説明

重合体の製造装置および製造方法

【課題】長期間安定的に連続して運転することができる重合体の製造装置を提供する。
【解決手段】反応槽、圧力調整弁および脱揮押出機を備え、反応槽より得られる重合体組成物が圧力調整弁を通じて脱揮押出機に供給されるように構成された、重合体の製造装置において、圧力調整弁(20)に、弁体(1)と、弁体(1)を収容する空間(3)を有するボディ(5)と、弁体(1)を支持および操作するステム(9)と、ステム(9)を摺動可能に案内するガイド(13)と、ステム(9)の表面とガイド(13)の内壁面との間の隙間(11)へ重合禁止剤を含有する液体を導入する液体導入口(17)とを設ける。隙間(11)は、液体導入口(17)から導入された液体がボディ(5)内の空間(3)に流入するように空間(3)と連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系重合体等の重合体の製造方法として、反応槽にて溶液重合法や塊状重合法を実施して重合体および未反応単量体を含む重合体組成物を得、脱揮押出機を用いて重合体組成物から未反応単量体を主とする揮発性成分を除去し、その押出物として重合体を得る方法が知られている(例えば、特許文献1〜4を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭50−40688号公報
【特許文献2】特開2003−96105号公報
【特許文献3】特開2000−211010号公報
【特許文献4】特開2005−112870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる重合体の製造方法において、反応槽内の圧力を調整するために圧力調整弁が使用され、圧力調整弁を通じて得られる重合体組成物が脱揮押出機に供給されている(特許文献4を参照のこと)。
【0005】
しかしながら、一般的な圧力調整弁を用いた従来の重合体の製造装置では、長期間連続して運転すると圧力調整弁の動作が鈍くなり、長期間に亘って安定的に連続して運転することができないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、長期間安定的に連続して運転することができる重合体の製造装置を提供すること、および、そのような製造装置を用いて実施される重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的な圧力調整弁において、弁体を支持および操作するステムは、ステムを摺動可能に案内するガイドに挿入されており、このステムの表面とガイドの内壁面との間の隙間に、重合体組成物が入り込み、その場で(例えば熱等により)該重合体組成物中の未反応単量体が重合し、これにより生じた重合体がステムやガイドに付着するものと考えられる。そして、重合体の製造装置を長期間連続して運転すると、かかる重合体の付着物がステムの摺動を阻害するため、圧力調整弁の動作が鈍くなる(換言すれば、弁体を意図した通りに滑らかに操作できなくなる)ものと理解される。本発明者らは、圧力調整弁のステムやガイドに重合体が付着することを防止できる重合体の製造装置について鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
[1] 反応槽、圧力調整弁および脱揮押出機を備え、反応槽より得られる重合体組成物が圧力調整弁を通じて脱揮押出機に供給されるように構成された、重合体の製造装置であって、
圧力調整弁が、弁体と、弁体を収容する空間を有するボディと、弁体を支持および操作するステムと、ステムを摺動可能に案内するガイドと、ステムの表面とガイドの内壁面との間の隙間へ重合禁止剤を含有する液体を導入する液体導入口とを含み、該隙間は、液体導入口から導入された液体がボディ内の空間に流入するように該空間と連通している、重合体の製造装置。
[2] 圧力調整弁が、ステムとガイドとの間を封止する封止部にてランタンリングを更に含み、液体導入口が、ランタンリングに隣接して配置される、前記[1]に記載の重合体の製造装置。
[3] 前記[1]または[2]に記載の重合体の製造装置を用いて、
単量体および重合開始剤を含む原料を反応槽にて、圧力調整弁によって反応槽内の圧力を調整しつつ、重合反応に付して、重合体および未反応単量体を含む重合体組成物を反応槽より抜き出すこと、
重合禁止剤を含有する液体を圧力調整弁の液体導入口より導入しながら、反応槽より抜き出した重合体組成物を圧力調整弁のボディ内の空間に通じて、該液体と混合されて成る重合体組成物を得ること、および
圧力調整弁を通じて得られた該液体と混合されて成る重合体組成物を脱揮押出機に供給し、該重合体組成物から未反応単量体を含む揮発性成分が少なくとも部分的に除去された押出物を脱揮押出機から取り出し、該押出物として重合体を得ること
を含む、重合体の製造方法。
[4] 重合禁止剤を含有する液体が、重合禁止剤を単量体に溶解させた液体である、前記[3]に記載の重合体の製造方法。
[5] 重合禁止剤を含有する液体における重合禁止剤の含有量が、該液体全量を基準として5〜2000重量ppmである、前記[3]または[4]に記載の重合体の製造方法。
[6] 圧力調整弁への重合体組成物の供給流量と、重合禁止剤を含有する液体の供給流量との比が、80:20〜99.9:0.1の範囲にある、前記[3]〜[5]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧力調整弁のステムやガイドに重合体が付着することを防止でき、これにより、長期間安定的に連続して運転することができる重合体の製造装置が提供される。また、本発明によれば、そのような製造装置を用いて実施される重合体の製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の1つの実施形態における重合体の製造装置に用いられる圧力調整弁の概略断面図であり、(a)は開状態を示し、(b)は閉状態を示す。
【図2】(a)は図1に示す圧力調整弁の概略部分拡大図であり、(b)は(a)の改変例の圧力調整弁の概略部分拡大図である。
【図3】本発明の1つの実施形態における重合体の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の重合体の製造装置は、反応槽、圧力調整弁および脱揮押出機を少なくとも備える。以下、まず、圧力調整弁について説明し、かかる圧力調整弁を用いた本発明の重合体の製造装置について、そして、この製造装置を用いて実施される本発明の重合体の製造方法について説明する。
【0012】
本発明の重合体の製造装置に使用される圧力調整弁20は、例えば図1に示すように、弁体1と、弁体1を収容する空間3を有するボディ5と、弁体1を支持および操作するステム9と、ステム9を摺動可能に案内するガイド13と、ステム9の表面とガイド13の内壁面との間の隙間11へ重合禁止剤を含有する液体(以下、重合禁止剤含有液体とも言う)を導入する液体導入口17とを含む。この隙間11は、液体導入口17から導入された重合禁止剤含有液体がボディ5内の空間3に流入するように、空間3と連通している。
【0013】
圧力調整弁20は、後述する反応槽内の圧力を調整するために用いられる。反応槽より得られる重合体組成物は、ボディ(または弁箱)5の入口7aから供給され、ボディ5の空間3を通過して、出口7bから流出する(図1中、重合体組成物の流れ方向を白抜き矢印にて示す)。弁体1によって、圧力調整弁20における重合体組成物の出口7bからの流出量が調整され、その結果、反応槽内の圧力が調整される。
【0014】
弁体(またはディスク)1は、ステム9を駆動部19によりガイド13の内壁面に沿って摺動させる(図1に示す態様ではステム9の軸方向に上下動させる)ことによって操作される。なお、ステム9を摺動により操作する間、弁体1はステム9に支持されたままの状態で保持される。
【0015】
図1においては、いわゆるグローブバルブタイプの圧力調整弁20を示しており、ステム9を駆動部19によってガイド13内で上下動させることによって、ステム9の先端に支持された弁体1も上下動する。弁体1が下位置にあるとき(図1(b)参照)は、弁体1がボディ5のシート部(または弁座)5aに嵌合し(または押し付けられ)、重合体組成物が空間3を通過するのを停止させる(閉状態)。弁体1が上位置(図1(a)参照)にあるときは、重合体組成物は弁体1とシート部5aとの間を通って空間3を通過させる(開状態)。そして、弁体1の上下方向における位置(開度)をステム9を通じて調整することによって、圧力調整弁20からの重合体組成物の流出量ひいては反応槽内の圧力を調整することができる。なお、シート部5aは、ボディ5と一体であっても、別個の部材であってもよい。
【0016】
しかしながら、本発明に利用可能な圧力調整弁はこれに限定されず、ステム9がガイド13内で摺動することによって、ステム9に支持された弁体1の動作を操作でき、この結果、圧力調整弁20からの重合体組成物の流出量ひいては反応槽内の圧力を調整できる限り、任意の適切な構成を適用してよい。例えば、図1に示す圧力調整弁20を入口および出口を反対にして用いて(すなわち、入口7aおよび出口7bをそれぞれ出口および入口に変更して用いて)、重合体組成物を図1に白抜き矢印にて示す方向と逆方向に流してもよい。また例えば、いわゆるゲートバルブ、ニードルバルブ(これらは、弁体を支持したステムが軸方向に上下動する)などの他の構成を適用することができ、弁体1の形状およびボディ5の構造などはそれに応じて選択され得る。
【0017】
ステム9およびガイド13に関して、ステム9がガイド13の内壁面に沿って摺動可能なように、これらの間に隙間11が存在する。隙間11は、液体導入口17から導入された重合禁止剤含有液体の流路としての機能も果たす。隙間11のサイズ(代表的には、ガイド13の内径からステム9の外径を差引いて2で割った値)は、特に限定されないが、例えば0.01〜15mm、好ましくは0.1〜10mmである。隙間のサイズを上記上限値以下とすることによって、ステム9をガイド13内で適切に摺動させることができ、上記下限値以上とすることによって、液体導入口17から隙間11に導入された重合禁止剤含有液体を空間3に流入させ易く、隙間11に重合体組成物が入り込むことを抑制する効果を確保できる。
【0018】
ステム9とガイド13との間の隙間11は、一般的には弁体1と反対側の端部において、封止部15により封止される。封止部15を設けることによって、ボディ5の空間3内の圧力を保持することができ、また、外部から不純物が重合体組成物中に混入することを防止することもできる。封止部15には公知の軸シールを適用できる。本実施形態では、図1および図2(a)に示すように、封止部15にグランドパッキンを用いているが、これに限定されず、グランドパッキンの他、Oリングシール、ベローズシール等によって形成することもできる。
【0019】
液体導入口17は、ステム9の表面とガイド13の内壁面との間の隙間11へ重合禁止剤含有液体を導入し得る限り、任意の適切な場所に1個または2個以上で設けられ得る。例えば、図1および図2(a)に示すように、液体導入口17を封止部15と空間3との間に配置してよい。また例えば、図2(b)に示すように、封止部15がパッキン15aおよびランタンリング15b(ランタンリング15bは図示するようにパッキン15aの間に位置し得るが、これに限定されない)を備える場合、液体導入口17をランタンリング15bに隣接して配置してよい。
【0020】
かかる圧力調整弁20を反応槽内の圧力調整に用いれば、液体導入口17より導入された重合禁止剤含有液体が隙間11を通ってボディ5内の空間3に流入するので、この重合禁止剤含有液体の流れによって、重合体組成物が隙間11に入り込むことを効果的に防止でき、更に、重合禁止剤含有液体中の重合禁止剤により、重合体組成物に含まれる未反応単量体が新たに重合することを防止できる。この結果、ステム9やガイド13に重合体が付着することを効果的に防止でき、圧力調整弁20を長期間連続して運転しても、固結することなく、良好に動作させ続けることができる。
【0021】
次に、かかる圧力調整弁20を用いた本発明の重合体の製造装置について説明する。
【0022】
本発明の重合体の製造装置100は、図3に示すように、反応槽40、圧力調整弁20および脱揮押出機60を少なくとも備え、反応槽40より得られる重合体組成物が圧力調整弁20を通じて脱揮押出機60に供給されるように構成される。
【0023】
重合体の製造装置100は、本実施形態において、単量体原料液タンク31および重合開始剤液タンク33を更に備え得る。これらタンク31および33はそれぞれポンプ35および37ならびに原料供給ライン39を通じて反応槽40の供給口41aに接続される。
【0024】
反応槽40は完全混合型の反応槽であることが好ましい。具体的には、反応槽40は、供給口41aと抜き出し口41bとを有し、好ましくは、反応槽の外壁面の温度を調節するための温度調節手段としてジャケット43と、内容物を撹拌するための撹拌機45とを更に有する。抜き出し口41bは、本実施形態を限定するものではないが、好ましくは反応槽の頂部に位置するように設けられる。他方、供給口41aは、本実施形態を限定するものではないが、一般的には反応槽の下方の適切な位置に設けられ得る。更に、反応槽40は、反応槽内の温度および圧力をそれぞれ検知する温度センサTおよび圧力センサPを備え得る。なお、圧力センサPの検知部は、反応槽内の圧力を把握できる限り、必ずしも反応槽40の内部に備えられていなくてよく、反応槽40の外部に、例えば、抜き出し口41bを下流機器に接続する接続ライン上において、抜き出し口41b近傍に設けてもよい(図3中、記号Pを点線にて囲んで示す)。
【0025】
また、重合体の製造装置100は、本実施形態において、反応槽40と圧力調整弁20との間に予熱器50を更に備え得る。反応槽40の抜き出し口41bが予熱器50の入口に接続され、予熱器50の出口が圧力調整弁20の入口7aに接続される。予熱器50には、粘性流体を加熱し得る限り、任意の適切な加熱器を用い得る。なお、重合体の製造装置100が予熱器50を備える場合には、圧力センサPは、抜き出し口41bと予熱器50との接続ライン上において、抜き出し口41b近傍に設けてもよい(図3中、記号Pを点線にて囲んで示す)。
【0026】
圧力調整弁20は上述の通りである。圧力調整弁20の出口7bは、脱揮押出機60の供給口61に接続される。また、重合体の製造装置100は、本実施形態において、重合禁止剤含有液体タンク51を更に備え得る。このタンク51はポンプ53を通じて圧力調整弁20の液体導入口17に接続される。
【0027】
脱揮押出機60には、スクリュー式の単軸または多軸の脱揮押出機を用い得る。脱揮後の押出物は、取り出しライン65より取り出される。更に、重合体の製造装置100は、本実施形態において、脱揮押出機60にて分離される揮発性成分(主に未反応単量体を含んで成る)から分離回収した単量体を貯蔵する回収タンク67を更に備えていてもよい。
【0028】
次に、かかる製造装置を用いて実施される本発明の重合体の製造方法について説明する。
【0029】
本発明の重合体の製造方法は、上記のような重合体の製造装置100を用いて、
単量体および重合開始剤を含む原料を反応槽40にて、圧力調整弁20によって反応槽内の圧力を調整しつつ、重合反応に付して、重合体および未反応単量体を含む重合体組成物を反応槽40より抜き出すこと(重合工程)、
重合禁止剤含有液体を圧力調整弁20の液体導入口17より導入しながら、反応槽40より抜き出した重合体組成物を圧力調整弁20のボディ5内の空間3に通じて、重合禁止剤含有液体と混合されて成る重合体組成物を得ること(圧力調整弁通過工程)、および
圧力調整弁20を通じて得られた重合禁止剤含有液体と混合されて成る重合体組成物を脱揮押出機60に供給し、この重合体組成物から未反応単量体を含む揮発性成分が少なくとも部分的に除去された押出物を脱揮押出機60から取り出し、該押出物として重合体を得ること(脱揮押出工程)
を含む。
【0030】
以下、原料および重合禁止剤含有液体の準備について、そして各工程についてより詳細に説明する。なお、本実施形態では、一例として、メタクリル酸エステル系単量体を連続重合する場合、換言すれば、重合体としてメタクリル酸エステル系ポリマーを製造する場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。また、本発明において重合工程は、塊状重合法および溶液重合法のいずれで実施してもよいが、本実施形態では溶媒を使用しない塊状重合法で実施する場合について説明する。
【0031】
・原料の準備
まず、原料として単量体および重合開始剤などを準備する。
【0032】
原料単量体として、本実施形態では、メタクリル酸エステル系単量体を用いる。
メタクリル酸エステル系単量体としては、例えば、
・メタクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数が1〜4であるもの)単独、または
・メタクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数が1〜4であるもの)80重量%以上と、これと共重合可能な他のビニル単量体20重量%以下との混合物
が挙げられる。
メタクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数が1〜4であるもの)としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどが挙げられ、なかでも、メタクリル酸メチルであることが好ましい。上記例示のメタクリル酸アルキルは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
共重合可能なビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸エステル類(但し、上記メタクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数が1〜4であるもの)を除く);アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸またはこれらの酸無水物;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロールなどのヒドロキシル基含有モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー;アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体が挙げられる。
【0033】
重合開始剤として、本実施形態では、例えばラジカル開始剤を用いる。
ラジカル開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、カプリエルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、イソプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキシジカーボネート、s−ブチルパーオキシジカーボネート、n−ブチルパーオキシジカーボネート、2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−エチルヘキサノエート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソノナエート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシ−イソノナエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
重合開始剤は、生成する重合体(ポリマー)や使用する原料単量体(モノマー)の種類に応じて選定される。例えば、本発明を特に限定するものではないが、ラジカル重合開始剤は、重合温度での半減期が1分以内であるものが好ましい。重合温度での半減期が1分以内であれば、反応速度が遅くなり過ぎず、連続重合装置での重合反応に適する。
【0035】
重合開始剤(ラジカル重合開始剤)の供給量は、特に限定されるものではないが、通常、原料の単量体(最終的に反応槽40に供給される単量体)100重量部に対して0.001〜1重量部である。2種以上の重合開始剤を混合して使用する場合、その合計使用量がこの範囲となるようにすればよい。
【0036】
上記原料単量体および重合開始剤に加えて任意の適切な他の成分、例えば連鎖移動剤や、離型剤、ブタジエンおよびスチレンブタジエンゴム(SBR)などのようなゴム状重合体を用いてよい。連鎖移動剤は、生成する重合体の分子量を調整するために用いられる。離型剤は、得られる重合体の成形性を向上させるために用いられる。
【0037】
連鎖移動剤としては、単官能および多官能のいずれの連鎖移動剤であってもよく、具体的には、例えば、n−プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、2−エチルヘキシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;フェニルメルカプタン、チオクレゾールなどの芳香族メルカプタン;エチレンチオグリコールなどの炭素数18以下のメルカプタン類;エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコール類;水酸基をチオグリコール酸または3−メルカプトプロピオン酸でエステル化したもの、1,4−ジヒドロナフタレン、1,4,5,8−テトラヒドロナフタレン、β−テルピネン、テルピノーレン、1,4−シクロヘキサジエン、硫化水素などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0038】
連鎖移動剤の供給量は、使用する連鎖移動剤の種類などによって相違することから、特に限定されるものではないが、例えば、メルカプタン類を使用する場合には、原料の単量体(最終的に反応槽40に供給される単量体)100重量部に対して0.01〜3重量部であることが好ましく、0.05〜1重量部であることがより好ましい。この範囲の使用量が、重合体の機械的性質を損なわず、熱安定性を良好に保つので好ましい。2種以上の連鎖移動剤を組合わせて使用する場合、その合計使用量がこの範囲となるようにすればよい。
【0039】
離型剤としては、特に制限されないが、例えば、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩等が挙げられる。なお、離型剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0040】
高級脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸オクチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、ベヘン酸メチル、ベヘン酸エチル、ベヘン酸プロピル、ベヘン酸ブチル、ベヘン酸オクチルなどの飽和脂肪酸アルキル;オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸オクチル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸プロピル、リノール酸ブチル、リノール酸オクチルなどの不飽和脂肪酸アルキル;ラウリン酸モノグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、パルミチン酸ジグリセリド、パルミチン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、ベヘン酸ジグリセリド、ベヘン酸トリグリセリドなどの飽和脂肪酸グリセリド;オレイン酸モノグリセリド、オレイン酸ジグリセリド、オレイン酸トリグリセリド、リノール酸モノグリセリド、リノール酸ジグリセリド、リノール酸トリグリセリドなどの不飽和脂肪酸グリセリドが挙げられる。これらのなかでも、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリドなどが好ましい。
【0041】
高級脂肪族アルコールとしては、具体的には、例えば、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコールなどの飽和脂肪族アルコール;オレイルアルコール、リノリルアルコールなどの不飽和脂肪族アルコールが挙げられる。これらのなかでも、ステアリルアルコールが好ましい。
【0042】
高級脂肪酸としては、具体的には、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、12−ヒドロキシオクタデカン酸などの飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リシノール酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0043】
高級脂肪酸アミドとしては、具体的には、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドなどの飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、リノール酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド;エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、N−オレイルステアロアミドなどのアミド類が挙げられる。これらのなかでも、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0044】
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、上述した高級脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などが挙げられる。
【0045】
離型剤の使用量は、得られる重合体組成物に含まれる重合体(ポリマー)100重量部に対して、0.01〜1.0重量部となるように調整することが好ましく、0.01〜0.50重量部となるように調整することがより好ましい。
【0046】
図3を参照して、上述のような単量体(1種または2種以上の混合物)を、場合により連鎖移動剤などの他の成分と共に適宜混合することにより、少なくとも単量体を含む単量体原料液を調製し、これを単量体原料液タンク31に入れる。また、上述のような重合開始剤を、必要に応じて単量体と、場合により連鎖移動剤などの他の成分と共に適宜混合することにより、少なくとも重合開始剤を含む重合開始剤液を調製し、これを重合開始剤液タンク33に入れる。重合開始剤液は、重合開始剤単独であってもよく、単量体と重合開始剤との混合物(場合により連鎖移動剤などの他の成分を更に含み得る)であってもよい。後者の場合、重合開始剤液は、重合開始剤を単量体に完全に溶解させて重合開始剤溶液とすることが好ましい。
【0047】
・重合禁止剤含有液体の準備
別途、重合禁止剤含有液体を準備する。
【0048】
重合禁止剤含有液体は、重合禁止剤を含有する液体であればよいが、未反応単量体の重合反応を促進しない溶媒に重合禁止剤を溶解させた液体であることが好ましい。
【0049】
上記溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、デカリン、酢酸ブチル、酢酸ペンチル等の有機溶媒、および、製造する重合体の原料として使用される単量体が挙げられ、なかでも製造する重合体の原料として使用される単量体が好ましく用いられる。製造する重合体の原料として使用される単量体は、通常、液状である。上記単量体を溶媒として用いた場合、得られる重合体中に不純物が混入することを抑制することができる。なお、重合禁止剤含有液体は重合禁止剤を含有しているため、この液体中においても溶媒である単量体の重合反応が抑制される。
【0050】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイロドキノンモノメチルエーテル、tert−ブチルカテコール、4−メトキシ−1−ナフトール、1,4−ナフトキノン、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、フェノチアジン、ベンゾフェノチアジン、ジニトロベンゼン、p−フェニルジアミン、ジメチルジチオカルバミン酸塩等が挙げられる。これらのなかでも、重合体に残留しても着色等の悪影響を及ぼしにくい等の観点から、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノールが好ましい。なお、使用する重合禁止剤は、製造する重合体およびその原料として使用される単量体に応じて適宜選択される。
【0051】
重合禁止剤含有液体における重合禁止剤の含有量は、この液体全量を基準として5〜2000重量ppmであることが好ましく、10〜500重量ppmであることがより好ましい。この含有量を上記上限値以下とすることによって、重合体中に含まれる重合禁止剤の割合が高くなり過ぎず、最終的に得られる重合体(押出物)が着色することを効果的に回避できる。また、この含有量を上記下限値以上とすることによって、圧力調整弁20の隙間11において未反応単量体が重合するのを効果的に抑制でき、溶媒として単量体を用いた場合には、当該単量体が重合するのも効果的に抑制できる。
【0052】
図3を参照して、上述のような溶媒に重合禁止剤を混合することにより、重合禁止剤含有液体を調製し、これを重合禁止剤含有液体タンク51に入れる。
【0053】
・重合工程
単量体および重合開始剤を、単量体原料液タンク31および重合開始剤液タンク33から反応槽40に供給口41aより連続的に供給する。具体的には、単量体原料液タンク31から単量体を含む単量体原料液をポンプ35により、および、重合開始剤液タンク33から重合開始剤を含む重合開始剤液をポンプ37により、原料供給ライン39を通じて一緒にして、反応槽40に供給口41aより連続的に供給する。
【0054】
反応槽40への重合開始剤の供給に関して、重合開始剤液として、単量体と重合開始剤との混合物を重合開始剤液タンク33から供給する場合、単量体原料液タンク31からの単量体原料液の供給流量A(kg/h)と、重合開始剤液タンク33からの重合開始剤液(単量体と重合開始剤との混合物であって、重合開始剤の含有割合が0.002〜10重量%であるもの)の供給流量B(kg/h)との比A:Bは、80:20〜98:2の範囲となるように調整することが好ましい。
【0055】
以上のようにして反応槽40に供給された単量体および重合開始剤は、反応槽40にて重合反応に付されて、単量体の少なくとも一部が重合して重合体を生じる。本実施形態において重合工程は塊状重合で実施されるが、本発明はこれに限定されない。反応槽40内は、撹拌機45により撹拌され、好ましくは実質的に完全混合状態とされる。
【0056】
この重合工程において、連続重合が、反応槽が反応混合物で満たされて実質的に気相が存在しない状態(以下、「満液状態」と言う)で実施され得る。満液状態は、反応槽40の抜き出し口41bを反応槽頂部に位置するように設けることにより、反応槽40への供給および抜き出しを連続的に行うだけで簡便に実現できる。
【0057】
また重合工程において、連続重合は、断熱状態で実施され得る。断熱状態は、反応槽40の内部の温度と、その外壁面との温度をほぼ等しくすることによって実現できる。具体的には、ジャケット43に対して設定される反応槽40の外壁面の温度と、温度センサTによって検知される反応槽40内の温度とが一致するように、単量体および重合開始剤を含む原料の反応槽40への供給量をポンプ35および37の動作を調整することによって実現できる。
【0058】
重合工程における連続重合の温度は、反応槽40内の温度(温度センサTにて検知される)として理解される。重合工程は、用いる重合開始剤の種類にもよるが、例えば120〜180℃の範囲以内の温度にて、好ましくは130〜180℃の範囲以内の温度にて実施される。この温度が高過ぎると、得られる重合体のシンジオタクチック性が低くなり、オリゴマーの生成量が増え、最終的に得られる重合体(押出物)の耐熱性が低くなる傾向がある。但し、反応槽内の温度は、定常状態に至るまでは諸条件に応じて変動し得ることに留意されたい。
【0059】
重合工程における連続重合の圧力は、反応槽40内の圧力(圧力センサPにて検知される)として理解される。この圧力は、圧力調整弁20によって調整され、反応槽内で原料単量体の気体が発生しないように、反応槽内の温度における原料単量体の蒸気圧以上の圧力とされ、通常、1.0〜4.0MPaG、好ましくは1.2〜3.5MPaG(ゲージ圧)である。
【0060】
重合工程における連続重合に付される時間は、反応槽40の平均滞留時間として理解される。反応槽40における平均滞留時間は、重合体組成物における重合体の生産効率などに応じて設定され得るものであって、特に限定されないが、例えば15分〜6時間、好ましくは20分〜2時間である。この時間が必要以上に長いと、ダイマー、トリマー等のオリゴマーの生成量が多くなり、最終的に得られる重合体(押出物)の耐熱性が低下する傾向がある。反応槽40における平均滞留時間は、ポンプ35および37を用いて反応槽40への単量体等の供給量(供給流量)を変更することにより調節できる。
【0061】
以上のようにして、重合体組成物が反応槽40の抜き出し口41bから連続的に抜き出される。得られた重合体組成物は、生成した重合体および未反応単量体を含んで成り、更に、未反応の重合開始剤、重合開始剤分解物などを含み得る。重合体組成物のうち、揮発性成分は主として未反応単量体である。
【0062】
重合体組成物における重合率は、本実施形態を限定するものではないが、例えば40〜70重量%である。なお、重合体組成物における重合率は、概ね、重合体組成物中の重合体(ポリマー)含有率に相当する。重合体含有率が高過ぎると、混合および伝熱の効率が低下し安定性が悪くなる傾向がある。重合体含有率が低すぎると、未反応単量体を主成分とする揮発性成分の分離が難しくなる傾向がある。
【0063】
・予熱工程
本発明に必須ではないが、図3を参照して、上記のようにして反応槽40から抜き出された重合体組成物を、必要に応じて予熱器50に導入して予熱する。
【0064】
予熱器50は、脱揮押出機60での脱揮効率を高める目的で用いられ、重合体組成物は予熱により、揮発性成分の揮発に必要な熱量の一部または全部が付与される。
【0065】
予熱器50における予熱温度は、180〜220℃とすることが好ましい。予熱温度を上記上限値以下とすることにより、重合体組成物中の揮発性成分がガス化することを回避でき、重合体組成物を一定流量で送液することができる。
【0066】
・圧力調整弁通過工程(流出量調整工程)
次に、図3を参照して、上記で得られた重合体組成物(反応槽40より抜き出された重合体組成物であって、好ましくは予熱器50で予熱された重合体組成物)を圧力調整弁20に通過させる。
【0067】
重合禁止剤含有液体を、重合禁止剤含有液体タンク51からポンプ53により圧力調整弁20に液体導入口17より連続的に導入しながら、上記で得られた重合体組成物を圧力調整弁20のボディ5内の空間3に入口7aより連続的に供給する(図1(a)および(b)参照)。
【0068】
圧力調整弁20への重合禁止剤含有液体の供給量(導入量)は、圧力調整弁20のサイズ、重合体組成物の流量および所望される圧力等に応じて適宜設定されるが、圧力調整弁20への重合体組成物の供給流量X(kg/h)と、重合禁止剤含有液体の供給流量Yとの比X:Yは、80:20〜99.9:0.1の範囲となるように調整することが好ましい。重合体組成物の供給流量X(kg/h)は、単量体原料液タンク31からの単量体原料液の供給流量A(kg/h)および重合開始剤液タンク33からの重合開始剤液(単量体と重合開始剤との混合物であって、重合開始剤の含有割合が0.002〜10重量%であるもの)の供給流量B(kg/h)の合計(A+B)として理解され得る。重合禁止剤含有液体の供給量を上記範囲以内とすることによって、重合体中に含まれる重合禁止剤の割合が高くなり過ぎず、最終的に得られる重合体(押出物)が着色することを効果的に回避でき、かつ、ステム9やガイド13に重合体が付着することを抑制する効果を確保できる。
【0069】
圧力調整弁20において重合体組成物が空間3を通過する際に、弁体1によって重合体組成物の流出量が調整され、ひいては、その上流にある反応槽40内の圧力が調整される。より詳細には、例えば、所望の圧力が(圧力調整弁の上流側において)得られるように、弁体1の上下方向における位置(開度)をステム9を通じて調整する。
【0070】
重合体組成物の圧力は、特に限定されるものではないが、圧力調整弁20の上流側にて、例えば1.0〜4.0MPaG、好ましくは1.2〜3.5MPaG(ゲージ圧)であり、圧力センサPによって検知される反応槽40内の圧力が所定の圧力となるように、圧力調整弁20における前記開度を調整する。重合体組成物の圧力を上流側にて上記範囲以内とすることによって、反応槽40内の圧力を重合工程を実施するのに適した圧力とすることができる。また、圧力調整弁20の下流側における圧力は、脱揮押出機60のベントライン(図示せず)に設置された圧力調整弁(図示せず)によって調整され、例えば−1.2〜0.4MPaG、好ましくは−0.09〜0.35MPaG(ゲージ圧)となるように、調整される。重合体組成物の圧力を下流側にて上記範囲以内とすることによって、脱揮押出機60における脱揮を効率的に実施することができる。
【0071】
また、圧力調整弁20においては、液体導入口17から導入された重合禁止剤含有液体は、隙間11を通って空間3に流入し、空間3にて重合体組成物と混合される。液体導入口17から重合禁止剤含有液体を導入して隙間11内を加圧状態とし、ボディ5内の空間3よりも高い圧力とすることにより、空間3から隙間11に重合体組成物(未反応単量体や重合体)が入り込むことを十分に抑制することができる。なお、隙間11内の圧力の好適な範囲については、圧力調整弁20のサイズ、重合体組成物の流量および所望される圧力等に応じて適宜設定される。圧力が上がりすぎないように、重合禁止剤含有液体タンクの送液ポンプ本体に、リリーフ弁などの安全装置を設置することが好ましい。
【0072】
以上により、重合禁止剤含有液体と混合されて成る重合体組成物が、圧力調整弁20の空間3から出口7bを通じて連続的に得られる。
【0073】
・脱揮押出工程
次に、図3を参照して、上記で得られた重合体組成物(圧力調整弁20を通じて得られた、重合禁止剤含有液体と混合されて成る重合体組成物)を脱揮押出機60に供給口61より連続的に供給して、脱揮押出操作に付す。
【0074】
脱揮押出機60にて、重合体組成物から未反応単量体を含む揮発性成分が少なくとも部分的に除去され、ベントライン(図示せず)からガス状物として排出され、残部の押出物は、場合によりカッター(図示せず)によりペレット状に成形されて、取り出しライン65から取り出される。
【0075】
脱揮押出機を用いた方法としては、任意の適切な方法が適用してよく、例えば特開平3−49925号公報、特公昭51−29914号公報、特公昭52−17555号公報、特公平1−53682号公報、特開昭62−89710号公報などに記載の方法が好適である。
【0076】
概略的には、脱揮押出操作は、連続的に供給される重合体組成物を、例えば200〜290℃に加熱しながらスクリューで押し出すことにより、重合体組成物に含まれる揮発性成分の少なくとも一部、好ましくは大部分、より好ましくは実質的に全部を連続的に分離除去することで実施される。脱揮押出時の圧力は、ベント圧力にて、例えば−1.2〜0.4MPaG(ゲージ圧)程度とされる。
【0077】
以上により、脱揮押出後の押出物として重合体を得ることができる。押出物は、実質的に重合体から成り、場合により他の成分、例えば重合禁止剤の残留分などを含み得る。
【0078】
脱揮押出機にて重合体組成物を脱揮押出する前、その間、またはその後に、必要に応じて、高級アルコール類、高級脂肪酸エステル類等の滑剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、着色剤、帯電防止剤等を重合体に添加することができる。
【0079】
他方、脱揮押出機60にて除去された揮発性成分は、重合用の原料単量体に再利用され得る。かかる揮発性成分は、未反応単量体を主成分とし、その他の揮発性物質、例えば原料単量体に元々含まれる不純物、必要に応じて用いられる添加剤、重合過程で生成する揮発性副生成物、ダイマーおよびトリマーなどのオリゴマー、重合開始剤分解物など、ならびに、重合禁止剤含有液体に含まれていた重合禁止剤および溶媒(特に単量体)などの不純物を含んで成る。一般に、不純物の量が増えると、得られる重合体が着色するので好ましくない。そこで、脱揮押出機60にて除去された揮発性成分(未反応の原料単量体を主成分とし、上記のような不純物などを含んで成る)を単量体回収塔(図示せず)に通し、単量体回収塔にて蒸留や吸着等の手段によって処理し、上記揮発性成分から不純物を除去してよく、これによって、未反応単量体を高純度で回収することができ、重合用の原料単量体として好適に再利用できる。例えば、単量体回収塔では、連続蒸留により単量体回収塔の塔頂からの留出液として未反応単量体を高純度で回収し、回収タンク67に貯留してから、単量体原料液タンク31に移送してリサイクルしてもよいし、回収タンク67に貯留することなく、単量体原料液タンク31に移送してリサイクルしてもよい。単量体回収塔で除去された不純物は、廃棄物として廃棄され得る。
【0080】
なお、回収した原料単量体は、回収タンク67や単量体原料液タンク31にて重合反応が進行しないように、これらタンク中にて重合禁止剤を、例えば原料単量体に対して2〜8重量ppmの割合で存在させることが好ましく、加えて、これらタンクの気相部の酸素濃度を2〜8体積%に設定するとより好ましい。また、回収タンク67にて長期間に亘って保存したい場合には、例えば0〜5℃の低温にて貯留することが望ましい。
【0081】
よって、上述の説明から理解されるように、本発明の重合体の製造装置およびこれを用いた製造方法によれば、圧力調整弁20におけるステム9やガイド13に重合体が付着することを効果的に防止できるので、長期間安定的に連続して運転することができる。
【0082】
なお、本実施形態においては、重合工程において塊状重合を実施する場合について説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、重合工程において溶液重合を実施してもよい。かかる態様においては、溶液重合のために溶媒が使用されることから、重合体の製造装置は、図3を参照して上述した製造装置と同様の構成に加えて、反応槽40へ溶媒を供給するために、溶媒タンクならびにこれに付随する供給ラインおよびポンプを更に備える。溶媒は、反応槽40へ、原料モノマーおよび/または重合開始剤と混合したうえで供給してよく、あるいは、反応槽40へ直接供給してよい。重合工程は、重合反応に溶媒が使用されること以外は、上述した重合工程と同様に実施される。溶媒としては、溶液重合反応の原料単量体などに応じて適宜設定されるものであって、特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、デカリン、酢酸ブチル、酢酸ペンチルなどが挙げられる。この場合、単量体原料液タンク31からの単量体原料液の供給流量C(kg/h)と、反応槽40への溶媒の供給流量D(kg/h)との比C:Dは、これに限定されるものではないが、例えば70:30〜95:5であり、好ましくは80:20〜90:10である。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の重合体組成物の製造方法の実施例を示すが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
本実施例においては、概略的には、上述した重合体の製造装置を用いて、重合体をペレットの形態で製造した。より詳細には、以下の通りである。
【0085】
以下の組成を有する単量体原料液を調製した。
・メタクリル酸メチル 98.718重量%
・アクリル酸メチル 0.908重量%
・連鎖移動剤[n−オクチルメルカプタン] 0.261重量%
・離型剤[ステアリルアルコール] 0.113重量%
また、以下の組成を有する重合開始剤液を調製した。
・メククリル酸メチル 99.520重量%
・重合開始剤[1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン] 0.480重量%
更に、重合禁止剤として2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノールを50重量ppmの濃度でメタクリル酸メチルに溶解させて、重合禁止剤含有液体を調製した。
【0086】
本実施例において重合体を製造するために、図3に示す重合体の製造装置を用いた。反応槽40として容量13Lの完全混合型反応槽を用いた。上記で調製した単量体原料液および重合開始剤液を、それぞれ単量体原料液タンク31および重合開始剤液タンク33に入れた。また、上記で調製した重合禁止剤含有液体を重合禁止剤含有液体タンク51に入れた。
【0087】
単量体原料液と重合開始剤液とを、それぞれ単量体原料液タンク31および重合開始剤液タンク33から、反応槽40へ供給口41aより連続的に供給した。
【0088】
単量体原料液および重合開始剤液の反応槽40への供給は、これらの流量比が17.6:1(重量比)となり、反応槽40における平均滞留時間が26分となるように実施した。反応槽40内の温度およびジャケット43の温度は175℃であった。
【0089】
反応系内の圧力は、図1に示す圧力調整弁20を用いて、反応槽40内の圧力が1.60MPaG(ゲージ圧)になるように自動で制御した。圧力調整弁20には、重合禁止剤含有液体タンク51から重合禁止剤含有液体を液体導入口17より連続的に導入した。単量体原料液および重合開始剤液の反応槽40への供給の合計に対して、重合禁止剤含有液体の圧力調整弁20への供給を、これらの流量比が79:1(重量比)となるように実施した。
【0090】
反応槽40内の反応混合物を抜き出し口41bより、重合体組成物として連続的に抜き出した。これにより得られた重合体組成物を、200℃に設定した予熱器50に通して予熱し、更に圧力調整弁20に通した後、240℃に設定した脱揮押出機60にて、未反応単量体等の揮発性成分を除去し、残部を溶融状態で押し出して、押出物を水冷後、裁断してペレットとして取り出しライン65から取り出した。これにより、重合体がペレットの形態で製造された。
【0091】
単量体原料液および重合開始剤液の単位時間当たりの供給重量と、ペレットの単位時間当たりの生産(取り出し)重量とから重合率(重量%)を求めたところ、56重量%であった。
【0092】
上記の重合体の製造運転を連続して10日間行った。この間、反応槽40内の圧力を1.60±0.01MPaG(ゲージ圧)の範囲で制御することができた。
【0093】
(比較例1)
重合禁止剤含有液体に代えて、メタクリル酸メチルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして重合体をペレットの形態で製造した。
【0094】
上記の重合体の製造運転を連続して行ったところ、運転開始後3日目で、圧力調整弁20の動作が鈍くなり、反応槽40内の圧力が1.65MPaG(ゲージ圧)まで上昇したので、運転を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、(メタ)アクリル系重合体等の重合体を製造するのに利用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 弁体
3 空間
5 ボディ
5a シート部
7a 入口
7b 出口
9 ステム
11 隙間
13 ガイド
15 封止部
15a パッキン
15b ランタンリング
17 液体導入口
19 駆動部
20 圧力調整弁
31 単量体原料液タンク
33 重合開始剤液タンク
35、37 ポンプ
39 原料供給ライン
40 反応槽
41a 供給口
41b 抜き出し口
43 ジャケット
45 撹拌機
50 予熱器
51 重合禁止剤含有液体タンク
53 ポンプ
60 脱揮押出機
61 供給口
65 取り出しライン
67 回収タンク
100 重合体の製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽、圧力調整弁および脱揮押出機を備え、反応槽より得られる重合体組成物が圧力調整弁を通じて脱揮押出機に供給されるように構成された、重合体の製造装置であって、
圧力調整弁が、弁体と、弁体を収容する空間を有するボディと、弁体を支持および操作するステムと、ステムを摺動可能に案内するガイドと、ステムの表面とガイドの内壁面との間の隙間へ重合禁止剤を含有する液体を導入する液体導入口とを含み、該隙間は、液体導入口から導入された液体がボディ内の空間に流入するように該空間と連通している、重合体の製造装置。
【請求項2】
圧力調整弁が、ステムとガイドとの間を封止する封止部にてランタンリングを更に含み、液体導入口が、ランタンリングに隣接して配置される、請求項1に記載の重合体の製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の重合体の製造装置を用いて、
単量体および重合開始剤を含む原料を反応槽にて、圧力調整弁によって反応槽内の圧力を調整しつつ、重合反応に付して、重合体および未反応単量体を含む重合体組成物を反応槽より抜き出すこと、
重合禁止剤を含有する液体を圧力調整弁の液体導入口より導入しながら、反応槽より抜き出した重合体組成物を圧力調整弁のボディ内の空間に通じて、該液体と混合されて成る重合体組成物を得ること、および
圧力調整弁を通じて得られた該液体と混合されて成る重合体組成物を脱揮押出機に供給し、該重合体組成物から未反応単量体を含む揮発性成分が少なくとも部分的に除去された押出物を脱揮押出機から取り出し、該押出物として重合体を得ること
を含む、重合体の製造方法。
【請求項4】
重合禁止剤を含有する液体が、重合禁止剤を単量体に溶解させた液体である、請求項3に記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
重合禁止剤を含有する液体における重合禁止剤の含有量が、該液体全量を基準として5〜2000重量ppmである、請求項3または4に記載の重合体の製造方法。
【請求項6】
圧力調整弁への重合体組成物の供給流量と、重合禁止剤を含有する液体の供給流量との比が、80:20〜99.9:0.1の範囲にある、請求項3〜5のいずれかに記載の重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−35947(P2013−35947A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173503(P2011−173503)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】