説明

金型および金型用感温磁性材料

【課題】金型の内部構造が複雑化するのを抑制しつつ、成形温度をより正確に制御することが可能な金型を提供する。
【解決手段】この金型1は、上型10と、上型10と対向するように配置される下型20とを備え、上型10の下面10aおよび下型20の上面20aに、それぞれ、キュリー温度を有する感温磁性材料を含む感温磁性材料層12および22が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型および金型用感温磁性材料に関し、特に、キュリー温度を有する金型用感温磁性材料およびその金型用感温磁性材料を用いた金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キュリー温度を有する金型用感温磁性材料を用いた金型が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、内部に溝部が形成された固定入れ子部および可動入れ子部と、固定入れ子部および可動入れ子部の各々の内部の溝部に配置される電磁誘導加熱コイルとを備える成形金型が開示されている。この特許文献1に記載された成形金型では、電磁誘導加熱コイルが、キュリー温度を有するNi−Cu合金(感温磁性材料)の周囲に巻かれた状態で各々の溝部に配置されている。この電磁誘導加熱コイルに高周波電流が流されることにより、Ni−Cu合金と共に電磁誘導加熱コイルの周囲の型板(成形型部)がキュリー温度まで加熱される。一方、Ni−Cu合金はキュリー温度以上には加熱されないので、電磁誘導加熱コイルの周囲の型板(成形型部)は、キュリー温度以上に加熱されずにキュリー温度付近に保たれるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−96576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された成形金型では、キュリー温度を有するNi−Cu合金(感温磁性材料)および電磁誘導加熱コイルを成形金型の内部に配置するために、固定入れ子部および可動入れ子部の各々の内部に溝部をそれぞれ設ける必要がある。このため、成形金型の内部構造が複雑化するという問題点がある。また、成形領域側に接する領域(前面)から離間した、固定入れ子部および可動入れ子部の各々の内部(固定入れ子部および可動入れ子部の前部の後ろ側)にNi−Cu合金(感温磁性材料)が配置されるため、固定入れ子部および可動入れ子部の前面を正確に温度制御するのが困難であるという不都合がある。このため、成形温度をより正確に制御するのが困難であるという問題点もある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、金型の内部構造が複雑化するのを抑制しつつ、成形温度をより正確に制御することが可能な金型およびその金型に用いる金型用感温磁性材料を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この発明の第1の局面による金型は、第1型部と、第1型部と対向するように配置される第2型部とを備え、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に、キュリー温度を有する感温磁性材料を含む温度制御部が配置されている。
【0008】
この発明の第1の局面による金型では、上記のように、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に、キュリー温度を有する感温磁性材料を含む温度制御部を配置することによって、第1型部と第2型部との各々の内部に感温磁性材料を配置するための溝部を形成する必要がないので、金型の内部構造が複雑化するのを抑制することができる。また、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に、キュリー温度を有する感温磁性材料を含む温度制御部を配置することによって、第1型部と第2型部との各々の内部に感温磁性材料を配置する場合と異なり、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部の温度をより正確に感温磁性材料のキュリー温度付近に保つことができる。これにより、成形温度をより正確に制御することができる。
【0009】
上記第1の局面による金型において、好ましくは、第1型部および第2型部は、キュリー温度を有しない金属材料からなり、温度制御部は、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に形成された感温磁性材料を含む温度制御層である。このように構成すれば、第1型部および第2型部がキュリー温度を有しない金属材料からなる場合であっても、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に形成された感温磁性材料を含む温度制御層によって、成形温度をより正確に感温磁性材料のキュリー温度付近に制御することができる。
【0010】
この場合、好ましくは、感温磁性材料を含む温度制御層は、溶射によって形成されている。このように構成すれば、容易に、感温磁性材料を含む温度制御層を第1型部および第2型部の表面上に略均一な厚みを有して形成することができる。また、溶射によって形成される分、温度制御層と、第1型部および第2型部の少なくとも一方との密着性を向上させることができる。
【0011】
上記第1の局面による金型において、好ましくは、感温磁性材料は、Ni−Fe合金からなる。このように構成すれば、Niの含有率を変化させることによりキュリー温度が異なる種々の感温磁性材料を得ることができるので、金型に流し込まれる樹脂などの原料に適した成形温度に成形領域の温度を制御することが可能な感温磁性材料を得ることができる。
【0012】
この場合、好ましくは、感温磁性材料は、Crを含むNi−Fe合金からなる。このように構成すれば、Crの含有率およびNiの含有率を変化させることによりキュリー温度が異なる感温磁性材料を得ることができる。また、Crを含有させることによって、感温磁性材料の耐食性を向上させることができる。
【0013】
上記感温磁性材料がCrを含むNi−Fe合金からなる金型において、好ましくは、第1型部および第2型部は、キュリー温度を有しない金属材料からなり、Crを含むNi−Fe合金からなる感温磁性材料は、感温磁性材料の熱膨張係数の値が温度制御部が配置されている第1型部および第2型部の熱膨張係数の値の近傍になるように組成が調整されている。このように構成すれば、温度制御部と第1型部および第2型部とを同じ温度環境下において略同じ変形量だけ熱変形させることができる。これにより、温度制御部の熱変形による変形量と第1型部および第2型部の熱変形による変形量とが大きく異なることに起因して温度制御部が第1型部および第2型部から剥がれるのを抑制することができる。
【0014】
上記第1の局面による金型において、好ましくは、第1型部の成形領域側の表面および第2型部の成形領域側の表面のうち、成形領域に対応する領域に温度制御部が配置されている。このように構成すれば、温度制御部が第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の一部のみに形成される場合と比べて、より正確に、成形温度を温度制御部の感温磁性材料のキュリー温度付近に制御することができる。
【0015】
上記第1の局面による金型において、好ましくは、感温磁性材料は、第1キュリー温度を有する第1感温磁性材料と、第1キュリー温度よりも大きい第2キュリー温度を有する第2感温磁性材料とを含み、温度制御部は、第1感温磁性材料を含む第1温度制御部と、第2感温磁性材料を含み、第1温度制御部と異なる領域に配置された第2温度制御部とを含む。このように構成すれば、成形領域の第1温度制御部近傍を第1キュリー温度に保持することができるとともに、第1温度制御部と異なる成形領域の第2温度制御部近傍を第2キュリー温度に保持することができる。これにより、成形領域内の複数の領域を互いに異なる温度に制御することができる。
【0016】
この場合、好ましくは、成形領域には、原料が流し込まれるように構成されており、第2温度制御部は、原料が流れにくい領域に配置されている。このように構成すれば、第1キュリー温度よりも大きい第2キュリー温度を有する第2温度制御部によって、原料が流れにくい領域を成形領域中の他の領域よりも高い温度に保つことができる。これにより、原料が流れにくい領域に原料が滞留したりするのを抑制することができるので、成形機能を高めることができる。
【0017】
上記第2温度制御部を原料が流れにくい領域に配置した金型において、好ましくは、原料を成形領域に流し込むための第1開口部および第2開口部が形成されており、第2温度制御部は、第1開口部から流し込まれる原料と第2開口部から流し込まれる原料とが合流する領域に配置されている。このように構成すれば、第1開口部から流し込まれる原料と第2開口部から流し込まれる原料とが合流することに起因して原料が流れにくい領域において、第1キュリー温度よりも大きい第2キュリー温度を有する第2温度制御部を配置することによって、原料が流れにくい領域の温度を成形領域中の他の領域よりも高く維持することができる。これにより、原料が流れにくい領域に原料が滞留したりするのを抑制することができるので、成形機能を高めることができる。
【0018】
上記第2温度制御部を原料が流れにくい領域に配置した金型において、好ましくは、原料を成形領域に流し込むための開口部が形成されており、成形領域の開口部と接続される部分以外の領域は、閉じた領域になるように構成されており、第2温度制御部は、開口部と接続される部分とは反対側の閉じた領域の終端領域に配置されている。このように構成すれば、第2温度制御部によって、開口部と接続される部分とは反対側の閉じた領域の終端領域のような原料が流れにくい領域の温度を成形領域中の他の領域よりも高く維持することができるので、原料が流れにくい領域に原料が滞留したりするのが抑制される分、成形機能を高めることができる。
【0019】
上記第1の局面による金型において、好ましくは、第1型部および第2型部の少なくともいずれか一方は、感温磁性材料からなる。このように構成すれば、第1型部および第2型部の少なくともいずれか一方の表面に感温磁性材層を別途形成する必要がないので、金型の製造プロセスを簡略化することができる。
【0020】
上記第1の局面による金型において、好ましくは、温度制御部を構成する感温磁性材料の加熱時に成形領域の温度制御部近傍に配置され、誘導加熱により温度制御部を加熱する誘導加熱コイルをさらに備える。このように構成すれば、成形領域の温度制御部近傍に配置された誘導加熱コイルによる加熱によって、容易に、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部の温度を感温磁性材料のキュリー温度付近に保つことができる。
【0021】
この発明の第2の局面による金型用感温磁性材料は、第1型部と第1型部と対向するように配置される第2型部とを備える金型に用いられ、キュリー温度を有する金型用感温磁性材料であって、第1型部と第2型部との少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に配置される。
【0022】
この発明の第2の局面による金型用感温磁性材料では、上記のように、金型用感温磁性材料が、金型の第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に配置されるように構成することによって、金型に配置された金型用感温磁性材料を発熱させるために、IHコイルなどの誘導加熱するための部材を成形領域内に配置すればよく、第1型部と第2型部との各々の内部に金型用感温磁性材料を配置するための溝部を形成する必要がないので、金型の内部構造が複雑化するのを抑制することができる。また、金型用感温磁性材料が、金型の第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に配置されるように構成することによって、第1型部と第2型部と各々の内部に金型用感温磁性材料を配置する場合と異なり、第1型部および第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部の温度をより正確に金型用感温磁性材料のキュリー温度付近に保つことができる。これにより、成形温度をより正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態による金型を示した断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による金型の形成領域にIHコイル(誘導加熱コイル)を配置した状態を示した断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による高温磁性材料層および低温磁性材料層の形成方法を示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態による金型を示した断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態による金型を示した断面図である。
【図6】本発明の効果を確認するために行ったキュリー温度測定の試験材を示した斜視図である。
【図7】本発明の効果を確認するために行ったキュリー温度測定における温度に対する振幅透磁率のグラフである。
【図8】本発明の効果を確認するために行ったキュリー温度測定と、熱膨張係数測定と、引張り強さ測定および伸び測定との実験結果を示した表である。
【図9】本発明の効果を確認するために行った耐食性測定の実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
(第1実施形態)
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1実施形態による金型1の構造について説明する。
【0026】
本発明の第1実施形態による金型1は、射出成形によって樹脂を所定の製品の形に成形するために用いられるものである。また、金型1は、図1に示すように、上側に配置される上型10と上型10と対向するように下側に配置される下型20とを備える。なお、上型10は、本発明の「第1型部」の一例であり、下型20は、本発明の「第2型部」の一例である。
【0027】
また、金型1の一方側(X1側)の端部およびX1側とは反対側の他方側(X2側)の端部には、それぞれ、溶融した樹脂(熱可塑性樹脂)を後述する成形領域Aに射出するための射出口30および31が設けられている。なお、射出口30および31は、それぞれ、本発明の「第1開口部」および「第2開口部」の一例である。また、樹脂は、本発明の「原料」の一例である。
【0028】
また、上型10の下面10aの中央部付近には、上方に向かって窪む凹部10bが形成されているとともに、下型20の上面20aの中央部付近には、凹部10bに対向した状態で上方に向かって突出する凸部20bが形成されている。
【0029】
また、上型10および下型20は、共に、熱膨張係数が約11×10−6/℃以上約12×10−6/℃以下の一般的な炭素鋼からなり、キュリー温度は有していない。つまり、上型10および下型20は、所定の温度を境に強磁性体から常磁性体に変化するような性質を有していない。
【0030】
ここで、第1実施形態では、上型10の後述する成形領域A側となる下面10a上には、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12からなる温度制御層が略全面に形成されている。また、下型20の成形領域A側となる上面20a上には、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22からなる温度制御層が略全面に形成されている。また、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12は、それぞれ、溶射によって上型10の下面10aに吹き付けられて形成されているとともに、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22は、それぞれ、溶射によって下型20の上面20aに吹き付けられて形成されている。また、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とは、各々が略均一の厚み(約1mm)を有して形成されている。なお、高温磁性材料層11および21は、本発明の「第2温度制御部」、「温度制御部」および「温度制御層」の一例であり、低温磁性材料層12および22は、本発明の「第1温度制御部」、「温度制御部」および「温度制御層」の一例である。また、下面10aおよび上面20aは、本発明の「表面」の一例である。
【0031】
また、高温磁性材料層11の下面11aと高温磁性材料層21の上面21aとは、所定の間隔を隔てて互いに対向するように形成されている。また、低温磁性材料層12の下面12aと低温磁性材料層22の上面22aとは、所定の間隔を隔てて互いに対向するように形成されている。これら所定の間隔によって、溶融した樹脂が流し込まれる成形領域Aが構成されている。ここで、成形領域Aに流し込まれた樹脂は、冷却されることにより硬化して、金型1に対応する形に成形された樹脂製品(図示せず)が形成されるように構成されている。なお、成形領域Aのうち、凹部10bおよび凸部20bによって挟まれるX方向の略中央に位置する領域は、射出口30および31からそれぞれ流れ込んだ樹脂が合流する領域であり、溶融した樹脂が流れにくい滞留領域Bに該当する。
【0032】
また、第1実施形態では、高温磁性材料層11は、成形領域A中の滞留領域Bに対応する凹部10bのX方向の略中央の領域に配置されているとともに、低温磁性材料層12は、成形領域A中の滞留領域B以外の領域に配置されている。同様に、高温磁性材料層21は、成形領域A中の滞留領域Bに対応する凸部20bのX方向の略中央の領域に配置されているとともに、低温磁性材料層22は、成形領域A中の滞留領域B以外の領域に配置されている。
【0033】
また、高温磁性材料層11および21は、キュリー温度が約205℃である51Ni−11Cr−Fe合金(51質量%のNiと、11質量%のCrと、不可避不純物およびFeとからなる合金)からなる。一方、低温磁性材料層12および22は、キュリー温度が約145℃である39Ni−9Cr−Fe合金(39質量%のNiと、9質量%のCrと、不可避不純物およびFeとからなる合金)からなる。なお、51Ni−11Cr−Fe合金は、本発明の「第2感温磁性材料」の一例であり、39Ni−9Cr−Fe合金は、本発明の「第1感温磁性材料」の一例である。また、約205℃は、本発明の「第2キュリー温度」の一例であり、約145℃は、本発明の「第1キュリー温度」の一例である。
【0034】
また、金型1の成形領域Aに配置された高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とは、IHコイル40から発生された磁場によって誘導加熱されるように構成されている。なお、IHコイル40は、図2に示すように、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22との加熱時に、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とに当接(接触)した状態で成形領域Aに配置されるように構成されている。なお、IHコイル40は、本発明の「誘導加熱コイル」の一例である。
【0035】
また、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とは、それぞれ、キュリー温度(約205℃および約145℃)を境に強磁性体(低温側)から常磁性体(高温側)に変化する性質を有する。これにより、金型1の成形領域Aに対応する表面近傍を誘導加熱する際、低温磁性材料層12および22が配置されている領域では、低温磁性材料層12および22のキュリー温度である約145℃以上になると、低温磁性材料層12および22の39Ni−9Cr−Fe合金が強磁性体から常磁性体に変化する。これにより、常磁性体に変化した低温磁性材料層12および22は、IHコイル40の磁場にほとんど反応しなくなるので、キュリー温度(約145℃)以上では、温度はほとんど上昇しない。これにより、低温磁性材料層12および22が形成された成形領域Aに接する表面(下面12aおよび上面22a)近傍の上型10および下型20の部分と低温磁性材料層12および22とは、約145℃近傍の温度で保たれるように構成されている。
【0036】
同様に、金型1の成形領域Aに対応する表面近傍を誘導加熱する際、高温磁性材料層11および21が配置されている領域では高温磁性材料層11および21のキュリー温度である約205℃以上になると、高温磁性材料層11および21の51Ni−11Cr−Fe合金が強磁性体から常磁性体に変化する。これにより、常磁性体に変化した高温磁性材料層11および21は、IHコイル40の磁場にほとんど反応しなくなるので、キュリー温度(約205℃)以上では、温度はほとんど上昇しない。これにより、高温磁性材料層11および21が形成された成形領域Aに接する表面(下面11aおよび上面21a)近傍の上型10および下型20の部分と高温磁性材料層11および21とは、約205℃近傍の温度で保たれるように構成されている。
【0037】
また、高温磁性材料層11および21の51Ni−11Cr−Fe合金と、低温磁性材料層12および22の39Ni−9Cr−Fe合金とは、共に、約10.3×10−6/℃以上約12.7×10−6/℃以下の熱膨張係数を有するようにNiおよびCrの組成が調整されている。なお、この約10.3×10−6/℃以上約12.7×10−6/℃以下の値を有する熱膨張係数は、一般的な炭素鋼からなる上型10および下型20の熱膨張係数(約11×10−6/℃以上約12×10−6/℃以下)の近傍である。
【0038】
なお、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とは、30質量%以上55質量%以下のNiと、3質量%以上15質量%以下のCrと、不可避不純物およびFeとからなる、Crを含むNi−Fe合金であればよい。また、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とは、30質量%以上50質量%以下のNiと不可避不純物およびFeとからなるNi−Fe合金でもよい。この際、高温磁性材料層11および21のキュリー温度は、低温磁性材料層12および22のキュリー温度よりも約10℃以上約80℃以下の範囲において高く設定される必要がある。
【0039】
次に、図1および図2を参照して、本発明の第1実施形態による金型1を用いて樹脂製品を成形する方法について説明する。
【0040】
まず、上型10と下型20とを一時的に互いに離間させて、金型1の成形領域AにIHコイル40を配置する。そして、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とにIHコイル40が当接(接触)するように近づけた後、IHコイル40に交流電流を流すことによって、一定の時間間隔(約30kHz)で変化する磁場をIHコイル40の周辺に発生させる。これにより、一定の時間間隔で変化する磁場に反応して、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とに誘導電流が流れて、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とが発熱する。これにより、金型1の成形領域Aの表面(下面11aおよび12aと上面21aおよび22a)近傍は加熱される。
【0041】
ここで、第1実施形態では、成形領域Aが約145℃まで熱せられた際、低温磁性材料層12および22の39Ni−9Cr−Fe合金は、キュリー温度(約145℃)以上には加熱されないので、低温磁性材料層12および22が配置された成形領域Aのうちの滞留領域B以外の領域の温度は、約145℃近傍に保たれる。一方、高温磁性材料層11および21の51Ni−11Cr−Fe合金のキュリー温度は、約145℃よりも高い(約205℃)ので、高温磁性材料層11および21が配置された滞留領域Bの温度は、約145℃よりも高くなるようにさらに加熱される。
【0042】
そして、滞留領域Bが約205℃まで熱せられた際、高温磁性材料層11および21は、キュリー温度(約205℃)以上には加熱されないので、高温磁性材料層11および21が配置された滞留領域Bの温度は、約205℃近傍に保たれる。この結果、高温磁性材料層11および21が配置された領域の表面(成形領域Aに接する下面11aおよび上面21a)近傍の温度は、約205℃近傍で保持されるとともに、低温磁性材料層12および22が配置された領域の表面(成形領域Aに接する下面12aおよび上面22a)近傍の温度は、約145℃近傍で保持される。なお、約205℃近傍および約145℃近傍は、成形温度の一例である。
【0043】
その後、上型10と下型20とを一時的に互いに離間させて、IHコイル40を成形領域Aから取り出した後、再度、上型10と下型20との間隔を成形領域Aが形成されるように近づける。そして、溶融した樹脂を射出口30および31から成形領域Aに流し込む。この際、成形領域Aのうちの、射出口30から流し込まれた樹脂とおよび射出口31から流し込まれた樹脂とが合流する滞留領域Bにおいては、溶融した樹脂が流れにくい。しかしながら、成形領域Aのうちの、滞留領域Bに対応する凹部10bのX方向の略中央の領域(高温磁性材料層11および21が配置された領域)の温度(約205℃)は、その他の低温磁性材料層12および22が配置された領域の温度(約145℃)よりも高いので、溶融した樹脂は成形領域A中の滞留領域Bに滞留しにくくなる。
【0044】
そして、所定の量の溶融した樹脂を成形領域Aに流し込んだ後に、金型1を冷却して樹脂を硬化させる。その後、上型10と下型20との間隔を広げて、硬化された樹脂を取り出すことによって、成形領域Aに対応する形状に成形された樹脂製品が完成する。
【0045】
次に、図1および図3を参照して、本発明の第1実施形態による高温磁性材料層11および低温磁性材料層12と、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22との各々の形成方法について説明する。
【0046】
図3に示すように、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12は、フレーム溶射装置100によって、上型10の下面10a上に感温磁性材料(51Ni−11Cr−Fe合金および39Ni−9Cr−Fe合金)が吹き付けられることによって形成される。
【0047】
具体的には、フレーム溶射装置100は、溶射材である感温磁性材料(51Ni−11Cr−Fe合金または39Ni−9Cr−Fe合金)からなり、約3.2mmの径を有するワイヤ101と、ワイヤ101を取り囲むように配置されたノズル102と、ワイヤ101およびノズル102を取り囲むように配置されたエアーキャップ103とを含む。このノズル102は、ワイヤ101の先端の周囲に酸素アセチレンガスなどのガスを送り込むために設けられており、エアーキャップ103は、被溶射材である上型10が配置された側に向かって吹き付けられる圧縮空気の量を調整するために設けられている。また、溶射材である感温磁性材料を吹き付ける角度(溶射角度)は約90度になるように設定されている。
【0048】
ここで、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12の形成方法としては、まず、高温磁性材料層11が配置される領域(図1の滞留領域Bに対応する凹部10bのX方向の略中央の領域)に対応する下面10aに図示しない遮蔽板を配置した状態で、フレーム溶射装置100の所定の位置に配置する。そして、39Ni−9Cr−Fe合金からなるワイヤ101を所定の位置に配置した状態で、ノズル102からガスを放出させる。これにより、ワイヤ101の先端が約3000℃に熱せられて溶融した状態になる。その後、エアーキャップ103を介して、圧縮空気をワイヤ101の先端および上型10に向かって放出させる。これにより、ワイヤ101の先端の溶融した39Ni−9Cr−Fe合金が、微粒子化された状態で上型10に吹き付けられる。この結果、上型10の成形領域A中の滞留領域B以外の領域に対応する下面10a上に低温磁性材料層12が形成される。
【0049】
そして、成形領域A中の滞留領域Bに対応する下面10aに配置された図示しない遮蔽板を取り除いた後、成形領域A中の滞留領域B以外の領域に対応する下面10aに図示しない遮蔽板を配置する。その後、51Ni−11Cr−Fe合金からなるワイヤ101を所定の位置に配置した状態でフレーム溶射装置100を用いることによって、51Ni−11Cr−Fe合金が微粒子化された状態で上型10に吹き付けられる。この結果、上型10の成形領域A中の滞留領域Bに対応する下面10a上に高温磁性材料層11が形成される。最後に、図示しない遮蔽板を取り除く。
【0050】
また、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22の形成方法としては、まず、高温磁性材料層21が配置される領域(図1の滞留領域Bに対応する凸部20bのX方向の略中央の領域)に対応する上面20aに図示しない遮蔽板を配置する。その後、39Ni−9Cr−Fe合金からなるワイヤ101を所定の位置に配置した状態でフレーム溶射装置100を用いることによって、39Ni−9Cr−Fe合金が微粒子化された状態で下型20に吹き付けられる。この結果、下型20の成形領域A中の滞留領域B以外の領域に対応する上面20a上に低温磁性材料層22が形成される。
【0051】
そして、成形領域A中の滞留領域B以外の領域に対応する上面20aに配置された図示しない遮蔽板を取り除いた後、成形領域A中の滞留領域Bに対応する上面20aに図示しない遮蔽板を配置する。その後、51Ni−11Cr−Fe合金からなるワイヤ101を所定の位置に配置した状態でフレーム溶射装置100を用いることによって、51Ni−11Cr−Fe合金が微粒子化された状態で下型20に吹き付けられる。この結果、下型20の成形領域A中の滞留領域Bに対応する上面20a上に高温磁性材料層21が形成される。最後に、図示しない遮蔽板を取り除く。
【0052】
第1実施形態では、上記のように、上型10の成形領域A側である下面10aに、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12を形成するとともに、下型20の成形領域A側である上面20aに、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22を形成することによって、上型10と下型20との各々の内部に感温磁性材料(51Ni−11Cr−Fe合金および39Ni−9Cr−Fe合金)を配置するための溝部を形成する必要がないので、金型1の内部構造が複雑化するのを抑制することができる。
【0053】
また、第1実施形態では、上記のように、上型10の成形領域A側である下面10aに、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12を形成するとともに、下型20の成形領域A側である上面20aに、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22を形成することによって、上型10と下型20との各々の内部に感温磁性材料を配置する場合と異なり、上型10の下面10aおよび下型20の上面20aの温度をより正確に感温磁性材料のキュリー温度(約205℃および約145℃)付近に保つことができる。これにより、樹脂製品の成形温度をより正確に制御することができる。また、上型10および下型20がキュリー温度を有しない一般的な炭素鋼からなる場合であっても、成形温度をより正確に感温磁性材料のキュリー温度付近に制御することができる。
【0054】
また、第1実施形態では、上記のように、感温磁性材料である51Ni−11Cr−Fe合金からなる高温磁性材料層11および21と、感温磁性材料である39Ni−9Cr−Fe合金)からなる低温磁性材料層12および22を溶射によって形成することによって、容易に、感温磁性材料からなる感温磁性材料層12および22を、それぞれ、上型10の下面10a上および下型20の上面20a上に略均一な厚み(約1mm)を有して形成に配置することができる。また、溶射によって形成される分、感温磁性材料層12と上型10の下面10aとの密着性および感温磁性材料層22と下型20の上面20aとの密着性を、それぞれ、向上させることができる。
【0055】
また、第1実施形態では、上記のように、感温磁性材料が、51Ni−11Cr−Fe合金および39Ni−9Cr−Fe合金のようなCrを含むNi−Fe合金からなるように構成することによって、Crの含有率およびNiの含有率を変化させることによりキュリー温度が異なる種々の感温磁性材料を得ることができるので、金型1に流し込まれる樹脂に適した成形温度に成形領域Aの温度を制御することが可能な感温磁性材料を得ることができる。また、Crを含有させることによって、感温磁性材料の耐食性を向上させることができる。
【0056】
また、第1実施形態では、上記のように、高温磁性材料層11および21のNi−Cr−Fe合金と、低温磁性材料層12および22のNi−Cr−Fe合金とが、共に、約10.3×10−6/℃以上約12.7×10−6/℃以下の熱膨張係数を有するようにNiおよびCrの組成を調整することによって、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12と上型10とを同じ温度環境下において略同じ変形量だけ熱変形させることができるとともに、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22と下型20とを同じ温度環境下において略同じ変形量だけ熱変形させることができる。これにより、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12と上型10との熱変形による変形量が大きく異なることに起因して高温磁性材料層11および低温磁性材料層12と上型10とが剥がれるのを抑制することができるとともに、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22と下型20との熱変形による変形量が大きく異なることに起因して高温磁性材料層21および低温磁性材料層22と下型20とが剥がれるのを抑制することができる。
【0057】
また、第1実施形態では、上記のように、高温磁性材料層11および低温磁性材料層12からなる温度制御層を、上型10の成形領域A側の表面(下面10a)の略全面に形成するとともに、高温磁性材料層21および低温磁性材料層22からなる温度制御層を下型20の成形領域A側の表面(上面20a)の略全面に形成することによって、より正確に、高温磁性材料層11および21における成形温度を、感温磁性材料(51Ni−11Cr−Fe合金)のキュリー温度(約205℃)付近に制御することができるとともに、低温磁性材料層12および22における成形温度を、感温磁性材料(39Ni−9Cr−Fe合金)のキュリー温度(約145℃)付近に制御することができる。
【0058】
また、第1実施形態では、上記のように、温度制御層が、それぞれ、約205℃のキュリー温度を有する51Ni−11Cr−Fe合金からなる高温磁性材料層11および21と、約145℃のキュリー温度を有する39Ni−9Cr−Fe合金からなる低温磁性材料層12および22とからなるように構成することによって、成形領域A内を異なる温度の複数の領域(滞留領域Bおよび滞留領域B以外の成形領域A)に制御することができる。
【0059】
また、第1実施形態では、上記のように、射出口30および31から流れ込んだ樹脂が合流する領域であり溶融した樹脂が流れにくい成形領域A中の滞留領域Bに対応する下面10aおよび上面20aに、高温磁性材料層11および21を配置することによって、溶融した樹脂が流れにくい滞留領域Bの温度を成形領域A中の他の領域よりも高く維持することができる。これにより、溶融した樹脂が流れにくい滞留領域Bに溶融した樹脂が滞留したりするのを抑制することができるので、成形機能を高めることができる。
【0060】
また、第1実施形態では、上記のように、IHコイル40を、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22との加熱時に、高温磁性材料層11および21と低温磁性材料層12および22とに当接(接触)した状態で成形領域Aに配置することによって、容易に、上型10の下面10aおよび下型20の上面20aの温度を感温磁性材料のキュリー温度付近に保つことができる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、図3および図4を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態による金型201では、上記第1実施形態と異なり、射出口230が1箇所のみ設けられており、射出口230と反対側に終端領域Dが形成されている場合について説明する。なお、射出口230は、本発明の「開口部」の一例である。
【0062】
まず、図4を参照して、本発明の第2実施形態による金型201の構造について説明する。
【0063】
本発明の第2実施形態による金型201では、図4に示すように、一方側(X1側)の端部には射出口が設けられておらず、他方側(X2側)の端部に溶融した樹脂を成形領域Cに射出するための射出口230が設けられている。また、上型210の凹部10bのX1側の下面210aは、X2側の下面210aよりも下方に位置するように形成されている。また、下型220の凸部20bのX1側には、凸部220cと、凸部20bと凸部220cとに挟まれ、下方に窪む凹部220dとが形成されている。さらに、上型210のX1側の下面210aと凸部220cとは、互いに当接するように構成されている。
【0064】
また、上型210の下面210aには、X1側の凸部220cに当接する下面210aを除き、高温磁性材料層211および低温磁性材料層212が形成されている。高温磁性材料層211は、後述する成形領域C中の後述する終端領域Dに対応する凹部10bのX1側の領域に配置されているとともに、低温磁性材料層212は、成形領域Cのうちの終端領域D以外の領域に配置されている。すなわち、高温磁性材料層211および低温磁性材料層212からなる温度制御層は、成形領域Cに対応する領域の略全面に形成されている。
【0065】
また、下型220の上面220aには、X1側の凸部220cの上端面を除き、高温磁性材料層221および低温磁性材料層222が形成されている。高温磁性材料層221は、成形領域C中の終端領域Dに対応する凹部220dの領域に配置されているとともに、低温磁性材料層212は、成形領域Cのうちの終端領域D以外の領域に配置されている。すなわち、高温磁性材料層221および低温磁性材料層222からなる温度制御層は、成形領域Cに対応する領域の略全面に形成されている。
【0066】
また、凹部10bのX2側に対応する高温磁性材料層211の下面211aと凸部20bのX2側に対応する高温磁性材料層221の上面221aとは、所定の間隔を隔てて互いに対向するように形成されている。また、凹部10bの中央部近傍に対応する低温磁性材料層212の下面212aと凸部20bの中央部近傍に対応する低温磁性材料層222の上面222aとは、所定の間隔を隔てて互いに対向するように形成されている。また、凹部10bのX1側に対応する低温磁性材料層212の下面212aと凹部220dに対応する低温磁性材料層222の上面222aとは、所定の間隔を隔てて互いに対向するように形成されている。これら所定の間隔によって、溶融した樹脂が流し込まれる成形領域Cが構成されている。
【0067】
ここで、第2実施形態では、成形領域Cは、射出口230と接続される部分以外の領域において、閉じた領域になるように構成されている。さらに、凹部10bのX2側に対応する高温磁性材料層211の下面211aと凸部20bのX2側に対応する高温磁性材料層221の下面221aとが位置する部分は、射出口230と反対側に配置されており、閉じた領域の終端領域Dに位置するように構成されている。なお、終端領域Dの周辺の領域は、溶融した樹脂が流れにくい領域に該当する。なお、第2実施形態のその他の構成および金型201を用いて樹脂製品を成形する方法は、上記第1実施形態と同様である。
【0068】
次に、図3および図4を参照して、本発明の第2実施形態による高温磁性材料層211および低温磁性材料層212と、高温磁性材料層221および低温磁性材料層222との各々の形成方法について説明する。
【0069】
高温磁性材料層211および低温磁性材料層212の形成方法としては、まず、高温磁性材料層211が配置される領域(図4の終端領域Dに対応する凹部10bのX1側の領域)に対応する下面210aとX1側の凸部220cに当接する下面210aとに図示しない遮蔽板を配置する。その後、39Ni−9Cr−Fe合金からなるワイヤ101(図3参照)を所定の位置に配置した状態でフレーム溶射装置100(図3参照)を用いることによって、39Ni−9Cr−Fe合金が微粒子化された状態で上型210に吹き付けられる。この結果、上型210の成形領域C中の終端領域D以外の領域に対応する下面210a上に低温磁性材料層212が形成される。
【0070】
そして、成形領域C中の終端領域Dに対応する下面210aに配置された図示しない遮蔽板を取り除いた後、成形領域C中の終端領域D以外の領域に対応する下面210aに図示しない遮蔽板を配置する。その後、51Ni−11Cr−Fe合金からなるワイヤ101(図3参照)を所定の位置に配置した状態でフレーム溶射装置100を用いることによって、51Ni−11Cr−Fe合金が微粒子化された状態で上型210に吹き付けられる。この結果、上型210の成形領域C中の終端領域Dに対応する下面210a上に高温磁性材料層211が形成される。最後に、図示しない遮蔽板を取り除く。
【0071】
また、高温磁性材料層221および低温磁性材料層222の形成方法としては、まず、高温磁性材料層221が配置される領域(図4の終端領域Dに対応する凹部220dの領域)に対応する上面220aと凸部220cの上端面とに図示しない遮蔽板を配置する。その後、39Ni−9Cr−Fe合金からなるワイヤ101を所定の位置に配置した状態でフレーム溶射装置100を用いることによって、39Ni−9Cr−Fe合金が微粒子化された状態で下型220に吹き付けられる。この結果、下型220の成形領域C中の終端領域D以外の領域に対応する上面220a上に低温磁性材料層222が形成される。
【0072】
そして、成形領域C中の終端領域Dに対応する上面220aに配置された図示しない遮蔽板を取り除いた後成形領域C中の終端領域D以外の領域に対応する上面220aに図示しない遮蔽板を配置する。その後、51Ni−11Cr−Fe合金からなるワイヤ101を所定の位置に配置した状態でフレーム溶射装置100を用いることによって、51Ni−11Cr−Fe合金が微粒子化された状態で下型220に吹き付けられる。この結果、下型220の成形領域C中の終端領域Dに対応する上面220a上に高温磁性材料層221が形成される。最後に、図示しない遮蔽板を取り除く。
【0073】
第2実施形態では、上記のように、高温磁性材料層211を終端領域Dに対応する凹部10bのX1側の領域に配置するとともに、高温磁性材料層221を終端領域Dに対応する凹部220dの領域に配置することによって、高温磁性材料層211および221によって、終端領域Dのような原料が流れにくい領域の温度を成形領域C中の他の領域よりも高く維持することができるので、溶融した樹脂が流れにくい終端領域Dに溶融した樹脂が滞留したりするのを抑制することができる。これにより、成形機能を高めることができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0074】
(第3実施形態)
次に、図5を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。この第3実施形態による金型301では、上記第1実施形態と異なり、上型310および下型320が感温磁性材料からなる場合について説明する。
【0075】
まず、図5を参照して、本発明の第3実施形態による金型301の構造について説明する。
【0076】
本発明の第3実施形態による金型301では、図5に示すように、上型310および下型320は、共に、キュリー温度が約145℃である39Ni−9Cr−Fe合金からなる。これにより、上型310および下型320には、温度制御層が別途形成されていない。なお、上型310および下型320は、30質量%以上55質量%以下のNiと、3質量%以上15質量%以下のCrと、不可避不純物およびFeとからなる、Crを含むNi−Fe合金であってもよい。また、上型310および下型320は、30質量%以上50質量%以下のNiと不可避不純物およびFeとからなるNi−Fe合金であればよい。また、上型310の下面310aと下型320の上面320aとは、所定の間隔を隔てて互いに対向しており、この所定の間隔は成形領域Aに対応するように構成されている。
【0077】
また、上型310および下型320は、共に、深絞り加工されることによって、所定の形状の下面310aおよび上面320aを有するように形成されるように構成されている。なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0078】
次に、図5を参照して、本発明の第3実施形態による金型301を用いて樹脂製品を成形する方法について説明する。
【0079】
まず、金型301の周囲に図示しないIHコイルを上型310および下型320と当接(接触)するように配置する。そして、IHコイルに交流電流を流すことによって、金型301の全体が加熱される。
【0080】
ここで、第3実施形態では、金型301の全体が約145℃まで熱せられた際、上型310および下型320の39Ni−9Cr−Fe合金は、キュリー温度(約145℃)以上には加熱されないので、金型301の全体の温度は約145℃近傍に保たれる。
【0081】
その後、溶融した樹脂を射出口30および31から成形領域Aに流し込む。そして、所定の量の溶融した樹脂を成形領域Aに流し込んだ後に、金型301を冷却して樹脂を硬化させる。その後、上型310と下型320との間隔を広げて、硬化された樹脂を取り出すことによって、成形領域Aに対応する形状に成形された樹脂製品が完成する。
【0082】
第3実施形態では、上記のように、上型310および下型320を、共に、キュリー温度が約145℃である39Ni−9Cr−Fe合金からなるように構成することによって、上型310および下型320に感温磁性材層を別途形成する必要がないので、金型301の製造プロセスを簡略化することができる。なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0083】
[実施例]
次に、図6〜図9を参照して、上記第1〜第3実施形態による金型1(201、301)に用いられる感温磁性材料の効果を確認するために行ったキュリー温度測定と、熱膨張係数測定と、引張り強さ測定および伸び測定と、耐食性測定とについて説明する。
【0084】
以下に説明するキュリー温度測定では、上記第1および第2実施形態の金型1(201)に用いられる高温磁性材料層11および21(211および221)と低温磁性材料層12および22(212および222)の感温磁性材料と、上記第3実施形態の金型301に用いられる上型310および下型320の感温磁性材料とに対応する実施例1〜4として、Ni−Cr−Fe合金からなる感温磁性材料を用いるとともに、実施例5および6として、Crを含まないNi−Fe合金からなる感温磁性材料を用いた。
【0085】
具体的には、実施例1として、51Ni−11Cr−Fe合金(51質量%のNiと、11質量%のCrと、不可避不純物およびFeとからなる合金)を感温磁性材料として用いた。また、実施例2として、39Ni−9Cr−Fe合金(39質量%のNiと、9質量%のCrと、不可避不純物およびFeとからなる合金)を感温磁性材料として用いた。また、実施例3として、52Ni−11Cr−Fe合金(52質量%のNiと、11質量%のCrと、不可避不純物およびFeとからなる合金)を感温磁性材料として用いた。また、実施例4として、51Ni−10Cr−Fe合金(51質量%のNiと、10質量%のCrと、不可避不純物およびFeとからなる合金)を感温磁性材料として用いた。
【0086】
また、実施例5として、36Ni−Fe合金(36質量%のNiと、不可避不純物およびFeとからなる合金)を感温磁性材料として用いた。また、実施例6として、50Ni−Fe合金(50質量%のNiと、不可避不純物およびFeとからなる合金)を感温磁性材料として用いた。
【0087】
(キュリー温度測定)
まず、キュリー温度測定について説明する。このキュリー温度測定では、図6に示すように、実施例1〜6の感温磁性材料の板材401を、それぞれ、6mmの内径と、10mmの外径を有する円環状になるように成形した。そして、円筒状のサンプルホルダ402の凹状の溝部402aの内部に、感温磁性材料の板材401を複数枚積層した。この際、感温磁性材料の板材401の合計の板厚が2mmになるように積層した。そして、感温磁性材料の板材401が配置されたサンプルホルダ402に、リード線403および404をそれぞれ20回巻きつけた。なお、リード線403および404を、円筒状のサンプルホルダ402の内周面、下面、外周面および上面を順に通過するようにサンプルホルダ402に20回巻きつけた。これにより、実施例1〜6の各々に対応する6つの試験材400を作製した。
【0088】
その後、リード線403を図示しない交流電流発生装置に接続するとともに、リード線404を振幅透磁率を測定可能な図示しないBHアナライザに接続した。そして、試験材400を図示しない炉の中に設置して、リード線403に一定周波数の交流電流を流すことによって試験材400に交流磁場を加えた。この際、交流磁場に反応してリード線404に生じた電流を計測することによって、BHアナライザにおいて振幅透磁率を算出した。
【0089】
また、リード線403に一定周波数の交流電流を流すのと共に、試験材400を設置した炉の温度を調整することによって、所定の温度に対する振幅透磁率を算出した。それにより、6つの試験材400のそれぞれについて、図7のような温度に対する振幅透磁率のグラフを作成した。そして、振幅透磁率が急激に小さくなる際の温度を実施例1〜6の感温磁性材料のキュリー温度として求めた。
【0090】
図8に示したキュリー温度測定の実験結果としては、実施例1である51Ni−11Cr−Fe合金のキュリー温度は205℃になった。また、実施例2である39Ni−9Cr−Fe合金のキュリー温度は145℃になった。また、実施例3である52Ni−11Cr−Fe合金のキュリー温度および実施例4である51Ni−10Cr−Fe合金のキュリー温度は共に210℃になった。また、実施例5である36Ni−Fe合金のキュリー温度は215℃になった。また、実施例6である50Ni−Fe合金のキュリー温度は測定できなかったが、450℃程度であると推測される。
【0091】
これにより、実施例1〜4の結果から、Crを含むNi−Fe合金においては、Niの含有量を39質量%以上52%質量以下にすることによって、キュリー温度を145℃以上210℃以下にすることができることが判明した。また、Niの含有量を大きくすることによって、キュリー温度を高くすることが可能であることが判明した。なお、Crを含むNi−Fe合金においてNiの含有量を30質量%以上55質量%以下にすることによって、キュリー温度を100℃以上450℃以下にすることができると考えられる。さらに、実施例1および4の結果から、Crの含有量を小さくすることによって、キュリー温度を高くすることが可能であることが判明した。これにより、Crの含有量を15質量%以下にすることによって、キュリー温度を100℃以上にすることが可能であると推測される。
【0092】
また、実施例5の結果から、Ni−Fe合金においては、Niの含有量を36質量%以上にすることによって、キュリー温度を215℃以上にすることができることが判明した。また、実施例6から、Niの含有量を50質量%以下にすることによって、キュリー温度を450℃以下にすることができると推測される。なお、Ni−Fe合金においてNiの含有量を30質量%以上50質量%以下にすることによって、キュリー温度を100℃以上450℃以下にすることができると考えられる。
【0093】
以下に説明する熱膨張係数測定と、引張り強さ測定および伸び測定と、耐食性測定とでは、上記したキュリー温度測定において用いた実施例1および5を感温磁性材料として用いた。
【0094】
(熱膨張係数測定)
次に、熱膨張係数測定について説明する。この熱膨張係数測定では、公知の熱機械分析装置を用いて、実施例1〜6に対応する感温磁性材料の熱膨張係数を求めた。
【0095】
図8に示した熱膨張係数測定の実験結果としては、実施例1である51Ni−11Cr−Fe合金の熱膨張係数は、11×10−6/℃になった。また、実施例2である39Ni−9Cr−Fe合金の熱膨張係数は、9×10−6/℃になった。また、実施例3である52Ni−11Cr−Fe合金の熱膨張係数は、11×10−6/℃になった。また、実施例4である51Ni−10Cr−Fe合金の熱膨張係数は、11×10−6/℃になった。また、実施例5である36Ni−Fe合金の熱膨張係数は、2×10−6/℃になった。また、実施例6である50Ni−Fe合金の熱膨張係数は、10×10−6/℃になった。これにより、実施例1、3および4の感温磁性材料の熱膨張係数は、金型の一般的な材質である炭素鋼の熱膨張係数(約11×10−6/℃以上約12×10−6/℃以下)の近傍の値(10.3×10−6/℃以上12.7×10−6/℃以下)になることが判明した。この結果、Crを含むNi−Fe合金においてNiおよびCrの組成を調整することによって、一般的な炭素鋼の熱膨張係数の値の近傍の10.3×10−6/℃以上12.7×10−6/℃以下の値の熱膨張係数を有するCrを含むNi−Fe合金を形成することが可能であることが確認できた。また、実施例5の感温磁性材料(36Ni−Fe合金)の熱膨張係数の値(2×10−6/℃)は、実施例6の感温磁性材料(50Ni−Fe合金)の熱膨張係数の値(10×10−6/℃)の1/5になった。これにより、Crを含まないNi−Fe合金においてNiの含有量を40質量%以下にすると、Niの含有量が50質量%程度である場合と比べて、熱膨張係数が大幅に低下するとともに、炭素鋼の熱膨張係数(約11×10−6/℃以上約12×10−6/℃以下)の値から大幅にかけ離れた値になることが判明した。
【0096】
(引張り強さおよび伸び測定)
次に、引張り強さおよび伸び測定について説明する。この引張り強さおよび伸び測定では、公知の引張試験機を用いて、実施例1および3〜6に対応する、感温磁性材料が破断した際の荷重に基づく引張り強さと、破断した際の伸び(測定前の感温磁性材料の長さに対する破断後の感温磁性材料の伸びた長さの割合)とを求めた。
【0097】
図8に示した引張り強さおよび伸び測定の実験結果としては、実施例1である51Ni−11Cr−Fe合金、実施例3である52Ni−11Cr−Fe合金および実施例4である51Ni−10Cr−Fe合金のいずれにおいても、引張り強さは、520MPaになり、伸びは40%になった。また、実施例5である36Ni−Fe合金の引張り強さは、440MPaになり、伸びは35%になった。また、実施例6である50Ni−Fe合金の引張り強さは、550MPaになり、伸びは38%になった。この結果、実施例1〜6のいずれの感温磁性材料も十分な加工性を有していることが確認できた。これにより、第3実施形態の上型310および下型320(図5参照)を実施例1〜6の感温磁性材料を用いて容易に形成することが可能であることが判明した。また、炭素鋼などの別部材からなる上型および下型に対して、実施例1〜6の感温磁性材料をプレス加工することにより感温磁性材層を形成する場合においても、容易に、上型および下型に対してプレス加工を行うことが可能であることが判明した。
【0098】
(耐食性測定)
次に、耐食性測定について説明する。この耐食性測定では、JIS Z 2371に基づく塩水噴霧試験を行った。具体的には、実施例1の51Ni−11Cr−Fe合金の板材と実施例5の36Ni−Fe合金の板材との各々から、60mm(横)×80mm(縦)×2mm(厚み)の寸法の試験片を作成した。そして、35℃の条件下で、50g/lの濃度の塩水を試験片に2時間噴霧した。そして、試験片に生じた腐食の状態をJISレイティングナンバに基づいて、腐食の度合を定めた。
【0099】
図9に示した耐食性測定の実験結果としては、実施例1である51Ni−11Cr−Fe合金のJISレイティングナンバは10(腐食面積率は0.00%)になった。また、実施例5である36Ni−Fe合金のJISレイティングナンバは5(腐食面積率は1.0%〜2.5%)になった。これにより、Crを含むNi−Fe合金においては、Crを含まないNi−Fe合金よりも腐食が生じにくく、金型に用いるのに適していることが判明した。これは、Crが表面に耐食性を有する酸化皮膜(Cr)を形成するからであると考えられる。なお、Crの含有量を3質量%以上にすることによって、耐食性を有する感温磁性材料が得られると推測される。
【0100】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0101】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、金型1(201、301)の成形領域A(C)に流し込む原料として溶融した樹脂(熱可塑性樹脂)を用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、原料として樹脂ではなくMgなどの金属を用いてもよいし、原料として熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0102】
また、上記第1および第2実施形態では、上型10(210)の下面10a(210a)の略全面に高温磁性材料層11(211)および低温磁性材料層12(212)を形成するとともに、下型20(220)の上面20a(220a)の略全面に高温磁性材料層21(221)および低温磁性材料層22(222)を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、上型の下面に感温磁性材料層にのみ形成して、下型の上面には感温磁性材料層を形成しないように構成してもよい。また、感温磁性材料層を略全面に設けずに、上型の下面の一部および下型の上面の一部にのみ感温磁性材料層を形成してもよい。
【0103】
また、上記第1および第2実施形態では、高温磁性材料層11(211)および低温磁性材料層12(212)と高温磁性材料層21(221)および低温磁性材料層22(222)とを溶射によって形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上型の下面および下型の上面に接着やネジ止めなどの溶射以外の方法によって板状の感温磁性材料を配置することによって、感温磁性材料層を上型の下面および下型の上面に形成してもよい。
【0104】
また、上記第1および第2実施形態では、高温磁性材料層11および21(211および221)が51Ni−11Cr−Fe合金からなり、低温磁性材料層12および22(212および222)が39Ni−9Cr−Fe合金からなる例を示すとともに、上記第3実施形態では、上型310および下型320が39Ni−9Cr−Fe合金からなる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、高温磁性材料層および低温磁性材料層は、Crを含むNi−Fe合金およびNi−Fe合金以外のキュリー温度を有する感温磁性材料を含むように構成してもよい。この際、キュリー温度は100℃以上450℃以下が好ましい。
【0105】
また、上記第1および第2実施形態では、高温磁性材料層11および21(211および221)の51Ni−11Cr−Fe合金と、低温磁性材料層12および22(212および222)の39Ni−9Cr−Fe合金とが、共に、一般的な炭素鋼からなる上型10(210)および下型20(220)の熱膨張係数(約11×10−6/℃以上約12×10−6/℃以下)の値の近傍の値である約10.3×10−6/℃以上約12.7×10−6/℃以下の熱膨張係数を有するようにNiおよびCrの組成を調整した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、高温磁性材料層および低温磁性材料層が、約10.3×10−6/℃未満の値または約12.7×10−6/℃より大きい値の熱膨張係数を有していてもよい。
【0106】
また、上記第1および第2実施形態では、感温磁性材料層が、51Ni−11Cr−Fe合金からなる高温磁性材料層11および21(211および221)と、39Ni−9Cr−Fe合金からなる低温磁性材料層12および22(212および222)とからなる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、感温磁性材料層を、1つの感温磁性材料からなるように構成してもよいし、3つ以上の感温磁性材料からなるように構成してもよい。
【0107】
また、上記第1実施形態では、高温磁性材料層11(21)を滞留領域Bに対応する凹部10b(凸部20b)のX方向の略中央の領域に配置するとともに、上記第2実施形態では、高温磁性材料層211(221)を終端領域Dに対応する凹部10bのX1側の領域(凹部220dの領域)に配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、高温磁性材料層を、溶融した樹脂が流れにくい領域である滞留領域および終端領域以外の領域に形成してもよい。
【0108】
また、上記第3実施形態では、上型310および下型320が39Ni−9Cr−Fe合金からなる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上型および下型のいずれか一方が感温磁性材料からなる一方、他方が感温磁性材料でない材料からなるように構成してもよい。
【0109】
また、上記第1および第2実施形態では、高温磁性材料層11(211)および低温磁性材料層12(212)と高温磁性材料層21(221)および低温磁性材料層22(222)との表面上に何も形成していない例を示すとともに、上記第3実施形態では、感温磁性材料からなる上型310および下型320の表面上に何も形成していない例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、感温磁性材料層および感温磁性材料からなる上型および下型の表面上に、樹脂などの原料の付着を抑制するためのコーティングを行ってもよい。たとえば、原料が樹脂の場合、感温磁性材料層および感温磁性材料からなる上型および下型の表面上に、炭化水素などからなるアモルファスの硬質膜によるコーティング(DLCコーティング)をしてもよいし、Crめっきによるコーティングをしてもよい。
【0110】
また、上記第1および第2実施形態では、低温磁性材料層12および22(212および222)を高温磁性材料層11および21(211および221)よりも先に形成する方法を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、高温磁性材料層を低温磁性材料層よりも先に形成してもよいし、高温磁性材料層と低温磁性材料層とを同時に形成してもよい。
【0111】
また、上記第1〜第3実施形態では、金型1(201、301)が上型10(210、310)および下型20(220、320)からなる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、金型は、上型および下型に加えてその他の型部材を別途含んでいてもよい。
【0112】
また、上記第1および第2実施形態では、IHコイル40を、高温磁性材料層11(211)および21(221)と低温磁性材料層12(212)および22(222)とに当接(接触)した状態で成形領域A(C)に配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、IHコイルと高温磁性材料層および低温磁性材料層とが互いに近傍の位置に配置されていれば、互いに当接するように配置されなくてもよい。
【0113】
また、上記第3実施形態では、図示しないIHコイルを、金型301の周囲に上型310および下型320と当接(接触)するように配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、IHコイルと上型および下型とが互いに近傍の位置に配置されていれば、互いに当接するように配置されなくてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1、201、301 金型
10、210 上型(第1型部)
10a、210a、310a 下面(表面)
11、21、211、221 高温磁性材料層(第2温度制御部、温度制御部、温度制御層)
12、22、212、222 低温磁性材料層(第1温度制御部、温度制御部、温度制御層)
20、220 下型(第2型部)
20a、220a、320a 上面(表面)
30 射出口(第1開口部)
31 射出口(第2開口部)
40 IHコイル(誘導加熱コイル)
230 射出口(開口部)
310 上型(第1型部、温度制御部)
320 下型(第2型部、温度制御部)
A、C 成形領域
D 終端領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1型部と、
前記第1型部と対向するように配置される第2型部とを備え、
前記第1型部および前記第2型部の少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に、キュリー温度を有する感温磁性材料を含む温度制御部が配置されている、金型。
【請求項2】
前記第1型部および前記第2型部は、キュリー温度を有しない金属材料からなり、
前記温度制御部は、前記第1型部および前記第2型部の少なくとも一方の前記成形領域側の表面の少なくとも一部に形成された前記感温磁性材料を含む温度制御層である、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記感温磁性材料を含む前記温度制御層は、溶射によって形成されている、請求項2に記載の金型。
【請求項4】
前記感温磁性材料は、Ni−Fe合金からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金型。
【請求項5】
前記感温磁性材料は、Crを含むNi−Fe合金からなる、請求項4に記載の金型。
【請求項6】
前記第1型部および前記第2型部は、キュリー温度を有しない金属材料からなり、
前記Crを含むNi−Fe合金からなる感温磁性材料は、前記感温磁性材料の熱膨張係数の値が前記温度制御部が配置されている前記第1型部および前記第2型部の熱膨張係数の値の近傍になるように組成が調整されている、請求項5に記載の金型。
【請求項7】
前記第1型部の前記成形領域側の表面および前記第2型部の前記成形領域側の表面のうち、前記成形領域に対応する領域に前記温度制御部が配置されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金型。
【請求項8】
前記感温磁性材料は、第1キュリー温度を有する第1感温磁性材料と、前記第1キュリー温度よりも大きい第2キュリー温度を有する第2感温磁性材料とを含み、
前記温度制御部は、前記第1感温磁性材料を含む第1温度制御部と、前記第2感温磁性材料を含み、前記第1温度制御部と異なる領域に配置された第2温度制御部とを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金型。
【請求項9】
前記成形領域には、原料が流し込まれるように構成されており、
前記第2温度制御部は、前記原料が流れにくい領域に配置されている、請求項8に記載の金型。
【請求項10】
前記原料を前記成形領域に流し込むための第1開口部および第2開口部が形成されており、
前記第2温度制御部は、前記第1開口部から流し込まれる前記原料と前記第2開口部から流し込まれる前記原料とが合流する領域に配置されている、請求項9に記載の金型。
【請求項11】
前記原料を前記成形領域に流し込むための開口部が形成されており、
前記成形領域の前記開口部と接続される部分以外の領域は、閉じた領域になるように構成されており、
前記第2温度制御部は、前記開口部と接続される部分とは反対側の前記閉じた領域の終端領域に配置されている、請求項9に記載の金型。
【請求項12】
前記第1型部および前記第2型部の少なくともいずれか一方は、前記感温磁性材料からなる、請求項1に記載の金型。
【請求項13】
前記温度制御部を構成する前記感温磁性材料の加熱時に前記成形領域の前記温度制御部近傍に配置され、誘導加熱により前記温度制御部を加熱する誘導加熱コイルをさらに備える、請求項1〜12のいずれか1項に記載の金型。
【請求項14】
第1型部と前記第1型部と対向するように配置される第2型部とを備える金型に用いられ、キュリー温度を有する金型用感温磁性材料であって、
前記第1型部と前記第2型部との少なくとも一方の成形領域側の表面の少なくとも一部に配置される、金型用感温磁性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−230445(P2011−230445A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104740(P2010−104740)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(304051908)株式会社NEOMAXマテリアル (50)
【Fターム(参考)】