説明

金属ナノ粒子埋込み材料の作製法

【課題】 液滴エピタキシー法に基づいて形成した低融点金属の微粒子を金属ナノ粒子として利用する技術を提供する。
【解決手段】 金属ナノ粒子埋込み材料の作製法において、低融点金属の分子線を基板に対して照射し、前記基板の表面に前記低融点金属の微粒子を金属ナノ粒子として形成した後、化合物構成元素の分子線を照射することにより、化合物を成長させて、前記金属ナノ粒子を前記化合物中に埋め込むことを特徴とする。前記低融点金属としてAlなどの化合物半導体を形成する低融点金属、前記基板としてGaAs基板などの化合物半導体基板、前記化合物構成元素としてGaとAsなどを使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルサイズの金属微粒子を形成し、その金属ナノ粒子をそのまま利用して金属ナノ粒子が埋め込まれた材料を作製する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体結晶成長技術の分野においては、液滴エピタキシー法では金属微粒子を形成する技術を応用し、半導体量子井戸箱等の形成が行われていた(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特公平8−21538号公報
【特許文献2】特許第2958442号公報
【0003】
特許文献1には、「第1の元素成分Xが溶ける温度で、かつ、超高真空中で第1の元素成分Xを化合物半導体基板ABに対して照射することにより第1の元素成分Xの微細球を有する第1の元素成分Xの液相を化合物半導体基板ABの上に生成し、次いで、第2の元素成分Yをこの液相に対して照射することにより化合物半導体XYの微細エピタキシャル結晶を形成し、さらに、化合物半導体XYの微細エピタキシャル結晶上に化合物半導体CDをエピタキシャル成長させることにより化合物半導体XYの微細エピタキシャル結晶を埋め込み、この埋め込まれた微細エピタキシャル結晶を量子井戸箱とすることを特徴とする量子井戸箱の形成方法。」の発明が記載され、実施例1においては、第1の元素成分XとしてGaを用い、「基板上にGaをビーム強度4×1014atom/secで30秒間堆積させ、20nm程度の大きさにする」こと(Gaナノ粒子を形成すること)、実施例2においては、第1の元素成分としてInを用い、「基板温度を250℃にした状態で、Inを1.1×1014atom/secのビーム強度で1分間堆積させ、粒径10nm程度の液相微細球Inを形成する」こと(Inナノ粒子を形成すること)が示されているが、実施例1においては、引き続いて第2の元素成分YとしてAsを用い、「Asを4×1015atom/secのビーム強度でGaに照射しながら、Ga/ZnSe界面にGaAsを結晶
成長させる」ものであり、実施例2においては、引き続いて第2の元素成分YとしてSbを用い、「Sbをビーム強度1.4×1014atom/secで照射し、InSb微細結晶を形成する」もので
あるから、金属(Ga又はIn)ナノ粒子を、そのまま利用して、化合物中に埋め込むものではない。
【0004】
特許文献2には、「少くとも次の工程;<1> 半導体の単一あるいは多重の量子井戸
構造をもつ表面にVI族元素を吸着させる、<2> 液滴エピタキシーにより金属あるいは
半導体の微結晶を成長させる、<3> 生成された微結晶をマスクとして化学エッチング
を施し、前記のVI族元素が表面に吸着された単一あるいは多重の量子井戸構造を除去する、<4> 前記微結晶を化学エッチングにより除去する、<5> 半導体を、エッチングにより除去された単一あるいは多重の量子井戸構造の領域に埋め込むことからなる半導体量子箱の形成方法。」の発明が記載され、実施例2においては、「半導体GaAs/GaAlAsの単一あるいは多重量子井戸上の表面にVI族元素Sを吸着させ、その表面に、液滴エピタキシ
イ法により金属Inの微結晶を堆積させた」こと(Inナノ粒子を形成すること)が示されているが、「In微結晶をマスクとして化学エッチングを施した」、「さらに化学エッチングを施してInおよびSを除去し、GaAlAsを再成長により埋め込んだ」と記載されているよう
に、金属(In)ナノ粒子を、除去してしまうものであり、そのまま利用して、化合物中に埋め込むものではない。
【0005】
また、微粒子の形成に利用できる一般的な液滴エピタキシーに関する技術も公知である(非特許文献1参照)が、その際できる金属ナノ粒子をそのまま利用することは示されていない。
【非特許文献1】N.Koguchi,et al.,J.Cryst.Growth,111,688(1991)
【0006】
以上のように、液滴エピタキシー法に基づく微粒子の作製法を用いて金属ナノ粒子を形成すること自体は公知であったが、形成された金属ナノ粒子は化合物になってしまうか、除去されてしまうものであり、形成した金属ナノ粒子をそのまま利用することは行われていなかった。
【0007】
さらに、金属微粒子の形成にはイオン注入、スパッター法、レーザアブレーションなど様々な手法があり、これらの手法は制御性、均一性、適用材料などに違いがあるが、概して金属微粒子の膜厚方向の位置制御や多周期の積層構造の形成が困難である。ただし、スパッター法を交互に行う手法(交互スパッター法)によれば、ある程度積層方向の微粒子を配置することはできるが、本発明の方法の特徴である原子スケールの位置制御性を得るのは難しいのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、液滴エピタキシー法に基づいて形成した低融点金属の微粒子を金属ナノ粒子として利用する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)低融点金属の分子線を基板に対して照射し、前記基板の表面に前記低融点金属の微粒子を金属ナノ粒子として形成した後、化合物構成元素の分子線を照射することにより、化合物を成長させて、前記金属ナノ粒子を前記化合物中に埋め込むことを特徴とする金属ナノ粒子埋込み材料の作製法である。
(2)前記低融点金属が化合物半導体を形成する低融点金属であることを特徴とする前記(1)の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法である。
(3)前記低融点金属がAlであることを特徴とする前記(2)の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法である。
(4)前記基板が化合物半導体基板であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法である。
(5)前記化合物半導体基板がGaAs基板であることを特徴とする前記(4)の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法である。
(6)前記化合物構成元素がGaとAsであり、前記化合物がGaAsであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法は、母結晶中の任意の位置に金属ナノ粒子を埋め込むことができる。特に多層膜構造における位置制御や多周期の埋込みも可能である。さらに、既存のIII-V族化
合物半導体材料のみを用い、半導体と金属ナノ粒子を融合させた材料を簡便に作製できる。また本手法の特性から、本発明の方法はIII-V族系の材料のみでなく、窒化物半導体やII-VI系の酸化亜鉛などの酸化物系材料など様々な化合物材料系に適用可能であると考えられる。本発明の方法は分子線エピタキシーなどの超薄膜結晶法と組み合わせることにより、量子井戸、超格子構造など様々な超薄膜へテロ構造と融合可能である。
【0011】
イオン打ち込みなどによる金属ナノ粒子の形成方法では高価な装置が必要になるが、本発明の方法では既存の分子線エピタキシー装置があれば、それを利用できるので経済的に新たな投資をする必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
特許文献1に示されるように、GaAs量子ドットは、液滴エピタキシーに基づいて形成した数十ナノメートルのGa液滴に砒素を照射することで形成されるが、この際、砒素照射前のGa液滴は金属としての特徴を有するナノ構造として、論理演算デバイス材料への発展が期待される。特に、金属ナノ粒子と半導体とを融合させた材料開発には、金属微粒子を半導体中に埋め込むことが必要となる。
そこで、Gaより融点の高いAlを用いて液滴エピタキシー法に基づき金属ナノ粒子を形成し、この金属ナノ粒子をGaAsへの埋め込んだ材料を作製したところ、この材料が、従来の半導体を埋め込んだ材料と比較して顕著に異なる特性を有することを知見して、本発明に到達した。
【0013】
図1に、Alナノ粒子の埋め込み構造の作製法を示す。各線は異なる材料を示す。
先ず、(a)のように基板を用意する。基板の種類は、限定されるものではないが、化合
物半導体基板が好ましく、GaAs、AlAsなど半導体基板を使用することができる。
【0014】
基板に直接、低融点金属(Al)の分子線を照射することもできるが、(b)のようにバッ
ファー層を成長させた基板を使用することが好ましい。バッファー層の材料としては、基板と同じ種類の材料であっても異なる材料であってもよい。例えば、Siをドープしたn型GaAs基板に対して、同じくSiをドープしたn型GaAs層をバッファー層として成長させることができる。
【0015】
続いて、(c)のようにバッファー層上に低融点金属(Al)の分子線を照射し、低融点金
属の微粒子を金属ナノ粒子として形成する。
金属ナノ粒子のサイズや密度は、基板温度、金属(Al)分子線の照射量、フラックスなどで制御できる。金属ナノ粒子の典型的なサイズとしては、20〜40nmのものを得ることができる。
【0016】
Al以外でも、化合物半導体の構成元素を形成するような低融点金属であれば、その低融点金属の液滴を金属ナノ粒子を形成するために利用することができる。Al以外の材料としては、亜鉛(融点419℃)、マグネシウム(融点650℃)、銅(融点1084℃)などが考えられる。
【0017】
次に、(d)のように化合物構成元素の分子線を照射することにより、金属ナノ粒子を化
合物中に埋め込む。
形成された金属ナノ粒子は、様々な化合物中に埋め込むことが可能で、GaAs、AlAsなどのIII-V族系の材料、窒化物半導体、II-VI系のZnOなどの酸化物材料への適用が有望であ
ると考えられる。GaAs中に埋め込むには、GaとAsを同時に照射してGaAsを成長させる。
【0018】
本発明の方法を採用することにより、母結晶中の任意の位置に金属ナノ粒子を埋め込むことができる。さらに多周期の埋め込みも可能で、容易に積層化できる。
【0019】
(参考例)
基板として(100)GaAsを用いて、基板温度300℃で、(100)GaAs面上にAl原子を6.2×1015cm-2個照射して、Alナノ粒子を形成した。
原子間力顕微鏡(AFM)で形状や密度を室温で観察した。
その結果を図2に示す。
【0020】
また、上記のようにAlナノ粒子を形成した後、基板温度を200℃に下げて、反射高速電
子線回折(RHEED)を用いて、超高真空装置中で、ナノ粒子の形成過程を観察した。電子
線の入射方向は(a)[01-1]と(b)[011]である。
その結果を図3に示す。斑点状の回折像は、3次元的なナノ粒子の形成に起因する。
【実施例1】
【0021】
基板としてn型(100)GaAsを用いて、n型(100)GaAs上に、基板温度580℃、真空度~1×10-7Torrで、分子線エピタキシーでバッファー層を成長させた。基板側から1×1012cm-2個のSi、500nmのn型GaAs層、20nmのGaAs層であった。
続いて、バッファー層上に、基板温度300℃で、砒素分子線用のセルバルブを閉じ、真
空度が概ね2×10-8 Torr以下になった後、Al分子線のみを照射して、Alナノ粒子を形成した。照射したAl原子の量は 6.2×1015 cm-2個で、フラックスは2.5×1014 cm-2 s-1であ
った。20〜40nmのサイズのAlナノ粒子が形成された。
【0022】
次に、基板温度300℃でGaとAsを同時に照射し20nmのGaAsを成長させて、GaAs中にAlナ
ノ粒子を埋め込んだ。
その後、基板温度580℃で、2nmのAlAsと2nmのGaAsを15回繰り返し、その上に10nmのGaAsを成長させて、表面障壁層とキャップ層を形成し、試料を得た。
この実施例は容量−電圧特性を測定するための試料構造である。
【実施例2】
【0023】
実施例1と同じバッファー層上に、基板温度250 ℃で、Al原子の照射量を9.4×1015 cm-2個で、フラックスを2.4×1014 cm-2s-1 とした以外は、実施例1と同様にAlナノ粒子を形成し、GaAs中にAlナノ粒子を埋め込んだ後、表面障壁層とキャップ層を形成し、試料を得た。20〜40nmのサイズのAlナノ粒子を埋め込んだ試料が得られた。
【0024】
(比較例)
実施例1と同じバッファー層上に、基板温度300℃で、砒素分子線用のセルバルブを開
けて、Al分子線照射時に砒素も同時に照射することで、Alナノ粒子の代わりに半導体であるAlAsを形成した。AlAsの膜厚は10原子層で、約2.8nmである。
次に、実施例1と同様にGaAs中にAlAsを埋め込んだ後、表面障壁層とキャップ層を形成し、試料を得た。
【0025】
電気特性を、以下の条件で測定した。
測定機器:インピーダンスアナライザ4294A(アジレントテクノロジー社製)
測定温度:4.2K
重畳した交流周波数と振幅:1KHzで、5mV
素子形状:直径400ミクロンΦのメサ形
【0026】
実施例1及び比較例で得た試料について、容量−電圧(CV)測定を行った。
図4(a)及び(b)に容量−電圧測定で使用した試料のバンド図を示す。
(a)はAlAsを埋め込んだ試料で、(b)はAlナノ粒子を埋め込んだ試料である。なお、(
b)のAlナノ粒子の場合は実験結果等から予想されるバンド図である。
【0027】
測定は表面に形成した金属ゲートとn型GaAs層間に電圧(ゲート電圧)を印加し、その
間の容量(キャパシタンス)を測定する。実施例1のAlナノ粒子を埋め込んだ試料は、比較例のAlAsを埋め込んだ参照試料と異なる特性を示す。
【0028】
参照試料ではゲート電圧が変化すると半導体側の電荷は空乏領域の端のみで変化する。ゲート電圧(Vg)が増大すると、電極間隔が単調に減少することになるので、容量はゲート電圧とともに単調に増加する。それに対して、Alナノ粒子を埋め込んだ試料ではヒステリシスが見られる。これはゲート電圧を印加することでAl粒子の帯電状況が変化し、そのためポテンシャルが変化することに起因していると考えられる。
【0029】
本発明の方法で作製した金属ナノ粒子が埋め込まれた材料は、量子情報デバイス(量子コンピュータ他)、単電子素子、メモリー素子、光非線形素子等に応用することができ、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Alナノ粒子の埋め込み構造の作製法を示す概略図である。
【図2】Alナノ粒子の原子間力顕微鏡像を示す図である。
【図3】Alナノ粒子形成後の反射高速電子線回折像を示す図である。
【図4(a)】容量−電圧測定で使用した試料(AlAsを埋め込んだもの)のバンド図である。
【図4(b)】容量−電圧測定で使用した試料(Alナノ粒子を埋め込んだもの)のバンド図である。
【図5】容量−電圧測定の結果を示す図である。図中、AlとAlAsは、それぞれAlナノ粒子、AlAsが埋め込まれた試料を表す。また、矢印は印加電圧のスキャン方向を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点金属の分子線を基板に対して照射し、前記基板の表面に前記低融点金属の微粒子を金属ナノ粒子として形成した後、化合物構成元素の分子線を照射することにより、化合物を成長させて、前記金属ナノ粒子を前記化合物中に埋め込むことを特徴とする金属ナノ粒子埋込み材料の作製法。
【請求項2】
前記低融点金属が化合物半導体を形成する低融点金属であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法。
【請求項3】
前記低融点金属がAlであることを特徴とする請求項2に記載の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法。
【請求項4】
前記基板が化合物半導体基板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法。
【請求項5】
前記化合物半導体基板がGaAs基板であることを特徴とする請求項4に記載の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法。
【請求項6】
前記化合物構成元素がGaとAsであり、前記化合物がGaAsであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子埋込み材料の作製法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−344877(P2006−344877A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170694(P2005−170694)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】