金属材の接合方法
【課題】効率良く接合部の裏面側を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行うことができる金属材の接合方法を提供する。
【解決手段】接合ツール18を接合部16の上側から挿入し、加熱裏板28を接合部16の下側から当接させる。接合ツール18を接合ツール回転方向24側に回転させ、加熱裏板28を接合ツール回転方向24側とは逆の加熱裏板回転方向32側に回転させる。接合ツール18及び加熱裏板28の回転速度を、接合ツール18及び加熱裏板28それぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合うように制御する。接合ツール18と加熱裏板28とを対向させつつ接合部16の長手方向に沿って移動させる。加熱裏板28が接合部16を摩擦熱によって直接的に加熱し、接合ツール18が接合部16の金属を攪拌することにより金属材12,14を接合することができる。
【解決手段】接合ツール18を接合部16の上側から挿入し、加熱裏板28を接合部16の下側から当接させる。接合ツール18を接合ツール回転方向24側に回転させ、加熱裏板28を接合ツール回転方向24側とは逆の加熱裏板回転方向32側に回転させる。接合ツール18及び加熱裏板28の回転速度を、接合ツール18及び加熱裏板28それぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合うように制御する。接合ツール18と加熱裏板28とを対向させつつ接合部16の長手方向に沿って移動させる。加熱裏板28が接合部16を摩擦熱によって直接的に加熱し、接合ツール18が接合部16の金属を攪拌することにより金属材12,14を接合することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材の接合方法に関し、接合部を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行う金属材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属材の接合方法においては、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)により金属材を接合する技術が知られている。摩擦攪拌接合では、接合しようとする金属材を接合部において対向させ、接合ツールの先端に設けられたプローブを接合部に挿入し、接合部の長手方向に沿って接合ツールを回転させつつ移動させて、摩擦熱により金属材を塑性流動させることによって2つの金属材を接合する。摩擦攪拌接合は原則として良好な接合強度を得ることができるが、接合部のプローブを挿入した側(表面側)とは反対側(裏面側)の部分では、入熱が不足して接合不良となり接合強度が不足するおそれがある。そこで、特許文献1では、接合部の裏面側にヒータ線からなる加熱手段を設け、接合部の裏面側を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行う技術が記載されている。
【特許文献1】特開2002−79383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の技術のようにヒータを設けて接合部の裏面側を加熱しても、上記技術では熱した加熱手段を接合部の裏面に当接させることにより間接的に接合部の裏面側に熱を伝えるため、接合部の裏面側への入熱が不十分となり、結局、接合部の接合強度が不足する場合がある。
【0004】
本発明は、斯かる実情に鑑み、効率良く接合部の裏面側を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行うことができる金属材の接合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、2つの金属材を接合部において対向させ、接合部の一方の側から棒状の接合ツールを挿入し、接合部の他方の側に加熱裏板を接合ツールと対向するように当接させ、接合ツールと加熱裏板とを回転させて、2つの金属材を接合する金属材の接合方法である。
【0006】
この構成によれば、接合部の一方の側から棒状の接合ツールを挿入し、接合部の他方の側に加熱裏板を接合ツールと対向するように当接させ、接合ツールと加熱裏板とを回転させるため、接合部の裏面側を裏面の加熱裏板と被接合材との摩擦熱のみにより加熱しつつ金属材を摩擦攪拌接合することができる。接合部の裏面側は加熱裏板との摩擦により直接的に熱を与えられるため、ヒータ等の手段により間接的に熱を与えられる場合に比べて効率良く接合部の裏面側を加熱することができる。
【0007】
なお、本発明の金属材の接合方法においては、回転ツールを回転させつつ接合部の長手方向に沿って移動させる場合と、接合部において回転させた回転ツールを移動させずにその箇所で回転させ続ける場合とを含む。また、本明細書で「摩擦攪拌接合」とは、(1)板状の金属材の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその接合部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属材同士を接合する摩擦攪拌接合、(2)板状の金属材の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその接合部で移動させずに回転させて接合するスポット摩擦攪拌接合(スポットFSW)、(3)金属材同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその箇所で移動させずに回転させて金属材同士を接合するスポット摩擦攪拌接合、(4)金属材同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその接合部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属材同士を接合する摩擦攪拌接合の(1)〜(4)の4つの態様およびこれらの組み合わせを含む。
【0008】
この場合、接合ツールと加熱裏板とをそれぞれ逆方向に回転させることが好適である。
【0009】
この構成によれば、接合ツールと加熱裏板とをそれぞれ逆方向に回転させることにより、攪拌効率が向上する。また、接合ツールと加熱裏板とが金属材に与えるトルクを相殺しやすくなり、金属材を保持する労力を軽減することができる。
【0010】
この場合、接合ツール及び加熱裏板のそれぞれが2つの金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツールと加熱裏板の回転速度を制御しながら回転させることがさらに好適である。
【0011】
この構成によれば、接合ツールと加熱裏板とのそれぞれが2つの金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツールと加熱裏板とを回転させるため、金属材を保持する労力をさらに軽減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属材の接合方法によれば、効率良く接合部の裏面側を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態に係る定置式接合装置を示す斜視図であり、図2は、本発明の第1実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。図1に示すように、本実施形態の接合装置10aは、基台38上に、接合ツール18、接合ツール駆動部22、加熱裏板28、加熱裏板駆動部30及び制御部36を備える。図2に示すように、本実施形態の接合装置10aは、加熱裏板28によって接合部16の裏面側を加熱しつつ、接合ツール18によって金属材12,14を摩擦攪拌接合することができるように構成されている。
【0015】
接合ツール18は、金属材12,14を摩擦攪拌接合するための物で、略円筒状をなし、先端に本体より小径の略円柱状のプローブ20を備えている。なお、プローブは必ず必要なものではなく、場合によってはプローブを有しない略円筒状の接合ツールを用いても良い。接合ツール18の材質は、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)、コバルト(Co)からなる超硬合金、またはSi3N4等のセラミックス、またはW、Mo、イリジウム(Ir)、イリジウム合金やハフニウム(Hf)等の高融点金属からなるものとすることができる。接合ツール18は、金属材12,14の表面の垂直方向に対して必要に応じて所定の角度をなし、例えば0〜5°の角度をなす。
【0016】
接合ツール駆動部22は、接合ツール18を、接合ツール回転方向24側に回転させ、接合ツール移動方向26に沿って移動させる物である。接合ツール駆動部22は、制御部36からの制御信号によって駆動され、接合ツール18の回転速度及び移動速度は制御部36によって制御される。
【0017】
加熱裏板28は、接合部16の裏面側に当接しつつ回転し、摩擦熱によって接合部16を加熱する物である。加熱裏板28は平板状をなし、例えば、角形板または円板であり、あるいは、直方体状または略円筒状の形態を有する。加熱裏板28は、接合部16の広範囲に摩擦熱を与えるためと、後述するように接合ツール18のトルクを相殺するために必要な回転数を低くするため、接合ツール18よりも大きな直径を有する。具体的には、加熱裏板28の直径(あるいは一辺)は接合ツール18の直径の1〜7倍とされ、より好ましくは2〜5倍とされる。あるいは、広範囲に摩擦熱を与えるために、加熱裏板28の直径(あるいは一辺)は接合ツール18の直径の15〜25倍としても良い。
【0018】
加熱裏板28の材質は、接合ツール18と同様に、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)、コバルト(Co)からなる超硬合金、またはSi3N4等のセラミックス、あるいはイリジウム(Ir)、イリジウム合金やハフニウム(Hf)からなるものとすることができる。加熱裏板28は、金属材12,14の裏面の垂直方向に対して必要に応じて所定の角度をなし、例えば0〜5°の角度をなす。図2に示すように、加熱裏板28は接合ツール18と対向しつつ、接合ツール18の回転軸と加熱裏板28の回転軸とが同一直線上になるように配置される。ただし、場合に応じて、接合ツール18の回転軸と加熱裏板28の回転軸とが所定の角度をなすようにして配置しても良い。また、接合ツール18の回転軸と加熱裏板28の回転軸とを所定距離だけずらすように配置しても良い。なお、図1及び2の例では、加熱裏板28は略円筒状をなすが、四角柱、六角柱等の角柱状、あるいはその他の形状としても良い。また、加熱裏板28の先端は、必ずしも平面でなくともよく、凹面あるいは凸面としても良い。
【0019】
加熱裏板駆動部30は、加熱裏板28を、加熱裏板回転方向32側に回転させ、接合ツール移動方向34に沿って移動させる物である。加熱裏板駆動部30は、制御部36からの制御信号によって駆動され、加熱裏板28の回転速度及び移動速度は制御部36によって制御される。
【0020】
制御部36は、接合ツール駆動部22及び加熱裏板駆動部30に対して制御信号を与える物である。制御部36は、接合ツール18と加熱裏板28とが対向しつつ接合部16の長手方向に沿って移動するように制御する。また、制御部36は、接合ツール18と加熱裏板28とのそれぞれが金属材12,14に与えるトルクが互いに相殺し合うように、接合ツール18及び加熱裏板28の回転を制御する。
【0021】
本実施形態において、金属材12,14としては、Al等を含む軽合金系材料を適用することができるが、本実施形態では、加熱裏板28の働きによって、接合部16の表面側から裏面側まで、より均一に熱を与えることが可能になるため、1000℃以上の融点を有する高融点材料や、Fe等を含む鉄鋼系材料を適用することが好適である。具体的には、例えば、炭素鋼、合金鋼、SUS304、SUS301L、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼あるいは2相ステンレス鋼を適用することができる。あるいは、金属材12,14として、同種の材料ではなく、異種材料を適用することもできる。具体的には、例えば、SS400とS45Cとの接合等の炭素鋼同士の接合、SS400とSUS304との接合等の炭素鋼とステンレス鋼との接合、A5083とAZ41との接合等の軽合金同士の接合、板厚が厚いA5083等の非熱処理材料であるアルミニウム合金同士の接合、及びA5083とA6N01との接合等の非熱処理材料と熱処理材料との接合を本実施形態の接合方法では行うことができる。なお、図1および2の例では、接合ツール18及び加熱裏板28が固定された金属材12,14に対して移動するようにされているが、逆に位置が固定された接合ツール18及び加熱裏板28に対して金属材12,14が移動するようにされていても良い。
【0022】
接合時には、図2に示すように、金属材12,14を接合部16にて対向させ、接合ツール18のプローブ20を接合部16の上側から挿入し、加熱裏板28を接合部16の下側から当接させる。制御部36からの制御信号により、接合ツール駆動部22は接合ツール18を接合ツール回転方向24側に回転させ、加熱裏板駆動部30は加熱裏板28を加熱裏板回転方向32側に回転させる。接合ツール回転方向24と加熱裏板回転方向32とは、それぞれ反対方向である。また、制御部36は、接合ツール18及び加熱裏板28の回転速度を、接合ツール18及び加熱裏板28それぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合う速度となるように制御する。図2の例では、接合ツール18より加熱裏板28の直径が大きいため、加熱裏板28の回転速度を接合ツール18の回転速度よりも低い回転速度とすることにより、接合ツール18及び加熱裏板28それぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合うようにすることができる。
【0023】
制御部36からの制御信号により、接合ツール駆動部22と加熱裏板駆動部30とはそれぞれ接合ツール18と加熱裏板28とを対向させつつ接合部16の長手方向に沿って所定の接合速度で移動させる。加熱裏板28が接合部16を摩擦熱によって加熱し、接合ツール18が接合部16の金属を塑性流動させて攪拌することにより、金属材12,14を接合することができる。接合ツール18およびそのプローブ20、並びに加熱裏板28が使用によって磨耗した場合は、適宜、交換することによって、接合を続行することができる。
【0024】
本実施形態では、接合部16の表面側から接合ツール18を挿入し、接合部16の裏面側に加熱裏板28を接合ツール18と対向するように当接させ、接合ツール18と加熱裏板28とを回転させるため、接合部16の裏面側を加熱しつつ金属材12,14を摩擦攪拌接合することができる。接合部16の裏面側は加熱裏板28との摩擦により直接的に熱を与えられるため、ヒータ等の手段により間接的に熱を与えられる場合に比べて効率良く接合部16の裏面側を加熱することができる。その結果、接合部の表面側と裏面側とで攪拌の度合いが等しくなり、欠陥が発生しにくくなり、接合強度が安定して高強度となる継手が作成できる。本実施形態の方法は、特に炭素鋼やステンレス鋼等の高融点金属を接合する際に効力を発揮する。また、より高い接合速度であっても高強度となる継手が作成できる。
【0025】
また本実施形態では、接合ツール18と加熱裏板28とのそれぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツール18と加熱裏板28とを互いに逆方向に回転させる。そのため、本来、接合ツールから被接合物に加えられるトルクのために、被接合物を保持するために大規模な固定具等が必要な摩擦攪拌接合において、被接合物を簡易な手法で保持することができる。さらに、接合ツール18と加熱裏板28とを逆に回転させることから、攪拌効率が向上し、結合力を持たない密着した割れ面であるキッシングボンドの発生も防止できる。
【0026】
さらに本実施形態では、加熱裏板28が接合部16の裏面側に当接しつつ回転し、加熱裏板28と接合部16との間の摩擦力が動摩擦係数で算出される小さいものとなるため、固定されたヒータ等を接合部16に当接させた場合に比べて小さな力で加熱裏板28を接合部16に沿って移動させることができる。
【0027】
なお、本実施形態の金属材の接合方法は、図5に示すように、鉄道車両構体100の側面外板及び屋根の接合に適用することができる。また、本実施形態の金属材の接合方法は、図6に示すように、タンクローリ102の胴板の接合に適用することができる。さらに、本実施形態の金属材の接合方法は、図7に示すように、立体駐車装置のパレット104の接合に適用することができる。図8に示すように、コンテナ106の外板及び内壁の接合に適用することができる。
【0028】
図3は、本発明の第2実施形態に係る携帯式接合装置を示す斜視図である。図3に示すように、本実施形態の携帯式接合装置10bは、第1実施形態の定置式接合装置10aとほぼ同等の構成要素を備えるが、装置の大きさは作業者が持ち運ぶことが可能な程度の大きさであり、作業者が保持することができるようにストラップ40が設けられている点が第1実施形態の定置式接合装置10aと異なっている。本実施形態の携帯式接合装置10bは、接合ツール18と加熱裏板28とのそれぞれが金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツール18と加熱裏板28とを互いに逆方向に回転させるため、携帯式接合装置10bや被加工物の保持に大きな力を必要とせず、大規模な固定具等がなくとも人力で作業を行うことが可能である。このため、狭い箇所の補修等の作業に極めて有益な物となる。
【0029】
図4は、本発明の第3実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。図4に示すように、本実施形態では、金属材12,14同士を接合部16において重ね合わせ、金属材12を通して接合部16に接合ツール18を挿入し、接合ツール18を回転させて金属材12,14同士を接合する。同様にして、他の箇所にも順次接合ツール18を挿入して回転させることにより、広い接合部16においても摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0030】
尚、本発明の金属材の接合方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、接合ツールと加熱裏板とを互いに逆方向に回転させる態様を中心に説明したが、本発明はこれに限定されず、接合ツールと加熱裏板とを互いに同方向に回転させた方が良好な接合部を得ることができる場合には、両者を同方向に回転させても良く、このような態様も本発明の範囲に含まれる。
【0031】
また、上記実施形態では、2つの金属材を接合する態様を中心に説明したが、本発明は、金属材の接合は行わず、金属材の改質に適用することもできる。例えば、一つの金属材に接合ツールと加熱裏板とを対向するように当接させ、接合ツールと加熱裏板とを回転させることにより、塑性流動により金属材を改質させることができる。
【0032】
(実験例1)
図9に示す条件でステンレス鋼であるSUS304の板材の接合を行った。一方は、固定定盤上で接合ツール18を接合部16の表面側のみから挿入して、回転する加熱裏板28を用いないで接合を行った(通常接合)。もう一方は、本発明の接合方法により、接合ツール18と加熱裏板28を用いて接合を行った(両面接合)。
【0033】
図10(a)はステンレス鋼の通常片面接合における接合部16の縦断面を示す図であり、図10(b)は図10(a)の拡大視である。また、図11(a)はステンレス鋼の両面接合における接合部16の縦断面を示す図であり、図11(b)は図11(a)の拡大視である。図10(b)に示すように、通常接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドと呼ばれる結合力を持たない密着した割れ面が生じていることが判る。一方、図11(b)に示すように、本発明の両面接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドが発生していないことが判る。
【0034】
図12は、ステンレス鋼における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。図12に示すように、通常接合での引張強さは684MPaであるのに対し、両面接合の引張強さは734MPaと大幅に向上していることが判る。
【0035】
(実験例2)
図13に示す条件でアルミニウム合金であるA6N01の板材の接合を行った。一方は、固定定盤上で接合ツール18を接合部16の表面側のみから挿入して、回転する加熱裏板28を用いないで接合を行った(通常接合)。もう一方は、本発明の接合方法により、接合ツール18と加熱裏板28を用い、加熱裏板28の回転速度を変化させて接合を行った(両面接合)。
【0036】
図14(a)はアルミニウム合金の通常片面接合における接合部の縦断面を示す図であり、図14(b)は図14(a)の拡大視である。また、図15(a)はアルミニウム合金の両面接合における接合部の縦断面を示す図であり、図15(b)は図15(a)の拡大視である。図14(b)に示すように、通常接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドと呼ばれる結合力を持たない密着した割れ面が生じていることが判る。一方、図15(b)に示すように、本発明の両面接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドが発生していないことが判る。
【0037】
図16は、アルミニウム合金における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。図16に示すように、通常接合での引張強さに対し、両面接合の引張強さは、いずれの加熱裏板28の回転速度においても大幅に向上していることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る定置式接合装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る携帯式接合装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る金属材の接合方法を鉄道車両の側面外板及び屋根に適用した例を示す斜視図である。
【図6】第1実施形態に係る金属材の接合方法をタンクローリの胴板に適用した例を示す斜視図である。
【図7】第1実施形態に係る金属材の接合方法を立体駐車装置のパレットに適用した例を示す斜視図である。
【図8】第1実施形態に係る金属材の接合方法をコンテナの外板及び内壁に適用した例を示す斜視図である。
【図9】実験例1に係るステンレス鋼の接合条件を示した表である。
【図10】(a)はステンレス鋼の通常片面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図11】(a)はステンレス鋼の両面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図12】ステンレス鋼における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。
【図13】実験例1に係るアルミニウム合金の接合条件を示した表である。
【図14】(a)はアルミニウム合金の通常片面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図15】(a)はアルミニウム合金の両面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図16】アルミニウム合金における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。
【符号の説明】
【0039】
10a…定置式接合装置、10b…携帯式接合装置、12,14…金属材、16…接合部、18…接合ツール、20…プローブ、22…接合ツール駆動部、24…接合ツール回転方向、26…接合ツール移動方向、28…加熱裏板、30…加熱裏板駆動部、32…加熱裏板回転方向、34…加熱裏板移動方向、36…制御部、38…基部、40…ストラップ、100…鉄道車両構体、102…タンクローリ、104…パレット、106…コンテナ。
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材の接合方法に関し、接合部を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行う金属材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属材の接合方法においては、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)により金属材を接合する技術が知られている。摩擦攪拌接合では、接合しようとする金属材を接合部において対向させ、接合ツールの先端に設けられたプローブを接合部に挿入し、接合部の長手方向に沿って接合ツールを回転させつつ移動させて、摩擦熱により金属材を塑性流動させることによって2つの金属材を接合する。摩擦攪拌接合は原則として良好な接合強度を得ることができるが、接合部のプローブを挿入した側(表面側)とは反対側(裏面側)の部分では、入熱が不足して接合不良となり接合強度が不足するおそれがある。そこで、特許文献1では、接合部の裏面側にヒータ線からなる加熱手段を設け、接合部の裏面側を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行う技術が記載されている。
【特許文献1】特開2002−79383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の技術のようにヒータを設けて接合部の裏面側を加熱しても、上記技術では熱した加熱手段を接合部の裏面に当接させることにより間接的に接合部の裏面側に熱を伝えるため、接合部の裏面側への入熱が不十分となり、結局、接合部の接合強度が不足する場合がある。
【0004】
本発明は、斯かる実情に鑑み、効率良く接合部の裏面側を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行うことができる金属材の接合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、2つの金属材を接合部において対向させ、接合部の一方の側から棒状の接合ツールを挿入し、接合部の他方の側に加熱裏板を接合ツールと対向するように当接させ、接合ツールと加熱裏板とを回転させて、2つの金属材を接合する金属材の接合方法である。
【0006】
この構成によれば、接合部の一方の側から棒状の接合ツールを挿入し、接合部の他方の側に加熱裏板を接合ツールと対向するように当接させ、接合ツールと加熱裏板とを回転させるため、接合部の裏面側を裏面の加熱裏板と被接合材との摩擦熱のみにより加熱しつつ金属材を摩擦攪拌接合することができる。接合部の裏面側は加熱裏板との摩擦により直接的に熱を与えられるため、ヒータ等の手段により間接的に熱を与えられる場合に比べて効率良く接合部の裏面側を加熱することができる。
【0007】
なお、本発明の金属材の接合方法においては、回転ツールを回転させつつ接合部の長手方向に沿って移動させる場合と、接合部において回転させた回転ツールを移動させずにその箇所で回転させ続ける場合とを含む。また、本明細書で「摩擦攪拌接合」とは、(1)板状の金属材の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその接合部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属材同士を接合する摩擦攪拌接合、(2)板状の金属材の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその接合部で移動させずに回転させて接合するスポット摩擦攪拌接合(スポットFSW)、(3)金属材同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその箇所で移動させずに回転させて金属材同士を接合するスポット摩擦攪拌接合、(4)金属材同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその接合部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属材同士を接合する摩擦攪拌接合の(1)〜(4)の4つの態様およびこれらの組み合わせを含む。
【0008】
この場合、接合ツールと加熱裏板とをそれぞれ逆方向に回転させることが好適である。
【0009】
この構成によれば、接合ツールと加熱裏板とをそれぞれ逆方向に回転させることにより、攪拌効率が向上する。また、接合ツールと加熱裏板とが金属材に与えるトルクを相殺しやすくなり、金属材を保持する労力を軽減することができる。
【0010】
この場合、接合ツール及び加熱裏板のそれぞれが2つの金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツールと加熱裏板の回転速度を制御しながら回転させることがさらに好適である。
【0011】
この構成によれば、接合ツールと加熱裏板とのそれぞれが2つの金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツールと加熱裏板とを回転させるため、金属材を保持する労力をさらに軽減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属材の接合方法によれば、効率良く接合部の裏面側を加熱しつつ摩擦攪拌接合を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態に係る定置式接合装置を示す斜視図であり、図2は、本発明の第1実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。図1に示すように、本実施形態の接合装置10aは、基台38上に、接合ツール18、接合ツール駆動部22、加熱裏板28、加熱裏板駆動部30及び制御部36を備える。図2に示すように、本実施形態の接合装置10aは、加熱裏板28によって接合部16の裏面側を加熱しつつ、接合ツール18によって金属材12,14を摩擦攪拌接合することができるように構成されている。
【0015】
接合ツール18は、金属材12,14を摩擦攪拌接合するための物で、略円筒状をなし、先端に本体より小径の略円柱状のプローブ20を備えている。なお、プローブは必ず必要なものではなく、場合によってはプローブを有しない略円筒状の接合ツールを用いても良い。接合ツール18の材質は、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)、コバルト(Co)からなる超硬合金、またはSi3N4等のセラミックス、またはW、Mo、イリジウム(Ir)、イリジウム合金やハフニウム(Hf)等の高融点金属からなるものとすることができる。接合ツール18は、金属材12,14の表面の垂直方向に対して必要に応じて所定の角度をなし、例えば0〜5°の角度をなす。
【0016】
接合ツール駆動部22は、接合ツール18を、接合ツール回転方向24側に回転させ、接合ツール移動方向26に沿って移動させる物である。接合ツール駆動部22は、制御部36からの制御信号によって駆動され、接合ツール18の回転速度及び移動速度は制御部36によって制御される。
【0017】
加熱裏板28は、接合部16の裏面側に当接しつつ回転し、摩擦熱によって接合部16を加熱する物である。加熱裏板28は平板状をなし、例えば、角形板または円板であり、あるいは、直方体状または略円筒状の形態を有する。加熱裏板28は、接合部16の広範囲に摩擦熱を与えるためと、後述するように接合ツール18のトルクを相殺するために必要な回転数を低くするため、接合ツール18よりも大きな直径を有する。具体的には、加熱裏板28の直径(あるいは一辺)は接合ツール18の直径の1〜7倍とされ、より好ましくは2〜5倍とされる。あるいは、広範囲に摩擦熱を与えるために、加熱裏板28の直径(あるいは一辺)は接合ツール18の直径の15〜25倍としても良い。
【0018】
加熱裏板28の材質は、接合ツール18と同様に、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)、コバルト(Co)からなる超硬合金、またはSi3N4等のセラミックス、あるいはイリジウム(Ir)、イリジウム合金やハフニウム(Hf)からなるものとすることができる。加熱裏板28は、金属材12,14の裏面の垂直方向に対して必要に応じて所定の角度をなし、例えば0〜5°の角度をなす。図2に示すように、加熱裏板28は接合ツール18と対向しつつ、接合ツール18の回転軸と加熱裏板28の回転軸とが同一直線上になるように配置される。ただし、場合に応じて、接合ツール18の回転軸と加熱裏板28の回転軸とが所定の角度をなすようにして配置しても良い。また、接合ツール18の回転軸と加熱裏板28の回転軸とを所定距離だけずらすように配置しても良い。なお、図1及び2の例では、加熱裏板28は略円筒状をなすが、四角柱、六角柱等の角柱状、あるいはその他の形状としても良い。また、加熱裏板28の先端は、必ずしも平面でなくともよく、凹面あるいは凸面としても良い。
【0019】
加熱裏板駆動部30は、加熱裏板28を、加熱裏板回転方向32側に回転させ、接合ツール移動方向34に沿って移動させる物である。加熱裏板駆動部30は、制御部36からの制御信号によって駆動され、加熱裏板28の回転速度及び移動速度は制御部36によって制御される。
【0020】
制御部36は、接合ツール駆動部22及び加熱裏板駆動部30に対して制御信号を与える物である。制御部36は、接合ツール18と加熱裏板28とが対向しつつ接合部16の長手方向に沿って移動するように制御する。また、制御部36は、接合ツール18と加熱裏板28とのそれぞれが金属材12,14に与えるトルクが互いに相殺し合うように、接合ツール18及び加熱裏板28の回転を制御する。
【0021】
本実施形態において、金属材12,14としては、Al等を含む軽合金系材料を適用することができるが、本実施形態では、加熱裏板28の働きによって、接合部16の表面側から裏面側まで、より均一に熱を与えることが可能になるため、1000℃以上の融点を有する高融点材料や、Fe等を含む鉄鋼系材料を適用することが好適である。具体的には、例えば、炭素鋼、合金鋼、SUS304、SUS301L、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼あるいは2相ステンレス鋼を適用することができる。あるいは、金属材12,14として、同種の材料ではなく、異種材料を適用することもできる。具体的には、例えば、SS400とS45Cとの接合等の炭素鋼同士の接合、SS400とSUS304との接合等の炭素鋼とステンレス鋼との接合、A5083とAZ41との接合等の軽合金同士の接合、板厚が厚いA5083等の非熱処理材料であるアルミニウム合金同士の接合、及びA5083とA6N01との接合等の非熱処理材料と熱処理材料との接合を本実施形態の接合方法では行うことができる。なお、図1および2の例では、接合ツール18及び加熱裏板28が固定された金属材12,14に対して移動するようにされているが、逆に位置が固定された接合ツール18及び加熱裏板28に対して金属材12,14が移動するようにされていても良い。
【0022】
接合時には、図2に示すように、金属材12,14を接合部16にて対向させ、接合ツール18のプローブ20を接合部16の上側から挿入し、加熱裏板28を接合部16の下側から当接させる。制御部36からの制御信号により、接合ツール駆動部22は接合ツール18を接合ツール回転方向24側に回転させ、加熱裏板駆動部30は加熱裏板28を加熱裏板回転方向32側に回転させる。接合ツール回転方向24と加熱裏板回転方向32とは、それぞれ反対方向である。また、制御部36は、接合ツール18及び加熱裏板28の回転速度を、接合ツール18及び加熱裏板28それぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合う速度となるように制御する。図2の例では、接合ツール18より加熱裏板28の直径が大きいため、加熱裏板28の回転速度を接合ツール18の回転速度よりも低い回転速度とすることにより、接合ツール18及び加熱裏板28それぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合うようにすることができる。
【0023】
制御部36からの制御信号により、接合ツール駆動部22と加熱裏板駆動部30とはそれぞれ接合ツール18と加熱裏板28とを対向させつつ接合部16の長手方向に沿って所定の接合速度で移動させる。加熱裏板28が接合部16を摩擦熱によって加熱し、接合ツール18が接合部16の金属を塑性流動させて攪拌することにより、金属材12,14を接合することができる。接合ツール18およびそのプローブ20、並びに加熱裏板28が使用によって磨耗した場合は、適宜、交換することによって、接合を続行することができる。
【0024】
本実施形態では、接合部16の表面側から接合ツール18を挿入し、接合部16の裏面側に加熱裏板28を接合ツール18と対向するように当接させ、接合ツール18と加熱裏板28とを回転させるため、接合部16の裏面側を加熱しつつ金属材12,14を摩擦攪拌接合することができる。接合部16の裏面側は加熱裏板28との摩擦により直接的に熱を与えられるため、ヒータ等の手段により間接的に熱を与えられる場合に比べて効率良く接合部16の裏面側を加熱することができる。その結果、接合部の表面側と裏面側とで攪拌の度合いが等しくなり、欠陥が発生しにくくなり、接合強度が安定して高強度となる継手が作成できる。本実施形態の方法は、特に炭素鋼やステンレス鋼等の高融点金属を接合する際に効力を発揮する。また、より高い接合速度であっても高強度となる継手が作成できる。
【0025】
また本実施形態では、接合ツール18と加熱裏板28とのそれぞれが金属材12,14に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツール18と加熱裏板28とを互いに逆方向に回転させる。そのため、本来、接合ツールから被接合物に加えられるトルクのために、被接合物を保持するために大規模な固定具等が必要な摩擦攪拌接合において、被接合物を簡易な手法で保持することができる。さらに、接合ツール18と加熱裏板28とを逆に回転させることから、攪拌効率が向上し、結合力を持たない密着した割れ面であるキッシングボンドの発生も防止できる。
【0026】
さらに本実施形態では、加熱裏板28が接合部16の裏面側に当接しつつ回転し、加熱裏板28と接合部16との間の摩擦力が動摩擦係数で算出される小さいものとなるため、固定されたヒータ等を接合部16に当接させた場合に比べて小さな力で加熱裏板28を接合部16に沿って移動させることができる。
【0027】
なお、本実施形態の金属材の接合方法は、図5に示すように、鉄道車両構体100の側面外板及び屋根の接合に適用することができる。また、本実施形態の金属材の接合方法は、図6に示すように、タンクローリ102の胴板の接合に適用することができる。さらに、本実施形態の金属材の接合方法は、図7に示すように、立体駐車装置のパレット104の接合に適用することができる。図8に示すように、コンテナ106の外板及び内壁の接合に適用することができる。
【0028】
図3は、本発明の第2実施形態に係る携帯式接合装置を示す斜視図である。図3に示すように、本実施形態の携帯式接合装置10bは、第1実施形態の定置式接合装置10aとほぼ同等の構成要素を備えるが、装置の大きさは作業者が持ち運ぶことが可能な程度の大きさであり、作業者が保持することができるようにストラップ40が設けられている点が第1実施形態の定置式接合装置10aと異なっている。本実施形態の携帯式接合装置10bは、接合ツール18と加熱裏板28とのそれぞれが金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように接合ツール18と加熱裏板28とを互いに逆方向に回転させるため、携帯式接合装置10bや被加工物の保持に大きな力を必要とせず、大規模な固定具等がなくとも人力で作業を行うことが可能である。このため、狭い箇所の補修等の作業に極めて有益な物となる。
【0029】
図4は、本発明の第3実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。図4に示すように、本実施形態では、金属材12,14同士を接合部16において重ね合わせ、金属材12を通して接合部16に接合ツール18を挿入し、接合ツール18を回転させて金属材12,14同士を接合する。同様にして、他の箇所にも順次接合ツール18を挿入して回転させることにより、広い接合部16においても摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0030】
尚、本発明の金属材の接合方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、接合ツールと加熱裏板とを互いに逆方向に回転させる態様を中心に説明したが、本発明はこれに限定されず、接合ツールと加熱裏板とを互いに同方向に回転させた方が良好な接合部を得ることができる場合には、両者を同方向に回転させても良く、このような態様も本発明の範囲に含まれる。
【0031】
また、上記実施形態では、2つの金属材を接合する態様を中心に説明したが、本発明は、金属材の接合は行わず、金属材の改質に適用することもできる。例えば、一つの金属材に接合ツールと加熱裏板とを対向するように当接させ、接合ツールと加熱裏板とを回転させることにより、塑性流動により金属材を改質させることができる。
【0032】
(実験例1)
図9に示す条件でステンレス鋼であるSUS304の板材の接合を行った。一方は、固定定盤上で接合ツール18を接合部16の表面側のみから挿入して、回転する加熱裏板28を用いないで接合を行った(通常接合)。もう一方は、本発明の接合方法により、接合ツール18と加熱裏板28を用いて接合を行った(両面接合)。
【0033】
図10(a)はステンレス鋼の通常片面接合における接合部16の縦断面を示す図であり、図10(b)は図10(a)の拡大視である。また、図11(a)はステンレス鋼の両面接合における接合部16の縦断面を示す図であり、図11(b)は図11(a)の拡大視である。図10(b)に示すように、通常接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドと呼ばれる結合力を持たない密着した割れ面が生じていることが判る。一方、図11(b)に示すように、本発明の両面接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドが発生していないことが判る。
【0034】
図12は、ステンレス鋼における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。図12に示すように、通常接合での引張強さは684MPaであるのに対し、両面接合の引張強さは734MPaと大幅に向上していることが判る。
【0035】
(実験例2)
図13に示す条件でアルミニウム合金であるA6N01の板材の接合を行った。一方は、固定定盤上で接合ツール18を接合部16の表面側のみから挿入して、回転する加熱裏板28を用いないで接合を行った(通常接合)。もう一方は、本発明の接合方法により、接合ツール18と加熱裏板28を用い、加熱裏板28の回転速度を変化させて接合を行った(両面接合)。
【0036】
図14(a)はアルミニウム合金の通常片面接合における接合部の縦断面を示す図であり、図14(b)は図14(a)の拡大視である。また、図15(a)はアルミニウム合金の両面接合における接合部の縦断面を示す図であり、図15(b)は図15(a)の拡大視である。図14(b)に示すように、通常接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドと呼ばれる結合力を持たない密着した割れ面が生じていることが判る。一方、図15(b)に示すように、本発明の両面接合による接合部16には、裏面側にキッシングボンドが発生していないことが判る。
【0037】
図16は、アルミニウム合金における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。図16に示すように、通常接合での引張強さに対し、両面接合の引張強さは、いずれの加熱裏板28の回転速度においても大幅に向上していることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る定置式接合装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る携帯式接合装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る金属材の接合方法の基本的な概念を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る金属材の接合方法を鉄道車両の側面外板及び屋根に適用した例を示す斜視図である。
【図6】第1実施形態に係る金属材の接合方法をタンクローリの胴板に適用した例を示す斜視図である。
【図7】第1実施形態に係る金属材の接合方法を立体駐車装置のパレットに適用した例を示す斜視図である。
【図8】第1実施形態に係る金属材の接合方法をコンテナの外板及び内壁に適用した例を示す斜視図である。
【図9】実験例1に係るステンレス鋼の接合条件を示した表である。
【図10】(a)はステンレス鋼の通常片面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図11】(a)はステンレス鋼の両面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図12】ステンレス鋼における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。
【図13】実験例1に係るアルミニウム合金の接合条件を示した表である。
【図14】(a)はアルミニウム合金の通常片面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図15】(a)はアルミニウム合金の両面接合における接合部の縦断面を示す図であり、(b)は(a)の拡大視である。
【図16】アルミニウム合金における通常片面接合と両面接合の引張強さを比較したグラフ図である。
【符号の説明】
【0039】
10a…定置式接合装置、10b…携帯式接合装置、12,14…金属材、16…接合部、18…接合ツール、20…プローブ、22…接合ツール駆動部、24…接合ツール回転方向、26…接合ツール移動方向、28…加熱裏板、30…加熱裏板駆動部、32…加熱裏板回転方向、34…加熱裏板移動方向、36…制御部、38…基部、40…ストラップ、100…鉄道車両構体、102…タンクローリ、104…パレット、106…コンテナ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの金属材を接合部において対向させ、前記接合部の一方の側から棒状の接合ツールを挿入し、前記接合部の他方の側に加熱裏板を前記接合ツールと対向するように当接させ、前記接合ツールと前記加熱裏板とを回転させて、前記2つの金属材を接合する金属材の接合方法。
【請求項2】
前記接合ツールと前記加熱裏板とをそれぞれ逆方向に回転させる、請求項1に記載の金属材の接合方法。
【請求項3】
前記接合ツール及び前記加熱裏板のそれぞれが前記2つの金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように前記接合ツールと前記加熱裏板の回転速度を制御しながら回転させる、請求項2に記載の金属材の接合方法。
【請求項1】
2つの金属材を接合部において対向させ、前記接合部の一方の側から棒状の接合ツールを挿入し、前記接合部の他方の側に加熱裏板を前記接合ツールと対向するように当接させ、前記接合ツールと前記加熱裏板とを回転させて、前記2つの金属材を接合する金属材の接合方法。
【請求項2】
前記接合ツールと前記加熱裏板とをそれぞれ逆方向に回転させる、請求項1に記載の金属材の接合方法。
【請求項3】
前記接合ツール及び前記加熱裏板のそれぞれが前記2つの金属材に与えるトルクを互いに相殺し合うように前記接合ツールと前記加熱裏板の回転速度を制御しながら回転させる、請求項2に記載の金属材の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図16】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図16】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−137075(P2008−137075A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286377(P2007−286377)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
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