説明

金属パイプの肉厚を計測する方法およびシステム

【課題】金属パイプの肉厚を打音により高精度に簡単に測定する方法およびシステムを提供する。
【解決手段】金属パイプに所定の強度の打撃を加えて音圧信号標本値を採取、保存する打音データ取得部1と、保存された音圧信号標本値を解析して肉厚を求めるデータ解析部2とを備え、データ解析部は、計測対象である金属パイプと同じ外径を有する複数の肉厚の異なるサンプル金属パイプの打音検査に基づいて求めた固有振動数と肉厚との関係を表す肉厚−固有振動数直線を表示する手段23,21と、保存された音圧信号標本値に自己相関処理を施して時系列データを求める自己相関処理手段24と、時系列データにFFTを施して周波数成分をグラフ表示する周波数成分分析手段25とを含む。肉厚計測時には、周波数成分のグラフ表示から金属パイプの固有振動数を求め、求めた固有振動数および肉厚−固有振動数直線のグラフ表示を用いて金属パイプの肉厚を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属パイプの肉厚を計測する方法およびシステムに関し、詳しくは、金属パイプに打撃を加えて得られる音響振動に基づいて(即ち、打音検査法により)金属パイプの肉厚を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
道路の標識や照明の支柱、種々の配管、遊具などには金属のパイプが使用されることが多い。このような構造物に使用された金属パイプは、設置後、時間の経過とともに腐食が進行し、腐食が進むとパイプが減肉し(肉厚が薄くなり)、構造物の安全性に問題が生じる場合がある。このため、金属パイプの腐食減肉程度を把握するべく肉厚を非破壊的に検査することが必要となる。
上述のような構造物の金属パイプの厚さを非破壊的に測定する方法としては、パイプ外周面に垂直に超音波を印加したときに観測される超音波反射信号からパイプの内表面で反射された超音波成分を検出することにより肉厚を測定する超音波検査装置および方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上記特許文献1に記載の方法は、超音波反射信号の解析に時間がかかり効率的とは言い難い。
また、コンクリート製基礎に埋め込まれたアンカーボルトの腐食減肉を診断する方法において、アンカーボルトの露頭部を打撃振動させ、このときマイクを通して得られる電気信号にFFT(高速フーリエ変換)を施し、これにより得られる振動スペクトルに基づいてアンカーボルトの固有振動数(アンカーボルトの直径に比例する)を求める技術を利用した特許文献もある(特許文献2(段落0015、図1)参照)。
しかし、特許文献2に記載の方法は、解析に時間は掛からないが、電気信号を直接FFT変換しているので雑音に弱く、騒音の多い場所での測定には不向きである。
【特許文献1】特開2003−130854号公報
【特許文献2】特開2004−325224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の問題点に鑑みて為されたものであり、金属パイプの肉厚を打音により高精度に簡単に測定する方法およびシステムを提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、打音により取得した波形を自己相関処理し、この自己相関処理した波形をFFT変換した周波数成分波形を用いて固有周波数を求め、ノイズの影響を受けにくい、金属パイプの肉厚を打音により高精度に簡単に測定する方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一面において、金属パイプの肉厚を計測する方法を提供する。本発明による金属パイプの肉厚を計測する方法は、計測対象である金属パイプと同じ外径を有する複数の肉厚の異なるサンプル金属パイプについて、各サンプル金属パイプに所定の強度の打撃を加えて計測される当該サンプル金属パイプの固有振動数と真と思われる肉厚との関係を表す点をプロットし、前記複数のプロットした点から線形近似した直線をグラフ表示する肉厚−固有振動数直線表示ステップと、前記計測対象である金属パイプに前記所定の強度の打撃を加えて音圧信号標本値を採取、保存する打音データ取得ステップと、保存された前記音圧信号標本値に自己相関処理を施して時系列データを求める自己相関処理ステップと、前記時系列データにFFT(first Fourier transform)を施して周波数成分をグラフ表示する周波数成分分析ステップと、前記グラフ表示から前記計測対象である金属パイプの固有振動数を求め、求めた前記固有振動数およびグラフ表示された前記直線を用いて金属パイプの肉厚を求めるステップとを含むことを特徴とする。
【0006】
前記の真と思われる肉厚は、各サンプル金属パイプごとに既知であることもあれば、各サンプル金属パイプごとに超音波検査装置を用いて実測することもある。
【0007】
本発明は、別の面において、金属パイプの肉厚を計測するシステムを提供する。本発明による金属パイプの肉厚を計測するシステムは、計測対象である金属パイプに前記所定の強度の打撃を加えて音圧信号の標本値(音圧信号標本値)を採取、保存する打音データ取得部と、保存された前記音圧信号標本値を解析して前記計測対象である金属パイプの肉厚を求めるデータ解析部とを備え、前記データ解析部は、前記計測対象である金属パイプと同じ外径を有する複数の肉厚の異なるサンプル金属パイプについて、各サンプル金属パイプに所定の強度の打撃を加えて計測される当該サンプル金属パイプの固有振動数と真と思われる肉厚との関係を表す点をプロットし、前記複数のプロットした点から線形近似した直線をグラフ表示する肉厚−固有振動数直線表示手段と、保存された前記音圧信号標本値に自己相関処理を施して時系列データを求める自己相関処理手段と、前記時系列データにFFTを施して周波数成分をグラフ表示する周波数成分分析手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属パイプの肉厚を打音により高精度に簡単に測定することができる。
また、本発明によれば、取得波形を直にFFT変換した周波数成分波形の代わりに、取得波形を自己相関処理し、この自己相関処理した波形をFFT変換した周波数成分波形を用いて固有周波数を求めるので、ノイズの影響を受けにくい。
さらに、本発明によれば、打音検査法により取得した取得波形を自己相関処理し、この自己相関処理した波形をFFT変換した周波数成分波形から求められる固有周波数に基づいて肉厚を計測するので、ノイズに強い肉厚計測を比較的簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態例と添付図面により本発明を詳細に説明する。
なお、複数の図面に同じ要素を示す場合には同一の参照符号を付ける。
図1は、本発明の好ましい実施形態による打音検査式肉厚計測システムにより金属パイプの肉厚を計測する様子を示す図である。図1において、本発明の打音検査式肉厚計測システムは、計測対象である金属パイプに所定の強度の打撃を加えて音圧信号標本値を採取、保存する打音データ取得部1と、保存された音圧信号標本値を解析して肉厚を求めるデータ解析部2とを備える。打音データ取得部1とデータ解析部2とは、それぞれ独立した装置として実現しても良いし、一体化して1つの装置として実現しても良い。
【0010】
打音データ取得部1は、計測対象である金属パイプの外周面にほぼ垂直に打撃を与えるハンマ11,所与の打撃制御信号に応じて所定の強度でハンマ11を駆動するハンマ駆動部12,ハンマ11の打撃により生じる金属パイプの振動音を採取するマイクロフォン13,マイクロフォンからの音圧信号を増幅する増幅器(AMP)14、増幅された音圧信号を所定の標本周期で標本デジタル化するアナログ/デジタル変換器(ADC)15,ADC15からの音圧信号標本値を格納するメモリ16,打撃指示などを与える操作部18,メモリ16に格納された音圧信号標本値を外部に送出するインタフェース(IF)19および打音データ取得部1全体を制御する制御部17からなる。例えば、制御部17は、操作部18から打撃支持を受け取ると、これに応じて打撃制御信号をハンマ駆動部12に送信する。
【0011】
一方、データ解析部2は、ハードウェアの観点から言えば、処理結果を表示する表示部21と操作のためのデータを入力するためのキーボードやマウスなどからなる操作部22を備えた通常のコンピュータである。ただし、データ解析部2は、本発明の目的のために、データ解析のためのプログラムやデータを格納した2次記憶装置(図示せず)を備える。データ解析部2の2次記憶装置には、計測対象である金属パイプと同じ外径を有する複数の肉厚の異なるサンプル金属パイプの打音検査に基づいて求めた固有振動数と肉厚との関係を表す肉厚−固有振動数直線を表示する肉厚−固有振動数直線表示部23(請求項の肉厚−固有振動数直線表示手段に相当)と、音圧信号標本値に自己相関処理を施して時系列データを求める自己相関処理部24(請求項の自己相関処理手段に相当)と、時系列データにFFT(first Fourier transform)を施して周波数成分をグラフ表示する周波数成分分析部25(請求項の周波数成分分析手段に相当)とを含む。
次に、以上のように構成された本発明の打音検査式肉厚計測システムの動作を説明する。
【0012】
<打音データの採取>
計測対象の金属パイプの肉厚計測部位に打音データ取得部1のハンマ11とマイクロフォン12がほぼ垂直になるように打音データ取得部1を押し当てて、操作部18から打撃支持を与える。これに応じて、制御部17は、所定の強度の打撃を与えるとともに、所定の期間(例えば、3秒間)だけ所定の標本周波数(例えば、50KHz)で音圧信号標本値を取得し、取得した音圧信号標本値の時系列データをメモリ16に保存するように、制御を行う。
【0013】
<取得した時系列データの解析>
次に、取得した音圧信号標本値の時系列データの打撃時点から所定の期間(例えば、500m秒)に亘って以下の解析を行う。
図2は、図1の打音データ取得部1で取得した音圧信号標本値の時系列波形(取得波形)と取得波形を自己相関処理した波形(自己相関処理後の波形)とをグラフ表示した画面例を示す図である。図3は、図2の取得波形を直にFFT変換して求めた周波数成分波形と自己相関処理後の波形をFFT変換して求めた周波数成分波形とをグラフ表示した画面例を示す図である。図3に示すように、取得波形を直にFFT変換して求めた周波数成分波形(上段に示す)に比べて、自己相関処理後の波形にFFT変換を施して求めた周波数成分波形(下段に示す)の方がノイズが抑制され、ピーク部がより強調されている。
【0014】
図4は、図3の画面例に表示された、自己相関処理後の波形に対する周波数成分波形の1000Hzから8000Hzの区間を拡大した図である。図4には、外径が2インチで肉厚が3.0mmの金属パイプの例を示した。図4の周波数成分波形では、2500Hz付近(低周波)と7000Hz付近(高周波)に卓越した周波数(固有周波数)が存在することを容易に判断することができる。
このように、本発明によれば、取得波形を直にFFT変換した周波数成分波形の代わりに、取得波形を自己相関処理し、この自己相関処理した波形をFFT変換した周波数成分波形を用いて固有周波数を求めるので、ノイズの影響を受けにくい。
【0015】
図5は、図1の肉厚−固有振動数直線表示部23が表示する画面例を示す図である。図5の画面例では、外径が2インチの複数のサンプル金属パイプから求めた肉厚と高周波の固有振動数との関係を線形近似した直線(上段)および肉厚と低周波の固有振動数との関係を線形近似した直線(下段)がグラフ表示されている。図5において、Rは、肉厚と周波数成分との相関性を表す相関係数であり、Rの二乗が1に近づくほど近似曲線(この例では直線)の精度は高くなる。
【0016】
本発明によれば、これらの線形近似直性を表示するため、図6に示すようなサンプルデータを収集する必要がある。図6の例では、計測対象である金属パイプと同じ外径(例えば、2インチ)を有する複数(図6の例では7)の肉厚の異なるサンプル金属パイプ(No.1〜7)の真と思われる肉厚と打音検査により求めた高い方(高周波)の固有振動数と低い方(低周波)の固有振動数のデータ例を示した。図5の2つの直線(肉厚−固有振動数直線)は、図6の高周波のデータと低周波のデータとをプロットして、それぞれを線形近似したものである。
【0017】
図4で求められる2つの固有周波数の1つと、これに対応する図6の肉厚−固有振動数直線を用いて肉厚を決定することができる。
以上述べたように、本発明によれば、打音検査法により取得した取得波形を自己相関処理し、この自己相関処理した波形をFFT変換した周波数成分波形から求められる固有周波数に基づいて肉厚を計測するので、ノイズに強い肉厚計測を比較的簡単に行うことができる。
なお、図5には、外径が2インチの金属パイプに対する肉厚−固有振動数直線を示したが、実際には、計測対象となりうる金属パイプの各外径に対して、図6のようなデータを採取し、図5のような肉厚−固有振動数直線を求めておく必要がある。
【0018】
以上は、本発明の説明のために実施の形態の例を掲げたに過ぎない。したがって、本発明の技術思想または原理に沿って上述の実施の形態に種々の変更、修正または追加を行うことは、当業者には容易である。
例えば、図3には、説明を分かり易くするために取得波形の周波数成分も示したが、これは必ずしも表示する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好ましい実施形態による打音検査式肉厚計測システムにより金属パイプの肉厚を計測する様子を示す図である。
【図2】図1の打音データ取得部で取得した音圧信号標本値の時系列波形(取得波形)と取得波形を自己相関処理した波形(処理後の波形)とをグラフ表示した画面例を示す図である。
【図3】図2の取得波形と処理後の波形とをそれぞれFFT変換して求めた周波数成分波形をグラフ表示した画面例を示す図である。
【図4】図3の画面例に表示された、処理後の波形に対する周波数成分波形の1000Hzから8000Hzの区間を拡大した図である。
【図5】図6に示した肉厚と高周波の固有振動数との関係を線形近似した直線および肉厚と低周波の固有振動数との関係を線形近似した直線をグラフ表示した画面例を示す図である。
【図6】計測対象である金属パイプと同じ外径を有する複数の肉厚の異なるサンプル金属パイプの真と思われる肉厚と打音検査により求めた高い方(高周波)の固有振動数と低い方(低周波)の固有振動数とを示した一覧表の図である。
【符号の説明】
【0020】
1 打音データ取得部
2 データ解析部
21 表示部
22 操作部
23 肉厚−固有振動数直線表示部
24 自己相関処理部
25 周波数成分分析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象である金属パイプと同じ外径を有する複数の肉厚の異なるサンプル金属パイプについて、各サンプル金属パイプに所定の強度の打撃を加えて計測される当該サンプル金属パイプの固有振動数と真と思われる肉厚との関係を表す点をプロットし、前記複数のプロットした点から線形近似した直線をグラフ表示する肉厚−固有振動数直線表示ステップと、
前記計測対象である金属パイプに前記所定の強度の打撃を加えて音圧信号標本値を採取、保存する打音データ取得ステップと、
保存された前記音圧信号標本値に自己相関処理を施して時系列データを求める自己相関処理ステップと、
前記時系列データにFFT(first Fourier transform)を施して周波数成分をグラフ表示する周波数成分分析ステップと、
前記グラフ表示から前記計測対象である金属パイプの固有振動数を求め、求めた前記固有振動数およびグラフ表示された前記直線を用いて金属パイプの肉厚を求めるステップとを含むことを特徴とする金属パイプの肉厚を計測する方法。
【請求項2】
前記の真と思われる肉厚は、各サンプル金属パイプごとに既知であることを特徴とする請求項1記載の金属パイプの肉厚を計測する方法。
【請求項3】
前記の真と思われる肉厚は、各サンプル金属パイプごとに超音波検査装置を用いて実測することを特徴とする請求項1記載の金属パイプの肉厚を計測する方法。
【請求項4】
計測対象である金属パイプに前記所定の強度の打撃を加えて音圧信号の標本値(音圧信号標本値)を採取、保存する打音データ取得部と、
保存された前記音圧信号標本値を解析して前記計測対象である金属パイプの肉厚を求めるデータ解析部とを備え、
前記データ解析部は、
前記計測対象である金属パイプと同じ外径を有する複数の肉厚の異なるサンプル金属パイプについて、各サンプル金属パイプに所定の強度の打撃を加えて計測される当該サンプル金属パイプの固有振動数と真と思われる肉厚との関係を表す点をプロットし、前記複数のプロットした点から線形近似した直線をグラフ表示する肉厚−固有振動数直線表示手段と、
保存された前記音圧信号標本値に自己相関処理を施して時系列データを求める自己相関処理手段と、
前記時系列データにFFT(first Fourier transform)を施して周波数成分をグラフ表示する周波数成分分析手段とを含むことを特徴とする金属パイプの肉厚を計測するシステム。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−51991(P2007−51991A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239220(P2005−239220)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(593036888)日進工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】