説明

重心高さ計測装置、自動車検査システム、及び重心高さ計測方法

【課題】正確に且つ短時間で物体の重心高さを測定することができる重心高さ計測装置、及び重心高さ計測方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る重心高さ計測装置40は、振り子の原理により物体の重心高さを計測する重心高さ計測装置40であって、車両(物体)1を搭載する揺動ユニット19と、揺動ユニット19を支持して左右対称な振り子の円弧軌道に沿って揺動させる揺動ガイド28と、揺動ユニット19に応力を与えて揺動ユニット19を揺動させる揺動手段16と、揺動ユニット19の揺動周期を検知する変位センサ(揺動周期検知手段)8と、変位センサ8により検知された揺動周期に基づいて車両1の重心位置を演算する重心位置演算手段10と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重心高さ計測装置、及び重心高さ計測方法に関し、さらに詳しくは、車両等の重心高さを、振り子の原理を利用して計算により求める重心高さ計測装置、及び重心高さ計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車は、人間の生活、社会活動にとって欠かせないものとなっているが、同時に、交通事故、窒素酸化物や黒煙による大気汚染、地球温暖化などの原因にもなっている。そこで、車社会の負の影響を低減するため、個々の自動車が守らなければならない安全、環境に関する基準法(道路運送車両の保安基準)が国により定められている。このため、車両の使用者に対して個々の自動車が保安基準に適合しているか否かを確認する自動車検査(車検)が義務付けられている。
車両の最大安定傾斜角を測定する方法として、1)最大安定傾斜角測定機による方法、2)前輪楊程法による重心高算出による方法、3)モーメント法による重心高算出による方法が行われている。図7は2)の前輪楊程法について説明する模式図であり、空車状態の車両50の前輪をクレーン52により持ち上げて、所定の算定式により重心高さを推定して、その値から安定傾斜角を求める。図8は1)の空車実測による方法について説明する模式図であり、空車状態の車両50を台座53に搭載して、台座53を左右に傾けた場合に、反対側の車輪の全部が接地面を離れるときの接地面と水平面のなす角度を測定することにより重心を求め、その値から安定傾斜角を求める。
【0003】
このように、現在の車検制度では、上記3種類の測定法の何れかにより最大安定傾斜角を測定しているが、2)3)の方法では、計測時間が長くなり、計算方法によってはバラツキが生じる。また、1)の方法では、計測時間が長くなるばかりでなく、実測時の安全性の確保の面で難があるといった問題を抱えている。
尚、重心高を測定する従来技術として特許文献1には、物体を吊り支点を支点として任意方向に振らせたときの固有周期から、物体の高さ方向の重心を求める重心位置の測定方法について開示されている。
また、特許文献2には、吊りフレームに、重量既知の物体と、重心位置が既知の標準部材を取り付けて吊りフレームを揺動させ、揺動周期の差から物体の重心位置を測定する重心位置測定方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−209129号公報
【特許文献2】特開昭54−157684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている従来技術は、何れも測定する物体を吊り下げる必要があるため、物体の形状が大きくなると、測定装置そのものが大型化し、且つ測定時の安全性の面で難があるといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、揺動ユニットを支持して左右対称な振り子の円弧軌道に沿って揺動させる揺動ガイドを備え、揺動ユニットに測定する物体を搭載して揺動させ、その揺動周期を測定することにより、正確に且つ短時間で物体の重心高さを測定することができる重心高さ計測装置、及び重心高さ計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、振り子の原理により物体の重心高さを計測する重心高さ計測装置であって、前記物体を搭載する揺動ユニットと、該揺動ユニットを支持して左右対称な振り子の円弧軌道に沿って揺動させる揺動ガイドと、該揺動ユニットに応力を与えて該揺動ユニットを揺動させる揺動手段と、前記揺動ユニットの揺動周期を検知する揺動周期検知手段と、該揺動周期検知手段により検知された揺動周期に基づいて前記物体の重心位置を演算する重心位置演算手段と、を備え、前記揺動ガイドは、前記揺動ユニットの荷重を受けつつ該揺動ユニットの下部を支持することを特徴とする。
本発明の重心高さ計測装置は、振り子の原理を利用するために、物体を搭載した揺動ユニットを振り子の円弧軌道に沿って自在に揺動させる構成である。従って、従来のような物体を吊り下げる構成とは全く異なり、重量が嵩む車両等の重量物でも容易にその周期を計測することができる。即ち、本発明では、物体を搭載する揺動ユニットと、揺動ユニットを支持して左右対称な振り子の円弧軌道に沿って揺動させる揺動ガイドと、応力を与えて該揺動ユニットを揺動させる揺動手段と、揺動ユニットの揺動周期を検知する揺動周期検知手段と、検知された揺動周期に基づいて物体の重心位置を演算する重心位置演算手段と、を備え、揺動ガイドは、揺動ユニットの荷重を受けつつ該揺動ユニットの下部を支持する構成となっている。これにより、被測定物が重量物であっても容易に周期を計測して、正確な重心高さを演算することができる。
【0007】
請求項2は、前記揺動ユニットは、上面に前記物体を搭載する台座と、該台座を凹状の上面中心部に支持する円弧状に湾曲した板材から成る揺動部材と、を備え、前記揺動ガイドは、固定ベースと、固定ベース上に回転自在に支持され且つ前記揺動部材底面を支持することによって前記揺動ユニットを前記振り子の円弧軌道に沿って揺動させる複数の転動部材から構成されていることを特徴とする。
本発明の第1の揺動ユニットの具体的な構成は、円弧状に湾曲した板材から成る揺動部材の中心部に物体を支持する台座を備える。また、揺動ガイドの構成は、複数の転動部材(例えば、ローラ等)により揺動ユニットを支持し、転動部材が固定ベース上に回転自在に支持されている。これにより、物体を搭載した台座を支持しつつ、振り子の原理により容易に揺動させることができる。
【0008】
請求項3は、前記揺動ユニットは、上面に前記物体を支持する台座本体と、該台座本体によって回転自在に支持された複数の転動部材と、を備え、前記揺動ガイドは、固定ベースと、固定ベースに固定され上面に円弧状の凹所を有した凹状ガイドと、を備え、前記凹状ガイドの上面に前記揺動ユニットを載置し、転動部材を転動させることにより、前記振り子の円弧軌道に沿って前記揺動ユニットを揺動させるように構成したことを特徴とする。
本発明の第2の揺動ユニットの具体的な構成は、揺動ガイドを固定しておき、その凹状ガイドの上面に揺動ユニットを載置する構成である。これにより、揺動ユニットの台座本体が可動するため、可動部を小さく構成することができる。
【0009】
請求項4は、前記揺動手段により揺動させる角度θは、sinθ≒θが成り立つ角度であることを特徴とする。
振り子の原理を利用した場合、物体の周期をT、重力の加速度をgとすると、物体の重心までの距離Lは、L=(T×g)/4πから計算することができる。ただし、この式が成り立つ条件は、周期Tを求める場合、揺動させる角度がsinθ≒θが成り立つ程度の微小角である必要がある。これにより、揺動の幅を少なくして、計測時間を縮小すると共に、物体の測定時の安全性を高めることができる。
【0010】
請求項5は、前記揺動ユニットの重量は、前記物体の重量に比較して十分小さく設定することを特徴とする。
揺動ユニットと物体の合成重心高さLbc、揺動ユニットのみの重心高さL1、揺動ユニットの重量をwb、物体の重量をwcとしたときに、揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から物体の重心までの距離L3は、L3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcにより計算できる。ここで、wbがwcに比べて大きいと、物体の重心を正確に測定することができなくなる。そこで本発明では、揺動ユニットの重量wbは、物体の重量wcに比較して十分小さく設定する。これにより、物体の重心を正確に測定することができる。
【0011】
請求項6は、前記物体が車両であり、請求項1乃至5の何れか一項に記載の重心高さ計測装置が自動車検査場の検査工程の一部に組み込まれていることを特徴とする。
自動車検査場の検査工程は、流れ作業のように各工程を順次遂行することにより終了するようになっている。従って、本発明の重心高さ計測装置をこの工程の一部に加えることにより、トラック車両の安定傾斜角を自動的に測定することができる。これにより、自動車検査の検査時間を総体的に短縮することができる。
【0012】
請求項7は、請求項1乃至5の何れか一項に記載の重心高さ計測装置の重心高さ計測方法であって、前記重心位置演算手段は、前記揺動ユニットのみを前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Taから前記揺動ユニットのみの重心高さL1を計算し、前記揺動ユニットに前記物体を搭載して前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Tbから前記揺動ユニットと前記物体の合成重心高さLbcを計算し、回転慣性モーメントが無視できる場合、前記揺動ユニットの重量をwb、前記物体の重量をwcとしたときに、前記揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から前記物体の重心までの距離L3を、L3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcにより求めることを特徴とする。
本発明の重心高さ計測方法は、予め揺動ユニットのみの重心高さL1を測定し、揺動ユニットの重量wb、及び物体の重量wcは既知なので予め入力しておく。この状態で、揺動ユニットに物体を搭載して揺動周期Tbを測定して、揺動ユニットと物体の合成重心高さLbcを計算する。その結果、揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から物体の重心までの距離L3を、L3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcにより求める。これにより、既知の値と測定した値を入力するだけで、自動的に物体の重心までの距離を演算することができる。
【0013】
請求項8は、前記重心位置演算手段は、前記揺動ユニットのみを前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Ta、重力の加速度をgとしたとき、前記揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から前記揺動ユニットの重心までの距離L1を、L1=(Ta×g)/4πにより求めることを特徴とする。
振り子の原理による周期Tは、T=2π(L/g)1/2により計算することができる。この式をLについて解くと、L=(T×g)/4πとなる。従って、揺動ユニットのみの揺動周期Taを測定することにより、揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から揺動ユニットの重心までの距離L1を、L1=(Ta×g)/4πにより求めることができる。これにより、予め揺動ユニットのみの重心までの距離を容易に計算することができる。
【0014】
請求項9は、前記重心位置演算手段は、前記揺動ユニットに前記物体を搭載して前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Tb、重力の加速度をgとしたとき、前記揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から前記合成重心高さまでの距離Lbcを、Lbc=(Tb×g)/4πにより求めることを特徴とする。
振り子の原理による周期Tは、T=2π(L/g)1/2により計算することができる。この式をLについて解くと、L=(T×g)/4πとなる。従って、揺動ユニットに物体を搭載した揺動周期Tbを測定することにより、揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から揺動ユニットの重心までの距離Lbcを、Lbc=(Tb×g)/4πにより求めることができる。これにより、揺動ユニットに物体を搭載すると重心が移動して、それにより重心位置が変化することにより周期の変化として現れ、揺動ユニットと物体の合成重心高さを容易に計算することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、揺動ガイドは、揺動ユニットの荷重を受けつつ該揺動ユニットの下面を支持する構成となっているので、重量物であっても容易に周期を計測して、正確な重心高さを演算することができる。
また、揺動ガイドの構成は、複数の転動部材(例えば、ローラ等)により揺動ユニットを支持し、転動部材が固定ベース上に回転自在に支持されているので、物体を搭載した台座を振り子の原理により容易に揺動させることができる。
また、揺動ユニットの具体的な構成は、揺動ガイドを固定しておき、その凹状ガイドの上面に揺動ユニットを載置する構成であるので、揺動ユニットの台座が可動するため、可動部を小さく構成することができる。
また、周期Tを求める場合、揺動させる角度がsinθ≒θが成り立つ程度の微小角とするので、揺動の幅を少なくして、計測時間を縮小すると共に、物体の測定時の安全性を高めることができる。
また、揺動ユニットの重量は、物体の重量に比較して十分小さく設定するので、物体の重心を正確に測定することができる。
【0016】
また、本発明の重心高さ計測装置を自動車検査工程の一部に加えることにより、トラック車両の安定傾斜角を自動的に測定することができるので、自動車検査の検査時間を総体的に短縮することができる。
また、揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から物体の重心までの距離L3を、L3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcにより求めるので、既知の値と測定した値を入力するだけで、自動的に物体の重心までの距離を演算することができる。
また、揺動ユニットのみの揺動周期Taを測定することにより、揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から揺動ユニットの重心までの距離L1を、L1=(Ta×g)/4πにより求めることができるので、予め揺動ユニットのみの重心までの距離を容易に計算することができる。
また、揺動ユニットに物体を搭載した揺動周期Tbを測定することにより、揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から揺動ユニットの重心までの距離Lbcを、Lbc=(Tb×g)/4πにより求めることができるので、揺動ユニットに物体を搭載すると重心が移動して、それにより重心位置が変化が周期の変化として現れ、揺動ユニットと物体の合成重心高さを容易に計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る重心高さ計測装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る重心高さ計測装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る重心高さ計測装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の重心高さ計測装置の機能を説明するためのブロック図である。
【図5】本発明の重心高さ計測装置の動作の概略を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の重心位置演算手段の動作を説明するフローチャートである。
【図7】従来の前輪楊程法について説明する模式図である。
【図8】従来の空車実測による方法について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0019】
図1は本発明の第1の実施形態に係る重心高さ計測装置の構成を示す図である。本実施形態に係る重心高さ計測装置40は、振り子の原理により物体の重心高さを計測する重心高さ計測装置であって、車両(物体)1を搭載する揺動ユニット19と、揺動ユニット19を支持して左右対称な振り子の円弧軌道に沿って揺動させる揺動ガイド28と、揺動ユニット19に応力を与えて揺動ユニット19を揺動させる揺動手段16と、揺動ユニット19の揺動周期を検知する変位センサ(揺動周期検知手段)8と、変位センサ8により検知された揺動周期に基づいて車両1の重心位置を演算する重心位置演算手段10と、を備えて構成されている。尚、揺動ユニット19は、上面に車両1を搭載する台座2と、この台座2を凹状の上面中心部に支持する円弧状に湾曲した板材から成る揺動部材3と、を備え、揺動ガイド28は、固定ベース6と、固定ベース6上に回転自在に支持され且つ揺動部材3の底面を支持することによって揺動ユニット19を振り子の円弧軌道に沿って揺動させる2本のローラ(転動部材)4、5から構成されている。また、変位センサ8は、揺動部材3の一部に取り付けられた磁性体7の磁力を検知する構成でも良いし、光センサにより反射部に反射した光を検知するものでも良い。また、揺動手段16は、油圧、或いは電動により、揺動部材3の一部に応力を与える構成であれば、どのような構成でも構わない。
【0020】
ここで、揺動部材3は、仮想円17の円弧の一部であり、その中心をQとする。ここでは後述する重心高さ計測方法を説明するために、各符号について説明をしておく。台座2と揺動部材3を合わせた重心をG1、中心Qから重心G1までの距離をL1とする。また、計測により求めた車両1の重心をG2、中心Qから重心G2までの距離をL3とする。また、台座2、揺動部材3及び車両1を合わせた重心をG3、中心Qから重心G3までの距離をLbcとする。また、中心Qから台座2の上面までの距離をL2とし、その上面から重心G2までの距離をL4とする。尚、この図では、説明を簡略化するために、各重心が中心Qからの垂線上に有るものとする。以下、同様とする。
即ち、本発明の第1の実施形態に係る揺動ユニット19の具体的な構成は、円弧状に湾曲した板材から成る揺動部材3の中心部に物体を支持する台座2を備える。また、揺動ガイド28の構成は、2本のローラ4、5により揺動ユニット19を支持し、ローラ4、5が固定ベース6上に回転自在に支持されている。これにより、車体1を搭載した揺動ユニット19を振り子の原理により容易に揺動させることができる。
【0021】
図2は本発明の第2の実施形態に係る重心高さ計測装置の構成を示す図である。本実施形態に係る重心高さ計測装置41の揺動ユニット27は、上面に車両15を支持する台座本体14と、この台座本体14によって回転自在に支持された複数の車輪(転動部材)13と、を備え、揺動ガイド29は、固定ベース11と、固定ベース11に固定され上面に円弧状の凹所を有した凹状ガイド12と、を備え、凹状ガイド12の上面に揺動ユニット27を載置し、車輪13を転動させることにより、振り子の円弧軌道に沿って揺動ユニット27を揺動させるように構成した。尚、揺動手段16、変位センサ8、及び重心位置演算手段10は、図1と同じ構成であるので図示せず説明を省略する。また、各重心位置と、仮想円18の中心Qからの距離は、図1と同様であるので説明を省略する。即ち、本発明の第2の実施形態に係る揺動ユニット27の具体的な構成は、揺動ガイド29を固定しておき、その凹状ガイド12の上面に揺動ユニット27を載置する構成である。これにより、揺動ユニット27の台座本体14が可動するため、可動部を小さく構成することができる。
【0022】
上記、図1と図2で説明した第1の実施形態と第2の実施形態に係る重心高さ計測装置は、振り子の原理を利用するために、物体を搭載した揺動ユニット19、27を振り子の円弧軌道に沿って自在に揺動させる構成である。従って、従来のような物体を吊り下げる構成とは全く異なり、重量が嵩む車両等の重量物でも容易にその周期を計測することができる。即ち、本実施形態では、車両を搭載する揺動ユニット19、27と、揺動ユニット19、27を支持して左右対称な振り子の円弧軌道に沿って揺動させる揺動ガイド28、29と、応力を与えて揺動ユニット19、27を揺動させる揺動手段16と、揺動ユニット19、27の揺動周期を検知する変位センサ8と、検知された揺動周期に基づいて物体の重心位置を演算する重心位置演算手段10と、を備え、揺動ガイド28、29は、揺動ユニット19、27の荷重を受けつつ該揺動ユニット19、27の下面を支持する構成となっている。これにより、重量物であっても容易に周期を計測して、正確な重心高さを演算することができる。
【0023】
また、揺動ユニット19、27と車両1、15の夫々の合成重心高さLbc、揺動ユニット19、27のみの重心高さL1、揺動ユニット19、27の重量をwb、車両1、15の重量をwcとしたときに、揺動ユニット19、27の円弧を形成する円の中心から物体の重心までの距離L3は、L3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcにより計算できる。ここで、wbがwcに比べて大きいと、車両1、15の重心を正確に測定することができなくなる。そこで本実施形態では、揺動ユニット19、27の重量は、車両1、15の重量に比較して十分小さく設定する。これにより、車両1、15の重心を正確に測定することができる。
【0024】
図3は本発明の第3の実施形態に係る重心高さ計測装置の構成を示す図である。本実施形態に係る重心高さ計測装置42は、上部固定部26に固定された回転自在の回転フック25と、回転フック25から吊り下げられたワイヤ24が、揺動台座21に固定されたフック22にそれぞれ繋がれており、揺動台座21を自由に揺動可能な構成となっている。尚、図示しない揺動手段、揺動周期検知手段、及び重心位置演算手段は、図1と同じ構成で構わない。また、各重心位置と、回転フック25のQからの距離は、図1と同様であるので説明を省略する。また、回転フック25は、車両23を揺動台座21に搭載するときは揺動台座21を大地20に接地させ、車両23を搭載した後は、大地20から離間する方向に上昇する構成を備えている。
【0025】
図4は本発明の重心高さ計測装置の機能を説明するためのブロック図である。重心高さ計測装置40〜42には、揺動ユニット19、27、21の揺動周期を検知する変位センサ(揺動周期検知手段)8と、揺動手段16を駆動する揺動駆動部30と、重心位置演算手段10の結果に基づいて検査合格又は不合格の表示をする重心結果表示部31と、検査の進行状況を表示する検査進行表示部32と、予め測定したデータや必要な情報を格納するデータベース(DB)33と、が接続されている。
【0026】
図5は重心高さ計測装置の動作の概略を説明するためのフローチャートである。本説明では、図1の第1の実施形態の場合について説明する。DB33には予め必要な初期データが格納されているものとする。初期データとしては、揺動ユニット19の重心高さ(L1)、揺動ユニット19の重量(wb)、車両1の重量(wc)、円弧中心Qから揺動部材3の台座2の上面までの距離(L2)である。まず、測定する車両1を揺動部材3の台座2に搭載する(S1)。そして、車両1が動かないようにロックし(S2)、揺動手段16を揺動駆動部30により駆動して揺動ユニット19を揺動する(S3)。揺動ユニット19が揺動すると、変位センサ8により揺動部材3の周期Tの信号がケーブル9を介して重心位置演算手段10に伝達される。周期Tは1秒当たりに揺動部材3が変位センサ8を通過する回数であるので、例えば、10秒間に9回通過した場合は、周期TはT=0.9秒として求めることができる。また、画像を撮影して1秒当たりのコマ数と撮影されたコマ数との比から求めても良い(S4)。
この周期Tが求まると、車両1と揺動ユニット19を合わせた重心Lbcを計算する(S5)。この重心Lbcが求まると、車両1の重心高さL3を後述する式から求める(S6)。求めたL3から実際に必要な台座2の上面から車両1の重心高さL4を求め、計算結果が規定値に入っているか否かをチェックする(S7)。規定値に入っていなければ重心結果表示部31に検査不合格を表示する(S11)。規定値に入っていれば重心結果表示部31に検査合格を表示して(S8)、車両1のロックを解除して(S9)、車両1を台座2から移動する(S10)。そして、検査進行表示部32に次の車両の検査を促す表示を行う。
【0027】
図6は本発明の重心位置演算手段の動作を説明するフローチャートである。本説明では、図1の第1の実施形態の場合について説明する。まず、揺動ユニット19を揺動手段16によりsinθ≒θが成り立つ角度で揺動させ、そのときの周期Taを測定する(S20)。即ち、振り子の原理を利用した場合、車両1の周期をT、重力の加速度をgとすると、車両1の重心までの距離Lは、L=(T×g)/4πから計算することができる。ただし、この式が成り立つ条件は、周期Tを求める場合、揺動させる角度がsinθ≒θが成り立つ程度の微小角である必要がある。これにより、揺動の幅を少なくして、計測時間を縮小すると共に、物体の測定時の安全性を高めることができる。
次に計測した周期Taと、重力の加速度g(98m/S)から、揺動ユニット19の重心高さL1をL1=(Ta×g)/4πより求める(S21)。次に揺動ユニット19に車両1を載せ、揺動手段16によりsinθ≒θが成り立つ角度で揺動させたときの周期Tbを測定する(S22)。そして、揺動ユニット19と車両1を合わせたときの重心の高さLbcを、Lbc=(Tb×g)/4πより求める(S23)。
【0028】
ここで、回転慣性モーメントが無視できる場合、揺動ユニット19の重量をwb、車両1の重量をwcとすると、Lbc=(wc×L3+wb×L1)/(wc+wb)となるので、この式からL3をL3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcから求める(S24)。そして、台座2から車両1の重心G2までの距離L4を、L4=L2−L3により求める(S25)。
即ち、本発明の重心高さ計測方法は、予め揺動ユニット19のみの重心高さL1を測定し、揺動ユニット19の重量wb、及び車両1の重量wcは既知なので予め入力しておく。この状態で、揺動ユニット19に車両1を搭載して揺動周期Tbを測定して、揺動ユニット19と車両1の合成重心高さLbcを計算する。その結果、揺動ユニット19の円弧を形成する円の中心から物体の重心までの距離L3を、L3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcにより求める。これにより、既知の値と測定した値を入力するだけで、自動的に車両1の重心までの距離を演算することができる。
【0029】
また、振り子の原理による周期Tは、T=2π(L/g)1/2により計算することができる。この式をLについて解くと、L=(T×g)/4πとなる。従って、揺動ユニット19のみの揺動周期Taを測定することにより、揺動ユニット19の円弧を形成する円の中心から揺動ユニット19の重心G1までの距離L1を、L1=(Ta×g)/4πにより求めることができる。更に、揺動ユニット19に車両1を搭載した揺動周期Tbを測定することにより、揺動ユニット19の円弧を形成する円の中心から揺動ユニット19の重心G3までの距離Lbcを、Lbc=(Tb×g)/4πにより求めることができる。これにより、予め、揺動ユニット19のみの重心G1までの距離L1と、揺動ユニット19に車両1を搭載した重心G3までの距離Lbcを容易に計算することができる。
尚、図示は省略するが、本発明の重心高さ計測装置40、41を自動車検査場の検査工程の一部に組み込むことにより、トラック車両の安定傾斜角を自動的に測定することができる。これにより、自動車検査の検査時間を総体的に短縮することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 車両、2 台座、3 揺動部材、4 ローラ、5 ローラ、6 固定ベース、7 磁性体、8 変位センサ、9 ケーブル、10 重心位置演算手段、11 固定ベース、12 凹状ガイド、13 車輪、14 台座本体、15 車両、16 揺動手段、17 仮想円、18 仮想円、20 大地、21 揺動台座、22 フック、23 車両、24 ワイヤ、25 回転フック、30 揺動駆動部、31 重心結果表示部、32 検査進行表示部、33 DB、40、41、42 重心高さ計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振り子の原理により物体の重心高さを計測する重心高さ計測装置であって、
前記物体を搭載する揺動ユニットと、該揺動ユニットを支持して左右対称な振り子の円弧軌道に沿って揺動させる揺動ガイドと、
該揺動ユニットに応力を与えて該揺動ユニットを揺動させる揺動手段と、
前記揺動ユニットの揺動周期を検知する揺動周期検知手段と、
該揺動周期検知手段により検知された揺動周期に基づいて前記物体の重心位置を演算する重心位置演算手段と、を備え、
前記揺動ガイドは、前記揺動ユニットの荷重を受けつつ該揺動ユニットの下部を支持することを特徴とする重心高さ計測装置。
【請求項2】
前記揺動ユニットは、上面に前記物体を搭載する台座と、該台座を凹状の上面中心部に支持する円弧状に湾曲した板材から成る揺動部材と、を備え、
前記揺動ガイドは、固定ベースと、固定ベース上に回転自在に支持され且つ前記揺動部材底面を支持することによって前記揺動ユニットを前記振り子の円弧軌道に沿って揺動させる複数の転動部材から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の重心高さ計測装置。
【請求項3】
前記揺動ユニットは、上面に前記物体を支持する台座本体と、該台座本体によって回転自在に支持された複数の転動部材と、を備え、
前記揺動ガイドは、固定ベースと、固定ベースに固定され上面に円弧状の凹所を有した凹状ガイドと、を備え、
前記凹状ガイドの上面に前記揺動ユニットを載置し、転動部材を転動させることにより、前記振り子の円弧軌道に沿って前記揺動ユニットを揺動させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の重心高さ計測装置。
【請求項4】
前記揺動手段により揺動させる角度θは、sinθ≒θが成り立つ角度であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の重心高さ計測装置。
【請求項5】
前記揺動ユニットの重量は、前記物体の重量に比較して十分小さく設定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の重心高さ計測装置。
【請求項6】
前記物体が車両であり、請求項1乃至5の何れか一項に記載の重心高さ計測装置が自動車検査場の検査工程の一部に組み込まれていることを特徴とする自動車検査システム。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の重心高さ計測装置の重心高さ計測方法であって、
前記重心位置演算手段は、前記揺動ユニットのみを前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Taから前記揺動ユニットのみの重心高さL1を計算し、前記揺動ユニットに前記物体を搭載して前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Tbから前記揺動ユニットと前記物体の合成重心高さLbcを計算し、回転慣性モーメントが無視できる場合、前記揺動ユニットの重量をwb、前記物体の重量をwcとしたときに、前記揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から前記物体の重心までの距離L3を、L3=Lbc+wb(Lbc−L1)/wcにより求めることを特徴とする重心高さ計測方法。
【請求項8】
前記重心位置演算手段は、前記揺動ユニットのみを前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Ta、重力の加速度をgとしたとき、前記揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から前記揺動ユニットの重心までの距離L1を、L1=(Ta×g)/4πにより求めることを特徴とする請求項7に記載の重心高さ計測方法。
【請求項9】
前記重心位置演算手段は、前記揺動ユニットに前記物体を搭載して前記揺動手段により揺動させたときの前記揺動周期検知手段により検知された揺動周期Tb、重力の加速度をgとしたとき、前記揺動ユニットの円弧を形成する円の中心から前記合成重心高さまでの距離Lbcを、Lbc=(Tb×g)/4πにより求めることを特徴とする請求項7に記載の重心高さ計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−83194(P2012−83194A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229490(P2010−229490)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【Fターム(参考)】