説明

重水素低減水製造方法および装置

【課題】重水素低減水は、従来、蒸留法を用いた同位体蒸留塔によって製造されていたが、この方法では規模の大きな設備が必要となり、設備費が高くなる欠点があった。一方、重水素低減水は、水電解で生成した水素を酸化する方法で得ることも出来る。水素の酸化装置として燃料電池を利用すれば、水素と酸素の直接混合がなく安全であり、かつ水電解で消費するエネルギーもある程度回収可能となる。しかし、燃料電池運転には加湿用水蒸気が必要となるので、加湿用水蒸気から重水が混入するのを防止しなければならない。燃料電池を用いた重水素低減水製造装置では、加湿用水蒸気の重水素濃度低減が課題であった。
【解決手段】 燃料電池の生成水である重水素低減水を燃料電池に供給するガスの加湿に用いる方法で、重水素低減水を安価に製造する方法および装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を利用した重水素減少水の製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重水素低減水は、従来、下記の特許に示されるような同位体蒸留塔によって製造されていたが、この方法では高い塔が必要となり、設備費が高くなる欠点があった。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
従来、重水は下記の特許に示されるような水電解法によって製造されているので、重水素濃度の高い水を取り出した副産物として、重水素低減水を取り出すことが考えられるものの、重水素低減水を効率的に取り出すシステムは考案されていなかった。(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−512238号公報
【特許文献2】特開平8−109005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(課題1)
水電解では、未電解水の中の重水素濃度が高くなり、電解によって発生した水素中の重水素濃度は低くなる。
【0006】
発生した水素を燃料電池で反応させて出来る生成水は重水素低減水となる。
【0007】
しかし、燃料電池は、高湿度状態で運転することが求められ、多量の水蒸気が加湿のために加えられるため、生成水が希釈され、重水素濃度を低減させることが困難であった。
【0008】
(課題2)
また、天然ガスなどを燃料とする燃料電池システムにおいては、水素ガス中の重水素濃度は天然水の重水素濃度に近く、この水素を用いて重水素濃度低減水を製造することは困難であった。
【0009】
(課題3)
水電解法により高濃度の重水を製造する装置は考案されているが、水電解法により低濃度の重水素低減水を製造する方法および装置は考案されていなかった。
【0010】
本発明は、このような従来の構成が有していた問題を解決しようとするものであり、重水素濃度の低い水を製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題1を解決するには、燃料電池に供給するガスを天然水ではなく重水素低減水で加湿することが必要であり、その重水素低減水として燃料電池排ガスから回収した水を用いることを特徴とする。
【0012】
課題2を解決するには、水素ガスを交換反応装置に導入し、交換反応装置内で水素ガス中の重水素を水蒸気中の水素と交換させ、重水素濃度の低い水素ガスを作るようにすることを特徴とする。
【0013】
燃料電池は、白金触媒層を有しているので、発電と並行して上記の交換反応が常時生じている装置である。
【0014】
燃料電池を上流部と下流部に分け、上流部の燃料電池を交換反応装置として利用することが出来る。
【0015】
上流部の燃料電池出口で重水素濃度の高い水蒸気を凝縮して除き、重水素低減水で再加湿すると、下流部の燃料電池で重水素低減水を製造することが可能となる。
【0016】
課題3を解決するには、重水素濃度の高い水を捨てながら、重水素濃度の低い水を蓄積するプロセスを繰り返すことを特徴とする。
【0017】
水電解槽に供給される原料水の一定割合が電解され、残りは未電解のまま捨てられる。
【0018】
電解で発生した水素と酸素は、重水素低減水で加湿されて燃料電池に供給され、反応して重水素低減水となる。
【0019】
このプロセスで出来た重水素低減水を水電解槽の原料水にし、上記のプロセスを繰り返すことにより、重水素濃度を順次低減させることができる。
【0020】
繰り返す段数が増えるに従い、水電解槽に供給する原料水の量に対する電解水量の割合(電解率)を増やす運転方法にすれば、重水素低減水の収率が向上し、効率的なシステムとなる。
【発明の効果】
【0021】
上述のように本発明の重水素低減水製造方法および装置は、重水素低減水を加湿水に用いることにより、効率的に重水素の濃度が低い水を提供できる。
【0022】
また、燃料電池の発電装置としての能力を損なうことなく重水素濃度の低い水を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の重水素低減水製造装置の一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】燃料電池を上流部と下流部の二つに分け、上流部の燃料電池を交換反応器として利用する場合の形態の構成を示す図である。
【図3】水電解を利用した重水素低減水製造装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0025】
(実施形態1)
本発明の重水素低減水製造装置の第1実施例について説明する。図1において、1は燃料改質装置、2は燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池、3は生成水タンクである。
【0026】
燃料ガスであるメタンは、メタン供給配管31より導入され、改質用水蒸気配管51から供給される水蒸気と燃料改質器1の中で反応し、水素リッチガスとなり、燃料改質器出口凝縮器13で水蒸気を凝縮させた後、燃料側加湿器22において燃料電池2の出口で回収した水で加湿し、燃料電池2のアノードに供給し、アノードからの排ガスは燃料側出口凝縮器14を経て、系外へ廃棄される。
【0027】
一方、空気は空気供給配管41より導入され、空気側入口凝縮器11と空気側加湿器21を経て燃料電池2のカソードに供給され、カソードからの排ガスは、空気側出口凝縮器12を経て系外へ廃棄される。
【0028】
燃料改質器1には、白金触媒が使用されており、触媒上で次の交換反応が起こり、水素ガス中の重水素が水蒸気の水素に置き換わり、重水素濃度の高い水蒸気と重水素濃度の低い水素が出来る。
【化1】

【0029】
白金触媒量が多く、触媒層面積が十分大きい場合は、平行になるまでこの交換反応が進み、水蒸気中の重水素濃度は水素ガス中の重水素濃度の6倍程度になることが下記の文献等で知られている。
川島、日本機械学会誌、第59巻第449号頁450−456
【0030】
燃料改質器出口凝縮器13は、燃料改質器内で生じた重水素濃度の高い水蒸気を凝縮し系外へ排出する働きをする。
【0031】
空気側入口凝縮器11は、大気中の水蒸気が燃料電池に入り生成水と混ざるのを防止するために設けている。
【0032】
燃料電池2で例に挙げた固体高分子形燃料電池には、加湿したガスを供給しなければならないから、燃料電池の出口に設けた凝縮器12及び14で集めた水で空気側加湿器21により空気を加湿し、燃料側加湿器22により燃料ガスを加湿する。
【0033】
固体高分子形燃料電池は、通常80℃程度で、相対湿度100%に近い状態で運転される。
【0034】
改質ガス中の水素と二酸化炭素のモル比は、約4:1であり、空気利用率50%、燃料利用率70%等の条件で運転されるから、燃料電池に供給される水素量と水蒸気量のモル比は1:4程度となる。
【0035】
燃料改質器内の交換反応によって、重水素濃度の低い水素が得られたとしても、4倍量の天然水で希釈されれば、重水素濃度は天然水に近い濃度になることは明らかである。
【0036】
天然水の重水素濃度は約150ppmである。
【0037】
燃料改質器内で充分な交換反応が行われたとしても、平衡条件の関係から重水素濃度は25ppm以下にはならない。
【0038】
通常の燃料電池システムでは、25ppmの重水素濃度の水素が燃料であっても、4倍量の天然水で希釈されるので、重水素濃度125ppmの水しか得ることができない。
【0039】
一方、本発明では燃料電池に供給される天然水を減らし、燃料電池の生成水で加湿する方式であるため、燃料改質器から出る水素の重水素濃度にほぼ等しい重水素濃度をもった水を得ることができる。
【0040】
このシステムでは、燃料改質器出口凝縮器13の水配管52によって重水素濃度の高い水が取り出され、生成水タンク14の水配管54によって重水素濃度の低い水が取り出される。
【0041】
このシステムは、通常の燃料電池システムを若干改良だけで、燃料電池発電システムの機能を維持しながら副産物として、重水素低減水を製造できるので、重水素低減水を安価に製造できる。
【0042】
(第2実施例)
燃料改質器に使用される白金が少なく、交換反応が不十分な場合は、燃料電池を上流部と下流部の二つに分け、上流部の燃料電池を交換反応器として利用する図2の装置が有効である。
【0043】
燃料電池2、例えば固体高分子形燃料電池は、多量の白金触媒を使用し、かつ白金上での反応が活発に行われる構造であり、交換反応が自然に起こる装置である。
【0044】
交換反応が起こることによって、燃料電池の反応が阻害されるものでもない。
【0045】
図2において、燃料ガスであるメタンは、メタン供給配管31より導入され、改質用水蒸気配管51から供給される水蒸気と燃料改質器1の中で反応し、水素リッチガスとなり、燃料改質器出口凝縮器13で過剰な水蒸気を落とし、上流側燃料電池7のアノードに供給される。
【0046】
上流側燃料電池7のアノードから出たガスは、燃料側中間凝縮器15で水蒸気を減らした後、燃料側中間加湿器24で、下流側燃料電池6の下流から回収した水で加湿し、下流側燃料電池のアノードに供給される。下流側燃料電池のアノードから出たガスは燃料側出口凝縮器14を経て、系外へ廃棄される。
【0047】
一方、図2において、空気は空気供給配管41より導入され、空気側入口加湿器25を経て上流側燃料電池7のカソードに供給される。カソードから出たガスは、空気側中間凝縮器16で水蒸気を減らした後、空気側中間加湿器23で、下流側燃料電池6の下流から回収した水で加湿し、下流側燃料電池6のカソードに供給され、空気側出口凝縮器12を経て系外へ廃棄される。
【0048】
上流側燃料電池7では、交換反応が起こり水素ガス中の重水素濃度が下がり、水蒸気中の重水素濃度が上がる。
【0049】
重水素濃度の高い水蒸気は、空気側中間凝縮器16と燃料側中間凝縮器15で凝縮させ、系外へ廃棄される。
【0050】
下流側燃料電池6には、下流側燃料電池6の下流から回収した水で加湿した重水素濃度の低い水素が供給されるから、空気側出口凝縮器12と燃料側出口凝縮器14によって回収された水は、重水素低減水である。
【0051】
図1の装置では、燃料改質器の交換反応の性能が不十分なため、重水素濃度が下げられないという問題があるが、図2の装置では上流側燃料電池で交換反応を促進できるため、重水素濃度の低い重水素低減水を得るのに好適であり、交換反応の平衡定数で決まる重水素濃度25ppmに近い濃度の水を製造することも出来る。
【0052】
図2の装置は、燃料電池発電システムの機能を維持しながら副産物として、重水素低減水を製造できるので、重水素低減水を安価に製造できる。
【0053】
(第3実施例)
図3は、水電解を利用した重水素低減水製造装置を示す。
【0054】
原料水は、原料水タンク5から水ポンプ4によって水電解槽8に送られる。
【0055】
水電解槽8で発生した水素と酸素が水素配管32と酸素配管33を通って燃料電池2に供給され、燃料電池2の反応で出来た水は生成水タンク3に蓄積される。
【0056】
水電解槽8から出た水素は、水素系凝縮器17によって除湿され、水素系加湿器26で燃料電池の生成水によって加湿され、燃料電池2のアノードに供給される。
【0057】
水電解槽8から出た酸素は、酸素系凝縮器18によって除湿され、酸素系加湿器27で燃料電池の生成水によって加湿され燃料電池2のカソードに供給される。
【0058】
水電解槽8に水ポンプ4で送られてくる水の内、電解されなかった水は、オーバフローして未電解水排出口55より系外へ排出される。
【0059】
生成水タンク3に水が溜まると、バルブを切り替え、生成水タンク3の水を水ポンプ4によって水電解槽に送る。
【0060】
水電解槽の電解水排出口55から重水素濃度の高い水が系外へ排出される。
【0061】
また、水素系凝縮器17及び酸素系凝縮器18のドレインからも重水素濃度の高い水が系外へ排出される。
【0062】
生成水タンク3には重水素濃度の低い水が蓄積され、この水を水電解槽に繰り返し供給することで、生成水中の重水素濃度を一層低下させることが出来る。
【0063】
これまで知られている水電解槽と燃料電池を組み合わせて重水を濃縮する装置は、水電解槽に残った未電解水を繰り返し水電解するものである。
【0064】
発明の装置は、水電解槽に残った未電解水を捨て、水電解槽には生成水を入れて繰り返し水電解する装置である点が従来の重水濃縮装置とは基本的に異なる。
【0065】
図3では、生成水によって加湿したガスを燃料電池に供給しているので、天然水の混入によって生成水の重水素濃度が高くことはなく、交換反応の平衡条件に近い重水素濃度の水を得ることが出来る。
【0066】
この装置では、水電解槽に供給される水量に対する電解水量の比(電解率)は重水素低減水の濃度や収率に関係する重要な指標である。
【0067】
原水量を10リットルとし、電解率3%で水電解を行うと重水素低減水(1回電解水)300mlを得ることが出来、その重水素濃度は約25ppmとなる。
【0068】
この重水素低減水(1回電解水)を水電解槽に送り込み、電解率30%で水電解を行うと重水素低減水(2回電解水)90mlを得ることが出来、その重水素濃度は約5.5ppmとなる。
【0069】
2回目の水電解においても、水電解槽と燃料電池に流す電流は、1回目と同じ定格電流にするのが時間の節約となる。
【0070】
単位時間当たりの水電解量は、1回目も2回目も同じであるから、未電解のまま捨てる水の量は1回目より2回目の方が少なく、1回目より2回目のポンプ流量を減らしてオーバフローする水量を減らす。
【0071】
更に、この重水素低減水(2回電解水)を、電解率65%で水電解すると重水素低減水(3回電解水)58mlを得ることが出来、その重水素濃度は約2ppmとなる。
【0072】
3回目の水電解においても、水電解槽と燃料電池に流す電流は変えず、ポンプ流量 を減らすことで電解率を上げる。
【0073】
上記例の電解率は、1回目3%、2回目30%、3回目65%であったが、繰り返し水電解を行う場合、最初の水電解では、電解率を小さくとり、後段の水電解では電解率を大きくすることは、低濃度の重水素低減水を収率良く製造するために必要なことである。
【0074】
もし、2回目も1回目と同じ電解率3%で水電解を行うと、2回の水電解で4ppmの重水素低減水が得られるものの、その量は9mlしか得ることができず、2ppmが58ml得られた前記の方法に比べ著しく非効率となる。
【0075】
もし、1回目から65%の電解率とし、同じ電解率で繰り返し電解するとすれば、1回電解水は、53ppm、6.5リットル、2回目電解水は19ppm、4.2リットルとなり、重水素低減水の収量は多くなるが低濃度にするために何回も水電解を繰り返す必要があり、低濃度の重水素低減水を得るには時間がかかり過ぎて非効率となる。
【0076】
上記例で示したように、水電解の回数が増えるに従いポンプ流量を減らし、電解率を上げる運転方法が効率的である。
【符号の説明】
【0077】
1 燃料改質器
2 燃料電池
3 生成水タンク
4 水ポンプ
5 原料水タンク
6 下流側燃料電池
7 上流側燃料電池
8 水電解槽
11 空気側入口凝縮器
12 空気側出口凝縮器
13 燃料改質器出口凝縮器
14 燃料側出口凝縮器
15 燃料側中間凝縮器
16 空気側中間凝縮器
17 水素系凝縮器
18 酸素系凝縮器
21 空気側加湿器
22 燃料側加湿器
23 空気側中間加湿器
24 燃料側中間加湿器
25 空気側入口加湿器
26 水素系加湿器
27 酸素系加湿器
31 メタン供給配管
32 水素配管
33 酸素配管
41 空気供給配管
51 改質用水蒸気供給配管
52 重水素増加水取り出し口
53 重水素低減水還流配管
54 重水素低減水取り出し口
55 未電解水排出口
61 原料水供給バルブ
62 重水素低減水回収バルブ
63 重水素低減水供給バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水素低減水で加湿したガスを燃料電池に供給し、前記燃料電池の排出ガス中の水を捕集することによって重水素低減水を製造する方法および装置。
【請求項2】
請求項1の重水素低減水が前記燃料電池の排ガスから捕集した水である方法および装置。
【請求項3】
上流側燃料電池の排ガスを除湿し、このガスを下流側燃料電池の排ガスから捕集した水で加湿し、下流側燃料電池に供給する方法および装置。
【請求項4】
水電解槽に原料水を供給しながら、未電解水を廃棄しつつ、水電解槽で発生した水素と酸素を燃料電池に供給し、燃料電池の排出ガス中の水を捕集する装置において、燃料電池の排出ガスから捕集した水を上記水電解槽の原料水とする重水素低減水製造方法および装置。
【請求項5】
請求項4の原料水の繰り返し入れ替えによる水電解において、最初の水電解は水電解槽に供給する原料水の流量を大きくし、繰り返しを重ねるにつれて流量を小さくする運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158499(P2012−158499A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20070(P2011−20070)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(504131459)エフシー開発株式会社 (2)
【Fターム(参考)】