説明

金型の冷却装置および金型の冷却方法

【課題】 金型の操業中であっても十分に腐食を防止することが可能であって、且つ安価で冷却効率を高めることができる金型の冷却装置および冷却方法を提供すること。
【解決手段】 金型10の冷却孔14内に挿入される冷却水管231に設けられるコイル部材233を外部電源方式による電気防食用の陽極として利用することにより、金型10の操業中に腐食を防止することができる。また、電気防食により金型操業中の応力腐食割れを防止することができるため、冷却孔14の底部とキャビティ面CSとの間の距離を狭めることができる。そのため内部冷却効率を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の冷却装置および金型の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型成形品は、金型のキャビティ内に溶融物質(溶融金属や溶融樹脂)を導入した後に溶融物質をキャビティ内で冷却固化することにより成形される。キャビティ内での溶融物質の冷却固化速度を高めて成形サイクルを短縮させるために、金型を効率的に冷却することができる冷却装置あるいは冷却方法が提案されている。
【0003】
特許文献1は、金型に形成された冷却水流通用の有底の冷却孔に挿入される冷却水管の構造を開示する。この冷却水管(内パイプ)の先端は冷却水を放出することができるように開口しており、開口した先端側から冷却水管が冷却孔に挿入される。また、この冷却水管の外周には螺旋状に形成された誘導部材が設けられている。冷却孔に挿入された冷却水管の先端から放出された冷却水は、冷却水管の外周壁と冷却孔の側壁との間を通って冷却孔内をその底部側から開口側に流れ、開口側から外部に排出される。冷却水管の外周壁と冷却孔の側壁との間を流れる冷却水は、冷却水管の外周に設けられた螺旋状の誘導部材に沿って螺旋状に流れる。冷却水が螺旋状に流れることにより、冷却水の冷却孔内における滞留時間が増加する。滞留時間の増加によって、冷却水が金型から奪う熱量が増加する。このため、金型の内部冷却効率が向上する。
【0004】
ところで、冷却水で冷却された金型に高温の溶融物質を導入するときに金型に熱応力が作用する。熱応力の作用時に金型に形成されている冷却孔の壁面が腐食している場合、金型の応力腐食割れが懸念される。したがって、冷却孔の壁面の腐食を防止しつつ金型を冷却する方法も提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2は、防錆剤を添加するとともにpH9以上のアルカリ性に調整された冷却水を金型の冷却孔に流通させることにより金型を内部冷却する冷却方法を開示する。この方法によれば、冷却孔内に防錆剤が含まれたアルカリ性の冷却水が流れるので、冷却孔の壁面に不動態被膜が形成される。不動態被膜によって冷却孔の壁面の腐食が防止される(陽極防食法)。
【0006】
また、特許文献3は、金型の保管時に電気防食により金型の冷却水路を防錆する金型の保管方法を開示する。この方法によれば、金型の保管時に金型内に形成された冷却水路が水供給装置に接続される。水供給装置の水タンクから水を金型の冷却水路に供給することにより、冷却水路が水で満たされる。冷却水路が水で満たされているときに、水供給装置の水タンク中に陽極電極を投入するとともに、金型と陽極電極との間に電位差を生じさせる。これにより、陽極電極から防食電流が金型に流れ、腐食の発生が防止される(外部電源方式による陰極防食法)。腐食の発生が防止されることにより、錆の発生も防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−144457号公報
【特許文献2】特開2007−216252号公報
【特許文献3】特開2004−353009号公報
【発明の概要】
【0008】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1記載の冷却方法によれば、金型の冷却孔の壁面が防食されていないため、冷却孔の壁面が腐食することに起因した応力腐食割れが懸念される。また、応力腐食割れが起きない程度の強度を金型に持たせるために、冷却孔の底部とキャビティ面(金型表面)との間の距離を長め(例えば15mm程度以上)に設定しなければならない。しかし、上記距離が長いほど、キャビティから冷却孔に伝わる熱量が小さく、このため冷却孔を流れる冷却水に奪われる熱量も少ない。よって、金型の内部冷却効率が低下する。
【0009】
特許文献2記載の陽極防食法によれば、冷却水に防錆剤が混入され、且つ冷却水のpHがアルカリ性に調整されているので、冷却孔の壁面の腐食が防止される。したがって、応力腐食割れを起こす可能性が低く、それ故、冷却孔の底部とキャビティ面との間の距離を短縮することができ、内部冷却効率を高めることができる。しかしながら、このような防食方法を実際に行う場合、アルカリ性の冷却水を循環させるための専用の循環回路を形成しなければならない。また、専用の循環回路に専用の熱交換装置やポンプを設置しなければならない。よって、設備投資費用が増加するとともに、これらの設置スペースの増加によるスペース当たりの生産性の低下を招く。さらに、冷却水の蒸発や排水により不足した防錆剤を補う必要があるので、ランニングコストが高い。また、冷却水の水質(溶存酸素濃度等)によって防食効果が変化するので、定期的な水質チェックが必要であり、手間がかかる。
【0010】
特許文献3記載の外部電源方式による陰極防食法によれば、金型の冷却水路に外部接続した水供給装置の水タンク中に陽極電極が設けられている。したがって、陽極電極からの防食電流は、金型の冷却水路の壁面のうち陽極電極に近い部分、すなわち水供給装置の水タンクに接続されている部分に近い部分のみに流れる。このため冷却水路の壁面の全体に均一に防食電流を流すことができず、その結果、陽極電極から遠い部分で腐食が生じる可能性が高い。また、金型の応力腐食割れは金型の操業中に生じる場合が多いので、特許文献3のように金型の保管中に電気防食を行っても、金型の操業中に腐食が生じた場合に応力腐食割れを防ぐことができない。
【0011】
このように、従来の技術においては、金型の操業中に十分に応力腐食割れを防止し、且つ、安価に構成され、冷却効率の高い冷却装置および冷却方法は提案されていない。本発明は、金型の操業中であっても十分に腐食を防止することが可能であって、且つ安価で冷却効率を高めることができる金型の冷却装置および冷却方法を提供することを目的とする。
【0012】
(課題を解決するための手段)
本発明は、筒状に形成されるとともに先端が開口し、金型に形成された有底冷却孔に前記先端側から挿入され、前記先端から冷却水を前記有底冷却孔内に放出する冷却水管と、前記冷却水管の外周壁から突出して設けられた突出部と、を備える金型の冷却装置であって、前記冷却水管の前記先端から冷却水が前記有底冷却孔内に放出されているときに、前記突出部から前記有底冷却孔の壁面に防食電流が流れるように構成されている、金型の冷却装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、筒状に形成され、先端が開口するとともに、その外周壁から突出する突出部が設けられている冷却水管を、金型に形成された有底冷却孔に前記先端から挿入し、その状態で前記先端から冷却水を前記有底冷却孔内に放出する冷却水放出工程と、前記冷却水放出工程にて前記冷却水管の前記先端から冷却水が前記有底冷却孔内に放出されているときに、前記突出部から前記有底冷却孔の壁面に防食電流を流すことにより前記金型を電気防食する電気防食工程と、を含む、金型の冷却方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、冷却水管が金型の有底冷却孔に挿入された状態で、冷却水管の先端から冷却水が放出された場合、冷却水は冷却水管の外周壁と有底冷却孔の側壁との間を通って有底冷却孔の底部側から開口部側へと流れる。このとき冷却水管の外周壁から突出するように冷却水管に設けられた突出部によって、有底冷却孔の底部側から開口部側に向かう冷却水の直線的な流れが阻害される。このため冷却水の滞留時間が増加する。つまり、突出部は、冷却水管の先端から有底冷却孔内に放出された冷却水が冷却水管の外周壁と有底冷却孔の側壁との間を通って有底冷却孔の底部側から開口側に排出されるまでの滞留時間を増加させる機能を有する。冷却水の滞留時間が増加することにより、冷却水が金型から奪う熱量が増加する。このため効率的に金型を内部冷却することができる。
【0015】
また、冷却水管から冷却水が有底冷却孔内に放出されて金型が内部冷却されているときに、有底冷却孔に挿入された冷却水管の外周壁に設けられた突出部から有底冷却孔の壁面に、有底冷却孔内を流れる冷却水を介して防食電流が流れる。この防食電流によって、有底冷却孔の壁面の全体がほぼ均一に防食される。よって、有底冷却孔の壁面の腐食を抑え、ひいては応力腐食割れを効果的に防止することができる。
【0016】
さらに、電気防食によって応力腐食割れが効果的に防止される結果、有底冷却孔の底部とキャビティ面との間の距離を例えば5mm程度に短縮することができる。これにより、有底冷却孔内を流れる冷却水が金型から奪う熱量が増加する。よって、金型の内部冷却効率がさらに一層向上する。
【0017】
このように、本発明によれば、金型の有底冷却孔内に挿入される冷却水管に設けられる突出部を電気防食用の陽極として利用することにより、金型の操業中に電気防食することが可能である。また、突出部から有底冷却孔の壁面に防食電流が流れるので有底冷却孔の壁面を均一に電気防食することが可能である。そして、電気防食により金型操業中の応力腐食割れを防止できるため、有底冷却孔の底部とキャビティ面との間の距離を狭めて内部冷却効率を高めることができる。内部冷却効率が高められる結果、成形サイクルの短縮化を図ることができる。また、金型のキャビティ面に直接離型剤を塗布することにより金型を冷却する外部冷却を廃止、あるいは外部冷却時間を短縮することができる。ここで、金型を外部冷却すると、キャビティ面に作用する熱衝撃により金型寿命が低下する。したがって、本発明のように金型の内部冷却効率を向上させて外部冷却を廃止あるいは外部冷却時間を短縮することで、金型の寿命を延ばすことができる。また、冷却水に防錆剤を混入させたり冷却水をアルカリ性に調整したりすることなく防食することができるので、専用の冷却水循環回路等を設置する必要がなく、他の冷却水の循環回路を利用することができる。よって、安価でコンパクトな冷却装置を提供できる。
【0018】
前記突出部は、有底冷却孔内の冷却水が冷却水管の外周壁と有底冷却孔の側壁との隙間を通って有底冷却孔の底部側から開口部側に流れることを許容し、且つ冷却水が上記隙間を直線的に流れることを阻害するように、冷却水管の外周壁から突出して形成されるとよい。特に、前記突出部は、有底冷却孔の形成軸方向に垂直な断面内における冷却水管の外周壁と有底冷却孔の側壁との間の空間が突出部により全て塞がれることがなく、且つ冷却水が有底冷却孔の底部側から開口部側に直線的に流れることを阻害するように、冷却水管の外周壁に設けられているとよい。
【0019】
前記突出部は電極となり得る材質により形成されるとよい。この場合、本発明の金型の冷却装置は、前記金型に電気的に接続された陰極と、前記突出部に電気的に接続された陽極とを有し、前記冷却水管の前記先端から冷却水が前記有底冷却孔内に放出されているときに、前記金型と前記突出部との間に電圧を印加する電源装置を備えるとよい。
【0020】
この構成によれば、電気防食工程において電源装置が作動することにより、金型側が陰極となり突出部が陽極となるように金型と突出部との間に電圧が印加される。これにより突出部から金型に防食電流が流れて金型が電気防食(陰極防食)される。このような外部電源方式による電気防食によって、金型操業中に金型の有底冷却孔の壁面が効果的に防食される。
【0021】
前記電源装置は、金型の操業中、すなわち冷却水管から冷却水が有底冷却孔内に放出され、放出された冷却水によって金型が冷却されているとき、つまり有底冷却孔が冷却水で満たされているときに作動される。また、本発明の冷却装置は、電源装置の作動時に金型が効果的に電気防食されるように、金型と突出部との間に印加されている電圧を制御する制御装置を備えていてもよい。
【0022】
また、電源装置の短絡防止のため、前記突出部が前記有底冷却孔の壁面に接触しないように、前記有底冷却孔内に挿入されるとよい。また、前記突出部は外部電源方式による電気防食の陽極となり得る材質により形成されているのがより好ましい。例えば、白金、金、銅、炭素等により形成されているとよい。
【0023】
また、前記突出部が前記金型よりもイオン化傾向の高い材料で形成され、前記金型と前記突出部が電気的に接続されているように構成されていてもよい。この構成によれば、突出部のイオン化傾向が金型のイオン化傾向よりも高いので、電気防食工程において突出部から金型に防食電流が流れて金型が電気防食される。このような流電陽極方式による電気防食によっても、金型の操業中に金型の有底冷却孔の壁面が効果的に防食される。
【0024】
この場合(流電陽極方式により電気防食する場合)において、前記突出部は、前記金型の外部で前記金型と電気的に接続していてもよいし、前記金型内で前記金型と電気的に接続していてもよい。突出部を金型の外部で金型と電気的に接続させるために、両者を電気配線で接続するのがよい。また、突出部を金型の内部で金型と電気的に接続するためには、突出部が金型の有底冷却孔の壁面に接触する部分を有するように、突出部を有底冷却孔内に配置するのがよい。こうすることにより、電気防食工程において、突出部のうち有底冷却孔の壁面に接触していない部分から有底冷却孔の壁面に防食電流が流れる。
【0025】
前記冷却水管の外周壁は電気絶縁性の材料で形成され、前記突出部は前記冷却水管の外周壁に螺旋状に巻き付けられているのがよい。これによれば、突出部が冷却水管の外周壁に螺旋状に巻き付けられているので、冷却水管から放出された冷却水は、突出部の螺旋形状に沿って冷却水管の外周壁と有底冷却孔の側壁との間を螺旋状に流れる。このような螺旋状の流れの形成により、有底冷却孔内での冷却水の滞留時間が増加される。また、冷却水管の外周壁が電気絶縁性の材料で形成されているので、電気防食中における突出部から冷却水管への電流の流出を防止できる。
【0026】
前記突出部は、ワイヤー状の部材(例えば白金メッキチタンワイヤーや亜鉛ワイヤー)により形成されていてもよい。この場合、ワイヤー状の部材を冷却水管の外周壁に螺旋状に巻き付けることにより突出部が形成されているとよい。また、前記冷却水管は、その軸方向が有底冷却孔の形成方向にほぼ一致するように、有底冷却孔内に挿入されるとよい。
【0027】
前記冷却水管の外周壁は、電気絶縁性の樹脂材料で形成されるとよい。この場合において、若干の耐熱性を有する絶縁樹脂材料で冷却水管の外周壁が形成されるとよい。冷却水の温度は50℃前後であるので、50℃程度に加熱されても軟化しないような絶縁樹脂材料で冷却水管の外周壁が形成されるのが好ましい。また、冷却水管自体を絶縁樹脂材料で形成してもよいし、あるいは、金属材料を母材としたパイプの外周に絶縁樹脂材料を被覆することにより冷却水管を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る冷却装置と、その冷却装置が適用される金型を示す概略図である。
【図2】金型の冷却孔と、冷却孔内に挿入された第1実施形態に係る冷却水管ユニットの具体的構造および電源装置を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る冷却装置と、その冷却装置が適用される金型を示す概略図である。
【図4】金型の冷却孔と、冷却孔内に挿入された第2実施形態に係る冷却水管ユニットの具体的構造を示す概略断面図である。
【図5】金型の冷却孔と、冷却孔内に挿入された第2実施形態の変形例に係る冷却水管ユニットの具体的構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る金型の冷却装置と、その冷却装置が適用される金型を示す概略図である。図1において、金型10は、例えばアルミダイカスト用の金型であり、熱間ダイス鋼(例えばSKD61)で作られる。この金型10は固定型11と可動型12とを有する。固定型11の型合わせ面と可動型12の型合わせ面で囲まれた空間部分にキャビティ13が形成される。キャビティ13内に高温の溶融物質(例えばアルミニウム溶湯)が導入される。キャビティ13内の溶融物質は、金型10に熱を奪われることにより冷却固化する。冷却固化した金型成形品が金型10から取り出される。
【0030】
また、金型10には、冷却水を流すための複数の有底の冷却孔14がその内部に形成されている。図においては、固定型11に4個、可動型12に4個の冷却孔14が形成されているが、この限りでない。冷却孔14は、そこに冷却水が流れることによって効率的に金型10が内部冷却されるような箇所に形成される。各冷却孔14内には、冷却装置20の冷却水管ユニット23がそれぞれ挿入されている。
【0031】
冷却装置20は、金型10を冷却するとともに、金型10に形成されている冷却孔14を金型操業中に電気防食する機能を有する。冷却装置20は、給水配管21と、排水配管22と、複数の冷却水管ユニット23と、電源装置25(図2参照)を備える。給水配管21の一端には給水用接続カプラ21aが取り付けられている。この給水用接続カプラ21aは、型成形品の製造工場等に設置されている給水ラインAに接続される。また、排水配管22の一端には排水用接続カプラ22aが取り付けられている。この排水用接続カプラ22aは、工場等に設置されている排水ラインBに接続される。なお、工場には一般に冷却塔Cが設置されており、この冷却塔Cに排水ラインBから加熱された冷却水が供給される。冷却塔Cは加熱された冷却水を冷却し、冷却した冷却水を給水ラインAに供給する。
【0032】
給水配管21は、給水用接続カプラ21aが取り付けられている一端側を上流側と定義した場合、その一端よりも下流側に位置する部分で2本の配管に分岐する。分岐した各配管(一次分岐給水配管)はその下流側でさらに複数本(図1においては4本)の配管に再分岐する。再分岐した複数本の配管(二次分岐給水配管)の下流側端部にそれぞれ冷却水管ユニット23が接続される。
【0033】
排水配管22は、排水用接続カプラ22aが取り付けられている一端側を下流側と定義した場合、その一端よりも上流側に位置する部分で2本の配管に分岐する。分岐した各配管(一次分岐排水配管)はその上流側でさらに複数本(図1においては4本)の配管に再分岐する。再分岐した複数本の配管(二次分岐排水配管)の上流側端部にそれぞれ冷却水管ユニット23が接続される。
【0034】
図2は、固定型11の冷却孔14と、冷却孔14内に挿入された第1実施形態に係る冷却水管ユニット23の具体的構造および電源装置25を示す概略断面図である。図2に示すように、冷却孔14は、キャビティ面CSとは異なる金型表面に開口するネジ孔部141と、このネジ孔部141の底部からキャビティ面CSに向かう方向に延び、ネジ孔部141と同軸的に形成された冷却孔部142とを有する。ネジ孔部141の径は冷却孔部142の径よりも大きくされている。
【0035】
冷却水管ユニット23は、冷却水管231と、冷却プラグ232と、本発明の突出部に相当するコイル部材233とを備える。冷却水管231は円筒状に形成され、その先端231aが開口している。冷却水管231は本実施形態では電気絶縁性の樹脂(例えば塩化ビニル樹脂やABS樹脂)で形成されている。なお、冷却水管の本体をパイプ状の金属材料で形成し、その外周壁に電気絶縁性の樹脂を被覆して冷却水管231を形成してもよい。
【0036】
冷却プラグ232も円筒状に形成される。冷却プラグ232の内径は冷却水管231の外径よりも大きい。冷却プラグ232の外周壁には雄ネジが形成される。一方、ネジ孔部141の内周壁には、冷却プラグ232がネジ孔部141に螺合することができるように、雌ネジが形成されている。
【0037】
また、冷却水管231が冷却プラグ232の内側に同軸的に配置し、且つ冷却プラグ232の先端から突出する部分を有するように、冷却水管231が冷却プラグ232に固定されている。本実施形態では、冷却水管231の外周壁部と冷却プラグ232の内周壁部との間にリブ234を部分的に設け、このリブ234により、冷却水管231が冷却プラグ232に固定される。
【0038】
コイル部材233は、外部電源方式による電気防食に用いられる陽極となり得る材料で形成される。本実施形態では、芯材としてのチタンワイヤに白金メッキを施したワイヤー(白金メッキチタンワイヤー)によりコイル部材233が形成される。この白金メッキチタンワイヤーを図2に示すように冷却水管231のうち冷却プラグ232から突出した部分の外周壁に螺旋状に巻き付けることにより、冷却水管231の外周壁から突出したコイル部材233が形成される。コイル部材233は、冷却水管231から脱着可能であるように、冷却水管231に固定されているとよい。
【0039】
このような構造の冷却水管ユニット23は、給水配管21および排水配管22に接続される。具体的には、冷却水管231の内部空間が給水配管21の二次分岐給水配管に接続され、冷却プラグ232の内周壁と冷却水管231の外周壁との間の空間が排水配管22の二次分岐排水配管に接続される。
【0040】
電源装置25は、プラス端子(陽極)25aおよびマイナス端子(陰極)25bを有する。電源装置25のプラス端子25a(陽極側)に陽極配線251の一端が電気的に接続される。電源装置25のマイナス端子25b(陰極側)に陰極配線252の一端が電気的に接続される。陽極配線251の他端側が、各冷却水管ユニット23のコイル部材233に電気的に接続される。各コイル部材233は陽極配線251により並列接続される。また、陰極配線252の他端側が固定型11および可動型12電気的に接続される。固定型11と可動型12は陰極配線252により並列接続される。なお、冷却孔14が固定型11のみに形成されている場合においては、固定型11のみが陰極配線252に電気的に接続される。陽極配線251を介して、電源装置25のプラス端子(陽極)25aがコイル部材233に電気的に接続される。陰極配線252を介して、電源装置のマイナス端子(陰極)25bが金型10(固定型11)に電気的に接続される。
【0041】
また、図2に示すように、冷却プラグ232の外周側から内周側にかけて貫通する貫通孔232aが冷却プラグ232に形成されている。この貫通孔232aに絶縁樹脂(例えばエポキシ樹脂)で形成されたキャップ235が液密的に取り付けられている。キャップ235には、冷却プラグ232の外周側から内周側にかけて貫通した微細孔が設けられていて、この微細孔を通って陽極配線251が冷却プラグ232の内周壁と冷却水管231の外周壁との間の空間に進入している。こうして冷却プラグ232の内周壁と冷却水管231の外周壁との間の空間に進入した陽極配線251の先端が、冷却水管231の外周壁に巻き付けられているコイル部材233に接続される。
【0042】
上記構成の冷却装置20を用いた金型10の冷却方法について、以下に説明する。
【0043】
まず、金型10に形成されている複数の冷却孔14の冷却孔部142に冷却水管231を挿入し、さらに冷却プラグ232を冷却孔14のネジ孔部141に螺合させることにより冷却水管ユニット23を冷却孔14に固定する。このとき、コイル部材233が冷却孔部142の側壁に接しないように、冷却水管231をその先端231a側から冷却孔部142に挿入し、固定する。全ての冷却孔14に冷却水管ユニット23を固定した後に、給水用接続カプラ21aを給水ラインAに、排水用接続カプラ22aを排水ラインBに、それぞれ接続する。すると、給水ラインAから給水用接続カプラ21aを経て冷却水が給水配管21に供給される。給水配管21に供給された冷却水は、一次分岐給水配管および二次分岐給水配管を経由して冷却水管231の内部に流れる。そして、冷却水管231の先端231aから冷却孔部142内に冷却水が放出される(冷却水放出工程)。
【0044】
冷却孔部142内に放出された冷却水は、冷却孔部142の底部で折り返し、冷却孔部142の底部側から開口部側(ネジ孔部141側)に向かって流れる。この場合において、冷却水管231の外周壁には、その外周壁から径外方に突出するようにコイル部材233が螺旋状に巻き付けられているので、冷却水はこのコイル部材233に沿って流れる。そのため冷却孔部142内で冷却水が螺旋状の流れを形成する。つまり、コイル部材233によって、冷却孔部142の底部側から開口部側にかけての冷却水の直線的な流れが阻害される。冷却水が冷却孔部142内を螺旋状に流れるので、直線的に流れる場合と比較して冷却孔部142内における冷却水の滞留時間が増加する。このため、金型10の操業中に金型10の熱がより多く冷却水に奪われる。このため内部冷却効率が向上する。
【0045】
冷却孔部142の内周壁と冷却水管231の外周壁との間を螺旋状に流れた冷却水は、さらに冷却プラグ232の内周壁と冷却水管231の外周壁との間を流れる。そして、排水配管22の二次分岐排水配管内に排出される。こうして排出された冷却水は、排水配管22の一次分岐排水配管を経由して合流した後に排水ラインBに流れ、さらに冷却塔Cに供給される。冷却塔Cに供給された冷却水は冷却塔Cで冷却される。冷却された冷却水が再び給水ラインAに供給される。
【0046】
また、冷却水管231の先端231aから冷却水が冷却孔部142内に放出されているとき(金型の操業中)に、電源装置25を作動させる。これにより金型10とコイル部材233との間に電位差が生じる。金型10が電源装置25のマイナス端子25b(陰極側)に電気的に接続され、各コイル部材233が電源装置25のプラス端子25a(陽極側)に電気的に接続されているので、冷却孔部14の壁面が陰極となり、コイル部材233が陽極となる。
【0047】
また、冷却孔部142の内周壁面とコイル部材233との間の部分は、冷却水管231の先端231aから放出された冷却水で満たされている。この場合において、金型10とコイル部材233との間に電位差が生じていない場合は、金型10を構成する鉄が鉄イオンとなって冷却水中に溶出する(アノード反応)。また、アノード反応の進行に伴い、冷却孔14の壁面でカソード反応が進行する。アノード反応とカソード反応が冷却孔14の壁面で局所的に同時進行することにより、冷却孔14の壁面が腐食される。
【0048】
これに対し、本実施形態においては、電源装置25が作動することにより、金型10が陰極となり、コイル部材233が陽極となるように、金型10とコイル部材233との間に電圧が印加される。このためコイル部材233から冷却孔14の壁面に向けて防食電流が流れる。防食電流が流れることによりカソード反応が妨げられて、金型10(特に冷却孔14の壁面)からの鉄の溶出が抑えられる。このため冷却孔14の壁面が電気防食される(電気防食工程)。冷却孔14の壁面が電気防食される結果、金型10の応力腐食割れの発生を防止することができる。
【0049】
応力腐食割れを考慮して金型内の冷却孔の配設位置を設計する場合、キャビティ面と冷却孔の底部との間の距離を比較的長くしなければならない。例えば、アルミダイカストによりアルミニウム成形品を製造する場合であって、金型の寿命が20万ショット数であるとする。ここで、ショット数とは、金型に射出するアルミニウム溶湯の射出回数である。応力腐食割れを考慮した場合、キャビティ面と冷却孔の底部との間の距離が15mm未満であると、20万ショット以前に金型が応力腐食割れを起こす可能性が高い。このため、従来ではこの応力腐食割れを考慮してキャビティ面と冷却孔の底部との間の距離を15mm以上としていた。キャビティ面と冷却孔の底部との間の距離が15mm以上であると、冷却孔内を流れる冷却水が金型の熱を十分に奪うことができず、その結果、金型が十分に冷却されない。このため金型の冷却時間が長くなって生産性が低下する。よって、生産性の面からすれば、キャビティ面と冷却孔の底部との間の距離はより短い方が良い。
【0050】
一方、応力腐食割れを考慮せずに金型内の冷却孔の配設位置を設計した場合、キャビティ面と冷却孔の底部との間の距離を5mm程度としても、金型が20万ショット以前に熱応力で割れる可能性が低い。よって、本実施形態で示したように応力腐食割れを防止することで、キャビティ面と冷却孔の底部との間の距離が5mm程度となるように、冷却孔の金型内での配設位置を決定することができる。キャビティ面と冷却孔の底部との間の距離がこの程度であれば、冷却孔内を流れる冷却水が金型の熱を十分に奪うことができ、内部冷却効率が大きく向上する。その結果、金型が短時間で冷却され、成形サイクルの短縮化を図ることができ、生産性が向上する。
【0051】
また、このようにして冷却水による金型の内部冷却効率が向上した場合、金型のキャビティ面に離型材を塗布して金型を外部から冷却するための時間(外部冷却時間)を短縮、あるいは外部冷却を廃止することができる。さらに、金型のキャビティ面に塗布した離型材を除去するためのエアーブロー時間も短縮できる。
【0052】
また、従来では、上述のようにキャビティ面と冷却孔の底部との間の距離が長く、金型の内部冷却効率が悪いために、キャビティ内でアルミニウム溶湯を固化させるための時間が長い。そのためキャビティ面で金型とアルミニウムが反応してキャビティ面にアルミニウム化合物がこびり付くという不具合が発生していた。これに対し、本実施形態によれば、上述のようにキャビティ面と冷却孔の底部との間の距離を短くして金型の内部冷却効率を向上させることができるため、キャビティ内でアルミニウム溶湯を固化させるための時間が短縮される。このためキャビティ面で金型とアルミニウムが反応する可能性が低く、故に、上記反応により生成したアルミニウム化合物が金型にこびり付くという不具合が発生し難い。よって、アルミニウム化合物が金型にこびり付くことに起因する金型の修復工数を大きく低減できる。
【0053】
また、従来では金型を外部冷却するためにキャビティ面に離型材を大量に塗布していた。このため外部冷却によるキャビティ面への熱衝撃が大きく、金型の寿命が低下していた。これに対し、本実施形態によれば、金型の内部冷却効率が良いので、外部冷却を廃止、あるいは外部冷却時間を短縮させることができる。このため金型のキャビティ面への熱衝撃が小さく、その結果、金型の寿命を大きく延ばすことができる。
【0054】
以上のように、第1実施形態によれば、金型10の冷却孔14内に挿入される冷却水管231に設けられるコイル部材233を外部電源方式による電気防食用の陽極として利用することにより、冷却水管231の先端231aから冷却水が冷却孔部142に放出されているとき(すなわち金型10の操業中)に、電気防食することができる。そして、電気防食により金型操業中の応力腐食割れを防止することができるため、冷却孔14の底部とキャビティ面CSとの間の距離を狭めることができる。そのため内部冷却効率を高めることができる。内部冷却効率が高められる結果、成形サイクルの短縮化を図ることができる。また、金型10のキャビティ面CSに直接離型剤を塗布することにより金型10を冷却する外部冷却を廃止、あるいは外部冷却時間を短縮することができる。外部冷却を廃止あるいは外部冷却時間を短縮することで、金型の寿命を延ばすことができる。
【0055】
また、第1実施形態によれば、電気防食における陽極を構成するコイル部材233が冷却水管231に設けられ、且つ冷却水管231が金型10の冷却孔14内に挿入されている。つまり、陽極が冷却孔14内に挿入されている。このため、冷却孔14の壁面の全体をほぼ均一に防食することができる。よって、冷却孔14の壁面の腐食を確実に抑え、ひいては応力腐食割れを確実に防止することができる。また、冷却水に防錆剤を混入させたり冷却水をアルカリ性に調整したりすることなく防食することができるので、工場に共通して設けられた給水ラインおよび排水ラインを利用して金型を冷却することができる。このため専用の循環回路を設ける必要もなく、それ故、安価でコンパクトな冷却装置を構成することができる。さらに、外周壁が電気絶縁性の物質で形成された冷却水管231にコイル部材233を巻き付かせているので、コイル部材233を冷却水管231から簡単に取り外すことができる。よって、コイル部材233のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0056】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、外部電源方式により金型の冷却孔の壁面を電気防食しつつ金型を冷却する冷却装置の例について説明したが、この第2実施形態では、流電陽極方式により金型の冷却孔の壁面を電気防食しつつ金型を冷却する冷却装置の例について説明する。
【0057】
図3は、第2実施形態に係る冷却装置と、その冷却装置が適用される金型を示す概略図である。図3に示す金型10の構成は、上記第1実施形態にて説明した図1に示す金型10の構成と同一である。したがって、図3に示す金型10の構成要素のうち図1に示す金型10と同一の構成要素については、同一の符号で示すことによりその説明を省略する。また、図3に示す冷却装置20の構成は、冷却水管ユニット33の構成を除き、上記第1実施形態にて説明した図1に示す冷却装置20の構成と同一である。したがって、図3に示す冷却装置20の構成要素のうち図1に示す冷却装置20と同一の構成要素については、同一の符号で示すことによりその説明を省略する。
【0058】
図4は、固定型11に設けられた冷却孔14内に挿入された第2実施形態に係る冷却水管ユニット33の具体的構造を示す概略断面図である。図4に示すように、冷却水管ユニット33は、冷却水管331と、冷却プラグ332と、本発明の突出部に相当するコイル部材333とを備える。冷却水管331は円筒状に形成され、その先端331aが開口している。冷却水管331は本実施形態では電気絶縁性の樹脂(例えば塩化ビニル樹脂やABS樹脂)で形成されている。
【0059】
冷却プラグ332も円筒状に形成される。冷却プラグ332の内径は冷却水管331の外径よりも大きい。冷却プラグ332の外周壁には雄ネジが形成される。一方、固定型11に形成されている冷却孔14のネジ孔部141の内周壁には、冷却プラグ332がネジ孔部141に螺合することができるように、雌ネジが形成されている。
【0060】
また、冷却水管331が冷却プラグ332の内側に同軸的に配置し、且つ冷却プラグ332の先端から突出する部分を有するように、冷却水管331が冷却プラグ332に固定されている。本実施形態では、冷却水管331の外周壁部と冷却プラグ332の内周壁部との間にリブ334を部分的に設け、このリブ334により、冷却水管331が冷却プラグ332に固定される。
【0061】
コイル部材333は、金型10(固定型11)よりもイオン化傾向が高い金属材料で形成される。例えば亜鉛により形成されたワイヤーによりコイル部材333が形成される。この亜鉛ワイヤーを図4に示すように冷却水管331のうち冷却プラグ332から突出した部分の外周壁に螺旋状に巻き付けることにより、冷却水管331の外周壁から径外方に突出したコイル部材333が形成される。コイル部材333は、冷却水管331から脱着可能であるように、冷却水管331に固定されているとよい。
【0062】
また、上記第1実施形態では、図2に示すように冷却プラグ232の外周側から内周側にかけて貫通する貫通孔232aが冷却プラグ232に設けられるとともに、貫通孔232aに絶縁性のキャップ235が設けられているが、本実施形態ではこの貫通孔232aおよびキャップ235に相当する構成は設けられていない。また、上記第1実施形態に係る冷却装置20は図2に示すように電源装置25を備えているが、本実施形態に係る冷却装置20は電源装置25に相当する構成を備えていない。
【0063】
上記構成の冷却装置20を用いた金型の冷却方法について、以下に説明する。
【0064】
まず、複数の冷却孔14の冷却孔部142に冷却水管331を挿入し、さらに冷却プラグ332を冷却孔14のネジ孔部141に螺合させることにより冷却水管ユニット33を冷却孔14に固定する。このとき図4に示すように螺旋状のコイル部材333の最外周部分が冷却孔部142の側壁に接触するように、冷却水管331をその先端331a側から冷却孔部142に挿入し、固定する。これにより、コイル部材333が螺旋状に冷却孔部142の側壁に接触する。全ての冷却孔14に冷却水管ユニット33を固定した後に、冷却水を冷却水管ユニット33に供給する。これにより冷却水管331の先端331aから冷却孔部142内に冷却水が放出される(冷却水放出工程)。
【0065】
冷却孔部142内に放出された冷却水は、冷却孔部142の底部で折り返し、冷却孔部142の底部側から開口部側(ネジ孔部141側)に向かって流れる。この場合において、冷却水管331の外周壁には、その外周壁から突出するようにコイル部材333が螺旋状に巻き付けられているので、冷却水はこのコイル部材333に沿って流れる。そのため冷却孔部142内で冷却水が螺旋状の流れを形成する。つまり、コイル部材333によって冷却水が冷却孔部142を底部側から開口部側にかけて直線的に流れることが阻害される。冷却水が冷却孔部142内を螺旋状に流れるので、直線的に流れる場合と比較して冷却孔部142内における冷却水の滞留時間が増加する。このため、金型10の操業中に金型10の熱がより多く冷却水に奪われる。よって内部冷却効率が向上する。
【0066】
なお、本実施形態においては、コイル部材333の最外周部が冷却孔部142の側壁に接触しており、コイル部材333の最外周部と冷却孔部142の側壁との間に隙間が形成されていない。このため上記隙間を経由した冷却水の直線的な流れが確実に防止され、冷却孔部142内の冷却水の全量がコイル部材333に沿って螺旋状に流れる。このため内部冷却効率がより一層向上する。
【0067】
また、コイル部材333は、そのイオン化傾向が金型10(固定型11)のイオン化傾向よりも高い金属材料で形成されているとともに、コイル部材333の最外周部が冷却孔部142の側壁に接触している。このため、コイル部材333と金型10との間で電池が形成され、コイル部材333のうち冷却孔部142の側壁に接触していない部分から冷却孔14の壁面に向けて防食電流が流れる。防食電流が流れることにより冷却孔14の壁面が電気防食される(電気防食工程)。冷却孔14の壁面が電気防食される結果、金型10の応力腐食割れの発生を防止することができる。
【0068】
(変形例)
図5は、金型の冷却孔と、冷却孔内に挿入された第2実施形態の変形例に係る冷却水管ユニットの具体的構造を示す概略断面図である。図5に示すように、本例に係る冷却水管ユニット43は、先端431aが開口した冷却水管431と、冷却プラグ432と、本発明の突出部に相当するコイル部材433とを備える。冷却水管431および冷却プラグ432の構成は、第1実施形態にて説明した図2に示す冷却水管231および冷却プラグ232の構成と同一であるので、その具体的説明は省略する。
【0069】
コイル部材433は、第2実施形態にて説明した図4に示すコイル部材333と同様に、金型10(固定型11)よりもイオン化傾向が高い金属材料で形成される。例えば亜鉛ワイヤーでコイル部材433が形成される。この亜鉛ワイヤーを図5に示すように冷却水管431のうち冷却プラグ432から突出した部分の外周壁に螺旋状に巻き付けることにより、冷却水管431の外周壁から突出したコイル部材433が形成される。
【0070】
また、固定型11に電気配線45の一端が接続されている。この電気配線45は、各冷却水管ユニット43の各冷却プラグ432に設けられている電気絶縁性のキャップ435に形成された微細孔を通って各冷却プラグ432内に進入し、その先で各冷却水管ユニット43の各コイル部材433に接続されている。したがって、各コイル部材433が、金型10(固定型11)の外部で電気配線45により電気的に接続される。
【0071】
また、図5に示すように、各冷却水管431は、その外周壁に設けられた各コイル部材433が各冷却孔部142の側壁に接触しないように、各冷却孔部142内に挿入されている。
【0072】
このような構成であっても、金型10の冷却中に、コイル部材433と金型10(固定型11)とのイオン化傾向の違いに基づいて、コイル部材433から冷却孔14の壁面に防食電流が流れる。このため冷却孔14の壁面が電気防食される。冷却孔14の壁面が電気防食される結果、金型10の応力腐食割れの発生を防止することができる。
【0073】
以上のように、第2実施形態によれば、金型10の冷却孔14内に挿入される冷却水管331,431に設けられるコイル部材333,433が、金型10よりもイオン化傾向が高い金属材料で形成されるとともに、コイル部材333,433と金型10とが電気的に接続される。そして、コイル部材333,433を流電陽極方式による電気防食用の陽極として利用することにより、冷却水管331,431の先端から冷却水が冷却孔部142に放出されているとき(すなわち金型10の操業中)に、コイル部材333,433から冷却孔14の壁面に防食電流が流れ、冷却孔14の壁面が電気防食される。このようにして電気防食により金型操業中の応力腐食割れを防止することができるため、冷却孔14の底部とキャビティ面CSとの間の距離を狭めることができる。そのため内部冷却効率を高めることができる。内部冷却効率が高められる結果、成形サイクルの短縮化を図ることができる。また、金型10のキャビティ面CSに直接離型剤を塗布することにより金型10を冷却する外部冷却を廃止、あるいは外部冷却時間を短縮することができる。外部冷却を廃止あるいは外部冷却時間を短縮することで、金型の寿命を延ばすことができる。
【0074】
また、第2実施形態によれば、電気防食における陽極を形成するコイル部材333,433が冷却孔14内に挿入されている。このため、冷却孔14の壁面の全体をほぼ均一に防食することができる。よって、冷却孔14の壁面の腐食を確実に抑え、ひいては応力腐食割れを確実に防止することができる。また、冷却水に防錆剤を混入させたり冷却水をアルカリ性に調整したりすることなく防食することができるので、工場に共通して設けられた給水ラインおよび排水ラインを利用して金型を冷却することができる。このため専用の循環回路を設ける必要もなく、それ故、安価でコンパクトな冷却装置を構成することができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、冷却水管231,331,431の外周壁に螺旋状のコイル部材233,333,433が突出部として設けられている例について説明したが、突出部は、冷却水管の外周壁と冷却孔部の側壁との間の隙間を冷却水が直線的に流れることを防止するような形状であれば、螺旋状でなくても良い。例えば、冷却水管の軸方向に所定間隔で設けられ、互いに連結している円板状部材により突出部が形成されてもよい。また、上記実施形態では、冷却水管231,331,431を絶縁性樹脂で構成したが、パイプ本体を金属材料で形成し、その外周壁に絶縁性樹脂を被覆することにより冷却水管231を構成してもよい。また、本発明は、アルミダイカスト用の金型、鋳造金型、樹脂金型等、冷却が必要な全ての金型に適用できる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
【符号の説明】
【0076】
10…金型、11…固定型、12…可動型、13…キャビティ、14…冷却孔(有底冷却孔)、141…ネジ孔部、142…冷却孔部、20…冷却装置、21…給水配管、22…排水配管、23,33,43…冷却水管ユニット、231,331,431…冷却水管、231a,331a,431a…先端、232,332,432…冷却プラグ、233,333,433…コイル部材(突出部)、25…電源装置、25a…プラス端子(陽極)、25b…マイナス端子(陰極)、251…陽極配線、252…陰極配線、45…電気配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成されるとともに先端が開口し、金型に形成された有底冷却孔に前記先端側から挿入され、前記先端から冷却水を前記有底冷却孔内に放出する冷却水管と、
前記冷却水管の外周壁から突出して設けられた突出部と、
を備える金型の冷却装置であって、
前記冷却水管の前記先端から冷却水が前記有底冷却孔内に放出されているときに、前記突出部から前記有底冷却孔の壁面に防食電流が流れるように構成されている、金型の冷却装置。
【請求項2】
請求項1記載の金型の冷却装置において、
前記突出部は電極となり得る材質により形成されるとともに、
前記金型に電気的に接続された陰極と、前記突出部に電気的に接続された陽極とを有し、前記冷却水管の前記先端から冷却水が前記有底冷却孔内に放出されているときに、前記金型と前記突出部との間に電圧を印加する電源装置を備える、金型の冷却装置。
【請求項3】
請求項1記載の金型の冷却装置において、
前記突出部が前記金型よりもイオン化傾向の高い材料で形成され、前記金型と前記突出部が電気的に接続されている、冷却装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の金型の冷却装置において、
前記冷却水管の外周壁は電気絶縁性の材料で形成され、前記突出部は前記冷却水管の外周壁に螺旋状に巻き付けられている、金型の冷却装置。
【請求項5】
筒状に形成され、先端が開口するとともに、その外周壁から突出する突出部が設けられている冷却水管を、金型に形成された有底冷却孔に前記先端から挿入し、その状態で前記先端から冷却水を前記有底冷却孔内に放出する冷却水放出工程と、
前記冷却水放出工程にて前記冷却水管の前記先端から冷却水が前記有底冷却孔内に放出されているときに、前記突出部から前記有底冷却孔の壁面に防食電流を流すことにより前記金型を電気防食する電気防食工程と、
を含む、金型の冷却方法。
【請求項6】
請求項5記載の金型の冷却方法において、
前記電気防食工程は、前記金型側が陰極となり前記突出部が陽極となるように前記金型と前記突出部との間に電圧を印加することにより、前記突出部から前記有底冷却孔の壁面に防食電流を流す工程である、金型の冷却方法。
【請求項7】
請求項5記載の金型の冷却方法において、
前記突出部が前記金型よりもイオン化傾向の高い材料で形成され、
前記電気防食工程は、前記金型と前記突出部とを電気的に接続させることにより、前記突出部から前記有底冷却孔の壁面に防食電流を流す工程である、金型の冷却方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項記載の金型の冷却方法において、
前記冷却水管の外周壁が電気絶縁性の材料で形成され、前記突出部は前記冷却水管の外周壁に螺旋状に巻き付けられている、金型の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−39606(P2013−39606A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178699(P2011−178699)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】