説明

重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物、その製造方法、難燃性熱硬化性樹脂組成物、硬化物及び積層板

【課題】環境負荷が小さく、難燃剤のブリードアウトが無く、従来よりも少ない添加量で優れた難燃性、耐熱性及び電気特性を付与し、且つ耐熱性及び電気特性に優れた硬化物を得ることができる化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物。


(式中、R1はジフェニルホスフィン酸誘導体残基であり、Wは芳香族炭化水素基である。R2はアルキル基またはアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、電気特性、及び耐水性に優れ、且つ難燃性を有する硬化物を与える化合物とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、フェノール性水酸基を2つ有するリン含有化合物と、キシリレンジハライド化合物、及びエテニル基含有ベンジルハライド化合物とを反応させて得られる重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物及びその製造方法、並びに該重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物を用いた難燃性熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物、さらには積層板に関するものである。
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、半導体封止剤、積層板、コーティング材料及び複合材料等として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
電気・電子材料分野では、多くのエポキシ樹脂及びフェノール樹脂が用いられている。しかしながら、近年、電子機器の分野においては実装部品の小型化、高密度化への傾向は著しく、それに伴って使用される材料においても優れた耐熱性、難燃性、寸法安定性、電気特性が要求されており、これらの樹脂を基材とした場合、高周波領域で電気特性、特に誘電特性が悪いという課題を有している。
【0003】
また、これらの分野では実装部品に対して高い難燃性が求められており、これまで、一般にハロゲン化合物を用いることにより難燃性を付与していた。しかしながら、近年では環境への負荷を低減させるという観点からハロゲン化合物の使用が問題となっている。
そこで、このようなハロゲン化合物による難燃処方に代わる技術として、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類や1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)等の縮合リン酸エステル類に代表されるリン系化合物が使用されていた。しかしながら、これらのリン系化合物を熱硬化性樹脂に対する添加型難燃剤として使用した場合、硬化物の耐熱性、特にガラス転移温度(Tg)の低下が著しいという問題があった。
【0004】
そのため、添加型難燃剤に代えて、ノボラック型エポキシ樹脂を20重量%以上含有するエポキシ樹脂類と、キノン化合物及び9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドやジフェニルホスフィンオキシドのようなリン系化合物を反応させて得られた反応型のリン系化合物を使用することにより難燃性、耐水性等を改善する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。それらは、リン化合物で変性したエポキシ樹脂を用いて成形品の耐熱性、難燃性等の改良を図った技術である。しかしながら、これらの化合物を用いた成形品の誘電特性は従来のエポキシ樹脂を用いた物と同等であり、高周波領域での特性が不十分であった。
【0005】
一方、ベンゾオキサジン構造を有する化合物を硬化性樹脂用の硬化剤として使用することも多数提案されている(例えば、特許文献4〜6参照)。これらの発明ではベンゾオキサジン構造を有する化合物を用いる事により高い難燃性を達成している。しかしながら、これらの化合物を用いた成形品の誘電特性においても、上記と同様に高周波領域での特性が不十分であった。
【0006】
また、高周波領域での誘電特性を改善する材料として、例えば、ポリビニルベンジルエーテル化合物が提案されている(例えば、特許文献7参照)。このポリビニルベンジルエーテル化合物は、優れた電気特性、耐熱性、信頼性を有しており、これを熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、銅張り積層板等に応用する事により、高周波領域での電気特性の改善がみられる。しかしながら、ポリビニルベンジルエーテル化合物を用いただけでは十分な難燃性を発現できない為、別途に難燃剤を用いる必要があった。
【0007】
さらに、ポリビニルベンジルエーテル化合物とベンゾオキサジン化合物、並びに添加型リン化合物(芳香族リン酸エステル化合物、もしくはホスファゼン化合物)を用いることが提案されている(例えば、特許文献8参照)。これを熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、銅張り積層板等に応用することにより高周波領域での電気特性の改善、並びにハロゲン元素を含有する化合物を用いることなく高い難燃性を有する特性を達成している。
しかしながら、上記特許文献8で示されるようなリン化合物として添加型の特定のリン化合物を用いた場合、高周波領域での電気特性の改善や高い難燃性が得られるが、耐熱性の低下や積層板表面からリン化合物のブリードアウト(吹出し)が発生するという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−11662号公報
【特許文献2】特開平11−279258号公報
【特許文献3】特開2000−309623号公報
【特許文献4】特開2001−220455号公報
【特許文献5】特開2003−147165号公報
【特許文献6】特開2004−352670号公報
【特許文献7】特開平9−31006号公報
【特許文献8】特開2007−2187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、環境負荷が小さく、難燃剤のブリードアウトが無く、従来よりも少ない添加量で優れた難燃性、耐熱性及び電気特性を付与し、且つ耐熱性及び電気特性に優れた硬化物を得ることができる化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、難燃性を付与し得るリン原子を含有し、且つ硬化性樹脂として機能し得る、重合性を有するエテニル基を含むリン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物を用いることにより、従来よりも少ない添加量で熱硬化性樹脂組成物に優れた難燃性、耐熱性及び電気特性を付与し、且つ耐熱性及び電気特性に優れた硬化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]に関する。
[1]下記一般式(1)で表される重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1は下記一般式(2)で表される基であり、Wは下記一般式(3)または(4)で表される基である。R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。p及びqは、それぞれ独立して、0〜5の整数を表す。)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R5及びR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。rは0〜3の整数を表し、sは0〜5の整数を表す。)
[2]一般式(1)、(2)、(3)及び(4)中のo、p、q、r及びsが全て0である上記[1]記載の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物。
[3]下記一般式(5)または(6)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R3〜R6、p、q、r及びsは前記定義の通りである。)
で表されるフェノール性水酸基を2個有するリン含有化合物と、下記一般式(7)、(8)
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、R2は前記定義の通りである。X1及びX2は、それぞれ独立に塩素原子または臭素原子を表す。oは前記定義の通りである。)
で表されるキシリレンジハライド化合物、及びエテニル基含有ベンジルハライド化合物を、アルカリ存在下に極性溶剤中で反応させるか、または、アルカリ及び相間移動触媒の存在下に有機溶剤及び水の混合液中で反応させる工程を有する、前記、重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物の製造方法。
[4]上記[1]または[2]に記載の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物及びラジカル重合性を有する熱硬化性樹脂を含む難燃性熱硬化性樹脂組成物。
[5]上記[4]に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化してなる硬化物。
[6]上記[4]に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形し、金属箔を積層してなる積層板。
[7]片面または両面に金属箔を有する上記[6]に記載の積層板。
【発明の効果】
【0022】
本発明の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物を含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物は、ハロゲン原子を含有しないため環境負荷が小さく、また別途に難燃剤の添加を必須としないため添加された難燃剤がブリードアウトするという問題が無い。また、該重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物を樹脂組成物に少量(例えば全樹脂成分に対して50質量%以下)含有させるだけでも高い難燃性を付与することが可能であり、同時に耐熱性及び、電気特性に優れる。
これより、本発明の重合性リン含有(ポリ)キシレンアリールエーテル化合物及びそれを含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物は、電子基板用積層板(プリント配線板)、半導体の封止材等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物]
まず、本発明の下記一般式(1)で表される重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物について説明する。なお、「(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物」とは、キシリレンアリールエーテル化合物(n=1)、及びポリキシリレンアリールエーテル化合物(n>1)の両方を指している。
【0024】
【化6】

【0025】
上記一般式(1)中、R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。一般式(1)で表される化合物は、両端部にエテニル基を有することから、ラジカル重合性が付与される。
2が表す炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。R2が表す置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
oは0または1が好ましく、0がより好ましい。nは1〜50が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5がさらに好ましい。
また、R1は下記一般式(2)で表される基である。
【0026】
【化7】

【0027】
上記一般式(2)中、R3及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。p及びqは、それぞれ独立して、0〜5の整数を表す。
3及びR4がそれぞれ独立して表す炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基としては、いずれもR2における例示と同じものが挙げられる。
p、qは、それぞれ0または1が好ましく、0がより好ましい。
また、Wは下記一般式(3)または(4)で表される基である。
【0028】
【化8】

【0029】
上記一般式(3)または(4)中、R5及びR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。rは0〜3の整数を表し、sは0〜5の整数を表す。
5及びR6がそれぞれ独立して表す炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基としては、いずれもR2における例示と同じものが挙げられる。
rは0または1が好ましく、0がより好ましい。sは0または1が好ましく、0がより好ましい。
上記一般式(3)及び(4)のいずれにおいても、パラ位で酸素原子2つと結合していることが好ましい。
【0030】
[重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物の製造方法]
前記リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物は、下記一般式(5)または(6)で表されるフェノール性水酸基を2個有するリン含有化合物と、下記一般式(7)で表されるキシリレンジハライド化合物、及び下記一般式(8)で表されるエテニル基含有ベンジルハライド化合物を反応させることにより得られる。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
上記一般式(5)及び(6)中、R3〜R6、p、q、r及びsは、一般式(2)〜(4)における前記定義の通りであり、同じものを例示でき、好ましいものも同じである。
また、上記一般式(7)及び(8)中、R2は前記定義の通りであり、同じものを例示できる。X1及びX2は、それぞれ独立に塩素原子または臭素原子を表し、塩素原子が好ましい。
oは前記定義の通りである。
【0034】
上記一般式(5)で表されるリン含有化合物の具体例としては、例えば2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。また、一般式(6)で表されるリン含有化合物の具体例としては、例えば2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
また、上記一般式(7)で表されるキシリレンジハライド化合物の具体例としては、例えばα,α'−ジクロロ−o−キシレン、α,α'−ジクロロ−m−キシレン、α,α'−ジクロロ−p−キシレン等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
また、上記一般式(8)で表されるエテニル基含有ベンジルハライド化合物の具体例としては、例えばo-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0035】
本願発明の化合物に関する製造方法は、特許文献7(特開平9−31006号公報)に記載されているような公知慣用のエーテル化反応を利用することができる。
具体的には、例えば上記一般式(5)または(6)で表されるリン含有化合物と上記一般式(7)で表されるキシリレンジハライド化合物を、アルカリ存在下に極性溶剤中で反応させるか、または、アルカリ及び相間移動触媒の存在下に有機溶剤及び水の混合液中で反応させ、次いで一般式(8)で表されるエテニル基含有ハライド化合物を好ましくは重合禁止剤と共に添加して反応させる方法により実施することができる。
【0036】
アルカリとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド、水素化物若しくは水酸化物が挙げられる。
アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシドとしては、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等が挙げられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物としては、例えば水素化ナトリウム、水素化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アルカリ種は、反応系を非水系とするか、含水系とするかで適宜選択すればよい。
アルカリの使用割合は、一般式(7)で示されるキシリレンジハライド化合物のハロメチル基1当量に対して1.1〜3当量が好ましい。この範囲であれば、反応速度が著しく遅くなったりせず、反応が十分に進行して原料が残らず、後述する硬化物の物性に悪影響を与えるのを防ぐことができる。また、残存アルカリの除去に使用する洗浄水等の量が少なくて済む。
【0037】
相間移動触媒としては、各種オニウム塩を使用でき、例えば、テトラ−N−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−N−ブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリカプリルメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム化合物;テトラ−N−ブチルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第四級ホスホニウム化合物;ベンジルテトラメチレンスルホニウムブロマイド等の第三級スルホニウム化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
相間移動触媒の使用量は、その種類や反応温度によって適宜選択すればよいが、通常、一般式(7)で示されるキシリレンジハライド化合物のハロメチル基1当量に対して0.01〜0.5当量使用すれば十分である。
【0038】
有機溶剤としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、2−プロパノール、1,3−ジメトキシプロパン、1,2−ジメトキシプロパン、テトラメチレンスルホン、ヘキサメチルホスホアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等の極性溶剤の他、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
反応温度及び反応時間は、使用する原料の種類及び反応条件によって適宜選択すればよいが、通常、30〜100℃で0.5〜20時間の範囲であればよい。反応温度及び反応時間がこの範囲であれば、副反応等の好ましくない反応を併発することがなく、また反応時間をいたずらに長くすることもない。
また、一般式(7)で示されるキシリレンジハライド化合物の使用割合は、一般式(5)または(6)で示されるリン含有化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜1.0モル、より好ましくは0.6〜0.8モルである。この範囲であれば、未反応原料の残存量が少なくなる。
また、一般式(8)で示されるエテニル基含有ベンジルハライド化合物の使用割合は、一般式(5)または(6)で示されるリン含有化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜0.7モル、より好ましくは0.2〜0.5モルである。この範囲であれば、未反応原料の残存量が少なくなる。
【0040】
このようにして得られる本発明の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物は、ラジカル重合可能な熱硬化性樹脂等と混合して樹脂組成物とすることにより、該樹脂組成物に対して難燃剤として作用する。
すなわち、樹脂組成物を加熱することにより、重合性を有するエテニル基を含むリン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物とラジカル重合可能な樹脂とのラジカル重合が起こるため、樹脂組成物を硬化させることが可能である。
このように、本発明の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物とラジカル重合可能な熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物を加熱した場合、樹脂骨格中に重合性を有するエテニル基を含むリン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物が、化学的に結合して組み込まれるため、添加型の難燃剤のような耐熱性の低下、ガラス転移温度の低下や別途に添加した難燃剤がブリードアウトするというような問題が抑制される。
【0041】
[難燃性熱硬化性樹脂組成物]
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、(a)上記重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物及び(b)ラジカル重合可能な熱硬化性樹脂、並びに必要に応じて(c)硬化剤、(d)添加剤、(e)有機溶剤を含有するものである。
【0042】
((a)成分)
(a)成分としては、上記した一般式(1)で表される重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物を使用する。難燃性熱硬化性樹脂組成物中における(a)成分の含有割合は、熱硬化性樹脂組成物を十分に難燃化させる観点から、(a)、(b)成分の合計中に、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは20〜50質量%存在するように調整する。
【0043】
((b)成分)
(b)成分としては、ラジカル重合可能な熱硬化性樹脂を使用する。
ラジカル硬化可能な熱硬化性樹脂としては、一般的に用いられているものを使用できる、ビニルベンジルエーテル樹脂(例えば、特開2001−181383号公報を参照)、ビニルベンジル樹脂(例えば、特開2006−63230号公報を参照)、末端不飽和基変性ポリフェニレンエーテル樹脂(例えば、特表2006−516297号公報を参照)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
難燃性熱硬化性樹脂組成物中における(b)成分の含有割合は、熱硬化性樹樹脂組成物を十分に硬化させる観点から、(a)、(b)成分の合計中に好ましくは、20〜95質量%、より好ましくは50〜80質量%存在するように調整する。
【0044】
((c)成分)
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物には、硬化剤を含有させることが望ましい。
硬化剤としては、ラジカル重合において一般的に用いられているものを使用でき、例えばパーオキシエステル化合物、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、ハイドロパーオキサイド化合物、ケトンパーオキサイド化合物等が挙げられる。
パーオキシエステル化合物としては、例えばt−ブチルパーオキシ2−エチルヘサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
ジアシルパーオキサイド化合物としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、m−トルイル アンド ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
ジアルキルパーオキサイド化合物としては、例えばジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
ハイドロパーオキサイド化合物としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
ケトンパーオキサイド化合物としては、例えばメチルエチルケトンパーオキサイド等が挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物に(c)成分を含有させる場合、その含有量は、(a)、(b)成分の合計100質量部に対して、通常、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0045】
((d)成分)
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、その他の難燃剤、充填剤、カップリング剤、滑剤、離型剤、可塑剤、着色剤、増粘剤等の各種添加剤を添加してもよい。
その他の難燃剤としては、例えば水酸化アルミニウム等の金属水酸化物や、リン酸エステル、ホスファゼン等のリン含有化合物等が挙げられる
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物に(d)成分を含有させる場合、その含有量は、(a)、(b)成分の合計100質量部に対して、通常、好ましくは5〜150質量部、より好ましくは10〜100質量部である。
【0046】
((e)成分)
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて有機溶剤を含有させてもよい。有機溶剤としては、例えばメトキシプロパノール等のアルコール;メチルエチルケトン等のケトン;ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル;ジメチルアセトアミド等のアミド;トルエンなどの芳香族炭化水素等が挙げられる。
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物に(e)成分を含有させる場合、その含有量は、(a)、(b)成分の合計100質量部に対して、通常、好ましくは10〜90質量部、より好ましくは40〜80質量部、さらに好ましくは50〜70質量部である。
【0047】
なお、本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、後述する積層体を形成する場合等に、強化用繊維基材へ含浸させて使用してもよい。該強化用繊維基材としては、例えばカーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、シリコンカーバイド繊維等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
難燃性熱硬化性樹脂組成物を強化用繊維基材へ含浸させる場合、強化用繊維基材が難燃性熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは5〜500質量部、より好ましくは10〜300質量部となるようにする。
【0048】
[硬化物、積層体]
上記のように調製される本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、以下のような条件で熱を与えて硬化させることにより、硬化物が得られる。
硬化温度と硬化時間は、通常、好ましくは140〜240℃で30〜180分、より好ましくは160〜220℃で60〜120分である。この範囲であれば、硬化を充分に進行させることができ、且つ硬化物の物性が加熱劣化により低下するのを抑制できる。
【0049】
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱反応させて硬化物を得る場合の成形方法としては、公知の方法を用いることができる。
成形方法としては、例えば、溶融注型法、圧縮成形機により加熱加圧する圧縮成形法;可塑化された成形材料を加熱した金型キャビティ内に圧入して成形するトランスファ成形法;プリプレグを数枚重ね合わせて加熱加圧により硬化させて積層品を得る積層成形法;プリフォームに樹脂を含浸させて圧縮成形するマッチドダイ成形法;SMC法;BMC法;一方向繊維に樹脂を含浸させた後ダイ中で硬化させる引き抜き成形法;樹脂を含浸したロービングを芯材に巻き付けるフィラメントワインディング法;RIM法等が挙げられる。
【0050】
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、従来の難燃剤や難燃技術を用いた樹脂組成物及びそれから得られる硬化物と比較し難燃性や耐熱性に優れている。
この優れた特性により、本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、電子基板用積層板(プリント配線板)、半導体の封止材や印刷回路基板等の電子材料等に好適に用いることができる。
【0051】
本発明はまた、前記本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形してなる積層板をも提供する。本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は金属箔との密着性に優れているため、前記積層板には片面または両面に金属箔等を設けることができる。この積層板はプリント配線板用基板等として好適に使用される。
金属箔としては、通常用いられる金属であれば特に限定されないが、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、またはこれらの合金が挙げられる。これらの中でも、物理的及び電気的性能の観点から、銅箔及び銅を主成分とする合金箔が好ましい。
なお、積層板の片面または両面に金属箔を設ける方法としては、特に限定されるものではないが、例えば難燃性熱硬化性樹脂組成物を強化用繊維基材に含浸させ、(e)成分である溶媒を乾燥させてから、100〜180℃程度で予備加熱し、片面または両面に金属箔等を貼り付け、さらに1〜5MPa程度の加圧下、180〜230℃程度で加熱成形する方法が好ましく挙げられる。
【0052】
さらに、本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、電子材料だけでなく、自動車部品、OA機器部品等にも適用できる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例になんら限定されるものではない。
【0054】
実施例1(重合性リン含有ポリパラキシリレンアリールエーテル化合物(a−1)の製造)
1,4−ナフトキノン158.2g(1.0モル)及びジフェニルホスフィンオキサイド202g(1.0モル)をトルエン中、還流下で3時間反応させ結晶物を濾別することにより、2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ジヒドロキシナフタレン295g(収率82%)を得た。
得られた2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ジヒドロキシナフタレン180g(0.5モル)、α,α'−ジクロロ−p−キシレン70g(0.4モル)及びテトラブチルホスホニウムブロミド33.9g(0.1モル)を、メチルエチルケトン 660g中に溶解し、75℃まで加温した。75℃に加温後、水酸化ナトリウム45g(1.125モル)及び蒸留水33gを加え、6時間反応を行った。次に、70℃まで冷却しCMS−P 53.4g(セイミケミカル社製 クロロメチルスチレン m−/p−比率 50/50、0.35モル)、フェノチアジン 0.33g(0.1phr)を添加した。70℃で4時間反応を行った。
反応終了後に常温まで冷却した後、リン酸8.8g(0.09モル)及び蒸留水165gを加え中和した。静置後、2層に分離した後に下層を除去した。さらに蒸留水330gを加えて攪拌、静置後に下層を除去する行為を2回行った。
最後に溶媒を減圧溜去し、下記構造をした下記物性の重合性を有するエテニル基を含むリン含有ポリパラキシリレンアリールエーテル化合物(a−1)を得た。
【0055】
【化11】

【0056】
元素分析:リン元素含有率 5.1%(理論値5.7%)
数平均分子量:1820、重量平均分子量:5640
1H−NMR(300MHz,DMSO−d,TMS,ppm)δ:4.7(0.9H)、5.1(3.0H)、5.3(0.7H)、5.8(0.6H)、6.6(0.7H)、7.0〜8.3(20.6H)
赤外吸収スペクトル(cm-1):3055、1620、1587、1512、1483、1448、1437、1385、1385、1352、1329、1264、1233、1180、1160、1095、1080、1026、988、918、862、825、770、750、723
【0057】
実施例2(重合性リン含有ポリメタキシリレンアリールエーテル化合物(a−2)の製造)
1,4−ナフトキノン158.2g(1.0モル)及びジフェニルフォスフィンオキサイド202g(1.0モル)をトルエン中、還流下で3時間反応させ結晶物を濾別することにより、2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ジヒドロキシナフタレン295g(収率82%)を得た。
得られた2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ジヒドロキシナフタレン180g(0.5モル)、α,α'−ジクロロ−m−キシレン70g(0.4モル)及びテトラブチルホスホニウムブロミド33.9g(0.1モル)を、メチルエチルケトン660g中に溶解し、75℃まで加温した。75℃に加温後、水酸化ナトリウム45g(1.125モル)及び蒸留水33gを加え、6時間反応を行った。次に、70℃まで冷却し「CMS−P」53.4g(セイミケミカル社製 クロロメチルスチレン m−/p−比率 50/50、0.35モル)、フェノチアジン 0.33g(0.1phr)を添加した。70℃で4時間反応を行った。
反応終了後に常温まで冷却した後、リン酸8.8g(0.09モル)及び蒸留水165gを加え中和した。静置後、2層に分離した後に下層を除去した。さらに蒸留水330gを加えて攪拌、静置後に下層を除去する操作を2回行った。
最後に溶媒を減圧溜去し、下記構造をした下記物性の重合性を有するエテニル基を含むリン含有ポリメタキシリレンアリールエーテル化合物(a−2)を得た。
【0058】
【化12】

【0059】
元素分析:リン元素含有率 5.2%(理論値5.7%)
数平均分子量:1910、重量平均分子量:5820
1H−NMR(300MHz,DMSO−d,TMS,ppm)δ:4.6(0.8H)、5.0(2.7H)、5.3(0.6H)、5.8(0.6H)、6.6(0.6H)、7.0〜8.2(20.6H)
赤外吸収スペクトル(cm-1):3054、1587、1484、1434、1385、1351、1329、1264、1232、1189、1161、1080、1027、990、910、863、828、771、749、723
【0060】
実施例3(重合性リン含有ポリパラキシリレンアリールエーテル化合物(a−3)の製造)
1,4−ベンゾキノン108.1g(1.0モル)及びジフェニルホスフィンオキサイド202g(1.0モル)をトルエン中、還流下で3時間反応させ結晶物を濾別することにより、2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン223g(収率72%)を得た。
得られた2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン155g(0.5モル)、α,α'−ジクロロ−p−キシレン70g(0.4モル)及びテトラブチルホスホニウムブロミド33.9g(0.1モル)を、メチルエチルケトン 600g中に溶解し、75℃まで加温した。75℃に加温後、水酸化ナトリウム45g(1.125モル)及び蒸留水33gを加え、6時間反応を行った。次に、70℃まで冷却し「CMS−P」53.4g(セイミケミカル社製 クロロメチルスチレン m−/p−比率 50/50、0.35モル)、フェノチアジン 0.33g(0.1phr)を添加した。70℃で4時間反応を行った。
反応終了後に常温まで冷却した後、リン酸8.8g(0.09モル)及び蒸留水150gを加え中和した。静置後、2層に分離した後に下層を除去した。さらに蒸留水300gを加えて攪拌、静置後に下層を除去する行為を2回行った。
最後に溶媒を減圧溜去し、下記構造をした下記物性の重合性リン含有ポリパラキシリレンアリールエーテル化合物(a−3)を得た。
【0061】
【化13】

【0062】
元素分析:リン元素含有率 6.0%(理論値6.3%)
数平均分子量:1620、重量平均分子量:5370
1H−NMR(300MHz,DMSO−d,TMS,ppm)δ:4.9(1.7H)、5.1(1.7H)、5.3(0.7H)、5.8(0.6H)、6.6(0.7H)、6.8〜7.6(18.6H)
赤外吸収スペクトル(cm-1):3056、1638、1576、1482、1463、1436、1399、1375、1272、1206、1180、1118、1103、1064、997、907、811、749、728
【0063】
参考例1(リン含有エポキシ化合物(f−1)の製造)
1,4−ベンゾキノン108g(1.0モル)及びジフェニルホスフィンオキサイド202g(1.0モル)をトルエン中、還流下で3時間反応させ結晶物を濾別することにより2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン223g(収率72%)を得た。
得られた2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン155g(0.5モル)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂「YDF−170」(東都化成株式会社製、エポキシ当量170)340g(2当量)及びテトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド0.75gをγ−ブチロラクトン100g中に溶解し150℃まで加熱し、3時間反応させた後、冷却し、リン含有エポキシ化合物(f−1)を得た。得られた化合物(f−1)のエポキシ当量は643であった。
【0064】
実施例4〜6及び比較例1〜4(熱硬化性樹脂組成物)
表1に示す配合組成で、各成分を下記の方法で溶媒に溶かしてワニスを調製した。さらに、下記の条件で硬化させて両面銅張積層板及び成形板を試作した。難燃性(UL)は積層板を用いて測定し、Tg(DMA法、TMA法)、線膨張係数及び電気特性(誘電特性)の試験は成形板を用いて行った。評価結果を表1に示す。
【0065】
以下に、実施例4〜6及び比較例1〜4で使用した各成分について簡単に説明する。
<リン含有化合物>
(i)(a)成分
上記実施例1〜3で得られた重合性リン含有ポリキシリレンアリールエーテル化合物(a−1)〜(a−3)
(ii)(f)成分
上記参考例1で得られたリン含有エポキシ化合物(f−1)
(iii)(d)成分
シクロホスファゼンオリゴマー「SPE−100」(大塚化学(株)製、リン原子含有率13.0質量%)
リン酸エステル:1,3−フェニレンビスジキシレニルホスフェート(「PX−200」(大八化学(株)製、リン原子含有率9.0質量%)
<ビニルベンジル樹脂>
(b)成分
フルオレン型ビニルベンジル樹脂「V−5000X」(昭和高分子(株)製)
<エポキシ樹脂>
(g)成分
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON N−680」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量=208グラム/当量)
<フェノール樹脂>
(h)成分
クレゾールノボラック型フェノール樹脂「ショウーノール CRG−951」(昭和高分子(株)製、水酸基当量=118グラム/当量)
<硬化剤>
(c)成分
2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン「パーヘキサ25B」(日本油脂(株)製 過酸化物)
<硬化促進剤>
(i)成分
2-エチル−4−メチルイミダゾール「キュアゾール2E4MZ」(四国化成(株)製)
<溶剤>
(e)成分
トルエン、メトキシプロパノール
【0066】
[ワニスの調製]
予め、硬化促進剤及び溶剤以外の表1に示す各成分((a)成分、(b)成分、(d)成分、及び(f)成分〜(h)成分)を、表1に示す混合割合のトルエンとメトキシプロパノールの混合溶媒((e)成分)に溶解し、さらに表1に示す量の硬化剤((c)成分)及び硬化促進剤((i)成分)を加え、不揮発分(N.V.)が60質量%のワニス(難燃性熱硬化性樹脂組成物A〜G)を調製した。
【0067】
[積層板の作製]
実施例4〜6または比較例1〜4で調製したワニスを、厚さ約180μmのガラスクロス「WE18K105」(日東紡績(株)製)に含浸させた後、溶媒を乾燥した。
ついで、120℃で3分、引き続き160℃で3分の条件で予備加熱してプリプレグを作製した。プリプレグ4枚を貼り合わせ、さらに3.92MPaの加圧下、200℃で60分の条件で加熱成形することにより積層板を作製した。得られた積層板は、厚み約0.8mm、樹脂含有量約40質量%であった。
【0068】
[成形板の作製]
実施例4〜6または比較例1〜4で調製したワニスを、減圧下(1.33×10-3MPa)、90℃で30分間乾燥させることにより樹脂固形物を得た。得られた樹脂固形物を加圧下(1.0MPa)、200℃で60分かけて加熱成形することで、成形板を作製した。
【0069】
[物性試験項目及び測定条件]
下記、測定項目のうち、(1)〜(5)は実施例1〜3または参考例1で得られた化合物を用いて、(6)は上記積層板を用いて、(7)〜(9)は上記成形板を用いて測定を行った。
【0070】
(1)元素分析:試料を硫酸及び硝酸で分解した後、ICP発光法を用いてリン含有量を測定した。リン含有量を難燃性熱硬化性樹脂組成物の質量で除することにより、リン原子含有率(%)を求めた。
(2)分子量:ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定を行った。なお、測定には昭和電工(株)製の「Shodex GPC System−21」(カラム KF−802、KF−803、KF−805)を用い、測定条件はカラム温度40℃、溶出液テトラヒドロフラン、溶出速度1ml/分とした。標準ポリスチレン換算分子量(Mw)で表示した。
(3)1H−核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR):テトラメチルシランを内部標準物質に、日本電子(株)製の「JNM−LA300」を用いて測定した。
(4)IRスペクトル:パーキンエルマー社製のフーリエ変換赤外分光光度計「Spectrum One」を用いて測定した。
(5)エポキシ当量:JIS−K7236に準拠して測定した。
【0071】
(6)難燃性:UL−94垂直燃焼試験に準拠して測定した。
【0072】
(7)ガラス転移温度(Tg):DMA法(昇温スピード3℃/分)及びTMA法(昇温スピード10℃/分)にて測定し、耐熱性の指標とした。なお、DMA法では株式会社オリエンテック製の「RTM−1T」、TMA法では理学電機(株)製の「TAS200」を用いて測定を行った。
(8)線膨張係数:TMA法にて測定(昇温スピード10℃/分)し、耐熱性の指標とした。なお、測定には理学電機(株)製の「TAS200」を用いた。
(9)誘電率、及び誘電正接:Agilent Technologies社製「ネットワークアナライザ 8753ES」を用い、1.5mm×1.5mm×75mmの角柱状試験片を用いて空洞共振摂動法を用いて測定した(印加周波数は1GHz)。
【0073】
【表1】

【0074】
表1の評価結果より、本発明の重合性リン含有ポリキシリレンアリールエーテル化合物を含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物から加熱硬化して得られた積層板は、高い難燃性を示すと同時に、耐熱性、電気特性(誘電率、誘電正接)のいずれにおいても優れていることが明らかである。
なお、比較例1のようにリン元素を組成物中に含有していない系では当然のことながら難燃性が得られない。比較例2のように、成分(a)を用いずに、エポキシ化合物にリン原子を組み込んだ化合物を難燃剤として用いた系では、電気特性(誘電率、誘電正接)が劣る結果となっている。比較例3、4のように、成分(a)を用いずに添加型リン含有化合物を難燃剤として用いた系では、難燃性は付与されたものの、耐熱性が低下しており、また、長期間保存・使用時にはブリードアウトの懸念が残る。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物を含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物は、半導体封止剤、積層板、コーティング材料及び複合材料等として電子材料分野で好適に使用される。また、自動車部品、OA機器部品等としても好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物。
【化1】

(式中、R1は下記一般式(2)で表される基であり、Wは下記一般式(3)または(4)で表される基である。R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。)
【化2】

(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。p及びqは、それぞれ独立して、0〜5の整数を表す。)
【化3】

(式中、R5及びR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。rは0〜3の整数を表し、sは0〜5の整数を表す。)
【請求項2】
一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)中のo、p、q、r及びsが全て0である請求項1記載の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物。
【請求項3】
下記一般式(5)または(6)
【化4】

(式中、R3〜R6、p、q、r及びsは前記定義の通りである。)
で表されるフェノール性水酸基を2個有するリン含有化合物と、下記一般式(7)(8)
【化5】

(式中、R2は前記定義の通りである。X1及びX2は、それぞれ独立に塩素原子または臭素原子を表す。oは前記定義の通りである。)
で表されるキシリレンジハライド化合物、及びエテニル基含有ベンジルハライド化合物を、アルカリ存在下に極性溶剤中で反応させるか、または、アルカリ及び相間移動触媒の存在下に有機溶剤及び水の混合液中で反応させる工程を有する、前記、重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の重合性リン含有(ポリ)キシリレンアリールエーテル化合物、及びラジカル重合性を有する熱硬化性樹脂を含む、難燃性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化してなる硬化物。
【請求項6】
請求項4に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形し、金属箔を積層してなる積層板。
【請求項7】
片面または両面に金属箔を有する請求項6に記載の積層板。

【公開番号】特開2011−84697(P2011−84697A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240678(P2009−240678)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】