説明

金属微粒子、それを溶媒に分散した金属コロイド液及びそれらの製造方法

【課題】微細であって、しかも、分散性の良い金属微粒子を提供する。
【解決手段】ピロガロール、フロログルシノール、没食子酸等のフェノール化合物を酸化剤等で酸化重合した化合物を還元剤として用い、それを金属化合物と混合し金属化合物を還元すると、生成した金属微粒子の表面に前記酸化重合物やその酸化体が存在して、その分散効果によって、凝集状態の粒子が少なく、分散した状態の金属微粒子が得られる。
前記の金属微粒子を溶媒に分散した金属コロイド液は、装飾用途等に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子、それを溶媒に分散した金属コロイド液及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、例えば導電剤、帯電防止剤、電磁波遮蔽剤、赤外線遮蔽剤、発色剤、着色剤、触媒等の種々の用途に用いられている。具体的には、金属微粒子の高い導電性を活用して、電子部品の電極、回路配線等を形成する技術が提案されている。また、ブラウン管、液晶ディスプレイ等の透明性部材の電磁波遮蔽や自動車の赤外線遮蔽に適用されている。更に、金属微粒子の金属光沢を活用した着色剤としても注目されている。金属微粒子を種々の用途に用いるには、金属微粒子を溶媒に分散した金属コロイド液とし、必要に応じてバインダーや分散剤、粘度調整剤などの添加剤を更に配合したコーティング剤、塗料、ペースト、インキなどの組成物として用いる場合があり、それらをスクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷技術、スプレー塗装、スピンコーター等の塗布技術を用いて基材に設置し、必要に応じて加熱して、基材上に金属微粒子を担持したり、金属薄膜を形成したりしている。
【0003】
金属微粒子の製造方法としては種々の方法が提案されており、例えば、硝酸銀を還元して銀粒子を得る方法において、特許文献1には、還元剤にピロガロール等の少なくとも水酸基を2個以上有するフェノール化合物を用いる方法が、特許文献2には、フェノール化合物を還元剤に用い、アラビアゴム等の保護コロイドと併用する方法が記載されている。また、特許文献3には、金属イオンを没食子酸等のカルボニル基を有するフェノール化合物で還元して得られる、前記フェノール化合物を成分とする保護層が表面を覆った金属微粒子が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平2−11706号公報
【特許文献2】特開平2−11709号公報
【特許文献3】特開2006−196278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1の方法では微細な金属微粒子が製造できず、特許文献2の方法では、高分子保護コロイドを添加しているものの金属微粒子が凝集してしまい、それぞれの金属微粒子が分散した状態で得られていない。しかも、高分子保護コロイドを除去するには高い温度での加熱が必要となるなどの問題もある。また、特許文献3の方法では、還元剤として添加したフェノール化合物が表面保護層として金属微粒子に配位するものの、充分な分散性が得られていない。金属微粒子は、微細化すると低温融着性、発色性、着色性、遮蔽性、触媒活性等に優れているため好ましいものであるが、微細化するほど凝集状態となり、金属微粒子の特性が低下するとともに、溶媒に分散した際に安定性が低下し、分散状態での担持や薄膜化が阻害されるなどの問題がある。特に、金属微粒子を着色剤として用いる場合、凝集粒子が可視光を散乱して塗膜が白色を呈し、所望される鏡面を有する塗膜が得られ難くなる。このため、微細であって、しかも、凝集状態の粒子が少なく、分散した状態の金属微粒子が望まれているが、充分満足できるものは得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、分散性の良い金属微粒子を製造すべく鋭意研究を重ねた結果、ピロガロール等のフェノール化合物の酸化重合物で金属化合物を還元すると、生成した金属微粒子の表面に前記重合物及び/又はその重合物の酸化体が存在し、その分散効果によって、分散性の良い金属微粒子が得られ、この金属微粒子を用いると優れた金属光沢を有し意匠性の高い塗膜が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、(1)フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子、(2)前記の金属微粒子が溶媒に分散した金属コロイド液、(3)フェノール化合物の酸化重合物と金属化合物とを混合して金属化合物を還元することを特徴とする金属微粒子又はその金属微粒子が溶媒に分散した金属コロイド液の製造方法、などである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属微粒子、それを分散した金属コロイド液は従来のものに比べて、凝集状態の粒子が少なく分散性の良い金属微粒子であって、そのため、溶媒中での分散安定性に優れている。このため、基材への分散状態での担持や薄膜化が可能であり、導電剤、帯電防止剤、電磁波遮蔽剤、赤外線遮蔽剤、発色剤、着色剤、触媒等の種々の用途に用いることができる。特に、塗膜の導電性を活用したプリント配線基板等の微細電極及び回路配線の形成、塗膜の鏡面を活用した意匠・装飾用途等に用いられる。
本発明の金属微粒子の製造方法は、液相還元法であるため、金属微粒子を比較的廉価に製造することができ、また、製造した金属微粒子は、そのままの状態で、あるいは必要に応じて透析、固液分離、洗浄、乾燥等を行って、溶媒に分散することができることから、金属微粒子を溶媒に分散した金属コロイド液も比較的廉価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属微粒子は、その構成成分、粒子径等には特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。構成成分としては、1種の金属であっても、合金にしたり積層するなどして2種以上の金属で構成されていても良い。また、1種の金属微粒子であっても良いし、2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良く、例えば平均粒子径が異なる2種以上の金属微粒子、構成成分が異なる2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良い。その金属成分としては周期表VIII族(鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及びIB族(銅、銀、金)からなる群より選ばれる少なくとも1種であれば、導電性が高いので好ましく、中でも銀、金、白金、パラジウム、銅は特に導電性が高くより好ましく、電極、回路配線の形成に用いるには、導電性とコストのバランスから銀又は銅が特に好ましい。また、着色剤、装飾用途に用いるには、銀、金、銅等が好ましく、発色剤としては金等が好ましい。金属微粒子の粒子径は、約1nm〜1μm程度の平均粒子径を有する金属微粒子が好ましく、多方面の用途に用いることができることから1〜100nm程度の平均粒子径を有する金属微粒子が更に好ましく、より微細な電極、回路配線パターン等を形成するためには、5〜50nmの範囲の平均粒子径を有する金属微粒子が更に好ましい。なお、金属微粒子には、製法上不可避の酸素、異種金属等の不純物を含有していても良く、あるいは、金属微粒子の急激な酸化防止のために必要に応じて予め酸素、金属酸化物や、本発明で用いる後述のフェノール化合物の酸化重合物やその酸化体以外の有機化合物、例えばゼラチン等の保護コロイドや、アルカノールアミン、クエン酸、チオール化合物等の配位化合物などが含まれていても良い。
【0010】
本発明の金属微粒子は、その表面に、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体を少なくとも存在させることが重要である。フェノール化合物は、芳香族炭化水素核の水素原子を水酸基で置換した芳香族ヒドロキシ化合物であって、酸化重合物とは、このフェノール化合物分子の一部を酸化しながら分子2個以上が結合し重合して生成する炭素縮合多環性化合物である。酸化重合物の分子は、2〜20個程度の芳香族炭化水素核で構成されているのが好ましく、2〜10個程度がより好ましく、2〜5個程度が更に好ましい。また、酸化重合物の分子内には、少なくとも1個の水酸基が含まれているのが好ましく、還元力の点から2個以上の水酸基が含まれているのがより好ましく、2〜5個の水酸基が含まれているのが更に好ましい。酸化重合物には、同種のフェノール化合物の酸化重合物であっても、2種以上の異種のフェノール化合物の酸化重合物であっても良い。このような酸化重合物は、これらの水酸基や酸素原子等を介して配位したり、吸着したりして、金属微粒子の表面に存在する。
【0011】
また、酸化重合物の酸化体は、前記重合物が有する水酸基の水素原子が解離したり、更に酸化が進み環状構造の一部が開環してカルボキシル基が生成した、酸化状態の化合物であり、具体的には後述する還元反応に使われて酸化状態となったり、溶液中において水素イオンが解離した酸化状態で配位するなどして、金属微粒子の表面に存在する。前記の酸化重合物、その酸化体により金属微粒子の立体障害性が大きくなり、また、前記重合物及びその酸化体の有する水酸基や、酸化体の有するカルボキシル基等が、溶液中で解離して電気的に陰性を示すので、静電的な効果により、分散安定化する。このため、金属微粒子が微細であっても、凝集し難く分散した状態を保持することができる。このような一個一個の粒子がばらばらに分散した状態(独立分散状態)、粒子が多数凝集していない状態を確認するには、電子顕微鏡観察で行うことができる。
【0012】
前記の酸化重合物としては、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン及びそれらの誘導体、例えば1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオンなど、
(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、及び6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン及びそれらの誘導体、例えば2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン(一般名プルプロガリン)など、
(3)(1)又は(2)の化合物を更に酸化重合した化合物、
(4)(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。ここで、誘導体とは、酸化重合物の分子内の小部分の変化によって生成する化合物をいい、例えば、酸化重合物に含まれる水素原子をアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基等で置換したものである。
【0013】
金属微粒子の表面に存在させる、前記酸化重合物の含有量は特に制限はなく、適宜設定することができる。例えば、金属微粒子100重量部に対し、0.1〜100重量部程度の範囲で存在していれば、所望の効果が得られるので好ましく、更に好ましい範囲は0.5〜50重量部程度である。金属微粒子の表面に存在する成分は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)、NMR(核磁気共鳴)、XPS(X線光電子分光分析装置)等の分析方法により確認できる。
【0014】
前記の金属微粒子は、溶媒に分散させて金属コロイド液とすることができ、一般に分散体、コーティング剤、塗料、ペースト、インキ、インクなどと称される組成物を包含する。金属コロイド液における金属微粒子の分散状態は、例えば動的光散乱法粒度分布測定装置で確認することができる。金属コロイド液に含まれる金属微粒子の配合量は特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、電極材料用途における金属微粒子の配合量の上限値は、90重量%程度が可能であり、85重量%が好ましく、80重量%がより好ましく、その下限値は10重量%程度である。装飾用途においてはコストの面から、より低濃度の金属微粒子を用いて鏡面を呈する塗膜が得られることが望ましく、その配合量の上限値は50重量%であれば良く、20重量%であればより好ましく、15重量%であれば更に好ましく、その下限値は1重量%程度である。金属微粒子を分散させる溶媒は特に制限はなく、水溶媒、アルコール、トルエン等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
【0015】
本発明の金属コロイド液には、前記の金属微粒子、溶媒の他に、界面活性剤、硬化性樹脂、増粘剤、可塑剤、防カビ剤、分散剤等を必要に応じて適宜配合することもできる。界面活性剤は、金属微粒子の分散安定性を更に良くすることができ、4級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤等を用いることができる。硬化性樹脂は、塗布物と基材との密着性を一層向上させることができ、溶媒に対する溶解型、エマルジョン型、コロイダルディスパージョン型等を用いることができ、公知のタンパク質系高分子、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、セルロース等を用いることができる。硬化性樹脂成分の配合量は、金属微粒子100重量部に対し0.01〜10重量部程度の範囲が好ましく、より好ましい範囲は0.01〜8重量部程度であり、0.01〜5重量部程度であれば更に好ましい。
【0016】
本発明の金属微粒子は、(1)予め公知の方法で調製した金属微粒子を溶媒に分散させ、次いで、フェノール化合物の酸化重合物やその溶液を混合し、必要に応じて加熱して、前記酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体を金属微粒子の表面に存在させる方法、(2)フェノール化合物の酸化重合物と金属化合物溶液とを混合し金属化合物を還元して、前記酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体が表面に存在した金属微粒子を製造する方法等を用いて製造することができるが、(2)の方法では還元反応の際に前記酸化重合物等が存在しており、微細な金属微粒子が分散した状態で得られるため好ましい方法である。
【0017】
前記の(2)の方法について以下に詳述する。
(2)の方法において用いる、フェノール化合物の酸化重合物は還元力があって、金属化合物を還元するとともに、還元反応等で酸化されたものや過剰なものが、配位や吸着して、生成した金属微粒子の表面に存在する。フェノール化合物の酸化重合物しては、前記のとおりフェノール化合物分子の一部を酸化しながら分子2個以上が結合し重合して生成した炭素縮合多環性化合物を用いることができ、例えば、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種を好ましく用いられる。
(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン及びそれらの誘導体、例えば1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオンなど、
(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、及び6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン及びそれらの誘導体、例えば2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン(一般名プルプロガリン)など、
(3)(1)又は(2)の化合物を更に酸化重合した化合物、
(4)(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。ここで、誘導体とは、酸化重合物の分子内の小部分の変化によって生成する化合物をいい、例えば、酸化重合物に含まれる水素原子をアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基等で置換したものである。
【0018】
フェノール化合物の酸化重合は、フェノール化合物を酸化剤で酸化させながら行うのが好ましく、酸化剤の添加量、酸化反応時間等でその重合度を制御することかできる。具体的には、フェノール化合物と酸化剤を混合したり、あるいはフェノール化合物を水溶媒、アルコール等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒に溶解させた後、この溶液と酸化剤とを混合することで得られる。酸化剤には空気、酸素等の酸化性ガスや、過酸化水素、過マンガン酸、過マンガン酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム等の化合物を用いることができ、特に空気を用いるのが経済的に有利で好ましい。フェノール化合物溶液と空気等の酸化性ガスとの混合は、開放系で溶液を撹拌して行っても、溶液中に空気等の酸化性ガスをバブリングして行っても良い。溶媒としては金属化合物溶液と同様に、取り扱い易さや経済性の点で水溶媒を用いるのが好ましい。フェノール化合物が酸化されると、透明な溶液が赤褐色、茶褐色、黒褐色等に変色し、重合が進むと更に濃色に変化するので、目視より酸化重合物の生成を確認できる。前記フェノール化合物溶液のpHを6以上に調整すると、重合が進み易いので好ましく、6〜13の範囲がより好ましく、8〜11の範囲が一層好ましい。
【0019】
前記酸化重合物は、2価又は3価のフェノール化合物やそれらの誘導体を前記の条件で酸化重合させたものが好ましく、2価のフェノール化合物としては、ヒドロキノン、カテコール、レソルシノール等が、3価のものとしては、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン等が、誘導体としてはピロガロールの誘導体である没食子酸等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種を用いるのがより好ましい。中でも水酸基が3個のものが好ましく、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンであれば更に好ましい。具体的には、ピロガロールの酸化重合物としては、1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、プルプロガリン(2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン)等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。フロログルシノールの酸化重合物としては、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの酸化重合物としては、1,3−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−6,8−ジオン、1,3,4,7−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる、また、これらの誘導体としては、例えば、没食子酸の酸化重合物である1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。このような炭素縮合多環性化合物を用いるのが好ましい。また、前記多環性化合物を更に酸化重合したもの、あるいは、前記多環性化合物又はその酸化重合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合したもの、更にはそれらの誘導体を作製して用いることができる。
【0020】
金属微粒子を製造するための原料である金属化合物は、例えば、前記金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等を用いることができる。金属化合物を溶解する溶媒は、水溶媒、アルコール等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、取り扱い易さや経済性の点で水溶媒を用いるのが好ましい。金属化合物の溶媒中の濃度は、金属化合物が溶解する範囲であれば特に制約はないが、工業的には5ミリモル/リットル以上とすることが好ましい。
【0021】
次いで、金属化合物溶液と、前記酸化重合物やその溶液とを撹拌下で混合し、金属化合物を還元して、金属微粒子を製造する。酸化重合物の使用量は適宜設定することができるが、フェノール化合物の単体を基準として金属化合物のモル比で0.1〜10の範囲の量が好ましく、0.2〜5の範囲の量がより好ましい。還元温度は適宜設定することができるが、5〜105℃程度の範囲で行うことができ、過剰の冷却や加熱を行わず、経済的に製造を行うためには、10〜80℃程度がより好ましい。なお、前記の還元反応には補助的に別の還元剤、例えば、アルコール類やアミン類を添加しても良い。このようにして金属微粒子が製造でき、必要に応じて透析、固液分離、洗浄して余剰成分や不要なイオン成分を除去したり、更に必要に応じて乾燥等を行うことができる。
【0022】
前記の還元反応によって製造した金属微粒子は溶媒に分散していることから金属コロイド液の状態となっている。また、前記のように洗浄した金属微粒子、あるいは乾燥した金属微粒子を溶媒に再度分散しても、金属コロイド液を製造することができる。金属微粒子を分散させる溶媒は特に制限はなく、水溶媒、アルコール、トルエン等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、用途に応じて適宜選択することができる。また、金属微粒子の分散性を更に向上させるために、アルカノールアミン等の分散剤、界面活性剤等を分散の際に添加しても良い。分散方法は特に制限されないが、例えば、ディスパー等の撹拌機を用いた撹拌混合、サンドミル、コロイドミル等の湿式粉砕混合、超音波分散などの方法を用いることができる。
【0023】
次に、本発明の金属微粒子、金属コロイド液の使用例について説明する。
本発明の金属微粒子、金属コロイド液を電極、回路配線パターンの形成に用いるには、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法により、基板に塗布した後、塗布物を適当な温度で加熱焼成する。また、塗膜の形成に用いるには、例えば、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、刷毛塗り等の方法により、基材に塗布し乾燥する。あるいは、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの印刷方法や転写方法を用いて塗膜を形成することもできる。
【0024】
前記の塗膜を基材の表面に形成すると、金属微粒子の金属色や光沢を基材表面に付与することができ、基材表面の全面にわたって着色し光沢を付与したり、基材表面の一部分に意匠、標章、ロゴマークを形成したり、その他の文字、図形、記号を形成したりすることもできる。基材としては、金属、ガラス、セラミック、コンクリートなどの無機質材料、ゴム、プラスチック、紙、木、皮革、布、繊維などの有機質材料、前記の無機質材料と有機質材料とを併用あるいは複合した材料を用いることができる。それらの材質の基材を使用物品に加工する前の原料基材に塗膜を形成して装飾を施すこともでき、あるいは、基材を加工した後のあらゆる物品に装飾を施すこともできる。また、それらの基材表面に予め塗装したものの表面に装飾を施すこともできる。
装飾を施す物品の具体例としては、
(1)自動車、トラック、バスなどの輸送機器の外装、内装、バンパー、ドアノブ、サイドミラー、フロントグリル、ランプの反射板、表示機器等、
(2)テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、パーソナルコンピューター、携帯電話、カメラなどの電化製品の外装、リモートコントロール、タッチパネル、フロントパネル等、
(3)家屋、ビル、デパート、ストアー、ショッピングモール、パチンコ店、結婚式場、葬儀場、神社仏閣などの建築物の外装、窓ガラス、玄関、表札、門扉、ドア、ドアノブ、ショーウインド、内装等、
(4)照明器具、家具、調度品、トイレ機器、仏壇仏具、仏像などの家屋設備、
(5)金物、食器などの什器、
(6)飲料水、タバコなどの自動販売機、
(7)合成洗剤、スキンケア、清涼飲料水、酒類、菓子類、食品、たばこ、医薬品などの容器、
(8)表装紙、ダンボール箱などの梱包用具、
(9)衣服、靴、鞄、メガネ、人口爪、人口毛、宝飾品などの衣装・装飾品、
(10)野球のバット、ゴルフのクラブなどのスポーツ用品、つり具などの趣味用品、
(11)鉛筆、色紙、ノート、年賀はがきなどの事務用品、机、椅子などの事務機器、
(12)書籍類のカバーやオビ等、人形、ミニカーなどのおもちゃ、定期券などのカード類、CD、DVDなどの記録媒体、などが挙げられる。また、人間の爪、皮膚、眉毛、髪の毛などを基材とすることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0026】
実施例1
イオン交換水4352ミリリットル中に、ピロガロール135ミリモルを溶解し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10.3に調整した後、大気中で40分間撹拌しピロガロールの酸化重合物の溶液を調製した。撹拌後の溶液は赤褐色に変色した後、更に濃色に変色しており、酸化重合物が生成していることが判った。この還元剤溶液中に100ミリモルの硝酸銀を含む水溶液68ミリリットルを添加し、撹拌機を用いて、室温にて1時間撹拌した後、遠心分離し、沈降物を得た。この沈降物にアンモニア溶液とイオン交換水を固形分が50%、pHが10になるように仕込み、超音波分散機を用いて分散させ、本発明の銀コロイド分散液(試料A)を得た。
実施例1で用いたピロガロールの酸化重合物は、1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン及びそれを更に酸化重合した化合物を含むと推定され、試料Aの表面には前記の酸化重合物やその酸化体が存在すると推定された。
【0027】
実施例2
実施例1においてピロガロールを没食子酸に替えて酸化重合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして本発明の銀コロイド分散液(試料B)を得た。
実施例2で用いた没食子酸の酸化重合物は、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン及びそれを更に酸化重合した化合物を含むと推定され、試料Bの表面には前記の酸化重合物やその酸化体が存在すると推定された。
【0028】
比較例1
実施例1において、ピロガロールをイオン交換水に溶解した後、ピロガロール水溶液のpH調整及び大気中の撹拌を行わずに、ピロガロール水溶液に硝酸銀水溶液を添加したこと以外は実施例1と同様したところ、銀微粒子は得られたが、この銀微粒子は、分散せず凝集していた。
【0029】
比較例2
没食子酸0.8gをイオン交換水100ミリリットルに加えて没食子酸水溶液を調製し、没食子酸水溶液のpH調整及び大気中の撹拌を行わずに、没食子酸水溶液に、硝酸銀1.97gをイオン交換水100ミリリットルに溶解した硝酸銀水溶液と1規定水酸化ナトリウム10ミリリットルを添加したところ、pHは2.3であった。引き続き、1時間撹拌したところ、銀微粒子は得られたが、この銀微粒子は、分散せず凝集していた。
【0030】
評価:吸光度の測定、銀コロイド塗膜の調製
実施例1、2で得られた銀コロイド分散液(試料A、B)を、銀濃度が0.008g/リットルになるように希釈した後、分光光度計(U‐3300:日立製作所製)を用い、透過長1cmのセルを用いて、吸光度を測定した。結果を図1に示す。いずれも波長が400nmの近辺で大きな吸光が認められており、これは銀コロイド特有のフラズモン共鳴による吸収であると考えられる。
また、試料A10gに分散剤(BYK‐333:ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.01gを混合し、銀インクにした。この銀インクを#3バーコーターを用いて、ガラス板に塗布し、80℃の温度で30分間乾燥させ塗膜化し、分光測色計を用いてこの塗膜の正反射光を除去した反射率のY値(YSCE)、正反射光を含んだ反射率のY値(YSCI)を測定した。結果を表1に示す。YSCEが小さい程、塗膜表面での可視光の散乱が生じ難く、YSCIが大きい程、金属光沢が高い。本発明により得られた塗膜が、鏡面を呈していることが判る。また、前記の塗膜を密閉状態で保管したところ、鏡面に変化がほとんどなく、白色に変色し難いことを確認した。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の金属微粒子、それを分散した金属コロイド液は従来のものに比べて、凝集状態の粒子が少なく分散性の良い状態を維持しているため、溶媒中での分散安定性に優れており、そのため導電剤、帯電防止剤、電磁波遮蔽剤、赤外線遮蔽剤、発色剤、着色剤、触媒等の種々の用途に用いることができる。特に、塗膜の導電性を活用したプリント配線基板等の微細電極及び回路配線の形成、塗膜の鏡面を活用した意匠・装飾用途等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は実施例1、2で得られた銀コロイド分散液(試料A、B)の吸光度のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化体を表面に少なくとも有した金属微粒子。
【請求項2】
前記の金属微粒子の平均粒子径が1〜100nmである請求項1に記載の金属微粒子。
【請求項3】
請求項1に記載の金属微粒子が溶媒に分散した金属コロイド液。
【請求項4】
フェノール化合物の酸化重合物と金属化合物とを混合して金属化合物を還元することを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
フェノール化合物の酸化重合物と金属化合物とを混合して金属化合物を還元することを特徴とする金属微粒子が溶媒に分散した金属コロイド液の製造方法。
【請求項6】
前記酸化重合物が、2価及び/又は3価のフェノール化合物を酸化重合させたものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属微粒子又は金属コロイド液の製造方法。
【請求項7】
前記フェノール化合物が、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、没食子酸から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項6に記載の金属微粒子又は金属コロイド液の製造方法。
【請求項8】
前記酸化重合物が、pHが6以上の媒液中でフェノール化合物を酸化重合させたものであることを特徴とする請求項6に記載の金属微粒子又は金属コロイド液の製造方法。
【請求項9】
前記酸化重合物が、フェノール化合物と酸化剤とを混合して酸化重合させたものであることを特徴とする請求項6に記載の金属微粒子又は金属コロイド液の製造方法。
【請求項10】
酸化剤として空気を用いることを特徴とする請求項9に記載の金属微粒子又は金属コロイド液の製造方法。
【請求項11】
前記酸化重合物が、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属微粒子又は金属コロイド液の製造方法。
(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン及びそれらの誘導体、
(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、及び6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン及びそれらの誘導体、
(3)(1)又は(2)の化合物を更に酸化重合した化合物、
(4)(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。
【請求項12】
請求項1に記載の金属微粒子又は請求項3に記載の金属コロイド液を用いて形成されることを特徴とする塗膜。
【請求項13】
少なくとも基材の表面の一部に請求項12に記載の塗膜を形成したことを特徴とする装飾物品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−91621(P2009−91621A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263324(P2007−263324)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】