説明

重送検知装置

【課題】送信回路が発生する超音波周波電気信号による受信回路の増幅器への誘導や電源経由の回り込みがあってもそれに影響されずに充分な精度で重送検知ができる重送検知装置の実現。
【解決手段】受波器7からの超音波周波パルス電気信号を増幅する高利得増幅器9の後に、誘導や回り込みにより増幅器の出力に現われる望ましくないパルス信号の通過をマスクゲートによって遮断するマスク回路10を設けるとともに、送信パルス周期のトリガを受けて、前記望ましくないパルス信号の幅時間をカバーするマスクゲートを発生し、マスク回路10へ出力するマスクゲート発生回路3を設け、前記望ましくないパルス信号が平滑回路11や重送判定回路12へ入力されるのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙積載台上に積載された用紙束などから用紙を1枚ずつ送給すべき給紙装置等において、何らかの原因により用紙が複数枚重なった状態で給紙されることがあり(これを重送と言う)、これが不都合であることに鑑みて、重送を検知しようとする装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
重送を検知する方式の1つとして、用紙の搬送路を挟むようにして、超音波パルスを送波する送波器と、送波された超音波パルスを受波する受波器を対向させて配置し、送波強度を一定にした場合、搬送されてきた用紙1枚を通過して受波される超音波の受波強度に対し、重送されて来た用紙を通過して受波される超音波の受波強度が弱くなることに着眼した重送検知装置がある。
図7は、このような重送検知装置の構成の概略を示すブロック図である。
【0003】
図8は、超音波パルス送受波のタイミングダイアグラムである。
図7の送信回路5は、図8の(a)で示すようなパルス幅τおよび一定の繰り返し周期でパルス幅内が超音波周波数の電気信号を送波器6へ送る。これにより送波器6は図8の(a)に示すようなパルス幅τ内が超音波である超音波送波パルス20を受波器7の方へ向けて送波する。送波器6と受波器7の間は給紙装置から搬送されて来た用紙の搬送路となっている。
【0004】
超音波パルスは用紙を通過するとき減衰し、その減衰量は1枚のときより2枚、2枚のときより3枚となるほど大きくなり振幅が小さくなるとともに、送波器6と受波器7との間の距離Lを伝搬するのに要する時間Tだけ遅れるものとなり、図8の(b)のようになる。
【0005】
こうして、受波器7で受波された超音波受波パルスは超音波周波パルス電気信号に変換されて受信回路17中の高利得増幅器9へ送られて増幅され、平滑回路11で平滑化されて重送判定回路12へ送られ、ここで平滑後のレベルが予め定められているレベルより低いと重送と判定される。
【0006】
しかし、高利得増幅器9の出力には、超音波受波パルス21が増幅された出力ばかりではなく、図8の(c)に示す誘導パルス22が現われる。これは送信回路5と受信回路17が1つの基板上に形成されていて近接していたり、電源が共通電源であったりしたうえ、送信回路5が比較的高い電圧の超音波周波パルス電気信号を発生しているため、近くにある高利得増幅器9の方へ、電磁誘導や静電誘導或いは共通電源からの回り込みなどにより、送信回路5の超音波周波パルス電気信号が誘発され、それが高利得で増幅されるためである。これは、望ましくないノイズ信号である。
従来は、このノイズ信号も一緒に平滑回路11を経て重送判定回路12へ送られていた。
【0007】
しかし、このノイズは同一設計の回路であっても量産する場合、製品の製造ばらつきや実装する部品のばらつきに依存するため、出力値には個体差が生じる。高利得増幅器9はこの個体差ごと増幅してしまうため、この個体差に応じた重送判定レベル(しきい値等)を個体ごとに調整する必要があり、手間がかかるという問題があった。また、ノイズは周囲温度等の使用条件によっても変化するので、重送検知の精度そのものも落ちるという問題があった。
【0008】
そこで、図9に示すように、送信回路5から受信回路17への電磁的や静電的な誘導や電源を通じての回り込み等が生じないように電気的に完全に切り離し、また、取付け構造的にも超音波振動が伝わらないように切り離したものとすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−22808号公報(段落[0014]、[0015]、[0027]、[0039]、[0052]、図1、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記先行技術文献のような技術では、送信回路と受信回路を別々の基板に設けなければならず、電源も別々に設けなければならず、加えて取り付け構造的にも超音波振動の伝搬が抑制されるような構造としなければならず、そのため製造コストが高くなるうえ、取り付けスペースも多くを要するという問題がある。
【0011】
本発明の解決課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、送信回路と受信回路を1つの基板上に設け、電源を共通にすることにより送信回路から受信回路への誘導や回り込みがあってそれが製品毎にばらついてもばらつきを補う調整の手間が必要とせず、更に温度その他の外囲条件の変動により誘導や回り込みの程度が変動しても、重送検知の精度の低下を招かない重送検知装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各手段構成を有する。
本発明の第1の構成は、用紙搬送路を挟んで超音波送波器と超音波受波器を対向させて配置し、超音波送波器からパルス状の超音波を送波し、通過用紙が1枚のときの超音波受波器の受波レベルに対し、通過用紙が複数枚重なっているときの受波レベルを観測し重送であるか否かを検知する重送検知装置であって、下記(イ)〜(ト)の手段を有することを特徴とする重送検知装置である。
(イ) 予め定められた繰返し周期の起動トリガを受けて予め定められた時間幅τの超音波周波パルス電気信号を超音波送波器へ送る送信回路
(ロ) 前記繰返し周期を有する基本トリガを発生し、前記送信回路へ起動トリガとして送る基本トリガ発生器
(ハ) 前記基本トリガ発生器からの基本トリガを受けて、その時点から前記送信回路が発する超音波周波パルス電気信号をカバーする時間幅τだけ電気信号の通過を遮断するマスクゲートを発生するマスクゲート発生回路
(ニ) 前記超音波受波器からの超音波周波パルス電気信号を受けてこれを増幅する増幅器
(ホ) 前記増幅器の出力信号と前記マスクゲート発生回路からのマスクゲートを受け、前記出力信号のうちマスクゲートの幅時間の間の信号は通過を遮断するマスク回路
(ヘ) 前記マスク回路からのパルス状の信号を受けこれを平滑化する平滑回路
(ト) 前記平滑回路の出力信号を受け、そのレベルを予め設定した基準値と比較し、重送であるか否かの判定をする重送判定回路
【0013】
本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、下記(チ)の手段を具備することを特徴とする重送検知装置である。
(チ) 前記起動トリガに代えて、前記基本トリガ発生器からの基本トリガから予め定めた時間tだけ遅延した遅延基本トリガを起動トリガとして前記送信回路へ送る第1のトリガ遅延回路
【0014】
本発明の第3の構成は、前記第2の構成において、下記(リ)の手段を具備することを特徴とする重送検知装置である。
(リ) 前記マスクゲート発生回路が受ける基本トリガに代えて、基本トリガ発生器からの基本トリガを前記時間tよりも短い時間tだけ遅延させてマスクゲート発生回路へ送る第2のトリガ遅延回路
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の構成では、受信回路の増幅器の後に、マスクゲートの幅時間の間信号の通過を遮断するマスク回路を設けるとともに、送信回路を起動するトリガと同じタイミングのトリガを受け、送信回路が発生する超音波周波パルス電気信号のパルス幅をカバーするマスクゲート発生器を設け、このマスクゲートをマスク回路へ入力しているので、増幅器へ送信回路からの誘導によるノイズがあってそれが増幅されて増幅器の出力に現われたとしても、その部分の出力はマスク回路で遮断されて平滑回路の方へ行かないので、ノイズ成分は重送判定回路へ行かないので重送検知の精度を低下させることがない。
従って、送信回路と受信回路を1つの基板上に設けることができ電源も共通にすることができ製造コストを低減することができるという効果がある。
【0016】
本発明の第2の構成では、第1のトリガ遅延回路により送信回路の起動トリガがマスクゲート回路へ入力されているトリガよりもtだけ遅れているので、送信回路が発生する超音波周波パルス電気信号の立ち上り部分がマスクゲートの立ち上りよりもtだけ後になり、超音波周波パルス電気信号の立ち上り部分がマスクゲートによって完全に遮断されることにより、第1の構成のように立ち上りが同時であるため若干マスク漏れが生ずるということがなくなるという効果がある。
【0017】
本発明の第3の構成では、マスクゲート発生回路への起動トリガも、第2のトリガ遅延回路によって、基本トリガよりtだけ遅らしているが、t<tであるので第2の構成と同様の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の重送検知装置の第1の実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の重送検知装置の第2の実施例の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の重送検知装置の第3の実施例の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の重送検知装置の第1の実施例における波形タイミングダイアグラムである。
【図5】本発明の重送検知装置の第2の実施例における波形タイミングダイアグラムである。
【図6】本発明の重送検知装置の第3の実施例における波形タイミングダイアグラムである。
【図7】従来の重送検知装置の構成を示すブロック図である。
【図8】従来の重送検知装置における波形タイミングダイアグラムである。
【図9】従来の重送検知装置における送信超音波周波パルス電気信号の受信回路への誘導を回避した例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の重送検知装置は、受信回路の増幅器の後にマスク回路を設け、これにマスクゲート発生器からのマスクゲートを入力することにより、増幅器の出力において、送信回路の送信パルス位置に現われる誘導ノイズ信号が後段の方へ通過しないようにしているので、誘導そのものは存在してもよいため送信回路と受信回路は接近していてもよく電源も共通のものでよいので1つの基板上でのコンパクトに実装が可能となる。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の重送検知装置の第1の実施例の構成を示すブロック図である。
タイミング回路4の基本トリガ発生器1は、水晶発振器などを用いて例えば、周期が数10〜数100mSの基本トリガを発生する。これを図4の(a)に示す。この基本トリガは、起動トリガとして、送信回路5とマスクゲート発生回路3へ送られる。送信回路5はこの起動トリガに起動されてパルス幅τ(例えば40μS)の超音波周波パルス電気信号を発生し、送波器6へ送る。送波器6はこの電気信号を超音波に変換して、対向する受波器7の方へ向けて送波する。即ち、図4の(c)に示すようなτの時間幅で予め定めた周波数および振幅の超音波パルスが送波される(図5、図6も同じ)。送波器6と受波器7の間隔Lは例えば20mm位であり、その間は用紙が通過する用紙の搬送路となっている。そして、用紙は1枚ずつ通過するのが正常であり、2枚、3枚重なって通過するのは異常ということであり、これを検出する必要がある。送波された超音波パルスは、Lが20mmとすれば音速を1秒間340mとして約60μSの伝搬時間だけ遅れて受波器7に到達することになる。
【0021】
ここで用紙14が存在しなければ、超音波パルスは殆ど減衰せずに受波器7へ到達するが、用紙が1枚通過するときにはその用紙によって伝搬を妨害されることになりそのため受波器7へ到達する超音波パルスは減衰することになる。
従って、前述の伝搬時間遅れをTとすれば超音波受波パルスは図4の(d)のようになる。即ち、図4の(c)の超音波パルスが時間Tだけ遅れ振幅が減衰したものとなる(図5、図6も同じ)。2枚重なっている場合には減衰は更に大きくなる。従って、1枚のときの受波レベルと2枚のときの受波レベルを実験によって求め、例えばその中間のレベルを基準値として設定すれば、受波レベルをこの基準値と比較して基準値より小さければ、重送であるということが検知できることになる。
【0022】
受波器7で受波された超音波受波パルスは、超音波周波パルス電気信号に変換されるが信号レベルが非常に微弱なため、受信回路8の高利得増幅器9で増幅される。増幅された出力では図4の(e)の増幅器出力のうち必要なのはパルスAだけであるにもかかわらず、(c)の超音波送波パルスと同じ時間位置に望ましくないパルスBが現われる。
【0023】
これは送信回路5の出力からの誘導や共通電源13経由の回り込みにより、高利得増幅器9の入力側に近い方に飛び込んだ信号が増幅されたものであり、装置にばらつきがあるため較正に手数を要したり、外囲条件の変動により変化するため重送検知の精度が低下する原因となるものである。
【0024】
そこで、本発明においては、高利得増幅器9の後にマスク回路10を設けるとともに、マスクゲート発生回路3を設け、基本トリガ発生器1からの基本トリガを起動トリガとして、図4の(f)に示すようなτより広い幅τのマスクゲートを発生して、これをマスク回路10へ入力することにより、このマスクゲートの幅τの間では、増幅器出力のパルスBがマスク回路10の出力へ出ていかないようにしている。τは(c)の超音波送波パルスの幅τよりも大きく設定される。
【0025】
その結果マスク回路10の出力には、(e)の増幅器出力のうち必要なパルスAだけが出力され、図4の(g)のマスク回路出力のようになる。この出力は、従来装置と同様に平滑回路11、重送判定回路12へと送られ重送検知が行われる。
以上の結果、送信回路5から高利得増幅器9への誘導や回り込みによる問題が解消されることになる。
【0026】
ただ、本実施例では図4の(e)の増幅器出力のパルスBの立ち上り部分と(f)のマスクゲートの立ち下り部分が一致しているため、マスクゲートに立ち下りのなまりがある場合などには若干の漏れ出力が生ずる懸念はある。
【実施例2】
【0027】
図2は、本発明の重送検知装置の第2の実施例の構成を示すブロック図である。
図1との相違は、基本トリガ発生器1と送信回路5との間に時間t遅延回路2(第1のトリガ遅延回路)が設けられている点であり、その結果、送信回路5への起動トリガは図5の(b)に示すように、(a)の基本トリガより時間tだけ遅れることになる。その結果、(e)の増幅器出力のパルスBも図5の(e)のように基本トリガよりtだけ遅れることになり、パルスBの立ち上り部分が、(f)のように基本トリガで立ち下っているマスクゲートの立ち下り部分より確実にゲート内に入り、第1の実施例の場合のようにマスクゲートの立ち下り部分におけるパルスBの漏れ出力の懸念が解消される。この場合マスクゲートがパルスBを完全にマスクするためには、マスクゲートの幅τは、
+τより大きくなければならない。
【実施例3】
【0028】
図3は、本発明の重送検知装置の第3の実施例の構成を示すブロック図である。
図2との相違は、基本トリガ発生器1とマスクゲート発生回路3との間に時間t遅延回路23(第2のトリガ遅延回路)が設けられている点である。これは、マスクゲートの開始時点が必ずしも基本トリガと一致していなくもよいものであることを示した実施例である。この場合、図6に示すように(e)の増幅器出力のパルスBが(f)のマスクゲートによって時間軸で充分マスクされるためには、t<tで且つ、t+τ<t+τでなければならない。
【符号の説明】
【0029】
1 基本トリガ発生器
2 時間t遅延回路
3 マスクゲート発生回路
4 タイミング回路
5 送信回路
6 送波器
7 受波器
8 受信回路
9 高利得増幅器
10 マスク回路
11 平滑回路
12 重送判定回路
13 共通電源
14 用紙
15 超音波周波送受信回路
16 超音波周波送受信回路
17 受信回路
18 電源
19 電源
20 超音波送波パルス
21 超音波受波パルス
22 誘導パルス
23 時間t遅延回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙搬送路を挟んで超音波送波器と超音波受波器を対向させて配置し、超音波送波器からパルス状の超音波を送波し、通過用紙が1枚のときの超音波受波器の受波レベルに対し、通過用紙が複数枚重なっているときの受波レベルを観測し重送であるか否かを検知する重送検知装置であって、下記(イ)〜(ト)の手段を有することを特徴とする重送検知装置。
(イ) 予め定められた繰返し周期の起動トリガを受けて予め定められた時間幅τの超音波周波パルス電気信号を超音波送波器へ送る送信回路
(ロ) 前記繰返し周期を有する基本トリガを発生し、前記送信回路へ起動トリガとして送る基本トリガ発生器
(ハ) 前記基本トリガ発生器からの基本トリガを受けて、その時点から前記送信回路が発する超音波周波パルス電気信号をカバーする時間幅τだけ電気信号の通過を遮断するマスクゲートを発生するマスクゲート発生回路
(ニ) 前記超音波受波器からの超音波周波パルス電気信号を受けてこれを増幅する増幅器
(ホ) 前記増幅器の出力信号と前記マスクゲート発生回路からのマスクゲートを受け、前記出力信号のうちマスクゲートの幅時間の間の信号は通過を遮断するマスク回路
(ヘ) 前記マスク回路からのパルス状の信号を受けこれを平滑化する平滑回路
(ト) 前記平滑回路の出力信号を受け、そのレベルを予め設定した基準値と比較し、重送であるか否かの判定をする重送判定回路
【請求項2】
下記(チ)の手段を具備することを特徴とする請求項1記載の重送検知装置。
(チ) 前記起動トリガに代えて、前記基本トリガ発生器からの基本トリガから予め定めた時間t
だけ遅延した遅延基本トリガを起動トリガとして前記送信回路へ送る第1のトリガ遅延回路
【請求項3】
下記(リ)の手段を具備することを特徴とする請求項2記載の重送検知装置。
(リ) 前記マスクゲート発生回路が受ける基本トリガに代えて、基本トリガ発生器からの基本トリガを前記時間tよりも短い時間tだけ遅延させてマスクゲート発生回路へ送る第2のトリガ遅延回路




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−149795(P2011−149795A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10905(P2010−10905)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000109727)株式会社デュプロ (195)
【Fターム(参考)】