説明

重合性液晶樹脂から得られた液晶造形体及び該液晶造形体を用いたマイクロマシン

【課題】 レーザー光により駆動させることができるとともに、様々な形状に造形することができる液晶造形体及び該液晶造形体を用いたマイクロマシンを提供する。
【解決手段】 重合性液晶樹脂に造形用レーザー光を照射し硬化させることにより造形された液晶造形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の照射によって硬化する重合性液晶樹脂から得られた液晶造形体及び該液晶造形体を用いたマイクロマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、マイクロマシンは様々な分野において研究開発が進められており、特に、小型化が重要な課題となっている。
マイクロマシンを駆動させるための駆動源としては、一般的に電力を用いることが多い。しかし、駆動源として電力を用いた場合、配線が必要になるため、マイクロマシンを小型化する弊害となっていた。
【0003】
そこで、液晶ドロップレットを用い、レーザー光を駆動源とする技術が研究されている(非特許文献1〜4参照)。
具体的には、液晶ドロップレットにレーザー光を照射することで、液晶ドロップレットを回転駆動させることが開示されている。
【0004】
液晶ドロップレットはレーザー光を照射することで回転駆動することができるので、液晶ドロップレットをマイクロマシンの構成部品として使用することが考えられる。液晶ドロップレットを回転駆動させることで、マイクロマシンを駆動させることができる。
しかし、液晶ドロップレットは球状であり、その他の形状に造形することができない。そのため、液晶ドロップレットをマイクロマシンの構成部品として使用しようとした場合、使用用途が限られてしまうという問題を有していた。
【0005】
【非特許文献1】Saulius Juodkazis, et al., Fast optical switching by a laser-manipulated microdroplet of liquid crystal, Applied Physics Letters, volume 74, number 24 (1999) 3627-3629.
【非特許文献2】Saulius Juodkazis, et al., High-efficiency optical transfer of torque to a nematic liquid crystal droplet, Applied Physics Letters, volume 82, number 26 (2003) 4657-4659.
【非特許文献3】Naoki Murazawa, et al., Characterization of bipolar and radial nematic liquid crystal droplets using laser-tweezers, Journal of Physics D: Applied Physics, 38 (2005) 2923-2927.
【非特許文献4】Tiffany A. Wood, et al., Mechanism of optical angular momentum transfer to nematic liquid crystalline droplets, Applied Physics Letters, volume 84, number.21 (2004) 4292-4294.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、レーザー光により駆動させることができるとともに、様々な形状に造形することができる液晶造形体及び該液晶造形体を用いたマイクロマシンを提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、重合性液晶樹脂に造形用レーザー光を照射し硬化させることにより造形された液晶造形体に関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記造形用レーザー光による造形が近赤外パルス光を用いた二光子吸収法により行われることを特徴とする請求項1記載の液晶造形体に関する。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記液晶造形体の形状が歯車型又は円柱型であることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶造形体に関する。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3いずれか記載の液晶造形体を用いたマイクロマシンであって、該液晶造形体を駆動させるための駆動用レーザー光を発する駆動用レーザー装置を有することを特徴とするマイクロマシンに関する。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記駆動用レーザー光が円偏光であることを特徴とする請求項4記載のマイクロマシに関する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、重合性液晶樹脂に造形用レーザー光を照射し硬化(重合)させることにより造形された液晶造形体であることにより、様々な形状の液晶造形体を得ることができる。そのため、様々なマイクロマシンの構成部品として利用することができる。
また、液晶造形体はレーザー光により駆動させることができるため、マイクロマシンに用いた場合、配線を有さなくてもマイクロマシンを駆動することができ、マイクロマシンを小型化することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、前記造形用レーザー光による造形が近赤外パルス光を用いた二光子吸収法により行われることにより、重合性液晶樹脂に対して分解能に優れた精密な造形を行うことができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、前記液晶造形体の形状が歯車型又は円柱型であることにより、マイクロマシンに用いたとき、直線偏光のレーザー光を照射させても、直線偏光の偏光方向を回転させることによって、液晶造形体を容易に回転させることができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、請求項1乃至3いずれか記載の液晶造形体を用いたマイクロマシンであって、該液晶造形体を駆動させるための駆動用レーザー光を発する駆動用レーザー装置を有することにより、配線を有さなくてもマイクロマシンを駆動することができ、マイクロマシンを小型化することができる。
また、液晶造形体は様々な形状に造形することができるので、様々なマイクロマシンに適用することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、前記駆動用レーザー光が円偏光であることにより、液晶造形体の形状に関係なく、液晶造形体を回転させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る液晶造形体について説明する。
本発明の実施形態に係る液晶造形体は、液晶モノマーを構成要素とし、レーザー光を照射させることにより硬化(重合)させることができる液晶樹脂(以下、重合性液晶樹脂と称す)を光造形法によって造形したものである。つまり、重合性液晶樹脂にレーザー光(紫外光や近赤外パルス光等)(以下、造形用レーザー光と称す)を照射することにより硬化(重合)させ、固体として造形したものである。
【0018】
重合性液晶樹脂の構成要素となる液晶モノマーとしては、レーザー光を照射することで硬化(重合)する重合性液晶樹脂が得られるものであれば特に限定されない。例えば、熱や圧力によってのみ相変化するサーモトロピック液晶でもよいし、多成分からなり温度と成分の構成によって相を変化するライオトロピック液晶でもよい。
また、液晶モノマーは、分子配列の違いにより、ネマティック液晶、スメクティック液晶、コレスティック液晶に分類することができるが、これらのどの液晶を用いてもよい。
さらに、重合性液晶樹脂は、エステル系、ジオキサン系、ビフェニル系等の十数種類の有機化合物の組み合わせにより構成されるが、当該組み合わせも特に限定されない。
【0019】
重合性液晶樹脂を造形した液晶造形体の形状も特に限定されず、液晶造形体を用いるマイクロマシンに応じて適宜設計すればよい。
具体的には、歯車型や円柱型の液晶造形体を挙げることができる。歯車型や円柱型の液晶造形体をマイクロマシンに用いた場合、直線偏光の偏光方向を回転させることにより、直線偏光を照射させた場合でも、液晶造形体を容易に回転させることができる。
【0020】
次いで、液晶造形体の造形方法について説明する。
液晶造形体は、重合性液晶樹脂に造形用レーザー光を照射し、光硬化反応を生じさせることで造形される。つまり、硬化した部分が液晶造形体となる。例えば歯車型の液晶造形体を造形したい場合は、歯車型に造形用レーザー光を照射し、硬化させればよい。
なお、使用する重合性液晶樹脂が常温で固体の場合は、加熱して液晶の状態とした後、造形用レーザー光を照射し、硬化させればよい。
【0021】
また、液晶造形体を回転駆動させる場合、重合性液晶樹脂の液晶分子の配向性を一定方向に揃えることが好ましい。具体的には、基板上に配向膜を成膜し、ラビング法により配向膜の配向性を一定方向に揃える。配向性が一定方向に揃った配向膜の上に重合性液晶樹脂を載置することにより、重合性液晶樹脂の液晶分子の配向性を配向膜の配向性と同じ方向に揃えることができる。そして、配向性が一定方向に揃った重合性液晶樹脂を造形することにより、配向性が一定方向に揃った液晶造形体を得ることができる。
配向方向を揃えることで、駆動源となるレーザー光(駆動用レーザー光)により生じるトルクを一定方向にすることができ、回転効率を向上させることができる。
【0022】
また、光造形法としては紫外光による一光子吸収反応を利用した一光子吸収法と、赤外パルス光による二光子吸収反応を利用した二光子吸収法を挙げることができるが、二光子吸収法が好ましい。二光子吸収法を用いることにより、一光子吸収法に比して正確に液晶造形体の造形を行うことができるからである。
以下、二光子吸収法の利点について説明する。但し、本発明の造形法は二光子吸収法に限定されるわけではなく、一光子吸収法も当然含まれる。
【0023】
図1は一光子吸収法について説明するための概略説明図である。
図2は二光子吸収法について説明するための概略説明図である。
また、図3は一光子吸収法と二光子吸収法の造形用レーザー光の吸収率を説明するための図であり、(a)が一光子吸収法の造形用レーザー光の吸収率を示し、(b)が二光子吸収法の造形用レーザー光の吸収率を示している。具体的には、図3(a)(b)とも、造形用レーザー光を集光させた様子を示した図の右隣に造形用レーザー光の吸収率を示すグラフを示している。
【0024】
一光子吸収法では、紫外光である造形用レーザー光を対物レンズ(OL1)で集光し、重合性液晶樹脂(A1)に照射することにより液晶造形体を造形する。
ここで、一光子吸収法により重合性液晶樹脂(A1)に造形用レーザー光を照射した場合、図3で示すように、造形用レーザー光の集光位置のみではなく、他の範囲でも光吸収が生じる。そして、造形用レーザー光の進行方向における比較的広い範囲が硬化することとなる。そのため、重合性液晶樹脂(A1)の内部に造形用レーザー光を集光させたとしても、集光位置以外の範囲(特に集光位置より手前の範囲)でも硬化が生じることとなる。その結果、造形用レーザー光の進行方向における分解能が制限されてしまう。
そこで、一光子吸収法の場合、図1(a)に示すように、まず、重合性液晶樹脂(A1)の表面に造形用レーザー光を照射し、表面を硬化させる。そして、図1(b)に示すように、硬化した重合性液晶樹脂(A11)を移動させ、硬化した重合性液晶樹脂(A11)を硬化していない重合性液晶樹脂(A1)中に沈める。そして硬化した重合性液晶樹脂(A11)上の硬化していない重合性液晶樹脂(A1)に造形用レーザー光を照射し、重合性樹脂(A11)上の重合性液晶樹脂(A12)を硬化させる。このように、重合性液晶樹脂の表面のみの硬化を繰り返すことにより、液晶造形体を造形していく。しかし、当該方法では、積層する重合性液晶樹脂(A11,A12)ごとに表面張力が異なるので、造形の精度にばらつきが生じてしまう。また、光の回折限界を越えて造形を行うことができない。
【0025】
一方、二光子吸収法では、近赤外パルス光の造形用レーザーを対物レンズ(OL1)で集光し、重合性液晶樹脂(A1)に照射することにより液晶造形体の造形を行う。
二光子吸収法では、図3で示すように、一光子吸収法に比して造形用レーザー光の集光位置付近のみで光吸収が生じる。つまり、集光位置付近のみで硬化が生じ、それ以外の範囲では硬化が生じないこととなる。そのため、造形用レーザー光の集光位置を重合性液晶樹脂(A1)の内部に設定することにより、重合性液晶樹脂(A1)内部を直接硬化させることができる。また、二光子吸収法では、硬化が生じる範囲が非常に狭く、回折限界より優れた分解能で造形を行うことができる。
具体的には、重合性液晶樹脂(A1)の一部(A11)を硬化させた後、重合性液晶樹脂(A1)内部で造形用レーザー光の集光位置を動かし、他の部分(A12)を硬化させる。
【0026】
図4は二光子吸収法を用いた液晶造形体の造形装置(100)を示す図である。
造形装置(100)は造形用レーザー装置(1)、スペイシャルフィルタ(2)、電動ミラー(3)、顕微鏡(4)を有している。
造形用レーザー装置(1)から発する造形用レーザー光は顕微鏡(4)に入射する。そして、顕微鏡(4)の基板(41)上に置かれた重合性液晶樹脂(A1)に造形用レーザー光が集光され、当該樹脂(A1)が造形される。
集光位置は光路中に置かれた電動ミラー(3)や顕微鏡(4)の対物レンズ(OL1)等で走査することができる。
また、スペイシャルフィルタ(2)は前後にレンズ(L1,L2)を有するものであり、造形用レーザー光の光波面のノイズや歪みを取り除く効果を有する。そのため、造形装置(100)の分解能をさらに向上させることができる。
また、光路における電動ミラー(3)と顕微鏡(4)の間には、二枚のレンズ(L3,L4)が配置されている。そして、二枚のレンズ(L3,L4)により、電動ミラー像を対物レンズ(OL1)の重合性液晶樹脂(A1)側の面に結像させている。これにより、電動ミラー(3)を走査させても造形用レーザー光の光束を対物レンズ(OL1)の瞳径から外すことなく入射角のみを変化させて重合性液晶樹脂(A1)の造形を行うことができる。
【0027】
なお、造形用レーザー装置(1)としては、重合性液晶樹脂(A1)を硬化させることができるレーザー光(紫外光や近赤外パルス光等)を発するものであれば特に限定されないが、二光子吸収法を用いた硬化のためにはモードロックチタンサファイアレーザー等の超短パルスレーザーが適している。
また、造形装置(100)には、電動ミラー(3)の角度等を変更するためのドライバー(5)及び顕微鏡(4)の基板(41)の高さ等を制御するためのステッピングモータ(7)が設けられている。そして、ドライバー(5)及びステッピングモータ(7)は制御PC(6)に接続されており、制御PC(6)により、電動ミラー(3)の角度や対物レンズ(OL1)の高さ等を調整している。
また、顕微鏡(4)にはCCD(8)を介してモニタ(9)が接続されており、重合性液晶樹脂(A1)の造形の状態を確認できるようになっている。そして、モニタ(9)を確認しつつ、電動ミラー(3)や顕微鏡(4)等の動作を制御し、造形を行うことができる。
また、造形後は酢酸エチル等で重合していない液晶(硬化していない液晶)を洗浄すればよい。
【0028】
本発明には、上記した液晶造形体を用いたマイクロマシンも含まれる。
液晶造形体は様々な形状に造形することができるため、様々なマイクロマシンに応用することができる。また、液晶造形体自体が小さく、且つレーザー光(駆動用レーザー光)をエネルギー源とするため配線も必要ないので、マイクロマシン全体を容易に小型化することができる。
具体的には、マイクロマシンのアクチュエータやマイクロ攪拌器の攪拌羽根等に用いることができる。また、液晶造形体を用いることにより、マイクロマシンを極小さくすることができるので、体内に埋め込む人工臓器としても好適に利用可能である。
【0029】
以下、液晶造形体をマイクロマシンに使用した場合の液晶造形体の駆動方法について説明する。
液晶造形体の駆動は、レーザートラップの技術を用いて行うことができる。
レーザートラップとは特定のレーザー光(駆動用レーザー光)で粒子(本発明の場合、液晶造形体)を照射したときに、レーザー光で照射された粒子がレーザー光の屈折によって発生する力に捕捉される現象をいう。レーザー光の照射方向が移動すると、捕捉された粒子も同じ方向に移動する。
レーザートラップを利用して液晶造形体を捕捉し、駆動用レーザー光の照射方向を移動させることによって液晶造形体を動かすことができる。また、液晶造形体を回転駆動させることもできる。このように、液晶造形体を駆動させることにより、マイクロマシンを駆動させることができる。
また、レーザートラップでは駆動用レーザー光のON・OFFを切り替えることによって、任意の位置での液晶造形体の着脱が可能となる。また、レーザー光を駆動源とするため、配線を用いる必要もない。さらに、液晶造形体には駆動用レーザー光が照射されるだけなので、液晶造形体自体を傷つけることもない。
以下、レーザートラップについて詳述する。
【0030】
図5は、レーザートラップ装置(200)の概略説明図であり、駆動用レーザー装置(11)から発せられた駆動用レーザー光が顕微鏡(12)の基板(121)上に載置された液晶造形体(A2)に照射されている。
図6は、対物レンズで集光した駆動用レーザー光を球形の液晶造形体(A2)に照射している様子を示す説明図である。
レーザートラップを行う場合、図6で示すように、駆動用レーザー光の焦点(S)が液晶造形体(A2)の内部に位置するよう駆動用レーザー光を液晶造形体(A2)に照射する。
液晶造形体(A2)は周囲の媒質と屈折率が異なるため、液晶造形体(A2)に駆動用レーザー光を照射した場合、表面で屈折が生じ、進行方向が変わる。それにより、入射前後で光子の運動量が変化し、運動量保存の法則に従い、変化した運動量が液晶造形体(A2)に伝わる。
ここで、液晶造形体(A2)の屈折率nと周囲の媒質の屈折率をnの関係は、n>nであり、液晶造形体(A2)には、運動量の変化の総和の力(放射圧)が図6矢印(F)方向(エネルギー密度の高い焦点(S)への方向)へ加わることとなる。液晶造形体(A2)は中心が焦点付近に引き寄せられ、その力が液晶造形体(A2)の分子のブラウン運動を抑え、重力と均衡を保つ位置で三次元的に捕捉される。
また、集光位置を電動ミラー等で走査することにより、液晶造形体(A2)を捕捉する位置を自在に調整することも可能である。
【0031】
なお、駆動用レーザー装置(11)としては、CW−YAGレーザー等を用いることができる。
また、トラップ可能な液晶造形体(A2)の最大寸法は液晶造形体(A2)に入射する駆動用レーザー光の強度(電力値)に依存する。つまり、駆動用レーザー光の強度を高くすることにより、トラップ可能な液晶造形体(A2)の大きさも大きくなる。
また、液晶造形体(A2)の回転の様子を観測、又は測定するためには、図5に示すように観測用のランプ光(17)を、偏光子(ポラライザー)(13)によって一定の方向の直線偏光に変換し、液晶造形体(A2)を通過した光を検光子(アナライザー)(14)を通して、CCD(15)を介して接続されたモニタ(16)に映し出せばよい。また、CCD(15)を介して接続されたモニタ(16)の代わりに、光電子倍増管を介して接続されたオシロスコープを用いてもよい。
【0032】
また、駆動用レーザー装置(11)から発する駆動用レーザー光としては、直線偏光のものでもよいし、円偏光のものでもよい。
直線偏光の駆動用レーザー光を用いた場合、直線偏光の偏光方向を回転することによって液晶造形体(A2)を回転させることができる。
【0033】
また、円偏光の駆動用レーザー光を用いることにより、直線偏光の駆動用レーザー光を用いた場合よりも、液晶造形体(A2)を容易に回転させることができる。
円偏光の駆動用レーザー光の光子は角運動量を有し、液晶造形体(A2)は複屈折性を有する。そのため、円偏光の駆動用レーザー光を液晶造形体(A2)に照射することにより、円偏光の駆動用レーザー光の偏光状態が変化する。それにより、駆動用レーザー光の角運動量が液晶造形体(A2)に加わることとなる。その結果、液晶造形体(A2)を回転駆動させることができる。
円偏光の駆動用レーザー光を用いた場合、偏光そのものが持つトルクにより液晶造形体(A2)を回転駆動させるため、液晶造形体(A2)の形状も限定されず、回転方向も容易に選択することができる。
また、円偏光の駆動用レーザー光の強度を高くすることにより、液晶造形体(A2)の回転数を上げることができる。
なお、円偏光の駆動用レーザー光は、例えば直線偏光の駆動用レーザー光を位相板に通過させることにより得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
まず、図4の造形装置(100)を用い、円柱型の液晶造形体と歯車型の液晶造形体を造形した。
また、造形装置(100)の構成機器としては、以下のものを用いた。
(i)造形用レーザー装置(1)・・・スペクトラ・フィジックス株式会社製Tsunami(波長:730nm、パルス幅:130fs、繰り返し周波数:82MHzのチタンサファイアファントム秒レーザー)
(ii)電動ミラー(3)・・・ジーエスアイ・クループ・ジャパン株式会社製クローズドループガルバノメータスキャナ VM2000、 サーボドライバ MiniSAX、スキャンコントローラ SC2000
(iii)顕微鏡(4)・・・株式会社ニコン製:エクリプスTE2000−U(倒立顕微鏡)
(iv)ステッピングモータ(7)・・・中央精機株式会社製フォーカシングユニット MSS−FMC
また、レンズ(L1,L2,L3,L4)としては、焦点距離が順に10mm、35mm、300mm、400mmのものを用いた。
【0035】
重合性液晶樹脂(A1)は、アクリル基を有したネマティック液晶であるBASF社製Paliocolor LC 242を液晶モノマーとして用いたものである。
なお、本実施例で用いた重合性液晶樹脂(A1)は常温で固体であるため、ガラス基板にラビング法により配向膜を作製した後に、配向膜上に固体状の重合性液晶樹脂(A1)を載置し、オーブンで90℃に加熱し、液晶状態とした。
そして、顕微鏡の対物レンズ(OL1)を用いて液晶状態とした重合性液晶樹脂(A1)に集光させた造形用レーザー光(出力:2mW)を、電動ミラー(3)で走査(走査速度:48μm/s)することにより、歯車型(直径(図7(a)の(φ)の長さ)7μm、高さ10μm)及び円柱型(直径5μm、高さ7μm)の液晶造形体を造形した。
造形後、酢酸エチルで重合していない液晶(硬化していない液晶)を洗浄すると同時に、レーザートラップを行い回転駆動させた。
レーザートラップには、図5に示すレーザートラップ装置(200)を用いた。レーザートラップ装置(200)の駆動用レーザー装置(11)としては、レーザーコンパクト株式会社製 LCS−DTL−322−1100(波長1064nm、レーザーパワー1100WのCW−YAGレーザー)を用いた。なお、駆動用レーザー装置(11)から発する駆動用レーザー光は直線偏光であるため、位相板に通すことによって円偏光に変換し、液晶造形体(A2)に入射させた。また、対物レンズ(OL2)としては、開口数1.3の油侵対物レンズを用いた。
【0036】
図7は歯車型の液晶造形体を示す図であり、図7(a)が静止状態を示す図、図7(b)が回転状態を示す図である。
図7で示すように、歯車型に造形した液晶造形体は、円偏光の駆動用レーザー光により回転駆動させることができることがわかる。
また、円偏光の回転方向を切り替えることにより、歯車の回転を逆転することができることも確認できた。
【0037】
図8は、円柱型の液晶造形体(A2)の静止状態を示す図である。
図9は、図8に示す円柱型の液晶造形体(A2)を回転駆動させた場合の駆動用レーザー光の強度と回転数の関係を示す図であり、横軸が駆動用レーザー光の強度(mW)を示し、縦軸が回転数(rpm)を示す。
図9に示すように、駆動用レーザー光の強度と液晶造形体の回転数は比例関係にあることがわかる。つまり、駆動用レーザー光の強度を高くすることにより、液晶造形体(A2)の回転数を上げることができるといえる。本実施例では、駆動用レーザー光の強度を180mWとした場合、2300rpmの回転数を得ることができた。
【0038】
図10は、直径5μmの円柱型の液晶造形体の高さと回転数の関係を示す図であり、横軸が高さ(μm)、縦軸が回転数(rpm)を示す。なお、このときの駆動用レーザー光の強度は180mWである。
図10で示すように、円柱型の液晶造形体の場合、高さを低くすると回転数が上がることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、アクチュエータやマイクロ攪拌器、各種人工臓器等、様々なマイクロマシンに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】一光子吸収法について説明するための概略説明図である。
【図2】二光子吸収法について説明するための概略説明図である。
【図3】一光子吸収法と二光子吸収法の造形用レーザー光の吸収率を説明するための図である。
【図4】二光子吸収法を用いた液晶造形体の造形装置を示す図である。
【図5】レーザートラップ装置の概略説明図である。
【図6】対物レンズで集光した駆動用レーザー光を球形の液晶造形体に照射している様子を示す説明図である。
【図7】歯車型の液晶造形体を示す図である。
【図8】円柱型の液晶造形体の静止状態を示す図である。
【図9】図8に示す円柱型の液晶造形体を回転駆動させた場合の駆動用レーザー光の強度と回転数の関係を示す図である。
【図10】直径5μmの円柱型の液晶造形体の高さと回転数の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
11 駆動用レーザー装置
A1 重合性液晶樹脂
A2 液晶造形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性液晶樹脂に造形用レーザー光を照射し硬化させることにより造形された液晶造形体。
【請求項2】
前記造形用レーザー光による造形が近赤外パルス光を用いた二光子吸収法により行われることを特徴とする請求項1記載の液晶造形体。
【請求項3】
前記液晶造形体の形状が歯車型又は円柱型であることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶造形体。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載の液晶造形体を用いたマイクロマシンであって、
該液晶造形体を駆動させるための駆動用レーザー光を発する駆動用レーザー装置を有することを特徴とするマイクロマシン。
【請求項5】
前記駆動用レーザー光が円偏光であることを特徴とする請求項4記載のマイクロマシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−23129(P2010−23129A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184169(P2008−184169)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】