説明

金属ダンパ装置

【課題】 塑性金属体を使用した金属ダンパとしての履歴特性を任意に形成することができ、それによって、広範囲に適用することが可能な金属ダンパ装置を提供すること。
【解決手段】 異なる履歴特性を備えた複数種類の金属要素を組み合わせることにより複数個の降伏点を備えた任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成し、それによって、全体としての剛性のコントロール、降伏点のコントロール、固有周期のコントロールが可能になり、それによって、地震発生時の振動エネルギを効果的に吸収して、構造物が受ける地震エネルギを最小限に抑制してその健全性を維持することを可能にするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、アルミニウム合金(Al−Mg−Si系合金等)等の金属の塑性特性を利用した金属ダンパ装置に係り、特に、履歴特性が異なる複数種類の金属要素を組み合わせて構成することにより、優れたダンパ効果を発揮することができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
金属の塑性特性を利用した金属ダンパを開示するものとして、例えば、特許文献1、特許文献2等がある。
【0003】
【特許文献1】特開2001−140965号公報
【特許文献2】特開2003−27766号公報
【0004】
上記特許文献1、特許文献2に開示されている金属ダンパは、例えば、上側構造体と下側構造体の間に、支持体を介して塑性を有する金属体を配置したものである。そして、上記塑性を有する金属体の塑性変形を利用して振動エネルギを吸収しようとするものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の構成によると次のような問題があった。
すなわち、従来の金属ダンパは、ある種の塑性を有する金属体を使用しただけの構成であり、その場合、その塑性を有する金属体からなる金属ダンパの剛性、降伏点等については、その塑性を有する金属体が有する履歴特性によって一義的に決定されてしまい、そのため、金属ダンパとしての効果には限界があると共に適用範囲が限定されてしまうという問題があった。
より具体的に説明すると、例えば、大きな降伏点を備えた単一の材料から金属ダンパを構成した場合には、地震により発生した振動エネルギによる荷重がその降伏点を越えない限りは金属ダンパが塑性変形することはない。したがって、それまでは地震によって発生した振動エネルギは吸収されることはなく建築物に作用してしまうことになる。
逆に、例えば、小さな降伏点を備えた単一の材料から金属ダンパを構成した場合には、地震により発生した振動エネルギによる荷重がその降伏点を越えることにより金属ダンパが早々に塑性変形する。それによって、地震によって発生した振動エネルギは吸収されることになる。しかしながら、それ以上の振動エネルギが作用することに対しては最早何等ダンパ機能を発揮することができなくなってしまうものである。
【0006】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、塑性を有する金属体を利用した金属ダンパとしての任意の履歴特性を新たに構成することができ、それによって、ダンパ効果を高めると共に広範囲に適用することが可能な金属ダンパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による金属ダンパ装置は、異なる履歴特性を備えた複数種類の金属要素を組み合わせることにより任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成されたことを特徴とするものである。
又、請求項2による金属ダンパ装置は、請求項1記載の金属ダンパ装置において、降伏点が異なる複数種類の金属要素を組み合わせることにより複数個の降伏点を有する任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成されたことを特徴とするものである。
又、請求項3による金属ダンパ装置は、請求項2記載の金属ダンパ装置において、降伏点が小さな金属要素から降伏点が大きな金属要素を順次組み合わせることにより複数個の降伏点を有する任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成されたことを特徴とするものである。
又、請求項4による金属ダンパ装置は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の金属ダンパ装置において、第1構造物と第2構造物に夫々剛体を取り付け、上記一対の剛体の間に履歴特性が異なる複数種類の金属要素を配置したことを特徴とするものである。
又、請求項5による金属ダンパ装置は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の金属ダンパ装置において、第1構造物と第2構造物に夫々複数組の剛体を取り付け、上記各組の一対の剛体の間に任意の履歴特性を備えた金属要素を配置したことを特徴とするものである。
又、請求項6による金属ダンパ装置は、請求項4又は請求項5記載の金属ダンパにおいて、上記金属要素はダンパバネであることを特徴とするものである。
又、請求項7による金属ダンパ装置は、請求項1〜請求項6の何れかに記載の金属ダンパ装置において、上記金属要素はアルミ合金製であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように本願発明による金属ダンパ装置によると、異なる履歴特性を備えた複数種類の金属要素を組み合わせることにより任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成されているので、優れたダンパ効果を発揮する金属ダンパ装置を得ることができる。すなわち、異なる履歴特性を備えた複数種類の金属要素を組み合わせることにより、全体としての剛性のコントロール、降伏点のコントロール、固有周期のコントロールが可能になり、それによって、地震発生時の振動エネルギを効果的に吸収して、構造物が受ける地震エネルギを最少限に抑制してその健全性を維持することを可能にするものである。
又、地震発生時の振動エネルギによって変型した後においては、降伏前の金属ダンパ装置の剛性によって原点近傍に復帰することができ、それによって、繰り返しの使用が可能になる。
又、組合せの例としては、例えば、降伏点が異なる複数種類の金属要素を組み合わせることにより複数個の降伏点を有する任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成することが考えられ、それによって、上記した作用・効果を確実に得ることができる。
又、その際典型的な例としては、例えば、降伏点が小さな金属要素から降伏点が大きな金属要素を順次組み合わせることにより複数個の降伏点を有する任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成することが考えられ、それによって、既に説明したような作用・効果を効果的に得ることができる。
又、より具体的な構成としては、例えば、第1構造物と第2構造物に夫々剛体を取り付け、上記一対の剛体の間に履歴特性が異なる複数種類の金属要素を配置した構成や、第1構造物と第2構造物に夫々複数組の剛体を取り付け、上記各組の一対の剛体の間に任意の履歴特性を備えた金属要素を配置した構成が考えられ、何れの場合においても、既に説明したような作用・効果を奏する優れた金属ダンパ装置を得ることができる。
又、上記金属要素としては、例えば、ダンパバネが想定される。
又、上記金属要素の材質としては、これを特に限定するものではないが、例えば、アルミ合金(Al−Mg−Si系合金等)が考えられる。アルミ合金(Al−Mg−Si系合金等)の場合には、必要な塑性を備えていることはもとより、加工が容易であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1乃至図3を参照して本発明の第1の実施の形態を説明する。図1は本実施の形態による金属ダンパ装置を組み込んだ建築物の一部の構成を模式的に示す一部正面図である。
尚、建築物としては、アルミニウム製の建築物、鉄骨構造の建築物、鉄筋コンクリート製の建築物、鉄骨・鉄筋コンクリート製の建築物、木造の建築物等、様々なものが想定される。
まず、梁部材1と梁若しくは床部材3があり、これら梁部材1と梁若しくは床部材3との間には複数本(図1では2本のみ示す)の柱部材5が設置されている。又、梁部材1と床部材3と柱部材5とによって囲まれた部分が壁構造物7となっている。
【0010】
上記壁構造物7の内部には、金属ダンパ装置11が設置されている。上記金属ダンパ装置11は、上記梁部材1側に取り付けられた剛体13と、上記床部材3側に取り付けられた剛体15と、これら剛体13と剛体15との間に設置されたn個(nは2以上の整数)の金属要素としてのダンパスプリング17−1〜17−nとから構成されている。上記ダンパスプリング17−1〜17−nはアルミ合金(Al−Mg−Si系合金等)製である。
尚、図示するダンパスプリング17−1〜17−nはあくまで金属要素としてのモデルを示すものであり、実際の構成については様々なものが想定され、それを特に限定するものではない。
【0011】
上記構成をなす金属ダンパ装置11が建築物の任意箇所の壁構造物7内に埋設されていて、地震発生時における振動エネルギを効果的に吸収するように構成されている。
【0012】
上記n個のダンパスプリング17−1〜17−nであるが、個々の履歴特性は異なっており、本実施の形態では、履歴特性が異なるn個のダンパスプリング17−1〜17−nを組み合わせて新たな所望の履歴特性を備えた金属ダンパ装置11を構成しているものである。
【0013】
以下、上記履歴特性に関して詳細に説明する。図2は任意のダンパスプリング17−1〜17−nの履歴特性を示す特性図であり、横軸に変形量(δ)をとり、縦軸に荷重(P)をとり、上記任意のダンパスプリング17−1〜17−nの降伏点荷重()とその時の変形量(δ)を示す図である。このようにダンパスプリング17−1〜17−nは夫々固有の履歴特性を備えている。本実施の形態ではそれら履歴特性が異なるn個のダンパスプリング17−1〜17−nを組み合わせることにより、新たな所望の履歴特性を備えた金属ダンパ装置11を構成しているものである。
因みに、一例として、nを「3」として、3種類のダンパスプリング17−1、17−2、17−3を使用することが想定される。
【0014】
その様子を図3に示す。図3(a)に示すn個の特性図は、n個のダンパスプリング17−1〜17−nの夫々の履歴特性を示すものである。ダンパスプリング17−1から始まってダンパスプリング17−nに至るまで降伏点荷重()とその時の変形量(δ)が徐々に大きくなっている。そして、それらn個のダンパスプリング17−1〜17−nを組み合わせることにより図3(b)に示すような新たな履歴特性を得ることができるものである。
【0015】
図3(b)において、Kは初期剛性、Kは第2剛性、Kは第n剛性である。又、第1折れ点における降伏点荷重P、第2折れ点における降伏点荷重P、第i折れ点における降伏点荷重P、第n折れ点における降伏点荷重Pは、次に示す式(I)、(II)、(III)、(IV)によって表されるものである。

【0016】
そして、そのように構成することにより、全体としての剛性のコントロール、降伏点のコントロール、固有周期のコントロールが可能になり、それによって、地震発生時の振動エネルギを効果的に吸収して、構造物が受ける地震エネルギを最小限に抑制してその健全性を維持することを可能にするものである。又、地震発生時の振動エネルギによって変型した後においては、降伏前の金属ダンパ装置の剛性によって原点近傍に復帰することができ、それによって、繰り返しの使用が可能になるものである。
【0017】
上記固有周期のコントロールであるが、まず、変位に応じて任意の等価剛性(eq)を
設定することができる。これは、次の式(V)に示すように、変位に応じて任意の等価周期(eq)を 設定できることを意味するものである。
eq=2π√(M/eq)―――(V)
但し、
M::建築物の質量
【0018】
以上の構成を基にその作用を説明する。
例えば、地震が発生して建築物に振動エネルギにより荷重が作用したとする。その荷重が第1折れ点の降伏点荷重(P1)を越えた場合には、まず、変形量(δ)の分だけ金属ダンパ装置11が塑性変型する。それによって、振動エネルギを吸収して建築物への影響を軽減させる。そして、例えば、荷重が第2折れ点の降伏点荷重(P2)を越えることなく振動が終了した場合には、図3(b)中復帰線aで示すような経路で復帰する。これに対して、荷重が第2折れ点の降伏点荷重(P2)を越えるような場合には、金属ダンパ装置11がさらに塑性変型する。それによって、振動エネルギを吸収して建築物への影響を軽減させる。そして、例えば、荷重が上記第2折れ点の降伏点荷重(P2)を越えるがさらにその次の第3折れ点の降伏点荷重(P3)を越えることなく振動が終了した場合には、図3(b)中復帰線bで示すような経路で復帰する。
以下、地震によって発生した荷重の大小によって復帰する原点位置は異なるが上記と同様の作用がなされることになり、それによって、地震により発生した振動エネルギを効果的に吸収することができると共に、建築物が受ける振動エネルギの影響を大幅に軽減させることができる。
又、振動エネルギが収束した後には再度次の事態に備えることができる。
【0019】
以上、本実施の形態によると次のような効果を奏することができる。
まず、任意の履歴特性を備えた金属ダンパ装置11を得ることができる。そして、剛性のコントロール、降伏点のコントロール、固有周期のコントロールが可能になる。すなわち、組み合わせるダンパスプリング17−1〜17−nの個数、各ダンパスプリング17−1〜17−nの履歴特性によって、任意の新たな履歴特性を備えた金属ダンパ装置11を得ることができるからである。
そして、このような金属ダンパ装置11によれば、地震により発生した振動エネルギを効果的に吸収することができ、建築物が受ける影響を最小限に止めることが可能になる。
因みに、組み合わせるダンパスプリング17−1〜17−nの個数が多ければ多い程図3(b)に示す特性は細かな折れ線状のものとなり、より効果的な振動エネルギの吸収が可能になる。
又、地震が発生して建築物に振動エネルギにより荷重が作用して変形しても、降伏前の金属ダンパ装置11の剛性によって原点近傍に復帰することが可能になり、それによって、繰り返しの使用が可能になる。
又、本実施の形態によるダンパスプリング17−1〜17−nはアルミ合金(Al−Mg−Si系合金等)製であり、加工が容易であるという利点がある。
【0020】
次に、図4を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。前記第1の実施の形態の場合には、一対の剛体13、15の間にn個のダンパスプリング17−1〜17−nを設置した。これに対して、この第2の実施の形態の場合には、n個のダンパスプリング17−1〜17−nを夫々別個の一対の剛体13−1〜13−n、剛体15−1〜15−nの間に設置したものである。
その他の構成は前記第1の実施の形態の場合と同様であり、同一部分には同一符号を付して示しその説明は省略する。
このような構成であっても前記第1の実施の形態と同様の効果を奏することができるものである。
【0021】
尚、本発明は前記第1、第2の実施の形態に限定されるものではない。
まず、ダンパスプリングは金属要素の一例として示したモデルであり、実際の構造としては様々な形態が考えられる。
又、使用する金属要素の個数、各金属要素の履歴特性の内容、等についてはこれを特に限定するものではない。
又、図1、図4に示す金属ダンパ装置の形態はあくまで一例であり、様々な形態が考えられる。
又、前記第1、第2の実施の形態の場合には、金属要素をアルミ合金(Al−Mg−Si系合金等)製としたが、それに限定されるものではなく、様々な材質の金属が想定される。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、例えば、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、アルミニウム合金(Al−Mg−Si系合金等)等の塑性を有した金属を利用した金属ダンパ装置に係り、特に、履歴特性が異なる金属要素を組み合わせて構成することにより、優れたダンパ効果を発揮することができるように工夫したものに関し、例えば、各種建築物に組み込まれる金属ダンパ装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す図で、金属ダンパ装置を建築物の壁に組み込んだ状態を模式的に示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す図で、金属ダンパに組み込まれている金属要素の履歴特性を示す特性図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を示す図で、図3(a)は複数個の金属要素の履歴特性を示す特性図、図3(b)は複数個の金属要素を組み合わせて構成された金属ダンパ装置の履歴特性を示す特性図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す図で、金属ダンパ装置を建築物の壁に組み込んだ状態を模式的に示す正面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 梁部材
3 床部材
5 柱部材
7 壁構造物
11 金属ダンパ装置
13 剛体
15 剛体
17−1〜17−n ダンパスプリング(金属要素)



































【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる履歴特性を備えた複数種類の金属要素を組み合わせることにより任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成されたことを特徴とする金属ダンパ装置。
【請求項2】
請求項1記載の金属ダンパ装置において、
降伏点が異なる複数種類の金属要素を組み合わせることにより複数個の降伏点を有する任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成されたことを特徴とする金属ダンパ装置。
【請求項3】
請求項2記載の金属ダンパ装置において、
降伏点が小さな金属要素から降伏点が大きな金属要素を順次組み合わせることにより複数個の降伏点を有する任意の新たな履歴特性を備えるものとして構成されたことを特徴とする金属ダンパ装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の金属ダンパ装置において、
第1構造物と第2構造物に夫々剛体を取り付け、上記一対の剛体の間に履歴特性が異なる複数種類の金属要素を配置したことを特徴とする金属ダンパ装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の金属ダンパ装置において、
第1構造物と第2構造物に夫々複数組の剛体を取り付け、上記各組の一対の剛体の間に任意の履歴特性を備えた金属要素を配置したことを特徴とする金属ダンパ装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載の金属ダンパにおいて、
上記金属要素はダンパバネであることを特徴とする金属ダンパ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載の金属ダンパ装置において、
上記金属要素はアルミ合金製であることを特徴とする金属ダンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−250257(P2006−250257A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68463(P2005−68463)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(595034204)SUS株式会社 (40)
【出願人】(505090676)株式会社飯島建築事務所 (9)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】