説明

金型冷却装置及びこれを備えた金型冷却システム

【課題】種々の金型に簡便に適用し得るとともに、冷却タイミングの制御を容易に行い得る金型冷却装置及びこれを備えた金型冷却システムを提供する。
【解決手段】金型冷却装置1は、金型3の局部に埋め込まれるようにして配設される冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに接続されるとともに、前記金型からの吸熱により気化した媒体を排出する排出ライン13と、この排出ラインを経た気化した媒体を凝縮させる凝縮部16と、この凝縮部において凝縮された媒体を貯留する貯留部17と、この貯留部の媒体を前記冷却ブロックの中空部に供給する媒体供給部11を配した供給ライン10と、これら各部及び各ラインが減圧下において、前記媒体供給部を作動制御し、所定の金型冷却開始信号に基づいて前記冷却ブロックの中空部に前記媒体を供給する制御部40とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を冷却する金型冷却装置及びこれを備えた金型冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金型に設けられた媒体流通路に低温媒体を供給する金型冷却装置が提案されている。このような金型冷却装置によれば、金型のキャビティーに溶融樹脂等の溶融材料を射出し、充填した後に、金型を冷却することで、溶融材料を迅速に固化させることができ、成形サイクルの短縮化を図ることができるものであった。しかしながら、成形品(キャビティー)の形状に凹凸があるなど形状が複雑な場合などでは、低温媒体が通過する媒体流通路から遠い部分が生じ、部分的に冷え難い部位が生じる場合があった。この結果、成形品が不良品となる場合があり、また、冷却時間を長く要するという問題があった。このような問題は、例えば、媒体流通路をキャビティーの形状に沿わせるように形成することで解消することも考えられるが、金型の構造が複雑化し、また、媒体流通路を複数に分岐させる必要が生じる場合もあり、この場合には低温媒体が均一に流れ難くなる傾向があるという問題があった。また、押出ピンやガイドピン等による制約を受けるため、複雑な媒体流通路を形成すること自体が困難となる場合もあった。
【0003】
下記特許文献1及び下記特許文献2では、加熱されたプラスチック材料に接する部分に隣接した区域(熱を取り去るべき区域)を覆うように密閉室を金型内部に形成し、この密閉室に液体と蒸気とを満たした金型(モールド)が提案されている。また、この金型には、蒸気を凝縮させる熱交換器等の凝縮手段が設けられている。この金型によれば、金型の高温部分において液体が沸騰、蒸発し、その区域の温度を下げることができ、温度を均一に保つことができる、と説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4500444号公報
【特許文献2】特表2003−510199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記各特許文献に記載された金型では、金型の構造が複雑化し、また、金型は成形品毎に必要となるため、更なる改善が望まれていた。さらに、金型内部の密閉室に液体及び蒸気を満たして密閉構造としているので、冷却タイミングの制御がし難いという問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、種々の金型に簡便に適用し得るとともに、冷却タイミングの制御を容易に行い得る金型冷却装置及びこれを備えた金型冷却システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明に係る金型冷却装置は、金型の局部に埋め込まれるようにして配設される冷却ブロックの中空部に接続されるとともに、前記金型からの吸熱により気化した媒体を排出する排出ラインと、この排出ラインを経た気化した媒体を凝縮させる凝縮部と、この凝縮部において凝縮された媒体を貯留する貯留部と、この貯留部の媒体を前記冷却ブロックの中空部に供給する媒体供給部を配した供給ラインと、これら各部及び各ラインが減圧下において、前記媒体供給部を作動制御し、所定の金型冷却開始信号に基づいて前記冷却ブロックの中空部に前記媒体を供給する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
上記構成とされた本発明では、金型の局部に配設された冷却ブロックに媒体を供給することで、金型の局部を効果的に冷却することができる。つまり、冷却ブロックの中空部に供給された媒体は、金型のキャビティーに充填された溶融材料によって高熱となる金型局部から冷却ブロックへの伝熱によって蒸発、気化し、この気化熱によって冷却ブロックが冷却され、金型局部を冷却することができる。つまりは、この媒体を作動流体として、蒸発部(吸熱部)として機能する冷却ブロックの中空部と上記凝縮部との間をヒートパイプのように熱輸送がなされるので、極めて効率的な冷却が可能となる。
また、前記各部及び各ラインが減圧された状態であるので、比較的に低温で媒体を蒸発、気化させることができるため、冷却効率を向上させることができる。
さらに、例えば、冷却水等を金型の媒体流通路に通過させて冷却するような場合と比べて、媒体の必要量が少なく、また、ヒートパイプのような熱輸送形式であるので、熱伝達率が極めて良く、冷却ブロック(つまりは金型の局部)を迅速に冷却することができる。この結果、成形サイクルを短縮化することができる。
【0009】
さらにまた、冷却ブロックをキャビティーの局部(凹部や凸部等の冷え難い部位)の形状に応じて形成し、金型に埋め込ませるようにして配設し、その冷却ブロックに対して各ラインを接続することで当該金型冷却装置を用いることができるので、金型内に熱交換手段等を設置したり、金型自体の内部形状を複雑化させたりすることなく、種々の金型に簡便に適用することができる。つまりは、種々の金型に応じて冷却ブロックを配設し、これに当該金型冷却装置を接続して使用することができるので、汎用性の高いものとなる。
また、媒体供給部を作動制御し、所定の金型冷却開始信号に基づいて前記冷却ブロックの中空部に前記媒体を供給する制御部を備えているので、金型の局部の冷却タイミングの制御を容易に行うことができる。この結果、溶融材料の流動性等を阻害しないような冷却タイミングの制御を行うこともでき、不良品等の発生を防止することもできる。
【0010】
上記所定の金型冷却開始信号は、例えば、射出成形機等の成形機から送信される型閉信号や射出信号、保圧信号等としてもよい。また、これらの信号を受信した後、所定の遅延時間が経過した後に、媒体の供給を開始させるようにしてもよい。好ましくは射出直後の溶融材料の流動性を阻害しないよう、型閉信号若しくは射出信号を受信した後、所定の遅延時間が経過した後に、または保圧信号を受信した後に、媒体の供給を開始させるようにしてもよい。
また、冷却ブロックの中空部への媒体の供給は、上記所定の金型冷却開始信号に基づいて、一度に所定量を供給するようにしてもよく、または、所定量となるように間欠的に供給するようにしてもよい。
【0011】
本発明においては、前記排出ラインに連通し、前記各部及び各ラインを減圧する減圧手段を更に備えたものとしてもよい。
このような構成とした場合には、前記各部及び各ラインの減圧度が低下(低真空側(大気圧側)に変動)すれば、減圧手段を作動させることで所定の減圧度を維持することができる。
一方、このような減圧手段を設けない場合には、当該装置が設置される工場等に設けられた真空ポンプ等を適宜、接続し、上記各部及び各ラインを減圧するようにしてもよい。この場合、リーク等に起因して減圧度が下がることも考えられるため、適宜箇所に設けられた圧力ゲージ等を確認し、所定の減圧度が維持されていなければ真空ポンプを接続して減圧するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明においては、前記減圧手段による前記各部及び各ラインの減圧度の調整を可能としてもよい。
このような構成とすれば、金型局部の冷却目標温度等に応じて、減圧度を調整することで、冷却ブロックの中空部における媒体の気化温度(蒸発開始温度)の調整を行うことができ、これにより、冷却ブロック(つまりは金型局部)の冷却温度を調整することができる。つまり、減圧度を高く(高真空に)すれば、冷却ブロックをより低温域で冷却することができ、減圧度を低く(低真空に)すれば、冷却ブロックをより高温域で冷却することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記媒体供給部による前記冷却ブロックの中空部への媒体の供給量の調整を可能としてもよい。
このような構成とすれば、冷却ブロックの中空部に供給された媒体が気化することによって金型局部からの伝熱によって加熱された冷却ブロックの熱量を奪うため、媒体の供給量を調整することで、冷却ブロック(つまりは金型局部)から奪う熱量の調整ができ、冷却ブロックによる金型局部の冷却能力(冷却熱量)の調整を容易に行うことができる。
【0014】
また、本発明においては、前記凝縮部を冷却する冷却手段を更に備えたものとしてもよい。
このような構成とすれば、例えば、自然空冷等によって凝縮させるようなものと比べて、より迅速に媒体を凝縮させ、低温にすることができる。この冷却手段としては、空冷式やガス式、水冷式等の種々の冷却手段の採用が可能である。
【0015】
また、本発明においては、前記凝縮部または前記貯留部に温度センサーを更に設け、前記制御部が前記温度センサーの検出温度に基づいて前記冷却手段の作動制御を実行するものとしてもよい。
このような構成とすれば、省エネルギー化を図ることができる。
【0016】
また、本発明においては、前記媒体に、界面活性剤を添加してもよい。
このような構成とすれば、界面活性作用により、前記媒体のぬれ性や起泡性等を向上させることができるので、冷却ブロックの中空部内面に該媒体がより付着し易くなることから、吸熱効率を向上させることができる。この結果、金型の局部を冷却ブロックによってより効果的に冷却することができる。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る金型冷却システムは、本発明に係る金型冷却装置と、この金型冷却装置の排出ライン及び供給ラインに接続されるとともに、金型の局部に埋め込まれるようにして配設される冷却ブロックとを備えていることを特徴とする。
上記構成とされた本発明では、上記同様、金型の局部に埋め込まれるようにして配設される冷却ブロックに媒体を供給することで、金型の局部を効果的に冷却することができる。
この冷却ブロックは、金型のキャビティーの形状に応じて複数個の冷却ブロックを設けるようにしてもよい。この場合、冷却ブロックの個数に応じた本数の排出ライン及び供給ラインを設けるようにすればよい。また、この場合、供給ラインのそれぞれに媒体の供給を制御する電磁弁等の開閉弁を設け、この開閉弁を前記制御部によって個別に作動制御する態様としてもよい。これによれば、冷却ブロック毎に冷却タイミングや媒体の供給量を変更することもでき、この結果、各冷却ブロックに応じた最適な冷却制御を実行することができ、キャビティーの形状に応じた最適な冷却制御を行うことも可能となる。例えば、射出成形機等のノズルから射出されて金型のゲート部を通過し、キャビティーの各部に充填される溶融材料の流動性を阻害しないように、溶融材料の流れ方向に沿ってゲート部側に近い側の部位を冷却する冷却ブロックの冷却開始タイミングを遠い側の部位を冷却する冷却ブロックよりも遅らせるような制御も可能となる。これによれば、フローマークやウェルドライン等の不良が生じ難くなり、成形品へのキャビティー面の転写性(転写率)を向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係る金型冷却システムにおいては、前記金型に設けられた媒体流通路に低温媒体を供給する第2金型冷却装置を更に備えたものとしてもよい。
このような構成とすれば、上記第2金型冷却装置によって金型の媒体流通路に低温媒体を供給することで、金型の大部分を冷却できるとともに、金型の局部を冷却ブロックによって効果的に冷却することができ、金型のキャビティー周辺部位をより効率的に冷却することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る金型冷却装置及びこれを備えた金型冷却システムは、上述のような構成としたことで、種々の金型に簡便に適用することができるとともに、冷却タイミングの制御を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る金型冷却装置を備えた金型冷却システムのシステム構成の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図2】同金型冷却システムの制御ブロック図である。
【図3】(a)〜(c)は、同金型冷却システムにおいて実行される基本動作の一例を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図3は、本実施形態に係る金型冷却装置及びこれを備えた金型冷却システムを説明するための説明図である。
なお、図1においては、媒体等が通過する管路(配管)等を、実線にて模式的に示している。
本実施形態に係る金型冷却装置(第1金型冷却装置)1は、図1に示すように、金型3の局部に埋め込まれるようにして配設された複数の冷却ブロック35,36,37と、第2金型冷却装置2とを備えた金型冷却システムAの一部に組み込まれた例を示している。
【0022】
第2金型冷却装置2は、低温媒体を貯留する貯留部としての貯留タンク20と、この貯留タンク20に貯留された低温媒体を送媒路22及び返媒路23を介して金型3に設けられた媒体流通路30a,31aに循環供給するための循環ポンプ21とを備えている。この循環ポンプ21は、送媒路22に配設され、この送媒路22の循環ポンプ21の上流側(吸込側)には、貯留タンク20の出口側(送媒側)の低温媒体の温度を検出する温度センサーが設けられている。また、返媒路23には、フィルターが設けられている。
これら送媒路22及び返媒路23には、電磁弁等の送媒弁及び返媒弁がそれぞれに設けられている。また、これら送媒路22と返媒路23とを接続するバイパス路が設けられており、このバイパス路には、電磁弁等のバイパス弁が設けられている。
【0023】
貯留タンク20には、媒体供給源(給水源)に接続された媒体供給管路(給水管)と、媒体排出管路(排水管)とが接続されている。また、この貯留タンク20には、当該貯留タンク20に貯留された低温媒体を加熱するヒーター等の加熱手段と低温媒体を冷却する冷却路等の冷却手段とが設けられている。図例では、加熱手段としてシーズヒーターを例示し、冷却手段として螺旋状の冷却管を例示している。この冷却管の両端には、上記給水管と上記排水管とが分岐してそれぞれに接続されており、給水側の分岐管路には、冷却手段を構成する電磁弁等の冷却弁が設けられている。
【0024】
当該第2金型冷却装置2の上記した循環ポンプ21や温度センサー、ヒーター、各弁等は、図示は省略しているが、当該第2金型冷却装置2の制御盤等に設けられたCPU等の制御部に信号線等を介して接続されており、このCPUによって所定のプログラムに従って当該第2金型冷却装置2の各部の作動制御がなされる。当該第2金型冷却装置2の稼働中は原則的には常時、循環ポンプ21の作動がなされており、上記送媒弁及び返媒弁を開、上記バイパス弁を閉とすれば、貯留タンク20に貯留された低温媒体が金型3に設けられた媒体流通路30a,31aに循環供給され、金型3の冷却がなされる。一方、上記バイパス弁を開、上記送媒弁及び返媒弁を閉とすれば、金型3への低温媒体の供給が停止され、貯留タンク20の低温媒体はバイパス路を経て循環する。このような切り替えは、後述する射出成形機5の成形動作に連動させて切り替えるようにしてもよい。
【0025】
また、低温媒体が予め設定された所定温度となるように、送媒路22に設けられた温度センサーの検出温度に基づいて、上記ヒーター及び上記冷却弁の作動制御がなされる。この低温媒体の設定温度は、溶融されて充填される樹脂等の溶融材料の温度や金型3の設定温度等にもよるが、例えば、5℃〜90℃程度としてもよい。
貯留タンク20に貯留された媒体温度が設定温度よりも低ければ、上記ヒーターを稼動させて加熱がなされる。一方、設定温度よりも高ければ、上記冷却弁を開放させ、冷媒(冷却水)を上記冷却管に送給させて冷却がなされる。なお、この低温媒体を冷却する冷却手段としては、このような冷却路によって貯留タンク20に貯留された媒体と間接的に熱交換を行い冷却するもの(間接冷却)に限られず、例えば、媒体が水の場合には、冷水を直接的に貯留タンク20内に供給することで媒体を冷却(直接冷却)するものとしてもよい。
また、上記冷却手段に供給する冷媒としては、低温媒体の設定温度に応じて、適宜のチラー等の冷却器等によって冷却されたものとしてもよく、または、工場等に設置されるクーリングタワー等からの冷水を冷媒としてもよく、さらには、常温の水道水としてもよい。
【0026】
なお、当該第2金型冷却装置2の起動時には、上記給水管及び排水管に設けられた供給弁及び排出弁を開放させ、低温媒体を貯留タンク20に所定レベルまで貯留させた後に、供給弁及び排出弁を閉止させるようにしてもよい。また、当該第2金型冷却装置2の稼働中は、貯留タンク20における低温媒体が所定レベルに維持されるように、低温媒体の増減等をレベル計やフロートスイッチ等によって検出し、上記供給弁及び排出弁を開閉制御し、適宜、低温媒体を補給乃至は排出させるようにしてもよい。
また、系内の圧力を検出する圧力計や、系内の圧力を維持するリリーフバルブ、系内の圧力の異常上昇を防止する安全弁等を必要に応じて適所に設けるようにしてもよい。
また、低温媒体としては、水に限られず、油系、アルコール系等の他の媒体を採用するようにしてもよい。
また、当該第2金型冷却装置2の上記した各部を、筐体(ケーシング)内に収容するようにしてもよい。
【0027】
金型3は、固定型30と可動型31とを有しており、これら固定型30及び可動型31には、上記した第2金型冷却装置2の送媒路22及び返媒路23が接続されて低温媒体が通過する媒体流通路30a,31aがそれぞれに設けられている。なお、符号38は、金型3の温度を検出する温度センサーである。
本実施形態では、これら固定型30及び可動型31には、入れ子32,33がそれぞれに埋め込まれるようにして設けられている。これら入れ子32,33の対向面には、成形品造形凹部がそれぞれに形成されており、これらを突き合わせることで樹脂等の溶融材料が充填されるキャビティー34が形成される。このキャビティー34に、射出成形機5(図2参照)のシリンダ等で溶融された樹脂等の溶融材料がノズル等から射出されて充填され、成形品が逐次、成形される。
【0028】
キャビティー34の形状は、成形品の形状に合わせて形成されるものであるが、小型電子機器等のケーシングやキャップ、各種部品等のようにリブやボス、フランジ等の凸部や、凹溝等の凹部等、細かく極端な凹凸形状がある場合もある。このような成形品のためのキャビティー34の形状は、図例のように複雑化し、これによって金型3に設けられた媒体流通路30a,31aから比較的に遠くなり、冷え難くなる部位が生じる。このような部位に媒体流通路を沿わせるようにして形成することも考えられるが、上述のように困難な場合があり、特に小型の成形品を成形する場合には、媒体を流通させる通路の形成自体も困難になり、当該部位(局部)の冷却不足による成形不良が発生したり、冷却時間が長期化したりする傾向がある。
【0029】
そこで、本実施形態では、金型3の固定型30及び可動型31(図例では、固定側の入れ子32及び可動側の入れ子33)によって形成されるキャビティー34の冷え難い部位に近接させた部位(局部、コア部)に、複数(図例では3つ)の冷却ブロック35,36,37(第1冷却ブロック35、第2冷却ブロック36、第3冷却ブロック37)を埋め込ませるようにして配設している。これら冷却ブロック35,36,37は、中空部35a,36a,37aをそれぞれに有している。
このような冷却ブロック35,36,37の形状は、キャビティー34の形状に応じて、キャビティー34内に充填された溶融材料の冷え難い部位、つまり、金型3の局部を局所的に冷却し得るような形状とすればよい。例えば、中空棒状や円筒形状、角筒形状、錐形状、錐台形状、中空円環形状、中空角環形状等、どのような形状でもよく、中空部を有したものとすればよい。そして、これら冷却ブロック35,36,37の形状に応じた冷却ブロック収容凹所32a,32b,33aを金型3に設けるようにすればよい。
【0030】
図例では、固定側の入れ子32に、反対向面側(可動側対向面とは異なる側)に開口するように、第1冷却ブロック35を受け入れる冷却ブロック収容凹所32aと第2冷却ブロック36を受け入れる冷却ブロック収容凹所32bとをそれぞれ形成し、可動側の入れ子33に、反対向面側(固定側対向面とは異なる側)に開口するように、第3冷却ブロック37を受け入れる冷却ブロック収容凹所33aを形成した例を示している。このように入れ子構造とされた金型3の入れ子32,33に冷却ブロック収容凹所32a,32b,33aを形成する態様とすることで、例えば、固定型30乃至は可動型31に冷却ブロック収容凹所を直接的に形成する態様に比べて、これらを容易に形成することができる。
また、上記した冷却ブロック35,36,37には、第1金型冷却装置1の供給ライン10及び排出ライン13がそれぞれに接続されている。金型3の固定型30及び可動型31には、これら各供給ライン10及び各排出ライン13を配設するための通路が形成されている。なお、これら各供給ライン10及び各排出ライン13の冷却ブロック35,36,37側の部位を金型3の固定型30乃至は可動型31に直接的に設けたものとしてもよい。
【0031】
第1金型冷却装置1は、排出ライン13と、この排出ライン13を経た媒体を凝縮させる凝縮部16を有した熱交換部15と、凝縮部16において凝縮された媒体を貯留する貯留部(トラップ部)17と、媒体供給部11を配した供給ライン10と、減圧手段19と、制御盤4(図2参照)とを備えている。
排出ライン13は、本実施形態では、冷却ブロック35,36,37の個数に合わせて三本の排出ライン13A,13B,13Cからなり、それぞれの一端が各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37a内に臨むように各冷却ブロック35,36,37に接続されている。図例では、各排出ライン13A,13B,13Cの一端部を各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aの上内壁面に沿わせるように配設した例を示している。各排出ライン13A,13B,13Cの他端は、凝縮部16の上端に設けられたマニホールド部16aに接続されている。
【0032】
熱交換部15は、マニホールド部16aを経た媒体を受け入れる管状の凝縮部16と、この凝縮部16を内管としてその周囲を覆うように設けられた外管15aと、凝縮部16を冷却する冷却手段としての冷却ファン15bとを有している。冷却ファン15bは、図例では、外管15aの下端に設けられた送風口へ外気を送風する構成とされている。また、外管15aの上端には、冷却ファン15bによって取り込まれた外気を排出する排気口が設けられている。
凝縮部16は、上下に細長管状とされ、その外周には、複数の伝熱フィン16bが設けられている。この凝縮部16の上端に設けられたマニホールド部16aには、各排出ライン13A,13B,13Cを経た媒体の温度を検出するための媒体温度センサー18が配設されている。なお、凝縮部16を内管として冷却用空気を通過させる外管を設けた態様に限られず、冷却用空気を通過させる内管の外周に凝縮部となる外管を設けた態様としてもよい。また、このような空冷式の冷却手段に限られず、上記第2金型冷却装置2のような水冷式の冷却手段を採用するようにしてもよく、その他、ガス式の冷却手段を採用するようにしてもよい。このような冷却手段を設けることで、例えば、自然空冷等によって凝縮させるようなものと比べて、より迅速に媒体を凝縮させ、低温にすることができる。なお、後記するように所定の減圧度とされて当該凝縮部が減圧下において、当該凝縮部16において媒体が沸騰しないように媒体を凝縮させて液化可能であれば、このような冷却手段を設けずに自然冷却(自然空冷)により凝縮させる態様としてもよい。
貯留部17は、凝縮部16の下端から流下する媒体を受け入れるように設けられており、この貯留部17に供給ライン10の一端が接続されている。
【0033】
供給ライン10には、フィルター10aと媒体供給部11としての媒体供給ポンプ12とが貯留部17から他端(金型3)側に向けてこの順に配設されている。媒体供給ポンプ12は、本実施形態では、後記するように各部及び各ラインが減圧されるため、減圧下において媒体を供給(吸い込み、吐出)し得るよう、斜流ポンプや遠心ポンプなどを採用することが好ましい。
供給ライン10は、本実施形態では、媒体供給ポンプ12の下流側(吐出側)において冷却ブロック35,36,37の個数に合わせて三本に分岐されている。分岐された各供給ライン10A,10B,10Cには、媒体供給部11としての電磁弁等のブロック開閉弁V1,V2,V3(第1ブロック開閉弁V1、第2ブロック開閉弁V2、第3ブロック開閉弁V3)がそれぞれに配設されている。本実施形態では、これらブロック開閉弁V1,V2,V3の開閉態様を設定変更可能とすることで、冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aへの媒体の供給量の調整を可能としている。
【0034】
各供給ライン10A,10B,10Cは、それぞれの分岐側とは異なる一端が各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37a内に臨むように各冷却ブロック35,36,37に接続されている。図例では、各供給ライン10A,10B,10Cの一端部を各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aの下内壁面に沿わせるように配設した例を示している。
なお、これら各部同士及び各部と各ラインとは気密的に連結されている。つまり、本実施形態では、供給ライン10(10A,10B,10C)、各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37a、排出ライン13(13A,13B,13C)、凝縮部16及び貯留部17が気密的に閉ループを形成するようにこれらを連結している。
【0035】
減圧手段19は、排出ライン13に連通するように設けられ、上記のように気密的に連結された各部及び各ラインを減圧する。この減圧手段19は、本実施形態では、真空ポンプ19aと、この真空ポンプ19aに一端が接続され、他端がマニホールド部16aに接続された真空ライン19bとを備えている。この真空ライン19bには、圧力センサー19cとフィルター19dと真空ポンプ開閉弁V4とがマニホールド部16aから真空ポンプ19aに向けてこの順に配設されている。本実施形態では、この圧力センサー19cの検出圧力に基づく真空ポンプ19a及び真空ポンプ開閉弁V4の作動及び開閉態様を設定変更可能とすることで、上記各部及び各ラインの減圧度の調整を可能としている。
このような減圧手段19を排出ライン13に連通させて設けることで、上記した各部及び各ラインの減圧度が低下すれば、当該減圧手段19を作動させることで所定の減圧度を維持することができる。
【0036】
なお、当該第1金型冷却装置1の起動時には、凝縮部16乃至は貯留部17等に設けた媒体供給口から媒体を供給し、所定量の媒体を貯留部17等に貯留させるようにしてもよい。また、当該第1金型冷却装置1の稼働中は、貯留部17における媒体が所定レベルに維持されるように、媒体の増減等をレベル計やフロートスイッチ等によって検出し、適宜、媒体を補給乃至は排出させるようにしてもよい。この場合には、系内(上記各部及び各ライン)の減圧度が維持されるように供給管乃至は排出管を接続する態様としてもよい。
また、系内の圧力を維持するリリーフバルブ、系内の圧力の異常降下を防止する安全弁等を必要に応じて適所に設けるようにしてもよい。
また、当該第1金型冷却装置1の上記した各部を、筐体(ケーシング)内に収容するようにしてもよい。
【0037】
また、当該第1金型冷却装置1に採用される媒体としては、後記するように減圧下において媒体を各冷却ブロック35,36,37に供給し、各冷却ブロック35,36,37内において蒸発、気化させる際に、効率的な冷却を行う観点等から、水、アルコール系等の常圧下(大気圧下)における沸点が100℃以下の媒体とすることが好ましい。つまりは、常圧下における沸点が高い媒体を採用した場合において冷却効率を高める場合には、減圧度をより高める(より高真空(より絶対真空側)にする)必要がある傾向があるため、常圧下(大気圧下)における沸点が100℃以下の媒体とすることが好ましい。
また、本実施形態では、媒体に界面活性剤を添加している。この界面活性剤の添加量は、媒体の種類や界面活性剤の種類、金型3の設定温度等に応じて実験的乃至は経験的に設定するようにすればよく、数%程度としてもよい。また、このような界面活性剤としては、市販の台所用洗剤等の液体中性洗剤に含まれる界面活性剤としてもよく、このような液体中性洗剤を媒体に添加するようにしてもよい。
【0038】
制御盤4は、計時手段や演算処理部等を有し、当該第1金型冷却装置1の上記した各弁や各機器、各部を所定のプログラムに従って制御するCPU40と、このCPU40に信号線等を介してそれぞれ接続された表示操作部としての操作パネル41及び記憶部42とを備えている。このCPU40には、図2に示すように、信号線等を介して、上記した各弁や各機器、各種センサー等、さらには射出成形機5及び金型温度センサー38が接続されている。
操作パネル41は、各種設定操作や、事前設定入力項目(金型設定温度や媒体設定温度、設定圧力、各種設定時間など)などを設定、入力したり、各種設定条件や、各種運転モードなどを表示したりする。
記憶部42は、各種メモリ等から構成されており、操作パネル41の入力操作等により設定、入力された設定条件や入力値、後記する基本動作などの種々の動作を実行するための制御プログラムなどの各種プログラム、予め設定された各種動作条件や各種データテーブル等が格納される。
【0039】
なお、この制御盤4は、当該第1金型冷却装置1の筐体に組み込むようにしてもよく、筐体の上部や側部等に設置するようにしてもよい。また、この制御盤4に信号線等を介して第2金型冷却装置2を接続し、当該第1金型冷却装置1と第2金型冷却装置2とを同期的に連動させて制御する態様としてもよい。この場合、第2金型冷却装置2の制御盤を当該制御盤4によって兼用する態様としてもよい。つまりは、第2金型冷却装置2の各部を当該制御盤4によって制御等する態様としてもよい。
【0040】
上記構成とされた本実施形態に係る第1金型冷却装置1においては、CPU40によって減圧手段19の作動制御がなされ、上記した各部及び各ラインが減圧される。例えば、圧力センサー19cの検出圧力に応じて真空ポンプ19aを作動させ、真空ポンプ開閉弁V4を開放させることで、上記した各部及び各ラインが所定の減圧度となるように減圧される。
また、これら各部及び各ラインが減圧下において、CPU40によって媒体供給部11の作動制御がなされ、各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに媒体が供給される。例えば、所定の金型冷却開始信号に基づいて媒体供給ポンプ12を作動させ、各冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を所定態様で開放させて、各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに所定量の媒体が供給される。各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに供給された媒体は、金型3のキャビティー34に充填された樹脂等の溶融材料によって高熱となる金型局部からの伝熱によって加熱される冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aの内壁面の熱を吸熱し、蒸発して気化する。この際の気化熱によって冷却ブロック35,36,37が冷却され、金型3の局部の冷却がなされる。また、金型3(より特定的には冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aの内壁面)からの吸熱により気化した媒体は、排出ライン13を経て排出され、凝縮部16に至り、必要により冷却されて凝縮して液化し、貯留部17に貯留される。
【0041】
次に、本実施形態に係る金型冷却システムAにおいて実行される基本動作の一例を図3に基づいて説明する。
なお、図3では、各機器のON/OFF動作や各開閉弁の開閉動作を模式的に図示している。また、図3(b)に示すグラフでは、横軸を時間軸、縦軸を凝縮部16に設けた媒体温度センサー18の検出温度とし、その推移を模式的に示している。また、図3(c)に示すグラフでは、横軸を時間軸、縦軸を真空ライン19bに設けた圧力センサー19cの検出圧力とし、その推移を模式的に示している。
【0042】
まず、射出成形機5においては、図示は省略しているが、金型3を型閉し、金型3に設けられたキャビティー34に樹脂等の溶融材料を射出し、充填して適宜、保圧し、溶融材料が固化すれば、型開し、成形品の取り出しがなされる。このような一連の射出成形工程において、溶融材料をキャビティー34に充填した後、迅速に溶融材料を固化させるために、金型冷却工程が実行され、この金型冷却工程を実行するために本実施形態に係る金型冷却システムAが用いられる。図示は省略しているが、第2金型冷却装置2においては、射出成形機5の成形動作に連動させて、金型3に設けられた媒体流通路30a,31aに低温媒体の循環供給がなされ、金型冷却工程が実行される。この低温媒体の循環供給は、射出成形機5の型閉信号や射出信号、保圧信号に基づいて開始させるようにしてもよく、これらの信号から所定の遅延時間が経過した後に開始させるようにしてもよい。また、この低温媒体の循環供給は、所定時間が経過するまで継続させるようにしてもよく、また、射出成形機5からの保圧信号や型開信号等に基づいて停止させるようにしてもよい。または、第2金型冷却装置2においては、射出成形機5の成形動作に連動させて、金型3への循環供給とバイパス路を経た循環とを繰り返し実行する態様に代えて、金型3へ常時、低温媒体を循環供給させる態様としてもよい。
【0043】
第1金型冷却装置1においては、図3(a)に示すように、射出成形機5の成形動作に連動させて、媒体の供給がなされ、金型冷却工程が実行される。本動作例では、射出成形機5の射出信号に基づいて媒体供給部11を作動制御し、各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに媒体を供給する態様としている。また、本動作例では、射出成形機5の射出信号を受信した後、所定の遅延時間t1が経過した後に媒体供給部11の媒体供給ポンプ12を作動させるようにしている。この遅延時間t1は、キャビティー34の容積や各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに媒体が到達するまでの時間等を考慮して、樹脂等の溶融材料がキャビティー34に充填される際(射出初期)に溶融材料のキャビティー34内における流動性を阻害しないよう、実験的乃至は経験的に定めるようにしてもよい。
【0044】
また、媒体供給ポンプ12を作動させると同時にまたは作動させた後に所定の遅延時間が経過すれば、各冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を開とする。本動作例では、これら冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を所定の供給時間t2が経過するまで開放させるようにしている。この供給時間t2が経過すれば、媒体供給ポンプ12を停止させ、また、各冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を閉とする。本動作例では、この供給時間t2を設定変更することで、冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aへの媒体の供給量の調整を可能としている。この供給時間t2の設定変更は、例えば、操作パネル41を用いてなされるものとしてもよい。また、この供給量は、金型3の局部(つまりは、冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aの内壁面)からの吸熱により略全量が気化し、排出ライン13を経て排出される量とすることが好ましい。この供給量(最適供給量)は、各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aの容積や後記する減圧度、樹脂等の溶融材料充填前後の金型温度(冷却ブロック35,36,37への伝熱温度)等に基づいて伝熱面(冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aの内壁面)から放出される熱量を算出し、これと媒体の気化熱量や冷却後の金型3の局部の目標温度等を考慮して実験的乃至は経験的に定めるようにしてもよい。また、上記伝熱面から放出される熱量は、冷却ブロック内の温度を検出する温度センサーを設け、この温度センサーの検出温度に基づいて算出するようにしてもよい。
【0045】
また、この供給量は、少なすぎれば金型3の局部からの吸熱により比較的に迅速に気化して十分な冷却効果が発揮され難い傾向がある。つまりは、金型3の局部から奪う熱量に不足が生じる傾向がある。また、多すぎれば、当該媒体の供給による金型冷却工程終了時に冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37a内に残る媒体量が多くなる傾向があり、これにより、次の射出工程時に残媒体が気化し、その吸熱作用により溶融材料の流動性を阻害する傾向がある。従って、上記のように媒体の供給量を適宜、実験的乃至は経験的に定めるようにしてもよい。なお、比較的に少量の残媒体であれば、型開や取り出し工程時に気化するため、このような傾向は少なくなる。
また、供給ライン10に適宜、エアパージラインを接続し、当該金型冷却工程終了後に冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37a内の残媒体をエアパージするようにしてもよい。この場合は、上記した各部及び各ラインが所定の減圧度に維持されるように適宜、減圧手段19を作動させるようにすればよい。
【0046】
また、媒体の供給は、上記のように供給時間t2が経過するまで各冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を開放させる態様に限られず、所定の供給量となるように、各冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を間欠的に開放させる態様としてもよい。
また、媒体の供給量の調整は、供給時間t2を設定変更することで調整する態様に限られず、例えば、各冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3として開度調整可能な開閉弁を採用し、その開度を調整することで媒体の供給量の調整を行うものとしてもよい。
【0047】
このように本動作例においては、媒体の供給量の調整を可能としている。従って、冷却ブロック35,36,37による金型3の局部の冷却能力(冷却熱量)の調整を容易に行うことができる。つまり、各冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに供給された媒体が気化することによって金型3の局部から伝熱によって加熱された冷却ブロック35,36,37の熱量を奪うため、媒体の供給量を調整することで、冷却ブロック35,36,37(つまりは金型3の局部)から奪う熱量の調整ができ、冷却ブロック35,36,37による金型3の局部の冷却能力の調整を容易に行うことができる。
また、本実施形態では、複数の冷却ブロック35,36,37のそれぞれに接続される複数の供給ライン10A,10B,10Cのそれぞれに冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を設けているので、これら各冷却ブロック開閉弁V1,V2,V3を個別に制御することで、冷却ブロック毎に冷却タイミングや媒体の供給量を変更することもできる。これによれば、各冷却ブロックに応じた最適な冷却制御を実行することができ、キャビティー34の形状に応じた最適な冷却制御を行うことも可能となる。例えば、射出成形機5のノズルから射出されて金型3のゲート部(不図示)を通過し、キャビティー34の各部に充填される溶融材料の流動性を阻害しないように、溶融材料の流れ方向に沿ってゲート部側に近い側の部位を冷却する冷却ブロック(例えば、第3冷却ブロック37)の冷却開始タイミングを遠い側の部位を冷却する冷却ブロック(例えば、第1,2冷却ブロック35,36)よりも遅らせるような制御も可能となる。これによれば、フローマークやウェルドライン等の不良が生じ難くなり、成形品へのキャビティー面の転写性(転写率)を向上させることができる。
【0048】
上記のように冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに供給された媒体は、金型3からの吸熱によって気化し、各排出ライン13A,13B,13Cを経て、凝縮部16(熱交換部15)に至る。
熱交換部15においては、図3(b)に示すように、媒体温度センサー18の検出温度に基づいて冷却ファン15bの作動制御がCPU40によってなされる。つまり、気化した媒体がマニホールド部16aに至れば、媒体温度が上昇する。そして、検出温度が予め設定された設定温度(閾値)を上回れば、冷却ファン15bを作動させる。この冷却ファン15bの作動は、上記検出温度が上記閾値を下回るまで継続させるようにしてもよく、または、予め駆動時間を設定しておき、その駆動時間が経過した後に停止させるようにしてもよい。
このように本動作例においては、媒体温度センサー18の検出温度に基づいて凝縮部16を冷却する冷却手段としての冷却ファン15bの作動制御を実行するようにしているので、省エネルギー化を図ることができる。
なお、熱交換部15の冷却手段として、水冷式の冷却手段を採用した場合には、冷却管に配設された電磁弁等の冷却弁を、上記のように作動制御するようにしてもよい。
【0049】
また、当該第1金型冷却装置1の稼働中は、図3(c)に示すように、圧力センサー19cによって上記した各部及び各ラインの減圧度を監視しており、この圧力センサー19cの検出圧力が予め設定された所定の下限圧力(低真空側(大気圧側))を上回れば(低真空側(大気圧側)に変動すれば)、減圧手段19を作動制御し、減圧する。つまり、真空ポンプ19aを作動させると同時にまたは作動させた後に所定の遅延時間が経過すれば、真空ポンプ開閉弁V4を開とする。この真空ポンプ19aの作動及び真空ポンプ開閉弁V4の開放は、圧力センサー19cの検出圧力が予め設定された設定圧力(閾値)を下回るまで継続させるようにしてもよい。本動作例では、この設定圧力の設定変更を行うことで、上記した各部及び各ラインの減圧度の調整を可能としている。この設定圧力の設定変更は、例えば、操作パネル41を用いてなされるものとしてもよい。
【0050】
このように減圧度の調整を可能とすることで、冷却ブロック35,36,37(つまりは金型3の局部)の冷却温度を調整することができる。つまり、冷却後の金型3の局部の目標温度等に応じて、減圧度を調整することで、冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aにおける媒体の気化温度(蒸発開始温度)の調整を行うことができる。つまりは、減圧度を高く(高真空に)すれば、冷却ブロック35,36,37をより低温域で冷却することができ、減圧度を低く(低真空に)すれば、冷却ブロック35,36,37をより高温域で冷却することができる。この減圧度の設定範囲は、媒体を水(清水)とした場合を例にすれば、該媒体が30℃〜80℃程度の範囲で沸騰するような範囲としてもよい。この減圧度を高真空にしすぎれば、冷却ブロックをより冷却することができるが、真空ポンプの大型化や凝縮部の冷却能力(放熱能力)を高める必要が生じる傾向がある。一方、減圧度を低真空にしすぎれば、冷却ブロックによる金型局部の冷却効率が低下する傾向がある。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る第1金型冷却装置1によれば、金型3の局部を効果的に冷却することができる。つまり、本実施形態では、媒体を作動流体として、蒸発部(吸熱部)として機能する冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aと凝縮部16との間をヒートパイプのように熱輸送がなされるので、極めて効率的な冷却が可能となる。
また、上記した各部16,17,35a,36a,37a及び各ライン10,13が減圧された状態であるので、比較的に低温で媒体を蒸発、気化させることができるため、冷却効率を向上させることができる。
さらに、例えば、冷却水等を金型の媒体流通路に通過させて冷却するような場合と比べて、媒体の必要量が少なく、また、ヒートパイプのような熱輸送形式であるので、熱伝達率が極めて良く、冷却ブロック35,36,37(つまりは金型3の局部)を迅速に冷却することができる。この結果、成形サイクルを短縮化することができる。
【0052】
さらにまた、冷却ブロック35,36,37をキャビティー34の局部(凹部や凸部等の冷え難い部位)の形状に応じて形成し、金型3に埋め込ませるようにして配設し、その冷却ブロック35,36,37に対して各ライン10,13を接続することで当該第1金型冷却装置1を用いることができるので、金型3内に熱交換手段等を設置したり、金型3自体の内部形状を複雑化させたりすることなく、種々の金型に簡便に適用することができる。つまりは、種々の金型に応じて冷却ブロックを配設し、これに当該第1金型冷却装置1を接続して使用することができるので、汎用性の高いものとなる。
また、媒体供給部11を作動制御し、所定の金型冷却開始信号に基づいて冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37aに媒体を供給するCPU40を備えているので、金型3の局部の冷却タイミングの制御を容易に行うことができる。この結果、上述のように、溶融材料の流動性等を阻害しないような冷却タイミングの制御を行うこともでき、不良品等の発生を防止することもできる。
【0053】
また、本実施形態では、第1金型冷却装置1の媒体に、界面活性剤を添加している。従って、界面活性作用により、媒体のぬれ性や起泡性等を向上させることができるので、冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37a内面に該媒体がより付着し易くなることから、吸熱効率を向上させることができる。この結果、金型3の局部を冷却ブロック35,36,37によってより効果的に冷却することができる。なお、冷却ブロック35,36,37の中空部35a,36a,37a内面に、ぬれ性等を向上させる観点から粗面処理等の表面処理を施すようにしてもよい。
【0054】
また、本実施形態に係る金型冷却システムAは、第1金型冷却装置1と、この第1金型冷却装置1の排出ライン13及び供給ライン10に接続されるとともに、金型3の局部に埋め込まれるようにして配設される冷却ブロック35,36,37とを備えている。従って、金型3の局部を効果的に冷却することができる。
また、本実施形態に係る金型冷却システムAは、金型3に設けられた媒体流通路30a,31aに低温媒体を供給する第2金型冷却装置2を備えている。従って、第2金型冷却装置2によって金型3の媒体流通路30a,31aに低温媒体を供給することで、金型3の大部分を冷却できるとともに、金型3の局部を冷却ブロック35,36,37によって効果的に冷却することができ、金型3のキャビティー34周辺部位をより効率的に冷却することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、第2金型冷却装置2を、金型3の冷却に用いた例を示しているが、金型3を所定温度に維持する金型温度調節装置として用いるようにしてもよい。または、射出成形機5の射出成形動作に連動させて、金型3の加熱と金型3の冷却とを実行する金型加熱冷却装置として用いるようにしてもよい。または、第2金型冷却装置2に加えて、金型加熱装置を本実施形態に係る金型冷却システムAに更に組み込み、射出成形機5の射出成形動作に連動させて、金型加熱装置からの高温媒体と第2金型冷却装置2からの低温媒体とを交互に金型3の媒体流通路30a,31aに循環供給する態様としてもよい。さらには、上記のような第2金型冷却装置2に代えて、本実施形態に係る金型冷却システムAに適宜、公知の金型冷却装置、金型加熱装置、金型温度調節装置乃至は金型加熱冷却装置を組み込むようにしてもよい。
また、このような第2金型冷却装置2等を組み込まずに、第1金型冷却装置1によって金型3の局部のみを冷却するものとしてもよい。このような場合には、金型3のキャビティー34に射出された溶融材料の自己熱によって金型3の加熱がなされるものとしてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、金型3の局部に埋め込ませるようにして3つの冷却ブロック35,36,37を配設した例を示しているが、金型のキャビティーの形状に応じて、単一または複数の冷却ブロックを配設する態様としてもよい。
さらに、本実施形態では、金型3に冷却ブロック収容凹所を設け、金型のキャビティー34に近接させるようにして冷却ブロックを配設した例を示しているが、冷却ブロックの一部がキャビティー面を構成するように配設する態様としてもよい。この場合には、冷却ブロックのキャビティー面を適宜、成形する成形品の表面形状に応じて鏡面加工を施したり、粗面加工を施したりするようにしてもよい。
さらにまた、本実施形態では、分岐させた複数の供給ライン10A,10B,10Cのそれぞれにブロック開閉弁V1,V2,V3を設けた例を示しているが、これら供給ライン10A,10B,10Cの分岐部の上流側(媒体供給ポンプ12側)に単一のブロック開閉弁を設ける態様としてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、上記した各部及び各ラインを減圧する減圧手段を排出ラインに連通させて設けた例を示しているが、このような減圧手段を備えないものとしてもよい。この場合は、当該第1金型冷却装置1及びこれを備えた金型冷却システムAが設置される工場等に設けられた真空ポンプ等を適宜、接続し、上記各部及び各ラインを減圧するようにしてもよい。また、この場合、リーク等に起因して減圧度が下がることも考えられるため、適宜箇所に設けられた圧力ゲージ等を確認し、所定の減圧度が維持されていなければ真空ポンプを接続して減圧するようにしてもよい。
【0058】
さらに、本実施形態では、凝縮部16のマニホールド部16aに媒体の温度を検出する媒体温度センサー18を設けた例について説明したが、図1の二点鎖線で示すように、凝縮部16の上端部に媒体温度センサー18を設けるようにしてもよく、または、貯留部17に媒体温度センサー18を設けるようにしてもよい。貯留部17に媒体温度センサー18を設けた場合にも、凝縮した媒体の流下によって媒体温度の上昇を検出することができ、これに基づいて冷却手段としての冷却ファン15bの作動制御を実行することは可能である。また、このように貯留部17の媒体温度を検出する媒体温度センサー18を設けた場合には、貯留部17の媒体を冷却する冷却手段(例えば、冷風や冷媒が通過する冷却管等)を貯留部17に設け、冷却ブロックに供給する媒体の温度が所定温度となるように媒体温度センサーの検出温度に基づいてこの冷却手段(冷却ファンや冷却管の冷却弁等)を作動制御するようにしてもよい。これによれば、より安定した温度の媒体を冷却ブロックに供給することができる。
【0059】
さらには、媒体の温度を検出する媒体温度センサー18を設ける態様に変えて、圧力センサー19cの検出圧力に基づいて、熱交換部15乃至は貯留部17の冷却手段の作動制御を実行する態様としてもよい。つまり、上記した各部及び各ラインは所定の減圧度に維持されているが、冷却ブロックに供給された媒体の気化量によっては僅かに検出圧力に変動が生じることもあるため、それを検出し、その変動量が所定以上であれば、上記冷却手段を作動させるような態様としてもよい。
さらにまた、図例では、凝縮部16と貯留部17とを個別に設けた例を示しているが、凝縮部16の下端にトラップ部を一体的に設け、このトラップ部を貯留部として機能させるようにしてもよい。
また、本発明に係る金型冷却装置及びこれを備えた金型冷却システムは、合成樹脂材料が射出、充填されて合成樹脂成形品を成形する金型3に限られず、その他の材料が射出、充填されて成形品を成形する金型にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0060】
A 金型冷却システム
1 第1金型冷却装置(金型冷却装置)
10 供給ライン
11 媒体供給部
13 排出ライン
15b 冷却ファン(冷却手段)
16 凝縮部
17 貯留部
18 温度センサー
19 減圧手段
2 第2金型冷却装置
3 金型
30a,31a 媒体流通路
35,36,37 冷却ブロック
35a,36a,37a 冷却ブロックの中空部
40 CPU(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の局部に埋め込まれるようにして配設される冷却ブロックの中空部に接続されるとともに、前記金型からの吸熱により気化した媒体を排出する排出ラインと、この排出ラインを経た気化した媒体を凝縮させる凝縮部と、この凝縮部において凝縮された媒体を貯留する貯留部と、この貯留部の媒体を前記冷却ブロックの中空部に供給する媒体供給部を配した供給ラインと、これら各部及び各ラインが減圧下において、前記媒体供給部を作動制御し、所定の金型冷却開始信号に基づいて前記冷却ブロックの中空部に前記媒体を供給する制御部とを備えていることを特徴とする金型冷却装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記排出ラインに連通し、前記各部及び各ラインを減圧する減圧手段を更に備えていることを特徴とする金型冷却装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記減圧手段による前記各部及び各ラインの減圧度の調整が可能とされていることを特徴とする金型冷却装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記媒体供給部による前記冷却ブロックの中空部への媒体の供給量の調整が可能とされていることを特徴とする金型冷却装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記凝縮部を冷却する冷却手段を更に備えていることを特徴とする金型冷却装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記凝縮部または前記貯留部に温度センサーを更に設け、
前記制御部は、前記温度センサーの検出温度に基づいて前記冷却手段の作動制御を実行することを特徴とする金型冷却装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、
前記媒体には、界面活性剤が添加されていることを特徴とする金型冷却装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の金型冷却装置と、この金型冷却装置の排出ライン及び供給ラインに接続されるとともに、金型の局部に埋め込まれるようにして配設される冷却ブロックとを備えていることを特徴とする金型冷却システム。
【請求項9】
請求項8において、
前記金型に設けられた媒体流通路に低温媒体を供給する第2金型冷却装置を更に備えていることを特徴とする金型冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121245(P2012−121245A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274588(P2010−274588)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000146054)株式会社松井製作所 (70)
【Fターム(参考)】