説明

金ナノ粒子

【課題】平均粒子径3nm以下であって粒子径の変動係数20%以下である粒子径が均一な金ナノ粒子を提供する。
【解決手段】平均粒子径3nm以下、および粒子径の変動係数20%以下であって、200℃〜300℃で15〜30分焼成したときの比抵抗率が2.3×10-5〜4.0×10-5Ω・cmであることを特徴とし、好ましくは、金イオン溶液に還元剤溶液を混合して金微粒子を製造する方法において、還元剤としてテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(以下、THPCと云う)を用い、金イオン溶液と還元剤溶液を混合した後に、この混合溶液をアルカリ溶液に添加して金イオンを還元することによって製造された金微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の配線材料、色材、光学フィルター、触媒などに用いられるナノサイズの金微粒子(金ナノ粒子と云うことがある)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金ナノ粒子は金イオンを含む溶液に還元液を添加して金イオンを還元する液相還元法によって主に製造されている。例えば、塩化金酸水溶液に還元剤溶液(水素化ホウ素ナトリウム溶液)を添加して金イオンを還元し、さらに、水と相溶しない有機溶媒に分散させた保護剤溶液(1−オクタンチオールヘキサン溶液)を添加して攪拌し、有機溶媒中に金微粒子を抽出する方法が知られている(特許文献1、特許文献2)。しかし、これらの方法によって製造される金微粒子の平均粒子径は何れも3nmより大きい。
【0003】
また、塩化金酸水溶液にトルエンと界面活性剤(TOAB等)を加えて攪拌し、塩化金酸をトルエンに抽出した後に還元剤溶液(水素化ホウ素ナトリウム溶液)を加え、固形分を回収して加熱処理し、冷却後に固形物をトルエンに再溶解し、この沈澱物を濾過して金微粒子を得る製造方法が知られている(特許文献3)。しかし、この方法によって得られる金微粒子の平均粒子径もまた3nmより大きい。
【0004】
また、水酸化ナトリウム水溶液とTHPC水溶液を予め混合した後に、この混合液に塩化金酸水溶液を混合して金コロイドを得る方法が知られている(特許文献4)。しかし、この製造方法では、金濃度が0.1mol/l以上になると、生成する金微粒子の粒子径が4nm以上になる。金濃度が0.001mol/l程度の薄い塩化金酸水溶液を用いれば、粒子径3nm以下の金微粒子を製造することができるが、濃度が極端に薄いため十分な収量を得ることができず、工業レベルでの実用化に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−253310号公報
【特許文献2】特開2003−193118号公報
【特許文献3】特開2003−049205号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,96(1993) p96-p98
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、平均粒子径3nm以下であって、粒子径の変動係数と比抵抗率の小さい金ナノ粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の金ナノ粒子に関する。
〔1〕平均粒子径3nm以下、および粒子径の変動係数20%以下であって、200℃〜300℃で15〜30分焼成したときの比抵抗率が2.3×10-5〜4.0×10-5Ω・cmであることを特徴とする金微粒子。
〔2〕金イオン溶液に還元剤溶液を混合して金微粒子を製造する方法において、還元剤としてテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(以下、THPCと云う)を用い、金イオン溶液と還元剤溶液を混合した後に、この混合溶液をアルカリ溶液に添加して金イオンを還元することによって製造された上記[1]に記載する金微粒子。
〔3〕上記[1]に記載する金微粒子を含むペースト、コロイド、被膜、または光学フィルター。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金ナノ粒子は、平均粒子径3nm以下、例えば平均粒子径1〜3nmであり、粒子径の変動係数が20%以下の均一な微粒子であるので、配線材料、色材、光学フィルター、触媒などの機能性材料として好適である。さらに、本発明の金微粒子を含む膜は、低い加熱焼成温度(300℃以下)でも比抵抗率が小さいので、特に高温加熱が困難な導電材料に適する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の金ナノ粒子は、平均粒子径3nm以下であって、粒子径の変動係数が20%以下の金微粒子である。本発明の金ナノ粒子は、金イオン溶液に還元剤溶液を混合して金微粒子を製造する方法において、アルカリ域で作用する還元剤の溶液と金イオン溶液とを予め混合した後に、この混合溶液にアルカリ溶液を混合して金イオンを還元することによって得ることができる。
【0011】
具体的には、本発明の金ナノ粒子は、塩化金酸水溶液とTHPC水溶液を混合し、この混合水溶液を水酸化ナトリウム水溶液と混合して金イオンを還元することによって得ることができる。
【0012】
還元剤のTHPCは強アルカリ域で急速に作用するので、従来の製造方法では、予めTHPC水溶液を水酸化ナトリウム水溶液と混合し、強アルカリ性のTHPC水溶液とし、これと塩化金酸水溶液とを混合して塩化金酸を還元している。しかし、このように強アルカリ性のTHPC水溶液を予め形成し、これと塩化金酸水溶液とを混合すると、塩化金酸の還元が急激に進行し、例えば、局所的に生成した金微粒子を核とし、周囲の金イオンが還元されてこの金微粒子の成長に費やされ、局所的に粒径の大きな金微粒子になるため、平均粒子径3nm以下の金ナノ粒子が生成し難い。
【0013】
一方、上記製造方法は水酸化ナトリウム水溶液を加えずにTHPC水溶液を塩化金酸水溶液と混合する。このように、THPCの還元力が実質的に未だ作用しない状態で塩化金酸と混合することによって、THPCと塩化金酸とを均一に混合し、急激な還元作用による局部的な金微粒子の生成を抑制する。次いで、この混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して強アルカリ性に転化し、THPCの還元作用を発揮させる。このような方法によって、塩化金酸が液中で均一に還元され、金微粒子の成長が局部的に進行することがないので、平均粒子径3nm以下の金ナノ粒子を高い収率で得ることができる。
【0014】
具体的には、例えば、塩化金酸水溶液の金濃度0.025〜2.5mol/lにおいて、THPC量を金濃度の1〜4モル倍、水酸化ナトリウム量を金濃度の7〜15モル倍とし、5〜60分間混合した後に、還元剤のTHPCを除去することによって、粒子径3nm以下の微細な金ナノ粒子を85%以上の収率で得ることができる。なお、THPCを除去するには、生成した金ナノ粒子を含む反応液を遠心分離して金ナノ粒子を回収し、または非水系溶剤などに金ナノ粒子を抽出するなどの方法によれば良い。この方法によって製造した金ナノ粒子は、粒子径の変動係数(相対標準偏差)が20%以下であり、粒子径の均一な金ナノ粒子である。また、この製造方法によれば、原料の金イオン濃度が0.1mol/l程度でも平均粒子径3nm以下の金ナノ粒子を容易に得ることができる。
【0015】
本発明の金ナノ粒子は、平均粒子径3nm以下、例えば平均粒子径1〜3nmであり、粒子径の変動係数が20%以下の均一な微粒子であるので、これを配線材料、色材、光学フィルター、触媒などの機能性材料として用いれば、均質な性能を得ることができる。さらに、本発明の金微粒子を含む膜は、低い加熱焼成温度(300℃以下)でも比抵抗率が小さいので、特に高温加熱が困難な導電材料に適する。
【0016】
具体的には、例えば、ディスプレイなどの表面から発生する人体に有害な電磁波をシールドするために、その表面にITOなどの導電性の膜が設けられている。この導電性膜には比抵抗率が小さく、かつ高い透明度が要求される。しかし、ITOなどで十分な導電性を得るためには十分な膜厚が必要になり、コストが高い。本発明の金ナノ粒子は平均粒子径3nm以下の微細粒子であるので高い透明性を有し、かつ導電性に優れているので、電磁波シールド膜などの材料に適する。
【0017】
また、従来の金粒子は触媒活性が乏しいので触媒として利用されていないが、本発明の金ナノ粒子は平均粒子径を3nm以下にすることによって表面エネルギーが大きく、高い活性を有するので触媒として利用することができる。
【0018】
また、配線材料として金微粒子を焼結して用いるが、従来の方法によって製造した金微粒子の焼結体に比べて、本発明の金ナノ粒子焼結体の比抵抗率は大幅に小さく、配線材料として有利である。具体的には、金微粒子を含むペーストを配線材料として用いる場合、このペーストを印刷した後に焼結して配線を形成するが、従来の液相還元法によって製造した金粒子は概ね直径5nm以上であり、これを配線材料として用いるには比較的高い温度で焼結しなければならない。
【0019】
一方、本発明に係る金ナノ粒子は平均粒子径3nm以下にすることによって表面エネルギーが大きくなるので、従来の焼成温度よりも低温での焼成が可能であり、比抵抗を格段に小さくすることができる。具体的には、本発明の金微粒子を配合し、焼成してなる被膜において、比抵抗率1×10-4Ω・cm以下の導電性に優れた被膜を得ることができる。因みに、表1に示すように、従来の金粒子を200〜300℃で15〜30分間焼成したときの比抵抗率は概ね23.0×10-5〜340.0×10-5Ω・cmであるが、本発明の金ナノ粒子は、同様の焼成条件において、2.3×10-5〜4.0×10-5Ω・cmであり、従来の約1/10〜1/150であって比抵抗率が格段に小さい。
【0020】
金コロイドなどの金粒子が分散した系では、粒子径に応じて紫、青、赤などの色を発色する。この発色はプラズモン吸収と呼ばれ、電子のプラズマ振動に起因する。プラズモン吸収が大きいとディスプレイの発色を阻害する。本発明の金ナノ粒子は平均粒径を3nm以下にすることによって、光吸収スペクトルにおいて520nm近傍のプラズモン吸収を小さくし、あるいは実質的に生じないようにした。この金ナノ粒子を用いれば、可視光域においてディスプレイの発色を阻害しない良好な光学フィルターを得ることができる。
【0021】
本発明の金微粒子は非常に微細であり、かつ粒子径が均一であるので、この金微粒子を含むペースト、コロイドを用いれば、光学特性に優れた被膜や光学フィルター材料を得ることができる。また、この金微粒子は、従来のものより微粒子であるので焼結温度が低く、従って、焼結温度以上で焼成して形成した被膜や光学フィルター材料なども光学特性に優れたものを得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を示す。結果を表1に示した。
〔実施例1〕
THPC水溶液(濃度2.5mol/l)3mlと塩化金酸水溶液(濃度2.5mol/l)2mlとを混合した溶液を、水酸化ナトリウム水溶液(濃度10mol/l)5mlに純水40mlを加えて希釈した水溶液に加えて5分間攪拌し混合した。この混合溶液を遠心分離して金コロイドを回収した。この金コロイドは平均粒子径3nm以下であり、3nm以下の金微粒子の収量910mg(収率91%)であった。また、粒子径の変動係数は16%、300℃で15分〜30分焼成したときの比抵抗率は2.5×10-5〜3.5×10-5Ω・cmであった(表1No.1)。
【0023】
〔実施例2〜5〕
THPC水溶液、塩化金酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液について、表1に示す濃度および使用量を用いて金コロイドを製造した。また、実施例1と同一条件で焼成したときの比抵抗率を測定した。この結果を表1に示した(No.2〜No.5)。
【0024】
〔比較例〕
THPC水溶液、塩化金酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液について、表1に示す濃度および使用量を用い、あらかじめTHPC水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を混合した溶液に塩化金酸水溶液を添加して金コロイドを製造した。また、実施例1と同一条件で焼成したときの比抵抗率を測定した。この結果を表1に示したこの結果を表1に示した(No.6〜No.8)。
【0025】
本発明の実施例では、金濃度0.25mol/l〜2.5mol/lにおいて、平均粒子径3nm以下の金ナノ粒子が87%以上の高収率で製造される。一方、比較例では、得られる金微粒子の平均粒子径は3nm以上であり、平均粒子径3nm以下の微細な金ナノ粒子の収率は、金濃度2.5mol/lでは36%以下と低く、金濃度0.25mol/lの薄い塩化金酸溶液を用いた場合でも65%であり、結局、平均粒子径3nm以下であって粒子径の変動係数20%以下の金微粒子を得ることはできない。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径3nm以下、および粒子径の変動係数20%以下であって、200℃〜300℃で15〜30分焼成したときの比抵抗率が2.3×10-5〜4.0×10-5Ω・cmであることを特徴とする金微粒子。
【請求項2】
金イオン溶液に還元剤溶液を混合して金微粒子を製造する方法において、還元剤としてテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(以下、THPCと云う)を用い、金イオン溶液と還元剤溶液を混合した後に、この混合溶液をアルカリ溶液に添加して金イオンを還元することによって製造された請求項1に記載する金微粒子。
【請求項3】
請求項1に記載する金微粒子を含むペースト、コロイド、被膜、または光学フィルター。

【公開番号】特開2011−94234(P2011−94234A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255919(P2010−255919)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【分割の表示】特願2005−317036(P2005−317036)の分割
【原出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)ナノ粒子の合成と機能化技術プロジェクト」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】