説明

金属コード、ゴム・コード複合体、及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】メッキ素線からなる金属コードとゴムとの湿熱接着性を向上させる。
【解決手段】メッキ前素線15の表面にブラスメッキ層16を設けかつ伸線したメッキ素線17Eからなる金属コード10に、ゴム12を加硫接着したゴム・コード複合体9であって、ゴム12とブラスメッキ層16Eとの間に、硫黄と銅とが架橋反応した接着反応層25を有する。前記ゴム12を加硫接着しかつ温度50〜100℃、湿度60〜100%の雰囲気下で1時間〜20日間保持した後の湿熱劣化状態において、前記接着反応層25の平均厚さを50nm〜1000nm、しかも該接着反応層25とゴムとの界面Sのフラクタル次元を1.001〜1.300の範囲とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムとブラスメッキ層との間に形成される接着反応層を特定することにより熱湿環境下におけるメッキ素線とゴムとの接着性の低下を抑制した金属コード、ゴム・コード複合体、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば空気入りタイヤ、ホース、工業用ベルト等のゴム製品の補強素子として金属コードが、補強効果に優れるなどの観点から多用されている。そして、このような金属コードで補強したゴム製品であるゴム・コード複合体では、金属コードとゴムとの接着性を高めるために、コード素線はその表面に、銅と亜鉛とを含むブラスメッキが施されている。このブラスメッキは、通常、素線表面に、銅メッキ層と亜鉛メッキ層とを順次形成し、その後熱拡散することにより両金属を合金化している。
【0003】
ここで、ブラスメッキ層とゴムとの接着性は、ゴム加硫時、前記ゴム中に配合された硫黄と、前記ブラスメッキ層中の銅とが架橋反応を起こして結合した接着反応層が、ブラスメッキ層とゴムとの間に形成されることにより発現されることが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、通常のブラスメッキでは、加硫初期の接着性(初期接着性)は良好であるものの、高温高湿の湿熱環境下においては接着性が低下する。そして、ゴムと剥離しやすくなるなど湿熱接着性に劣るという傾向にある。なお湿熱接着性を改善するために、ゴム中に有機コバルト塩を添加することが有効である。しかし、この有機コバルト塩は高価であり、かつ未加硫ゴムを劣化や熱老化させやすい特性を有する。そのため、配合量には制限があり、湿熱接着性を充分に高めることはできなかった。
【0005】
又湿熱接着性を向上させる他の技術として、例えば特許文献1に記載される如く、ブラスメッキ層における銅の含有量を62%以下にすることでゴムとの界面で硫化物が過剰に形成されるのを抑制し、銅のゴム側への拡散を抑制する方法が知られている。また、特許文献2、3に記載される如く、ブラスメッキとして
銅、亜鉛、ニッケルからなる3元合金メッキを施すことで、ゴムとの界面における腐食反応並びに接着反応を抑制する方法が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−96594号公報
【特許文献2】特開2003−94108号公報
【特許文献3】特許1812616号
【0007】
しかしいずれの方法においても、これまでは湿熱劣化のメカニズムの観点から湿熱接着性向上のための最適なメッキ層の組織(反応層の組織)に関する研究がなく、結果的には効果が限定的であり実用段階には至っていない。
【0008】
このような状況に鑑み、本発明者が鋭意研究した。その結果、前記接着反応層とゴムとの界面の凹凸状態、および接着反応層の平均厚さが特定の範囲にある場合、前記熱湿環境下における接着性を従来以上に高く発揮しうることを究明し得た。
【0009】
そこで本発明の第1の目的は、接着反応層とゴムとの界面の凹凸状態、およびこの接着反応層の平均厚さを特定することを基本として、湿熱接着性を向上させたゴム・コード複合体を提供することにある。
また本発明の第2の目的は、前記ゴム・コード複合体に用いる金属コードであって、加硫接着されたゴムとの湿熱接着性を向上させる金属コードを提供することにある。
本発明の第3の目的は、前記ゴム・コード複合体を用いて耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本願請求項1の発明は、金属製のメッキ前素線の表面に銅と亜鉛とを含むブラスメッキ層を設けかつ伸線したメッキ素線からなる金属コードに、ゴムを加硫接着したゴム・コード複合体であって、
前記ゴムと前記ブラスメッキ層との間に、ゴム中の硫黄と前記ブラスメッキ層中の銅とが架橋反応した接着反応層を有するとともに、
前記金属コードは、前記ゴムを加硫接着しかつ温度50〜100℃、湿度60〜100%の雰囲気下で1時間〜20日間保持した後の湿熱劣化状態において、
前記接着反応層の平均厚さが、50nm〜1000nm、しかも該接着反応層と前記ゴムと界面のフラクタル次元が1.001〜1.300の範囲であることを特徴としている。
【0011】
又請求項2の発明では、前記ブラスメッキ層は、メッキ100重量部に対して、0.1〜5.0重量部のコバルト、又は1.0〜10.0重量部のニッケルを含むことを特徴としている。
又請求項3の発明では、前記ブラスメッキ層は、メッキ前素線に、重ねてメッキされる銅メッキ層と亜鉛メッキ層とを熱拡散することにより形成され、
前記銅メッキ層は電流密度15〜25A/dm2 、亜鉛メッキ層は電流密度40〜60A/dm2 でメッキ処理されるとともに、前記熱拡散は温度500〜550℃の低温拡散としたことを特徴としている。
又請求項4の発明では、前記金属コードは、少なくとも1本のメッキ素線からなることを特徴としている。
【0012】
又請求項5の発明は、請求項1〜3に記載のゴム・コード複合体に用いる金属コードであって、
前記ブラスメッキ層は、メッキ前素線に重ねてメッキされる銅メッキ層と、亜鉛メッキ層とを熱拡散することにより形成され、
前記銅メッキ層は電流密度15〜25A/dm2 、亜鉛メッキ層は電流密度40〜60A/dm2 でメッキ処理されるとともに、前記熱拡散は温度500〜550℃の低温拡散としたことを特徴としている。
又請求項6の発明は、請求項1〜3に記載のゴム・コード複合体に用いる金属コードであって、
前記ブラスメッキ層は、メッキ前素線に重ねてメッキされる銅メッキ層と、亜鉛/ニッケル合金又は亜鉛/コバルト合金からなる亜鉛合金のメッキ層とを熱拡散することにより形成され、
前記銅メッキ層は電流密度15〜25A/dm2 、亜鉛合金メッキ層は電流密度40〜60A/dm2でメッキ処理されるとともに、前記熱拡散は温度500〜550℃の低温拡散としたことを特徴としている。
【0013】
又請求項7は、空気入りタイヤの発明であって、請求項1〜4に記載のゴム・コード複合体をタイヤ補強用のプライに用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明は叙上の如く、ゴム中の硫黄とブラスメッキ層中の銅とが架橋反応を起こして結合する接着反応層において、この接着反応層とゴムとの界面におけるフラクタル次元を1.001〜1.300の範囲として、前記界面における凹凸を多く複雑化している。又前記接着反応層の平均厚さを適正に確保している。その結果、接着反応層の界面におけるゴムとの結合力を充分に高めることができるとともに、接着反応層自体の強度アップが図れる。そしてこれらの相乗作用により、ゴムとコードとの湿熱接着性の向上を達成しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1は本発明のゴム・コード複合体が、タイヤ補強用のプライに用いられた空気入りタイヤを示す断面図、図2はゴム・コード複合体である前記プライを示す断面図である。
【0016】
図1において、空気入りタイヤ1は、本例では乗用車用ラジアルタイヤであって、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、トレッド部2の内部かつ前記カーカス6の半径方向外側に配されるベルト層7とを具える。
【0017】
前記カーカス6は、本例では、タイヤ周方向に対して例えば75゜〜90゜の角度で配列したカーカスコードを有する1枚以上のカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、前記ビードコア5、5間に跨るプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りで内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを具える。前記該プライ本体部6aと折返し部6bとの間には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側に先細状にのびるビードエーペックスゴム8が配置され、これによりビード部4からサイドウォール部3にかけて補強される。
【0018】
又前記ベルト層7は、タイヤ周方向に対して10〜45°の角度で配列したベルトコードを有する2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bからなる。各ベルトコードは、プライ間で互いに交差することにより、ベルト剛性を高めトレッド部2を強固に補強する。
【0019】
そして本例では、前記カーカスプライ6A、及びベルトプライ7A、7Bを含むタイヤ補強用のプライのうちの、前記ベルトプライ7A、7Bに、本発明のゴム・コード複合体9を採用している。
【0020】
このゴム・コード複合体9は、図2に示すように、ベルトコードである金属コード10を互いに平行に引き揃えたコード配列体11と、このコード配列体11の表裏を被覆しかつ加硫接着されるトッピング用のゴム12とから構成される。なお前記「加硫接着」は、未加硫の生タイヤを金型内で加硫成形する際の加硫熱によって行われる。
【0021】
前記トッピング用のゴム12としては、ゴム基材中に硫黄を配合した従来的なタイヤ用ゴムが好適に使用できる。前記ゴム12には、必要なゴム物性を得るために、前記硫黄に加え、加硫促進剤、加硫促進助剤等の周知の配合薬剤が選択的に使用される。前記ゴム基材としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム等のジエン系ゴムが好適であり、このジエン系ゴムを単独で或いは2種以上をブレンドして使用する。表1は、前記ゴム12のゴム組成の一例を示したものであり、前述の有機コバルト塩は排除されている。
【0022】
【表1】

【0023】
次に、前記金属コード10は、金属製のメッキ前素線15の表面にブラスメッキ層16を形成しかつ伸線したメッキ素線17Eの少なくとも1本から形成される。前記メッキ素線17Eが複数本の場合には、束撚り、層撚り等の周知の撚り構造で撚り合わされる。なお図2には、3本のメッキ素線17Eを撚り合わせた1×3構造の金属コード10が例示されている。
【0024】
又前記ブラスメッキ層16は、銅と亜鉛とを主成分としたブラス系メッキであって、本発明では、銅と亜鉛とからなる2元合金メッキ、或いは銅と亜鉛に、第3金属としてコバルト又はニッケルを加えた3元合金メッキを採用することができる。2元合金メッキ、3元合金メッキの何れの場合にも、メッキ100重量部に対する銅の含有量は60〜80重量部、かつ亜鉛の含有量は40〜20重量部の範囲であるのが好ましい。又3元合金メッキの場合には、コバルトの含有量を0.1〜5.0重量部、ニッケルの含有量を1.0〜10.0重量部の範囲とするのが好ましい。
【0025】
次に2元合金メッキからなるブラスメッキ層16は、図3(A)に示すように、メッキ前素線15の表面に、一次メッキ層20である銅メッキ層20Aと、亜鉛メッキ層20Bとを順次形成し、しかる後、熱拡散させて両金属(銅と亜鉛)を合金化することによって形成される。なお符号17Aは、伸線前のメッキ素線を示し、伸線後のメッキ素線を17Eとしている。なお銅メッキ層20Aは、ピロリン酸銅浴や硫酸銅浴などの銅メッキ浴で電気メッキ処理を行うことにより形成できる。又亜鉛メッキ層20Bは、硫酸亜鉛浴などの亜鉛メッキ浴で電気メッキ処理を行うことにより形成できる。又熱拡散は、銅メッキ層20Aと亜鉛メッキ層20Bとを積層したメッキ前素線15を、加熱装置内で加熱処理することにより行われる。
【0026】
又3元合金メッキからなるブラスメッキ層16を形成する場合には、図3(B)に示すように、銅メッキ層20Aおよび亜鉛メッキ層20Bに加え、コバルト浴或いはニッケル浴である第3金属浴での電気メッキ処理にて、第3金属メッキ層20Cを形成し、しかる後、熱拡散させて三者を合金化させる。
【0027】
なお各一次メッキ層の形成順序としては、特に規制されないが、メッキ前素線15がスチールの場合、最初に亜鉛メッキ層20Bを形成すると、熱拡散時、メッキ前素線15の表面に、鉄と亜鉛との硬くて脆い合金相が生成されるため、メッキ剥離性の観点から好ましくない。又「銅メッキ層20A」と「第3金属メッキ層20C」との間は、他のメッキ層間に比して拡散し難い傾向があり、「銅メッキ層20A」と「第3金属メッキ層20C」とを隣接させないことが好ましい。従って、2元合金メッキの場合、「銅メッキ層20A→亜鉛メッキ層20B」の順が好ましく、又3元合金メッキの場合、「銅メッキ層20A→亜鉛メッキ層20B→第3金属メッキ層20C」の順が好ましい。
【0028】
そしてブラスメッキ層16が形成されたメッキ素線17Aに周知の伸線処理を施すことにより、所望の直径に伸線されたメッキ素線17Eが得られる。なお符号17Eは、伸線されたメッキ素線17Eにおけるブラスメッキ層を意味し、符号15Eは、伸線されたメッキ素線17Eにおける素線15を意味する。
【0029】
又3元合金メッキからなるブラスメッキ層16を形成する他の方法として、図3(C) に示すように、メッキ前素線15の表面に、銅メッキ層20Aを形成し、しかる後その外側に、亜鉛とニッケルとの合金のメッキ層20D、或いは亜鉛とコバルトとの合金のメッキ層20Dを順次形成する。そしてその後、熱拡散させて得ることができる。この合金メッキ層20Dは、硫酸亜鉛とニッケルとの合金浴、或いは硫酸亜鉛とコバルトとの合金浴で電気メッキ処理することで形成できる。この方法で形成した場合、最外側に第3金属メッキ層20Cを形成した場合(図3(B)の場合)に比して、熱拡散後の外表面における第3金属の含有量が、相対的に減じる。そのため、前記伸線処理における伸線加工性を向上させることができる。
【0030】
次に、前記ブラスメッキ層16Eとゴム12との接着性は、図5に示すように、ゴム加硫時、前記ゴム12中に配合された硫黄と、前記ブラスメッキ層16E中の銅とが架橋反応を起こして結合し、前記ブラスメッキ層16Eとゴム12との界面に接着反応層25が形成されることにより発現される。そこで、前記接着反応層25自体の強度アップを図ること、並びに前記接着反応層25とゴム12との接着力を高めることにより、ゴム12とメッキ素線17との湿熱接着性の向上が達成される。
【0031】
そのために、本発明では、前記ゴム12と同質のゴムを加硫接着した金属コード10、或いはゴム・コード複合体9自体を、温度50〜100℃、相対湿度60〜100%の雰囲気下で1時間〜20日の期間保持した後の湿熱劣化状態において、前記接着反応層25の平均厚さTnを50nm〜1000nmの範囲に規定するとともに、前記接着反応層25とゴム12との界面Sのフラクタル次元を1.001〜1.300の範囲に規定している。なお湿熱接着性の向上効果をより明確化するためには、前記湿熱劣化環境を、温度70〜100℃、相対湿度80〜100%の雰囲気下で10〜20日の期間とするのが好ましい。
【0032】
前記接着反応層25の平均厚さTnが50nmを下回ると、接着反応層25が薄すぎて接着強度が不充分となり、逆に平均厚さTnが1000nmを超えても、接着反応層25の架橋密度が低下してしまい、同様に接着強度の低下を招く。従って、前記接着反応層25の平均厚さTnは、その下限値を100nm以上、上限値を500nm以下とするのが好ましい。
【0033】
又前記「フラクタル次元」とは、周知の如く、形の複雑さ、表面の凹凸の度合いなどを表す指標であって、フラクタル次元の値が大なほど凹凸が複雑であることを示す。本実施形態では、接着反応層25の界面Sのフラクタル次元を1.001以上として、該界面Sにおける凹凸の度合いを高めて複雑化するとともに表面積の増大を図っている。これにより、接着反応層25とゴム12との結合力を高めることができる。なお前記フラクタル次元が1.001未満のときには、湿熱劣化後の接着反応層25とゴム12との結合力が低下する。しかし、フラクタル次元が1.300を超えて凹凸の度合いが大きくなっても、湿熱劣化後の接着反応層25とゴム12との結合力の低下を招く。このことから、フラクタル次元の下限値を1.050以上、さらには1.100以上とするのが好ましく、また上限値を1.250以下とするのが好ましい。
【0034】
ここで前記「フラクタル次元」は、周知の如く、例えばボックスカウンティング法により求めることができる。具体的には、例えばTEM(透過方型電子顕微鏡)で撮影した接着反応層を画像処理してその界面に沿う曲線を抽出する。そして抽出した曲線のフラクタル次元をボックスカウンティング法により求める。このボックスカウンティング法では、前記曲線を一辺の大きさが”r”の正方形の小領域(ボックス)に分割し、”r” の大きさを変化させながら、対象となる曲線の線分を含む小領域(ボックス)の個数をカウントする。そしてカウントした小領域(ボックス)の個数を縦軸、そのときの”r”の大きさを横軸として両対数グラフにプロットし、そのグラフの傾きからフラクタル次元を求める。又前記接着反応層25の平均厚さTnも、前記表面形状に沿う曲線から求めることができる。
【0035】
なお接着反応層25の界面Sのフラクタル次元、およびを接着反応層25の平均厚さTnを調整する手段としては、銅メッキ及び亜鉛メッキをメッキする際の電気メッキの電流密度および拡散温度の条件の設定がある。また第3成分をメッキする際にも電流密度の条件の設定がある。
【0036】
上記接着反応層25の界面Sのフラクタル次元と、接着反応層25の平均厚さTnについての好ましい条件は、以下のとおりである。即ち、
(A) 一次メッキ層20(20A、20B、20C)を形成するに際して、電気メッキの電流密度を従来よりも高い特定の範囲に設定すること、
;及び
(B) 熱拡散処理時における温度(拡散温度)を従来よりも低い特定の範囲に設定すること;
であり、これにより前記接着反応層25を得ることができる。具体的には、銅メッキ層20Aを電気メッキする際の電流密度を15〜25A/dm2 の範囲、亜鉛メッキ層20Bを電気メッキする際の電流密度を40〜60A/dm2 の範囲に高めるとともに、熱拡散を拡散温度が500〜550℃の範囲の低温拡散とするのが好ましい。なお従来においては、銅メッキ層の電流密度は約10A/dm2 、亜鉛メッキ層の電流密度は約20A/dm2 、かつ拡散温度は560〜600℃の範囲に設定されている。なお第3金属メッキ層20Cを電気メッキする場合には、その電流密度を30〜40A/dm2 の範囲に高めるのが好ましい。
【0037】
又図3(C)に示すように、亜鉛メッキ層20Bに代えて、前記亜鉛/ニッケル合金メッキ層、或いは亜鉛/コバルト合金メッキ層である亜鉛合金メッキ層20Dを形成する場合、この亜鉛合金メッキ層20Dを電気メッキする際の電流密度は、前記亜鉛メッキ層20Bの場合と同様、40〜60A/dm2 の範囲とする。
【0038】
次に、前記ブラスメッキ層16Eとして、前述の如く、コバルト又はニッケルを加えた3元合金メッキとすることができる。しかし第3金属としてニッケルを添加する場合、その添加量が、メッキ100重量部に対して1.0重量部未満のときには、湿熱劣化後のメッキ層16Eが粒状のもろい組織に変化しやすく、この部分から剥離が発生する傾向となる。逆に10.0重量部を越える場合には、前記接着反応層25の厚さTが薄くなり、接着強度が低下するとともに、メッキ層16Eが硬質化し伸線加工性を低下させる。従って、ニッケルの添加量は、1.0〜10.0重量部の範囲が好ましい。
【0039】
又第3金属としてコバルトを添加する場合、その添加量が、メッキ100重量部に対して0.1重量部未満のときには、湿熱劣化後のメッキ層16がもろい粒状の組織に変化しやすく、この部分から剥離が発生する傾向となる。逆に5.0重量部を越える場合には、前記接着反応層25の厚さTが薄くなり、接着強度が低下するとともに、メッキ層16Eが硬質化し伸線加工性を低下させる。従って、コバルトの添加量は、0.1〜5.0重量部の範囲が好ましい。
【0040】
次に、本例では前記ゴム・コード複合体9を、タイヤ補強用のプライ、とりわけベルトプライに適用した場合を例示している。しかし、例えばカーカスプライ、及びビード補強プライなどの他のタイヤ補強用のプライに適用することもできる。又金属コード10としてビードコア5形成用のビードワイヤであっても良く、斯かる場合、前記金属コード10は1本のメッキ素線17からなり、又タイヤ1自体がゴム・コード複合体9を構成していると考えられる。又ゴム・コード複合体9としては、他に、ホース、工業用ベルト等の種々のゴム製品に適用することができる。又メッキ前素線15も、前記スチール以外に、例えばアルミ、銅、チタンなど、ブラスメッキ層16を形成しうる種々の金属材料が採用でき、又何れの金属材料を採用しても、上記の作用効果を有効に発揮することができる。
【0041】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0042】
(1)線径が1.7mmのスチ―ルのメッキ前素線の表面に、ブラスメッキ層を形成した。その後、この素線に、伸線処理を施し、線径0.27mmのメッキ素線を得た。
なおブラスメッキ方法として、
(A)銅メッキ層と、亜鉛メッキ層とを順次形成し、しかる後、熱拡散処理にて2元合金のブラスメッキ層としたものをタイプA,
(B)銅メッキ層と、亜鉛メッキ層と、第3金属メッキ層とを順次形成し、しかる後、熱拡散処理にて3元合金メッキ層としたものをタイプB,
(C)銅メッキ層と、亜鉛合金(亜鉛/ニッケル合金、或いは亜鉛/コバルト合金)のメッキ層とを順次形成し、しかる後、熱拡散処理にて3元合金メッキ層としたものをタイプC
としている。
【0043】
そして、このメッキ素線を撚り合わせてなる1×3構造の金属コードの配列体の両面を、表1の仕様の未加硫のゴムシートで挟み、圧接状態で加熱加硫(165℃、18分)してコードプライのサンプルを試作した。そして各サンプルに対して剥離テストを行い、金属コードの初期接着性及び湿熱接着性を比較した。
【0044】
湿熱接着性は、前記サンプルを温度80℃、相対湿度95%のオーブン内で20日間放置した湿熱劣化状態のサンプルに対して剥離テストを行い、又初期接着性は、加硫後のサンプルを常温・常湿(20℃、50%(相対湿度))で自然冷却状態のサンプルに対して剥離テストを行った。又剥離テストは、前記サンプルの一端側から、ゴム/金属コードの界面に沿って50mm/minの速度で剥離し、該界面における金属コード表面の状態を以下のように評価した。
5−−−完全にゴムで覆われ、スチールコードのメッキ面が見えない。
4−−−メッキ面が3〜6箇所見える。
3−−−メッキ面が11〜16箇所見える。
2−−−メッキ面が21箇所以上見えるが、全体として60%以上ゴムで覆われている。
1−−−ゴムで覆われた部分の面積が10%以上かつ30%未満である。
なお、表2などは、評点を0.5刻みで評価しているが、整数評点の範囲外のものを、そのようにしている。
【0045】
(2)前記スチールコードをベルトコードとして用いた空気入りタイヤ(サイズ195/65R15)を下記の仕様で試作し、該タイヤの高速耐久性をテストした。
(ベルト層)
・プライ数 ----2枚
・コード角度 ----(+20°、−20°)
・コード打ち込み数----40本/5cm
(カーカス)
・コード ----1670dtex/2(ポリエステル)
・プライ数 ----1枚
・コード角度 ----(90°)
・コード打ち込み数----50本/5cm
【0046】
<高速耐久性テスト>
ドラム走行試験機を用い、内圧(280kPa)、荷重(492kgf)の条件で、速度170km/hからスタートし、10分毎に10km/hずつ段階的にスピードアップさせ、タイヤが破壊するまでの走行距離を、比較例1を100とする相対指数で表示した。数値が大きいほど高速耐久性に優れている。
【0047】
【表2】

【0048】
表の如く、本発明に係わる実施例の金属コードは、前記剥離テストから、湿熱劣化後のゴムとの接着性に優れることが確認できる。又高速耐久性テストから、熱に対する接着性の低下も抑制でき、タイヤの高速耐久性を向上しうるのが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のゴム・コード複合体が、タイヤ補強用プライとして用いられた空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】ゴム・コード複合体である前記プライを示す断面図である。
【図3】(A)は、2元合金のブラスメッキ層を形成する工程を説明する工程図、(B)は、3元合金のブラスメッキ層を形成する工程を説明する工程図、(C)は、3元合金のブラスメッキ層を形成する他の工程を説明する工程図である。
【図4】ゴムとブラスメッキ層との界面に形成される接着反応層を示す概念図である。
【符号の説明】
【0050】
1 空気入りタイヤ
9 ゴム・コード複合体
10 金属コード
12 ゴム
15 メッキ前素線
15E 伸線後の素線
16、16E ブラスメッキ層
17A、17E メッキ素線
20A 銅メッキ層
20B 亜鉛メッキ層
25 接着反応層
S 接着反応層の界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のメッキ前素線の表面に銅と亜鉛とを含むブラスメッキ層を設けかつ伸線したメッキ素線からなる金属コードに、ゴムを加硫接着したゴム・コード複合体であって、
前記ゴムと前記ブラスメッキ層との間に、ゴム中の硫黄と前記ブラスメッキ層中の銅とが架橋反応した接着反応層を有するとともに、
前記金属コードは、前記ゴムを加硫接着しかつ温度50〜100℃、湿度60〜100%の雰囲気下で1時間〜20日間保持した後の湿熱劣化状態において、
前記接着反応層の平均厚さが、50nm〜1000nm、しかも該接着反応層と前記ゴムとの界面のフラクタル次元が1.001〜1.300の範囲であることを特徴とするゴム・コード複合体。
【請求項2】
前記ブラスメッキ層は、メッキ100重量部に対して、0.1〜5.0重量部のコバルト、又は1.0〜10.0重量部のニッケルを含むことを特徴とする請求項1記載のゴム・コード複合体。
【請求項3】
前記ブラスメッキ層は、メッキ前素線に、重ねてメッキされる銅メッキ層と亜鉛メッキ層とを熱拡散することにより形成され、
前記銅メッキ層は電流密度15〜25A/dm2 、亜鉛メッキ層は電流密度40〜60A/dm2 でメッキ処理されるとともに、前記熱拡散は温度500〜550℃の低温拡散としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム・コード複合体。
【請求項4】
前記金属コードは、少なくとも1本のメッキ素線からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のゴム・コード複合体。
【請求項5】
請求項1〜3に記載のゴム・コード複合体に用いる金属コードであって、
前記ブラスメッキ層は、メッキ前素線に重ねてメッキされる銅メッキ層と、亜鉛メッキ層とを熱拡散することにより形成され、
前記銅メッキ層は電流密度15〜25A/dm2 、亜鉛メッキ層は電流密度40〜60A/dm2 でメッキ処理されるとともに、前記熱拡散は温度500〜550℃の低温拡散としたことを特徴とする金属コード。
【請求項6】
請求項1〜3に記載のゴム・コード複合体に用いる金属コードであって、
前記ブラスメッキ層は、メッキ前素線に重ねてメッキされる銅メッキ層と、亜鉛/ニッケル合金又は亜鉛/コバルト合金からなる亜鉛合金のメッキ層とを熱拡散することにより形成され、
前記銅メッキ層は電流密度15〜25A/dm2 、亜鉛合金メッキ層は電流密度40〜60A/dm2でメッキ処理されるとともに、前記熱拡散は温度500〜550℃の低温拡散としたことを特徴とする金属コード。
【請求項7】
請求項1〜4に記載のゴム・コード複合体をタイヤ補強用のプライに用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−186840(P2007−186840A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317407(P2006−317407)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】