説明

量子ビームモニタ用電極及び量子ビームモニタ装置

【課題】耐熱性、耐放射線性及び二次電子放出特性に優れている量子ビームモニタ用電極を提供すること。
【解決手段】本発明の量子ビームモニタ用電極1は、複数のリボン状のカーボングラファイト薄膜210が所定間隔おきに一方向に沿って並設されたモニタターゲット21を備えている。カーボングラファイト薄膜210は、厚さが0.5〜100μm、幅が0.05〜50mmであることが好ましく、隣接するカーボングラファイト薄膜210間の距離は、0.01〜100mmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モニタターゲットの二次電子放出を利用した量子ビームモニタ、特にビームプロファイルモニタに好適に用いることができる量子ビームモニタ用電極、その製造方法、該電極を具備する量子ビームモニタ装置及びそれを用いた量子ビームプロファイルの計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加速器には、通常の運転モニタやビームラインの性能向上(ビームの輸送効率の向上)に関わるモニタとして種々のビームモニタが付設されている(例えば、下記特許文献1参照)。これらのビームモニタのうち、輸送されるビームの断面形状や二次元的密度分布を計測し、加速器パラメータを調整したりするためのモニタとして二次電子放出型のビームプロファイルモニタが用いられている。
【0003】
斯かるビームプロファイルモニタは、金属ワイヤー等の導電性ワイヤーや、ポリイミド、ポリプロピレン等の高分子化合物の薄膜からなるバッキングフィルムにアルミニウム等の金属膜を蒸着させて形成したものをモニタターゲットとして備えており、該モニタターゲットの二次電子の放出を利用している(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−251900号公報
【非特許文献1】Akio Higashi, et al. "Secondary-Electron-Emission Type of Beam Profile Monitor for the HIMAC-Injector(6 MeV/u)",Proceedings of The12th Symposium on Accelerator Science and Technology, Wako, Japan 1999.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前者のように導電性ワイヤーをモニタターゲットとする場合には、耐熱性を確保するためにタングステン等の高融点材料を使用する必要があり、斯かる材料は密度が高いため、ビームロスが大きくなる課題を有していた。後者のようにバッキングフィルムに金属膜を蒸着させてモニタターゲットとする場合には、ビームの強度が高くなると、バッキングフィルムが溶融したり、蒸着金属膜が剥離するなどの課題を有していた。ベリリウムの薄膜を使用することも考えられるが、比較的融点が低く(1280℃)、高価であり、取り扱い性や製造上に難がある。また、膜の厚さが5μm以下の場合、長さ50mm以上のサイズの膜を作製できない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、耐熱性、耐放射線性及び二次電子放出特性に優れている量子ビームモニタ用電極、該電極を具備し、大強度の量子ビームのプロファイルを、ビームロスを低く抑えて高い感度で計測することができる量子ビームモニタ装置、それを用いた量子ビームプロファイルの計測方法、及び前記量子ビームモニタ用電極を好適に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数のリボン状のカーボングラファイト薄膜が所定間隔おきに一方向に沿って並設されたモニタターゲットを備えている量子ビームモニタ用電極を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0008】
また、本発明は、前記本発明の量子ビーム用モニタ電極の製造方法であって、量子ビームの通過空間を有するフレーム基板に該通過空間を跨ぐようにカーボングラファイト薄膜を固定した後、前記カーボングラファイト薄膜にレーザービームを照射し、前記カーボングラファイト薄膜を複数のリボン状の形態に加工して前記ターゲットを形成する量子ビームモニタ用電極の製造方法を提供するものである。
【0009】
さらに、本発明は、前記本発明の量子ビームモニタ用電極を具備する量子ビームモニタ装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記本発明の量子ビームモニタ装置を用いた量子ビームプロファイルの計測方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の量子ビームモニタ用電極は、耐熱性及び耐放射線性に優れているほか、二次電子放出特性に優れている。また、本発明の量子ビームモニタ装置及びそれを用いたビームプロファイルの計測方法によれば、大強度の量子ビームのプロファイルを、ビームロスを低く抑えて高い感度で計測することができる。さらに、本発明の量子ビームモニタ用電極の製造方法によれば、前記効果が奏される量子ビームモニタ用電極を好適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の量子ビームモニタ装置を、荷電粒子のビームプロファイルモニタ装置(以下、単にビームモニタ装置ともいう。)に適用した一実施形態を模式的に示すものである。なお、図1において、符号1はビームモニタ装置、10はビームモニタ装置がセットされる真空チャンバを示している。
【0013】
図1に示すように、本実施形態のビームモニタ装置1は、荷電粒子ビームモニタ用電極(量子ビームモニタ用電極:以下、単にモニタ用電極ともいう。)2と、モニタ用電極2の前後に配置された一対の二次電子捕捉用電極(以下、単に捕捉用電極ともいう。)3と、モニタ用電極2に接続される電荷積分器4と、捕捉用電極3に接続される直流電源装置5とを具備している。
【0014】
図2に示すように、モニタ用電極2は、複数のリボン状のカーボングラファイト薄膜210が所定間隔おきに水平方向に沿って並設されたモニタターゲット21を備えている。なお、カーボングラファイト薄膜210は、絶縁性のフレーム基板22に設けられたプリント配線23の接続用の端子に導通可能に固定されている。なお、図には便宜上モニタターゲット21及びプリント配線を五本のカーボングラファイト薄膜に対応させて示しているが、ビーム径、薄膜の幅、間隔等により、リボン状のカーボングラファイト薄膜は10〜100本並設される。また、図には示していないが、フレーム基板22には、グランド用にプリント配線が設けられている。
【0015】
モニタ用電極2のフレーム基板22には荷電粒子ビームの通過空間S2を形成する窓220が設けられており、モニタターゲット21を構成するカーボングラファイト薄膜210は、通過空間S2を跨ぐようにプリント配線23の端子間に固定されている。カーボングラファイト薄膜210と前記端子とは真空用の導電性接着剤で固定されている。真空用の導電性接着剤でカーボングラファイト薄膜210を固定したモニタ用電極2は、カーボングラファイト薄膜210の表面を、分子吸着等の影響を受けずに清浄に保つために、好ましくは1×10-3Pa以下、さらに好ましくは1×10-5Pa以下、特に好ましくは1×10-7Pa以下の真空環境下で使用することが望ましく、このことから、前記真空用の導電性接着剤は、斯かる真空環境を悪化させない接着剤を適宜の使用量で使用することが好ましい。
【0016】
各カーボングラファイト薄膜210の幅Wは、測定感度、薄膜の加工性、分解能、及び湾曲することなくモニタターゲットとして端子間に固定できるための自己支持性(以下、単に自己支持性という。)の観点から0.2〜2.0mmが好ましく、0.5〜1.5mmがより好ましい。
【0017】
隣接するカーボングラファイト薄膜210間の距離Dは、測定感度、隣接する薄膜間の信号の干渉を考慮すると0.2〜1.0mmが好ましく、0.5〜1.0mmがより好ましい。
【0018】
各カーボングラファイト薄膜210の長さは、測定感度、薄膜の加工性、自己支持性、ビーム走行空間の有効径を考慮すると20〜300mmが好ましく、50〜150mmがより好ましい。
【0019】
各カーボングラファイト薄膜210の厚さは、0.5〜100μmの範囲で用いることができる。自己支持性が満足できればビームロスの観点からは薄い程好ましく0.5〜10μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましく、0.5〜2.5μmが特に好ましく用いられる。
【0020】
カーボングラファイト薄膜210の融点は、耐熱性の観点から,できるだけ高いことが好ましく、3000℃以上が特に好ましい。
【0021】
カーボングラファイト薄膜210の熱伝導率は、照射中のビームモニタ装置の安定動作の観点から高い程好ましく、特に薄膜面内の熱伝導率がより高いことが好ましい。
また、カーボングラファイト薄膜210の熱膨張率は、ビームモニタ装置1の安定動作、及び測定位置の正確性の観点から小さいことが好ましく、特に薄膜面方向の熱膨張率が小さいことがより好ましい。
上記の観点から、カーボングラファイト薄膜は、グラファイト結晶を構成する炭素六角網面が薄膜の面と並行に配向していることが好ましい。
【0022】
カーボングラファイト薄膜210のグラファイト層間距離は、化学的安定性、電子伝導性及び熱伝導性の観点から0.332〜0.340nmが好ましく、特に0.332〜0.336nmが好ましく、0.332〜0.335nmがより好ましい。グラファイト層間距離が大きいと電子伝導性が低下するので検出感度が悪くなる。また、照射される荷電粒子ビームとのエネルギー授受により蓄積された熱を逃がす効率が悪化する。さらに、化学的安定性、特に耐酸化性が悪化することにより、ビーム照射中に僅かに存在する気体、特に酸素分子による劣化の進行が早くなるため、好ましくない。また、グラファイト層間距離が0.332nmより小さいものは製造が困難である。
【0023】
カーボングラファイト薄膜210には、例えば、特開2002−308611号公報の段落〔0012〕〜〔0032〕に記載された高配向グラファイト層状シート物を用いることができる。
【0024】
フレーム基板22は、絶縁性、耐放射線性及び真空中での低いガス放出の特性を有していれば特に材質に制限はない。フレーム基板22の材質としては、セラミックスが好ましく、強度、熱伝導を考慮すると、アルミナ、窒化ケイ素が特に好ましい。
【0025】
プリント配線23の読み出し用の個々の端子は、フレーム基板22のエプロン部分221に集約されている。そして、プリント配線23の読み出し用の個々の端子は、カーボングラファイト薄膜210毎に電荷積分器4(図1参照)に接続されている。
【0026】
モニタ用電極2は、以下の手順で製造することができる。
先ず、フレーム基板22のプリント配線23におけるカーボングラファイト薄膜の固定用の端子に接着剤を塗工し、毎葉のカーボングラファイト薄膜をフレーム基板22の通過空間S2を跨ぐように固定する。このとき、適当な張力を加えた状態で接着剤を固化させる。
【0027】
その後、前記カーボングラファイト薄膜にレーザービームを照射し、前記カーボングラファイト薄膜を複数のリボン状の形態に加工してモニタターゲット21を形成する。レーザービームの焦点位置は、フレーム基板22に加工の痕を残さないように薄膜表面に合わせる。照射するレーザーは、加工性を考慮すると紫外域の波長のレーザーが好ましく、一方で、カーボングラファイト薄膜へのダメージを考慮すると、YAGレーザー(波長1.1μm程度の赤外線領域)が好ましい。スポットサイズは、切断精度とリボン状のカーボングラファイト薄膜の位置精度を考慮すると、10〜50μmが好ましい。このように、カーボングラファイト薄膜をフレーム基板に固定した後にレーザー加工を行い、リボン状に加工することで、従来行われていたリボンを等間隔かつ平行に精密に固定するという煩雑な工程を単純かすることができる上に、寸法精度も向上するので、工業的に非常に有益なプロセスである。
【0028】
捕捉用電極3は、カーボングラファイト薄膜310からなる捕捉極30が、絶縁性のフレーム基板32に設けられたプリント配線33の端子に導通可能に固定されている。カーボングラファイト薄膜310は、カーボングラファイト薄膜210と同じ材質のカーボングラファイト薄膜で構成されている。
【0029】
捕捉用電極3のフレーム基板32には荷電粒子ビームの通過空間S3を形成する窓320が設けられており、捕捉極31を構成するカーボングラファイト薄膜310は、通過空間S3を跨ぐようにプリント配線33の接続用の端子間に固定されている。
【0030】
カーボングラファイト薄膜310の厚み、密度、グラファイト層間距離の好ましい範囲は、モニタ用電極のカーボングラファイト210と同様である。
【0031】
モニタ用電極2と捕捉用電極3との間隔(カーボングラファイト薄膜どうしの間隔)は、真空の排気特性の観点からはできるだけ広い方が望ましく、また、電気的な二次電子捕獲の観点からは広すぎる必要もない。これらの観点からフレーム基板31のサイズが100×100mm2程度の場合には、3〜10mmが好ましく、3〜10mmがより好ましい。フレーム基板31のフレームサイズがこれより大きい場合にはさらに数mmを広げた間隔とすることが好ましい。他方、フレーム基板31のフレームサイズがこれより小さい倍には間隔は変わらない。
【0032】
フレーム基板32は、絶縁性、耐放射線性及び真空中での低いガス放出の特性を有していれば特に材質に制限はない。フレーム基板32には、モニタ用電極2のフレーム基板22と同じ材質のものを用いることができる。
【0033】
プリント配線33の引出用の個々の端子は、電圧印加用の直流電源装置5の陽極端子(図1参照)に接続されている。二次電子の放出量が高い場合には、陽極端子に、μF程度の容量のコンデンサを挿入してもよい。
【0034】
次に、本発明の量子ビームプロファイルの計測方法の好ましい実施形態を、前記ビームモニタ装置を用いた計測方法に基づいて説明する。
【0035】
前記構成のビームモニタ装置1を粒子加速器における計測対象となる量子ビームの軌道にセットし、モニタ用電極2のモニタターゲット21よりも正電位となるように捕捉用電極3の捕捉極31に直流電源装置5で電圧を印加する。
【0036】
この状態で、荷電粒子をモニタターゲット21に入射し、モニタ用電極2に接続されたそれぞれの電荷積分器4の正電荷信号を検出することによって、入射した荷電粒子ビームの垂直方向のビームプロファイルを計測することができる。本実施形態のビームモニタ装置1でプロファイルの計測が可能な荷電粒子のビームのエネルギーは、荷電粒子の種類にもよるが数100keV以上、(電子などの軽い荷電では1keV程度でも膜を通過することができるため、原理的には計測可能である。)であり、ビームロスのパワーを考慮すると、ビーム強度にもよるが。できるだけ高いエネルギーが望ましく、核子あたり1MeV以上が望ましい。本実施形態のビームモニタ装置1では、このような高エネルギー範囲で、且つ大強度の荷電粒子のビームであっても、ビームロスを低く抑えることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のビームモニタ装置1は、耐熱性、耐放射線性及び二次電子放出特性に優れているモニタターゲット21を備えたモニタ用電極2を具備しているので、大強度の量子ビームの垂直方向のプロファイルを、ビームロスを低く抑えて高い感度で計測することができる。また、捕捉用電極3にも、モニタ用電極2のモニタターゲットと同様の捕捉極を備えているので、モニタターゲットで発生した二次電子を効率よく捕捉することができ、モニタ用電極2の正電荷の計測においての高感度化が計られる
【0038】
本発明は、前記実施形態に制限されない。
前記実施形態のビームモニタ装置では、水平方向に並設されたカーボングラファイト薄膜で構成したモニタターゲットを備えたモニタ用電極を用いたが、カーボングラファイト薄膜を並設する向きは、計測したいプロファイルに合わせて設定することができる。また、カーボングラファイト薄膜が異なる方向に並設されたモニタターゲットを備えたモニタ用電極を併用することによって、異なる方向のビームプロファイルを同時に計測することができる。
【0039】
また、本発明のビームモニタ装置は、前記実施形態のように、捕捉用電極の捕捉極にカーボングラファイト薄膜を用いたが、従来から通常用いられている捕捉用電極を用いることもできる。
【0040】
本発明は、前記実施形態のように、荷電粒子のビームモニタに好適であるが、これ以外の光等の膜と相互作用をもたらす電磁波等の各種の量子ビームのモニタ装置にも適用することができる。
【0041】
また、本発明の量子ビームモニタ用電極は、前記実施形態のように、ビームプロファイルモニタに好適であるが、それ以外の量子ビームモニタ装置、例えば、ビーム強度モニタ(この場合には捕捉用電極での二次電子数を計測する)、ビームコース中心から外れたロスビームのモニタ等のビームモニタ用の電極としても用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、本実施例に何ら制限されない。
【0043】
下記実施例及び比較例のようにモニタ用電極及び捕捉用電極を作製するとともに、実施例のそれらを具備するビームプロファイルモニタ装置を作製した。そして、ビームロス、耐熱性、耐放射線性及び検出効率によってモニタ用電極の性能を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0044】
〔実施例1〕
<カーボングラファイト薄膜の作製>
ポリイミドフィルム(宇部興産(株)製、品名UPILEX7.5SN、フィルム厚み7.5μm)を、窒素ガス気流中で、通気性の炭素シートで両面を挟んで、10℃/分の速度で20℃から1400℃まで昇温し、1400℃で120分保持した。得られた炭素化フィルムを一軸加圧が可能な黒鉛化ホットプレス中に通気性の炭素シートで一枚一枚挟んで積層してセットした。その後アルゴンガス雰囲気中で10〜20℃/分の速度で昇温し、3000℃で3MPaの加圧処理条件で90分間保持し、その後は徐々に減圧しながら炉冷した。得られたカーボングラファイト薄膜の外観は平滑で灰色がかった光沢を呈していた。該カーボングラファイト薄膜は、脆性的ではなく、柔軟性を有していた。また、該カーボングラファイト薄膜の厚みは、2.2μmであり、X線広角散乱を透過、反射モードで測定したところ、グラファイト結晶が薄膜面方向に配向成長していることが確認された。また、グラファイト層間距離は0.3349nmであり、結晶化度は90%以上であった。さらに、X線広角散乱の解析により、結晶子サイズは結晶のa、c軸方向ともに10nm以上であった。
【0045】
<モニタ用電極>
上述のようにして作製したカーボングラファイト薄膜を、銀−パラジウム合金のプリント配線を施したフレーム基板(厚み1.6mm、横199.5×縦125mm2(窓横150×縦80mm2))に真空用の導電性接着剤で固定し、レーザー加工によって、30本(30ch)のリボン状の形態(長さ92mm、幅1.5mm、隣接する膜間の距離1mm間隔で一方向に揃った形態)に加工してモニタ用電極を得た。なお、レーザー加工は、紫外線レーザー(スポットサイズ約10μm)を使用し、寸法精度及び位置精度ともに、±10μmで行った。真空用の導電性接着剤は、1×10-7以下の真空環境下で、真空環境を悪化させない接着剤及び使用量で行った。
【0046】
<捕捉用電極>
モニタ用電極に用いたのと同じ材質のカーボングラファイト薄膜(厚さ2.2μm、横40m、縦92mm、グラファイト層間距離0.3349nm)を、フレーム基板(厚み1.6mm、横199.5×縦125mm2(窓横150×縦80mm2))に二枚隙間無く前記真空用の導電性接着剤で固定した。
【0047】
得られたモニタ用電極の両側にステンレス製の1.5mmのスペーサーを介在させ、モニタ用電極と捕捉用電極のそれぞれのカーボングラファイト薄膜面の距離を3.1mmとした。
【0048】
〔比較例1〕
モニタターゲットに厚さ30μmのタングステンワイヤを備えたモニタ用電極を用いた。
【0049】
〔比較例2〕
モニタターゲットに厚さ5μmのアルミフォイルを備えたモニタ用電極を用いた。
【0050】
〔比較例3〕
モニタターゲットに厚さ5μmのチタンフォイルを備えたモニタ用電極を用いた。
【0051】
〔ビームロスの評価〕
ビームロスを直接定量的に測定することは困難であるため、以下に示す方法で試算評価を行った。
モニタターゲットに使用する材質の原子番号Z、質量数A、密度ρ[g/cm3]及び厚みt[cm]で求まるエネルギーロスに比例する量であるΔEに基づいて評価した。フォイルとワイヤーの横への広がりの差異は、フォイルの場合は0.1[cm]を持ち、ワイヤーの場合はワイヤー径t[cm]と同じ幅をもつものとして,その幅W[cm]を掛けたものをΔEとしてとして扱うことで評価した。下記四段階で評価した結果を表1に示す。
ΔE[g/cm] = ρ[g/cm3]×Z/A×W[cm]
◎:1×10-5 未満
○:1×10-5以上 1×10-4未満
△:1×10-4以上 1×10-3未満
×:1×10-3以上
【0052】
〔耐熱性の評価〕
モニタターゲットに使用する材質の耐熱性を下記四段階の融点の値で評価した。評価結果を表1に示す。
◎:3000℃以上
○:2000℃以上〜3000℃未満
△:1000℃以上〜2000℃未満
×:1000℃以下
【0053】
〔検出効率の評価〕
モニタ用電極の検出効率は、二次電子放出総量と考え、
二次電子放出総量 = P×〔材料の二次電子放出率〕×〔ワイヤー又はフォイルの断面積〕
を試算して評価した。ただし、Pは比例定数である。各材質についての二次電子放出総量には,数倍程度の開きがあるものの,フォイルとワイヤーの断面積の差が検出量に対して支配的であることが明らかであったので、◎、×の2段階で評価した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示したように、実施例のモニタ用電極は、低ビームロスであり、耐熱性、耐放射線性、検出効率に優れていることがわかった。
【0056】
〔実施例2〕
実施例1のビームモニタ装置のモニタ用電極で検出された正電荷を電荷積分器で400倍にアンプ増幅して時定数33μmで積分を行い、これをパルチプレクスしてオシロスコープに表示させることで、ビームプロファイルのモニタを試みた。オシロスコープ表示の一例を図3に示す。このように実施例1のビームモニタ装置によれば、高感度で陽子ビームのプロファイリングを計測できることがわかった。図3のプロファイルから、水平方向のビームサイズは、約25mmであることがわかった。また、実施例1のビームモニタ装置では、500MeVの陽子ビームで、10ヶ月間に1020個以上の陽子を照射しても、プロファイルの波形に異常は観察されず、モニタとして長期間に亘って機能することがわかった。
【0057】
〔比較例4〕
比較例2のモニタ用電極を用い、実施例2と同様の条件で陽子ビームの照射を行った。その結果、1017個オーダーの陽子照射を行った時点で、モニタ用電極が破損して計測が不可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、医療用、産業用等に利用される、粒子加速器、カーボングラファイト薄膜と相互作用を起こす電磁波などの発生装置に付設される各種の量子ビームモニタ装置及び量子ビームモニタ用電極に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の量子ビームモニタ装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【図2】本発明の量子ビームモニタ装置におけるモニタ用電極及び捕捉用電極の配置状態を模式的に示す斜視図である。
【図3】実施例のビームモニタ装置により計測された陽子ビームのプロファイルをオシロスコープに表示した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 量子ビームモニタ装置
2 量子ビームモニタ用電極
21 モニタターゲット
210 カーボングラファイト薄膜
22 フレーム基板
23 プリント配線
3 二次電子捕捉用電極
31 捕捉極
310 カーボングラファイト薄膜
32 フレーム基板
33 プリント配線
4 電荷積分器
5 直流電源装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリボン状のカーボングラファイト薄膜が所定間隔おきに一方向に沿って並設されたモニタターゲットを備えている量子ビームモニタ用電極。
【請求項2】
前記カーボングラファイト薄膜は、厚さが0.5〜100μm、幅が0.05〜50mmであり、隣接する前記カーボングラファイト薄膜間の距離が0.01〜100mmである請求項1に記載の量子ビームモニタ用電極。
【請求項3】
前記カーボングラファイト薄膜は、長さが5〜300mmである請求項1又は2に記載の量子ビームモニタ用電極。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の量子ビームモニタ用電極の製造方法であって、
量子ビームの通過空間を有するフレーム基板に該通過空間を跨ぐようにカーボングラファイト薄膜を固定した後、前記カーボングラファイト薄膜にレーザービームを照射し、前記カーボングラファイト薄膜を所定間隔おきに一方向に沿って並設された複数のリボン状の形態に加工して前記モニタターゲットを形成する量子ビームモニタ用電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の量子ビームモニタ用電極を具備する量子ビームモニタ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の量子ビームモニタ装置を用いた量子ビームプロファイルの計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−101367(P2007−101367A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291800(P2005−291800)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(391024168)ミノトス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】