説明

金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法、及び、一体成形品用成形装置

【課題】金属ガラスからなる部分と高分子材料からなる部分とで構成される一体成形品を精度良く製造することが可能な金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法、及び、一体成形品用成形装置を提供する。
【解決手段】金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法は、少なくとも一部が交換可能に構成され第一の部分と対応する形状に形成された金型のキャビティ内に、金属ガラスを融点以上に加熱した状態で射出する金属ガラス射出工程と、金型のキャビティ内に射出された金属ガラスを、臨界冷却速度以上の冷却速度で、高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却する金属ガラス冷却工程と、金型の少なくとも一部を交換して、キャビティを第二の部分と対応する形状に形成する金型交換工程と、第二の部分と対応する形状に形成された金型の前記キャビティ内に、高分子材料を射出する高分子材料射出工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラスからなる部分と高分子材料からなる部分とで構成される一体成形品の成形方法及びその成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズなどの光学素子と、該光学素子を保持する枠体とからなる光学素子デバイスは、従来、予め光学素子と枠体とを別々に製造した後に、枠体に光学素子を嵌合固定または接着固定させることにより製造されていた。しかし、近年、光学素子デバイスの小型化により、上記のような製造方法では、必要な組み立て精度を確保することができない問題があった。このため、プラスチックを加熱軟化させた状態で金型によって押圧することで光学素子を成形した後に、金型を型開きせずに、成形された光学素子となる部分を基準として枠体となる部分を射出成形する製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法によれば、光学素子を成形した後にそのままの状態で光学素子の金型の位置を基準に枠体が光学素子に結合された状態で成形されるための、光学素子と枠体との結合精度を高めることができるとされている。
【0003】
一方、近年、光学素子デバイスの枠体に使用される材料としては、金属ガラスが注目されている。金属ガラスは、結晶化した金属材料と比較して、強度、耐久性、耐食性に優れているとともに高い寸法精度をもって射出成形を行うことが可能であり、光学素子デバイスの製造においても、さらなる小型化、形状の複雑化、高精度化などの点で採用が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−22905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法において、枠体を金属ガラスで形成しようとすれば、高分子材料を射出する温度と比較して金属ガラスを射出する温度の方が高いことから、光学素子を形成する高分子材料が金属ガラスを射出する際の熱により変形してしまう問題があった。このため、光学素子デバイスにおいて、枠体を金属ガラスで形成する場合には、嵌合固定あるいは接着固定によらなければならず、結果必要な精度を確保することができない問題があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、金属ガラスからなる部分と高分子材料からなる部分とで構成される一体成形品を精度良く製造することが可能な金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法、及び、一体成形品用成形装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、金属ガラスで形成された第一の部分と、高分子材料で形成された第二の部分とで構成される金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法であって、少なくとも一部が交換可能に構成され前記第一の部分と対応する形状に形成された金型のキャビティ内に、前記金属ガラスを融点以上に加熱した状態で射出する金属ガラス射出工程と、前記金型の前記キャビティ内に射出された前記金属ガラスを、臨界冷却速度以上の冷却速度で、前記高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却する金属ガラス冷却工程と、前記金型の少なくとも一部を交換して、キャビティを前記第二の部分と対応する形状に形成する金型交換工程と、前記第二の部分と対応する形状に形成された前記金型の前記キャビティ内に、前記高分子材料を射出する高分子材料射出工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明は、金属ガラスで形成された第一の部分と、高分子材料で形成された第二の部分とで構成される金属ガラスと高分子材料との一体成形品用成形装置であって、少なくとも一部を交換することで、キャビティを前記第一の部分と前記第二の部分とのそれぞれに対応した形状に切換可能な金型が設置される金型設置部と、該金型設置部に設置された前記金型の少なくとも一部を交換可能な金型交換手段と、前記金型設置部に設置された前記金型の前記キャビティ内に前記金属ガラスと高分子材料とのそれぞれを射出する射出手段と、前記金型の前記キャビティ内に射出された前記金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で所定温度まで冷却可能な冷却手段とを備えることを特徴としている。
【0009】
この発明に係る金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法及び一体成形品用成形装置によれば、金属ガラス射出工程として、キャビティを第一の部分と対応する形状として金型を金型設置部に設置し、射出手段によって該金型のキャビティ内に融点以上に加熱した金属ガラスを射出する。そして、金属ガラス冷却工程として、冷却手段によって金型のキャビティ内に射出した金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却する。このため、金型のキャビティ内において、一体成形品の第一の部分を金属ガラスによって結晶化してしまうことなく精度良く形成することができる。次に、金型交換工程として、金型交換手段によって金型の少なくとも一部を交換することで、第二の部分と対応する形状のキャビティを形成することができる。そして、高分子材料射出工程として、射出手段によって金型のキャビティ内に第二の部分となる高分子材料を射出することで、第一の部分となる金属ガラスと第二の部分となる高分子材料が一体となる一体成形品が成形されることとなる。ここで、金属ガラス冷却工程では、高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却していることで、第二の部分となる高分子材料を熱の影響を受けることなく射出成形することができる。また、予め第一の部分を金属ガラスで形成しておくことで、第一の部分と対応させて第二の部分を精度良く成形することができる。
【0010】
また、上記の金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法において、前記金属ガラス射出工程の前に、前記金型を所定温度まで冷却する金型冷却工程を備え、前記金属ガラス冷却工程は、前記金型冷却工程で冷却された前記金型と、該金型の前記キャビティ内に射出された前記金属ガラスとの温度差によって行われることがより好ましいとされている。
【0011】
また、上記の金属ガラスと高分子材料との一体成形品用成形装置において、前記冷却手段は、前記金属ガラスを射出する前の前記金型を冷却し、該金型の前記キャビティ内に前記射出手段によって前記金属ガラスを射出することで、該金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却させることがより好ましいとされている。
【0012】
この発明に係る金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法及び一体成形品用成形装置によれば、金型冷却工程として、冷却手段により、金型を予め冷却した後に、金属ガラス射出工程を行うことで、金属ガラスは金型のキャビティ内に射出されるのと同時に金属ガラス冷却工程として金型との温度差によって臨界冷却速度以上の冷却速度で高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却されることとなる。上記のように予め金型を冷却することにより金属ガラスを冷却することで、射出するのと同時に正確な温度制御のもと金属ガラスを冷却することができる。
【0013】
また、上記の金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法において、前記金属ガラス射出工程で射出される金属ガラスの質量、温度及び比熱に基づいて、前記金属ガラス冷却工程で前記金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却するのに必要な前記金型の熱容量を算出し、該熱容量に応じた材質及び質量に前記金型を設定する金型設定工程を備えることがより好ましいとされている。
【0014】
この発明に係る金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法によれば、金型設定工程として、金属ガラス射出工程で射出される金属ガラスの質量、温度及び比熱に基づいて、金属ガラス冷却工程で金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却するのに必要な金型の熱容量を算出し、該熱容量となるように金型の材質及び質量を設定した後に、金属ガラス射出工程及び金属ガラス冷却工程を実施する。このため、射出された金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で、かつ、高分子材料の熱分解温度以下まで、正確に温度制御して冷却することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法及び一体成形品用成形装置によれば、金属ガラスからなる部分と高分子材料からなる部分とで構成される一体成形品を精度良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の成形装置の概略を示す全体図である。
【図2】本発明の実施形態の成形方法で成形される光学素子デバイスの断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の成形方法において、金属ガラス射出工程及び金属ガラス冷却工程の説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の成形方法において、金型交換工程の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の成形方法において、金型交換工程の説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の成形方法において、高分子材料射出工程及び高分子材料冷却工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
本発明に係る第1の実施形態について、図1から図6を参照して説明する。図1に示す本実施形態の成形装置1は、金属ガラスからなる第一の部分と、高分子材料からなる第二の部分とで構成される一体成形品を製造するためのものである。また、図2は、該一体成形品の一例を示すものであり、光学素子デバイス100を示している。光学素子デバイス100は、金属ガラスからなる第一の部分である略筒状のレンズ枠101と、該レンズ枠101の内部に、同軸として嵌合された高分子材料からなる第二の部分であるレンズ102とで構成されている。レンズ102を形成する高分子材料としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂であり、より具体的には、ポリカーボネート、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィン樹脂などが挙げられる。
【0018】
また、レンズ枠101を形成する金属ガラスとは、結晶化温度からガラス遷移温度までのガラス遷移領域が20℃以上ある非晶質金属のことである。非晶質金属とは、複数の金属元素が結晶構造を形成せずに凝固(アモルファス化)したものであり、複数の金属元素からなる溶湯をガラス遷移温度以下になるまで、臨界冷却速度以上で急速冷却することにより形成される。そして、このような非晶質金属では、通常の結晶金属が有しているような結晶粒界を有しておらず、該結晶粒界に起因した粒界腐食を生じないことから耐食性に優れている。また、金属ガラスを形成する複数の金属元素としては、3種類以上からなり、それぞれの原子径が互いに12%以上の違いを有し、かつ、互いに引き合う性質を有して化合物化しやすいことがより好ましい。このような金属ガラスとしては、具体的には、例えばZr−Al−Cuや、Ln−Al−Ni(Lnはランタノイド元素のいずれか)の3元系金属ガラスや、Zr−Cu−Al−Niや、Pd−Cu−Ni−Pの4元系金属ガラスなどが挙げられる。
【0019】
次に、成形装置1の詳細について説明する。
図1に示すように、本実施形態の成形装置1は、固定型111及び可動型112、113で構成される金型110を設置する金型設置部2と、金型110の内、可動型112、113を移動させる移動手段3と、金型110のキャビティ111b内に材料を射出するための射出手段4と、キャビティ111b内の材料を冷却するための冷却手段5とを備える。金型設置部2は、固定型111に取り付けられた型板111aが固定される固定部2aと、固定部2aと対向して配置されて可動型112、113に取り付けられた型板112a、113aが固定され、移動手段3によって固定部2aに向かって進退可能な可動部2bとで構成されている。
【0020】
ここで、金型110の内、固定型111には光学素子デバイス100を成形するためのキャビティ111bが形成されている。また、可動型は、本実施形態では、第一の可動型112と、第二の可動型113と、二つ有していて、第一の可動型112及び第二の可動型113は、金型設置部2の可動部2bにおいて、固定型111に対する進退方向Xに対して略直交する配列方向Yに配列されている。第一の可動型112は、光学素子デバイス100の内、レンズ枠101を形成するためのコア112bを有しており、該第一の可動型112が固定型111に組み付けられてコア112bがキャビティ111bに挿入されることで、該キャビティ111bをレンズ枠101と対応する形状にすることが可能となっている。なお、コア112bの側面は、レンズ枠101の内面において、レンズ102の側面が接合される部分を転写することとなる。このため、コア112bの側面は、レンズ枠101とレンズ102との接合強度を向上させるために、他の部分よりも粗面に形成されていることが望ましく、具体的には、例えば面粗さにおいて最大高さRmaxが25μm程度であることが望ましい。
【0021】
また、第二の可動型113は、レンズ102を形成するためのコア113bを有しており、レンズ枠101が成形された後に該第二の可動型113が固定型111に組み付けられてコア112bがキャビティ111bに挿入されることで、該キャビティ111bをレンズ102と対応する形状にすることが可能となっている。また、第一の可動型112及び第二の可動型113のそれぞれには、ランナ112c、113cが形成されていて、固定型111と組み付けられる一面側で固定型111のキャビティ111b内と連通可能に開口しているとともに、反対側の他面側で射出手段4によって材料を射出することが可能に開口している。
【0022】
また、射出手段4は、射出する材料をレンズ枠101を形成する金属ガラスとレンズ102を形成する高分子材料に切り替える図示しない切替部と、対象となる材料を加熱、溶融する図示しない加熱部と、溶融した材料を第一の可動型112または第二の可動型113のランナ112c、113cに射出するノズル4aとを有している。ここで、図示しない加熱部には温度センサが設けられていて、該温度センサの検出結果に基づいて対象となる材料の温度制御を行うことが可能であり、高分子材料においては溶融温度以上熱分解温度以下、金属ガラスにおいてはガラス遷移温度以上結晶化温度以下となる温度に設定することが可能となっている。
【0023】
また、冷却手段5は、冷却水を供給する図示しない供給部と、金型110において、キャビティ111b及びランナ112c、113cの周囲に形成され図示しない供給部と接続された冷却配管5aとを有する。金型110には、金型110の温度を測定するための図示しない温度センサが設けられており、冷却手段5は、該温度センサの検出結果に基づいて金型110及び金型110のキャビティ111b内に射出された材料を冷却し、温度制御を行うことが可能となっている。
【0024】
また、移動手段3は、金型設置部2の可動部2bを、第一の可動型112と第二の可動型113との配列方向Yに進退させることが可能なスライダ3aと、スライダ3aを固定型111に対する第一の可動型112及び第二の可動型113の進退方向Xに進退可能としているガイド3bとを有している。このため、第一の可動型112及び第二の可動型113は、スライダ3aによって可動部2bを配列方向Yに進退させてそれぞれ固定型111と対向する位置に配置することが可能であるとともに、対向する位置に配置された状態でガイド3bに沿ってスライダ3aが移動することで固定型111と組付け、または、離脱することが可能である。
【0025】
また、固定型111には、第一の可動型112及び第二の可動型113のそれぞれと組み付けられる一面側から、反対側の他面側まで連通する貫通孔111cが形成されている。一面側において貫通孔111cは、第一の可動型112のコア112bが当接される面に開口している。そして、固定型111の他面側には、貫通孔111cに挿入可能なピン6aを有し、固定型111に向かって進退可能な押圧部材6が設けられおり、固定型111に向かって進出し、貫通孔111cにピン6aを挿入させることで、第一の可動型112のコア112bを押圧することが可能となっている。そして、押圧部材6によりコア112bを押圧することで、後述するように固定型111と第一の可動型112が組み付けられてレンズ枠101が射出成形された状態で、移動手段3によって固定型111に対して第一の可動型112を離脱させ、さらに第二の可動型113を組み付けることが可能となり、すなわち押圧部材6と移動手段3とによって金型110の一部を交換する金型交換手段7を構成している。
【0026】
次に、図1から図6に基づいて、本実施形態の一体成形品の成形方法の詳細を説明する。
まず、金型設定工程として、使用する金型110の設定を行う。具体的には、射出する金属ガラスの質量、温度及び比熱に基づいて、後工程の金属ガラス冷却工程で金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却するのに必要な金型110の熱容量を算出する。そして、算出した熱容量に応じて、金型110の材質及び質量を決定し、これにより、金型110においてキャビティ111bの外郭をなす本体部分の形状を決定する。
【0027】
次に、図1に示すように、金属ガラス射出工程として、第一の部分となるレンズ枠101を形成する金属ガラスの射出を行う。すなわち、移動手段3を駆動して第一の可動型112が固定型111と対向する位置となるようにした後に、固定型111に対して第一の可動型112を進出させることで両者を組付け、キャビティ111bの形状をレンズ枠101と対応する形状となるようにする。次に、射出手段4において、上記金属ガラスを選択し、該金属ガラスの温度をガラス遷移温度以上結晶化温度以下であるガラス遷移領域となるように設定する。これにより、金属ガラスは、粘性流体となり、射出可能な状態となる。そして、射出手段4は、ノズル4aから第一の可動型112に形成されたランナ112cに金属ガラスを射出する。なお、金属ガラスの射出する量は、金属ガラスの比重と、第一の可動型112のランナ112c及びコア112b、並びに、固定型111のキャビティ111bの体積とから算出される。
【0028】
次に、金属ガラス冷却工程として、射出された金属ガラスの冷却を行う。金属ガラスの冷却は、冷却手段5によって冷却配管5aに通水された冷却水によって金型110を冷却することにより行われるが、この際、射出した金属ガラスの有する臨界冷却速度以上の冷却速度で、かつ、この後射出される高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却する。これにより、金型110のキャビティ111b内において、レンズ枠101となる部分を金属ガラスによって成形することができた。ここで、金属ガラスは上記工程によりアモルファス状態で成形されていることから、通常の結晶金属で生じるような溶融状態から結晶化への相転移に伴う大きな収縮が発生しないため、金型転写性が高く、精度良くレンズ枠101を形成することができる。
【0029】
次に、金型交換工程として、金型110において、第一の可動型112を第二の可動型113に交換した。すなわち、図3に示すように、まず金型交換手段7を構成する押圧部材6のピン6aを固定型111の貫通孔111cに挿入して第一の可動型112のコア112bを押圧する。そして、図4に示すように、押圧部材6によってコア112bが押圧された状態で移動手段3によって固定型111に対して第一の可動型112を後退させることで、コア112bと成形されたレンズ枠101とは離間して、固定型111に対して第一の可動型112が離脱した状態となる。次に、移動手段3によって配列方向Yに可動部2bを移動させて、第二の可動型113が固定型111と対向するように配置させる。そして、可動部2bを固定部2aに向かって進出させることで、図5に示すように、コア113bが金型110のキャビティ111b内に挿入され、固定型111と第二の可動型113とが組み付けられた状態となり、コア113b及び先に成形されたレンズ枠101によりキャビティ111bの形状がレンズ102と対応する形状となる。
【0030】
次に、高分子材料射出工程として、第二の部分となるレンズ102を形成する高分子材料の射出を行う。射出手段4において、上記高分子材料を選択し、該高分子材料の溶融温度以上熱分解温度以下となるように設定する。そして、図6に示すように、射出手段4は、ノズル4aから第二の可動型113に形成されたランナ113cに高分子材料を射出する。そして、金属ガラス冷却工程において、金属ガラスの温度を高分子材料の熱分解温度以下となるように冷却しているので、射出された高分子材料は、熱分解してしまうことなくキャビティ111b内に射出されることとなる。なお、高分子材料の射出する量は、該高分子材料の比重と、第二の可動型113のランナ113c及びコア113b、並びに、固定型111のキャビティ111bの各体積とから算出される。
【0031】
次に、高分子材料冷却工程として、射出された高分子材料の冷却を行う。なお、高分子材料の冷却としては、冷却手段5によって行うものとしても良いし、自然法冷によって行うものとしても良い。最後に、金型取外し工程として、移動手段3によって固定型111に対して第二の可動型113を離脱させることで、金属ガラスで形成されたレンズ枠101と、高分子材料で形成されたレンズ102とで構成された一体成形品である図2に示す光学素子デバイス100が製造されることとなる。
【実施例1】
【0032】
以下に、上記成形方法によって具体的に光学素子デバイス100を製造した実施例について示す。本実施例では、レンズ枠101の材質をZr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラス、レンズ102を形成する材質をポリカーボネートとして、上記成形方法により図2に示す光学素子デバイス100の製造を行った。なお、Zr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラスは、融点が750℃、ガラス遷移温度が450℃、結晶化温度が490℃、臨界冷却速度は1℃/sである。また、ポリカーボネートの熱分解温度は大気雰囲気下において340℃である。
【0033】
まず、金型設定工程として、金型110の材質及び重量を決定し、金型110本体部分の形状を決定した。金型110としては、炭素鋼を使用した。そして、該炭素鋼の比熱461J/kg・℃、及び、Zr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラスの比熱265.8J/kg・℃、並びに、成形する光学素子デバイス100の形状、及び、以下に示す金属ガラス射出工程及び金属ガラス冷却工程の諸条件から、金型110の本体部分の形状を決定した。
【0034】
次に、金属ガラス射出工程を行った。Zr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラスの温度を融点以上の950℃に設定し、該金属ガラスを注入圧力10MPaで金型110のキャビティ111b内に射出した。射出された直後のキャビティ111b内の金属ガラスの温度は、758℃と融点以上であった。そして、金属ガラス冷却工程として、冷却手段5によりキャビティ111b内の758℃の金属ガラスを、冷却速度を臨界冷却速度の1℃/Sとして冷却することで、ポリカーボネートの熱分解温度となる340℃まで冷却することができ、レンズ枠101を成形することができた。
【0035】
次に、金型交換工程として、第一の可動型112と第二の可動型113とを交換した後に、高分子材料射出工程として、ポリカーボネートを300℃まで加熱溶融して射出した。その後、高分子材料冷却工程として、ポリカーボネートが60℃となるまで保圧をかけながら更に金型を冷却させることで、レンズ102を成形することができた。そして、最後に金型取外し工程として固定型111から第二の可動型113を離脱することで、Zr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラスからなるレンズ枠101と、ポリカーボネートからなるレンズ102とで構成された光学素子デバイス100を製造することができた。
【0036】
なお、本実施例の比較例として、金属ガラス冷却工程における冷却速度を臨界冷却速度未満の0.05℃/sとして、光学素子デバイス100の製造を行った。この場合、レンズ枠101には金属ガラスが形成されず、高精度に金型を転写することができなかった。また、これにより後工程の高分子材料射出工程及び高分子冷却工程においてもレンズ102を高精度に成形することができなかった。また、キャビティ111b内の金属ガラスの温度が450℃の時点でポリカーボネートを射出して成形したところ、本来透明であるべきポリカーボネートが熱分解によって茶褐色に濁った状態で成形されており、本来の高分子が持つ特性を発揮することが出来ないことが分かった。
【0037】
以上のように、本実施形態の成形装置1及び成形方法によれば、金属ガラス冷却工程で冷却手段5によって金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却していることで、第二の部分となるレンズ102を形成する高分子材料を熱の影響を受けることなく射出成形することができる。そして、予め第一の部分となるレンズ枠101を金属ガラスで形成しておくことで、レンズ枠101と対応させてレンズ102を精度良く成形することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態は、成形する工程の一部が異なるものであり、成形装置としては基本的に同様のものであるので図1に基づいて説明を行う。
【0039】
本実施形態の成形方法では、第1の実施形態と比較して、金属ガラス射出工程を行う前に金型冷却工程として、冷却手段5により金型110を予め冷却しておく点で大きく異なっている。そして、金属ガラス射出工程では、予め冷却された金型110のキャビティ111b内に金属ガラスを射出することで、金属ガラスは金型110との温度差により冷却されることとなり、すなわち、金属ガラス射出工程と同時に金属ガラス冷却工程が行われることとなる。ここで、金属ガラス冷却工程における金属ガラスの冷却速度は、金型110の熱容量及び金属ガラス射出工程開始時の金型110の温度に依存している。このため、金型設定工程においては、冷却速度が金属ガラスの臨界冷却速度以上となるように、金型110の熱容量及び金型110の金属ガラス射出工程開始時の温度を決定し、これに基づいて、金型110の材質及び重量を決定し、また、金型冷却工程における金型の目標冷却温度を決定する。
【実施例2】
【0040】
以下に、上記成形方法によって具体的に光学素子デバイス100を製造した実施例について示す。本実施例でも同様に、レンズ枠101の材質をZr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラス、レンズ102を形成する材質をポリカーボネートとして、上記成形方法により図2に示す光学素子デバイス100の製造を行った。
【0041】
まず、金型設定工程として、金型110の材質及び重量を決定し、金型110本体部分の形状を決定した。金型110としては、同様に炭素鋼を使用した。そして、該炭素鋼の比熱461J/kg・℃、比重7.8g/cm及び、Zr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラスの比熱265.8J/kg・℃、比重6.7g/cm、並びに、成形する光学素子デバイス100の形状、及び、以下に示す金型冷却工程及び金属ガラス射出工程の諸条件から、金型110の本体部分の形状を決定した。また、次の金型冷却工程における目標冷却温度を25℃に決定した。そして、金型冷却工程では、冷却手段5において図示しない供給部から冷却配管5aに供給される冷却水により金型の温度を目標冷却温度の25℃となるように冷却した。
【0042】
次に、金属ガラス射出工程及び金属ガラス冷却工程を行った。Zr55Cu30Al10Niの4元系金属ガラスの温度を融点以上の950℃に設定し、該金属ガラスを注入圧力10MPaで金型110のキャビティ111b内に射出した。この際、本実施例においては、冷却手段5による冷却を継続して行うものとし、冷却水を流量3L/minで循環させた。この結果、射出後の金属ガラスは、ポリカーボネートの熱分解温度340℃までの温度差130℃を26秒、冷却速度を5℃/s(臨界冷却速度1℃/s)として冷却することができた。以下、実施例1と同様に、金型交換工程、高分子材料射出工程、高分子材料冷却工程、並びに、金型取外し工程を実施することで、光学素子デバイス100を得ることができた。
【0043】
以上のように、本実施形態の成形方法によれば、第1の実施形態同様に、金属ガラス冷却工程で金属ガラスを高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却していることで、第二の部分となるレンズ102を形成する高分子材料を熱の影響を受けることなく射出成形することができる。そして、予め第一の部分となるレンズ枠101を金属ガラスで形成しておくことで、レンズ枠101と対応させてレンズ102を精度良く成形することができる。さらに、本実施形態では、金型冷却工程として、予め金型を冷却することにより金属ガラスを冷却することで、射出するのと同時に正確な温度制御のもと金属ガラスを冷却することができる。なお、上記実施例2では、金属ガラスを射出しながらも冷却手段5による冷却水の供給を行っているが、冷却水の供給を行わず、予め冷却された金型と金属ガラスとの温度差のみをもって金属ガラスを冷却するものとしても良い。
【0044】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上記実施形態では、溶融状態の金属ガラスを、金属ガラス合金を加熱溶融することによって得ているが、金属ガラスを構成する各元素を溶融状態にした後、金属ガラスとなる組成で混合することによって作製しても良い。
【0045】
なお、上記各実施形態においては、金属ガラスと高分子材料との一体成形品として光学素子デバイスを例に挙げたがこれに限るものでは無く、様々な成形品に上記成形装置及び成形方法を適用可能である。また、金属ガラスとしては、Zr−Cu−Al−Niの4元系金属ガラスを例に挙げたがこれに限るものでは無く、様々な金属ガラス材料を使用可能であり、例えば、Pd−Cu−Ni−Pの4元系金属ガラス(臨界冷却速度0.1℃/s)やZr50−Cu40−Al10の3元系金属ガラス(ガラス遷移温度:433℃、結晶化温度:519℃、融点:819℃)などがある。同様に、高分子材料としてはポリカーボネートを例に挙げたがこれに限るものでは無く、様々な高分子材料を使用可能であり、例えば、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA:熱分解温度(大気雰囲気下)330℃)やポリ塩化ビニル(PVC:熱分解温度(窒素雰囲気下)286℃)、シクロオレフィン樹脂(熱分解温度(大気雰囲気下)400℃)などがある。
【符号の説明】
【0046】
1 成形装置
2 金型設置部
4 射出手段
5 冷却手段
7 金型交換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ガラスで形成された第一の部分と、高分子材料で形成された第二の部分とで構成される金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法であって、
少なくとも一部が交換可能に構成され前記第一の部分と対応する形状に形成された金型のキャビティ内に、前記金属ガラスを融点以上に加熱した状態で射出する金属ガラス射出工程と、
前記金型の前記キャビティ内に射出された前記金属ガラスを、臨界冷却速度以上の冷却速度で、前記高分子材料の熱分解温度以下となるまで冷却する金属ガラス冷却工程と、
前記金型の少なくとも一部を交換して、キャビティを前記第二の部分と対応する形状に形成する金型交換工程と、
前記第二の部分と対応する形状に形成された前記金型の前記キャビティ内に、前記高分子材料を射出する高分子材料射出工程とを備えることを特徴とする金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法において、
前記金属ガラス射出工程の前に、前記金型を所定温度まで冷却する金型冷却工程を備え、
前記金属ガラス冷却工程は、前記金型冷却工程で冷却された前記金型と、該金型の前記キャビティ内に射出された前記金属ガラスとの温度差によって行われることを特徴とする金属ガラスと高分子材料の一体成形品の成形方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法において、
前記金属ガラス射出工程で射出される金属ガラスの質量、温度及び比熱に基づいて、前記金属ガラス冷却工程で前記金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却するのに必要な前記金型の熱容量を算出し、該熱容量に応じた材質及び質量に前記金型を設定する金型設定工程を備えることを特徴とする金属ガラスと高分子材料との一体成形品の成形方法。
【請求項4】
金属ガラスで形成された第一の部分と、高分子材料で形成された第二の部分とで構成される金属ガラスと高分子材料との一体成形品用成形装置であって、
少なくとも一部を交換することで、キャビティを前記第一の部分と前記第二の部分とのそれぞれに対応した形状に切換可能な金型が設置される金型設置部と、
該金型設置部に設置された前記金型の少なくとも一部を交換可能な金型交換手段と、
前記金型設置部に設置された前記金型の前記キャビティ内に前記金属ガラスと高分子材料とのそれぞれを射出する射出手段と、
前記金型の前記キャビティ内に射出された前記金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で所定温度まで冷却可能な冷却手段とを備えることを特徴とする金属ガラスと高分子材料との一体成形品用成形装置。
【請求項5】
請求項4に記載の金属ガラスと高分子材料との一体成形品用成形装置であって、
前記冷却手段は、前記金属ガラスを射出する前の前記金型を冷却し、該金型の前記キャビティ内に前記射出手段によって前記金属ガラスを射出することで、該金属ガラスを臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却させることを特徴とする金属ガラスと高分子材料との一体成形品用成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−208223(P2010−208223A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58467(P2009−58467)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】