説明

金属リング用搬送装置

【課題】周長の異なる大量の金属リングを確実にかつ変形を生じることなく搬送することができる金属リング用搬送装置を提供する。
【解決手段】熱処理治具の開口部から金属リングを挿入して熱処理治具の垂直方向に延在する金属リング保持部材に金属リングを水平方向に懸架させる金属リング用搬送装置において、金属リングの全てを、開口部を通過し得る略多角形に変形させて内側から押圧把持し、熱処理治具の開口部から、配置状態で内側から把持された金属リングの全てを挿入した後、配置状態における内側からの把持を解除して積載する複数のフィンガー部材を備え、複数のフィンガー部材中の少なくとも1個が金属リングの内壁に対して接近又は離間する方向に変位可能に設けられた複数の当接部材を有し、複数のフィンガー部材で複数の金属リングを支持したときに、複数の当接部材の各々が移動手段によって複数の金属リングの各々に個別に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機(CVT)等に用いられる無端状金属ベルトにおける金属リングを自動的にかつ大量に熱処理するための金属リング用搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の変速装置として用いられる無段変速機には、一対のプーリーに巻き掛けられる無端帯状金属ベルトが備えられている。この無端帯状金属ベルトは、少しずつ周長の異なる複数の無端帯状の金属リングをそれらの厚み方向に積層した積層金属リングを一対用い、これら一対の積層金属リングを幅方向から係合させて、板片状の多数のエレメントを互いに板厚方向に向かって環状に配列させた構成である。
【0003】
上記の金属リングは、以下のようにして製造される。まず、マルエージング鋼、ステンレス鋼等の鋼材料の薄板の両端を円筒状になるように溶接する。この際、溶接の熱により鋼材料の一部が硬質化されてしまうため、この円筒状の鋼材料を溶体化して均質にする。次いで、この溶体化された円筒状の鋼材料を所定幅に裁断して無端帯状のリングを形成した後、所定厚さに圧延する。この圧延により金属組織が変形してしまうため、この圧延されたリングを再度溶体化して金属組織を再結晶させる。その後、溶体化されたリングを所定の周長に補正して、少しずつ周長の異なる金属リングを製造し、さらに、時効処理及び窒化処理を施すことにより硬度及び耐摩耗性を向上させている。
【0004】
上記の窒化処理としては、金属リングを所定雰囲気内に所定時間保持するガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴窒化法等が知られている。このガス窒化法またはガス軟窒化法においては、金属リング全体が雰囲気に曝露されることが好ましく、これにより金属リングが均一に窒化される。
【0005】
このような金属リングの窒化処理においては、多数の金属リングを保持しつつこれらを一度に窒化することを可能とした治具が用いられている。具体的には、上下に設けられた一対の懸架手段に金属リングを内周面側から垂直方向に懸架させる金属リングの窒化処理治具が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この窒化処理治具では、金属リングを懸架させた構成であるため、加熱炉内で金属リングが不安定であり、また、加熱炉内における金属リングの充填率が低いため、金属リング数当たりの治具重量が大きく、熱処理時の熱効率が悪いといった問題を有していた。さらに、上側の懸架手段に当接する金属リングに負荷が集中し、窒化処理を行った際に金属リングの変形等が生じるといった問題も有していた。
【0006】
また、金属リングをその径方向に挿入自在な枠体が設けられ、この枠体に備えられた複数の保持部材により、金属リングを外周面側から押圧して楕円形状に撓ませた状態で保持する金属リングの窒化処理治具が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この窒化処理治具においても、金属リングが垂直方向で楕円形状に保持されているため、窒化処理による金属リングの変形等の問題が解決されていなかった。なお、上記の変形等は、周長補正の工程にて周長の補正とともに矯正される場合もあるが、変形等が大きい場合には、周長の補正と併せてこの変形を矯正するための時間が掛かりすぎるという問題がある。
【0007】
そこで、この問題に対しては、3本以上の平行なロッドが垂直方向に立設され、水平方向に突き出した二重円錐形のリング座が多数このロッドに設けられ、これらのロッド間に金属リングを挿入すると、隣接するリング座の傾斜面により形成されたV字型の凹部に金属リングが外周面側から挟持される構成となる金属リングの搬送ラックが報告されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
しかしながら、この搬送ラックへの金属リングの取付及び取外は全て手作業によるため、大量の金属リングを取り付け又は取り外す作業には多くの時間が必要であり、また、生産数も制限されていた。また、上記のような従来技術において金属リングの取付及び取外作業の自動化を図ったとしても、金属リングを1本ずつ処理したのでは、大量の金属リングを全て処理し終えるまでに長時間を要することとなるため、生産数を制限するか装置を増設する必要があった。
【0009】
そこで、本発明者らは、ベルトコンベアで送られてきた金属リングを連続的に整列ストッカーへ押し込み、整列された複数の金属リングをまとめて熱処理治具へ取り付け、大量の金属リングを自動的に熱処理する方法及び装置を開発した(例えば、特許文献4参照。)。ところが、大量の金属リングを処理する場合、製造過程において金属リングの内径に2〜3mmのバラツキが生じてしまう。そのため、上記の自動熱処理装置においては、大量の金属リングを一度に移載するロボットハンドのフィンガー部材の突起部にクッション機構を設け、金属リングの周長の差異を吸収させる試みがなされている。
【0010】
しかしながら、このような従来技術では、周長の異なる大量の金属リングを用いた場合には、周長の大きな金属リングに対しては、十分に把持さすることができず、把持状態においてもガタツキが大きく、移載時に正確な位置決めができない、一方、周長の小さな金属リングに対しては、ロボットハンドによる把持力を略全て受けることとなり、金属リングが変形して周長が伸びてしまうといった問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−161314号公報
【特許文献2】特許第4219186号
【特許文献3】特開2008−240085号公報
【特許文献4】特願2009−076137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、上記問題点に鑑み、周長の異なる大量の金属リングを確実にかつ変形を生じることなく搬送することができる金属リング用搬送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の金属リング用搬送装置は、復元力を有する金属リングの周長よりも辺の総和が大きい開口部を上方に形成すると共に、垂直方向に延在する金属リング保持部材で該金属リングを水平方向に懸架する熱処理治具における上記開口部から、当該金属リングを挿入して上記熱処理治具の金属リング保持部材に懸架させるリング用搬送装置において、上記金属リングの全てを、上記開口部を通過し得る略多角形に変形させて内側から押圧把持し、上記熱処理治具の開口部から、上記配置状態で内側から把持された上記金属リングの全てを挿入した後、上記配置状態における内側からの把持を解除して積載する、複数のフィンガー部材を備え、上記複数のフィンガー部材中の少なくとも1個が、上記金属リングの内壁に対して接近または離間する方向に変位可能に設けられた複数の当接部材を有し、上記複数のフィンガー部材で上記複数本の金属リングを支持したときに、上記複数の当接部材の各々が、移動手段によって上記複数本の金属リングの各々に個別に当接することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の金属リング用搬送装置における移動手段は、圧縮性流体で駆動する流体シリンダであることがこのましい。さらに、本発明の金属リング用搬送装置における移動手段及び当接部材は、同一のフィンガー部材上で同一方向に向けて設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、周長の異なる大量の金属リングを確実にかつ変形を生じることなく搬送することを可能とし、これにより、金属リングの自動的かつ大量の熱処理を実現している。なお、多角形と円形とを比較すると、その周長が同じ時、それぞれが形成する形状の面積は、多角形よりも円形の方が大きくなることを利用して、整列ストッカーの棚部材に、整列リング移載ロボットハンドにより変形クランプした形状に対応する開口を設け、上方からの積載及び取り出しを実現している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の金属リング用搬送装置を利用した金属リングの自動熱処方法の一実施形態を示す概念図である。
【図2】整列ストッカーの一実施形態を示した正面図である。
【図3】整列ストッカーの一実施形態を示した上面図である。
【図4】整列ストッカーの開口部と金属リングとの配置を示した概念図である。
【図5】整列ストッカーへの金属リングの押込工程を示した断面図である。
【図6】本整列ストッカーへの金属リングの押込工程を示した上面図である。
【図7】整列ストッカーへの金属リングの押込工程を示した上面図である。
【図8】整列リング移載ロボットハンドの一実施形態を示した正面図である。
【図9】整列リング移載ロボットハンドの一実施形態を示した下面図である。
【図10】整列リング移載ロボットハンドを金属リング内に挿入した状態を示した下面図である。
【図11】整列リング移載ロボットハンドを金属リング内で拡張した状態を示した下面図である。
【図12】金属リングの熱処理治具の一実施形態を示す上面図である。
【図13】金属リングの熱処理治具の一実施形態を示す正面図である。
【図14】金属リングの熱処理治具に変形クランプされた金属リングを挿入した状態を示す上面図である。
【図15】金属リングの熱処理治具に挿入された変形クランプ金属リングを略円形状に復元した状態を示す上面図である。
【図16】熱処理の一実施形態を示した概念図である。
【図17】整列ストッカーからの金属リングの引出工程を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の金属リング用搬送装置の実施形態について具体的に説明する。図1は本発明の金属リング用搬送装置を用いた金属リングの自動熱処方法の一実施形態を示す概念図である。この金属リングの自動熱処理方法では、まず、図1に示されたように、金属リング1が金属リング搬送コンベア2によりリング受渡台3に搬送される。リング受渡台3に搬送された金属リング1は、リング整列機構4によって整列ストッカー5に積載される。この整列ストッカー5に整列して積載された金属リング1は、この配置状態のまま整列リング移載ロボットハンド6によって熱処理治具7に移載して取り付けられる。
【0018】
次いで、この金属リング1が積載された熱処理治具7は、治具移載ロボット8によって治具積載パレット9上に積み重ねられる。この治具積載パレット9は、パレット搬送コンベア10によって熱処理炉内へ搬送され、積載された大量の金属リング1に対して所定の熱処理が実施される。
【0019】
そして、熱処理を終えた金属リング1はこれまでの工程を逆に辿って1本ずつの金属リング1とされる。すなわち、熱処理後の治具積載パレット9は、パレット搬送コンベア11によって熱処理炉から搬送される。治具積載パレット9に積み重ねられた熱処理治具7は、治具移載ロボット12によって治具積載パレット9から下ろされる。熱処理治具7に整列して積載された金属リング1は、この配置状態のまま整列リング移載ロボットハンド13によって熱処理治具7から取り外されて整列ストッカー14に移載される。
【0020】
その後、移載された金属リング1は、押出シリンダ15によって整列ストッカー14から押し出され、次いで、リング引出機構16によって整列ストッカー14からリング受渡台17上に引き出される。引き出された金属リング1は、金属リング搬送コンベア18によって搬送される。このようにして大量の金属リング1が自動的に治具付け、熱処理される。以下、これらの各工程を詳細に説明する。
【0021】
1.金属リング整列工程
この工程においては、金属リング搬送コンベア2によりリング受渡台3に搬送されてくる金属リング1を、リング整列機構4によって整列ストッカー5に積載する。ここで、本発明における金属リング1は、マルエージング鋼、ステンレス鋼等の鋼材料の薄板の両端を円筒状になるように溶接し、溶接の熱により硬質化された部分を均質化するための溶体化を行った後、所定幅に裁断して無端帯状の金属リングとし、さらに、この金属リングを所定厚さに圧延した後、金属組織を再結晶させるための溶体化を行い、必要に応じて周長補正を行ったものである。なお、この金属リング1は外力が付加されていない状態では略円環形状である。
【0022】
本発明における整列ストッカー5は、大量の金属リングを垂直方向に整列して積載し得る同一の構成を2つ回転自在に並列したものであり、その一つの構成は、図2及び3に示されたように、複数の棚部材101が、上部板材102及び下部板材103の間において、複数の支持部材104〜109により、上部板材107及び下部板材108と平行に一定間隔で支持されている。この複数の棚部材101の間隔は、後述する熱処理治具に積載される複数の金属リングの間隔とほぼ等しい大きさであり、整列ストッカー5はこの間隔分上下に移動可能な構成であり、全ての棚部材101がリング受渡台3と同じ高さになるよう制御でき、これにより全ての棚部材101間に金属リング1を積載することができる。なお、図2は本発明における整列ストッカーの一実施形態を示した正面図であり、図3はその上面図である。
【0023】
また、支持部材104及び109は金属リングの直径よりも離間しており、支持部材105〜108は金属リングが積載された際に金属リングの外周部に当接するように構成されている。これにより、図2における前方または図3における下方から金属リングを押し込むと、金属リングは支持部材104及び109間を通過し、金属リングの外周部が支持部材105〜108に当接するまで挿入される。
【0024】
さらに、上部板材102及び棚部材101には、金属リングの外周よりも辺の長さの総和が長い略六角形の開口部110が設けられている。ここで、開口部110の形状である略六角形は、本実施形態においては、図面左下に拡張されており、これは後述するロボットハンドに設けられた移動手段により金属リングが押し広げられる領域を確保するためのものである。
【0025】
この開口部110は、後述する金属リングの熱処理治具への移載の際に用いられるものであり、金属リングが完全に挿入された状態では何ら問題ないが、図4に示されたように、図面下方から金属リングを押し込み、点線、一点鎖線及び二点差線と挿入していく場合、点線で示された位置から一点鎖線で示された位置までの領域において、金属リングの端部が開口部110に傾斜して入り込んでしまうといった問題を有している。
【0026】
そこで、本発明におけるリング整列機構4では、図5に示されたように、リング受渡台3から整列ストッカー5の棚部材101に金属リング1を押し込むための、シリンダ111及びワークプッシャー112に加えて、上記問題を解決するためのワーク落下防止部材113が設けられている。このワーク落下防止部材113は、図5及び6に示されたように、ワークプッシャー112とともにシリンダ111により整列ストッカー5側に押し出される構成であり、ワークプッシャー112が当接している金属リング1の端部の上面を覆うように配置されている。
【0027】
そして、金属リング1が、リング整列機構4によって整列ストッカー5に押し込まれていくと、金属リング1の端部が上記開口部110に入り込もうとして、この開口部110側の端部とは反対側の端部、すなわちワークプッシャー112に当接している端部が浮き上がり始める。ところが、浮き上がり始めた端部の上面には、ワーク落下防止部材113が設けられているため、この金属リング1端部の浮き上がりが抑制され、棚部材101と平行な状態が維持されたまま金属リング1が棚部材101間に押し込まれていく。
【0028】
その後、端部が開口部110に入り込む領域を金属リング1が通過すると、図5及び7に示されたように、ワーク落下防止部材113が棚部材101に当接することになるが、ワーク落下防止部材113はスプリング114を介してシリンダ111に設けられているため、棚部材101に当接した後はワーク落下防止部材113の移動が停止し、ワークプッシャー112のみによって金属リング1の外周部が支持部材105〜108に当接するまで押し込まれる。
【0029】
そして、整列ストッカー5には、隣接する棚部材101の間隔分上方または下方に移動して、金属リング1が押し込まれていない棚部材101が、リング受渡台3と同一平面となるように上下方向に移動させる移動手段が備えられており、これにより、次の金属リング1を空の棚部材101間に押し込み、この動作を繰り返すことにより、大量の金属リング1を整列ストッカー5に積載し、垂直方向に整列させる。次いで、上記のようにして全ての棚部材101間に金属リングを積載及び整列させた整列ストッカー5を回転させて、並列する同一構成の整列ストッカーにおいても同様にして大量の金属リング1を積載及び整列させる。
【0030】
2.熱処理治具への移載工程
この工程においては、整列リング移載ロボットハンド6によって、整列ストッカー5に整列して積載された大量の金属リング1をこの配置状態のまま熱処理治具7に移載して取り付ける。整列リング移載ロボットハンド6は、図8及び9に示されたように、ベース部201に備えられた駆動機構により3方向にそれぞれが拡張する2本1組のフィンガー部材202が3組備えられている。また、このフィンガー部材202には、金属リングの幅と同等の距離を離間させて突起部203が上下方向に複数設けられており、隣接する突起部203間に金属リングが固定される。なお、図8は整列リング移載ロボットハンドの一実施形態を示した正面図(a)及び側面図(b)であり、図9はその下面図である。
【0031】
図8及び9に示されたように、3組のフィンガー部材202のうちの1組のフィンガー部材には、2本のフィンガー部材間であって隣接する突起部203の間において、把持される金属リングの1つ1つに独立して対応する移動手段204が設けられている。この移動手段204には、フィンガー部材202よりも半径方向外側に突出した当接部材205が備えられている。この移動手段204及び当接部材205は、把持される金属リングと同数設けられているが、全てが同一フィンガー部材上で同一方向に向けて設けられていることが必要である。また、この移動手段204及び当接部材205は、図8(b)に示されたように、2本のフィンガー部材202間においてそれぞれが干渉しないように互い違いに左右にずらして配置されていてもよい。このように配置された本発明における移動手段204は、所定以上の張力が金属リングに掛からないような機構を有するものであり、エアのような圧縮性流体、水や油のような非圧縮流体等で駆動する流体シリンダを用いることができる。これらの中でも本発明においてはエアーシリンダであることが最も好ましい。
【0032】
このような構成の整列リング移載ロボットハンド6は、図10に示されたように、整列ストッカー5内で垂直方向に整列された略円形状の大量の金属リング1の径方向の中心に、上部板材102及び棚部材101における略六角形の開口部110を通して上方からフィンガー部材202を垂直に挿入することができる。次いで、金属リング1の中心に挿入されたフィンガー部材202を3方向にそれぞれ拡張させることにより、図11に示されたように、大量の金属リング1の内周面を突起部203が外方向に押し広げ、全ての金属リング1が略六角形状に変形クランプされる。その際、フィンガー部材202よりも半径方向外側に突出した当接部材205を介して移動手段204が金属リング1の内周面に当接しているため、金属リングの周長が大きい場合においても金属リングに十分な張力がかかり、適切に把持される。一方、金属リングの周長が小さい場合においては、過剰な張力が金属リングに掛かる前に移動手段204が当接部材205を半径方向内側への移動を許容するため、金属リングが変形することなく、適切に把持される。
【0033】
そして、前述したように、上記開口部110の辺の長さの総和が、この略六角形状に変形クランプされた金属リング1の外周よりも長くなるよう構成されているため、大量の金属リング1がクランプされたフィンガー部材202を上方に引き抜くことにより、整列された大量の金属リング1の全てをその整列状態のまま一度に取り出すことができる。
【0034】
熱処理治具7は、図12及び13に示したように、蓋体301と底部302との間において、3本以上の平行な金属リング保持部材303が金属リング1の外周に当接するように垂直方向に立設され、蓋体301には、上記の変形クランプされた金属リング1の外周よりも辺の長さの総和が長い開口部304が設けられている。また、この金属リング保持部材303には、金属リング1に対向する面にのみ一定間隔で略円柱状の突起部305及び306が設けられている。隣接する2つの突起部305の間に金属リング1が挿入された場合に、この突起部305は金属リング1の落下を防止する構成であり、突起部306は金属リング1の外周面を保持する構成であるが、これらの突起部305及び306と金属リング1との接触面積は極めて小さく、熱処理における熱損失や窒化処理におけるムラを防ぐことができる。さらに、金属リング保持部材303は、3本以上を平行に立設した際に、同じ高さにそれぞれの突起部が形成されるように構成されており、これらの隣接する突起部間に金属リング1が挿入された場合に、金属リング1が水平に挟持される。なお、図12は金属リングの熱処理治具の一実施形態を示す上面図であり、図13はその正面図である。
【0035】
また、この金属リング保持部材303は、中空の部材であることが好ましい。この金属リング保持部材を中空とすることにより、さらなる軽量化が図られるとともに、熱処理の加熱時において、すでに加熱された雰囲気をこの中空部に導入することで、熱処理の際の熱追従性をより向上することができる。軽量化の実験例としては、約40%の重量減、1治具当たり約14%の重量減を実現している。
【0036】
さらに、上記の金属リングの熱処理治具7においては、多数の金属リングを水平に並列する金属リング保持部材303が1治具当たり2組以上設けられていることが好ましい。このような構成とすることにより、金属リング数当たりの治具重量を低減することができ、熱処理時の熱効率を向上することができる。実験例としては、1治具当たり1組の金属リング保持部材を設けた熱処理治具と比較すると、金属リング数当たりの治具重量及び体積を約9%及び約10%低減することができた。
【0037】
上記のようにして金属リング保持部材303が1治具当たり2組以上設けられた場合には、それぞれの金属リング保持部材303に載置される金属リング1が最も近接する位置に、それぞれの金属リング1と対向するように部材の両面に突起部を備えた金属リング保持部材303を設け、両組の金属リング1を同時に保持する構成とすることもできる。このような構成によれば、熱処理治具7に用いる金属リング保持部材303の本数を低減することができ、熱処理治具7の軽量化を図ることができる。
【0038】
このような構成の熱処理治具7において、図14に示されたように、上記のようにして大量の金属リング1がクランプされたフィンガー部材を、上方から開口部304へ挿入し、載置する金属リング1の外周と、載置される各金属リング保持部材303の凹部とが同じ高さになるように位置合わせする。そして、フィンガー部材を縮小させると、六角形に変形クランプされた金属リング1の形状が弾性力により略円形状に復元され、図15に示されたように、金属リング1の外周端縁が金属リング保持部材303の凹部に挟持され、大量の金属リング1の全てが一度に水平に保持される。
【0039】
3.金属リングの熱処理工程
この工程においては、治具移載ロボット8によって大量の金属リング1が積載された熱処理治具7を治具積載パレット9上に積み重ね、パレット搬送コンベア10によってこの治具積載パレット9を熱処理炉内へ搬送した後、積載された大量の金属リング1に対して所定の熱処理が実施される。ここで、本発明においては、上記の治具積載パレット9は、熱処理治具7を5列2行2段の計20個積み重ねることが好ましく、このような構成によれば、加熱炉内における金属リングの充填率が高く、低コストかつ効率よく熱処理することができる。
【0040】
次に、上記の熱処理治具7を用いて行う熱処理について具体的に説明するが、説明を簡易化するために、熱処理治具7単体を加熱処理する場合について以下に説明する。
金属リング1を載置された熱処理治具7は、図示していない搬送手段により、図16に示される熱処理炉306の内部に搬送される。なお、本実施形態における金属リング保持部材303は、両端部に開口を備えた中空の部材を用いた。熱処理炉306内の熱処理治具7においては、中空体である金属リング保持部材303の内部と熱処理炉306の内部とが、各開口を介して連通状態となっている。また、熱処理炉306は、熱処理治具7の搬送方向に沿って長尺に形成され、側壁307及び308の内方にヒータ309及び310が設置されるとともに、天井壁311に攪拌翼312を備えた対流用ファン313が設置されている。
【0041】
熱処理として窒化処理を行う場合を例示して説明すると、図16に示される熱処理炉306内に、例えば、アンモニア等の窒化ガスが供給される。この窒化ガスは、ヒータ309及び310により、金属リング1を窒化することが可能な所定温度、例えば、約500℃に加熱される。加熱された窒化ガスは、熱処理炉306の天井壁311に向かって上昇する。この上昇した窒化ガスは、対流用ファン313の攪拌翼312を回転させることにより、熱処理炉306内で対流させている。
【0042】
その結果、窒化ガスは、側壁307及び308に沿って下降し、次いで、熱処理炉306の床付近、ひいては熱処理治具7の近傍で再度上昇しようとする。ここで、上記したように、金属リング保持部材303の内部は、両端部の開口を介して熱処理炉7の内部と連通状態にある。したって、窒化ガスは、図16に示すように、金属リング保持部材303の下方の開口から導入される。すなわち、この場合、金属リング保持部材303の下方の開口は、窒化ガスの流通方向上流側に向けられ、窒化ガスの導入口として機能する。窒化ガスは、金属リング保持部材303の内部を経由した後、上方の開口から排出されて熱処理炉306の天井壁311に向けられる。
【0043】
このように、金属リング保持部材303をその内部が大気に連通状態である中空部材とした本実施形態においては、金属リング1に対する窒化処理時に、金属リング保持部材303の内部に加熱された窒化ガスが流通される一方、金属リング保持部材303の外部においても、内部と略同程度に加熱された窒化ガスが存在する。すなわち、該金属リング保持部材303の内部と外部の双方に同程度に加熱された窒化ガスが存在することとなる。このため、金属リング保持部材303の内部と外部で温度の均衡が保たれ、その結果、金属リング1の温度が全体にわたって略均一となる。換言すれば、金属リング保持部材303と金属リング1との接点の温度が、金属リング1におけるその他の部位の温度と略同等となる。そして、窒化ガスは、金属リング1の表面から進入して内部に拡散し、該金属リング1の表面に窒化層を形成する。すなわち、いわゆる窒化が進行する。この窒化層により、金属リング1が硬化される。
【0044】
上記したように、金属リング1は、その全体にわたって温度が略均一である。したがって、窒化は、金属リング1の全体にわたって略同等に進行する。すなわち、本発明を用いた熱処理においては、熱処理の際の熱追従性が良好となり、窒化の進行にバラツキが生じることが回避され、窒化層の厚さ、ひいては硬化の度合いにバラツキが生じることも回避され、熱処理による金属リングの変径率が低減される。
【0045】
4.金属リングの引出工程
この工程においては、熱処理完了後、パレット搬送コンベア11によって熱処理された治具積載パレット9を熱処理炉から搬送し、治具移載ロボット12によって積み重ねられた熱処理治具7を治具積載パレット9から下ろす。そして、整列リング移載ロボットハンド13によって、熱処理治具7に整列して積載された金属リング1を、この配置状態のまま熱処理治具7から取り外し、整列ストッカー14に移載する。これらの動作については、上記の整列ストッカーから熱処理治具への移載及び熱処理の各工程を逆に辿るものであるため詳細な説明は省略する。
【0046】
次いで、整列ストッカー14に移載された金属リング1を、押出シリンダ15によって整列ストッカー14から押し出した後、リング引出機構16によって整列ストッカー14からリング受渡台17上に引き出し、搬送コンベア18によって次工程へ搬送される。
【0047】
ここで、整列ストッカーからの金属リングの引出工程をより詳細に説明すると、まず、図1に示されたように、整列ストッカー14に移載された金属リング1を、押出シリンダ15によって整列ストッカー14から押し出す。これにより、整列ストッカー14の隣接する棚部材401間から金属リング1の端部を押し出すことができ、次工程の金属リング1の引出を可能としている。
【0048】
次に、隣接する棚部材401間から押し出された金属リング1の内周面にワーク引掛け404を引掛ける。リング引出機構16には、図17(a)に示されたように、金属リング1の端部と当接する先端面402と、当接した金属リング1の端部の上面を覆うように配置されたワーク落下防止部材403とが設けられ、シリンダ404によって、整列ストッカー14に押し込められた金属リング1に向けてリング受渡台17上を摺動可能な構成となっている。また、このワーク落下防止部材403の先端部には、金属リング1の引出方向にのみ押し上げられ、押し上げられた状態で金属リング1の端部上方を通過し、この端部が通過した後に、金属リング1の内側に落下する構成の爪状のワーク引掛け405が設けられている。さらに、ワーク落下防止部材403の下面の長さは、ワーク引掛け405の長さよりも長く、金属リング1の引出方向に押し上げられた状態においても、ワーク引掛け405の先端とリング引出機構の先端面402との間は、金属リング1の厚さよりも大きく離間している。
【0049】
そして、図17(b)に示されたように、シリンダ404により、金属リング1の端部にリング引出機構16の先端を近接させていき、ワーク引掛け405を金属リング1の端部に当接させると、このワーク引掛け405が金属リング1の端部上方に押し上げられる。さらに、このワーク引掛け405が押し上げられた状態のまま、リング引出機構16をさらに金属リング1に近接させると、図17(c)に示されたように、押し上げられたワーク引掛け405の先端が金属リング1の内側に入り込み、次いで、ワーク引掛け405の先端が落下して金属リング1の内側にワーク引掛け405が引掛けられる。
【0050】
その後、シリンダ404によって、リング引出機構16を引出方向に移動させることにより金属リング1がリング受渡台14に引き出されるが、この際、リング整列ストッカー14の棚部材401に設けられた開口部に、金属リング1の端部が入り込もうとして、この開口部側の端部とは反対側の端部、すなわちリング引出機構16の先端面402に当接している端部が浮き上がり始める。ところが、浮き上がり始めた端部の上面には、ワーク落下防止部材403が設けられているため、この金属リング1端部の浮き上がりが抑制され、棚部材401と平行な状態が維持されたまま金属リング1が棚部材401間から引き出される。
【0051】
次いで、図17(d)及び(e)に示したように、リング受渡台14は、引出方向と直交する方向に傾斜するように構成されている。そのため、リング受渡台14を傾斜させることにより、ワーク引掛け405が金属リング1の内側から外れ、金属リング1が金属リング搬送コンベア18まで滑り落ち、このコンベア18により次工程に搬送される。
【符号の説明】
【0052】
1…金属リング、2…金属リング搬送コンベア、3…リング受渡台、
4…リング整列機構、5…整列ストッカー、6…整列リング移載ロボットハンド、
7…熱処理治具、8…治具移載ロボット、9…治具積載パレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
復元力を有する金属リングの周長よりも辺の総和が大きい開口部を上方に形成すると共に、垂直方向に延在する金属リング保持部材で該金属リングを水平方向に懸架する熱処理治具における上記開口部から、当該金属リングを挿入して上記熱処理治具の金属リング保持部材に懸架させる金属リング用搬送装置において、
上記金属リングの全てを、上記開口部を通過し得る略多角形に変形させて内側から押圧把持し、上記熱処理治具の開口部から、上記配置状態で内側から把持された上記金属リングの全てを挿入した後、上記配置状態における内側からの把持を解除して積載する、複数のフィンガー部材を備え、
上記複数のフィンガー部材中の少なくとも1個が、上記金属リングの内壁に対して接近または離間する方向に変位可能に設けられた複数の当接部材を有し、
上記複数のフィンガー部材で上記複数本の金属リングを支持したときに、上記複数の当接部材の各々が、移動手段によって上記複数本の金属リングの各々に個別に当接することを特徴とする金属リング用搬送装置。
【請求項2】
前記移動手段は、圧縮性流体で駆動する流体シリンダであることを特徴とする請求項1に記載の金属リング用搬送装置。
【請求項3】
前記移動手段及び当接部材は、同一のフィンガー部材上で同一方向に向けて設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属リング用搬送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−242037(P2011−242037A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113511(P2010−113511)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】