説明

酸素製造設備および酸素製造方法

【課題】気温が高い夏場での製造能力を高めることができる省電力型の酸素製造設備およびそれを用いた酸素製造方法を実現する。
【解決手段】空気圧縮機の前段側に、水噴霧装置を具備した噴霧室を配設してなる酸素製造設備およびそれを用いた酸素製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素製造設備および酸素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所などで酸素を大量に消費する場合、工場内に設置した酸素製造設備で酸素を製造し、酸素を使用する製鋼工場などの鉄鋼製造現場に供給するのが一般的である。
このような酸素製造設備では、沸点差を利用して、空気を分離することで、酸素を製造する。その際、窒素、アルゴンなどが副産物として得られる。
従来の酸素製造設備においては、気温が上昇した場合、気温に応じて空気圧縮機で圧縮する原料の空気密度が低下することから、得られる酸素量が少なくなることが知られている。このため、気温が高い夏場では、製鋼工場などを含めた所内酸素使用量の調整(削減)を行うことによって、酸素製造設備と、所内酸素使用量との需給バランスを保っていた。
【0003】
そこで、酸素の生産量を増加するため、本発明者は、図3に示すように、空気圧縮機3の前段側に、取り込んだ空気を水洗し冷却する水洗塔4を配設してなる空気分離装置1(酸素製造設備)を提案した。水洗塔4内では、図4に示すように、ノズル41から水が水シャワー流42の状態で、塔内の充填材層(テラレット層)43の表面に供給されている。
【0004】
そして、充填材層43の表面に形成された水膜と、空気とを接触させることで、空気圧縮機3の前段側で空気を水の温度で水冷するようにしている。44は、空気圧縮機3の電動モータを運転することで生じる空気流を示す。
なお、図3に示すような装置を用いて酸素を製造する際には、電気は、主に空気圧縮機3の電動モータで消費されている。
【0005】
水洗塔4を通過した空気は、バグフィルタ2に導入した後、空気圧縮機3で圧縮する。次に、圧縮して温度が上昇した空気を、チューブネストタイプのアフタークーラーなどの冷却器20で冷却後、MS吸着器(モレキュラシーブス吸着器)5で、不要のCO、CO、HO等を吸着除去し、熱交換器6で冷却する。この熱交換器6では、後述する精留塔8でさらに冷却し分離した窒素ガスと酸素ガスを用いて熱交換を行う。なお、この熱交換器6での熱バランスでは冷却が不十分となるので、膨張タービン7により不足する冷却を補う。
【0006】
このようにして冷却した空気は、精留塔8に取り込まれてからさらに冷却(深冷)され、液化温度の差を利用して窒素ガスと酸素ガスに精製分離される。ここで、窒素の液化温度は、−196℃であり、酸素の液化温度は、−183℃である。精留塔8からは、同時にアルゴンの原料となるガスが分離され、粗アルゴン塔9に導入される。アルゴンの液化温度(−186℃)は、酸素の液化温度に近いため、この段階では、多量の酸素が含まれることになる。そのため、アルゴン熱交換器10、アルゴン圧縮機11を介し、水素を添加した後、アルゴン精製器12で更に精製する。ここで、水素を添加するのは、含有する酸素と反応させ、水として分離するためである。その後、アルゴン乾燥器13を介して高純度アルゴン塔14に導き、高純度の液化アルゴンを取り出す。または、粗アルゴンより、さらにクリプトン、キセノンを精製分離してもよい。
【特許文献1】特開2003−207267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で提案した空気分離装置1は、気温が高い夏場での製造能力を高めようとした場合、水洗塔4を配設しなければならず、また、水洗塔4内での空気の冷却効率が低いという問題や、水洗塔内での圧損が大きいという問題があり、実用化が難しかった。
すなわちこの装置で酸素を製造する際、空気圧縮機3は、大気から取り込んだ空気を圧縮し所定の圧力(例えば、0.54MPa)まで昇圧する必要があるところ、水洗塔4内で圧損が大きいので、空気圧縮機の電動モータ出力を上げて運転しなければならず、逆に電力消費量の増大につながる恐れのある酸素製造設備であった。
【0008】
本発明は、気温が高い夏場での製造能力を高めることができる省電力型の酸素製造設備および酸素製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、圧縮機3の前段側に、水洗塔4に代わり、噴霧室を配設することで上記課題を解決した。
1.大気中の空気を空気圧縮機で圧縮し、沸点差を利用して、空気を分離することで、酸素を製造する酸素製造設備において、前記空気圧縮機の前段側に、水噴霧装置を具備した噴霧室を配設してなることを特徴とする酸素製造設備。
【0010】
2.大気中の空気を空気圧縮機で圧縮し、沸点差を利用して、空気を分離することで、酸素を製造する酸素製造方法において、前記空気圧縮機で取り込む空気を、噴霧室内にて水噴霧装置から供給した噴霧水の気化熱を利用して冷やすことを特徴とする酸素製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、夏場の気温が高い時に、水噴霧装置を具備した噴霧室にて、空気圧縮機で取り込む空気を噴霧水の気化熱を利用して冷やすことができる。したがって、空気圧縮機で取り込む空気を効率的に冷やすことができる。
また水噴霧装置を具備した噴霧室内では、圧損がほとんど生じないことから、省電力型酸素製造設備を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る酸素製造設備の構成図であり、図2は、図1の酸素製造設備に配設した噴霧室50を模式的に示す構成図である。
本発明の実施の形態に係る酸素製造設備は、空気圧縮機3の前段側に、水噴霧装置を具備した噴霧室50を配設したことが特徴である。この噴霧室50は、図3に示した水洗塔4に代わり、水噴霧装置としての噴霧ノズル51を具備している。この噴霧室50の上部には、ダクト53を空気圧縮機3と連通させて設ける。また反対側の噴霧室50の下部には、大気と連通させてなる開口を形成する。
【0013】
すなわち、図1に示した実施の形態に係る酸素製造設備で酸素を製造するに際しては、大気から導入された空気が空気圧縮機の前段で、噴霧ノズル51から供給された噴霧水52の気化熱によって冷却され、その後、ダクト53を介して空気圧縮機3に取り込まれるようになっている。
なお、噴霧ノズル51は、噴霧水52同士の干渉防止や、噴霧室50壁面への衝突などを勘案し、噴霧室50内で容易に気化させることができるよう、ノズル形式、ノズル数、ノズル配置などを設計するのが好ましい。また、噴霧ノズル51の前段または後段にバグフィルタ2を設ける。図2中、54は、図1に示した酸素製造設備において、酸素を製造する際の空気流を示す。それ以外の装置については、図3に示した従来のものと同一であるので説明を省略する。
【実施例】
【0014】
空気圧縮機3に取り込む空気流量が平均145kNm/hである酸素製造設備において、本発明の効果を調査した。その際、気温が24℃以上での同じ温度条件下において、従来の酸素製造設備(図3中の水洗塔4を配設していない装置)と比較したところ、毎時、図5に示すように100kWの電力削減効果があることが確認できた。
この電力削減効果は、図1に示した酸素製造設備において、噴霧ノズルから、水滴の平均粒径が10μm(粒径3〜18μmの範囲)の噴霧水が飽和湿度まで完全に気化蒸発するという条件下で得た。空気圧縮機3の電動モータの軸動力が従来よりも低下する理由は、温度低下による入口の空気密度の増加による。
【0015】
また、空気圧縮機3に取り込む空気を冷やさない従来の酸素製造設備の場合と比べて、発明例では、単位時間当たりの酸素量も増やすことができた。なお、バグフィルタ2によって生じる噴霧室50内での圧損は、水柱で最大80mmであり、水噴霧の影響はなかった。なお、本実験ではバグフィルタ2の前段に噴霧ノズル51を設けたが、噴霧水を完全に気化蒸発させることが可能である場合は、バグフィルタ2の後段に噴霧ノズル51を設けてもよい。
【0016】
この発明例での噴霧室50内での圧損は、図3に示した空気分離装置を設計したときの水洗塔内における圧損:水柱で約200mmに比べて小さい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の酸素製造設備の構成図である。
【図2】図1の酸素製造設備に配設した噴霧室の構成図である。
【図3】特許文献1で提案した空気分離装置の構成図である。
【図4】特許文献1の空気分離装置に配設した水洗塔の問題点を説明する構成図である。
【図5】本発明の効果を従来例と比較して示す特性図である。
【符号の説明】
【0018】
1 空気分離装置(酸素製造設備)
2 バグフィルタ
3 空気圧縮機
4 水洗塔
5 MS吸着器(モレキュラシーブス吸着器)
6 熱交換器
7 膨張タービン
8 精留塔
9 粗アルゴン塔
10 アルゴン熱交換器
11 アルゴン圧縮機
12 アルゴン精製器
13 アルゴン乾燥器
14 高純度アルゴン塔
20 冷却器
41 ノズル
42 水シャワー流
43 充填材層(テラレット層)
44 空気流
50 噴霧室
51 噴霧ノズル(水噴霧装置)
52 噴霧水
53 ダクト
54 空気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の空気を空気圧縮機で圧縮し、沸点差を利用して、空気を分離することで、酸素を製造する酸素製造設備において、前記空気圧縮機の前段側に、水噴霧装置を具備した噴霧室を配設してなることを特徴とする酸素製造設備。
【請求項2】
大気中の空気を空気圧縮機で圧縮し、沸点差を利用して、空気を分離することで、酸素を製造する酸素製造方法において、前記空気圧縮機で取り込む空気を、噴霧室内にて水噴霧装置から供給した噴霧水の気化熱を利用して冷やすことを特徴とする酸素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−255863(P2007−255863A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84500(P2006−84500)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】