説明

金属材料の異材判定方法及び装置

【課題】金属材料に異材が存在するか否かをインラインで自動的に精度良く判定可能な異材判定方法等を提供する。
【解決手段】本発明に係る異材判定方法は第1〜第4ステップを含む。第1ステップ:基準材の検査信号の変動範囲をα0(α0>1)倍した範囲で規定される初期判定領域L0を演算し、最初の被判定材に対する判定領域Lとする。第2ステップ:被判定材が判定領域L内にあれば適正材と判定する。また、基準材及び適正材の検査信号の変動範囲をα1(α0>α1>1)倍した範囲で規定される判定領域L1を演算し、両判定領域L0、L1を包含する領域を次の被判定材に対する判定領域Lとする。被判定材が判定領域L内に無ければ判定保留材とする。第3ステップ:第2ステップを最後の被判定材まで繰り返す。第4ステップ:判定保留材の検査信号が最後の判定領域L内にあれば適正材であると判定し、最後の判定領域L内に無ければ異材であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒鋼や鋼管等の金属材料に異材が存在するか否かをインライン(例えば棒鋼の整備ライン)で自動的に精度良く判定することができる異材判定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、棒鋼の量産工場では、多種多様の棒鋼が製造されている。この棒鋼が製造される過程(搬送される過程)においては、他の製造ロットに含まれる材質の異なる棒鋼(異材)が混入するおそれがある。
【0003】
客先の要求仕様(材質)を満足する棒鋼を出荷する必要があるのみならず、棒鋼1本毎の製造履歴を明確にする要求が増加している昨今の状況に鑑みれば、異材の有無を精度良く判定することが望まれている。
【0004】
異材の有無を判定する方法として、従来より、作業員が棒鋼の端部をグラインダーで研削し、発生した火花を目視観察して材質を判定する火花検査が広く実施されている。しかしながら、この火花検査を全ての棒鋼について実施することは効率が悪い上、官能検査であるために、判定結果が作業員の技能に左右され易く、安定した判定精度が得られるとは言い難い。
【0005】
また、棒鋼に異材が存在するか否かをインラインで自動的に判定できる方法として、特許文献1に記載の方法が提案されている。具体的には、特許文献1には、検査対象材に臨ませたコイルのインピーダンスを検出することにより検査対象材の材質を弁別する方法において、相異なる2周波数での標準材のインピーダンスを、直流磁場を印加した状態で、標準材とコイルとの距離を異ならせて2回測定し、前記2周波数夫々における第1回、第2回の測定値のベクトル差信号を求め、両差信号の差がゼロとなる信号処理条件を求めておき、この条件下にて、前同様の直流磁場を検査対象材に印加した状態の2周波数での各インピーダンスを測定し、この測定信号に基づき異材を弁別することを特徴とする異材弁別方法が記載されている(特許文献1の請求項2)。
【0006】
特許文献1に記載の方法では、検査対象材に直流磁場を印加して磁気飽和させるため、検査終了後に脱磁を行う工程が必要となり、効率が悪いという問題がある。
【0007】
また、棒鋼に異材が存在するか否かをインラインで自動的に判定できる方法として、特許文献2に記載の方法も提案されている。具体的には、特許文献2には、棒鋼群に含まれる一の基準棒鋼がコイルを通過することで生じる渦電流に基づき、基準データが得られる工程、この棒鋼群に含まれる他の棒鋼がコイルを通過することで生じる渦電流に基づき、対比データが得られる工程、この対比データが得られる工程の前後に、この基準データに基づき閾値が設定される工程及びこの対比データがこの閾値と対比されることにより、この他の棒鋼の組成の、この基準棒鋼の組成との同一性が判定される工程を含む棒鋼群の検査方法が記載されている(特許文献2の請求項3)。より具体的には、特許文献2に記載の方法では、内側を棒鋼が通過するコイルのインピーダンス(実数部が直流抵抗、虚数部がリアクタンス)が識別データとして計測される(特許文献2の段落0017)。そして、棒鋼群に含まれる一の基準棒鋼である最初の棒鋼の識別データ(基準データ)が計測され、この基準データを中心とする矩形状の領域を区画する閾値が設定される(特許文献2の段落0021、0022、図3)。棒鋼群に含まれる他の棒鋼の識別データ(対比データ)が、前記閾値で区画される領域の内側に位置するとき、この対比データが得られた棒鋼の組成は基準棒鋼の同一の組成であると判定される。対比データが前記閾値で区画される領域の外側に位置するとき、この対比データが得られた棒鋼の組成は基準棒鋼の組成とは異なる(異材である)と判定される(特許文献2の段落0023〜0029、図4、図5)。
【0008】
特許文献2に記載の方法では、上記のように、一の棒鋼の識別データに基づいて設定した固定の閾値を用いて異材判定を行っている。特許文献2にも記載のように、計測された識別データ(コイルのインピーダンス)は、導電率及び透磁率のような棒鋼の組成に関わる因子の他、実際にはコイルの品質や温度の影響も受ける(特許文献2の段落0024)。また、一般的に、棒鋼は整備ラインで矯正されるが、コイルのインピーダンスは、その棒鋼の矯正の度合いにも影響される。従って、同一の材質の棒鋼群であっても、コイルのインピーダンスのバラツキが比較的大きくなるため、閾値を決定するための基準となる一の棒鋼(最初の棒鋼)の識別データ(コイルのインピーダンス)が同一の材質の棒鋼群を代表する(同一材質の棒鋼群の識別データ分布の中心となる)識別データとなっている保証が無い。例えば、同一材質の棒鋼群の識別データ分布の端に位置する識別データを基準データとしてしまうと、良好な判定精度を得ることができない。すなわち、同一材質の棒鋼群の全ての識別データが当該基準データ(同一材質の棒鋼群の識別データ分布の端に位置する識別データ)を中心とする矩形状の領域の内側に位置し得るように、当該領域を過度に大きく設定すると、当該領域の内側に他の材質の棒鋼の識別データが位置する可能性が高まってしまう(異材を異材でないと誤判定する可能性が高まる)。一方、これを避けるために当該領域を過度に小さく設定すると、当該領域の内側に同一材質の棒鋼の識別データが位置しなくなる可能性が高まってしまう(異材でないのに異材であると誤判定する可能性が高まる)。
【0009】
さらに、棒鋼に異材が存在するか否かをインラインで自動的に判定できる装置として、いわゆるパルス渦流検査法を用いて異材判定を行う装置が、日本ウェルスター株式会社より市販されている。パルス渦流検査法は、被判定材に臨ませたコイルにパルス電流を供給すると、被判定材中に誘起される渦電流が理論的には無限の周波数列を有するので、コイルから出力される検査信号の電圧は無限の周波数帯域の電圧に分解でき、無限の試験周波数を使用して渦流検査を行うのと同等の結果を得ることができるというものである。そして、このパルス渦流検査法を用いた異材判定装置を棒鋼の異材判定に用いる場合、該判定装置は、予め異材ではないことが確認された複数の棒鋼を基準材として用いた場合に、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα0(ただし、α0>1、例えばα0=3.5)倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα0倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲とで規定される判定領域を演算する。そして、該判定装置は、被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域内にある場合、当該被判定材は異材ではないと判定する一方、被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域内に無い場合、当該被判定材は異材であると判定する。
【0010】
以上に説明したパルス渦流検査法を用いた従来の異材判定装置では、特許文献2に記載の方法と異なり、単一ではなく複数の基準材の検査信号を用いて判定領域を演算する点で、良好な判定精度を得ることが期待できる。しかしながら、特許文献2に記載の方法と同様に、従来の異材判定装置では、演算した判定領域が固定的に用いられる点に問題がある。得られる検査信号(ピーク振幅、ピーク振幅における位相)は、導電率及び透磁率のような棒鋼の組成に関わる因子の他、実際にはコイルの品質や温度、棒鋼の矯正の度合いにも影響される。従って、同一の材質の棒鋼であっても、得られる検査信号のバラツキは比較的大きくなるため、基準材の検査信号が同一の材質の棒鋼群を代表する(同一材質の棒鋼群の検査信号分布の中心となる)検査信号となっている保証が無い。例えば、同一材質の棒鋼群の検査信号分布の端に位置する検査信号に基づき判定領域を演算してしまい、この演算した判定領域を固定的に用いると、良好な判定精度を得ることができない。すなわち、同一材質の棒鋼群の全ての検査信号が判定領域内に位置するように当該判定領域を過度に大きく設定する(α0の値を過度に大きく設定する)と、当該判定領域内に他の材質の棒鋼の検査信号が位置する可能性が高まってしまう(異材を異材でないと誤判定する可能性が高まる)。一方、これを避けるために当該判定領域を過度に小さく設定する(α0の値を過度に小さく設定する)と、当該判定領域内に同一材質の棒鋼の検査信号が位置しなくなる可能性が高まってしまう(異材でないのに異材であると誤判定する可能性が高まる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−262052号公報
【特許文献2】特開2008−93629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、棒鋼や鋼管等の金属材料に異材が存在するか否かをインライン(例えば棒鋼の整備ライン)で自動的に精度良く判定することができる異材判定方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、金属材料を渦流検査することで得られる検査信号に基づき、該金属材料が異材であるか否かを判定する金属材料の異材判定方法であって、以下の第1〜第4ステップを含むことを特徴とする。
(1)第1ステップ:予め異材ではないことが確認された複数の金属材料を基準材として用い、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα0(ただし、α0>1)倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα0倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲とで規定される初期判定領域L0を演算し、当該初期判定領域L0を最初の被判定材である金属材料に対する判定領域Lとする。
(2)第2ステップ:被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内にある場合、当該被判定材は異材ではないと判定すると共に、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα1(ただし、α0>α1>1)倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα1倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα1倍した範囲とで規定される判定領域L1を演算し、前記初期判定領域L0と前記判定領域L1とを比較して、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新する一方、当該被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内に無い場合、当該被判定材を判定保留材とすると共に、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域Lを次の被判定材に対する判定領域Lとして維持する。
(3)第3ステップ:前記第2ステップを最初の被判定材から最後の被判定材まで繰り返す。
(4)第4ステップ:前記第2ステップ及び前記第3ステップにおいて判定保留材とされた金属材料の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が、最後の被判定材を渦流検査し終えた時点での最後の判定領域L内にあれば、当該判定保留材は異材ではないと判定し、前記最後の判定領域L内に無ければ、当該判定保留材は異材であると判定する。
【0014】
本発明によれば、第1ステップにおいて、予め異材ではないことが確認された(例えば、発光分光分析装置により成分を分析することにより、異材ではないことが確認された)複数の金属材料を基準材として用い、各基準材について得られた検査信号の変動範囲(ピーク振幅の変動範囲、ピーク振幅における位相の変動範囲、ピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲)をα0倍した範囲で規定される初期判定領域L0を演算し、当該初期判定領域L0を最初の被判定材である金属材料に対する判定領域Lとする。この点は、前述した従来の市販の異材判定装置と同様である。ただし、従来の異材判定装置では、この初期判定領域L0を全ての被判定材に対する判定領域Lとして固定的に用いるのに対し、本発明では、後述する第2ステップ及び第3ステップによって判定領域Lが変動し得る点で異なる。
【0015】
次に、本発明によれば、第2ステップにおいて、まず被判定材の検査信号(ピーク振幅及び該ピーク振幅における位相)が判定領域L内にある場合、当該被判定材は異材ではないと判定される。具体的には、最初の被判定材については、その検査信号が初期判定領域L0内にある場合、当該最初の被判定材は異材ではないと判定される。また、2本目以降の被判定材については、その検査信号が、後述のように更新された新たな判定領域L又は維持された判定領域L内にある場合、当該被判定材は異材ではないと判定される。
また、第2ステップにおいて、被判定材の検査信号が判定領域L内にある場合(当該被判定材が異材ではないと判定された場合)、各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号の変動範囲をα1倍した範囲で規定される判定領域L1を演算する。具体的には、最初の被判定材が異材ではないと判定された場合、各基準材及び最初の被判定材について得られた検査信号の変動範囲をα1倍した範囲で規定される判定領域L1が演算される。また、2本目の被判定材及び最初の被判定材が異材ではないと判定された場合、各基準材、2本目及び最初の被判定材について得られた検査信号の変動範囲をα1倍した範囲で規定される判定領域L1が演算される。そして、初期判定領域L0と判定領域L1とを比較して、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新する。例えば、初期判定領域L0が判定領域L1を包含していれば(初期判定領域L0の方が判定領域L1よりも広ければ)、初期判定領域L0が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。また、判定領域L1が初期判定領域L0を包含していれば(判定領域L1の方が初期判定領域L0よりも広ければ)、判定領域L1が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。さらに、初期判定領域L0と判定領域L1とが部分的に重なり合う領域を有していれば、初期判定領域L0と判定領域L1とを合成した領域が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。例えば、初期判定領域L0及び判定領域L1の位相方向(図5のX方向)とピーク振幅方向(図5のY方向)の拡がりを比較したときに、位相方向に対しては初期判定領域L0の方が判定領域L1より広くなる一方、ピーク振幅方向に対しては判定領域L1の方が初期判定領域L0より広くなるような場合には、初期判定領域L0と判定領域L1とを合成した領域が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。従って、たとえ基準材の検査信号が同一の材質の金属材料群を代表する検査信号となっていなかったとしても(初期判定領域L0が同一の材質の金属材料群の検査信号の変動範囲を精度良く表していなかったとしても)、上記のように、異材ではないと判定された被判定材の検査信号をも用いて判定領域L1を演算し、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新することにより、同一の材質の金属材料群の検査信号の変動範囲が精度良く表された判定領域Lとすることが可能である。また、α1がα0よりも小さな値に設定されることにより、判定領域Lが過度に大きくなることを防止可能である。
【0016】
一方、第2ステップにおいて、被判定材の検査信号が判定領域L内に無い場合、当該被判定材が異材であるか否かの判定を直ちには行わずに判定保留材とすると共に、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域Lを次の被判定材に対する判定領域Lとして維持する。このように、被判定材の検査信号が判定領域L内に無い場合(当該被判定材が異材であるか否かが確定していない場合)、当該被判定材の検査信号を次の被判定材に対する判定領域Lの演算には用いないことにより、精度良く判定領域Lを決定することが可能である。
【0017】
次に、本発明によれば、第3ステップにおいて、第2ステップを最初の被判定材から最後の被判定材まで繰り返す。これにより、判定領域Lは、更新又は維持を繰り返し、最終的に同一の材質の金属材料群の検査信号の変動範囲に応じた精度の良い判定領域Lが確定することが期待できる。
【0018】
最後に、本発明によれば、第4ステップにおいて、判定保留材の検査信号が、最後の被判定材を渦流検査し終えた時点での最後の判定領域L(つまり、最後の被判定材の検査信号が当該被判定材を渦流検査した際の判定領域L内にあれば、次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新された判定領域Lが最後の判定領域Lとなる。一方、最後の被判定材の検査信号が当該被判定材を渦流検査した際の判定領域L内に無ければ、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域L(維持された判定領域L)が最後の判定領域Lとなる)内にあれば、当該判定保留材は異材ではないと判定し、最後の判定領域L内に無ければ、当該判定保留材は異材であると判定する。このように判定保留材の異材判定を直ちに行わず、判定保留材の検査信号が、精度良く決定された最後の判定領域L内にあるか無いかで異材判定を行うことにより、精度の良い異材判定が可能となる。
【0019】
好ましくは、前記α0は、2.5を超え3.5以下の値(例えば3.5)に設定され、前記α1は、2.0以上2.5以下の値(例えば2.5)に設定される。α0、α1を上記のような範囲に設定することにより、異材判定をより一層精度良く行うことが可能である。
【0020】
例えば、前記渦流検査は、金属材料を貫通させる貫通コイルにパルス電流を供給することによって実施される。
【0021】
また、前記課題を解決するため、本発明は、金属材料を渦流検査するための渦流検査装置と、前記渦流検査装置から出力される検査信号に基づき、前記金属材料が異材であるか否かを判定する判定部とを備える金属材料の異材判定装置であって、前記判定部は、以下の第1〜第4ステップを実行することを特徴とする金属材料の異材判定装置としても提供される。
(1)第1ステップ:予め異材ではないことが確認された複数の金属材料を基準材として用いた場合に、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα0(ただし、α0>1)倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα0倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲とで規定される初期判定領域L0を演算し、当該初期判定領域L0を最初の被判定材である金属材料に対する判定領域Lとする。
(2)第2ステップ:被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内にある場合、当該被判定材は異材ではないと判定すると共に、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα1(ただし、α0>α1>1)倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα1倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα1倍した範囲とで規定される判定領域L1を演算し、前記初期判定領域L0と前記判定領域L1とを比較して、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新する一方、当該被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内に無い場合、当該被判定材を判定保留材とすると共に、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域Lを次の被判定材に対する判定領域Lとして維持する。
(3)第3ステップ:前記第2ステップを最初の被判定材から最後の被判定材まで繰り返す。
(4)第4ステップ:前記第2ステップ及び前記第3ステップにおいて判定保留材とされた金属材料の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が、最後の被判定材を渦流検査し終えた時点での最後の判定領域L内にあれば、当該判定保留材は異材ではないと判定し、前記最後の判定領域L内に無ければ、当該判定保留材は異材であると判定する。
【0022】
好ましくは、前記α0は、2.5を超え3.5以下の値に設定され、前記α1は、2.0以上2.5以下の値に設定される。
【0023】
好ましくは、前記渦流検査装置は、金属材料を貫通させる貫通コイルと、該貫通コイルにパルス電流を供給する電流供給部とを備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、棒鋼や鋼管等の金属材料に異材が存在するか否かをインライン(例えば棒鋼の整備ライン)で自動的に精度良く判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る異材判定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す異材判定装置の判定部が実行する動作を説明するフロー図である。
【図3】図3は、図2に示す次の被判定材に対する判定領域の演算手順を具体的に説明するフロー図である。
【図4】図4は、図2に示す初期判定領域の演算手順を説明する説明図である。
【図5】図5は、図1に示す異材判定装置の判定部が実行する第2ステップを説明する説明図である。
【図6】図6は、図1に示す異材判定装置の判定部が実行する第4ステップを説明する説明図である。
【図7】図7は、図1に示す異材判定装置の判定結果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、棒鋼の整備ラインに適用する場合を例に挙げて説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る異材判定装置の概略構成を示す図である。図1(a)は異材判定装置の概略構成を示す模式図であり、図1(b)は図1(a)に示す異材判定装置の渦流検査器から出力されるピーク振幅及び該ピーク振幅における位相を説明する説明図である。また、図2は、図1に示す異材判定装置の判定部が実行する動作を説明するフロー図である。図3は、図2に示す次の被判定材に対する判定領域の演算手順を具体的に説明するフロー図である。
図1(a)に示すように、本実施形態に係る異材判定装置100は、整備ライン上を軸方向(図1(a)に示す白抜き矢符方向)に搬送される棒鋼Bを渦流検査するための渦流検査装置1と、渦流検査装置1から出力される検査信号(具体的には、検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相)に基づき、棒鋼Bが異材であるか否かを判定する判定部2とを備えている。
【0028】
渦流検査装置1は、棒鋼Bを貫通させる貫通コイル11と、貫通コイル11に接続された渦流検査器12とを備えている。渦流検査器12は、貫通コイル11にパルス電流を供給する電流供給部121と、前記パルス電流によって棒鋼Bに誘起された渦電流によって生じる貫通コイル11のインピーダンス変化を検査信号として検出し、該検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相を出力する信号処理部122とを具備する。信号処理部122は、増幅器、同期検波器、位相回転器、フィルタ、A/D変換器等を具備し、公知の手法により、検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相を抽出して、判定部2に出力する。
【0029】
図1(b)に示すように、検査信号のピーク振幅は、貫通コイル11から出力される検査信号波形の最も大きな振幅を意味する。また、該ピーク振幅における位相は、貫通コイル11内に棒鋼Bが存在しない場合に得られる検査信号の位相(時間)を基準として、ピーク振幅が得られる位相と、前記基準との位相差(時間差)で表される。
【0030】
判定部2は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータと、該コンピュータにインストールされ、以下に説明する各ステップを実行するプログラムとによって構成される。以下、判定部2が実行する各ステップについて順次説明する。
【0031】
<第1ステップ>
本ステップでは、まず最初に、予め異材ではないことが確認された複数(本実施形態では5本)の棒鋼Bを基準材として用いた場合に、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲を1より大きい値であるα0(本実施形態ではα0=3.5)倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα0倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲とで規定される初期判定領域L0を演算する(図2のS1)。以下、図4を参照して、初期判定領域L0の演算手順を具体的に説明する。
【0032】
図4は、初期判定領域L0の演算手順を説明する説明図である。ここで、5本の各基準材について得られた検査信号のピーク振幅をそれぞれY01〜Y05とし、ピーク振幅における位相(以下、適宜、単に「位相」と称する)をそれぞれX01〜X05とする。
まず、図4(a)に示すように、5本の各基準材について得られた検査信号のピーク振幅Y01〜Y05の変動範囲をα0倍した範囲を演算する。具体的には、まず最初に、ピーク振幅Y01〜Y05の最大値Ymax及び最小値Yminを演算する。図4(a)に示す例では、Ymax=Y05となり、Ymin=Y01となる。次に、以下の式(1)に基づき、ピーク振幅Y01〜Y05の中心値Ymidを演算する。
Ymid=(Ymax+Ymin)/2 ・・・(1)
そして、以下の式(2)及び(3)に基づき、上限しきい値Yu及び下限しきい値Ylを演算する。
Yu=Ymid+(Ymax−Ymin)/2×α0 ・・・(2)
Yl=Ymid−(Ymax−Ymin)/2×α0 ・・・(3)
以上の演算により、5本の各基準材について得られた検査信号のピーク振幅Y01〜Y05の変動範囲をα0倍した範囲、すなわち、上限しきい値Yu及び下限しきい値Ylで区画される範囲が決定される。
【0033】
次に、図4(b)に示すように、5本の各基準材について得られた検査信号の位相X01〜X05の変動範囲をα0倍した範囲を演算する。具体的には、まず最初に、位相X01〜X05の最大値Xmax及び最小値Xminを演算する。図4(b)に示す例では、Xmax=X05となり、Xmin=X01となる。次に、以下の式(4)に基づき、位相X01〜X05の中心値Xmidを演算する。
Xmid=(Xmax+Xmin)/2 ・・・(4)
そして、以下の式(5)及び式(6)に基づき、上限しきい値Xu及び下限しきい値Xlを演算する。
Xu=Xmid+(Xmax−Xmin)/2×α0 ・・・(5)
Xl=Xmid−(Xmax−Xmin)/2×α0 ・・・(6)
以上の演算により、5本の各基準材について得られた検査信号の位相X01〜X05の変動範囲をα0倍した範囲、すなわち、上限しきい値Xu及び下限しきい値Xlで区画される範囲が決定される。
【0034】
次に、図4(c)に示すように、5本の各基準材について得られた検査信号のピーク振幅Y01〜Y05と位相X01〜X05との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲を演算する。具体的には、まず最初に、5本の各基準材について得られた検査信号のピーク振幅Y01〜Y05と位相X01〜X05との回帰直線Gmidを最小自乗法を用いて演算する。すなわち、回帰直線GmidをY=aX+bで表すと、傾きaは以下の式(7)で表され、Y切片bは以下の式(8)で表される。
【数1】

なお、上記の式(7)、(8)において、Nは基準材の本数(本実施形態では5本)を意味し、Σはi=1〜Nまでの総和を演算することを意味する。
次に、以下の式(9)に示すように、5本の各基準材について得られた検査信号の何れかのデータ点(X0i,Y0i)と、回帰直線Gmid上の点(X0i,a・X0i+b)との差の絶対値の最大値bmaxを演算する。
bmax=max[abs{Y0i−(a・X0i+b)}]・・・(9)
なお、上記の式(9)において、max[ ]は、[ ]内の値のi=1〜Nまでの最大値を演算することを意味し、abs{ }は{ }内の値の絶対値を演算することを意味する。
5本の各基準材について得られた検査信号のピーク振幅Y01〜Y05と位相X01〜X05との相関関係の変動範囲は、以下の式(10)で表される上限直線Gmaxと、式(11)で表される下限直線Gminとで区画される範囲となる。
Y=aX+b+bmax ・・・(10)
Y=aX+b−bmax ・・・(11)
そして、以下の式(12)で表される上限しきい値直線Guと、式(13)で表される下限しきい値直線Glとを演算する。
Y=aX+b+α0・bmax ・・・(12)
Y=aX+b−α0・bmax ・・・(13)
以上の演算により、5本の各基準材について得られた検査信号のピーク振幅Y01〜Y05と位相X01〜X05との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲、すなわち、上限しきい値直線Gu及び下限しきい値直線Glで区画される範囲が決定される。
【0035】
最後に、図4(d)に示すように、上限しきい値Yu、下限しきい値Yl、上限しきい値Xu、下限しきい値Xl、上限しきい値直線Gu及び下限しきい値直線Glで区画される範囲(上限しきい値Yu及び下限しきい値Ylで区画される範囲と、上限しきい値Xu及び下限しきい値Xlで区画される範囲と、上限しきい値直線Gu及び下限しきい値直線Glで区画される範囲とが重なり合う範囲)が初期判定領域L0として決定される。
【0036】
本ステップでは、以上のようにして演算された初期判定領域L0が、最初の被判定材である棒鋼Bに対する判定領域Lとして設定される(図2のS2)。
【0037】
<第2ステップ>
以下、図3及び図5も適宜参照しつつ、判定部2が実行する第2ステップについて説明する。本ステップでは、まず最初に、被判定材の検査信号のピーク振幅及び位相が判定領域L内にあるか否かが判断される(図2のS3)。最初の被判定材については、この判定領域Lは初期判定領域L0に等しい。
そして、被判定材の検査信号のピーク振幅及び位相が判定領域L内にある場合には、当該被判定材は異材ではない(適正材である)と判定する(図2のS4)。また、基準材の検査信号及び当該被判定材(適正材)の検査信号を用いて、次の被判定材に対する新たな判定領域Lを演算する(図2のS5)。以下、次の被判定材に対する新たな判定領域Lの演算手順を具体的に説明する。
【0038】
次の被判定材に対する新たな判定領域Lの演算においては、まず最初に、α1を用いて判定領域L1を演算する(図3のS51)。具体的には、各基準材及び適正材であると判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲を1より大きくα0より小さい値であるα1(本実施形態ではα1=2.5)倍した範囲と、各基準材及び適正材であると判定された被判定材について得られた検査信号の位相の変動範囲をα1倍した範囲と、各基準材及び適正材であると判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅と位相との相関関係の変動範囲をα1倍した範囲とで規定される判定領域L1を演算する。基準材の検査信号だけではなく適正材であると判定された被判定材の検査信号をも用いて演算する点と、α0ではなくこれよりも小さな値であるα1を用いて演算する点とを除けば、判定領域L1の演算手順は、前述した初期判定領域L0の演算手順と同様であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0039】
次に、初期判定領域L0と判定領域L1とを比較し(図3のS52)、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとする(図3のS53)。例えば、図5(a)に示すように、各基準材(白丸でプロットしたデータ)及び適正材であると判定された被判定材(黒丸でプロットしたデータ)について得られた検査信号に基づいて演算された判定領域L1が、初期判定領域L0に包含されていれば、初期判定領域L0が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。また、図5(b)に示すように、演算された判定領域L1が、初期判定領域L0を包含していれば、判定領域L1が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。なお、図示していないが、初期判定領域L0と判定領域L1とが部分的に重なり合う領域を有していれば、初期判定領域L0と判定領域L1とを合成した領域が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。例えば、初期判定領域L0及び判定領域L1の位相方向(図5のX方向)とピーク振幅方向(図5のY方向)の拡がりを比較したときに、位相方向に対しては初期判定領域L0の方が判定領域L1より広くなる一方、ピーク振幅方向に対しては判定領域L1の方が初期判定領域L0より広くなるような場合には、初期判定領域L0と判定領域L1とを合成した領域が次の被判定材に対する判定領域Lとされる。
【0040】
以上のようにして次の被判定材に対する新たな判定領域Lを演算(図2のS5)した後、本ステップでは、現在の被判定材が最後の被判定材で無い場合(図2のS6のNo)に、演算した判定領域Lを次の被判定材に対する判定領域Lとして設定する(図2のS2)。
【0041】
従って、たとえ基準材の検査信号が同一の材質の棒鋼群を代表する検査信号となっていなかったとしても(初期判定領域L0が同一の材質の棒鋼群の検査信号の変動範囲を精度良く表していなかったとしても)、上記のように、適正材であると判定された被判定材の検査信号をも用いて判定領域L1を演算し、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新することにより、同一の材質の棒鋼群の検査信号の変動範囲が精度良く表された判定領域Lとすることが可能である。また、α1がα0よりも小さな値に設定されることにより、判定領域Lが過度に大きくなることを防止可能である。
【0042】
一方、本ステップでは、被判定材の検査信号のピーク振幅及び位相が判定領域L内にあるか否かが判断された結果(図2のS3)、判定領域L内に無い場合には、当該被判定材を判定保留材とする(図2のS7)。また、この場合には、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域(現在の判定領域)Lをそのまま次の被判定材に対する判定領域Lとして設定する(図2のS2)。つまり、図5(c)に示すように、判定保留材(黒丸でプロットしたデータ)の検査信号は、次の被判定材に対する判定領域Lの演算には用いられない。
【0043】
このように、被判定材の検査信号が判定領域L内に無い場合(当該被判定材が異材であるか否かが確定していない場合)、当該被判定材の検査信号を次の被判定材に対する判定領域Lの演算には用いないことにより、精度良く判定領域を決定することが可能である。
【0044】
<第3ステップ>
本ステップでは、前述した第2ステップを最初の被判定材から最後の被判定材まで繰り返す。具体的には、図2に示すS2〜S7の各ステップが、現在の被判定材が最後の被判定材となる(図2のS6のYes)まで繰り返し実行される。なお、判定部2には、上位のプロセスコンピュータ等から被判定材に関する情報が入力されるように構成され、判定部2は、この入力された情報に基づき、現在の被判定材が最後の被判定材であるか否かを認識可能である。
【0045】
<第4ステップ>
本ステップでは、第2ステップ及び第3ステップにおいて判定保留材とされた棒鋼の検査信号のピーク振幅及び位相が、最後の被判定材を渦流検査し終えた時点での最後の判定領域L内にあるか否かが判断される(図2のS8)。なお、最後の被判定材の検査信号が当該被判定材を渦流検査した際の判定領域L内にあれば、次の被判定材(実際には存在しない)に対する新たな判定領域Lとして更新された判定領域Lが最後の判定領域Lとなる。一方、最後の被判定材の検査信号が当該被判定材を渦流検査した際の判定領域L内に無ければ、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域L(維持された判定領域L)が最後の判定領域Lとなる。
そして、判定保留材の検査信号が最後の判定領域L内にある場合、当該判定保留材は異材ではない(適正材である)と判定し(図2のS9)、最後の判定領域L内に無ければ、当該判定保留材は異材であると判定する(図2のS10)。
【0046】
すなわち、図6に示すように、例えば、被判定材A、Bの検査信号が初期判定領域L0内に無いため、双方共に判定保留材とされた場合であっても、検査信号が最後の判定領域L内にある被判定材Aは、最終的に適正材と判定され、検査信号が最後の判定領域L内に無い被判定材Bは、最終的に異材と判定されることになる。このように判定保留材の異材判定を直ちに行わず、判定保留材の検査信号が、精度良く決定された最後の判定領域L内にあるか無いかで異材判定を行うことにより、精度の良い異材判定が可能となる。
【0047】
以下、機械構造用鋼材のS40Cからなる棒鋼を基準材とし、S45Cからなる棒鋼を異材として、本実施形態に係る異材判定装置100で異材判定を行った例について説明する。
図7は、本実施形態に係る異材判定装置100の判定結果例を示す図である。
まず、図7(c)は、第1ステップにおいて、基準材(S40C)の検査信号(図中、□でプロットしたデータ)に適用するα0の値を8.0に設定して初期判定領域L0を演算し、この初期判定領域L0を最初の被判定材である棒鋼に対する判定領域Lとした例である。図7(c)に示す例では、最初の被判定材が実際には異材(S45C)であるにも関わらず、その検査信号(図中、○でプロットしたデータ)が前記判定領域L内にあるため、第2ステップにおいて、当該被判定材は異材ではないと判定されることになる。このように、初期判定領域L0を過度に大きく設定する(α0の値を過度に大きく設定する)と、判定領域L内に異材の検査信号が位置する可能性が高まってしまう。つまり、S40Cからなる棒鋼の異材であるS45Cからなる棒鋼を異材でないと誤判定する可能性が高まる。
【0048】
一方、図7(a)は、第1ステップにおいて、基準材(S40C)の検査信号(図中、□でプロットしたデータ)に適用するα0の値を3.0に設定して初期判定領域L0を演算し、この初期判定領域L0を最初の被判定材である棒鋼に対する判定領域Lとした例である。図7(a)に示す例では、最初の被判定材が実際には異材ではない(基準材と同じS40Cである)ものの、その検査信号(図中、■でプロットしたデータ)は前記判定領域L内に無い。従来の異材判定方法のように判定領域Lを固定的に用いる場合には、この時点で当該被判定材は異材であると誤判定されてしまう。しかしながら、本実施形態に係る異材判定方法では、第2ステップにおいて、当該被判定材はいったん判定保留材とされる。
【0049】
そして、本実施形態に係る異材判定方法では、第2ステップを最初の被判定材から最後の被判定材まで繰り返す第3ステップ(判定領域L1の演算に際してα1の値は2.5に設定)を実行した後、図7(b)に示すように、第4ステップにおいて、最後の被判定材を渦流検査し終えた時点での最後の判定領域Lに基づき、判定保留材とされた棒鋼が異材であるか否かが判定されることになる。図7(b)に示す例では、初期判定領域L0を過度に大きく設定しなくとも、判定保留材の検査信号が最後の判定領域L内にあるため、第4ステップにおいて、当該判定保留材は異材ではないと適切に判定されることが判る。
【符号の説明】
【0050】
1・・・渦流検査装置
2・・・判定部
11・・・貫通コイル
12・・・渦流検査器
100・・・異材判定装置
121・・・電流供給部
122・・・信号処理部
B・・・金属材料(棒鋼)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を渦流検査することで得られる検査信号に基づき、該金属材料が異材であるか否かを判定する金属材料の異材判定方法であって、
予め異材ではないことが確認された複数の金属材料を基準材として用い、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα0(ただし、α0>1)倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα0倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲とで規定される初期判定領域L0を演算し、当該初期判定領域L0を最初の被判定材である金属材料に対する判定領域Lとする第1ステップと、
被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内にある場合、当該被判定材は異材ではないと判定すると共に、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα1(ただし、α0>α1>1)倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα1倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα1倍した範囲とで規定される判定領域L1を演算し、前記初期判定領域L0と前記判定領域L1とを比較して、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新する一方、当該被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内に無い場合、当該被判定材を判定保留材とすると共に、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域Lを次の被判定材に対する判定領域Lとして維持する第2ステップと、
前記第2ステップを最初の被判定材から最後の被判定材まで繰り返す第3ステップと、
前記第2ステップ及び前記第3ステップにおいて判定保留材とされた金属材料の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が、最後の被判定材を渦流検査し終えた時点での最後の判定領域L内にあれば、当該判定保留材は異材ではないと判定し、前記最後の判定領域L内に無ければ、当該判定保留材は異材であると判定する第4ステップと、
を含むことを特徴とする金属材料の異材判定方法。
【請求項2】
前記α0は、2.5を超え3.5以下の値に設定され、
前記α1は、2.0以上2.5以下の値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の異材判定方法。
【請求項3】
前記渦流検査は、金属材料を貫通させる貫通コイルにパルス電流を供給することによって実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属材料の異材判定方法。
【請求項4】
金属材料を渦流検査するための渦流検査装置と、
前記渦流検査装置から出力される検査信号に基づき、前記金属材料が異材であるか否かを判定する判定部とを備える金属材料の異材判定装置であって、
前記判定部は、
予め異材ではないことが確認された複数の金属材料を基準材として用いた場合に、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα0(ただし、α0>1)倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα0倍した範囲と、各基準材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα0倍した範囲とで規定される初期判定領域L0を演算し、当該初期判定領域L0を最初の被判定材である金属材料に対する判定領域Lとする第1ステップと、
被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内にある場合、当該被判定材は異材ではないと判定すると共に、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅の変動範囲をα1(ただし、α0>α1>1)倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅における位相の変動範囲をα1倍した範囲と、前記各基準材及び異材ではないと判定された被判定材について得られた検査信号のピーク振幅と該ピーク振幅における位相との相関関係の変動範囲をα1倍した範囲とで規定される判定領域L1を演算し、前記初期判定領域L0と前記判定領域L1とを比較して、両判定領域L0及びL1を包含する領域を次の被判定材に対する新たな判定領域Lとして更新する一方、当該被判定材の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が前記判定領域L内に無い場合、当該被判定材を判定保留材とすると共に、当該被判定材を渦流検査した際の判定領域Lを次の被判定材に対する判定領域Lとして維持する第2ステップと、
前記第2ステップを最初の被判定材から最後の被判定材まで繰り返す第3ステップと、
前記第2ステップ及び前記第3ステップにおいて判定保留材とされた金属材料の検査信号のピーク振幅及び該ピーク振幅における位相が、最後の被判定材を渦流検査し終えた時点での最後の判定領域L内にあれば、当該判定保留材は異材ではないと判定し、前記最後の判定領域L内に無ければ、当該判定保留材は異材であると判定する第4ステップと、
を実行することを特徴とする金属材料の異材判定装置。
【請求項5】
前記α0は、2.5を超え3.5以下の値に設定され、
前記α1は、2.0以上2.5以下の値に設定されることを特徴とする請求項4に記載の金属材料の異材判定装置。
【請求項6】
前記渦流検査装置は、金属材料を貫通させる貫通コイルと、該貫通コイルにパルス電流を供給する電流供給部とを備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属材料の異材判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−42333(P2012−42333A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183690(P2010−183690)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】