説明

金属加工油組成物

【課題】高粘度化や添加剤の増量をせずとも優れた加工性を得ることができ、且つ加工後の被加工物からの除去性に優れた金属加工油を提供すること。
【解決手段】本発明の金属加工油組成物は、%Cが2以下、%C/%Cが6以上、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油と、エステル、アルコール、カルボン酸、並びに構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物から選ばれる少なくとも1種の潤滑性向上剤とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属加工油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属加工の分野では、金属製の被加工物の加工部位を潤滑するために金属加工油が使用されている。かかる金属加工油には、良好な潤滑により、加工力の低減、生産性の向上、加工物の表面状態(例えば圧延後の光沢等)の向上などを達成できる特性(以下、「加工性」という。)が求められる。
【0003】
そこで、従来の金属加工油としては、加工性を向上させるべく、油性剤、極圧剤等の添加剤が配合されたものが一般的に使用されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【特許文献1】特開平10−273685号公報
【特許文献2】特開2003−165994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近時、加工精度や加工効率の更なる向上が望まれており、上記従来の金属加工油では十分な加工性を達成することができなくなってきている。
【0005】
なお、金属加工油の加工性を向上させる手段として、金属加工油の高粘度化により摩擦係数が小さい流体潤滑領域の割合を増大させる方法が考えられる。しかし、金属加工油によって形成される油膜の最適な厚さは金属加工の種類や加工条件によって異なるため、金属加工油を高粘度化すると最適な油膜厚さから外れてしまうことが多く、十分な加工性を達成することができない。また、金属加工油の高粘度化は、加工工程の後段に設けられる油分除去工程において、油分が被加工物から除去されにくくなるといった問題も有している。
【0006】
また、油性剤、極圧剤等の添加剤の金属加工油への配合量を増量することで加工性をある程度改善することは可能であるが、この手法による加工性の向上効果には自ずと限界があり、十分な加工性を得ることは必ずしも容易ではない。また、これらの添加剤を増量した場合も、加工工程の後段に設けられる油分除去工程において、油分が被加工物から除去されにくくなる。また、多量の添加剤の使用はコストの増大、作業環境の悪化(臭気の発生等)を招くことになる。また更に、加工条件の苛酷化に加えて、資源有効利用、廃油の低減、金属加工油ユーザーのコスト削減等の観点から、金属加工油には長期間安定な性状を維持できる熱・酸化安定性が求められているが、油性剤や極圧剤の増量は金属加工油の熱・酸化安定性の低下の原因にもなる。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高粘度化や添加剤の増量をせずとも優れた加工性を得ることができ、且つ加工後の被加工物からの除去性に優れた金属加工油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、%Cが2以下、%C/%Cが6以上、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油と、エステル、アルコール、カルボン酸、並びに構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物から選ばれる少なくとも1種の潤滑性向上剤とを含有することを特徴とする金属加工油組成物を提供する。
【0009】
本発明の金属加工油組成物に含まれる潤滑油基油は、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものであるため、それ自体が摩擦特性に優れるものであり、また、流体潤滑領域においてせん断抵抗を低減して油膜の破断を十分に防止することができるものである。また、当該潤滑油基油は、エステル、アルコール、カルボン酸、並びに構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物から選ばれる少なくとも1種の潤滑性向上剤が配合された場合に、当該潤滑性向上剤を安定に溶解保持しつつ、当該潤滑性向上剤に起因する境界潤滑領域での潤滑性向上効果をより高水準で発現させることができるものである。さらに、当該潤滑油基油は十分な熱・酸化安定性を有しているため、その使用により上述の優れた潤滑性を長期間維持することができる。
【0010】
したがって、本発明の金属加工油組成物によれば、優れた加工性を長期にわたって安定的に得ることができるようになる。さらに、本発明の金属加工油組成物においては、上述の加工性及びその長期維持性を得るために高粘度化や添加剤の増量を必要としないので、本発明の金属加工油組成物は加工後の被加工物からの除去性の点でも優れている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高粘度化や添加剤の増量をせずとも優れた加工性を得ることができ、且つ加工後の被加工物からの除去性に優れた金属加工油組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明では、%Cが2以下、%C/%Cが6以上、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油(以下、単に「本発明にかかる潤滑油基油」という。)が用いられる。
【0014】
本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、上述の通り2以下であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1以下である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する。また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは0であってもよいが、%Cを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0015】
また、本発明にかかる潤滑油基油における%Cと%Cとの比率(%C/%C)は、上述の通り6以上であり、7以上であることがより好ましい。%C/%Cが上記下限値未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下し、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する。また、%C/%Cは、35以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、14以下であることが更に好ましく、13以下であることが特に好ましい。%C/%Cを上記上限値以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0016】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは80以上、より好ましくは82〜99、更に好ましくは85〜95、特に好ましくは87〜93である。潤滑油基油の%Cが上記下限値未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0017】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは19以下、より好ましくは5〜15、更に好ましくは7〜13、特に好ましくは8〜12である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが上記下限値未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0018】
なお、本発明でいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%C及び%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0019】
また、本発明にかかる潤滑油基油のヨウ素価は、前述の通り2.5以下であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下であり、また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.5以上である。潤滑油基油のヨウ素価を2.5以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいう「ヨウ素価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0020】
本発明にかかる潤滑油基油は、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものであれば特に制限されない。具体的には、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものが挙げられる。これらの潤滑油基油は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明にかかる潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油及び/又はこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種又は2種以上の混合油及び/又は当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0022】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸又はアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0023】
更に、本発明にかかる潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)又は(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0024】
また、上記(9)又は(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0025】
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)又は当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒及び水素化異性化触媒は、積層又は混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0026】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
【0027】
本発明にかかる潤滑油基油の製造方法の好ましい例としては、以下に示す製造方法Aが挙げられる。
【0028】
すなわち、本発明にかかる製造方法Aは、
NH脱着温度依存性評価においてNHの全脱着量に対する300〜800℃でのNHの脱着量の分率が80%以下である担体に、周期律表第VIa族金属のうち少なくとも1種類と、第VIII族金属のうち少なくとも1種類とが担持された水素化分解触媒を準備する第1工程と、
水素化分解触媒の存在下、スラックワックスを50容量%以上含む原料油を、水素分圧0.1〜14MPa、平均反応温度230〜430℃、LHSV0.3〜3.0hr−1、水素油比50〜14000scf/bで水素化分解する第2工程と、
第2工程で得られた分解生成油を蒸留分離して潤滑油留分を得る第3工程と、
第3工程で得られた潤滑油留分を脱ろう処理する第4工程と
を備える。
【0029】
以下、上記製造方法Aについて詳述する。
【0030】
(原料油)
上記製造方法Aにおいては、スラックワックスを50容量%以上含有する原料油が用いられる。なお、本発明でいう「スラックワックスを50容量%以上含有する原料油」とは、スラックワックスのみからなる原料油と、スラックワックスと他の原料油との混合油であってスラックワックスを50容量%以上含有する原料油との双方が包含される。
【0031】
スラックワックスは、パラフィン系潤滑油留分から潤滑油基油を製造する際、溶剤脱ろう工程で副生するワックス含有成分であり、本発明においては該ワックス含有成分をさらに脱油処理したものもスラックワックスに包含される。スラックワックスの主成分はn−パラフィン及び側鎖の少ない分岐パラフィン(イソパラフィン)であり、ナフテン分や芳香族分は少ない。原料油の調製に使用するスラックワックスの動粘度は、目的とする潤滑油基油の動粘度に応じて適宜選定することができるが、本発明にかかる潤滑油基油として低粘度基油を製造するには、100℃における動粘度が2〜25mm/s程度、好ましくは2.5〜20mm/s程度、より好ましくは3〜15mm/s程度の、比較的低粘度のスラックワックスが望ましい。また、スラックワックスのその他の性状も任意であるが、融点は、好ましくは35〜80℃、より好ましくは45〜70℃、さらに好ましくは50〜60℃である。また、スラックワックスの油分は、好ましくは質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、特に好ましくは10質量%以下であり、また、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、スラックワックスの硫黄分は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であり、また、好ましくは0.001質量%以上である。
【0032】
ここで、十分に脱油処理されたスラックワックス(以下、「スラックワックスA」という。)の油分は、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。また、スラックワックスAの硫黄分は、好ましくは0.001〜0.2質量%、より好ましくは0.01〜0.15質量%、さらに好ましくは0.05〜0.12質量%である。一方、脱油処理されないか、あるいは脱油処理が不十分であるスラックワックス(以下、「スラックワックスB」という。)の油分は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは12〜50質量%、さらに好ましくは15〜25質量%である。また、スラックワックスBの硫黄分は、好ましくは0.05〜1質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%、さらに好ましくは0.15〜0.25質量%である。なお、これらスラックワックスA、Bは、水素化分解/異性化触媒の種類や特性に応じて、脱硫処理が施されたものであってもよく、その場合の硫黄分は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下である。
【0033】
上記製造方法Aにおいては、上記スラックワックスAを原料として用いることで、%C、%C/%C及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たす本発明にかかる潤滑油基油を好適に得ることができる。また、上記製造方法Aによれば、油分や硫黄分が比較的高く、比較的粗悪で安価なスラックワックスBを原料として用いても、粘度指数が高く、低温特性及び熱・酸化安定性に優れた付加価値の高い潤滑油基油を得ることができる。
【0034】
原料油がスラックワックスと他の原料油との混合油である場合、当該他の原料油としては、混合油全量に占めるスラックワックスの割合が50容量%以上であれば特に制限されないが、原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油の混合油が好ましく用いられる。
【0035】
また、原料油がスラックワックスと他の原料油との混合油である場合、高粘度指数の基油を製造するという観点から、混合油に占めるスラックワックスの割合は、70容量%以上がより好ましく、75容量%以上が更により好ましい。当該割合が50容量%未満では、得られる潤滑油基油において芳香族分、ナフテン分などの油分が増大し、潤滑油基油の粘度指数が低下する傾向にある。
【0036】
一方、スラックワックスと併用される原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油は、製造される潤滑油基油の粘度指数を高く保つため、300〜570℃の蒸留温度範囲に60容量%以上の留出成分を有する留分であることが好ましい。
【0037】
(水素化分解触媒)
上記製造方法Aでは、NH脱着温度依存性評価においてNHの全脱着量に対する300〜800℃でのNHの脱着量の分率が80%以下である担体に、周期律表第VIa族金属のうち少なくとも1種類と、第VIII族金属のうち少なくとも1種類とが担持された水素化分解触媒が用いられる。
【0038】
ここで、「NH脱着温度依存性評価」とは、文献(Sawa M., Niwa M., Murakami Y., Zeolites 1990,10,532、Karge H. G., Dondur V.,J.Phys.Chem. 1990,94,765など)に紹介されている方法であり、以下のようにして行われる。先ず、触媒担体を、窒素気流下400℃以上の温度で30分以上前処理し、吸着分子を除去した後に、100℃でNHを飽和するまで吸着させる。次いで、その触媒担体を100〜800℃まで10℃/分以下の昇温速度で昇温してNHを脱着させ、脱着により分離されたNHを所定温度ごとにモニターする。そして、NHの全脱着量(100〜800℃での脱着量)に対する、300℃〜800℃でのNHの脱着量の分率を求める。
【0039】
上記製造方法Aで用いられる触媒担体は、上記のNH脱着温度依存性評価においてNHの全脱着量に対する300〜800℃でのNHの脱着量の分率が80%以下のものであり、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。かかる担体を用いて水素化分解触媒を構成することで、分解活性を支配する酸性質が十分に抑制されるので、水素化分解により原料油中のスラックワックス等に由来する高分子量n−パラフィンの分解異性化によるイソパラフィンの生成を効率よく且つ確実に行うことができ、且つ、生成したイソパラフィン化合物の過度の分解を充分に抑制することができるようになる。その結果、適度に枝分かれした化学構造を有する粘度指数の高い分子を、適度な分子量範囲で十分量与えることができる。
【0040】
このような担体としては、アモルファス系であり且つ酸性質を有する二元酸化物が好ましく、例えば、文献(「金属酸化物とその触媒作用」、清水哲郎、講談社、1978年)などに例示されている二元酸化物が挙げられる。
【0041】
中でも、アモルファス系複合酸化物であってAl、B、Ba、Bi、Cd、Ga、La、Mg、Si、Ti、W、Y、ZnおよびZrから選ばれる元素の酸化物2種類の複合による酸性質二元酸化物を含有することが好ましい。これらの酸性質二元酸化物の各酸化物の比率などを調整することにより、前記のNH吸脱着評価において、本目的に適した酸性質の担体を得ることができる。なお、当該担体を構成する酸性質二元酸化物は上記のうちの1種類であっても2種類以上の混合物であってもよい。また、当該担体は、上記酸性質二元酸化物からなるものであってもよく、あるいは当該酸性質二元酸化物をバインダーで結着させた担体であってもよい。
【0042】
さらに、当該担体は、アモルファス系シリカ・アルミナ、アモルファス系シリカ・ジルコニア、アモルファス系シリカ・マグネシア、アモルファス系シリカ・チタニア、アモルファス系シリカ・ボリア、アモルファス系アルミナ・ジルコニア、アモルファス系アルミナ・マグネシア、アモルファス系アルミナ・チタニア、アモルファス系アルミナ・ボリア、アモルファス系ジルコニア・マグネシア、アモルファス系ジルコニア・チタニア、アモルファス系ジルコニア・ボリア、アモルファス系マグネシア・チタニア、アモルファス系マグネシア・ボリアおよびアモルファス系チタニア・ボリアから選ばれる少なくとも1種類の酸性質二元酸化物を含有することが好ましい。当該担体を構成する酸性質二元酸化物は上記のうちの1種類であっても2種類以上の混合物であってもよい。また、当該担体は、上記酸性質二元酸化物からなるものであってもよく、あるいは当該酸性質二元酸化物をバインダーで結着させた担体であってもよい。かかるバインダーとしては、一般に触媒調製に使用されるものであれば特に制限はないが、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、クレーから選ばれるかまたはそれらの混合物などが好ましい。
【0043】
上記製造方法Aにおいては、上記の担体に、周期律表第VIa族の金属(モリブデン、クロム、タングステンなど)のうち少なくとも1種類と、第VIII族の金属(ニッケル、コバルト、パラジウム、白金など)のうち少なくとも1種類とが担持されて水素化分解触媒が構成される。これらの金属は、水素化能を担うものであり、酸性質担体によってパラフィン化合物が分解または枝分かれする反応を終結させ、適度な分子量と枝分かれ構造を有するイソパラフィンの生成に重要な役割を担っている。
【0044】
水素化分解触媒における金属の担持量としては、第VIa族金属の担持量が金属1種類当たり5〜30質量%であり、第VIII族金属の担持量が金属1種類当たり0.2〜10質量%であることが好ましい。
【0045】
さらに、上記製造方法Aで用いられる水素化分解触媒においては、第VIa族金属の1種類以上の金属としてモリブデンを5〜30質量%の範囲で含み、また、第VIII族金属の1種類以上の金属としてニッケルを0.2〜10質量%の範囲で含むことがより好ましい。
【0046】
上記の担体と第VIa族金属の1種類以上と第VIII属金属の1種類以上の金属とで構成される水素化分解触媒は、硫化した状態で水素化分解に用いることが好ましい。硫化処理は公知の方法により行うことができる。
【0047】
(水素化分解工程)
上記製造方法Aにおいては、上記の水素化分解触媒の存在下、スラックワックスを50容量%以上含む原料油を、水素分圧が0.1〜14MPa、好ましくは1〜14MPa、より好ましくは2〜7MPa;平均反応温度が230〜430℃、好ましくは330〜400℃、より好ましくは350〜390℃;LHSVが0.3〜3.0hr−1、好ましくは0.5〜2.0hr−1;水素油比が50〜14000scf/b、好ましくは100〜5000scf/bで水素化分解する。
【0048】
かかる水素化分解工程においては、原料油中のスラックワックスに由来するn−パラフィンを分解する過程でイソパラフィンへの異性化を進行させることにより、流動点が低く、かつ粘度指数の高いイソパラフィン成分を生ぜしめるのであるが、同時に、原料油に含まれている高粘度指数化の阻害因子である芳香族化合物を単環芳香族化合物、ナフテン化合物及びパラフィン化合物に分解し、また、高粘度指数化の阻害因子である多環ナフテン化合物を単環ナフテン化合物やパラフィン化合物に分解することができる。なお、高粘度指数化の点からは、原料油中に高沸点で粘度指数の低い化合物が少ない方が好ましい。
【0049】
また、反応の進行度合いを評価する分解率を下記式:
(分解率(容量%))=100−(生成物中の沸点が360℃以上の留分の割合(容量%))
のように定義すると、分解率は3〜90容量%であることが好ましい。分解率が3容量%未満では、原料油中に含まれる流動点の高い高分子量n−パラフィンの分解異性化によるイソパラフィンの生成や、粘度指数の劣る芳香族分や多環ナフテン分の水素化分解が不十分となり、また、分解率が90容量%を超えると潤滑油留分の収率が低くなり、それぞれ好ましくない。
【0050】
(蒸留分離工程)
次いで、上記の水素化分解工程により得られる分解生成油から潤滑油留分を蒸留分離する。この際、軽質分として燃料油留分も得られる場合がある。
【0051】
燃料油留分は脱硫、脱窒素が十分に行われ、また、芳香族の水素化も十分に行われた結果得られる留分である。このうち、ナフサ留分はイソパラフィン分が多く、灯油留分は煙点が高く、また、軽油留分はセタン価が高い等、燃料油としていずれも高品質である。
【0052】
一方、潤滑油留分における水素化分解が不十分である場合には、その一部を再度水素化分解工程に供してもよい。また、所望の動粘度の潤滑油留分を得るため、潤滑油留分を更に減圧蒸留してもよい。なお、この減圧蒸留分離は次に示す脱ろう処理後に行ってもよい。
【0053】
蒸発分離工程において、水素化分解工程で得られる分解生成油を減圧蒸留することにより、70Pale、SAE10、SAE20と呼ばれる潤滑油基油を好適に得ることができる。
【0054】
原料油としてより低粘度のスラックワックスを使用した系は、70PaleやSAE10留分を多く生成するのに適しており、原料油として上記範囲で高粘度のスラックワックスを使用した系はSAE20を多く生成するのに適している。しかし、高粘度のスラックワックスを用いても、分解反応の進行程度によっては70Pale、SAE10を相当量生成する条件を選ぶこともできる。
【0055】
(脱ろう工程)
上記の蒸留分離工程において、分解生成油から分留した潤滑油留分は流動点が高いので、所望の流動点を有する潤滑油基油を得るために脱ろうする。脱ろう処理は溶剤脱ろう法又は接触脱ろう法などの通常の方法で行うことができる。このうち、溶剤脱ろう法は一般にMEK、トルエンの混合溶剤が用いられるが、ベンゼン、アセトン、MIBK等の溶剤を用いてもよい。脱ろう油の流動点を−10℃以下にするために溶剤/油比1〜6倍、ろ過温度−5〜−45℃、好ましくは−10〜−40℃の条件で行うことが好ましい。なお、ここで除去されるろう分は、スラックワックスとして、水素化分解工程に再び供することができる。
【0056】
上記製造方法においては、脱ろう処理に溶剤精製処理及び/又は水素化精製処理を付加してもよい。これらの付加する処理は潤滑油基油の紫外線安定性や酸化安定性を向上させるために行うもので、通常の潤滑油精製工程で行われている方法で行うことができる。
【0057】
溶剤精製の際には、溶剤として一般にフルフラール、フェノール、N−メチルピロリドン等を使用し、潤滑油留分中に残存している少量の芳香族化合物、特に多環芳香族化合物を除去する。
【0058】
また、水素化精製はオレフィン化合物や芳香族化合物を水素化するために行うもので、特に触媒を限定するものではないが、モリブデン等の第VIa族金属のうち少なくとも1種類と、コバルト、ニッケル等の第VIII族金属のうち、少なくとも1種類を担持したアルミナ触媒を用いて、反応圧力(水素分圧)7〜16MPa、平均反応温度300〜390℃、LHSV0.5〜4.0hr−1の条件下で行うことができる。
【0059】
また、本発明にかかる潤滑油基油の製造方法の好ましい例としては、以下に示す製造方法Bが挙げられる。
【0060】
すなわち、本発明にかかる製造方法Bは、
触媒の存在下、パラフィン系炭化水素を含有する原料油を水素化分解及び/又は水素化異性化する第5工程と、
第5工程で得られる生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分を脱ろう処理する第6工程と、
を備える。
【0061】
以下、上記製造方法Bについて詳述する。
【0062】
(原料油)
上記製造方法Bにおいては、パラフィン系炭化水素を含有する原料油が用いられる。なお、本発明でいう「パラフィン系炭化水素」とは、パラフィン分子の含有率が70質量%以上の炭化水素をいう。パラフィン系炭化水素の炭素数は特に制限されないが、通常、10〜100程度のものが用いられる。また、パラフィン系炭化水素の製法は特に制限されず、石油系及び合成系の各種パラフィン系炭化水素を用いることができるが、特に好ましいパラフィン系炭化水素としては、ガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス(FTワックス)、GTLワックス等)が挙げられ、中でもFTワックスが好ましい。また、合成ワックスは、炭素数が好ましくは15〜80、より好ましくは20〜50のノルマルパラフィンを主成分として含むワックスが好適である。
【0063】
原料油の調製に使用するパラフィン系炭化水素の動粘度は、目的とする潤滑油基油の動粘度に応じて適宜選定することができるが、本発明にかかる潤滑油基油として低粘度基油を製造するには、100℃における動粘度が2〜25mm/s程度、好ましくは2.5〜20mm/s程度、より好ましくは3〜15mm/s程度の、比較的低粘度のパラフィン系炭化水素が望ましい。また、パラフィン系炭化水素のその他の性状も任意であるが、パラフィン系炭化水素がFTワックス等の合成ワックスである場合、その融点は、好ましくは35〜80℃、より好ましくは50〜80℃、さらに好ましくは60〜80℃である。また、合成ワックスの油分は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。また、合成ワックスの硫黄分は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、さらに好ましくは0.0001質量%以下である。
【0064】
原料油が上記合成ワックスと他の原料油との混合油である場合、当該他の原料油としては、混合油全量に占める合成ワックスの割合が50容量%以上であれば特に制限されないが、原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油の混合油が好ましく用いられる。
【0065】
また、原料油が上記合成ワックスと他の原料油との混合油である場合、高粘度指数の基油を製造するという観点から、混合油に占める合成ワックスの割合は、70容量%以上がより好ましく、75容量%以上が更により好ましい。当該割合が70容量%未満では、得られる潤滑油基油において芳香族分、ナフテン分などの油分が増大し、潤滑油基油の粘度指数が低下する傾向にある。
【0066】
一方、合成ワックスと併用される原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油は、製造される潤滑油基油の粘度指数を高く保つため、300〜570℃の蒸留温度範囲に60容量%以上の留出成分を有する留分であることが好ましい。
【0067】
(触媒)
製造方法Bで用いられる触媒は特に制限されないが、アルミノシリケートを含有する担体に、活性金属成分として周期律表第VI属b金属及び第VIII属金属から選ばれる1種以上が担持された触媒が好ましく用いられる。
【0068】
アルミノシリケートとは、アルミニウム、珪素及び酸素の3元素で構成される金属酸化物をいう。また、本発明の効果を妨げない範囲で他の金属元素を共存させることもできる。この場合、他の金属元素の量はその酸化物としてアルミナ及びシリカの合計量の5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。共存可能な金属元素としては、例えばチタン、ランタン、マンガン等を挙げることができる。
【0069】
アルミノシリケートの結晶性は、全アルミニウム原子中の4配位のアルミニウム原子の割合で見積もることができ、この割合は27Al固体NMRにより測定することができる。本発明で用いられるアルミノシリケートとしては、アルミニウム全量に対する4配位アルミニウムの割合が50質量%以上のものが好ましく、70質量%以上のものがより好ましく、80質量%以上のものがさらに好ましい。以下、アルミニウム全量に対する4配位アルミニウムの割合が50質量%以上のアルミノシリケートを「結晶性アルミノシリケート」という。
【0070】
結晶性アルミノシリケートとしては、いわゆるゼオライトを使用することができる。好ましい例としては、Y型ゼオライト、超安定性Y型ゼオライト(USY型ゼオライト)、β型ゼオライト、モルデナイト、ZSM−5などが挙げられ、中でもUSYゼオライトが特に好ましい。本発明では結晶性アルミノシリケートの1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
結晶性アルミノシリケートを含有する担体の調製方法としては、結晶性アルミノシリケート及びバインダーの混合物を成型し、その成型体を焼成する方法が挙げられる。使用するバインダーについては特に制限はないが、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシアが好ましく、中でもアルミナが特に好ましい。バインダーの使用割合は特に制限されないが、通常、成型体全量基準で5〜99質量%が好ましく、20〜99質量%がより好ましい。結晶性アルミノシリケート及びバインダーを含有する成型体の焼成温度は、430〜470℃が好ましく、440〜460℃がより好ましく、445〜455℃がさらに好ましい。また、焼成時間は特に制限されないが、通常1分〜24時間、好ましくは10分から20時間、より好ましくは30分〜10時間である。焼成は空気雰囲気下で行ってもよいが、窒素雰囲気下などの無酸素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0072】
また、上記担体に担持される第VI属b金属としてはクロム、モリブデン、タングステン等が、第VIII属金属としては、具体的には、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等がそれぞれ挙げられる。これらの金属は、1種類を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上の金属を組み合わせる場合、白金、パラジウム等の貴金属同士を組み合わせてもよく、ニッケル、コバルト、タングステン、モリブデン等の卑金属同士を組み合わせてもよく、あるいは貴金属と卑金属とを組み合わせてもよい。
【0073】
また、金属の担体への担持は、金属を含む溶液への担体の含浸、イオン交換等の情報により行うことができる。金属の担持量は、適宜選択することができるが、触媒全量基準で、通常0.05〜2質量%であり、好ましくは0.1〜1質量%である。
【0074】
(水素化分解/水素化異性化工程)
上記製造方法Bにおいては、上記触媒の存在下、パラフィン系炭化水素を含有する原料油を水素化分解/水素化異性化する。かかる水素化分解/水素化異性化工程は、固定床反応装置を用いて行うことができる。水素化分解/水素化異性化の条件としては、例えば温度は250〜400℃、水素圧は0.5〜10MPa、原料油の液空間速度(LHSV)は0.5〜10h−1がそれぞれ好ましい。
【0075】
(蒸留分離工程)
次いで、上記の水素化分解/水素化異性化工程により得られる分解生成油から潤滑油留分を蒸留分離する。なお、製造方法Bにおける蒸留分離工程は製造方法Aにおける蒸留分離工程と同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0076】
(脱ろう工程)
次いで、上記の蒸留分離工程において分解生成油から分留した潤滑油留分を脱ろうする。かかる脱ろう工程は、溶剤脱ろう又は接触脱ろう等の従来公知の脱ろうプロセスを用いて行うことができる。ここで、分解/異性化生成油中に存在する沸点370℃以下の物質が脱ろうに先立ち高沸点物質から分離されていない場合、分解/異性化生成油の用途に応じて、全水素化異性化物を脱ろうしてもよく、あるいは沸点370℃以上の留分を脱ろうしてもよい。
【0077】
溶剤脱ろうにおいては、水素化異性化物を冷却ケトン及びアセトン、並びにMEK、MIBKなどのその他の溶剤と接触させ、さらに冷却して高流動点物質をワックス質固体として沈殿させ、その沈殿をラフィネートである溶剤含有潤滑油留分から分離する。さらに、ラフィネートをスクレープトサーフィス深冷器で冷却してワックス固形分を除去することができる。また、プロパン等の低分子量炭化水素類も脱ろうに使用可能であるが、この場合は分解/異性化生成油と低分子量炭化水素とを混合し、少なくともその一部を気化して分解/異性化生成油をさらに冷却してワックスを沈殿させる。ワックスは、ろ過、メンブランまたは遠心分離等によりラフィネートから分離する。その後、溶剤をラフィネートから除去し、ラフィネートを分留して、目的の潤滑油基油を得ることができる。
【0078】
また、接触脱ろう(触媒脱ろう)の場合は、分解/異性化生成油を、適当な脱ろう触媒の存在下、流動点を下げるのに有効な条件で水素と反応させる。接触脱ろうでは、分解/異性化生成物中の高沸点物質の一部を低沸点物質へと転化させ、その低沸点物質をより重い基油留分から分離し、基油留分を分留し、2種以上の潤滑油基油を得る。低沸点物質の分離は、目的の潤滑油基油を得る前に、あるいは分留中に行うことができる。
【0079】
脱ろう触媒としては、分解/異性化生成油の流動点を低下させることが可能なものであれば特に制限されないが、分解/異性化生成油から高収率で目的の潤滑油基油を得ることができるものが好ましい。このような脱ろう触媒としては、形状選択的分子篩(モレキュラーシーブ)が好ましく、具体的には、フェリエライト、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−22(シータワン又はTONとも呼ばれる)、シリコアルミノホスフェート類(SAPO)などが挙げられる。これらのモレキュラーシーブは、触媒金属成分と組み合わせて使用することが好ましく、貴金属と組み合わせることがより好ましい。好ましい組合せとしては、例えば白金とH−モルデナイトとを複合化したものが挙げられる。
【0080】
脱ろう条件は特に制限されないが、温度は200〜500℃が好ましく、水素圧は10〜200バール(1MPa〜20MPa)がそれぞれ好ましい。また、フロースルー反応器の場合、H処理速度は0.1〜10kg/l/hrが好ましく、LHSVは0.1〜10−1が好ましく、0.2〜2.0h−1がより好ましい。また、脱ろうは、分解/異性化生成油に含まれる、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下の、初留点が350〜400℃である物質をこの初留点未満の沸点を有する物質へと転換するように行うことが好ましい。
【0081】
以上、本発明にかかる潤滑油基油の好ましい製造方法である製造方法A及び製造方法Bについて説明したが、本発明にかかる潤滑油基油の製造方法はこれらに限定されない。例えば、上記製造方法Aにおいて、スラックワックスの代わりにFTワックス、GTLワックス等の合成ワックスを用いてもよい。また、上記製造方法Bにおいて、スラックワックス(好ましくはスラックワックスA、B)を含有する原料油を用いてもよい。さらに、製造方法A、Bのそれぞれにおいて、スラックワックス(好ましくはスラックワックスA、B)と、合成ワックス(好ましくはFTワックス、GTLワックス)とを併用してもよい。
【0082】
なお、本発明にかかる潤滑油基油を製造する際に使用される原料油が、上記のスラックワックス及び/又は合成ワックスと、これらのワックス以外の原料油との混合油である場合、スラックワックス及び/又は合成ワックスの含有量は原料油全量基準で50質量%以上であることが好ましい。
【0083】
また、本発明にかかる潤滑油基油を製造するための原料油としては、スラックワックス及び/又は合成ワックスを含有する原料油であって、油分が好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である原料油が好ましい。
【0084】
また、本発明にかかる潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは0.1〜40質量%、更に好ましくは2〜30質量%、一層好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは10〜21質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより高水準で達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0085】
なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が低下して潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下し、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。また、飽和分の含有量は100質量%でもよいが、製造コストの低減及び添加剤の溶解性の向上の点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、特に好ましくは98.5質量%以下である。
【0086】
本発明にかかる潤滑油基油において、その飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%以下であることは、飽和分に占める非環状飽和分が60質量%以上であることと等価である。ここで、非環状飽和分には直鎖パラフィン分及び分枝パラフィン分の双方が包含される。本発明にかかる潤滑油基油に占める各パラフィン分の割合は特に制限されないが、分枝パラフィン分の割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは55〜99質量%、より好ましくは57.5〜96質量%、更に好ましくは60〜95質量%、一層好ましくは70〜92質量%、特に好ましくは80〜90質量%である。潤滑油基油に占める分枝パラフィン分の割合が前記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。また、潤滑油基油に占める直鎖パラフィン分の割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下である。直鎖パラフィン分の割合が上記条件を満たすことで、より低温粘度特性に優れた潤滑油基油を得ることができる。
【0087】
また、本発明にかかる潤滑油基油において、飽和分に占める1環飽和分及び2環以上の飽和分の含有量は特に制限されないが、飽和分に占める2環以上の飽和分の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが特に好ましく、また、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましく、11質量%以下であることが特に好ましい。また、飽和分に占める1環飽和分の割合は0質量%であってもよいが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、特に好ましくは4質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは11質量%以下である。
【0088】
また、本発明にかかる潤滑油基油において、環状飽和分に含まれる1環飽和分の質量(M)と2環以上の飽和分の質量(M)との比(M/M)は、好ましくは20以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。また、M/Mは0であってもよいが、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上である。M/Mが上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性と熱・酸化安定性とを一層高水準で両立することができる。
【0089】
また、本発明にかかる潤滑油基油において、環状飽和分に含まれる1環飽和分の質量(M)と2環飽和分の質量(M)との比(M/M)は、好ましくは3以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.2以下である。また、M/Mは0であってもよいが、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上である。M/Mが上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性と熱・酸化安定性とを一層高水準で両立することができる。
【0090】
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0091】
また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分、1環飽和分、2環以上の飽和分及び非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)及びアルカン分(単位:質量%)を意味する。
【0092】
また、本発明でいう潤滑油基油中の直鎖パラフィン分とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により分離・分取された飽和分について、以下の条件でガスクロマトグラフィ分析を行い、当該飽和分に占める直鎖パラフィン分を同定・定量したときの測定値を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。なお、同定・定量の際には、標準試料として炭素数5〜50の直鎖パラフィンの混合試料が用いられ、飽和分に占める直鎖パラフィン分は、クロマトグラムの全ピーク面積値(希釈剤に由来するピークの面積値を除く)に対する各直鎖パラフィンに相当に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。
(ガスクロマトグラフィ条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ25mm、内径0.3mmφ、液相膜厚さ0.1μm)
昇温条件:50℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/min)
スプリット比:90/1
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
【0093】
また、潤滑油基油中の分枝パラフィン分の割合とは、前記飽和分に占める非環状飽和分と前記飽和分に占める直鎖パラフィン分との差を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。
【0094】
なお、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0095】
また、本発明にかかる潤滑油基油における芳香族分は、%C、%C/%C、及びヨウ素価が上記条件を満たすものであれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下であり、また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明にかかる潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0096】
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0097】
また、本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数は、好ましくは110以上である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性が低下する傾向にある。なお、本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数の好ましい範囲は潤滑油基油の粘度グレードによるため、その詳細については後述する。
【0098】
本発明にかかる潤滑油基油のその他の性状は、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものであれば特に制限されないが、本発明にかかる潤滑油基油は以下に示す各種性状を有することが好ましい。
【0099】
本発明にかかる潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明にかかる潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0100】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
【0101】
また、本発明にかかる潤滑油基油における窒素分の含有量は、特に制限されないが、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0102】
また、本発明にかかる潤滑油基油の動粘度は、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たす限りにおいて特に制限されないが、その100℃における動粘度は、好ましくは1.5〜20mm/s、より好ましくは2.0〜11mm/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が1.5mm/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が20mm/sを超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、原料として重質ワックスを用いる場合であっても分解率を高めることが困難となるため好ましくない。
【0103】
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1.5mm/s以上3.5mm/s未満、より好ましくは2.0〜3.0mm/sの潤滑油基油
(II)100℃における動粘度が3.0mm/s以上4.5mm/s未満、より好ましくは3.5〜4.1mm/sの潤滑油基油
(III)100℃における動粘度が4.5〜20mm/s、より好ましくは4.8〜11mm/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm/sの潤滑油基油。
【0104】
また、本発明にかかる潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0〜80mm/s、より好ましくは8.0〜50mm/sである。本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(IV)40℃における動粘度が6.0mm/s以上12mm/s未満、より好ましくは8.0〜12mm/sの潤滑油基油
(V)40℃における動粘度が12mm/s以上28mm/s未満、より好ましくは13〜19mm/sの潤滑油基油
(VI)40℃における動粘度が28〜50mm/s、より好ましくは29〜45mm/s、特に好ましくは30〜40mm/sの潤滑油基油。
【0105】
上記潤滑油基油(I)及び(IV)は、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことで、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、特に、低温粘度特性に優れ、粘性抵抗や撹拌抵抗を著しく低減することができる。また、流動点降下剤を配合することにより、−40℃におけるBF粘度を2000mPa・s以下とすることができる。なお、−40℃におけるBF粘度とは、JPI−5S−26−99に準拠して測定された粘度を意味する。
【0106】
また、上記潤滑油基油(II)及び(V)は、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことで、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、特に、低温粘度特性、揮発防止性及び潤滑性に優れる。例えば、潤滑油基油(II)及び(V)においては、−35℃におけるCCS粘度を3000mPa・s以下とすることができる。
【0107】
また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)は、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことで、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、低温粘度特性、揮発防止性、熱・酸化安定性及び潤滑性に優れる。
【0108】
本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、上記潤滑油基油(I)〜(VI)のいずれの場合にも粘度指数を110以上とすることができる。上記潤滑油(I)及び(IV)の粘度指数は、好ましくは110〜135、より好ましくは115〜130、さらに好ましくは120〜130である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の粘度指数は、好ましくは125〜160、より好ましくは130〜150、更に好ましくは135〜150である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の粘度指数は、好ましくは135〜180、より好ましくは140〜160である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
【0109】
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0110】
また、本発明にかかる潤滑油基油の20℃における屈折率は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の20℃における屈折率は、好ましくは1.440〜1.461、より好ましくは1.442〜1.460、更に好ましくは1.445〜1.459である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の20℃における屈折率は、好ましくは1.450〜1.465、より好ましくは1.452〜1.463、更に好ましくは1.453〜1.462である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の20℃における屈折率は、好ましくは1.455〜1.469、より好ましくは1.456〜1.468、更に好ましくは1.457〜1.467である。屈折率が前記上限値を超えると、その潤滑油基油の粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0111】
また、本発明にかかる潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0112】
また、本発明にかかる潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは1000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは3000mPa・s以下、より好ましくは2400mPa・s以下、更に好ましくは2200mPa・s以下、特に好ましくは2000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは15000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、更に好ましくは8000mPa・s以下である。−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう−35℃におけるCCS粘度とは、JIS K 2010−1993に準拠して測定された粘度を意味する。
【0113】
また、本発明にかかる潤滑油基油の15℃における密度(ρ15、単位:g/cm)は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.820 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0114】
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0115】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のρ15は、好ましくは0.825g/cm以下、より好ましくは0.820g/cm以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のρ15は、好ましくは0.835g/cm以下、より好ましくは0.830g/cm以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のρ15は、好ましくは0.840g/cm以下、より好ましくは0.835g/cm以下である。
【0116】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0117】
また、本発明にかかる潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(2)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.1×kv100+97 (2)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0118】
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0119】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のAPは、好ましくは108℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは112℃以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のAPは、好ましくは113℃以上、より好ましくは116℃以上、更に好ましくは118℃以上、特に好ましくは120℃以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のAPは、好ましくは125℃以上、より好ましくは127℃以上、更に好ましくは128℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0120】
また、本発明にかかる潤滑油基油のNOACK蒸発量は、特に制限されないが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のNOACK蒸発量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは42質量%以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のNOACK蒸発量は、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは14質量%以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のNOACK蒸発量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、また、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量がそれぞれ前記上限値を超えると、潤滑油基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0121】
また、本発明にかかる潤滑油基油の蒸留性状は、ガスクロマトグラフィ蒸留で、初留点(IBP)が290〜440℃、終点(FBP)が430〜580℃であることが好ましく、かかる蒸留範囲にある留分から選ばれる1種又は2種以上の留分を精留することにより、上述した好ましい粘度範囲を有する潤滑油基油(I)〜(III)及び(IV)〜(VI)を得ることができる。
【0122】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは260〜360℃、より好ましくは300〜350℃、更に好ましくは310〜350℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは320〜400℃、より好ましくは340〜390℃、更に好ましくは350〜380℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは350〜430℃、より好ましくは360〜410℃、更に好ましくは370〜400℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは380〜460℃、より好ましくは390〜450℃、更に好ましくは400〜440℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは420〜520℃、より好ましくは430〜500℃、更に好ましくは440〜480℃である。また、T90−T10は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは55〜85℃、更に好ましくは60〜70℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは100〜250℃、より好ましくは110〜220℃、更に好ましくは120〜200℃である。また、T10−IBPは、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜60℃、更に好ましくは20〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜70℃、更に好ましくは20〜60℃である。
【0123】
また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは300〜380℃、より好ましくは320〜370℃、更に好ましくは330〜360℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは340〜420℃、より好ましくは350〜410℃、更に好ましくは360〜400℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは380〜460℃、より好ましくは390〜450℃、更に好ましくは400〜460℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは440〜500℃、より好ましくは450〜490℃、更に好ましくは460〜480℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは460〜540℃、より好ましくは470〜530℃、更に好ましくは480〜520℃である。また、T90−T10は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜95℃、更に好ましくは80〜90℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜180℃、更に好ましくは130〜160℃である。また、T10−IBPは、好ましくは10〜70℃、より好ましくは15〜60℃、更に好ましくは20〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜35℃である。
【0124】
また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは320〜480℃、より好ましくは350〜460℃、更に好ましくは380〜440℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは420〜500℃、より好ましくは430〜480℃、更に好ましくは440〜460℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは440〜520℃、より好ましくは450〜510℃、更に好ましくは460〜490℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは470〜550℃、より好ましくは480〜540℃、更に好ましくは490〜520℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは500〜580℃、より好ましくは510〜570℃、更に好ましくは520〜560℃である。また、T90−T10は、好ましくは50〜120℃、より好ましくは55〜100℃、更に好ましくは55〜90℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは100〜250℃、より好ましくは110〜220℃、更に好ましくは115〜200℃である。また、T10−IBPは、好ましくは10〜100℃、より好ましくは15〜90℃、更に好ましくは20〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜35℃である。
【0125】
潤滑油基油(I)〜(VI)のそれぞれにおいて、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP、FBP−T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP及びFBP−T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。
【0126】
なお、本発明でいう、IBP、T10、T50、T90及びFBPとは、それぞれASTM D 2887−97に準拠して測定される留出点を意味する。
【0127】
また、本発明にかかる潤滑油基油における残存金属分は、製造プロセス上余儀なく混入する触媒や原料に含まれる金属分に由来するものであるが、かかる残存金属分は十分除去されることが好ましい。例えば、Al、Mo、Niの含有量は、それぞれ1質量ppm以下であることが好ましい。これらの金属分の含有量が上記上限値を超えると、潤滑油基油に配合される添加剤の機能が阻害される傾向にある。
【0128】
なお、本発明でいう残存金属分とは、JPI−5S−38−2003に準拠して測定される金属分を意味する。
【0129】
また、本発明にかかる潤滑油基油によれば、%C、%C/%C、及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことにより、優れた熱・酸化安定性を達成することができるが、その動粘度に応じて以下に示すRBOT寿命を示すことが好ましい。例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のRBOT寿命は、好ましくは300min以上、より好ましくは320min以上、更に好ましくは330min以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のRBOT寿命は、好ましくは350min以上、より好ましくは370min以上、更に好ましくは380min以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のRBOT寿命は、好ましくは400min以上、より好ましくは410min以上、更に好ましくは420min以上である。RBOT寿命がそれぞれ前記下限値未満の場合、潤滑油基油の粘度−温度特性及び熱・酸化安定性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合には当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0130】
なお、本発明でいうRBOT寿命とは、潤滑油基油にフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール;DBPC)を0.2質量%添加した組成物について、JIS K 2514−1996に準拠して測定されたRBOT値を意味する。
【0131】
本発明の金属加工油組成物においては、上記本発明にかかる潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明にかかる潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明にかかる潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明にかかる潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0132】
本発明にかかる潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が1〜100mm/sの溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0133】
また、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0134】
ポリα−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸又はエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0135】
また、本発明の金属加工油組成物は、エステル、アルコール、カルボン酸、並びに構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物から選ばれる少なくとも1種の潤滑性向上剤を含有する。
【0136】
潤滑性向上剤としてのエステルを構成するアルコールは1価アルコールでも多価アルコールでもよい。また、当該エステルを構成するカルボン酸は一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
【0137】
1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のエイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンエイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物が挙げられる。
【0138】
また、多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10価多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンなど)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロースなどの糖類、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0139】
これらの中でも特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンなど)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等がより好ましい。さらに好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等である。
【0140】
また、エステルを構成する一塩基酸としては、通常炭素数6〜24の脂肪酸で、直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には例えば、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のエイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンエイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸などの飽和脂肪酸;直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のエイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンエイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸などの不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、特に炭素数8〜20の飽和脂肪酸、炭素数8〜20の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物が好ましい。
【0141】
エステル油性剤を構成する多塩基酸としては、炭素数2〜16の二塩基酸及びトリメリト酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸;直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸;及びこれらの混合物が挙げられる。
【0142】
本発明では、任意のアルコールとカルボン酸の組み合わせによるエステルが使用可能であり、特に限定されるものではない。具体的には、下記(i)〜(vii)に示すエステルを好ましく使用することができる。
(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(ii)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(iv)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(v)一価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールと多塩基酸とのエステル
(vi)多価アルコールと一塩基酸及び多塩基酸の混合カルボン酸とのエステル
(vii)一価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールと一塩基酸及び多塩基酸の混合カルボン酸とのエステル。
【0143】
なお、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合、そのエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルであってもよく、また、水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルであってもよい。また、カルボン酸成分として多塩基酸を用いた場合、そのエステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでもよく、カルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0144】
本発明で用いられるエステルとしては、上記した何れのものも使用可能であるが、この中でもより加工性に優れる点から、(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルと、(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステルが好ましく、(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルがより好ましく、(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルと(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステルを併用することが最も好ましい。
【0145】
本発明において好ましく用いられる(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルの合計炭素数には特に制限はないが、合計炭素数の下限値が7以上のエステルが好ましく、9以上のエステルがより好ましく、11以上のエステルが最も好ましい。また、合計炭素数の上限値が26以下のエステルが好ましく、24以下のエステルがより好ましく、22以下のエステルが最も好ましい。前記一価アルコールの炭素数には特に制限はないが、炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜8がより好ましく、炭素数1〜6がさらにより好ましく、炭素数1〜4が最も好ましい。前記一塩基酸の炭素数には特に制限はないが、炭素数8〜22が好ましく、炭素数10〜20がより好ましく、炭素数12〜18が最も好ましい。なお、前記合計炭素数、前記アルコールの炭素数及び前記一塩基酸の炭素数のそれぞれが前記上限値を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、あるいは潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。また、前記合計炭素数、前記アルコールの炭素数及び前記一塩基酸の炭素数のそれぞれが下限値未満であると、潤滑性が不十分となる傾向にあり、また、臭気により作業環境が悪化するおそれがある。
【0146】
本発明において好ましく用いられる(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステルの形態は特に制限されないが、下記一般式(1)で表されるジエステル、又はトリメリット酸のエステルであることが好ましい。
−O−CO−(CH−CO−O−R (1)
[式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭化水素基を示し、nは4〜8の整数を示す。]
【0147】
一般式(1)中のR及びRはそれぞれ炭化水素基を示すが、かかる炭化水素基の炭素数は3〜10であることが好ましい。なお、炭化水素基の炭素数が3未満であると、潤滑性の向上効果が期待できなくなるおそれがあり、また、臭気により作業環境が悪化するおそれがある。また、炭化水素基の炭素数が10を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。
【0148】
一般式(1)中のR及びRで示される炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキル基等が挙げられ、特にアルキル基が好ましい。
【0149】
、Rがアルキル基である場合、当該アルキル基は直鎖アルキル基又は分岐アルキル基のいずれであってもよく、また、同一分子中に直鎖アルキル基と分岐アルキル基が混在していてもよいが、分岐アルキル基が好ましい。
【0150】
及びRで示されるアルキル基としては、具体的には例えば、直鎖又は分岐のプロピル基、直鎖又は分岐のブチル基、直鎖又は分岐のペンチル基、直鎖又は分岐のヘキシル基、直鎖又は分岐のヘプチル基、直鎖又は分岐のオクチル基、直鎖又は分岐のノニル基、直鎖又は分岐のデシル基等を挙げることができる。
【0151】
また、一般式(1)中のnは4〜8の整数を示す。なお、nが8を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。また、nが4未満であると、潤滑性の向上効果が期待できなくなるおそれがある、臭気により作業環境が悪化するなどの傾向がある。更に、原料の入手のしやすさ、及び価格の点からnが4又は6であるジエステルが特に好ましい。
【0152】
上記一般式(1)で表されるジエステルは任意の方法で得られるが、例えば炭素数6〜10(炭素数6から順に、アジピン酸、ピメリン酸、コルク酸、アゼライン酸、セバシン酸)の直鎖飽和ジカルボン酸又はその誘導体と炭素数3〜10のアルコールとをエステル化させる方法などが例示される。
【0153】
また、エステルがトリメリット酸と1価アルコールとのエステルである場合、当該1価アルコールの炭素数は特に制限はないが、炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜8がより好ましく、炭素数1〜6がさらに好ましく、炭素数1〜4が最も好ましい。なお、1価アルコールの炭素数が10を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。トリメリット酸のエステルは、部分エステル(モノエステル又はジエステル)でも完全エステル(トリエステル)でもよい。
【0154】
潤滑性向上剤として用いられるエステルの特に好ましい例としては、具体的には、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸メチル、オレイン酸ブチル、並びにアジピン酸と炭素数4〜10のアルコールとのジエステルが挙げられる。
【0155】
また、潤滑性向上剤として用いられるアルコールとしては、上記エステルの説明において例示された1価アルコール及び多価アルコールが挙げられ、中でも1価アルコール及び2価アルコールが好ましく、1価アルコールを単独で用いるか、あるいは1価アルコールと2価アルコールとを併用することがより好ましい。また、2価アルコールとしては、分子内にエーテル結合を有するものが好ましい。
【0156】
1価アルコール及び2価アルコールの炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、特に好ましくは9以上である。なお、1価アルコール及び2価アルコールの炭素数が6未満であると、潤滑性が不十分となる傾向にあり、また、臭気により作業環境が悪化するおそれがある。また、1価アルコール及び2価アルコールの炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。なお、1価アルコール及び2価アルコールの炭素数が20を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。
【0157】
潤滑性向上剤として用いられるアルコールの特に好ましい例としては、具体的には、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、オレイルアルコール、エチレングリコールの5〜9量体、プロピレングリコールの2〜6量体、並びにこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0158】
また、潤滑性向上剤として用いられるカルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でも良い。具体的には例えば、上記エステルの説明において例示された一塩基酸及び多塩基酸が挙げられる。これらの中でも、より加工性に優れる点から一塩基酸が好ましい。
【0159】
潤滑性向上剤として用いられるカルボン酸の炭素数は、より潤滑性向上効果に優れる点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上である。また、ステインや腐食の発生を抑制する点から、カルボン酸の炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。
【0160】
潤滑性向上剤として用いられるカルボン酸の特に好ましい例としては、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸が挙げられる。
【0161】
潤滑性向上剤として用いられる上記のエステル、アルコール及びカルボン酸は、特に油性効果に優れるものである。本発明では、エステル、アルコール及びカルボン酸のうちの1種を単独で潤滑性向上剤として用いても良く、また2種以上の混合物を用いても良いが、潤滑性の向上の点から、エステル及び1価アルコールが好ましく、エステルがより好ましい。
【0162】
潤滑性向上剤として上記のエステル、アルコール及びカルボン酸の含有量は、組成物全量基準で0.1〜70質量%であることが好ましい。すなわち、当該含有量は、潤滑性向上効果の点から、好ましく0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。また、含有量が多過ぎるとステインや腐食の発生を増大させる可能性がある等の点から、当該含有量は、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、一層好ましくは15質量%以下、特に好ましくは12質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。
【0163】
また、構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物としては、後述する硫黄化合物及びリン化合物が挙げられる。なお、ここでいう含有量は、エステル、アルコール又はカルボン酸のうちの1種を単独で用いる場合はその含有量を意味し、また、2種以上を組み合わせて用いる場合には合計の含有量を意味する。
【0164】
また、潤滑性向上剤として用いられる硫黄化合物としては、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、硫化鉱油、ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物及びジチオカルバミン酸モリブデンが好ましく用いられる。
【0165】
ジハイドロカルビルポリサルファイドとは、一般的にポリサルファイド又は硫化オレフィンと呼ばれる硫黄系化合物であり、好ましい例としては下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
−S−R (2)
[式(2)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数3〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリール基あるいは炭素数6〜20のアリールアルキル基を表し、hは2〜6、好ましくは2〜5の整数を表す]
【0166】
上記一般式(2)中のR及びRとしては、具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝ペンチル基、直鎖又は分枝ヘキシル基、直鎖又は分枝ヘプチル基、直鎖又は分枝オクチル基、直鎖又は分枝ノニル基、直鎖又は分枝デシル基、直鎖又は分枝ウンデシル基、直鎖又は分枝ドデシル基、直鎖又は分枝トリデシル基、直鎖又は分枝テトラデシル基、直鎖又は分枝ペンタデシル基、直鎖又は分枝ヘキサデシル基、直鎖又は分枝ヘプタデシル基、直鎖又は分枝オクタデシル基、直鎖又は分枝ノナデシル基、直鎖又は分枝イコシル基などの直鎖状又は分枝状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝オクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝デシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、メチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基(全ての異性体を含む)、フェニルプロピル基(全ての異性体を含む)などのアリールアルキル基;などを挙げることができる。これらの中でも、一般式(2)中のR及びRとしては、プロピレン、1−ブテン又はイソブチレンから誘導された炭素数3〜18のアルキル基、又は炭素数6〜8のアリール基、アルキルアリール基あるいはアリールアルキル基であることが好ましく、これらの基としては例えば、イソプロピル基、プロピレン2量体から誘導される分枝状ヘキシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン3量体から誘導される分枝状ノニル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン4量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン5量体から誘導される分枝状ペンタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン6量体から誘導される分枝状オクタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−ブテン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)などのアルキル基;フェニル基、トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基(全ての異性体を含む)などのアリールアルキル基が挙げられる。
【0167】
さらに、上記一般式(2)中のR及びRとしては、潤滑性の向上の点から、別個に、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数3〜18の分枝状アルキル基であることがより好ましく、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数6〜15の分枝状アルキル基であることが特に好ましい。
【0168】
硫化エステルとしては、具体的には例えば、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油などの動植物油脂;不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステル;及びこれらの混合物などを任意の方法で硫化することにより得られるものが挙げられる。
【0169】
硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。ここで、本発明にかかる硫化鉱油に用いられる鉱油としては特に制限されないが、具体的には、具体的には、原油に常圧蒸留及び減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。また、単体硫黄としては、塊状、粉末状、溶融液体状等いずれの形態のものを用いてもよいが、粉末状又は溶融液体状の単体硫黄を用いると基油への溶解を効率よく行うことができるので好ましい。なお、溶融液体状の単体硫黄は液体同士を混合するので溶解作業を非常に短時間で行うことができるという利点を有しているが、単体硫黄の融点以上で取り扱わねばならず、加熱設備などの特別な装置を必要としたり、高温雰囲気下での取り扱いとなるため危険を伴うなど取り扱いが必ずしも容易ではない。これに対して、粉末状の単体硫黄は、安価で取り扱いが容易であり、しかも溶解に要する時間が十分に短いので特に好ましい。また、本発明にかかる硫化鉱油における硫黄含有量に特に制限はないが、通常、硫化鉱油全量を基準として好ましくは0.05〜1.0質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0170】
ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物及びジチオカルバミン酸モリブデン化合物の好ましい例としては、それぞれ下記一般式(3)〜(6)で表される化合物が挙げられる。
【0171】
【化1】

【0172】
【化2】

【0173】
【化3】

【0174】
【化4】

【0175】
式(3)〜(6)中、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1以上の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0176】
ここで、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20で表される炭化水素基の具体例を例示すれば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての分枝異性体を含む)、ブチル基(すべての分枝異性体を含む)、ペンチル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘキシル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘプチル基(すべての分枝異性体を含む)、オクチル基(すべての分枝異性体を含む)、ノニル基(すべての分枝異性体を含む)、デシル基(すべての分枝異性体を含む)、ウンデシル基(すべての分枝異性体を含む)、ドデシル基(すべての分枝異性体を含む)、トリデシル基(すべての分枝異性体を含む)、テトラデシル基(すべての分枝異性体を含む)、ペンタデシル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘキサデシル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘプタデシル基(すべての分枝異性体を含む)、オクタデシル基(すべての分枝異性体を含む)、ノナデシル基(すべての分枝異性体を含む)、イコシル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘンイコシル基(すべての分枝異性体を含む)、ドコシル基(すべての分枝異性体を含む)、トリコシル基(すべての分枝異性体を含む)、テトラコシル基(すべての分枝異性体を含む)などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)などのアルキルシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(すべての置換異性体を含む)、キシリル基(すべての置換異性体を含む)、エチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ペンチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘキシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘプチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、オクチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ノニルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、デシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ウンデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ドデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、トリデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、テトラデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ペンタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘキサデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘプタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、オクタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基(すべての分枝異性体を含む)、フェニルブチル基(すべての分枝異性体を含む)などのアリールアルキル基などが挙げられる。
【0177】
本発明においては、上記硫黄化合物の中でも、ジハイドロカルビルポリサルファイド及び硫化エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いると、潤滑性の向上効果が一層高水準で得られるので好ましい。
【0178】
また、潤滑性向上剤として用いられるリン化合物としては、具体的には例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル及びフォスフォロチオネート、下記一般式(7)又は(8)で表されるリン化合物の金属塩等が挙げられる。これらのリン化合物は、リン酸、亜リン酸又はチオリン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体が挙げられる。
【0179】
【化5】


[式(7)中、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を表し、X、X又はXの少なくとも2つは酸素原子であり、R21、R22、及びR23は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す]
【0180】
【化6】


[式(8)中、X、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を表し、X、X、X又はXの少なくとも3つは酸素原子であり、R24、R25及びR26は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。]
【0181】
より具体的には、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等;
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェート等;
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン等のアミンとの塩等;
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェート等;
亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト等;
フォスフォロチオネートとしては、トリブチルフォスフォロチオネート、トリペンチルフォスフォロチオネート、トリヘキシルフォスフォロチオネート、トリヘプチルフォスフォロチオネート、トリオクチルフォスフォロチオネート、トリノニルフォスフォロチオネート、トリデシルフォスフォロチオネート、トリウンデシルフォスフォロチオネート、トリドデシルフォスフォロチオネート、トリトリデシルフォスフォロチオネート、トリテトラデシルフォスフォロチオネート、トリペンタデシルフォスフォロチオネート、トリヘキサデシルフォスフォロチオネート、トリヘプタデシルフォスフォロチオネート、トリオクタデシルフォスフォロチオネート、トリオレイルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフォロチオネート、トリキシレニルフォスフォロチオネート、クレジルジフェニルフォスフォロチオネート、キシレニルジフェニルフォスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート等、
が挙げられる。
【0182】
また、上記一般式(7)又は(8)で表されるリン化合物の金属塩に関し、式中のR21〜R26で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
【0183】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0184】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0185】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)が挙げられる。
【0186】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0187】
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0188】
21〜R26で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0189】
21、R22及びR23は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は上記炭化水素基を表すが、R21、R22及びR23のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0190】
また、R24、R25及びR26は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は上記炭化水素基を表すが、R24、R25及びR26のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0191】
一般式(7)で表されるリン化合物において、X〜Xのうちの少なくとも2つは酸素原子であることが必要であるが、X〜Xの全てが酸素原子であることが好ましい。
【0192】
また、一般式(8)で表されるリン化合物において、X〜Xのうちの少なくとも3つは酸素原子であることが必要であるが、X〜Xの全てが酸素原子であることが好ましい。
【0193】
一般式(7)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸、モノチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル;及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステルが好ましく、亜リン酸ジエステルがより好ましい。
【0194】
また、一般式(8)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸、モノチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル;及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルが好ましく、リン酸ジエステルがより好ましい。
【0195】
一般式(7)又は(8)で表されるリン化合物の金属塩としては、当該リン化合物の酸性水素の一部又は全部を金属塩基で中和した塩が挙げられる。かかる金属塩基としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等が挙げられ、その金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましい。
【0196】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基あるいはSH基の数に応じその構造が異なり、従ってその構造については何ら限定されないが、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2molを反応させた場合、下記式(9)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0197】
【化7】

【0198】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1molとを反応させた場合、下記式(10)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0199】
【化8】

【0200】
また、これらの2種以上の混合物も使用できる。
【0201】
本発明においては、上記リン化合物の中でも、より高い潤滑性の向上効果が得られることから、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、及び酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましい。
【0202】
潤滑性向上剤として用いられるリン及び/又は硫黄を含む化合物の特に好ましい例としては、具体的には、トリクレジルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリラウリルホスファイト、トリオレイルホスファイト、ジラウリルホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ラウリン酸ホスフェート、硫化油脂、硫化エステル、ジフェニルジサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジドデシルジサルファイド、ジ−tert−ノニルポリサルファイド、トリラウリルチオホスフェート、トリラウリルトリチオホスファイト、二硫化モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、及びジチオカルバミン酸亜鉛が挙げられる。
【0203】
本発明の金属加工油組成物は、潤滑性向上剤として、硫黄化合物又はリン化合物の一方のみを含有するものであってもよく、硫黄化合物とリン化合物との双方を含有するものであってもよい。潤滑性の向上効果がより高められる点からは、リン化合物、又は硫黄化合物及びリン化合物の双方を含有することが好ましく、硫黄化合物とリン化合物との双方を含有することがより好ましい。
【0204】
本発明の金属加工油組成物が構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物を含む場合、構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物の含有量は任意であるが、潤滑性の向上の点から、組成物全量基準で、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらにより好ましい。また、異常摩耗の防止の点から、当該含有量は、組成物全量基準で、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることがさらにより好ましい。なお、ここでいう含有量は、構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物の1種を単独で用いる場合にはその含有量を意味し、2種以上を組み合わせて用いる場合には合計の含有量を意味する。
【0205】
本発明の金属加工油組成物においては、潤滑性向上剤として、エステル、アルコール、カルボン酸、並びに構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物のうちの1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせてもよい。
【0206】
本発明の金属加工油組成物は、上記の潤滑油基油と潤滑性向上剤とのみからなるものであってもよいが、さらにその優れた効果を向上させるために、必要に応じて、酸化防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、消泡剤などを更に、単独でまたは2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0207】
酸化防止剤としては、2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール(DBPC)等のフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミンなどの芳香族アミン、およびジアルキルジチオリン酸亜鉛等の有機金属化合物が例示できる。
【0208】
さび止め剤としては、オレイン酸などの脂肪酸の塩、ジノニルナフタレンスルホネートなどのスルホン酸塩、ソルビタンモノオレエートなどの多価アルコールの部分エステル、アミンおよびその誘導体、リン酸エステルおよびその誘導体が例示できる。
【0209】
腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0210】
消泡剤としては、シリコーン系のものなどが挙げられる。
【0211】
これらの添加剤の合計含有量は、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下(いずれも組成物全量基準)であることが望ましい。
【0212】
また、本発明の金属加工油組成物は、水を更に含有してもよい。この場合、本発明の金属加工油組成物は、水を連続層とし、当該連続層に油成分が微細に分散してエマルションを形成した乳化状態;水が油成分に溶解している可溶化状態;あるいは強撹拌により水と油成分とを混合した懸濁状態のいずれで使用してもよい。
【0213】
本発明の金属加工油組成物に水を含有させる場合、水としては、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水などが使用可能で、硬水であるか軟水であるかを問わない。
【0214】
本発明の金属加工油組成物の動粘度は特に限定されないが、一般的には、40℃における動粘度が1〜150mm/sの範囲であることが好ましく、2〜100mm/sの範囲であることがより好ましい。なお、金属加工油組成物の40℃における動粘度が1mm/s未満であると、加工性が不十分となる傾向にある。また、当該動粘度が150mm/sを超えると、加工工程の後段に設けられる油分除去工程において、油分が被加工物から除去されにくくなる。
【0215】
上記構成を有する本発明の金属加工油組成物は、高粘度化や添加剤の増量をせずとも優れた加工性を得ることができ、且つその加工性を長期にわたって高水準に維持することができるものであるため、様々な金属加工に好適に用いることができる。本発明の金属加工油組成物が使用される金属加工としては、例えば、絞り加工、しごき加工、引き抜き加工、プレス加工、鍛造加工(熱間鍛造を含む)、切削・研削加工、圧延加工(熱間圧延及び冷間圧延を含む)などが挙げられる。また、これらの金属加工に用いられる被加工物の材質は特に制限されず、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム又はその合金、ニッケル又はその合金、クロム又はその合金、銅又はその合金、亜鉛又はその合金、チタン又はその合金などが挙げられる。
【0216】
なお、本発明の金属加工油組成物は、上述した金属加工のいずれにも使用可能であるが、金属加工の種類に応じて、本発明の金属加工油組成物における潤滑油基油の動粘度、並びに潤滑性向上剤の種類及び組合せを適宜選定することが好ましい。
【0217】
例えば、本発明の金属加工油組成物が絞り加工又はプレス加工に使用されるものである場合、本発明にかかる潤滑油基油の40℃における動粘度は20〜150mm/sであることが好ましい。また、この場合、潤滑性向上剤としては、ステアリン酸ブチル、炭素数10〜18のアルコール(直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、また、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。)、オレイン酸、硫化エステル、硫化油脂、ジチオリン酸亜鉛及びトリクレジルホスフェートから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、下記(A−1)〜(A−8)のいずれかであることが特に好ましい。
(A−1)ステアリン酸ブチルと硫化エステルとトリクレジルホスフェートとの組合せ
(A−2)オレイン酸と硫化エステルとトリクレジルホスフェートとの組合せ
(A−3)ステアリン酸ブチルとラウリルアルコールとオレイン酸と硫化エステルとトリクレジルホスフェートとの組合せ
(A−4)硫化エステルとトリクレジルホスフェートとの組合せ
(A−5)硫化エステルとジチオリン酸亜鉛との組合せ
(A−6)硫化油脂とジチオリン酸亜鉛との組合せ
(A−7)ジチオリン酸亜鉛
(A−8)硫化エステル。
【0218】
また、本発明の金属加工油組成物が圧延加工に使用されるものである場合、本発明にかかる潤滑油基油の40℃における動粘度は4〜20mm/sであることが好ましい。また、この場合、潤滑性向上剤としては、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジノニル、アジピン酸ジデシル、オレイン酸、炭素数10〜18のアルコール(直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、また、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。)及びトリクレジルホスフェートから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、下記(B−1)〜(B−7)のいずれかであることが特に好ましい。
(B−1)ステアリン酸ブチルとラウリルアルコールと硫化エステルとトリクレジルホスフェートとの組合せ
(B−2)ステアリン酸ブチルとラウリルアルコールとの組合せ
(B−3)硫化エステルとトリクレジルホスフェートとの組合せ
(B−4)ステアリン酸ブチルとラウリルアルコールとオレイン酸との組合せ
(B−5)ステアリン酸ブチルとアジピン酸ジエステルとラウリルアルコールとの組合せ
(B−6)アジピン酸ジエステルとラウリルアルコールとの組合せ
(B−7)アジピン酸ジエステルとラウリルアルコールとオレイン酸との組合せ。
【実施例】
【0219】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0220】
[潤滑油基油の製造]
(基油1〜3)
溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。かかる溶剤脱ろうの際に除去されたワックス分(以下、「WAX1」という)を、潤滑油基油の原料として用いた。WAX1の性状を表1に示す。
【0221】
【表1】

【0222】
次に、水素化分解触媒の存在下、水素分圧5MPa、平均反応温度340℃、LHSV0.8hr−1の条件下で、WAX1の水素化分解を行った。水素化分解触媒としては、アモルファス系シリカ・アルミナ担体にニッケル及びモリブデンが担持された触媒を硫化した状態で用いた。
【0223】
次に、上記の水素化分解で得られた分解生成物を減圧蒸留することにより原料油に対して20容量%の潤滑油留分を得た。この潤滑油留分について、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤を用いて、溶剤/油比2倍、ろ過温度−30℃の条件で溶剤脱ろうを行い、粘度グレードの異なる3種類の潤滑油基油(以下、「基油1」、「基油2」及び「基油3」という。)を得た。
【0224】
(基油4、5)
ゼオライト700gとアルミナバインダー300gとを混合混練し、直径1/16インチ(約1.6mm)、高さ8mmの円柱状に成型した。得られた成型体を480℃で2時間焼成して担体を得た。この担体に、白金換算値で担体の1.0質量%となる量のジクロロテトラアミン白金(II)の水溶液を含浸し、125℃で2時間乾燥させ、380℃で1時間焼成することにより、目的の触媒を得た。
【0225】
次に、得られた触媒を固定床流通式反応器に充填し、この反応器を用いて、パラフィン系炭化水素を含む原料油の水素化分解/水素化異性化を行った。本工程では、原料油として、パラフィン含量が95質量%であり、20から80までの炭素数分布を有するFTワックス(以下、「WAX2」という。)を用いた。WAX2の性状を表2に示す。また、水素化分解の条件は、水素圧3.5MPa、反応温度340℃、LHSV1.5h−1とし、原料に対し沸点370℃以下の留分(分解生成物)が25質量%(分解率25%)となる分解/異性化生成油を得た。
【0226】
【表2】

【0227】
次に、上記の水素化分解/水素化異性化工程で得られた分解/異性化生成油を減圧蒸留することにより、潤滑油留分を得た。この潤滑油留分について、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤を用いて、溶剤/油比3倍、ろ過温度−30℃の条件で溶剤脱ろうを行い、粘度グレードの異なる2種類の潤滑油基油(以下、「基油4」及び「基油5」という。)を得た。
【0228】
(基油6、7)
溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。かかる溶剤脱ろうの際に除去されたスラックワックスをさらに脱油して得られたワックス分(以下、「WAX3」という。)を、潤滑油基油の原料として用いた。WAX3の性状を表3に示す。
【0229】
【表3】

【0230】
次に、水素化分解触媒の存在下、水素分圧5.5MPa、平均反応温度340℃、LHSV0.8hr−1の条件下で、WAX3の水素化分解を行った。水素化分解触媒としては、アモルファス系シリカ・アルミナ担体にニッケル及びモリブデンが担持された触媒を硫化した状態で用いた。
【0231】
次に、上記の水素化分解で得られた分解生成物を減圧蒸留することにより原料油に対して20容量%の潤滑油留分を得た。この潤滑油留分について、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤を用いて、溶剤/油比2倍、ろ過温度−30℃の条件で溶剤脱ろうを行い、粘度グレードの異なる2種類の潤滑油基油(以下、「基油6」及び「基油7」という)を得た。
【0232】
基油1〜7の各種性状及び性能評価試験結果を表4〜5に示す。また、従来の高粘度指数基油である基油8、9についての各種性状及び性能評価試験結果を表5に示す。
【0233】
【表4】

【0234】
【表5】

【0235】
[実施例1〜7、比較例1〜4]
実施例1〜7においては、それぞれ表4〜5に示した基油1、4、6及び以下に示す添加剤を用いて、表6に示す組成を有する金属加工油組成物を調製した。また、比較例1〜4においては、それぞれ表5に示した基油8又は以下に示す基油10、並びに以下に示す添加剤を用いて表7に示す金属加工油組成物を調製した。表6〜7には各金属加工油組成物の40℃における動粘度を併せて示す。なお、表6〜7に示した添加剤の含有量は組成物全量を基準とした含有量である。
(基油)
基油10:パラフィン系鉱油(40℃における動粘度:49.7mm/s、飽和分:91.5質量%、飽和分に占める環状飽和分の割合:49.8質量%)
(添加剤)
添加剤1:ステアリン酸ブチル
添加剤2:ラウリルアルコール
添加剤3:オレイン酸
添加剤4:トリクレジルホスフェート
添加剤5:硫化エステル(不活性タイプ)。
【0236】
次に、実施例1〜7及び比較例1〜4の金属加工油組成物について以下の評価試験を実施した。
【0237】
[絞り加工試験]
実施例1〜7及び比較例1〜4の金属加工油組成物それぞれを用いてアルミニウム製円盤(JIS A 5182、直径100mm、厚さ0.4mm)を底付き容器に成型する際に、しわ押さえ力を1000kgとしたときに必要なポンチの最大絞り力を測定した。得られた結果を表6〜7に示す。表5中、最大絞り力が小さいほど加工性に優れていることを意味する。
【0238】
[油除去性試験(1)]
アルミニウム製円盤(JIS A 5182、直径100mm、厚さ0.4mm)の一方面上に、実施例1〜7及び比較例1〜4の金属加工油組成物それぞれを3g/mとなるようにスプレーを用いて塗布し、室温で6時間静置した。その後、ノニオン系界面活性剤を含む脱脂剤に円盤を1分間浸漬し、更に、取り出した円盤を流水中で30秒間水洗した。かかる水洗の後、直ちに円盤を径方向が垂直となるように保持し、20秒後の水濡れ面積を測定し、水濡れ面積が塗布面の面積の90%以上のものをA、90%未満のものをBと評価した。得られた結果を表6〜7に示す。なお、水濡れ面積が大きいもの(すなわち評価Aのもの)ほど油除去性に優れていることを意味する。
【0239】
【表6】

【0240】
【表7】

【0241】
[実施例8〜14、比較例5〜8]
実施例8〜14においては、それぞれ表4〜5に示した基油2、5、7及び以下に示す添加剤を用いて、表8に示す組成を有する金属加工油組成物を調製した。また、比較例5〜8においては、それぞれ表5に示した基油9又は以下に示す基油11、並びに以下に示す添加剤を用いて表9に示す金属加工油組成物を調製した。表8〜9には各金属加工油組成物の40℃における動粘度を併せて示す。なお、表8〜9に示した添加剤の含有量は組成物全量を基準とした含有量である。
(基油)
基油9:パラフィン系鉱油(40℃における動粘度:19.3mm/s、飽和分:99.1質量%、飽和分に占める環状飽和分の割合:45.9質量%)
(添加剤)
添加剤1:ステアリン酸ブチル
添加剤2:ラウリルアルコール
添加剤4:トリクレジルホスフェート
添加剤5:硫化エステル(不活性タイプ)。
【0242】
次に、実施例8〜14及び比較例5〜8の金属加工油組成物について以下の評価試験を実施した。
【0243】
[圧延加工試験]
実施例8〜14及び比較例5〜8の金属加工油組成物それぞれを用いてステンレス製被圧延材(SUS304、長さ100mm、幅50mm、厚さ0.25mm)を圧延する際に、圧延速度250m/min、圧下率35%としたときに要した圧延荷重を測定した。得られた結果を表8〜9に示す。表5中、圧延荷重が小さいほど加工性に優れていることを意味する。
【0244】
[油除去性試験(2)]
ステンレス製被圧延材(SUS304、長さ100mm、幅50mm、厚さ0.25mm)の一方面上に、実施例8〜14及び比較例5〜8の金属加工油組成物それぞれを3g/mとなるようにスプレーを用いて塗布し、室温で6時間静置した。次に、n−ヘキサンに被圧延材を5秒間浸漬し、取り出した被圧延材を乾燥した。その後、被圧延材を室温から3時間かけて450℃に加熱し、同温で1時間保持した後、2時間かけて室温まで冷却した(熱脱脂)。かかる熱脱脂後の被圧延材の表面の変色した部分の面積を測定し、変色面積が塗布面の面積の95%以上のものをA、95%未満のものをBと評価した。得られた結果を表8〜9に示す。なお、変色面積が大きいもの(すなわち評価Aのもの)は油除去性に優れていることを意味する。
【0245】
【表8】

【0246】
【表9】

【0247】
[実施例15〜24、比較例9〜11]
実施例15〜24においては、それぞれ表4〜5に示した基油3、5、7及び以下に示す添加剤を用いて、表10〜11に示す組成を有する金属加工油組成物(切削油組成物)を調製した。また、比較例9〜11においては、それぞれ表5に示した基油9及び以下に示す添加剤を用いて表11に示す金属加工油組成物を調製した。表10〜11には各金属加工油組成物の40℃における動粘度を併せて示す。なお、表10〜11の組成の欄中、基油3、5、7、9及び添加剤6〜13の各含有量は組成物全量を基準とした含有量である。
(添加剤)
添加剤6:活性硫化エステル(硫黄含有量:17.5質量%)
添加剤7:ジ−t−ドデシルポリサルファイド(硫黄含有量:32質量%)
添加剤8:ジチオリン酸亜鉛化合物(硫黄含有量:20質量%、亜鉛含有量:10質量%、リン含有量:9質量%)
添加剤9:過塩基性カルシウムスルホネート(塩基価:400mgKOH/g)
添加剤10:エチレン−プロピレン共重合体(100℃における動粘度:1200mm/s)
添加剤11:トリクレジルホスフェート
添加剤12:ハイオレイック植物油(ヨウ素価:95、構成カルボン酸に占めるオレイン酸の割合:65質量%)
添加剤13:n−ドデカノール。
【0248】
次に、実施例15〜24及び比較例9〜11の金属加工油組成物について以下の評価試験を実施した。
【0249】
[タッピング試験]
実施例15〜24及び比較例9〜11の各金属加工油組成物を用いて、通常給油方式によりタッピング試験を行った。具体的には、各金属加工油組成物及び比較標準油(DIDA:アジピン酸ジイソデシル)を交互に用いて、以下に示す条件でタッピング試験を行い、それぞれの場合のタッピングエネルギーを測定した。
タッピング条件
工具:ナットタップM8(P=1.25mm)
下穴径:φ7.2mm
ワーク:AC8A(t=10mm)
切削速度:9.0m/分
油剤供給方式
金属加工油組成物及びDIDAを直接加工部位に約6mL/分の条件で供給して加工を行った。
【0250】
次に、得られたタッピングエネルギーの測定値を用いて、下記式に従いタッピングエネルギー効率(%)を算出した。得られた結果を表10〜11に示す。表中、タッピングエネルギー効率の値が高い程、潤滑性が高いことを意味する。
タッピングエネルギー効率(%)=(DIDAを用いた場合のタッピングエネルギー)/(油剤組成物を用いた場合のタッピングエネルギー)
【0251】
[油持ち出し量試験]
実施例9〜15及び比較例9〜11の各金属加工油組成物に、SPCC鋼板(60mm×80mm)を浸漬して1分間保持した。その後、SPCC鋼板を取り出して5分間垂直に吊して油切りを行い、金属加工油組成物の付着量(油持ち出し量)を測定した。得られた結果を表10〜11に示す。
【0252】
【表10】

【0253】
【表11】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
%Cが2以下、%C/%Cが6以上、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油と、
エステル、アルコール、カルボン酸、並びに構成元素としてリン及び/又は硫黄を含む化合物から選ばれる少なくとも1種の潤滑性向上剤と
を含有することを特徴とする金属加工油組成物。

【公開番号】特開2008−13682(P2008−13682A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187076(P2006−187076)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】