説明

金の表面処理方法

【課題】活性状態とされた酸素による処理をした後でも、金よりなる構造体の表面に、ボンディングワイヤーの形成や電着膜の形成が正常に行えるようにする。
【解決手段】制御電極118及び可動部電極109の表面に残渣するカーボン系汚染物(有機物)を除去するために、これらの酸素プラズマが照射された状態とする。次に、この酸素プラズマによる処理がなされた基板101が、例えば、pH4.8程度とされた塩酸溶液に浸漬された状態とし、塩酸が、制御電極118及び可動部電極109の表面に作用する状態とする。この酸処理により、金からなる制御電極118及び可動部電極109の表面に、酸素を含むプラズマが照射されたことにより形成された酸化金が、除去されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金から構成された構造体の表面を処理する金の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高集積回路の実装プロセスにおいて、各基板に設けられたパッドを介して基板間を電気的に接続するワイヤボンディングと呼ばれる技術がある。このパッドを構成する物質として、化学的安定性や高導電性の観点から、金が良く用いられる。ワイヤボンディングによる接続の信頼性は、パッド表面の清浄度に依存するため、パッド表面(特に、金表面)の汚染物除去がキー技術となっている(非特許文献1参照)。従来より、表面の汚染物質を除去する技術として、酸素(O2)プラズマあるいは、アルゴン(酸素)と酸素との混合ガスのプラズマによる処理が一般的に用いられている(非特許文献2,非特許文献3参照)。
【0003】
また、酸素のプラズマを用いた表面処理は、MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)技術においても利用されている。例えば、図6に示すような、微細な可動部604を有するMEMSでは、駆動におけるスティッキングが問題となる。図6(a)に示すMEMSでは、絶縁膜602が形成されたシリコンからなる基板601上に、支持部603により支持されたシリコンからなる可動部604が、可動部604の先端部下の基板601上に設けられた金からなる電極605と、支持部603に接続する電極607との間に印加された電気信号により駆動されている。
【0004】
このような構成においては、電極605から発生させた静電気により可動部604を電極605方向に引き寄せ、かつ、下地の電極605との間に任意の距離を保って静止させることは、容易ではない。電極605が引きつける引力と、可動部604が元に戻ろうとする弾性力とのバランスは、不安定で崩れやすいためである。これらのバランスが崩れ、例えば、引力の方が勝れば、可動部604の先端部が電極605の表面に接触することになる。
【0005】
可動部604に導電性の材料が用いられ、接触した際に電極605と可動部604に導通があると、図6(b)に示すように、接触箇所610が反応して接合してしまい、可動部604の弾性力による反発では元に戻らなくなる場合がある。この現象がスティッキングや固着などと呼ばれ、MEMSにおける可動部を駆動させるときの問題となっている。この現象の原因は、高い電圧が印加された状態で可動部と電極との接触が、いわゆるスポットウェルダーと全く同様の状況なので、一種の抵抗溶接が起こっているものと推測されている。
【0006】
上述したスティッキングの状態を防ぐため、金からなる電極の表面に、電着により有機材料の被膜(スティッキング防止膜)を形成する技術が提案されている(非特許文献4参照)。この技術においては、電極の表面に付着している汚染物を、酸素を含むプラズマの暴露により除去し、この後で、有機材料からなる被膜(絶縁膜)を電着により被覆するようにしている。
【0007】
【非特許文献1】J.M.Nowful,S.C.Lok,"Effect of Plasma Cleaning on the Reliability of WireBonding",2001 Int'l Symposium on Electronic Materials and Packaging, p.39.
【非特許文献2】K.-H.Paek,W.-T.Ju,Y-H.Kim,J.-H.Seo,D.-Y.Kim,Y.-S.Hwang,"Plasma Cleaning of Various Electronic Packaging Materials to Improve Adhesion Property", IEEE Pulsed Power Plasma Science, 2001, p.555.
【非特許文献3】J.J.Rintamaki,R.M.Gilgenbach,W.E.Cohen,J.M.Hockman,R.L.Jaynes,Y.Y.Lau,L.K.Ang,M.E.Cuneo,P.R.Menge,"Characterization of RF PIasma Cleaning Protocols for Removal of Contaminants in High Voltage Beam Diodes", IEEE PIasma Science, 1997, p.335.
【非特許文献4】T.Sakata,H.Ishii,Y.Okabe,M.Nagase,M.Yano,K.Kudou,T.Kamei,K.Machida:"Selective Organic Dielectric Deposition for Encapsulation of MEMS Structure", Tech.Dig.JSAP Microprocesses and Nanotechnology 2004, pp.308-309, 0saka, Japan(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、酸素を含むプラズマの照射による金からなるパッド表面の処理をした後においても、ボンディングされるワイヤの接続状態に不良が発生する場合があった。また、酸素を含むプラズマによる処理をした後では、電着処理が開始されても、すぐには電着膜の形成が開始されず、潜伏期(インキュベーション)を経てから電着膜が形成され始める現象が確認されている。この現象は、酸素プラズマ暴露あるいは、四フッ化炭素/酸素混合プラズマ暴露あるいは、オゾン暴露の強度の場所分布や時間変動によって常に変動する。従って、酸素を含むプラズマによる処理をした後で金の表面に電着を行う場合、制御性よく電着膜が形成できないという問題があった。
【0009】
以上に示したように、金よりなる構造体の表面に付着している有機物(残渣)は、活性状態とされた酸素による処理で除去することが好ましいが、この処理をした後では、金よりなる構造体の表面に対し、ボンディングワイヤーの形成や電着膜の形成が正常に行えない状態となっていた。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、活性状態とされた酸素による処理をした後でも、金よりなる構造体の表面に、ボンディングワイヤーの形成や電着膜の形成が正常に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金の表面処理方法は、金からなる構造体の表面に活性状態とされた酸素が作用する状態とする第1工程と、活性状態とされた酸素の作用により構造体の表面に形成された金の化合物(例えば酸化金)が除去された状態とする第2工程とを少なくとも備えるようにしたものである。また、第2工程の後で、構造体の表面に電着により有機膜が形成された状態とする第3工程を備えるようにしたものである。
【0012】
上記処理方法において、金の化合物の除去は、酸の溶液を用いた処理により行えばよい。この場合、酸の溶液は、塩酸の溶液であればよい。また、酸の溶液のpHは、5以下であればよい。また、金の化合物の除去は、構造体の表面に有機膜を形成するための酸性の電着液を用いた処理により行うようにしてもよい。この場合も、電着液のpHは、5以下であればよい。また、上記処理方法において、金の化合物の除去は、真空,不活性ガス,及び還元性ガスの少なくとも1つの雰囲気において構造体を加熱する加熱処理により行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、金からなる構造体の表面に活性状態とされた酸素が作用する状態とした後、酸素の作用により構造体の表面に形成された金の化合物を除去するようにしたので、活性状態とされた酸素による処理をした後でも、金よりなる構造体の表面に、ボンディングワイヤーの形成や電着膜の形成などが正常に行えるようなるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における金の表面処理方法例を説明する工程図である。なお、図1において、(a)と(a’),(b)と(b’),(c)と(c’),(d)と(d’),(e)と(e’),(f)と(f’),(g)と(g’)は、各々同一の工程における、異なる領域を示しているものである。
【0015】
まず、図1(a)及び図1(a’)に示すように、単結晶シリコンからなる基板101の上に絶縁層102が形成され、図1(a’)に示すように、所定の領域に不純物が高濃度にドーピングされたn形のシリコンからなる支持部103及び図示しない可動部が形成された状態とする。可動部は、支持部103に連続(接続)して形成されている。これらは、例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を用い、SOI基板の埋め込み絶縁層上のSOI層を、公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより加工することで形成すればよい。SOI基板の埋め込み絶縁層が絶縁層102に対応し、SOI層を加工することで、可動部及び支持部103が得られる。
【0016】
次に、図1(b)及び図1(b’)に示すように、絶縁層102及び支持部103を覆うように、例えばチタンからなる膜厚0.1μm程度の下部シード層105が形成され、引き続いて下部シード層105上に、例えば金からなる膜厚0.3μm程度の上部シード層106が形成された状態とする。続いて、これらの上にフォトレジストを塗布し、形成したフォトレジスト膜を公知のフォトリソグラフィ技術によりパターニングすることで、所定の領域に開口部107aを備えたレジストパターン107が形成された状態とする。
【0017】
次に、図1(c)に示すように、レジストパターン107の開口部107aに露出した上部シード層106の上に、電解メッキ法により金を析出させて金パターン108が形成された状態とする。形成された金パターン108は、絶縁層102の表面からの高さが、支持部103と同程度となるようにする。なお、このとき、図1(c’)に示すように、支持部103などのレジストパターン107で覆われている領域には、金の膜は形成されない。
【0018】
次に、レジストパターン107を除去した後、図1(d)及び図1(d’)に示すように、金パターン108をマスクとし、ヨウ素/ヨウ化アンモニウム溶液を用いたウエットエッチング法により上部シード層106を選択的にエッチング除去され、続いて、フッ酸溶液によるウエットエッチングで下部シード層105が選択的に除去された状態とする。このことにより、金パターン108及び残った下部シード層105,上部シード層106からなる制御電極118が、絶縁層102の上に形成された状態となる。
【0019】
次に、図1(e)及び図1(e’)に示すように、支持部103の上に、可動部電極109が形成された状態とする。例えば、支持部103の一部正面が開放したレジストパターンが形成され、このレジストパターンの開放部に電解メッキ法により金のメッキ膜が形成された状態とし、この後、レジストパターンが除去された状態とすることで、可動部電極109が形成された状態とすることができる。
【0020】
次に、制御電極118及び可動部電極109の表面に残渣するカーボン系汚染物(有機物)を除去するために、これらの酸素プラズマが照射された状態とする。例えば、RFパワー100Wで生成された酸素プラズマに、基板101の全域が6分間程度暴露された状態とすればよい。次に、この酸素プラズマによる処理がなされた基板101が、例えば、pH4.8程度とされた塩酸溶液に浸漬された状態とし、塩酸が、制御電極118及び可動部電極109の表面に作用する状態とする。この酸処理により、金からなる制御電極118及び可動部電極109の表面に、酸素を含むプラズマが照射されたことにより形成された酸化金(金の化合物)が、除去されるようになる。
【0021】
次に、図1(f)及び図1(f’)に示すように、制御電極118の露出している表面のみに、電着により有機薄膜110が形成された状態とする。以下、有機薄膜110の形成について、より詳細に説明すると、まず、エポキシ基を有するスルフォニウムカチオンが分散する電着液(例えば、日本ペイント(株)、INSULEED3020)を30℃に調整し、この電着液の中に、上述した制御電極118が形成された基板101及び白金からなる対向電極が浸漬された状態とする。この状態で、制御電極118に負電圧を印加するとともに、上記対向電極に正電圧を印加する。すなわち、制御電極118を負極とし、対向電極を正極として電着液中に浸漬し、定電圧源を用いて電圧を印加し、カチオン電着を行う。なお、他の電着を用いて有機薄膜を電着するようにしてもよい。
【0022】
この電着により、電着液に分散している有機薄膜形成材料が、負電圧が印加された制御電極118の表面に析出し、膜厚数十nm〜5μm程度の有機薄膜110が形成される。上記電着液に分散している材料は、負電圧が印加されていない絶縁層102,可動部電極109,支持部103、及び図示していない可動部の表面には付着せず、負電圧が印加されている制御電極118の部分に選択的に析出する。この結果、制御電極118の露出している表面に、選択的に有機薄膜110が形成されるようになる。
【0023】
電着により有機薄膜110が形成された後、基板101を水洗処理(10分間)し、また、乾燥させた後、窒素雰囲気において190℃・25分間の加熱処理を行い、有機薄膜110が熱硬化された状態とする。前述した条件の電着により形成される有機薄膜110は、ガラス転移温度が178℃であり、加熱温度がこれより20℃までの範囲にある。この条件の範囲であれば、上述した熱硬化における有機薄膜110の過度の流動が抑制され、高い均一性で有機薄膜110が形成されるようになることが確認されている。
【0024】
最後に、フッ酸溶液によるウエットエッチングで絶縁層102が選択的に除去された状態とすることで、図1(g)及び図1(g’)及び図2の斜視図に示すように、基板101の上において、制御電極118が絶縁支持部113に支持され、支持部103が絶縁支持部112に支持されたMEMSが得られる。図2に示すように、可動部104は、支持部103に連続して接続形成されている。また、可動部104は、制御電極118の側部に近設した状態で配置されている。
【0025】
また、可動部104は、支持部103より細く形成されているため、前述したフッ酸溶液による絶縁層102の選択除去において、可動部104の下の絶縁層102が除去され、基板101の上に離間して配置された状態となる。このように、可動部104は、一端が支持部103に支持されて基板101の上に所定距離離間し、変位(変形)可能な状態に形成されている。また、支持部103は、基板101の上に置いて、制御電極118と同じ高さに配置されている。このように形成されたMEMSでは、制御電極118に電気信号を印加することで、電界の作用により、可動部104を所定の方向に作動すさせることができる。
【0026】
なお、上述では、制御電極118のみに有機薄膜110を形成するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、可動部電極109を形成する前に、支持部103、及び、可動部104のみに負電圧を印加することで、支持部103及び可動部104のみに有機薄膜を形成するようにしてもよい。また、可動部電極109を形成する前に、可動部104(支持部103を含む)に負電圧が印加された状態とし、可動部電極109が形成された後、制御電極118に負電圧が印加された状態とすることで、可動部104(支持部103を含む)及び制御電極118の両方に有機薄膜が形成された状態としてもよい。
【0027】
以下、金よりなる構造体の表面に、酸素を含むプラス間の処理により形成される酸化金の除去について、より詳細に説明する。まず、全表面が蒸着された金で覆われている基板を作成し、この基板を酸素プラズマ(RFパワー:100W)中に6分間暴露し、続いて、この基板を塩酸溶液(pH=4.8)へ浸漬する。この後、酸処理した基板を電着液中に浸漬し、直ちに、この基板を負極とし、また対向電極(SUS304)を正極として定電圧印加を行い、基板を覆う金の表面にカチオン電着を実施した。ただし、電着液には、30℃に調整した日本ペイント(株)製「INSULEED3020」を用い、印加する電圧は7Vとした。
【0028】
図3は、上述した一連の処理の中で、塩酸溶液への浸漬時間をパラメータとし、電着処理における電着膜の形成開始時間(インキュベーション)を計測した結果である。塩酸溶液への浸漬時間に伴い、インキュベーションの短縮が図られ、20分の浸漬ではインキュベーションが完全に消失する。これは、酸素プラズマ照射によって変成された金表面(酸化金膜)が塩酸溶液に浸漬することで溶解したためである。
【0029】
電着処理におけるインキュベーションは、酸素プラズマ暴露あるいは、四フッ化炭素/酸素混合プラズマ暴露あるいは、オゾン暴露の強度の場所分布や時間変動によって常に変動することが知られている。これら酸素を含むプラズマの処理をした後の電着処理におけるインキュベーションについて、発明者らが詳細に調査したところ、酸素を含むプラズマの処理により、金よりなる構造体の表面に形成される酸化金の存在により発生していることが判明した。また、様々なプラズマの処理により、形成された酸化金の状態が一様でないことに起因し、インキュベーションが変動していることも判明した。従って、酸素を含むプラズマの処理により形成される酸化金を、酸の処理により除去すれば、図3の特性図に示すように、インキュベーション時間が減少し、所定時間以上酸処理を行えば、インキュベーションが消失されるようになる。
【0030】
次に、酸の処理におけるpHとインキュベーション時間との関係について説明する。まず、全表面が蒸着された金で覆われている基板を作成し、この基板を酸素プラズマ(RFパワー:100W)中に6分間暴露し、続いて、この基板を塩酸溶液へ浸漬する。この後、酸処理した基板を電着液中に浸漬し、直ちに、この基板を負極とし、また対向電極(SUS304)を正極として定電圧印加を行い、基板を覆う金の表面にカチオン電着を実施した。ただし、電着液には、30℃に調整した日本ペイント(株)製「INSULEED3020」を用い、印加する電圧は7Vとした。
【0031】
図4は、上述した電着において、酸処理における塩酸溶液のpHをパラメータとし(pH=1.0,3.0,4.8)、酸処理時間(塩酸浸漬時間)とインキュベーション時間との関係を計測した結果を示す相関図である。図4では、四角がpH=1.0,三角がpH=3.0,まるがpH=4.8の場合を示している。図4に示すように、pHが低い場合ほど、より短い酸処理の時間で、インキュベーション時間が短くなっている。また、pH4.8の条件では、酸処理を20分行うことで、インキュベーション時間を0とすることができる。実用的な酸処理の時間が20分前後であるとすれば、酸処理に用いる処理溶液のpHは、5より小さい方がいい。また、pH3では、インキュベーション時間が1分以内で0となり、実際のプロセスにおいてより効率的な処理が可能となる。従って、酸処理に用いる処理液(酸の溶液)のpHは、よりよくは3以下とした方がよい。
【0032】
なお、当然ではあるが、酸処理に適用可能な酸は、塩酸に限らず、所定の水素イオン濃度が得られる他の酸を用いるようにしてもよい。また、上述では、金表面を酸素プラズマ中に暴露した場合について説明したが、酸素プラズマに代わって、アルゴンなどの不活性ガスで希釈したアルゴン/酸素混合プラズマ、あるいは、四フッ化炭素/酸素混合プラズマ、アルゴンなどの不活性ガスで希釈したアルゴン/四フッ化炭素/酸素混合プラズマ、あるいは、300℃で加熱活性化されたオゾン、あるいは、300℃で加熱活性化されたアルゴン/オゾンを含む雰囲気下で金表面を暴露しても、前述同様に、金の表面に酸化金が形成されることが、化学分析などによって確認されている。このように、活性状態とされた酸素が作用することにより、金の表面に酸化金が形成されるようになる。
【0033】
また、四フッ化炭素/酸素混合プラズマ暴露では、酸素単独のプラズマ暴露に比較し、金に対する酸化力が増大することも確認されている。従って、四フッ化炭素/酸素混合プラズマを用いた処理が行われた場合、電着におけるインキュベーションが完全に消失するには、塩酸溶液(pH=4.8)への浸漬が20分以上必要となることは言うまでもない。
【0034】
また、本実施の形態では、塩酸溶液への浸漬によって、酸素プラズマ暴露で改質された金表面(酸化金膜)を溶解しているが、これに限るものではない。例えば、酸性の電着液(例えば、日本ペイント(株)、INSULEED3020;pH=4.8)を用いた電着処理であれば、電着液への浸漬によっても、前述した酸処理の場合と同様の結果が得られる。従って、この場合においても、pHは、5より小さい方がいい。このように、活性状態の酸素による処理をした後の金表面に有機材料などを電着しようとする場合、電着の段階で酸による前処理がなされれば、インキュベーションが抑制できるようになる。例えば、酸性を示す他の電着液を用いるようにしてもよい。
【0035】
また、活性状態の酸素の処理により金の表面に形成された酸化金の除去は、酸による処理に限らず、真空,不活性,もしくは還元性の雰囲気における加熱処理でも行える。例えば、全表面が蒸着された金で覆われている基板を作成し、この基板を酸素プラズマ(RFパワー:100W)中に6分間暴露した後、真空中で300℃の加熱を行う。この加熱処理の前後の基板の金の表面を光学顕微鏡にて観察したところ、真空加熱前の金表面は、黒み(酸化金の色)を帯びた金色を呈していたが、加熱時間が長くなるほど黒みが減少し、1時間の加熱処理では完全な金色を呈した。これは、酸素プラズマ暴露によって形成された酸化金が真空加熱によって熱分解したためである。
【0036】
なお、真空中における加熱による酸化金の除去は、図5に示す昇温脱離分析(TDS)の結果から、加熱温度が260℃以上であればよいことがわかる。また、上述では、1時間の加熱処理を行っているが、この加熱時間は酸素プラズマ暴露条件(例えば、RFパワーや暴露時間)などによって変動することは言うまでもない。
【0037】
ところで、図1を用いて説明した表面処理方法では、処理対処の制御電極118が、下層との密着性向上のため、チタンからなる下部シード層105を用いている。この場合、チタンが金の中に拡散しないようにするためには、加熱の温度は300℃以下とした方がよい。ただし、チタンの拡散を抑制する拡散バリアとしての機能を持つ材料からなる層を用いるようにすれば、より高温の条件で加熱処理を行うことが可能となる。例えば、酸化チタンなどの層を用いればよい。
【0038】
なお、上述では、可動部を高濃度にドーピングしたn型シリコンから構成し、制御電極を金/チタンから構成したが、これらは、電着により有機薄膜が形成できる導体から構成されていればよい。上述の導体として、例えば、金/クロム、銅/クロムもしくは銅/チタン、あるいは、SUS、鉄などの金属や、あるいは、高濃度にドーピングしたp型シリコンもしくはポリシリコン、あるいは、ポリアセチレン、ポリアズレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレンなどの炭化水素系導電性ポリマーや、あるいは、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレンなどのヘテロ原子含有系導電性ポリマーや、あるいは、電荷移動錯体であってもよい。
【0039】
また、図1,2においては、3次元構造を有するMEMSを例に説明したが、これに限るものではなく、LSIなどで見られる絶縁分離した配線パターンのような2次元(平面)構造の場合であっても、同様である。上述したように、酸により処理及び真空,不活性ガス,還元性ガスの雰囲気における加熱処理をすることで、インキュベーションが抑制された状態で均一な電着が可能になるなど、活性状態の酸素による処理を受けた金からなる構造体の表面を改質できるようになる。
【0040】
なお、電着による処理を行う前に、塩酸などによる酸化金の除去処理とともに、フッ酸による処理を行うようにしてもよい。フッ酸による液処理を行うことで、電着による有機膜の形成における選択性の向上が図れる。電着による有機膜の形成において、フッ酸の処理を行っていない場合、電圧が印加されていない箇所に対する電着膜の付着が発生する場合があるが、フッ酸の処理によりこれが抑制されるようになる。なお、フッ酸の処理は、酸化金の除去処理の後に行ってもよく、酸化金の除去の前に行うようにしてもよい。
【0041】
また、上述では、活性状態とされた酸素を用いた処理の後、金からなる構造体の表面に電着膜を形成する場合を例に説明したが、これに限るものではない。例えば、処理対象が、金からなる電極パッドの表面であってもよい。この場合、活性状態とされた酸素を用いて処理し、電極歩パッドの表面に付着している有機物の除去などを行った後、酸の処理や加熱処理により電極パッド表面に形成された酸化金を除去すれば、ボンディングされるワイヤの不良を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態における金の表面処理方法例を説明する工程図である。
【図2】本発明の実施の形態における金の表面処理を適用して製造されたMEMSの構成例を示す斜視図である。
【図3】塩酸溶液への浸漬時間をパラメータとし、電着処理における電着膜の形成開始時間(インキュベーション)を計測した結果を示す特性図である。
【図4】酸処理における塩酸溶液のpHをパラメータとし(pH=1.0,3.0,4.8)、酸処理時間(塩酸浸漬時間)とインキュベーション時間との関係を計測した結果を示す相関図である。
【図5】真空中における加熱による酸化金の除去の効果を説明するための昇温脱離分析(TDS)の結果を示す特性図である。
【図6】MEMSの駆動におけるスティッキングの問題を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0043】
101…基板、102…絶縁層、103…支持部、104…可動部、105…下部シード層、106…上部シード層、107…レジストパターン、107a…開口部、108…金パターン、109…可動部電極、110…有機薄膜、112,113…絶縁支持部、118…制御電極。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金からなる構造体の表面に活性状態とされた酸素が作用する状態とする第1工程と、
活性状態とされた酸素の作用により前記構造体の表面に形成された金の化合物が除去された状態とする第2工程と
を少なくとも備えることを特徴とする金の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の金の表面処理方法において、
前記第2工程の後で、前記構造体の表面に電着により有機膜が形成された状態とする第3工程
を備えることを特徴とする金の表面処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の金の表面処理方法において、
前記金の化合物の除去は、酸の溶液を用いた処理により行う
ことを特徴とする金の表面処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の金の表面処理方法において、
前記酸の溶液は、塩酸の溶液である
ことを特徴とする金の表面処理方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の金の表面処理方法において、
前記酸の溶液のpHは、5以下である
ことを特徴とする金の表面処理方法。
【請求項6】
請求項2記載の金の表面処理方法において、
前記金の化合物の除去は、前記構造体の表面に前記有機膜を形成するための酸性の電着液を用いた処理により行う
ことを特徴とする金の表面処理方法。
【請求項7】
請求項6記載の金の表面処理方法において、
前記電着液のpHは、5以下である
ことを特徴とする金の表面処理方法。
【請求項8】
請求項1又は2記載の金の表面処理方法において、
前記金の化合物の除去は、真空,不活性ガス,及び還元性ガスの少なくとも1つの雰囲気において前記構造体を加熱する加熱処理により行う
ことを特徴とする金の表面処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−19416(P2007−19416A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201921(P2005−201921)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】