説明

重合体、その製造方法及び前記重合体から得られる炭素フィルム

【課題】有機ポリマーから高結晶性炭素フィルムをさらなる高収率にて製造する技術を提供すること。
【解決手段】下記(1)で表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5dlg-1である重合体及びその重合体を焼成した炭素フィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体、その製造方法及び前記重合体から得られる炭素フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキサジアゾール(POD)やカプトンに代表されるポリイミド(PI)フィルムは、炭素化が固相で進行するにもかかわらず、きわめて結晶性の高い炭素フィルムを与えることが知られている(例えば、非特許文献1)。近年、PIフィルムから得られる高結晶性炭素フィルムは、フィルム面内の熱拡散率が大きいことを活かして、小型電子機器の放熱材に利用されるようになっている。これらの高分子フィルムが特異な炭素化挙動を示す要因として、分子が高い平坦性と選択配向性をもつことや、炭素化過程における炭素以外の元素の脱離が容易なことが挙げられている(非特許文献2)。ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー(BBLポリマー)は、ナフタレンテトラカルボン酸(NTCA)とベンゼンテトラアミン(BTA)を重縮合して得られるはしご状の高分子である。BBLポリマーはPODやPIに比べて分子の平坦性が高く、また耐熱性も高いため、より高収率で高結晶性炭素フィルムを与える(非特許文献3)。PODおよびPIフィルムの炭素化収率(高分子フィルムの質量に対する、得られた高結晶性炭素フィルムの質量の比)が、およそ50%程度であるのに対して、BBLポリマーのそれは64%である。
【0003】
そこで、さらなる高収率化が達成できる高結晶性炭素フィルムを製造する技術の開発が求められている。
【0004】
【非特許文献1】Synth. Met., 509 (1987)
【非特許文献2】Chem. Phys. Carbon, 26, 245 (1999)
【非特許文献3】第34回炭素材料学会年会要旨集,314-315 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術の流れに鑑み、本発明の課題は、有機ポリマーから高結晶性炭素フィルムをさらなる高収率にて製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、下記重合体から炭素フィルムを製造すると、驚くべきことには、炭素化収率が64%を大きく超えるという知見を得た。本発明者らは、この知見に基づきさらに研究を重ね、ついに本発明を完成させた。
なお、重合体から炭素化収率が64%を大きく超える炭素フィルムを製造できる理由は解明されているわけではないが、ほぼ次のように考えられる。例えば、前記BBLポリマーは完全に平坦な分子であるため、重縮合して分子が成長する際の立体障害が大きく、分子量を大きくすることが難しい。そのため、分子鎖末端の割合が大きくなり、この部分が炭素化時に容易に分解・脱離するため、高分子中の炭素含有率に匹敵する高い炭素化収率が達成できない。ところが、重合体は分子鎖に単結合が導入されているので、分子鎖の回転が可能となり、その結果、重縮合時の立体障害を小さくすることができ、分子量を大きくすることを可能にした。
【0007】
即ち、本発明は以下の発明からなる。
(1)下記一般式(1)、(2)及び(3)のいずれか一つで表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする重合体。





【0008】
(2)ビナフチルテトラカルボン酸とビフェニルテトラアミンとを反応させることを特徴とする上記(1)記載の一般式(1)で表される繰り返し単位からなる重合体の製造方法。
(3)ビナフチルテトラカルボン酸とベンゼンテトラアミンとを反応させることを特徴とする上記(1)記載の一般式(2)で表される繰り返し単位からなる重合体の製造方法。
(4)ナフタレンテトラカルボン酸とビフェニルテトラアミンとを反応させることを特徴とする上記(1)記載の一般式(3)で表される繰り返し単位からなる重合体の製造方法。
(5)上記(1)記載の一般式(1)、(2)及び(3)のいずれか一つで表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする炭素フィルム製造用重合体。
(6)上記(1)記載の一般式(1)、(2)及び(3)のいずれか一つで表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1である重合体を焼成して得ることを特徴とする炭素フィルム。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の重合体には、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする重合体が含まれる。
上記重合体としては、固有粘度が1.0〜3.5 dlg-1である重合体がより好ましい。高分子の固有粘度(η)は分子量の指標となる物性値であり、分子量が大きくなるにつれてηは大きくなる。固有粘度の測定法はすでに知られており、本発明では重合体をメタンスルホン酸に溶解し、濃度0.15gdl−1と調整し、30℃雰囲気において測定した。

【0010】
本発明の重合体には、下記一般式(2)で表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする重合体が含まれる。

上記重合体としては、固有粘度が1.0〜2.7 dlg-1である重合体がより好ましい。
本発明の重合体には、下記一般式(3)で表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする重合体が含まれる。

上記重合体としては、固有粘度が1.0〜2.2 dlg-1である重合体がより好ましい。
【0011】
以下、本発明の重合体の製造方法について説明する。
本発明の上記一般式1で表される繰り返し単位からなる重合体は、ビナフチルテトラカルボン酸またはその酸塩化物,酸無水物,エステルまたはアミド等のビナフチルテトラカルボン酸誘導体とビフェニルテトラアミンまたはその塩とを反応させて得ることができる。ビナフチルテトラカルボン酸としては、4,4‘−ビナフチル−1,l‘,8,8‘−テトラカルボン酸を例示でき、ビフェニルテトラアミンとしては3,3‘,4,4 ‘−ビフェニルテトラアミンを例示できる。ビフェニルテトラアミンの塩としては3,3‘,4,4 ‘−ビフェニルテトラアミンの四塩酸塩を例示できる。
前記ビナフチルテトラカルボン酸またはそのカルボン酸誘導体とビフェニルテトラアミンまたはその塩とを、溶媒を収めた反応容器内に添加し、100〜250℃で3〜 48時間、攪拌させて、上記一般式1で表される繰り返し単位からなる重合体を得ることができる。前記溶媒としては、前記出発材料及び生成する重合体を溶解し、重合を促進する触媒としての作用を有するものであれば特に制限されない。具体的には、ポリリン酸、
ポリリン酸エステル、リン酸ジフェニルクレシル等や五酸化二リン等を溶解したメタンスルホン酸等を挙げることができる。
【0012】
本発明の上記一般式2で表される繰り返し単位からなる重合体は、ビナフチルテトラカルボン酸またはその酸塩化物,酸無水物,エステルまたはアミド等のビナフチルテトラカルボン酸誘導体とベンゼンテトラアミンまたはその塩とを反応させて得ることができる。ベンゼンテトラアミンとしては1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンを例示できる。ベンゼンテトラアミンの塩としては1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンの四塩酸塩を例示できる。ビナフチルテトラカルボン酸またはそのカルボン酸誘導体の具体例は上記のとおりである。
前記ビナフチルテトラカルボン酸またはそのカルボン酸誘導体とベンゼンテトラアミンまたはその塩とから、上記一般式2で表される繰り返し単位からなる重合体を得る反応条件は、上記一般式1で表される繰り返し単位からなる重合体を得る条件と重複する。
【0013】
本発明の上記一般式3で表される繰り返し単位からなる重合体は、ナフタレンテトラカルボン酸またはその酸塩化物,酸無水物,エステルまたはアミド等のナフタレンテトラカルボン酸誘導体とビフェニルテトラアミンまたはその塩とを反応させて得ることができる。ナフタレンテトラカルボン酸としては、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸を例示でき、ビフェニルテトラアミンまたはその塩の具体例は上記のとおりである。
前記ナフタレンテトラカルボン酸またはそのカルボン酸誘導体とビフェニルテトラアミンまたはその塩とから、上記一般式3で表される繰り返し単位からなる重合体を得る反応条件は、上記上記一般式1で表される繰り返し単位からなる重合体を得る条件と重複する。
【0014】
4,4‘−ビナフチル−1,l‘,8,8‘−テトラカルボン酸は、4−クロロ−1,8−ナフタル酸無水物から,エステル化,カップリングおよび加水分解の3ステップによって合成することができる。あるいは、市販品を購入しても良い。
1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸は、ピレンから過マンガン酸カリウムによる酸化、次亜塩素酸ナトリウム溶液による酸化の2ステップによって合成することができる。あるいは、市販品を購入しても良い。
【0015】
1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンはm一クロロベンゼンから、ニトロ化、アミノ化およびニトロ基の還元の3ステップによって合成し、四塩酸塩として単離して使用することができる。あるいは、市販品を購入しても良い。
3,3‘,4,4 ‘−フェニルテトラアミンは、o(オルト)-ニトロアニリンからヨウ素化,クロスカップリング,アミノ基の還元の3ステップによって合成することができる。あるいは、市販品を購入しても良い。
【0016】
かくして得られた上記一般式(1)、(2)及び(3)の重合体から選ばれた少なくとも一つの重合体を原料として、炭素フィルムを得ることができる。すなわち、本発明は、上記一般式(1)、(2)及び(3)のいずれか一つで表されることを特徴とする炭素フィルム製造用重合体の発明でもある。
【0017】
炭素フィルムを製造する際には、上記一般式(1)、(2)及び(3)の重合体から選ばれた一つの重合体、あるいは前記重合体の複数を混合し、次いで焼成し、炭素フィルムとすることができる。
【0018】
本発明では、前記重合体あるいは重合体混合物を予めフィルム状に成形することが望ましく、当該フィルムを焼成することが望ましい。当該重合体あるいは重合体混合物をフィルム状に成形する手段は特に制限されない。
【0019】
前記重合体フィルムを焼成する手段をより詳しく説明する。前記重合体フィルムを不活性雰囲気に焼成することが好ましい。ここで不活性雰囲気とは、酸素など酸化活性の気体がない雰囲気を意味し、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの雰囲気が好ましい。特にアルゴン雰囲気が好ましい。
焼成温度は、1200〜2800℃が好ましく、焼成時間は約1〜8時間とすることが好ましい。
【0020】
前記重合体フィルムを焼成する際、張力を与えながら、あるいはフィルム面に垂直に圧力を加えながら炭化処理することが好ましく、それによって、炭化の際に起こる収縮を押さえ、炭化中の前駆体が配向しやすいために、強度の強い炭化物ができる。
前記重合体フィルムを焼成する際、フィルムの成型過程において重合体分子が自発的に高度な配向構造を形成するため,応力を付加しなくても高結晶性炭素フィルムを製造することができる。
【0021】
かくして製造された炭素フィルムは密度が高く、高結晶性の炭素フィルムである。完全な炭素結晶の密度は結晶構造から求めることが可能であり、その値は2.26 g cm-3であると知られている。この値に近いほど結晶性が高いことになる。既存のBBLポリマー(比較例1)から得られた炭素フィルムの密度が2.19 g cm-3である。前記一般式(2)で表される繰り返し単位からなる重合体からはこれに匹敵する密度の炭素フィルムを得ることができた。結晶性を評価する手段としては,広角X線回折が一般的であるが、今回得られたような非常に結晶性の高い炭素フィルムに適用すると、結晶サイズや面間隔の決定に非常に大きな誤差を生じる可能性がある。これに対して、密度測定は非常に精度良く測定可能であり、その点でも有利である。 また、本発明の炭素フィルムは炭素結晶のc軸がフィルムの法線方向に,高度に配向していることも一つの特徴である。本発明により得られた炭素フィルムは配向の程度が従来のものに比べて高いという特徴を持つ。
【0022】
本発明の炭素フィルムは、例えば小型電子機器の放熱材料、リチウム二次電池の負極材料、電池材料の導電助剤、X線のモノクロメータ、モータのブラシ材など公知の用途に適用できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、有機ポリマーから高結晶性炭素フィルムをさらなる高収率にて製造することが可能となった。特に、BBLポリマー由来の炭素フィルムと同程度の高い結晶性をもった炭素フィルムを、より重合の容易な高分子から、より高い収率で製造することができた。上記炭素フィルムは、高密度で、変形のない緻密で平滑な炭素フィルムであり、多くの用途に適用できる。
また、本発明により、より固有粘度が高い重合体、すなわち、より高分子量の重合体を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施例等により説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
実施例1〜3 重合体の調製
メカニカルスターラ,アルゴンガス導入管,排気管および温度計を装着した,200 ml四つ首フラスコ中にポリリン酸(PPA)(オルトリン酸換算濃度115%)100gを収め、アルゴンガスをバブリングして溶存酸素を除去し、下記表1記載のテトラアミン12mmolを加え溶解させた。次に、下記表1記載のテトラカルボン酸12mmolを加え、200℃において24時間攪拌して、重合体のPPA溶液を得た。
当該重合体のPPA溶液を大量の水に投入して重合体を凝固させ、ロ別し、得られた重合体を水およびメタノール(MeOH)で順次洗浄した後、室温で減圧乾燥し、粗高分子を得た。 粗高分子に残留するPPAを除去するために、粗高分子をメタンスルホン酸(MSA)に溶解し、この溶液を大量の水に投入して重合体を凝固させ、水、ジメチルアセトアミド(DMAc)およびMeOHで順次洗浄した後、240℃において24時間減圧乾燥し、重合体精製物を得た。
重合体の固有粘度(η)は濃度0.15gdl−1のMSA溶液について、30℃においてオストワルト粘度計(柴田科学株式会社製)を用いて測定した。
その結果を表1に記載した。
また、重合体の元素分析値を測定した。測定にて使用した機器はCE Instruments社製 EA1110である.
その結果を表2に記載した。
【0025】
比較例1
出発物質としてのテトラアミン及びテトラカルボン酸として、表1記載の化合物を用い、それ以外は実施例1〜3と同様に操作して、重合体精製物を得た。
当該重合体の固有粘度(η)を実施例1〜3と同様にして測定した。
その結果を表1に記載した。
【0026】
表1



表2


【0027】
重合体の重合挙動を表1にまとめた。いずれの高分子についても、重合収率はほぼ定量的であった。また、実施例1〜3の重合体の固有粘度(η)は大きく、特に実施例1及び2のηは比較例1の重合体のηに比べて著しく大きくなり、本発明で用いた出発物質は高分子量化に有効であることがわかった。
【0028】
実施例 4〜6
(重合体フィルムの作製)
実施例1〜3で調製した重合体0.3gをMSA7 mlに溶解させて得られた粘稠な溶液を,内径70mmのガラス製フラットシャーレに展開した.このシャーレをマントルヒータ内に置いた500ml平底セパラブルフラスコ内に水平を保って静置した.セパラブルフラスコ内をロータリーポンプで減圧した後,段階的に200℃まで加熱して脱溶媒させ,重合体フィルムを作製した.
前記重合体フィルムは容易にガラスシャーレから剥離することができた。フィルム中に残留するメタンスルホン酸を除去するために,トリエチルアミンのメタノール溶液に室温で12時間浸漬し,ついでメタノールで洗浄した後,減圧乾燥した。得られたフィルムの厚さはおよそ50ミクロンであった。フィルムはいずれも柔軟で,所望の形状に切断することが可能であった。
(炭素フィルムの作製)
前記重合体フィルムは以下に示す2段階の熱処理によって炭素化した。
所定の形状に切断した重合体フィルムを、黒鉛板にはさみシリコンカーバイドをヒータとする電気炉内(自作)に置いた。電気炉内に窒素ガスを250mlmin-1の流量で流通させながら、2℃min-1の速度で加熱し、1500℃で1時間保持して熱処理し、炭素フィルムを得た。
前記炭素フィルムを黒鉛板にはさみ黒鉛をヒータとする電気炉内(進成電炉製作所製)に置いた。電気炉内にアルゴンガスを2000mlmin-1の流量で流通させながら、5℃ min-1の速度で加熱し,2800℃で1時間保持して熱処理し、炭素フィルムを得た。
前記重合体フィルムおよび炭素フィルムの密度は、浮沈法を用いて25℃において測定した。密度液には、n−へブタン、四塩化炭素、1,2一二臭化エチレンおよび1,1,2,2一四臭化エタンの混合液を用いた。測定には10 mlゲーリュサック型比重ビン(三商製)を用いた.
その結果を表3に記載した。
【0029】
比較例2
比較例1で得た重合体を用い、実施例4〜6と同様に操作し、炭素フィルムを得た。
前記重合体フィルムおよび炭素フィルムの密度を、実施例4〜6と同様に操作し、密度を測定した。
その結果を表3に記載した。
【0030】
本発明が規定する高分子フィルムを炭素化すると、いずれのフィルムについても、変形のない緻密で平滑な炭素フィルムが得られた。これらの点は、巨視的形状(肉眼で見た形状)の変化が小さいことに加えて、電子顕微鏡による観察結果からの結論であり、また、炭素フィルムの密度の測定結果等からの結論である。
炭素化温度2800℃における比較例1での重合体(BBLポリマー)の炭素化収率は63.9%であり、これは高分子中の炭素原子の88.9%が残存したことに相当する。これに対して、実施例1での重合体の炭素化収率および炭素原子の残存率は、それぞれ76.7および95.2%であった。実施例2での重合体の炭素化収率および炭素原子の残存率は、それぞれ69.2および93.7%であり、実施例3での重合体の炭素化収率および炭素原子の残存率は、それぞれ76.7および91.0%であった。本発明が規定する今回合成した高分子に関しては、分子鎖への単結合の導入は熱安定性の低下をもたらさず、むしろ炭素含有率の増加によって、炭素化収率および炭素原子の残存率を増加させることがわかる。
炭素フィルムの密度は、結晶性の違いによって敏感に変化する物性値の一つであり、測定も容易なことから、結晶性を表す指標として用いることができる。高い結晶性と結晶の高い選択配向性をもつ比較例1の重合体由来の炭素フィルムの密度は2.19gcm−3であった。これに対して、実施例2の重合体由来の炭素フィルムの密度は、比較例1の重合体由来の炭素フィルムの密度に匹敵する密度2.18gcm−3の炭素フィルムを得ることができた。
以上のように、BBLポリマー由来の炭素フィルムと同程度の高い結晶性をもった炭素フィルムを、より重合の容易な高分子から、より高い収率で製造することができた。
【0031】
表3


上記表中、炭素化収率及び炭素原子残存率は下式に基づき算出した。
炭素化収率=((炭素フィルムの質量)/(高分子フィルムの質量))x100
炭素原子残存率=((炭素化収率)/(高分子の炭素含有率))x100
【0032】
本発明を次のように記載することもできる。
(1)下記一般式で表され、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする重合体。
(一般式)


(官能基1)


(官能基2)


(官能基3)


(官能基4)

(式中、Arは官能基1又は官能基2を示し、Arは官能基3又は官能基4を示し、nは重合度を示す自然数である。ただし、Arが官能基2のときはArは官能基4ではない。)
(2)上記一般式で表される重合体からなることを特徴とする炭素フィルム製造用重合体。
【0033】
(3)下記一般式(4)、(5)及び(6)で表されるいずれかの重合体からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする重合体。但し、式中、nは自然数である。





(4)上記(3)記載の重合体からなることを特徴とする炭素フィルム製造用重合体。
(5)上記(1)又は(3)記載の重合体を不活性ガス雰囲気下にて焼成することを特徴とする炭素フィルムの製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、(2)及び(3)のいずれか一つで表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする重合体。





【請求項2】
ビナフチルテトラカルボン酸とビフェニルテトラアミンとを反応させることを特徴とする請求項1記載の一般式(1)で表される繰り返し単位からなる重合体の製造方法。
【請求項3】
ビナフチルテトラカルボン酸とベンゼンテトラアミンとを反応させることを特徴とする請求項1記載の一般式(2)で表される繰り返し単位からなる重合体の製造方法。
【請求項4】
ナフタレンテトラカルボン酸とビフェニルテトラアミンとを反応させることを特徴とする請求項1記載の一般式(3)で表される繰り返し単位からなる重合体の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(1)、(2)及び(3)のいずれか一つで表される繰り返し単位からなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1であることを特徴とする炭素フィルム製造用重合体。





【請求項6】
請求項1記載の一般式(1)、(2)及び(3)のいずれか一つで表される繰り返し単位からからなり、固有粘度が0.5〜3.5 dlg-1である重合体を焼成して得ることを特徴とする炭素フィルム。

【公開番号】特開2010−126691(P2010−126691A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305115(P2008−305115)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】