説明

酸性ヘテロ多糖類AX−1

【課題】歴史的に安全性が確かめられている酢酸菌により生産される安全かつ安定な新規な酸性ヘテロ多糖類及びその製造方法を開発すること。
【解決手段】アセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)NCI1005株(FERM BP−10415)の培養液上清からエタノールにより抽出され、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸を主構成成分とし、その構成糖比がグルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=5:1:1:1であることを特徴とする新規な酸性ヘテロ多糖類とその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な酸性ヘテロ多糖類に関し、さらに詳細には、酢酸菌の一種により生産される新規な酸性ヘテロ多糖類に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は多様な多糖類を生産するが、中でも酢酸菌は多くの多糖類を生産することが知られており、例えば、セルロース、レバン、デキストランなどの単一の構成糖からなるものがある。
【0003】
一方、ある種の酢酸菌は、異種の構成糖からなり有機酸を含む酸性の水溶性多糖類(以下、酸性ヘテロ多糖類と称する場合もある)を生産することも知られている。
例えば、アセトバクター属(Acetobacter)に属する酢酸菌がグルコース:ラムノース:マンノース:グルクロン酸=4:0.9〜1.1:0.9〜1.1:0.9〜1.1の構成糖比でアセチル基を4〜8%程度含有するAM−2と称される酸性ヘテロ多糖類を生産することが報告されており(例えば、特許文献1参照)、その後該酸性ヘテロ多糖類はグルコース:ラムノース:マンノース:グルクロン酸:アセチル基≒4:1:1:1:1の構成糖比であり、その一次構造も明らかにされた(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
また、アセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)NRRL B43株がグルコース:ラムノース:マンノース:グルクロン酸:アセチル基≒4:1:1:1:1〜2の構成糖比を有するアセタン(Acetan)と称される上記AM−2と構造が類似する酸性ヘテロ多糖類を生産することも報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
さらに、アセトバクター属(Acetobacter)に属する酢酸菌がグルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=10:3〜6:0.5〜2:0.5〜2の構成糖比の酸性ヘテロ多糖類を生産することが報告されており(例えば、特許文献2参照)、その後、該酸性ヘテロ多糖類はAM−1と称されて、構成糖比がグルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=6:2:1:1であることが明らかにされ、また、その一次構造が明らかにされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
これらの酢酸菌が生産する酸性ヘテロ多糖類は、その粘性特性などから飲食品への利用を中心に幅広く応用が検討されており、さらに、最近では腫瘍抑制作用(例えば、特許文献3参照)やアレルギー抑制作用(例えば、特許文献4参照)などの薬理作用に着目した応用も検討されている。
【0007】
しかし、さらに優れた効果を有する新規な酸性ヘテロ多糖類を開発することが求められていた。
【非特許文献1】「アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricaltural and Biological Chemistry)」、48巻、10号、p.2405−2414、1984年
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・ジェネラル・マイクロバイオロジイ(Journal of General Microbaiology)」、133巻、p.2123−2135、1987年
【非特許文献3】「アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricaltural and Biological Chemistry)」、49巻、4号、p.959−966、1985年
【特許文献1】特開昭59−203498号公報
【特許文献2】特開昭58−78596号公報
【特許文献3】特開2004−59549号公報
【特許文献4】特開2004−59547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、本発明の目的は、新規な酸性ヘテロ多糖類を発見し、かつ、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み鋭意検討を重ね、その過程において、食酢製造工程から分離した新規酢酸菌株が新規な酸性ヘテロ多糖類を製造することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明者らは、古くから人類の食用に供されており、歴史的にその安全性が確かめられている各種発酵食品の醸造過程に関与する微生物の多糖類の生産能を広く探索した。
【0011】
その結果、食酢の発酵槽から分離したアセトバクター属(Acetobacter)のの酢酸菌がグルコース、マンノース、ガラクトース、グルクロン酸を主要構成成分とする多糖類を生産すること、そしてこの多糖類が従来知られている多糖類とは異なる新規な酸性ヘテロ多糖類であることを見出し、これに基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、下記の理化学的性質を有する酸性ヘテロ多糖類AX−1に関する。
【0013】
(1)グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸を主構成成分とし、その構成糖比がグルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=5:1:1:1である酸性ヘテロ多糖類。
(2)一次構造は、化1に示す通りである。




















【0014】
(化1)
→4)−β−D−Glu−(1→4)−β−D−Glu−(1→



α―D−Man



β−D−GlucA



α−D−Glu



β−D−Glu



β−D−Gal



β−D−Glu
【0015】
また、請求項2に記載の本発明は、アセトバクター(Acetobacter)属に属する酸性ヘテロ多糖類AX−1生産菌を培養し、培養物より酸性ヘテロ多糖類AX−1を採取すること、を特徴とする請求項1に記載の酸性ヘテロ多糖類AX−1の製造方法に関する。
【0016】
更に、請求項3に記載の本発明は、アセトバクター(Acetobacter)属に属する酸性ヘテロ多糖類AX−1生産菌がアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)である、ことを特徴とする請求項2に記載の方法に関する。
【0017】
そして、請求項4に記載の本発明は、アセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)がアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)NCI1005株(FERM BP−10415)であること、を特徴とする請求項3に記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、新規な酸性ヘテロ多糖類が提供され、さらに該酸性ヘテロ多糖類を効率良く生産可能な生産菌を取得することができ、該生産菌を用いることにより新規な酸性ヘテロ多糖類を効率良く生産する方法を提供することが可能となる。そして、本発明に係る多糖類は、古来から食酢醸造に使用され、歴史的にその安全性が確認されている酢酸菌が生産する多糖類であって、天然由来ということができ、増粘剤、増粘・乳化安定剤等として食品工業のほか、化粧品工業、薬品工業、その他各種工業において広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、新規酸性ヘテロ多糖類AX−1に関するものであって、アセトバクター属細菌を使用することにより、その製造を可能にしたものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
(1)本発明の生産菌
本発明の新規な酸性ヘテロ多糖類を生産する酢酸菌は、食酢製造工程中に存在するので、食酢原料諸味や食酢発酵液などを分離源として、適切な培地、培養条件を設定して、集積培養を行った後、選択することによって取得可能である。
【0021】
このようにして選抜される新規な酸性ヘテロ多糖類AX−1生産菌は、アセトバクター属(Acetobacter)に属する酢酸菌であり、アセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)が好ましく、なかでもアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)NCI1005株は最も優れたものとして例示される。
【0022】
なお、アセトバクター・ザイリナムNCI1005株は、FERM BP−10415として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。
【0023】
(2)本発明の酸性ヘテロ多糖類の生産
本発明の酸性ヘテロ多糖類は、例えば次のような方法で製造することができる。すなわち、アセトバクター・ザイリナムNCI1005株(FERM BP−10415)を適当な培地に培養し、培養物から上記酸性ヘテロ多糖類を採取することにより製造できる。
【0024】
また、上記多糖類は酸性物質であるので、菌体を除いた培養液にセチルトリメチルアンモニウムブロマイドなどを添加して上記多糖類を沈澱させることにより回収することができる。
【0025】
粗精製の上記多糖類は多糖類の精製法に従って精製することができる。例えば粗精製の上記多糖類を水に再溶解し、熱処理後、遠心分離して不溶物を完全に除去し、アセトンなどの沈殿剤で再沈澱を繰り返すことにより純度の高い白色綿状の精製された上記多糖類が得られる。
【0026】
また、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドによる沈澱(CTAB処理)、透析、およびイオン交換樹脂などを併用して高純度の精製品を得ることもできる。
【0027】
(3)本発明の酸性ヘテロ多糖類
本発明の酸性ヘテロ多糖類は、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルクロン酸を主構成成分とし、その構成糖比がグルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=5:1:1:1である酸性ヘテロ多糖類である。
【0028】
本発明の多糖類は、2Nトリフルオロ酢酸を添加し、120℃、5時間処理し加水分解した後、減圧乾固によりトリフルオロ酢酸を除去した後、乾固物を液体クロマトグラフィーで分析すると、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルクロン酸が主構成糖であることが確認される。
【0029】
また、本発明の多糖類は、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドあるいはセチルピリジニウムクロライドを添加すると白色沈澱が生じるので、酸性である。
【0030】
すなわち、本発明の多糖類は、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルクロン酸を主構成成分とする酸性へテロ多糖類である。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例等を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0032】
(実施例1)
生産菌の分離と同定
【0033】
(1)生産菌の分離
食酢発酵槽からサンプリング後、YPG培地を5ml含む試験管で24時間、30℃で培養した。その後YPG培地により1/10に希釈して、さらに24時間の試験管培養を行った。この培養液を6%グルコース、1%酵母エキス、0.4%ポリペプトン、2%炭酸カルシウムおよび1.5%寒天を含む寒天培地に播種し、30℃で5日間静置培養を行い、光沢かつ粘性を示すコロニーを得た。この操作を単一コロニーが得られるまで数回繰り返した。
【0034】
最終的に得られたコロニーを釣菌して上記組成のスラント寒天培地に植え継ぎ、30℃で3日間培養した後、4℃にて保存した。
【0035】
(2)生産菌の同定
上記のようにして得られた生産菌の菌学的性質を下記の如くにして調べた。
なお、菌学的性質は各種同定書(例えば、1975年6月20日東京大学出版会発行、長谷川武治編著「微生物の分類と同定」、ザ・ジャーナル・オブ・ジェネラル・アンド・アプライド・マイクロバイオロジー(The Journal of General and Applied Microbiology)、第10巻、第2号、p.95〜126、1964年、およびザ・ソサエティー・フォー・アプライド・バクテリオロジー・テクニカル・シリーズ・No.2(The Society for Applied Bacteriology Technical Series No.2)アイデンティフィケイション・メソッズ・フォー・マイクロバイオロジスツ(Identification Methods for Microbiologists)、p.1〜8、1968年参照)に従って実施した。
【0036】
また、酵母エキス−ブドウ糖寒天培地は酵母エキス5g、ブドウ糖30g、ポリペプトン3g、寒天15gを蒸留水1リッターに溶解し、pHを6.5に調節したもの、酵母エキス−ブドウ糖液体培地は酵母エキス5g、ブドウ糖30g、ポリペプトン3gを蒸留水1リッターに溶解し、pHを6.5に調節して滅菌後、エタノールを3%(V/V)無菌的に添加したもの、MY平板培地はブドウ糖10g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、モルトエキス3g、寒天15gを蒸留水1リッターに溶解し、pHを6.5に調節したもの、肉汁液体培地は肉エキス10g、ポリペプトン10gを蒸留水1リッターに溶解しpHを6.5に調節したもの、加糖肉汁液体培地はブドウ糖10g、肉エキス10g、ポリペプトン10gを蒸留水1リッターに溶解しpHを6.5に調節したものである。
【0037】
そして、また、ユビキノンの同定は濾紙クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、赤外部および紫外部吸光スペクトラムおよび質量分析法で行った。
【0038】
I.形態的所見
形状 短桿状
大きさ 0.5〜0.7×1.0〜1.2μm
集団 単独あるいは連鎖状
運動性 なし
胞子形成 形成せず
グラム染色 陰性
抗酸化 陰性
【0039】
II.培養的所見
1.酵母エキス−ブドウ糖寒天平板培地培養(30℃で4日間培養)
形状 円形
辺縁 平滑で全縁
隆起 隆起状(Raised)
光沢 有り
表面 平滑
色調 淡黄色で光沢あり
2.炭酸カルシウム含有酵母エキス−ブドウ糖斜面培養(30℃で3日培養)
生育の良否 良好
隆起 中程度
表面 平滑
辺縁 平滑で全縁
色調 淡黄色で光沢あり
3.エタノール含有酵母エキス−ブドウ糖液体静置培養(30℃で4日間培養)
よく生育する。湿潤でもろい菌膜を形成する。混濁し、一部は底に沈殿する。セルロースからなる厚膜を形成しない。
4.肉汁液体静置培養(30℃で7日間培養)
生育乏しい。セルロースからなる厚膜を形成しない。リング状に生育する。
5.ブドウ糖含有肉エキス液体静置培養(30℃で7日間培養)
生育良好。セルロースからなる厚膜を形成しない。培養液は混濁し、一部は沈殿する。薄い菌膜を形成する。
6.MYゼラチン高層培養(20℃で7日間培養)
生育良好。液化性無し。
7.リトマスミルク(30℃で7日間培養)
凝固性なし。
【0040】
III.生理学的性質
1.硝酸塩の還元 なし
2.脱窒反応 なし
3.VPテスト 陰性
4.インドールの生成 なし
5.硫化水素の生成 なし
6.デンプンの加水分解 なし
7.クエン酸の利用(Christensenの培地) なし
8.無機窒素源の利用 なし(硝酸塩) なし(アンモニウム塩)
9.培地中への色素の生成 なし
10.ウレアーゼ活性 なし
11.カタラーゼ活性 あり
12.生育pH範囲 3.0〜7.5(最適pH範囲 4.0〜5.5)
13.生育温度範囲 15〜35℃ (最適温度範囲 20〜28℃)
14.酸素に対する態度 好気的
15.5−ケトグルコン酸の生成 あり
16.ジヒドロキシアセトンの生成 あり
17.エタノールの資化性 エタノールを弱く資化し酢酸を生成する
18.酢酸の資化性 なし
19.乳酸の資化性 なし
20.ビタミン要求性 あり
21.酢酸の分解性 あり
22.乳酸の分解性 あり
23.塩化第2鉄反応 陰性(グルコース培地)
【0041】
IV.炭素源の資化性および酸とガスの生成
表1に示す通りである。なお、表中の記号の意味は以下の通りである。すなわち、+:資化する又は生成する、++:よく資化する又はよく生成する、+++:非常によく資化する又は非常によく生成する、−:資化しない又は生成しない、±:わずかに資化する又はわずかに生成する、である。
【0042】
【表1】

【0043】
V.電子伝達系の補酵素の種類
補酵素の主要成分:ユビキノン−10
【0044】
以上の結果、本生産菌はグラム陰性の好気性桿菌でエタノールを酸化して酢酸を生成し、またpH3.0でも増殖できることから、一般に酢酸菌と呼ばれるアセトバクター属もしくはグルコノバクター属に属することは明らかである。
【0045】
また、本生産菌は主たるユビキノンタイプがQ10でビタミンが生育に必須であり、またジヒドロキシアセトンの生成能を有する点ではグルコノバクター属(Gluconobacter)としての性質を有するが、一方酢酸および乳酸の分解性を示す点ではアセトバクター属(Acetobacter)としての性質を示し、アセトバクター属またはグルコノバクター属のいずれとも断定し難いが、酢酸および乳酸の分解性を示すこと、および培地中にグルコース、ガラクトース、マンノース、グルクロン酸を主構成成分とする上記した新規な酸性ヘテロ多糖類を蓄積する能力があることにより、本発明の生産菌はアセトバクター属に属すると認定するのが妥当であると考えられた。
【0046】
さらに、主要なユビキノンとしてQ10を有するアセトバクター属としては、アセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)およびアセトバクター・アセチ・サブスピーシーズ・リケファシエンス(Acetobacter aceti subspecies liquefaciens)が挙げられる。
【0047】
このうち、アセトバクター・アセチ・サブスピーシーズ・リケファシエンスとは、グルコース培地でのFeCl3反応、エタノール存在下での生育、色素形成などの点で異なっている。
【0048】
アセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)とは、セルロース生成能の有無で異なるが、セルロース生成能は非常に欠落しやすいということを考慮に入れ、本生産菌はアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)のセルロース生成能が欠落した菌であると考えた。
【0049】
以上の結果から、本生産菌はアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter ylinum)に属すると認定するのが妥当であると同定され、その結果、本菌はアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)NCI1005と命名されて、FERM BP−10415として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。
【0050】
(実施例2)
本発明の酸性ヘテロ多糖類の調製
【0051】
(1)酸性ヘテロ多糖類の調製
使用酢酸菌株として、アセトバクター・ザイリナムNCI1005株(FERM BP−10415)を用い、以下の方法で酸性ヘテロ多糖類を生産した。
【0052】
まず、3%グルコース、0.5%酵母エキス、0.3%ポリペプトン、2%炭酸カルシウムおよび1.5%寒天を含む寒天培地に上記菌株を植菌し、30℃に3日間静置することでコロニーを形成させた。
【0053】
次に、PP培地(3%グルコース、3%マンニトール、0.2%酵母エキス、0.009%リン酸水素2カリウム、0.01%リン酸2水素カリウム、0.025%硫酸マグネシウム、0.0009%塩化第二鉄、0.5%クエン酸ナトリウム)を7ml含む試験管に白金耳で集めた上記コロニーを接種し、30℃で24時間、120rpmで振とう培養した。この前々培養液をPP培地100ml含む500ml容の坂口フラスコに1ml接種し、30℃で48時間、120rpmで振とう培養した。
【0054】
上記前培養液を、PP培地を2.5L含む5L容のジャーファーメンターに25ml接種し、30℃、350rpm、0.5vvmで120時間、本培養を行うことで酸性ヘテロ多糖類を生産させた。
【0055】
この培養液から、既報(例えば、非特許文献3参照)に記載の方法によって酸性ヘテロ多糖類の凍結乾燥標品を得た。
【0056】
すなわち、培養液を遠心分離(10,000×g、30分間)後、上清をセライト濾過によって培養菌体を完全に除去した。これを蒸留水で溶解して5%セチルトリメチルアンモニウムブロマイドを添加し、沈澱する酸性多糖類画分を回収した。
【0057】
回収された酸性ヘテロ多糖類画分を20%NaClに溶解後、流水中で一晩透析した。透析終了後、エタノールを添加して得られた沈澱を回収した後、蒸留水に対してさらに一晩透析し、その後、凍結乾燥して多糖類標品を調製し、AX−1と命名した。
【0058】
(実施例3)
AX−1の分析
【0059】
(1)物理学的性質
物理学的性質を既報(例えば、特許文献1参照)に従って調査し、下記の結果を得た。
1.呈色反応
アンスロン反応:陽性、カルバゾール反応:陽性、エルソン−モルガン反応:陰性、ヨード反応:陽性
2.溶剤に対する溶解度
水に可溶で、エタノール、エーテル、アセトン等に不溶である。
3.色及び形状
精製品は白色綿状又は繊維状である。
4.粘度
水溶液は無色透明で粘性を有し、その1%水溶液の粘度は1200〜2000(25℃,30rpm)である。
5.元素分析値
C=34.3±1%:H=4.8±1%:N=0%:灰分=3.0±1.0%
6.比旋光度
ナトリウムD線に対する27℃における本物質の比旋光度[α]:0〜+20°(C=0.33、水溶液)
7.融点
100℃で褐色変化、180℃で黒褐変化が始まり、250℃で分解する。
8.赤外吸収スペクトル
図1に示す通りである。
【0060】
(2)構成糖の決定
以上の方法で調製したAX−1の糖組成を既報(例えば、非特許文献3参照)に記載の方法を参考にして分析した。
【0061】
すなわち、凍結乾燥したAX−1の1mgに対して、100μlの2Nトリフルオロ酢酸を添加し、120℃で5時間加熱して、加水分解した。得られた加水分解物を、減圧乾燥してトリフルオロ酢酸を除去した後に、糖分析を行った。糖分析は、HPLC(High Performance Ion Exchange Chromatography)(島津製作所製)を用いて実施した。糖分析のクロマトグラムは、図2に示す通りである。
【0062】
その結果得られたクロマトグラムのピーク保持時間から糖の種類を同定した。以上の分析の結果から、AX−1の主構成成分がグルコース、ガラクトース、マンノース、グルクロン酸であることがわかった。
【0063】
(3)分子量分析
AX−1の分子量を以下のGPC(Gel permiation chromatography)分析法により分析した。GPC分析条件は以下の通りであった。
【0064】
〔GPC分析条件〕
・装置;HLC−8220(東ソー社製)
・カラム;TSKgel Super AWM−H(6mm×15cm)×2本(東ソー社製)
・溶離液;5mM臭化リチウム/ジメチルスルホキサイド
・流速;0.6 ml/min
・試料濃度;1 mg/ml
・注入量;10μl
・カラム温度;40℃
・標準物質;プルラン
【0065】
以上の方法で分析したAX−1の分子量は、約250万であった。
【0066】
(4)構造解析
AX−1の構造解析を1H−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)法およびメチル化分析法により解析した。
【0067】
NMR測定条件は以下の通りであった。
・装置;JNM−A500(日本電子株式会社製)
・波長;500MHz
・溶媒;D2
・試料濃度;10mg/ml(D2O置換×2)
・測定温度;80℃
【0068】
以上の方法で得られた1H−NMRは図3に示す通りである。アノメリック領域のメインピークは次の様にアサイメントされた。すなわち、5.25ppm:→3)−α−Man−(1→、4.52ppm:→3,4)−β−Glu−(1→、4.47ppm:→4)−β−Glu−(1→、4.44ppm:β−GlucA−(1→であった。以上から、主鎖としてアセタン(Acetan)に類似した構造をもつことがわかった(例えば、「カーボハイドレイト・リサーチ(Carbohydrate Research)」、269巻、2号、p.319−331、1995年参照)。
【0069】
側鎖構造を解析するため、メチル化分析を行った(例えば、非特許文献1参照)。その結果、メインピークとしてリテンションタイム(RT)9.13の部位にβ−Glu(1→、RT13.5の部位に→6)−β−Glu(1→、そしてRT14.9の部位に→6)−β−Gal(1→がおおよそ1.6:2.0:1の割合で認められた。
【0070】
この結果、側鎖末端にグルコースが存在し、グルクロン酸との間にはグルコースとガラクトースが2:1の比で存在していることがわかった。以上の結果から明らかになったAX−1の1次構造は化1に示す通りである。
【0071】
なお、化1において、Gluはグルコースを、Manはマンノースを、Galはガラクトースを、さらにGlucはグルクロン酸を示している。




【0072】

(化1)
→4)−β−D−Glu−(1→4)−β−D−Glu−(1→



α―D−Man



β−D−GlucA



α−D−Glu



β−D−Glu



β−D−Gal



β−D−Glu
【0073】
なお、この結果、AX−1の構成糖比は、グルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=5:1:1:1であることが確認できたが、このような構成糖比の酸性ヘテロ多糖類は従来報告がなく、構成糖比の面から本発明の酸性ヘテロ多糖類は新規なものであることが確認された。
【0074】
さらに、上記1H−NMRにより解析されたAX−1の構造(化1)についても全く既報はなく、AX−1は新規な酸性ヘテロ多糖類であることが確認できた。
【0075】
以上の新規な酸性ヘテロ多糖類AX−1は、飲食品への利用や薬理作用に着目した応用などにおいて、優れた効果が発揮されることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の新規酸性ヘテロ多糖類AX−1の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の新規酸性ヘテロ多糖類AX−1の構成糖を検出したイオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す図である。
【図3】本発明の新規酸性ヘテロ多糖類AX−1の構造解析をした1H−NMRのスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の理化学的性質を有する酸性ヘテロ多糖類AX−1。
(1)グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸を主構成成分とし、その構成糖比がグルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=5:1:1:1である酸性ヘテロ多糖類。
(2)一次構造は、化1に示す通りである。
(化1)
→4)−β−D−Glu−(1→4)−β−D−Glu−(1→



α―D−Man



β−D−GlucA



α−D−Glu



β−D−Glu



β−D−Gal



β−D−Glu
【請求項2】
アセトバクター(Acetobacter)属に属する酸性ヘテロ多糖類AX−1生産菌を培養し、培養物より酸性ヘテロ多糖類AX−1を採取すること、を特徴とする請求項1に記載の酸性ヘテロ多糖類AX−1の製造方法。
【請求項3】
アセトバクター(Acetobacter)属に属する酸性ヘテロ多糖類AX−1生産菌がアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)であること、を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)がアセトバクター・ザイリナム(Acetobacter xylinum)NCI1005株(FERM BP−10415)であること、を特徴とする請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−138061(P2007−138061A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335453(P2005−335453)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】