説明

金属の酸洗浄に用いる腐食抑制剤、洗浄液組成物及び金属の洗浄方法

【課題】金属表面を酸洗する際、腐食抑制効果が強く、しかも抑制剤濃度が変化しても腐食抑制率の変化が小さい金属の酸洗浄用腐食抑制剤、および洗浄方法を提供する。
【解決手段】第一アミノ基及び/又は第二アミノ基を有するポリアルキレンポリアミン(A)のC−C15アシル化誘導体(α)を含み、該アシル化誘導体(α)の含有量が、酸液1Lに対して0.1〜50000mgである金属の酸洗浄用腐食抑制剤。および該洗浄液組成物を金属表面に吹付けあるいは金属表面を該洗浄液組成物で浸漬することにより洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食抑制効果及びその安定性に優れた、金属の酸洗浄に用いる腐食抑制剤(以下、「酸洗浄用腐食抑制剤」ともいう)及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
金属鋼板等の金属表面には、ミルスケールなどの黒色酸化物皮膜が付着している。そこで、最終製品の性能を向上させるためなどの目的で、金属鋼板等に防錆、めっきなどの処理をする際には、その前に酸化物皮膜を除去することにより、鋼板表面に防錆性を均一に付与したり、鋼板表面とめっき皮膜等との密着性を向上させたりすることが、広く行われている。
【0003】
スケール、錆などの除去には、金属酸洗浄液(以下、「酸液」ともいう。)を用いる酸洗を行うのが一般的である。金属酸洗浄液としては、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、リン酸、スルファミン酸、フッ酸、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、蟻酸などの有機酸、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤、及びこれらの混合物などの水溶液等が挙げられる。金属酸洗浄液による酸洗においては、通常、スケール、錆などが金属表面に極めて強固に付着していることから、これらを完全に除去するためにはかなりの長時間を要する。また、酸洗を行うと、スケール、錆だけでなく金属素地をも溶解され腐食される。そこで、このような問題を解消するため、従来から、酸に添加する腐食抑制剤が用いられている。そのような腐食抑制剤としては、例えば、含窒素有機化合物が代表的である。
【0004】
腐食抑制剤として使用される含窒素有機化合物として、4級アンモニウム塩が知られている(たとえば、特許文献1参照)。そのような4級アンモニウム塩としては、1−ビニル−3−エチルイミダゾリニウムブロミド、3−エチルベンゾチアゾリウムブロミド、エチルトリエタノールアンモニウムブロミドなどが用いられる。これらの4級アンモニウム塩に加え、4級アンモニウム塩以外の窒素含有有機化合物を併用することも知られ、たとえば、ヘキサメチレンテトラミンが使用される(特許文献1)。このような含窒素有機化合物は、酸洗速度を遅らせるという欠点を有する。したがって、これらの含窒素有機化合物を金属酸洗浄液に含有させると、酸洗時間がさらに長くなり、作業能率の低下が避けられない。その腐食抑制効果も充分満足できるとはいえない。
また、腐食抑制剤である含窒素有機化合物として、チオ尿素及びその誘導体が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。しかしながら、チオ尿素及びその誘導体も4級アンモニウム塩と同様の欠点を有する。
【0005】
一方、腐食抑制剤である含窒素有機化合物として、4級アンモニウム塩置換ビニル化合物のホモポリマー、カチオン単位と二酸化硫黄単位とを有するポリアミン化合物などのカチオン系重合体(たとえば、特許文献3参照)などが知られている。このうちポリアミン化合物は、従来の含窒素有機化合物に比べて腐食抑制効果が高く、金属酸洗浄液の添加剤として有用である。しかしながら、最近では、酸洗の効率化のために酸洗時間を短縮化が図られており、そのために、金属酸洗浄液における酸含有量が増量されたりしている。そのため、腐食抑制効果のさらに強い腐食抑制剤の開発が求められている。
また、腐食抑制を効果的にするため、複数の金属腐食抑制剤を組み合わせて使用することも考えられるが、この場合、使用するにつれて各腐食剤の濃度比が変わり、腐食抑制効果に変化がおこりやすく、その結果、最終製品のバラツキにつながる可能性もあるという問題がある。
また、現在、使用されているカチオン単位と二酸化イオウ単位とを有する共重合体も、その濃度変化により、腐食抑制効果が変化する場合があり、これを用いた金属酸洗浄液の腐食抑制剤の濃度変化が経時的に起こるときには、最終製品のバラツキにつながる可能性もある、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−037988号公報
【特許文献2】特開平11−050280号公報
【特許文献3】特開2000−96049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の背景技術に鑑み、本発明者らは、金属表面を酸洗する際、腐食抑制効果が強く、しかも抑制剤濃度が変化しても腐食抑制効果の変化が小さい金属の酸洗浄用腐食抑制剤の開発を試みた。その結果、意外にも、ポリアルキレンポリアミンの特定のアシル化誘導体を用いるとその課題を達成できることを見出した。すなわち、本発明の目的は、金属表面を酸洗する際、腐食抑制効果が強く、抑制剤濃度が変化しても腐食抑制率の変化が小さい金属の酸洗浄用腐食抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、以下、(1)から(4)のいずれかに関する。
(1)第一アミノ基及び/又は第二アミノ基を有するポリアルキレンポリアミン(a)のC−C15アシル化誘導体(α)を含んでなる金属の酸洗浄用腐食抑制剤。
(2)前記ポリアルキレンポリアミン(a)がポリアルキレンイミンである上記(1)に記載の金属の酸洗浄用腐食抑制剤。
(3)酸液及び上記(1)又は(2)に記載の腐食抑制剤を含んでなる洗浄液組成物であって、前記アシル化誘導体(α)の含有量が、該酸液1Lに対して0.1〜50000mgであることを特徴とする、上記洗浄液組成物。
(4)上記(3)に記載の洗浄液組成物を金属表面に吹付けあるいは金属表面を該洗浄液組成物で浸漬することにより洗浄することを特徴とする金属の洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属の酸洗浄用腐食抑制剤によれば、金属表面を酸洗浄する際、金属の腐食が有効に抑制できる。加えて、本発明の金属の酸洗浄用腐食抑制剤は、抑制剤濃度が変化しても腐食抑制率の変化が極めて小さいので、最終製品の品質が一定に維持されやすい。それらの結果、本発明の金属の酸洗浄用腐食抑制剤は、金属工業分野等の各種工業の発展に寄与すること大である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ポリアルキレンポリアミン(a)
本発明において、第一アミノ基及び/又は第二アミノ基を有するポリアルキレンポリアミン(a)としては、ポリアルキレンイミン、アルキレンジハライドとアルキレンジアミンとの縮合物、及びポリエチレンポリアミンなどを例示できる。
【0011】
ポリアルキレンイミンとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、及び少なくとも1個のアミド化し得るアミノ基を残してエチレンオキサイドを付加したポリエチレンイミンのエチレンオキサイド付加物などを挙げることができる。
ポリエチレンイミンは、分子量の異なるさまざまな製品が入手できる。アシル化ポリエチレンイミンに用いるポリエチレンイミンを製造する場合、原料としてエチレンイミンを用いるが、エチレンイミンを重合しても、通常、完全に直鎖の構造を持つポリマーにはならず、酸濃度、重合温度などの製造条件により依存する分岐度を持ち、かつ、第一アミノ基及び第二アミノ基以外に第三アミノ基を有するポリエチレンイミンが得られる。
【0012】
ポリエチレンイミンの好ましい分子量は約600から約80000で、最も好ましくは約600から約25,000である。
【0013】
ポリエチレンポリアミン類としてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミンなどを例示できる。
【0014】
アルキレンジアミンとアルキレンジハライドの縮合物の製造に用いるアルキレンジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びピペラジンなどを挙げることができる。
一方、上記縮合物の製造に用いるアルキレンジハライドとしては、例えば、ジクロロエタン、ジブロモエタン、及びビスクロロメチルシクロヘキサンなどを挙げることができる。
アルキレンジアミンとアルキレンジハライドの縮合物の製造方法に特に制限はなく、例えば、アルキレンジハライドとアルキレンジアミンなどとを、必要に応じて溶剤を用いて、40〜100℃で反応させることができる。使用する溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。アルキレンジアミンとアルキレンジハライドとは縮合しやすいので、第一アミノ基及び/又は第二アミノ基を有するポリアルキレンポリアミン(a)を、生産性、及び制御性良く生産することができる。
【0015】
本発明においては、ポリアルキレンポリアミン(a)は、化合物中に第一アミノ基及び/又は第二アミノ基を有することを必須要件とする。
【0016】
−C15アシル化誘導体(α)
本発明においては、腐食抑制剤として、ポリアルキレンポリアミン(a)中に存在する反応性アミノ基(第一アミノ基及び/又は第二アミノ基)の少なくとも一部、すなわち一部又は全部において、そのアミノ基の水素が炭素数3から15のアシル基で置換されている、C−C15アシル化誘導体、すなわち、ポリアルキレンポリアミン(a)のC−C15アシル化誘導体(α)を含む。アミノ基の水素が炭素数3から15のアシル基で置換されることにより、アミノ基中の窒素と、アシル基中のカルボニル基とがアミド結合を形成する。
ポリアルキレンポリアミン(a)が、腐食抑制剤として必ずしも良好な腐食抑制率を示さないところ、アシル化によって良好な腐食抑制率を実現することができる。
【0017】
このC−C15アシル化誘導体(α)の場合、炭素数3から15のアシル基R−(CO)−は、好ましくは以下のアシル基から選択される少なくとも一種を含んでなる(なお、Rは、炭素数2から14の炭化水素基であり、不飽和結合を有していてもよい。)。すなわち、アシル基は、C(2n+1)−(CO)−(式中、nは2以上14以下であり、好ましくは2以上13以下、特に好ましくは、2以上12以下である。炭素数が多すぎないことで、優れた腐食抑制率を実現することができる。なお、式中、C(2n+1)−は、直鎖状であっても、分岐を有していてもよい。);フェニル−(CO)−;置換フェニル−(CO)−;フェニル−CH−(CO)−;置換フェニル−CH−(CO)−;フェニル−C−(CO)−;及び置換フェニル−C−(CO)−から選択されるのが好ましい。なお、ここで「置換フェニル−」とは、フェニル基の水素原子の一部又は全部が、他の基又は原子で置換されたものをいい、メチル基、エチル基、及びクロル基からなる群から選ばれる少なくとも1の基で置換されたものであることが好ましい。アセチル基CH−(CO)−でN−アシル化されたポリアルキレンポリアミンは、疎水性が低く、水に溶解しやすい。一方、上記アシル基C(2n+1)−(CO)−(式中、nは2以上である)によりN−アシル化されたポリアルキレンポリアミンは、炭素数の増加に伴い疎水性が高まる。同様に、アリール基を含有するアシル基でN−アシル化されたポリアミンは疎水性が高い。
【0018】
ポリアルキレンポリアミン(a)をN−アシル化をするには、アミノ基よりアシルアミノ基(アミド)を形成するための試薬、すなわち、アシル化剤を用いることができる。アシル化剤としては、アシルハライド、アシルシアニド、カルボン酸とアルコールとの縮合エステル、ラクトン及びカルボン酸無水物から選択される対応するアシル基を形成するためのアシル化剤を例示することができる。
【0019】
また、本発明に用いるポリアルキレンポリアミン(a)のC−C15アシル化誘導体(α)は、ポリアルキレンポリアミン(a)とC−C15のカルボン酸とを縮合、好ましくは加熱縮合することによっても、製造することができる。
【0020】
洗浄剤組成物
本発明の洗浄液組成物は、酸液1Lに対して、本発明の金属の酸洗浄用腐食抑制剤であるポリアルキレンポリアミン(a)のC−C15アシル化誘導体(α)を、固体又は純体換算で、通常0.1〜50000mg、好ましくは1〜10000mg、さらに好ましくは1〜5000mg含む。含有量が酸液1Lに対して0.1mg以上なので必要な腐食抑制効果を得ることができ、また50000mg以下なので添加量に応じて腐食抑制効果を向上させることができる。
【0021】
酸液に用いる酸としては特に限定されないが、塩酸、硫酸、スルファミン酸、フッ酸などの無機酸、ギ酸、蓚酸、クエン酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酢酸、グルコン酸などの有機酸、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤が好ましい。
本発明の腐食抑制剤は、使用に際して酸液に添加してもよく、また予め酸液に添加して本発明の洗浄液組成物とし、そのまま、又はこれを水で希釈して用いてもよい。さらに洗浄液との混合を良くするため界面活性剤や溶剤を使用してもよく、このために用いられる界面活性剤や溶剤は予め本発明の腐食抑制剤と混合しておいてもよく、別々に本発明の洗浄剤組成物に添加してもよい。
【0022】
また、本発明の腐食抑制剤は他の腐食抑制剤と併用してもよく、これら他の腐食抑制剤は予め本発明の腐食抑制剤と混合しておいてもよく、別々に本発明の洗浄剤組成物に添加してもよい。
併用する他の腐食抑制剤の具体例としては、1−ビニル−3−エチルイミダゾリニウムブロミド、3−エチルベンゾチアゾリウムブロミド、エチルトリエタノールアンモニウムブロミドなどが挙げられるがこれらの具体例に限定されるものではない。
さらにまた本発明の洗浄剤組成物においては酸洗速度を向上するための亜硫酸塩等の酸洗促進剤を併用することもできる。
【0023】
金属の洗浄方法
本発明の金属の洗浄方法は、本発明の洗浄液組成物を金属表面に吹付けあるいは金属表面を該洗浄液組成物に浸漬することによって金属表面を洗浄することを特徴とする。
本発明の腐食抑制剤を含んだ洗浄液組成物は、洗浄すべき金属表面に吹付け、又はこの洗浄液組成物に洗浄すべき金属片を浸漬することによって金属表面が洗浄される。洗浄対象となる金属は特に限定されないが、鉄鋼に対して用いると、特に有効である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、いかなる意味においても、これらの実施例により限定されるものではない。
【0025】
(合成例1) ノナノイルポリエチレンイミン[ポリエチレンイミンとペラルゴン酸との反応物(1.0:0.07)]
攪拌機、冷却管、温度計を備えた500ml四ツ口セパラブルフラスコに、ポリエチレンイミン(数平均分子量2,000)163.3g(3.72モル)を仕込み、内温を130℃まで昇温させた。温度が安定した後、ペラルゴン酸38.8g(0.24モル)を添加し、130℃で48時間、アシル化反応を実施した。反応終了後の溶液をFTIRにて測定したところ、1400cm−1のカルボン酸(C−O伸縮)由来の吸収が消滅し、1650cm−1にアミド吸収が確認され、目的の構造であることを支持していた。また、1710cm−1等のカルボン酸に由来する吸収はないので定量的にアシル化が進行したことが判明した。
【0026】
(合成例2〜4) ノナノイルポリエチレンイミン[ポリエチレンイミンとペラルゴン酸との反応物(1.0:0.07)]
ポリエチレンイミンとペラルゴン酸との反応比率を変更させた以外は、合成例1と同じ操作により製造を実施した。
【0027】
(合成例5) ドデカノイルポリエチレンイミン[ポリエチレンイミンとドデカン酸との反応物(1.0:0.07)の製造例]
攪拌機、冷却管、温度計を備えた500ml四ツ口セパラブルフラスコに、ポリエチレンイミン(数平均分子量2,000)265.3g(6.04モル)を仕込み、内温を130℃まで昇温させた。温度が安定した後、ドデカン酸85.8g(0.42モル)を添加し、130℃で48時間、アシル化反応を実施した。反応終了後の溶液をFTIRにて測定したところ、1400cm−1のカルボン酸(C−O伸縮)由来の吸収が消滅し、1650cm−1にアミド吸収が確認され、目的の構造であることを支持していた。また、1710cm−1等のカルボン酸に由来する吸収はないので定量的にアシル化が進行したことが判明した。
【0028】
(合成例6〜8) ドデカノイルポリエチレンイミン[ポリエチレンイミンとドデカン酸との反応物]
ポリエチレンイミンとドデカン酸との反応比率を変更させた以外は、合成例1と同じ操作により製造を実施した。
【0029】
(合成例9) ジアリルアミン塩酸塩と二酸化イオウとの1:1共重合体の合成例
攪拌機、冷却管、温度計を備えた500ml四ツ口セパラブルフラスコにて、66質量%のジアリルアミン塩酸塩水溶液202.5g(1.0モル)、及びSO64.1g(1.0モル)を、水206.7gに溶解させた。次に28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液13.7g(対モノマーで1.5質量%)を添加し、18〜60℃で24時間、重合を行い、比較例1に用いる標記の共重合体を製造した。重合終了後の溶液をGPC法にて測定したところ、重量平均分子量は5,000、重合率は96.0%であった。
(合成例10) ジアリルアミン酢酸塩と二酸化イオウとの1:1共重合体の合成例
攪拌機、冷却管、温度計を備えた500ml四ツ口セパラブルフラスコにて、ジアリルアミン塩酸塩と二酸化イオウの1:1共重合体494.20g(0.50mol)及び酢酸ナトリウム54.41g(0.65mol)を仕込み、攪拌溶解させ混合水溶液を得た。
上記混合溶液を、イオン交換膜電気透析に付した。電気透析装置として旭硝子製−DU−Ob槽を用い、この中に、同じく旭硝子製の陽イオン交換膜CMVと陰イオン交換膜AMVを配列させ、原液槽には原液として、上記の操作により得られた混合水溶液を入れた。また濃縮液槽には塩化ナトリウム水溶液を仕込んだ。これらの液を循環しながら、電極間に16−17ボルトの直流電圧を印加し、比較例2に用いる標記の共重合体を製造した。
処理後の溶液をGPC法にて測定したところ、重量平均分子量は5,000、歩留まりは95%であった。
(合成例11) メチルジアリルアミン塩酸塩と二酸化イオウとの1:1共重合体の合成例
攪拌機、冷却管、温度計を備えた500ml四ツ口セパラブルフラスコにて、68質量%メチルジアリルアミン塩酸塩水溶液217.1g(1.0mol)、及びSO64.1g(1.0モル)を、水103.7gに溶解させた。次に28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液11.1g(対モノマーで1.5質量%)を添加し、18〜60℃で24時間、重合を行い、比較例3に用いる標記の共重合体を製造した。重合終了後の溶液をGPC法にて測定したところ、重量平均分子量は4,000、重合率は96.5%であった。
(合成例12) ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化イオウとの1:1共重合体の合成例
攪拌機、冷却管、温度計を備えた500ml四ツ口セパラブルフラスコにて、65質量%のDADMAC(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)248.7g(1.0モル)、及びSO64.1g(1.0モル)を、水210.0gに溶解させた。次に28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液16.5g(対モノマーで1.5質量%)を添加し、18〜60℃で72時間、重合を行い、比較例4に用いる標記の共重合体を製造した。重合終了後の溶液をGPC法にて測定したところ、重量平均分子量は4,200、重合率は95.0%であった。
【表1】

【0030】
(腐食試験)
腐食量測定については、下記の実施例記載の方法により実施した。
【0031】
(実施例1)
塩酸50gを含む洗浄液水溶液(以下、酸洗浄液)500mlに、合成例1で得た腐食抑制剤を50mg、又は1000mg(固形分換算)をそれぞれ添加し、この液を80℃まで加温した後、熱間圧延鋼板(JIS3131)を180番の耐水研磨紙で研磨したものを10分間浸漬した。腐食量、腐食抑制率及び性能低下率は下記の式により計算した。結果を表1に示した。
腐食量(mg/cm)=[浸漬前試験片重量(mg)−浸漬後試験片重量(mg)]/試験片表面積(cm) − (1)
【0032】
(腐食抑制率)
上記式(1)で算出した腐食量の結果から、下記式(2)に従って、腐食抑制率を算出した。
腐食抑制率(%)=[比較例5の腐食量(mg/cm)−各実施例又は比較例の腐食量(mg/cm)]×100/比較例5の腐食量(mg/cm) − (2)
(性能低下率)
腐食抑制剤の添加量1000mgのときの腐食抑制率と、同50mgのときの腐食抑制率とから、下記式(3)に従って、性能低下率を算出した。
性能低下率(%)=100−A − (3)
(A=(添加量1000mg時の腐食抑制率(%)×100)/添加量50mg時の腐食抑制率(%))
【0033】
(実施例2〜8)
腐食抑制剤を変更した以外は実施例1と同じ操作を実施し、腐食量、腐食抑制率及び性能低下率を算出した。結果を表1に示す。
【0034】
(比較例1)
比較合成例1で得た腐食抑制剤を50mg、1000mg(固形分換算)をそれぞれ添加し、実施例1と同じ操作を実施し、腐食量、腐食抑制率及び性能低下率を算出した。結果を表1に示す。
【0035】
(比較例2〜4)
腐食抑制剤を変更した以外は実施例1と同じ操作を実施し、腐食量、腐食抑制率及び性能低下率を算出した。結果を表1に示す。
【0036】
(比較例5)
腐食抑制剤を使用せずに酸洗浄を行い、実施例1と同じ操作を実施し、腐食量を計算した。結果を表1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一アミノ基及び/又は第二アミノ基を有するポリアルキレンポリアミン(a)のC−C15アシル化誘導体(α)を含んでなる金属の酸洗浄用腐食抑制剤。
【請求項2】
前記ポリアルキレンポリアミン(a)がポリアルキレンイミンである請求項1記載の金属の酸洗浄用腐食抑制剤。
【請求項3】
酸液及び請求項1又は2に記載の腐食抑制剤を含んでなる洗浄液組成物であって、前記アシル化誘導体(α)の含有量が、該酸液1Lに対して0.1〜50000mgであることを特徴とする、上記洗浄液組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の洗浄液組成物を金属表面に吹付けあるいは金属表面を該洗浄液組成物で浸漬することにより洗浄することを特徴とする金属の洗浄方法。

【公開番号】特開2012−36431(P2012−36431A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175889(P2010−175889)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】