説明

金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法

【課題】炭素繊維強化材の形状が自由で、炭素繊維強化材の種類を自由に選択することができる金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】図(a)にて、高圧容器31から凝固した溶融金属とともに金属含浸体35を取り出し、(b)にて金属含浸体35に対し、矢印(2)、(2)のように炭素繊維強化炭素複合材28の一部28a、28aを切除する。(c)にて、残っていた炭素繊維強化炭素複合材28の残部28b、28bを、矢印(3)、(3)の部位ではぎ取り、(d)に示す金属基炭素繊維強化複合材料36を得る。
【効果】変形しやすい炭素繊維基材であっても剛性に富む炭素繊維硬化積層体で囲うことで全体として剛性を確保する。これにより炭素繊維基材の種類を任意に選択でき、形状も自由に設定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属に炭素繊維強化材を複合化してなる金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基炭素繊維強化複合材料は、母材金属を炭素繊維で強化することにより、金属の特性と炭素繊維の特性の両方を兼ね備えた複合材料である。このような金属基炭素繊維強化複合材料に適用することができる製造方法が各種提案されている。そのなかで、炭素繊維強化材を金属で含浸する製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−322172公報(第6頁、図3)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(a)に示すように、支持板101に、円筒形状の炭素繊維強化材102を立てる。この炭素繊維強化材102は、耐火性粘結剤103を用いて支持板101に固定する。その上で、上面が開口している容器104に収める。
【0004】
(b)に示すように容器104に溶融金属106を注入する。この溶融金属106は炭素繊維強化材102が没するまで注入する。次に、容器104にピストン107を嵌め、このピストン107を下降させる。ピストン107の押圧作用で、溶融金属106の圧力が高まる。溶融金属106が高圧力であるほど、炭素繊維強化材102に迅速に浸透させることができる。
【0005】
次に、全体を冷却させることで(c)に示すように、凝固金属108で囲われた金属基炭素繊維強化複合材料109を得ることができる。すなわち、容器104から取り外し、凝固金属108を除去し、耐火性粘結剤103及び支持板101を取り外すことで、(d)に示す金属基炭素繊維強化複合材料109単体を得ることができる。
【0006】
ところで、(a)に示す炭素繊維強化材102は、炭素繊維に樹脂を含浸させ加熱処理により硬化させた後、更に熱処理を施し、硬化した樹脂を炭素化して多孔質化するとともに耐熱性を上げたものである。
この場合、金属基炭素繊維強化複合材料にしたときに、母材としての金属の他に樹脂が炭素化したものが残るため、任意の立体形状の金属基炭素繊維強化複合材料は高強度化することが困難である。
【0007】
一方、仮に炭素繊維基材を炭素繊維のみにすれば、母材は金属のみとなり高強度化が可能となるが、自重又は外力により簡単に変形するので、任意の立体形状で金属基炭素繊維強化複合材料を得ることができない。
また、炭素繊維強化材102にはある程度の耐熱性も要求されるため、炭素繊維強化材102の種類にも制限がある。
すなわち、従来の技術によれば、炭素繊維強化材の形状や種類に制限があり、この制限を緩和することができる技術が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炭素繊維強化材の形状が自由で、炭素繊維強化材の種類を自由に選択することができる金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、母材としての金属に炭素繊維強化材を複合化してなる金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法において、
前記金属基炭素繊維強化複合材料の基となる炭素繊維基材と、この基材とは別に炭素繊維に樹脂を含浸させてなる炭素繊維プリプレグとを準備し、前記炭素繊維基材が芯になるように前記炭素繊維プリプレグで挟み、変形させて所望の形状に整えた積層体を得る工程と、
前記炭素繊維プリプレグ中の樹脂を硬化させ強度を高めるために前記積層体を加熱処理することにより炭素繊維硬化積層体を得る工程と、
ハンドリングが容易になった炭素繊維硬化積層体を高温炉に入れて炭素繊維基材を黒鉛化処理すると共に前記炭素繊維硬化積層体中の樹脂を炭素化させることにより、黒鉛化炭素繊維基材を炭素繊維強化炭素複合材で覆った形態の中間体を得る工程と、
この中間体に溶融金属を接触させ、前記炭素繊維強化炭素複合材を通過した前記溶融金属を、前記黒鉛化炭素繊維基材に含浸させることで、中間体に金属が含浸してなる金属含浸体を得る工程と、
この金属含浸体から前記炭素繊維強化炭素複合材を除去することで、金属に炭素繊維強化材を複合化してなる金属基炭素繊維強化複合材料を得る工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、炭素繊維基材を、炭素繊維プリプレグで囲うようにした。炭素繊維プリプレグは加熱処理を施すことで炭素繊維プリプレグ中の樹脂が硬化し、剛性を付与する。変形しやすい炭素繊維基材であっても剛性に富む炭素繊維硬化積層体で囲うことで全体として剛性を確保することができる。これにより炭素繊維基材の種類を任意に選ぶことができ、形状も自由に設定することができる。
なお、炭素繊維硬化積層体は高温炉で高温処理することで樹脂が炭素化して多孔質体となり、後工程で溶融金属が通過しうるようにするため、炭素繊維硬化積層体の存在が複合材料の製造に支障をきたすことはない。同時に、炭素繊維基材が黒鉛化処理され耐熱性が向上するため、この点においても炭素繊維基材の種類を自由に選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は積層体を得る工程から炭素繊維硬化積層体を得る工程までの説明図であり、(a)に示すように、下位炭素繊維プリプレグ11と、下位黒鉛シート12と、炭素繊維基材13と、上位黒鉛シート14と、上位炭素繊維プリプレグ15とを準備する。
【0012】
下位炭素繊維プリプレグ11は、炭素繊維基材13の保護ケース(保護型)の役割を果たすメンバーであり、例えば、高弾性炭素繊維を、フィラメントの数が6で平織り又は綾織りし、繊維方向が0°であるものと90°であるものを交互に10枚重ねたものに、フェノール樹脂を適量含浸させてなる。
なお、含浸する樹脂は、焼成して炭素繊維強化炭素複合材になったときに強度を保つ必要があることから、残炭率が高いフェノール樹脂が好ましい。
下位黒鉛シート12は、離型材の役割を果たすメンバーであり、例えば0.2mm程度のシートである。
【0013】
炭素繊維基材13は、本発明の金属基炭素繊維強化複合材料における炭素繊維強化材の基となる主要メンバーであり、例えば、高弾性炭素繊維を、フィラメントの数が6で平織り又は綾織りし、繊維方向が0°であるものと90°であるものを交互に10枚重ねたものを使用する。
炭素繊維基材は、焼成したときの残炭率が低い方が金属基炭素繊維強化複合材になったときに強度が高い。炭素繊維基材は、炭素繊維のままが良いが成形性を考慮しアクリル樹脂を適用含浸させてなるものが好ましい。
【0014】
上位黒鉛シート14は、下位黒鉛シート12と同一で差し支えない。
上位炭素繊維プリプレグ15は、下位炭素繊維プリプレグ11と同一で差し支えない。
【0015】
(b)に示すように、下位炭素繊維プリプレグ11、下位黒鉛シート12、炭素繊維基材13、上位黒鉛シート14及び上位炭素繊維プリプレグ15を積層してなる積層体16を、オートクレーブ17に投入する。オートクレーブ17は、ヒータ18と排気装置19を備えた真空加熱炉である。積層体16は、例えば、0.6MPaの圧力下で100℃、2時間の条件で加熱し、続いて、0.6MPaの圧力下で150℃、1.5時間の条件で加熱処理される。
【0016】
この合計3.5時間、100〜150℃の加熱により、上部炭素繊維プリプレグ15は想像線で示すように垂れて、下部炭素繊維プリプレグ11に接触し、一体化する。並行して、炭素繊維プリプレグ11、15に含まれている樹脂が適度に硬化する。この結果、炭素繊維硬化積層体21を得ることができる。
【0017】
図2は中間体を得る工程の説明図であり、(a)に示すように、ヒータ22と排気装置23とガス吹込み管24を備えた高温炉25に、炭素繊維硬化積層体21を投入して、炭化処理及び黒鉛化処理を行う。
炭化処理では、排気装置23で真空排気を実施し、次にガス吹込み管24でアルゴンガスを吹込み、ヒータ22で6時間をかけて1000℃まで昇温し、1000℃に達したら30分保持する。
黒鉛化処理では、アルゴンガス雰囲気中で、8時間をかけて2000℃まで昇温し、2000℃に達したら30分保持する。
【0018】
(b)は(a)のb部拡大図であり、高温処理により、炭素繊維硬化積層体中の樹脂が炭素化して、炭素繊維26とともに炭素繊維強化炭素複合材28となる。
すなわち、炭素繊維を黒鉛化処理すると共に炭素繊維硬化積層体中の樹脂を炭素化させることにより、黒鉛化炭素繊維基材27を炭素繊維強化炭素複合材28で覆った形態の中間体29を得ることができる。
【0019】
図3は金属含浸体を得る工程の説明図であり、(a)に示すように、上面を開放した高圧容器31に中間体29を移す。そして、高圧容器31内を窒素ガス雰囲気とし、90分かけて750℃に加熱し、そこへ鍋32からアルミニウムの溶融金属33を注ぐ。
次に、(b)に示すように、高圧容器31にピストン34を嵌め、窒素ガス雰囲気で溶融金属33の圧力が50〜100MPaになるように、このピストン34を下げる。すると、溶融金属33は、矢印(1)、(1)のように、炭素繊維強化炭素複合材28を通過し、中心の黒鉛化炭素繊維基材27に含浸する。
【0020】
図4は金属基炭素繊維強化複合材料を得る工程の説明図であり、(a)に示すように、高圧容器31から凝固した溶融金属とともに金属含浸体35を取り出す。
そして、(b)に示すように金属含浸体35に対し、矢印(2)、(2)のように炭素繊維強化炭素複合材28の一部28a、28aを切除する。
次に、(c)に示すように、残っていた炭素繊維強化炭素複合材28の残部28b、28bを、矢印(3)、(3)の部位ではぎ取る。
【0021】
以上の結果、(d)に示す金属基炭素繊維強化複合材料36を得ることができる。この金属基炭素繊維強化複合材料36は、アルミニウムを母材とし炭素繊維で強化した複合材であることは言うまでもない。
【0022】
以上の製造方法で得られた金属基炭素繊維強化複合材料36は、平板形状材である。本発明方法では、円筒のような曲面形状の金属基炭素繊維強化複合材料を得ることもできる。その具体例を別実施例として以下に説明する。
【0023】
図5は別実施例に係る積層体を得る工程から炭素繊維硬化積層体を得る工程までの説明図であり、(a)に示すように、下位炭素繊維プリプレグ11と、下位黒鉛シート12と、炭素繊維基材13と、上位黒鉛シート14と、上位炭素繊維プリプレグ15と、巻付け用の型15aとを準備する。
【0024】
そして、巻付け用の型15aが芯になるように、巻付け、(b)に示す積層体16を得る。
【0025】
次に、(c)に示すように、積層体16を、オートクレーブ17に投入する。オートクレーブ17は、ヒータ18と排気装置19を備えた真空加熱炉である。積層体16は、例えば、0.6MPaの圧力下で100℃、2時間の条件で加熱し、続いて、0.6MPaの圧力下で150℃、1.5時間の条件で加熱処理される。
【0026】
この合計3.5時間、100〜150℃の加熱により、炭素繊維プリプレグ11、15に含まれている樹脂が適度に硬化する。この結果、炭素繊維硬化積層体21を得ることができる。
オートクレーブ17から、巻付け用の型15aごと硬化した炭素繊維硬化積層体21を取り出し、巻付け用の型15aを抜き、円筒状の炭素繊維硬化積層体21を得る。
【0027】
図6は別実施例に係る中間体を得る工程の説明図であり、(a)に示すように、ヒータ22と排気装置23とガス吹込み管24を備えた高温炉25に、炭素繊維硬化積層体21を投入して、炭化処理及び黒鉛化処理を行う。
炭化処理では、排気装置23で真空排気を実施し、次にガス吹込み管24でアルゴンガスを吹込み、ヒータ22で6時間をかけて1000℃まで昇温し、1000℃に達したら30分保持する。
黒鉛化処理では、アルゴンガス雰囲気中で、8時間をかけて2000℃まで昇温し、2000℃に達したら30分保持する。
【0028】
(b)は(a)のb部拡大図であり、高温処理により、炭素繊維プリプレグ中の樹脂が炭素化して、炭素繊維26とともに炭素繊維強化炭素複合材28となる。
すなわち、炭素繊維を黒鉛化処理すると共に炭素繊維プリプレグ中の樹脂を炭素化させることにより、黒鉛化炭素繊維基材27を炭素繊維強化炭素複合材28、28で挟んだ形態の中間体29を得ることができる。
【0029】
図7は別実施例に係る金属含浸体を得る工程の説明図であり、(a)に示すように、上面を開放した高圧容器31に中間体29を移す。そして、高圧容器31内を窒素ガス雰囲気とし、90分をかけて750℃に加熱し、そこへ鍋32からアルミニウムの溶融金属33を注ぐ。
次に、(b)に示すように、高圧容器31にピストン34を嵌め、窒素ガス雰囲気で溶融金属33の圧力が50〜100MPaになるように、このピストン34を下げる。すると、溶融金属33は、矢印(4)、(4)のように、炭素繊維強化炭素複合材28、28を通過し、中心の黒鉛化炭素繊維基材27に含浸する。これで、金属含浸体35を得ることができる。
【0030】
図8は別実施例に係る金属基炭素繊維強化複合材料を得る工程の説明図であり、(a)金属含浸体35をプレスマシーンにかけて、矢印(5)、(5)、(5)、(5)のように、炭素繊維強化炭素複合材28、28をはぎ取る。
【0031】
以上の結果、(b)に示す円筒形状の金属基炭素繊維強化複合材料36を得ることができる。この金属基炭素繊維強化複合材料36は、例えば、内径が110mmで、厚さが2mmで、高さが100mmの円筒であり、アルミニウムを母材とし炭素繊維で強化した複合材であることは言うまでもない。
【0032】
以上の説明から明らかなように、本発明は、炭素繊維基材を、炭素繊維プリプレグで囲うようにした。炭素繊維プリプレグは加熱処理を施すことで炭素繊維プリプレグ中の樹脂が硬化し、剛性を付与する。変形しやすい炭素繊維基材であっても剛性に富む炭素繊維硬化積層体で囲うことで全体として剛性を確保することができる。これにより炭素繊維基材の種類を任意に選ぶことができ、形状も自由に設定することができる。
【0033】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
【0034】
○試料1〜試料6における共通条件:
・下部炭素繊維プリプレグ(以下、下部プリプレグと記す。)は、高弾性炭素繊維、フィラメント数6、平織り、クロス目付215g/mの条件の炭素繊維(平織り使用のものを「高弾性炭素繊維A」と呼ぶ。)に、フェノール樹脂を含有率35%にして含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
【0035】
・炭素繊維基材は、高弾性炭素繊維A(高弾性炭素繊維、フィラメント数6、平織り、クロス目付215g/mの条件の炭素繊維)に、フェノール樹脂などの樹脂(樹脂の種類及び含有率は表1に示す。)を含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
・上部炭素繊維プリプレグ(以下、上部プリプレグ)は、下部プリプレグと同一とする。
・製造方法は、図1〜図4に示す方法による。
【0036】
○試料7における条件:
・下部プリプレグは、高弾性炭素繊維A(高弾性炭素繊維、フィラメント数6、平織り、クロス目付215g/mの条件の炭素繊維)に、フェノール樹脂を含有率35%にして含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
【0037】
・炭素繊維基材は、高強度炭素繊維、フィラメント数6、綾織り、クロス目付220g/mの条件の炭素繊維(綾織り使用のものを「高強度炭素繊維B」と呼ぶ。)に、フェノール樹脂などの樹脂(樹脂の種類及び含有率は表1に示す。)を含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
・上部プリプレグは、下部プリプレグと同一とする。
・製造方法は、図1〜図4に示す方法による。
【0038】
以上に述べた試料1〜7における条件及び引張り強さなどの評価を次表に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
・試料1は、炭素繊維基材に樹脂を含浸させなかったので、黒鉛化処理後、残炭率は0%である。100MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材の引張り強さは、560MPaであった。
・試料2は、炭素繊維基材に35質量%のフェノール樹脂を含浸させた。黒鉛化処理後、残炭率は約50%であった。100MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材の引張り強さは、340MPaであった。
・試料3は、炭素繊維基材に35質量%のエポキシ樹脂を含浸させた。黒鉛化処理後、残炭率は約30%であった。100MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材の引張り強さは、430MPaであった。
試料1〜3から、残留炭素が多いほど強度が低下することが確認できた。
【0041】
・試料4は、炭素繊維基材に15質量%のアクリル樹脂を含浸させた。黒鉛化処理後、残炭率は、ほぼ0%であった。100MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材の引張り強さは、560MPaであった。
アクリル樹脂の含有量を15質量%にすることで、残留炭素をほぼ0%にすることができ、高い引張り強さを得ることができた。
【0042】
・試料5は、炭素繊維基材に15質量%のアクリル樹脂を含浸させた。黒鉛化処理後、残炭率は、ほぼ0%であった。50MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材の引張り強さは、530MPaであった。
試料4に対して、鋳造圧力を100MPaから50MPaに下げたところ、若干下がったものの高い強度を得ることができた。
【0043】
・試料6は、炭素繊維基材に15質量%のアクリル樹脂を含浸させた。1000℃で加熱処理した。黒鉛化処理後、残炭率は、ほぼ0%であった。50MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材の引張り強さは、110MPaであった。
加熱処理温度が1000℃であるため、炭素繊維基材の黒鉛化が未了若しくは不十分であり耐熱性が不足したため、十分な強度が得られなかった。
【0044】
・試料7は、炭素繊維基材に15質量%のアクリル樹脂を含浸させた。黒鉛化処理後、残炭率は、ほぼ0%であった。50MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材の引張り強さは、530MPaであった。
試料7は試料5に対し、耐熱性の低い高強度炭素繊維を炭素繊維基材として使用したが、本発明における黒鉛化処理によって耐熱性が向上し、金属基炭素繊維強化複合材料において高い強度を得ることが可能となった。
【0045】
○試料8〜試料10における共通条件:
・下部プリプレグは、高弾性炭素繊維A(高弾性炭素繊維、フィラメント数6、平織り、クロス目付215g/mの条件の炭素繊維)に、フェノール樹脂を含有率35%にして含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
【0046】
・炭素繊維基材は、高弾性炭素繊維A(高弾性炭素繊維、フィラメント数6、平織り、クロス目付215g/mの条件の炭素繊維)に、アクリル樹脂を含有率15%にして含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
・上部プリプレグは、下部プリプレグと同一とする。
・製造方法は、図5〜図8に示す方法による。
【0047】
○試料11における条件:
・下部プリプレグは、高弾性炭素繊維A(高弾性炭素繊維、フィラメント数6、平織り、クロス目付215g/mの条件の炭素繊維)に、フェノール樹脂を含有率35%にして含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
【0048】
・炭素繊維基材は、高強度炭素繊維B(高強度炭素繊維、フィラメント数6、綾織り、クロス目付220g/mの条件の炭素繊維)に、アクリル樹脂を含有率15%にして含浸させ、得られたシートを、積層方法0°/90°の条件で10枚積層したものを使用する。
・上部プリプレグは、下部プリプレグと同一とする。
・製造方法は、図5〜図8に示す方法による。
【0049】
以上に述べた試料8〜11における条件及び評価を次表に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
・試料8は、100MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材を観察したところ、アルミニウムの含浸状況は良好であった。しかし、得られた製品に割れが認められた。
・試料9は、75MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材を観察したところ、アルミニウムの含浸状況は良好であった。しかし、得られた製品に割れが認められた。
・試料10は、50MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材を観察したところ、アルミニウムの含浸状況、製品の外観共に良好であった。
試料8〜10によれば、鋳造圧力は高すぎると良くないことが分かった。
【0052】
・試料11は、50MPaでアルミニウム溶湯を含浸させた。炭素繊維強化炭素複合材を剥がして得た複合材を観察したところ、アルミニウムの含浸状況、製品の外観共に良好であった。
試料11は試料10に対し、耐熱性の低い高強度炭素繊維を炭素繊維基材として使用したが本発明における黒鉛化処理によって耐熱性が向上したため、アルミニウムの含浸状況、製品の外観に差がでなかった。
【0053】
尚、本発明の金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法は、実施の形態では円筒形状に適用したが、炭素繊維基材を炭素繊維プリプレグで挟み、変形させて所望の形状にできる限り適用可能であり、その他の形状に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の金属基炭素繊維強化複合材料の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】積層体を得る工程から炭素繊維硬化積層体を得る工程までの説明図である。
【図2】中間体を得る工程の説明図である。
【図3】金属含浸体を得る工程の説明図である。
【図4】金属基炭素繊維強化複合材料を得る工程の説明図である。
【図5】別実施例に係る積層体を得る工程から炭素繊維硬化積層体を得る工程までの説明図である。
【図6】別実施例に係る中間体を得る工程の説明図である。
【図7】別実施例に係る金属含浸体を得る工程の説明図である。
【図8】別実施例に係る金属基炭素繊維強化複合材料を得る工程の説明図である。
【図9】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0056】
11、15…プリプレグ(炭素繊維プリプレグ)、13…炭素繊維基材、16…積層体、21…炭素繊維硬化積層体、25…高温炉、27…黒鉛化炭素繊維基材、28…炭素繊維強化炭素複合材、29…中間体、33…溶融金属、35…金属含浸体、36…金属基炭素繊維強化複合材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材としての金属に炭素繊維強化材を複合化してなる金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法において、
前記金属基炭素繊維強化複合材料の基となる炭素繊維基材と、この基材とは別に炭素繊維に樹脂を含浸させてなる炭素繊維プリプレグとを準備し、前記炭素繊維基材が芯になるように前記炭素繊維プリプレグで挟み、変形させて所望の形状に整えた積層体を得る工程と、
前記炭素繊維プリプレグ中の樹脂を硬化させ強度を高めるために前記積層体を加熱処理することにより炭素繊維硬化積層体を得る工程と、
ハンドリングが容易になった炭素繊維硬化積層体を高温炉に入れて炭素繊維基材を黒鉛化処理すると共に前記炭素繊維硬化積層体中の樹脂を炭素化させることにより、黒鉛化炭素繊維基材を炭素繊維強化炭素複合材で覆った形態の中間体を得る工程と、
この中間体に溶融金属を接触させ、前記炭素繊維強化炭素複合材を通過した前記溶融金属を、前記黒鉛化炭素繊維基材に含浸させることで、中間体に金属が含浸してなる金属含浸体を得る工程と、
この金属含浸体から前記炭素繊維強化炭素複合材を除去することで、金属に炭素繊維強化材を複合化してなる金属基炭素繊維強化複合材料を得る工程とからなることを特徴とする金属基炭素繊維強化複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−127116(P2009−127116A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306345(P2007−306345)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】