説明

酸素還元触媒、酸素還元触媒の製造方法、電極、電極の製造方法、燃料電池、空気電池及び電子デバイス

【課題】金属配位ポリピロール系触媒の酸素還元反応において反応物の物質移動を促進させ、かつ酸素還元サイトを付加することで酸素還元活性を向上させる酸素還元触媒、酸素還元触媒の製造方法、電極、電極の製造方法、燃料電池、空気電池及び電子デバイスを提供すること。
【解決手段】酸素還元触媒は、導電体微粒子に金属配位ポリピロールとピロール酸化物とを担持している。ピロール酸化物は、新たな酸素還元サイトとして機能するので、酸素還元活性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元反応を促進する酸素還元触媒、酸素還元触媒の製造方法、電極、電極の製造方法、燃料電池、空気電池及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池や空気電池は、空気中等の酸素を酸化剤とし、酸化剤と燃料となる化合物や負極活物質との化学反応のエネルギーを電気エネルギーとして取り出す電気化学エネルギーデバイスである。これらの電池は、Liイオン電池等の2次電池よりも高い理論エネルギー容量を持ち、車載用電源、家庭や工場等の定置式分散電源、あるいは携帯電子機器用の電源等として利用することができる。燃料電池や空気電池の酸素極側では、酸素が還元される電気化学反応が起こる。酸素還元反応は比較的低温では進行しにくい反応であり、一般的には貴金属触媒により反応を促進させるが、それでも燃料電池や空気電池のエネルギー変換効率は制限されている。
【0003】
酸素還元触媒には、主に貴金属の白金(Pt)やその合金で平均粒径がナノメートルサイズの微粒子をカーボンブラック等の比表面積の大きな担体上に担持させたものが用いられている。Ptは、酸素を水に還元する電気化学反応に対して既知の触媒の中では比較的高い活性を示すが、実用上はそれでも不十分で、上記用途の電源に用いるには大量のPtが必要である。また、Ptは希少かつ高価であり、大量のPtを電極触媒として用いることはコスト面で問題がある。
【0004】
上記問題を解決してコスト低減するために、さらなる微細化によってPtの比表面積を増やすことや、合金化によってPt量を減らしつつ触媒活性を上げる技術が開示されている(例えば、特許文献1)。また近年では、Ptを使用しない代替触媒の技術も開示されている(例えば、特許文献2、特許文献3、非特許文献1)。
【0005】
例えば、上記非特許文献1では、Pt代替触媒の性能に関して有機金属錯体であるコバルト配位ポリピロール(CoPPy)の酸素還元活性を開示している。CoPPyは、ポリピロールに含まれる窒素にコバルトが配位した構造をしており、配位コバルトが触媒活性サイトとして機能する。非特許文献1記載の技術では、金属を単原子状で用いるので、金属微粒子触媒と比較して金属利用率が高く、さらに貴金属ではないコバルトを用いることから金属コストの削減が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−192438号公報
【特許文献2】特開2005−066592号公報
【特許文献3】再特WO2006/083029号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. Bashyam、 P. Zelenay、 Nature、 63、 443 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、触媒コストの削減が期待できる金属配位高分子であるが、上記特許文献2〜3及び非特許文献1の触媒の活性はPtと比較して十分でないという課題があった。その原因として、例えば非特許文献1においては、試料に含まれる全ピロール環に対して、金属が配位しているものの割合が数十%程度と低いことが考えられる。配位割合の低さは、試料中の触媒活性サイト密度が低いことを示しているのみならず、形成された活性サイト(配位コバルト)の周りに、コバルト配位に寄与していないポリピロール鎖が存在することも示している。この様なポリピロール鎖は反応物の移動を妨げ、活性を低下させるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような実情を鑑みてなされたものであり、上記課題を解決し、金属配位ポリピロール系触媒の酸素還元反応において反応物の物質移動を促進させ、かつ酸素還元サイトを付加することで酸素還元活性を向上させる酸素還元触媒、酸素還元触媒の製造方法、電極、電極の製造方法、燃料電池、空気電池及び電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の酸素還元触媒は、導電体微粒子に金属配位ポリピロールとピロール酸化物とを担持したことを特徴とする。
【0011】
本発明の酸化還元触媒の製造方法は、導電体微粒子に金属配位ポリピロールを重合する重合ステップと、重合された金属配位ポリピロールに印加する印加ステップと、を有し、印加ステップは、ピロール酸化物を生成することを特徴とする。
【0012】
本発明の電極は、酸素還元触媒を有し、酸素還元触媒は、導電体微粒子と、金属配位ポリピロールと、ピロール酸化物と、を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の電極の製造方法は、導電体微粒子に金属配位ポリピロールを重合する重合ステップと、重合された金属配位ポリピロールに印加する印加ステップと、印加された金属配位ポリピロールを塗布する塗布ステップと、を有し、印加ステップは、ピロール酸化物を生成することを特徴とする。
【0014】
本発明の燃料電池は、電極を有し、電極は、上記酸化還元触媒を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の空気電池は、電極を有し、電極は、上記酸化還元触媒を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の電子デバイスは、電池を有し、電池は上記酸化還元触媒を含有する電極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸素還元活性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る酸素還元触媒を電極触媒に適用した燃料電池の放電特性例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る酸素還元触媒を電極触媒に適用した空気電池の放電特性例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態の例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
本実施形態では、酸素還元触媒としてカーボンに重合されたコバルト配位ポリピロールを例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0021】
まず、例えばカーボン粒子の表面に、ポリピロールを重合する。そして、ポリピロールを重合させたカーボン粒子にコバルトを配位させることで有機金属錯体であるコバルト配位ポリピロール(CoPPy/C)を製造する。次に、カーボン上に重合されたコバルト配位ポリピロールにおいて、コバルト配位に寄与せず、酸素移動の障害になっていたポリピロールを電気的に酸化、除去する。
【0022】
上述したように、コバルト配位に寄与していないポリピロール鎖を除去することで、酸素の活性サイトへの反応物の到達を促進させることができる。さらに、上記酸化処理により生成された、例えばmaleimide、succinimide、dihydropyrrole等のピロール酸化物は、新たな酸素還元活性サイトとして機能するので、CoPPy/Cの酸素還元活性を向上させることができる。
【0023】
尚、maleimide、succinimide、dihydropyrrole等のピロール酸化物は電気酸化の際に生成するもののみではなく、予め生成しておいたものをさらに加えるようにしてもよい。また、maleimide、succinimide、dihydropyrrole等のピロール酸化物の生成法は、ピロールの電解酸化による生成に限定されるものではなく、例えば化学的に合成したものを用いることもできる。
【0024】
コバルト配位に寄与していないポリピロール鎖を除去する方法として、ピロールの不可逆酸化が起こる高電位を一定にして加える電位印加の方法を適用することができるが、これに限定されるものではない。例えば、0.8Vを下回る、0.2Vの低電位と高電位とを交互に加える方法を適用することもできる。また、高電位と低電位をパルス的に加えても、高電位と低電位の間を連続的に変化させながら加えても構わない。さらに、高低電位での保持時間や電位変化の速度なども自由に選択することができる。
【0025】
本実施形態においてポリピロールに配位する金属としては、酸素の吸着サイトとして作用することが可能な遷移金属や貴金属ならば何れも適用することができる。その中でも、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Auから選ばれる少なくとも一種類の金属又はその合金が配位することが望ましい。金属原子は、酸素分子の吸着サイトであると同時に、解離、原子状酸素のプロトン化過程の活性サイトとなりうる。
【0026】
上述したような金属配位高分子触媒を燃料電池や空気電池の電極触媒として使用する際には、集電電極上に直接分散あるいは塗布してもよいし、カーボン微粒子等のような比表面積の大きな電気伝導性を持つ担体の上に分散、塗布してもよい。金属量を少なく抑えるには、比表面積の大きな担体上に金属配位高分子触媒を数層分担持させることが好ましい。金属配位高分子触媒の担持は、触媒の合成時に担体を混合してもよいし、高分子触媒の合成後に混合してもよい。さらに、担持した触媒を触媒電極とする際には、バインダ等のイオン導電性を持つ添加物を加えることもできる。ただし、この触媒担持方法は上記に限定されるものではなく、触媒と電極が電気的に接触すればいかなる状態でも構わない。
【0027】
上述したように金属配位高分子触媒を含む電極触媒を燃料電池や空気電池の電極触媒として適用することができるが、燃料電池としては、酸性溶液、アルカリ溶液、中性溶液のいかなる性質をもつ電解液も使用することができる。また、燃料電池の燃料には、何ら限定されることなく水素や水素化合物等を用いることができる。同様に空気電池の場合も、何ら電解液や負極活物質に限定されることなく本実施形態を適用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の詳細を具体的に実施例において示す。しかし、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0029】
(実施例1)
<カーボン粒子上へのポリピロール重合>
本実施例では、カーボン粒子の一種であるケッチェンブラック表面へのポリピロールの重合に、ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)を酸化剤に用いた化学酸化重合法を適用した。以下に、カーボン粒子上へのポリピロール重合について説明する。
【0030】
酸化剤として使用するドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液に塩化鉄(III)を加えて生成した。ここで、塩化鉄とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのモル比は1:3とした。まず、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液に塩化鉄を投入し、攪拌しているとドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)が析出してきた。その後、上記溶液を遠心分離にかけて析出物を取り出した。この段階の析出物であるドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)には塩化ナトリウムが混入している可能性があるので、塩化ナトリウムを除去するために、超純水で十分に洗浄を行った。洗浄後のドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)をメタノールに溶かし、酸化剤溶液とした。
【0031】
次に、メタノール中にケッチェンブラックとピロールモノマー溶液とを添加し、撹拌することによりケッチェンブラックにピロールモノマーを吸着させた。このケッチェンブラックにピロールモノマーを吸着させた溶液に、上述した酸化剤溶液を滴下してピロールの化学酸化重合を行い、ポリピロール被覆ケッチェンブラック(PPy/C)を生成した。
【0032】
上述したように生成したPPy/Cを分散させたメタノール溶液に、酢酸コバルトを添加し、不活性ガス雰囲気で還流処理を6時間行った。その後、還流後超純水で十分に洗浄し、PPy/Cに配位せずに吸着しているコバルトを洗い流した。上記洗浄の後に、試料を十分に乾燥させ、コバルト配位ポリピロール(CoPPy/C)を得た。
【0033】
<電極>
上述したように得たCoPPy/Cを以下のように電極に担持させ、CoPPy/C担持電極を製造した。
【0034】
まず、乳鉢で粉末状にしたCoPPy/Cに超純水を加えて超音波照射により分散液を作製した。作製した分散液を、よく研磨した直径3mmのグラッシカーボン(GC)電極上に10μgのCoPPy/Cが担持されるように滴下乾燥させた。さらに、ナフィオンとプロパノールの混合液を5μl滴下乾燥させ、電極を製造した。
【0035】
<酸素還元活性評価>
上述したように製造した電極を用いて、酸素飽和1M HClO4水溶液(酸素飽和過塩素酸溶液)中で酸素還元活性を測定した。
【0036】
製造したCoPPy/C担持電極に、0.2Vvs.RHEから1.0V、0.2Vから1.2Vvs.RHEの2種類の電位範囲でサイクル電位印加を酸素飽和過塩素酸溶液中で500サイクル行った。サイクリックボルタモグラムのサイクル毎の変化を観察すると、初期の段階で観測されていた0.8V以上で観測される酸化電流が、サイクルと共に減少し、十分にサイクルを加えた後には電流変化が観測されなくなった。これは、ポリピロールの酸化に対応している。ここで、酸化電流の変化が収まるまでのサイクル数は電位範囲によって異なるが、より高い電位まで印加している0.2〜1.2Vでのサイクルにおいては約250サイクル、0.2〜1.0Vでのサイクルでは約300サイクルであった。
【0037】
サイクル電位印加後、酸素飽和過塩素酸溶液中でCoPPy/C担持電極の酸素還元活性評価を行った。酸素還元活性評価の結果を下記表1に示す。表1に示すように、サイクル電位を付加しなかったCoPPy/C担持電極と比較し、サイクル電位を付加したCoPPy/C担持電極では、開回路電位(OCP)や、酸素還元電流の立ち上がり電位(VORR)の向上が観測され、サイクル電位印加による酸化還元活性の向上を確認できた。
【0038】
【表1】

【0039】
<一定電位保持後の酸素還元活性評価>
次に、上述したように製造したCoPPy/C担持電極に一定電位保持した後の酸素還元活性を測定した。
【0040】
上述したように製造したCoPPy/C担持電極に1.0V及び1.2Vの一定電位を5時間印加した。電位印加後は酸化電流が観測され、時間と共に電流値が減少し一定値に落ち着いた。一定電位印加後、酸素飽和溶液中でCoPPy/C担持電極の酸素還元活性評価を行った。酸素還元活性評価の結果を下記表2に示す。表2に示すように、電位を印加しなかったCoPPy/C担持電極と比較し、一定電位を印加したCoPPy/C担持電極では、開回路電位(OCP)や、酸素還元電流の立ち上がり電位(VORR)の向上が観測され、一定電位印加による酸素還元活性の向上を確認できた。尚、最終的な電流値は印加電位によらなかった。
【0041】
【表2】

【0042】
<燃料電池評価>
次に、本実施例の金属配位高分子構造体をカソード電極触媒に用いた燃料電池の評価試験を行った。本実施例では、0.2〜1.2Vの電位範囲でサイクル電位を印加したCoPPy/Cをカソード電極触媒として用い、以下の手順に従い小型の燃料電池を製造した。
【0043】
まず、拡散層として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し、撥水化処理したものを用意した。次に、撥水化処理された拡散層の表面にサイクル電位を印加したCoPPy/Cを触媒として塗布し、カソード電極を得た。アノード電極には、ケッチェンブラック上にPt担持した触媒をナフィオン溶液(ポリマ分5%wt、アルドリッチ社製)と混合したものを触媒として用いた。
【0044】
その後、触媒層を内側にして電解質膜(厚さ約50μmのナフィオン(登録商標)膜、デュポン社製)の両面からガス拡散電極を熱圧着し、膜電極接合体(MEA)を得た。さらにMEAをグラファイト板にガス流路を設けた集電体で挟むことで、燃料電池を製造した。
【0045】
図1は、サイクル電位を印加したCoPPy/Cをカソード電極触媒に用いた水素−空気燃料電池の放電試験の結果を示す。試験条件は、セル温度80℃、水素及び空気圧2.0atm、水素流量5ml/s、空気流量9ml/s、燃料ガス温度は水素80℃、空気70℃とした。図1に示すように、カソード電極の触媒活性は高く、電流密度が増加しても高い電圧を維持していた。
【0046】
(実施例2)
本実施例では、上記実施例1と同様な方法で製造してサイクル電位を印加したCoPPy/Cをカソード電極触媒として用い、コイン型空気亜鉛電池を製造した。
【0047】
<空気電池評価>
本実施例の空気電池製造方法には、典型的なコイン型空気電池の製造方法を適用した。亜鉛粉末とデンプン等でゲル化した40%水酸化カリウムから成る亜鉛合剤が充填された負極缶(耐食性コーティングを施したステンレス製)を、ポリプロピレンやポリエチレン等の多孔質樹脂膜からなるセパレータで封じた。次に、0.2Vから1.2Vのサイクル電位を印加したCoPPy/Cの粉末、カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデンを溶解させたNi−メチルピロリドン溶液を混錬したスラリーをニッケル金網に塗布した正極触媒層と、微孔性テフロン(登録商標)フィルムをセパレータの外側に取り付けた。その後、セパレータ、触媒層、テフロンフィルムを取り付けた負極缶にプラスチック製の絶縁性ガスケットで空気通入孔が設けられた正極缶を二つの間が絶縁された状態で封止し、コイン型空気亜鉛電池を得た。
【0048】
図2は、上述したように製造したコイン型空気電池の室温下における放電試験の結果を示す。図2に示すように、1.0V以上の高い電圧でも平坦な放電曲線が得られた。
【0049】
以上のことから、上述したようにポリピロール鎖を除去した酸化還元触媒は、空気電池のカソード電極としても良好に適用することができる。
【0050】
(実施例3)
上記実施例1と同様な方法を適用して、コバルト以外の金属を用いたカーボン被覆金属配位ポリピロールを作製した。作製したコバルト以外の金属を用いたカーボン被覆金属配位ポリピロール電極に、上記実施例1のように0.2から1.2Vの電位範囲でのサイクル電位を印加した。サイクル電位印加後、上記カーボン被覆金属配位ポリピロール電極の酸素還元活性評価を行った。酸素還元活性評価の結果を下記表3に示す。表3に示すように、サイクル電位を付加しなかった各カーボン被覆金属配位ポリピロール電極と比較し、サイクル電位を付加した各カーボン被覆金属配位ポリピロール電極では、開回路電位(OCP)や、酸素還元電流の立ち上がり電位(VORR)の向上が観測され、サイクル電位印加による酸素還元活性の向上を確認できた。
【0051】
【表3】

【0052】
以上のことから、ポリピロールに配位する金属としてコバルト以外の金属を適用した場合であっても、酸素還元触媒の活性を向上させることができる。
【0053】
尚、上記実施例では、カーボン粒子上にポリピロール重合する例を挙げて説明したが、これに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0054】
本実施形態により、カーボン等の導電体微粒子に担持された金属配位ポリピロール酸素還元触媒に電位印加処理を加えることにより、金属が配位することなく酸素移動の妨げになっていたポリピロール鎖を除去し、触媒活性サイトへの酸素の到達割合を向上させることが可能となる。これにより、酸素還元触媒の酸素還元活性を向上させることが可能となる。
【0055】
また、上記電位印加処理により生成されたピロール酸化物、特にmaleimideは、そのLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギーが真空準位より低く(maleimide:−1.2eV)、酸素が吸着し、酸素還元反応の触媒として機能する。すなわち、本実施形態の金属配位ポリピロール酸素還元触媒への電位印加処理により、配位金属以外の活性サイトも形成することが可能となり、酸素還元活性をさらに向上させることが可能となる。
【0056】
以上好適な実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述した酸素還元触媒、酸素還元触媒の製造方法、電極、電極の製造方法、燃料電池、空気電池及び電子デバイスに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であるということは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の酸素還元触媒を担持する電極は、様々な電源として応用することが可能であり、例えば、車載用電源、家庭や工場等の定置式分散電源、あるいは携帯電子機器用の電源等に適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体微粒子に金属配位ポリピロールとピロール酸化物とを担持したことを特徴とする酸素還元触媒。
【請求項2】
前記金属配位ポリピロールは、前記金属配位ポリピロールの不可逆酸化が起こる電位を印加されていることを特徴とする請求項1記載の酸素還元触媒。
【請求項3】
前記ピロール酸化物は、maleimide、succinimide、dihydropyrroleの少なくとも1以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸素還元触媒。
【請求項4】
前記金属配位ポリピロールに配位される金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Au及びその組み合わせの少なくとも1以上であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の酸素還元触媒。
【請求項5】
前記導電体微粒子は、カーボンであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の酸素還元触媒。
【請求項6】
導電体微粒子に金属配位ポリピロールを重合する重合ステップと、
重合された前記金属配位ポリピロールに印加する印加ステップと、を有し、
前記印加ステップは、ピロール酸化物を生成することを特徴とする酸素還元触媒の製造方法。
【請求項7】
前記印加ステップは、前記金属配位ポリピロールの不可逆酸化が起こる電位を印加することを特徴とする請求項6記載の酸素還元触媒の製造方法。
【請求項8】
前記印加ステップは、低電位と高電位とを交互に印加することを特徴とする請求項6記載の酸素還元触媒の製造方法。
【請求項9】
前記印加ステップは、maleimide、succinimide、dihydropyrroleの少なくとも1以上を生成することを特徴とする請求項6から8の何れか1項に記載の酸素還元触媒の製造方法。
【請求項10】
前記重合ステップは、配位される金属がSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Au及びその組み合わせの少なくとも1以上である前記金属配位ポリピロールを前記導電体微粒子に重合することを特徴とする請求項6から9の何れか1項に記載の酸素還元触媒の製造方法。
【請求項11】
前記重合ステップは、カーボンに前記金属配位ポリピロールを重合することを特徴とする請求項6から10の何れか1項に記載の酸素還元触媒の製造方法。
【請求項12】
ピロール酸化物を添加するステップをさらに有することを特徴とする請求項6から11の何れか1項に記載の酸素還元触媒の製造方法。
【請求項13】
酸素還元触媒を有し、
前記酸素還元触媒は、導電体微粒子と、金属配位ポリピロールと、ピロール酸化物と、を含有することを特徴とする電極。
【請求項14】
前記金属配位ポリピロールは、前記金属配位ポリピロールの不可逆酸化が起こる電位を印加されていることを特徴とする請求項13記載の電極。
【請求項15】
前記ピロール酸化物は、maleimide、succinimide、dihydropyrroleの少なくとも1以上であることを特徴とする請求項13又は14に記載の電極。
【請求項16】
前記金属配位ポリピロールに配位される金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Au及びその組み合わせの少なくとも1以上であることを特徴とする請求項13から15の何れか1項に記載の電極。
【請求項17】
前記導電体微粒子は、カーボンであることを特徴とする請求項13から16の何れか1項に記載の電極。
【請求項18】
導電体微粒子に金属配位ポリピロールを重合する重合ステップと、
重合された前記金属配位ポリピロールに印加する印加ステップと、
印加された前記金属配位ポリピロールを塗布する塗布ステップと、を有し、
前記印加ステップは、ピロール酸化物を生成することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項19】
前記印加ステップは、前記金属配位ポリピロールの不可逆酸化が起こる電位を印加することを特徴とする請求項18記載の電極の製造方法。
【請求項20】
前記印加ステップは、低電位と高電位とを交互に印加することを特徴とする請求項18記載の電極の製造方法。
【請求項21】
前記印加ステップは、maleimide、succinimide、dihydropyrroleの少なくとも1以上を生成することを特徴とする請求項18から20の何れか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項22】
前記重合ステップは、配位される金属がSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Au及びその組み合わせの少なくとも1以上である前記金属配位ポリピロールを前記導電体微粒子に重合することを特徴とする請求項18から21の何れか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項23】
前記重合ステップは、カーボンに前記金属配位ポリピロールを重合することを特徴とする請求項18から22の何れか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項24】
ピロール酸化物を添加するステップをさらに有することを特徴とする請求項18から23の何れか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項25】
電極を有し、
前記電極は、請求項1から5の何れか1項に記載の酸化還元触媒を含有することを特徴とする燃料電池。
【請求項26】
電極を有し、
前記電極は、請求項1から5の何れか1項に記載の酸化還元触媒を含有することを特徴とする空気電池。
【請求項27】
電池を有し、
前記電池は請求項1から5の何れか1項に記載の酸化還元触媒を含有する電極を備えることを特徴とする電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−221157(P2010−221157A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72550(P2009−72550)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】