説明

金型装置

【課題】リターンピンへのバリの噛み込みを防止することが可能な金型装置を提供する。
【解決手段】金型装置10は、その合わせ面11a,12aにキャビティ部17が形成される下型11及び上型12と、キャビティ部17に成形された成形品を下型11から離型させるエジェクタピン21と、型閉め時にエジェクタピン21を所定の位置に戻すためのリターンピン22とを備えている。リターンピン22はカバー部材40で覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型装置、特に型閉め時にエジェクタピンを所定の位置に戻すためのリターンピンを備えた金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いた射出成形では、キャビティ部内に充填された成形材料が固化して成形品が得られるが、凝固収縮のため、成形品は金型に抱きつく。そこで、キャビティ部内に突き出るエジェクタピンで押し出して、成形品を離型させている。
【0003】
エジェクタピンは、成形材料充填時にはキャビティ部から退避している必要があり、リターンピンを用いて型閉め時に所定の位置に退避させられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
成形時には、一般的にバリと呼ばれる、成形材料が固化した薄状の突起物が型合わせ面(パーティング面)などに生じる。バリは、通常は成形品に付着して型外に排出されるが、金型に付着して型外に排出されないこともある。こうしたバリは、型開き時毎の型清掃時に、エアブローなどで吹き飛ばし、型外に排出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−225367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エアブローなどで吹き飛ばしたバリが、リターンピンと型ベースとの当接面などに入り込むことがある。この場合、リターンピンへのバリの噛み込みによって、型閉め時にエジェクタピンが所定の位置まで退避されず、その先端がキャビティ内に僅かに突き出た状態になる。この状態で成形を行うと、エジェクタピンの先端形状が転写され、成形品に外観不良が発生する可能性がある。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、リターンピンへのバリの噛み込みを防止することが可能な金型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、キャビティ部を有する金型と、前記キャビティ部に成形された成形品を前記金型から離型させるエジェクタピンと、型閉め時に前記エジェクタピンを所定の位置に戻すためのリターンピンとを備えた金型装置であって、前記リターンピンがカバー部材で覆われていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、リターンピンはカバー部材で覆われているので、リターンピンへのバリなどの異物の噛み込みを防止することが可能となる。よって、型閉め時にエジェクトピンが所定の位置まで戻らずに、その先端がキャビティ内に突き出た状態となることが防止される。従って、エジェクタピンの先端形状が転写され、成形品に外観不良が発生する可能性を低減することができる。
【0010】
本発明において、前記リターンピンは型閉め時に型ベースに当接する鰐部を有し、前記カバー部材は前記型ベースに固定され、前記鰐部の外周を覆う筒状部を有しており、前記カバー部材の筒状部の長さは、前記リターンピンの移動量よりも長いことが好ましい。
【0011】
この場合、リターンピンの移動に拘わらず、常にカバー部材の筒状部によってリターンピンの鰐部と型ベースとの間が覆われ、この間にバリなどの異物が進入することを防止することが可能となる。従って、エジェクタピンの先端形状が転写され、成形品に外観不良が発生する可能性を確実に低減することができる。
【0012】
本発明において、前記カバー部材の筒状部の上部にシール体が配置されていることが好ましい。
【0013】
この場合、シール体によって、リターンピンの鰐部とカバー部材の筒状部との間をシールすることができ、この間にバリなどの異物が侵入することを確実に防止することが可能となる。
【0014】
本発明において、前記金型は下型と上型とからなり、前記エジェクトピンは、前記成形品を前記下型から離型させる下型用エジェクトピンと、前記成形品を前記上型から離型させる上型用エジェクトピンとからなり、前記リターンピンは、前記下型用エジェクトピンを所定の位置に戻すための下型用リターンピンと、前記上型用エジェクトピンを所定の位置に戻すための上型用リターンピンとからなり、前記カバー部材の筒状部は前記下型用リターンピンの鰐部の外周を覆い、型閉め時に、前記下型用リターンピンの上面が前記上型用リターンピンの下面と当接して押し下げられ、前記下型用リターンピンと前記上型用リターンピンとの当接面が前記下型と前記上型との合わせ面の位置より高いことが好ましい。
【0015】
この場合、エアブローなどで吹き飛ばしたバリなどの異物が、下型用リターンピンの鰐部とカバー部材の筒状部との間に侵入するおそれを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る金型装置の型閉め時における状態を示す概略断面図。
【図2】金型装置の型開け時における下型の状態を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る金型装置10について説明する。金型装置10は、鉄などの溶融金属を用いた射出成形によって製品(成形品)を製造する成形機に備わる装置である。
【0018】
図1に示すように、金型装置10は、固定金型である下型11と、不図示の駆動機構により上下動する可動金型である上型12とを備えている。そして、下型11は下型ベース13を介して、上型12は上型ベース14を介してそれぞれ成形機の基台15,16に固定されている。
【0019】
下型11と上型12とを型合わせしたとき、これらの合わせ面(パーティング面)11a,12aに、キャビティ部17及び注湯部18が形成される。キャビティ部17は、成形品の形状に即した形状を有しており、下型11の合わせ面11aに形成されたキャビティ面11bと、上型12の合わせ面12aに形成されたキャビティ面12bとから構成される。
【0020】
金型装置10には、成形品を下型11から離型させる離型機構20が設けられている。この離型機構20は、キャビティ部17に成形された成形品をキャビティ面11bから押し出すエジェクタピン(突き出しピン)(下型用エジェクタピン)21と、型閉め時にエジェクタピン21を元の所定の位置に戻すためのリターンピン(戻しピン)(下型用リターンピン)22とを備えている。
【0021】
なお、図1では、離型機構20は、2本のエジェクタピン21と1本のリターンピン22とを備えているが、これらピン21,22の本数はこれに限定されない。
【0022】
エジェクタピン21及びリターンピン22の基端(下端)はエジェクタプレート(突き出し板)23,24に固定されている。詳細は図示しないが、具体的には、エジェクタピン21及びリターンピン22の基端がエジェクタプレート23にボルトで固定され、エジェクタプレート23,24同士がボルトで固定されている。これにより、エジェクタピン21、リターンピン22及びエジェクタプレート23,24は一体になっている。
【0023】
エジェクタピン21は、下型11及び下型ベース13にそれぞれ貫通された孔を挿通して、その先端面(上端面)がキャビティ部17に臨んで位置している。リターンピン22は、下型11及び下型ベース13にそれぞれ貫通された孔を挿通して、その先端部(上端部)の鰐部22aが下型ベース13の上方に位置している。鰐部22aは、全体として円柱状であり、その上面及び下面が水平に形成されている。
【0024】
そして、離型機構20は、図示しないが、エジェクタプレート23,24を上方に付勢する付勢手段を備えている。これにより、図2に示すように、型開き時には、エジェクタプレート23,24と一体とされたエジェクタピン21が上方に移動して、その先端(上面)がキャビティ面11aを超えて上方に突き出る。
【0025】
図1に示すように、金型装置10には、さらに、成形品を上型12から離型させる離型機構30が設けられている。この離型機構30は、エジェクタピン(上型用エジェクタピン)31、リターンピン(上型用リターンピン)32、エジェクタプレート33,34及び不図示の付勢手段を備えており、離型機構20と上下対称にほぼ同様に構成されている。
【0026】
ここで、リターンピン22の先端面(上端面)とリターンピン32の先端面(下端面)とは、型閉め時に当接するように構成されている。型閉め時には、上型12が下降してきて、リターンピン22,32の先端面同士が当接する。これにより、リターンピン22とエジェクタプレート23,24を介して一体とされたエジェクタピン21とは下方に一体として移動する。そして、リターンピン32とエジェクタプレート33,34を介して一体とされたエジェクタピン31とは上方に一体として上型12に対して相対移動する。
【0027】
そして、エジェクタピン21,31の移動は、リターンピン22,32の鰐部22a,32aが下型ベース13、上型ベース14に当接するまで行われる。これにより、エジェクタピン21,31の先端がキャビティ部17から退避される。
【0028】
そのため、リターンピン22の鰐部22aと下型ベース13との間にバリなどの異物が存在する場合には、エジェクタピン21が所定の位置まで完全に退避されずに、その先端がキャビティ面11bより上方に突き出た状態になるおそれがある。この状態で成形を行うと、エジェクタピン21の先端形状が転写され、成形品が外観不良となる可能性がある。
【0029】
そこで、金型装置10は、下型ベース13に固定され、リターンピン22の鰐部22aの外周を覆う筒状部40aを備えたカバー部材40を備えている。ここでは、カバー部材40は、筒状部40aを有する本体41と、本体41に形成された溝に配設されたシール体42と、シール体42を封止するための蓋体43とから構成されている。ただし、カバー部材40の構成は、これに限定されない。
【0030】
本体41は、鰐部22aがその内部を摺動可能な略円筒形状に形成されており、その下端の鰐部41aがボルト44によって下型ベース13の上面に固定されている。そして、本体41の上端の鰐部41bには、シール体42を収容するための拡径部が形成されている。
【0031】
シール体42は、Oリングなどの環状の弾性シール材であり、リターンピン22の鰐部22aと本体41との間をシールするように、鰐部22aの外周面と接するように構成されている。シール体42は、リターンピン22が上下動しても鰐部22aの外周面に常に接するように、その高さが設定されている。
【0032】
蓋体43は、リング板状に形成されており、シール体42が収容された本体41にボルト45で固定されている。
【0033】
このようなカバー部材40によって、リターンピン22の鰐部22aと下型ベース13との間にバリなどの異物が進入することを完全に防止することができる。よって、型閉め時に、エジェクタピン21は所定の位置に確実に退避されるので、成形品の外観にエジェクタピン21の先端の形状が転写されることはない。
【0034】
ところで、型閉め時にリターンピン22,32の先端面同士が当接する位置は、下型11の合わせ面11aより高いことが好ましい。これにより、エアブローなどで吹き飛ばしたバリなどの異物が、リターンピン22とカバー部材40との隙間に侵入して、シール体42を損傷させるおそれを低減することが可能となる。よって、シール体42の寿命が向上し、メンテナンス頻度を削減することができる。
【0035】
ただし、型閉め時にリターンピン22,32の先端面同士が当接する位置は、合わせ面11aより高くなくてもよい。例えば、型閉め時のリターンピン22,32の先端面の高さが、合わせ面11aの高さと一致していてもよい。この場合、リターンピン22,32の高さ調整作業が簡易になる。なお、高さ調整は、例えば、リターンピン22,32の鰐部22a,32aと下型ベース13、上型ベース14との間に挟み込むシムの枚数や厚さを変更すればよい。
【0036】
また、シール体42の交換は、金型装置10を分解することなく、ボルト45で固定された蓋体43を取り外すことのみによって容易に行えるので、メンテナンス性に優れている。
【0037】
以下、金型装置10の型閉め時と型開け時の動作について説明する。
【0038】
型閉め状態では、リターンピン22,32の先端面同士が当接しており、エジェクタピン21,22がキャビティ部17から退避した位置に存在している。そして、この状態で、不図示の溶湯供給手段によって、溶融金属が注湯部18を介してキャビティ部17内に供給される。そして、溶融金属が冷却されキャビティ部17内で固化した後、型開き動作が行われる。
【0039】
図2に示すように、型開き時には、まず、前記駆動手段によって上型12が上方に移動する。これに伴い、前記付勢手段の付勢力によって、エジェクタプレート23,24が上方に移動すると共に、これらと一体化されたエジェクタピン21が上方に移動する。そして、エジェクタピン21の先端がキャビティ面11bを超えて上方に突き出て、キャビティ面11bに付着していた成形品が押し出される。このとき、リターンピン22も上方に移動するが、その鰐部22aの外周面はシール体42と常に接している。
【0040】
なお、型開き時には、離型機構30も離型機構20と同様に動作するが、これは、成形品が、下型11のキャビティ面11bでなく、上型12のキャビティ面12bに付着する可能性があるからである。このような可能性がない場合には、離型機構30を省略してもよい。
【0041】
成形品を取り出した後、エアブローなどでバリなどの異物を型外に排出させるなどの型清掃が行われる。このとき、リターンピン22の鰐部22aがカバー部材40で覆われているので、リターンピン22の鰐部22aと下型ベース13との間に異物が進入するおそれがない。
【0042】
その後、型閉め動作が行われる。図1に示すように、型閉め時には、まず、前記駆動手段によって上型12が下方に移動する。これに伴い、リターンピン32が下方に移動し、その先端面に当接されて、リターンピン22が下方に移動する。これに伴い、リターンピン22と一体化されたエジェクタプレート23,24が前記付勢手段の付勢力に抗して下方に移動すると共に、エジェクタピン21も下方に移動する。
【0043】
リターンピン22は、その鰐部22aが下型ベース13の上面に当接するまで、下方に移動する。そして、これらが当接したとき、エジェクタピン21が所定の位置まで退避され、その先端はキャビティ面11bより下方に位置している。
【0044】
そして、リターンピン22が下方に移動するときも、常にその鰐部22aがカバー部材40によって覆われているので、リターンピン22の鰐部22aと下型ベース13との間にバリなどの異物が進入するおそれがない。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、リターンピン22の先端面にリターンピン32の先端面が当接する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、金型装置10が離型機構30を備えない場合には、リターンピン22の先端面に上型ベース14の下面に当接させてもよい。
【0046】
さらに、金型装置10の構造は、図示したものに限定されず、周知の他の任意の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
10…金型装置、 11…下型、 12…上型、 11a,12a…合わせ面、 11b,12b…キャビティ面、 13…下型ベース、 14…上型ベース、 17…キャビティ部、 20,30…離型機構、 21…エジェクタピン(下型用エジェクタピン)、 22…リターンピン(下型用リターンピン)、 23,24,33,34…エジェクタプレート、 22a,32a…鰐部、 31…エジェクタピン(上型用エジェクタピン)、 32…リターンピン(上型用リターンピン)、 40…カバー部材、 40a…筒状部、 41…本体、 42…シール体、 43…蓋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ部を有する金型と、
前記キャビティ部に成形された成形品を前記金型から離型させるエジェクタピンと、
型閉め時に前記エジェクタピンを所定の位置に戻すためのリターンピンとを備えた金型装置であって、
前記リターンピンがカバー部材で覆われていることを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記リターンピンは型閉め時に型ベースに当接する鰐部を有し、前記カバー部材は前記型ベースに固定され、前記鰐部の外周を覆う筒状部を有しており、
前記カバー部材の筒状部の長さは、前記リターンピンの移動量よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の金型装置。
【請求項3】
前記カバー部材の筒状部の上部にシール体が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の金型装置。
【請求項4】
前記金型は下型と上型とからなり、
前記エジェクトピンは、前記成形品を前記下型から離型させる下型用エジェクトピンと、前記成形品を前記上型から離型させる上型用エジェクトピンとからなり、
前記リターンピンは、前記下型用エジェクトピンを所定の位置に戻すための下型用リターンピンと、前記上型用エジェクトピンを所定の位置に戻すための上型用リターンピンとからなり、
前記カバー部材の筒状部は前記下型用リターンピンの鰐部の外周を覆い、
型閉め時に、前記下型用リターンピンの上面が前記上型用リターンピンの下面と当接して押し下げられ、
前記下型用リターンピンと前記上型用リターンピンとの当接面が前記下型と前記上型との合わせ面の位置より高いことを特徴とする請求項2又は3に記載の金型装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35242(P2013−35242A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174967(P2011−174967)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】