説明

金属−配位子錯体の製造方法

【課題】金属化合物配位錯体Mn+(L(n≧1)を効果的に合成する方法を提供する。
【解決手段】金属化合物先駆物質と配位子先駆物質から第1の金属−配位子錯体Mn+(L(n≧1)を合成する方法であって、前記第1の金属−配位子錯体の合成に元素の金属を加えて、原子価がnよりも大きい金属の第2の金属−配位子錯体の生成を抑制することを特徴とする方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属−配位子錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業においては、金属化プロセス、特に銅による金属化プロセスへの必要が増加している。このプロセスは、シリコンウエハー表面に、銅フィルムのような高度に純粋な金属フィルムを成長させるのに使用することができる。これらの銅フィルムはその後、新しいマイクロプロセッサーアーキテクチャー内に埋設される微細高速電気接続経路又は「ライン」を作るための基礎となる。銅フィルムのようなこれらの金属フィルムを作るのに重要な技術は、化学気相成長(CVD)である。この手法では、金属(すなわち銅)を含有する化学蒸気を高温の基材表面に接触させて、純粋な金属(すなわち、銅)のフィルムを堆積させる表面化学反応が起こるようにする。この金属フィルムの純度を確実にするためには、CVD先駆物質自体が高純度でなければならない。例えば、銅フィルムCVDのための主要な銅先駆物質は銅(1+)(β−ジケトネート)(A)タイプのものである(ここで、(A)は通常は不飽和タイプの中性配位子)。この化合物の分類で主要な候補は銅(1+)(ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)(トリメチルビニルシラン)であり、これは米国カリフォルニア州カールズバットのエア・プロダクツ・アンド・ケミカルズのシューマッハ一部門からCupraSelect(登録商標)先駆物質として商業的に入手することができる。
【0003】
この化合物及びその合成は特許文献1で説明されており、その合成経路は、金属化合物先駆物質として、CuOではなくCuClを使用する。
【0004】
他の同様な金属β−ジケトネート類の合成は、非特許文献1で説明されている。
【0005】
非特許文献1の筆者等は様々な不飽和金属類の吸着剤として銅β−ジケトネート類を使用することに関する複数の特許を得ている。これらは、特許文献2〜6である。
【0006】
CuO合成経路を使用する合成の後でのこのタイプの化合物の脱水は、特許文献7で説明されており、ここでは無水硫酸銅を合成混合物に加えて、所望の生成物の脱水を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,144,049号明細書
【特許文献2】米国特許第4,279,874号
【特許文献3】米国特許第4,385,005号
【特許文献4】米国特許第4,425,281号
【特許文献5】米国特許第4,434,317号
【特許文献6】米国特許第4,471,152号特許
【特許文献7】米国特許第5,663,391号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Doyle等の「Alkene and Carbon Monoxide Derivatives of Copper (I) and Silver (I) β−Diketonates」、Organometallics、 Vol.4、No.5、1985年、p.830−835
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
典型的に、この種の化合物の合成の間に望ましくない副反応が起こって、除去しなければならない望ましくない副生成物が発生する。特に、β−ジケトンがヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンである場合、もたらされることがある望ましくない副反応生成物はCu2+(ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)である。この暗い青色の固体銅錯体は所望の銅(1+)(β−ジケトネート)(A)生成物に溶解し、所望の後者の生成物が典型的に明るい黄色なので、得られる溶解したものは緑色である。Cu2+(ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)副生成物が高濃度である場合、続く純化プロセスが不十分になり、所望の銅(1+)(ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)(A)先駆物質の収率が低下する。
【0010】
本発明は、銅(1+)(ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)(A)のような金属−配位子錯体の合成方法を説明する。この方法は、Cu2+(ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)のような望ましくない比較的原子価が大きい金属−配位子錯体の形成を抑制するようにして行うことができる。未精製反応生成物中において比較的原子価が大きい金属−配位子錯体(すなわち、Cu2+(ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート))の濃度が比較的低くなると、比較的効率的な純化工程が促進され、結果として純粋な生成物の収率が比較的高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、金属化合物先駆物質と配位子先駆物質から第1の金属−配位子錯体Mn+(Ln(n≧1)を合成し、ここで、前記金属化合物先駆物質の金属は合成の間に原子価をnよりも大きくできる方法であって、前記第1の金属−配位子錯体の合成に元素の金属を加えて、原子価がnよりも大きい前記金属の第2の金属−配位子錯体の生成を抑制することを特徴とする方法である。
【0012】
好ましくは、前記金属は遷移金属である。
【0013】
より好ましくは、前記金属は銅である。
【0014】
好ましくは、前記元素の金属は粒状である。
【0015】
より好ましくは、前記粒状のものの平均粒度は100mm未満である。
【0016】
より好ましくは、前記粒度は0.01μm〜100mmである。
【0017】
好ましくは、前記配位子先駆物質は、β−ジケトン類、ハロゲン化β−ジケトン類、β−ケトイミン類、ハロゲン化β−ケトイミン類、β−ジイミン類、ハロゲン化β−ジイミン類、β−ケトエステル類、ハロゲン化β−ケトエステル類、カルボン酸類、ハロゲン化カルボン酸類、フェノール類、ハロゲン化フェノール類、アミド類、ハロゲン化アミド類、アルコール類、ハロゲン化アルコール類、アミン類、及びそれらの混合物からなる群より選択する。
【0018】
より好ましくは、前記配位子先駆物質は以下の式のβ−ジケトンである。
【0019】
【化1】

(R及びRはそれぞれ独立にC1−8の、ハロゲン化アルキルを包含するアルキル、ハロゲン化アリールを包含するアリールであり、RはH、ハロゲン、又はC1−8のアルキル若しくはハロゲン化アルキルであり、またXはHである。)
【0020】
最も好ましくは、前記配位子先駆物質は、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及びそれらの混合物からなる群より選択する。
【0021】
好ましくは、nは1〜3である。
【0022】
好ましくは、前記元素の金属は、前記金属化合物先駆物質に対して少なくとも0.01wt%の量で加える。
【0023】
より好ましくは本発明は、金属化合物先駆物質である酸化銅(I)、配位子先駆物質である1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及び安定化配位子から、Cu1+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)1−(安定化配位子)を合成する方法であって、粒状の元素の銅をCu1+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)1−(安定化配位子)の合成に加えて、Cu2+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン)の生成を抑制することを特徴とする方法である。
【0024】
好ましくは、前記安定化配位子は、トリメチルビニルシラン、アルケン類、ジエン類、ケイ素置換アルケン類、ケイ素置換ジエン類、アルキン類、ケイ素置換アルキン類、アルキン−アルケン類、ケイ素置換アルキン−アルケン類、ニトリル類、ケイ素置換ニトリル類、イソニトリル類、ケイ素置換イソニトリル類、一酸化炭素、トリアルキルホスフィン類、トリアリールホスフィン類、イミン類、ジイミン類、アミン類、及びそれらの混合物からなる群より選択する。
【0025】
最も好ましくは、前記安定化配位子の化学式はC(R)(R)=C(R)Si(Rである(RはH、C1−8のアルキル、又はSi(R、Rはそれぞれ独立にH又はC1−8のアルキル、またRはそれぞれ独立にフェニル又はC1−8のアルキル)。
【0026】
最も好ましい態様においては本発明は、金属先駆物質である酸化銅(I)、配位子先駆物質である1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及びトリメチルビニルシランから、Cu1+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)1−(トリメチルビニルシラン)を合成する方法であって、Cu1+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)1−(トリメチルビニルシラン)の合成に粒状の元素の銅を加えることによって、Cu2+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)の生成を抑制することを特徴とする方法である。
【0027】
好ましくは、粒状の前記銅の粒度は100mm未満である。
【0028】
より好ましくは、前記粒度は0.01〜100mmである。
【0029】
好ましくは、前記元素の銅は、前記金属先駆物質である酸化銅に対して少なくとも0.01wt%の量で加える。
【0030】
より好ましくは、前記元素の銅は、酸化銅先駆物質の0.01〜100wt%の量で加える。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、銅(1+)(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)(A)のような金属−配位子錯体類を、Cu2+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)のような望ましくない比較的原子価が大きい金属−配位子錯体類の生成を抑制するようにして製造する方法である。未精製反応生成物中において、比較的原子価が大きい金属−配位子錯体(すなわち、Cu2+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート))の濃度が比較的低くなると、純化工程がより効率的になり、結果として純粋な生成物の収率が比較的高くなる。
【0032】
一般に、本発明は、金属化合物先駆物質と配位子先駆物質から、第1の金属−配位子錯体Mn+(Ln(n≧1)を合成し、ここで、前記金属化合物先駆物質の金属が合成の間にnよりも大きい原子価を持つことができる方法であって、前記金属化合物の金属に共通する0価又は元素の金属Mを、前記第1の金属−配位子錯体の合成に加えて、原子価がnよりも大きい前記金属の第2の金属−配位子錯体の生成を抑制する方法である。
【0033】
特に望ましい態様では本発明は、金属化合物先駆物質である酸化銅(I)、配位子先駆物質である1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及びトリメチルビニルシランのような安定化配位子(A)から、Cu1+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)1−(A)を合成する方法であって、粒状の0価又は元素の銅をCu1+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)1−(A)の合成に加えて、Cu2+(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン)の生成を抑制する。
【0034】
プロトン化した前記配位子先駆物質「L」は、β−ジケトン類、ハロゲン化β−ジケトン類、β−ケトイミン類、ハロゲン化β−ケトイミン類、β−ジイミン類、ハロゲン化β−ジイミン類、β−ケトエステル類、ハロゲン化β−ケトエステル類、カルボン酸類、ハロゲン化カルボン酸類、フェノール類、ハロゲン化フェノール類、アミド類、ハロゲン化アミド類、アルコール類、ハロゲン化アルコール類、アミン類、及びそれらの混合物でよい。
【0035】
プロトン化された前記配位子先駆物質「L」は以下の式のβ−ジケトンでよい。
【0036】
【化2】

(R及びRはそれぞれ独立にC1−8のアルキル、ハロゲン化アルキル、アリール、又はハロゲン化アリールであり、RはH若しくはハロゲン又はC1−8のアルキル若しくはハロゲン化アルキルであり、またXはHである。)
【0037】
最も好ましくは、プロトン化された前記配位子先駆物質「L」は、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及びそれらの混合物からなる群より選択する。
【0038】
前記金属−配位子錯体は安定化配位子「A」も有していてよい。これは結果として、Mn+(Ln(A)の形の金属−配位子錯体をもたらす。より好ましくは、追加の前記安定化配位子「A」は、トリメチルビニルシラン、アルケン類、ジエン類、ケイ素置換アルケン類、ケイ素置換ジエン類、アルキン類、ケイ素置換アルキン類、アルキン−アルケン類、ケイ素置換アルキン−アルケン類、ニトリル類、ケイ素置換ニトリル類、イソニトリル類、ケイ素置換イソニトリル類、一酸化炭素、トリアルキルホスフィン類、トリアリールホスフィン類、イミン類、ジイミン類、アミン類、及びそれらの混合物からなる群より選択する。また本発明の記載全体において、M+X(L又はCu1+(1,1,1,5,5,5,−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)1−が挙げられている場合、この金属−配位子錯体は安定化配位子「A」を有していてもよいことは理解すべきである。
【0039】
金属は以下の機能的な定義に一般に合う。MX+(Lタイプの金属錯体を調製する化学反応において、M(X+Y)+(L(X+Y)タイプ(ここで、Xは1,2,3,4又は5でよく、Yは(X+Y)が6を超えないような1,2,3等でよい)のいくらかの望ましくない金属錯体種が形成される場合、必要とされる還元電気化学電位を提供してM(X+Y)+(L(X+Y)の生成を抑制することができる金属Nを反応に加えることによって、この望ましくない化学種の生成を抑制することができる。この金属Nは、金属Mと同じでよく、又は好ましくない副反応を本質的にもたらさずにM(X+Y)+(L(X+Y)の生成を所望のように抑制するように選択した他の金属でよい。追加の金属Nは、生成される金属錯体NX+(L(M(X+Y)+(L(X+Y)の生成の抑制の間にNの酸化で作られる)が望ましくない場合、これを反応混合物から容易に取り除けるように選択する。好ましくは、金属は遷移金属から選択する。最も好ましくは、これは銅である。
【0040】
加える元素の金属の量は、原子価が比較的大きい金属副生成物Cu2+(β−ジケトネート)の少なくとも検知可能な抑制を達成するのに効果的な量である。好ましくは、元素の金属の粉末は、合成で使用する金属酸化物に対して少なくとも0.01wt%の量で加える。より好ましくは、元素の金属の粉末は、金属酸化物に対して0.01〜100wt%の量で加える。加える元素又は0価の金属Mは典型的に、大きい表面積を持つ粒子又は粉末として加える。金属の粒度は100mm以下であり、好ましくは0.01μm〜100mmである。金属副生成物の抑制に必要な量を超える金属は、合成の後で、好ましくはカラムクロマトグラフィーのような更なる純化工程の前に、反応生成物から単純にデカントすること又はろ過することがきできる。
【0041】
金属先駆物質化合物は典型的に、酸化物又はハロゲン化物又はカルボン酸塩であるが、他の金属化合物も許容される。好ましくは、金属化合物は金属酸化物である。より好ましくは、金属化合物は酸化銅(I)である。
【0042】
銅(1+)(β−ジケトネート)(A)化合物の合成は、配位子(A)の存在下での酸化銅(1+)とそれぞれのβ−ジケトンとの縮合反応によって達成する(ここで、(A)は典型的にオレフィン、アルキン等である)。このβ−ジケトンが1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンである場合、以下の式(I)に従って反応が起こる。ここで、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンは「Hhfac」とし、これのアニオンである1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネートは「hfac」としている。このタイプの合成は上述のDoyleらの文献によって示されている。
2Hhfac+Cu2+(A)→2銅(1+)(hfac)(A)+H
… 式(I)
【0043】
しかしながらここでは、いくらかのCu2+(hfac)も生成し、これは除去して純粋な銅(1+)(fac)(A)を分離しなければならない。本発明は、反応混合物に銅の微粉末を加えることによって、この望ましくないCu2+(hfac)の生成を抑制する方法を教示する。
【0044】
本発明の技術の効果は、一連のCu1+(hfac)(トリメチルビニルシラン)の合成を行うことによって示す。ここでこの合成は、小規模(実験1,2及び3)及び大規模(実験4,5及び6)で行った。実験3は銅粉末を加えないで行ったことを除いて、実験1,2及び3は同一であった。また、実験6は銅粉末を加えないで行ったことを除いて、実験4,5及び6は同一であった。詳細については実験の部分を参照。反応が終わったあとで、反応物をろ過して、それらの可視光スペクトルを測定した。これらの測定は、685ナノメートル(nm)での光吸収によって、それぞれのCu2+(hfac)濃度を直接に示すものである。測定値は、Cu1+(hfac)(トリメチルビニルシラン)中の純粋なCu2+(hfac)の濃度に対する絶対吸収の既に得られている較正曲線と比較した。トリメチルビニルシランは以下では「tmvs」として示す。2つの異なる銅粉末を使用した。これらの粉末は、以下に示すように、粒度がマイクロメートル以下(submicron)又は10μmのものである。銅粉末を使用するいずれの場合においても、銅粉末を使用しない場合と比べて、ろ過した反応混合物はかなり明るい緑色であった。これは、Cu1+(hfac)(トリメチルビニルシラン)の合成の間に元素の銅の粉末を使用すると、良好にCu2+(hfac)の生成が抑制されることを示している。上述の実験から得ることができるこの結果は表1及び表2に示す。これらの表から、本発明の効果が、所望とする金属−配位子錯体よりも原子価が大きい金属の望ましくない金属−配位子錯体の生成を、良好に抑制していることが明らかである。
【0045】
【表1】

【0046】
これらの比較的小規模での実験の後で、比較的大規模での3つの実験を行って、Cu2+(hfac)濃度を抑制する効果が同様に観察されることを示した。これらの実験は10μmの銅粉末を使用して行った。結果は以下に示し、これは、小規模での反応よりもかなり良好にCu2+(hfac)を低レベルに維持して、大規模の製造においてもCu2+(hfac)の抑制が起こることを確認している。小規模での実験でよりも良好な結果が得られたことは、おそらく、大規模の製造において反応体の混合がよりすぐれていたことを示している。
【0047】
【表2】

【0048】
注:表1及び表2においてCu2+濃度をCu2+(hfac)濃度に換算するためには、Cu2+濃度を7.52倍すればよい。ここで、この倍率は、Cu2+(hdac)の分子量を銅の原子量で割り算したものである(すなわち、477.6(g/mol)/63.5(g/mol)=7.52)。
【0049】
本発明の金属の添加/提供を使用して、その後の追加の純化なしで高純度の生成物を得ることができるが、上述の実験4及び5で概略を示した合成方法及び試薬の量を使用して8つの更なる実験を行って、得られる生成物をクロマトグラフィーによって更に純化した。銅粉末の添加を使用する合成のためのこのクロマトグラフィー工程の効果は、銅粉末を添加しない従来の合成の効果よりも実質的に高いことが分かった。加えて、クロマトグラフィーの「カラム使用寿命」(1つのカラムで処理することができる反応生成物の量)は、銅粉末の添加を使用して製造したCu2+(hfac)が少ない生成物では、ほぼ2倍になることが分かった。
【0050】
【表3】

【0051】
表3に示された結果は、合成後の純化によらずに高純度の生成物を製造する本発明の方法の利益を示している。結果として、本発明の使用は合成後の様々な処理の使用を随意のものにし、又は特定の最終用途に必要とされる純度に少なくとも依存させる。また本発明は、合成後のあまり厳密でない純化の使用も可能にし、それによって、クロマトグラフィーによる純化を必要でなくすることができ、又は特定の生成物の合成に必要とされるものにすることができる。
【0052】
〔例1、2及び3〕
〔例1〕
試薬
CuO 53g(0.37mol)
Hhfac 105mL(0.74mol)
tmvs 121mL(0.784mol,6%過剰)
銅粉末 1.18g(0.0185mol,CuOが5mol %)
粒度:マイクロメートル以下
【0053】
〔例2〕
試薬は例1と同じ
銅の粒度:10μm
【0054】
〔例3〕
試薬は上述の例1及び例2と同じ、但し銅粉末は加えない
【0055】
〔例1、2及び3の方法〕
撹拌しながら1.5時間にわたって約−10℃で、tmvs中のCuO/Cu(例1及び2)又はCuOのみ(例3)のサスペンションに、Hhfacを滴状で加えた。反応混合物は赤色の粉末を残して緑色に変化した。この反応混合物を15時間にわたって室温で撹拌し、その後、5gのセライトでろ過した。明るい緑色の液体生成物から5mlの試料を採って、可視光領域で分光光度解析を行って、685nmの可視光での吸収を測定することによってCu2+(hfac)の濃度を定量化した。
【0056】
〔例4、5及び6〕
〔例4及び5〕
試薬
CuO 5.3kg
Hhfac 15.4kg
tmvs 7.9kg
10μmの銅粉末:例4では350g、例5では500g
【0057】
〔例6〕
試薬
CuO 5.1kg
Hhfac 14.7kg
tmvs 8.1kg
銅粉末の添加はなし
【0058】
〔例4、5及び6の方法〕
全tmvsの一部の中において撹拌によって懸濁された銅粉末と混合された酸化銅にHhfacを加えて、−10℃〜0℃に冷却した。残りのtmvsと配合したHhfacは冷却されたサスペンションに、約20時間にわたってポンプ送出して加え、温度を約0℃〜−10℃に維持した。その後、反応混合物をろ過して、例1,2及び3でのように、試料を採取してCu2+(hfac)含有率を測定した。銅粉末を加えずに、例4及び5の方法を使用して例6を行った。
【0059】
実験結果によって示されるように、Cu1+(hfac)(tmvs)のような金属−配位子錯体類を高純度で合成する予想外でかなりの改良を提供する。元素の金属の粉末の添加が副生成物Cu2+(hfac)をかなり減少させることは、発明者の予想を超えていた。本発明の独自の合成工程は、最終的な純化なしでさえも、最初の合成で比較的高純度の物質を提供する。これは結果として収率を改良する。更に、本発明の独自の合成工程は、除去する必要がある副生成物の量を減少させることによって、その後の純化工程の性能を改良する。後純化工程の負荷の減少は、従来Cu1+(hfac)(tmvs)を純化するのに使用されてきた純化クロマトグラフカラム(すなわち、アルミナ、シリカ、シリカゲル、カーボン類、モレキュラーシーブ類、及び多孔質ポリマー類)のような純化工程の使用寿命を延長させる。従って、高純度で、純化装置を比較的使用しない低コスト生成物、及び単純な純化プロセスがもたらされる。
【0060】
本発明はいくつかの好ましい態様に関して示してきたが、本発明の全体の範囲は特許請求の範囲で確認すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成の間に原子価をnよりも大きくすることが可能な金属の金属化合物先駆物質と、配位子先駆物質とから、第1の金属−配位子錯体M+n(L(Mは金属、Lは配位子であり、n≧1)を合成する、第1の金属−配位子錯体の製造方法であって、
前記第1の金属−配位子錯体の合成に元素の金属を提供して、原子価がnよりも大きい前記金属の第2の金属−配位子錯体の生成を抑制することを特徴とする、第1の金属−配位子錯体の製造方法。
【請求項2】
前記金属が遷移金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属が銅である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記元素の金属が粒状である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記粒状のものの粒度が100mm未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記粒度が0.01μm〜100mmである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記配位子先駆物質を、β−ジケトン類、ハロゲン化β−ジケトン類、β−ケトイミン類、ハロゲン化β−ケトイミン類、β−ジイミン類、ハロゲン化β−ジイミン類、β−ケトエステル類、ハロゲン化β−ケトエステル類、カルボン酸類、ハロゲン化カルボン酸類、フェノール類、ハロゲン化フェノール類、アミド類、ハロゲン化アミド類、アルコール類、ハロゲン化アルコール類、アミン類、及びそれらの混合物からなる群より選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記配位子先駆物質が以下の式のβ−ジケトンである、請求項1に記載の方法:
【化1】

(R及びRはそれぞれ独立にC1−8のアルキル、ハロゲン化アルキル、アリール又はハロゲン化アリール、RはH若しくはハロゲン、又はC1−8のアルキル若しくはハロゲン化アルキル、且つXはH)。
【請求項9】
前記配位子先駆物質を、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及びそれらの混合物からなる群より選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
nが1〜3である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記元素の金属を、前記金属化合物先駆物質に対して少なくとも0.01wt%の量で加える、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記M+n(Lが追加の安定化配位子を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記追加の安定化配位子を、トリメチルビニルシラン、アルケン類、ジエン類、ケイ素置換アルケン類、ケイ素置換ジエン類、アルキン類、ケイ素置換アルキン類、アルキン−アルケン類、ケイ素置換アルキン−アルケン類、ニトリル類、ケイ素置換ニトリル類、イソニトリル類、ケイ素置換イソニトリル類、一酸化炭素、トリアルキルホスフィン類、トリアリールホスフィン類、イミン類、ジイミン類、アミン類、及びそれらの混合物からなる群より選択する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記追加の安定化配位子の化学式が、C(R)(R)=C(R)Si(R(RはH、C1−8のアルキル又はSi(R、Rはそれぞれ独立にH又はC1−8のアルキル、且つRはそれぞれ独立にフェニル又はC1−8のアルキル)である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
金属化合物先駆物質である酸化銅(I)、配位子先駆物質である1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及び安定化配位子から、Cu+1(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)−1(安定化配位子)を合成する方法であって、
粒状の元素の銅を前記Cu+1(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)−1(安定化配位子)の合成に加えて、Cu+2(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタジオネート)の生成を抑制することを特徴とする、Cu+1(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)−1(安定化配位子)の合成方法。
【請求項16】
前記安定化配位子を、トリメチルビニルシラン、アルケン類、ジエン類、ケイ素置換アルケン類、ケイ素置換ジエン類、アルキン類、ケイ素置換アルキン類、アルキン−アルケン類、ケイ素置換アルキン−アルケン類、ニトリル類、ケイ素置換ニトリル類、イソニトリル類、ケイ素置換イソニトリル類、一酸化炭素、トリアルキルホスフィン類、トリアリールホスフィン類、イミン類、ジイミン類、アミン類、及びそれらの混合物からなる群より選択する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記安定化配位子の化学式が、C(R)(R)=C(R)Si(R(RはH、C1−8のアルキル又はSi(R、Rはそれぞれ独立にH又はC1−8のアルキル、且つRはそれぞれ独立にフェニル又はC1−8のアルキル)である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
金属化合物先駆物質である酸化銅(I)、配位子先駆物質である1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、及びトリメチルビニルシランから、Cu+1(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)−1(トリメチルビニルシラン)を合成する方法であって、
前記Cu+1(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)−1(トリメチルビニルシラン)の合成に粒状の元素の銅を加えることによって、Cu+2(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)の生成を抑制することを特徴とする、Cu+1(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)−1(トリメチルビニルシラン)の合成方法。
【請求項19】
粒状の前記銅の粒度が100mm未満である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記粒度が0.01μm〜100mmである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記元素の銅を、前記金属化合物先駆物質である酸化銅(I)に対して少なくとも0.01wt%の量で加える、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記元素の銅を、前記酸化銅(I)先駆物質の0.01〜100wt%の量で加える、請求項21に記載の方法。

【公開番号】特開2010−31060(P2010−31060A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261178(P2009−261178)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【分割の表示】特願2000−179381(P2000−179381)の分割
【原出願日】平成12年6月9日(2000.6.9)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】