前記沈殿冷却手段の冷却により沈殿から排除された水を分離する水分離手段と、を更に備える請求項8又は9記載の装置。
【請求項11】
前記固液分離手段により沈殿が分離された濃縮液を回収する濃縮液回収手段を更に備える請求項8から10いずれか記載の装置。
【請求項12】
前記第2ナノろ過膜で分離された濃縮液の濃縮度を検出する検出手段と、
前記濃縮度が規定値に達したとの判断に基づき、前記濃縮液を廃棄する廃棄手段と、を更に備える請求項7から11いずれか記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−210595(P2012−210595A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77934(P2011−77934)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】