説明

金属材料加工用の潤滑油

【課題】 塩素系潤滑油と同等かあるいはそれ以上の高い耐焼付性能及び潤滑性能を有する非塩素系の金属材料加工用の潤滑油を提供する。
【解決手段】 潤滑油基油に、(a)硫黄系極圧剤と、(b)有機亜鉛化合物と、(c)カルシウム系添加剤と、(d)エステル化合物と、を配合してなる金属材料加工用の潤滑油。この潤滑油は、次の4つの条件、すなわち、(a)成分の硫黄含有量が、潤滑油全量基準で、5重量%以上である、(b)成分の亜鉛含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、(c)成分のカルシウム含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、(d)成分のエステル含有量が、潤滑油全量基準で、1.0重量%以上である、の条件を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料のプレス加工やせん断加工に用いられる潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品等の加工技術として用いられているせん断加工は、プレス加工の1つであり、金属材料をダイとパンチで打抜くことによって成形品をほぼ最終製品形状に仕上げることができる。特に、せん断加工の1つであるファインブランキング加工(FB加工)は、通常のせん断加工よりもさらに精密な加工が可能であるとともに、加工後の切削加工等が不要であるため工程数が少なくて済むという利点がある。このような理由から、近年、自動車部品等の加工分野において、FB加工に代表される精密せん断加工が多用されるようになってきている。
せん断加工では、パンチやダイなどの工具と、被加工材料との間に通常のプレス加工以上に大きな応力が発生する。また、精密せん断加工では、被加工材料と工具との間に、通常のせん断加工以上に大きな応力が発生する。このため、せん断加工や精密せん断加工に使用される潤滑油には、非常に高い耐焼付性能や潤滑性能が要求される。
【0003】
せん断加工や精密せん断加工には、一般に、耐焼付性能や潤滑性能に優れている塩素系潤滑油が使用されることが多い。しかし、塩素系潤滑油は、加工時あるいは経時的にその中に含まれる塩素系添加剤成分が分解して被加工材料や工具を錆びさせる問題点が指摘されている。また、塩素系潤滑油は、焼却処理時における有害物質の発生や、焼却炉の腐食・損傷等の問題が指摘されている。したがって、塩素系の物質を含有せず、しかも、塩素系潤滑油と同等かあるいはそれ以上の耐焼付性能や潤滑性能を有するせん断加工用潤滑油の登場が望まれている。
【0004】
塩素系の添加剤を含有しない潤滑油としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。しかし、この特許文献1に記載の潤滑油は、切削加工用の潤滑油であり、耐焼付性能や潤滑性能が十分ではなく、金属材料のプレス加工、特に、精密せん断加工用の潤滑油として使用するためには性能が不十分である。そのため、非塩素系潤滑油をせん断加工時に用いた場合には、潤滑性が悪いためプレス型の摩耗が早く、且つ加工速度も下げる必要があり、生産性が低下する問題があった。
また、特許文献2及び特許文献3には、過塩基性金属のスルホネートと硫黄系極圧剤等を含有した切削加工油剤組成物について開示されている。しかし、これらの潤滑油は、一般的な金属加工において良好な潤滑性能を発揮するものの、精密せん断加工等の難易度の高いプレス加工では、十分な潤滑性能が得られないので問題である。
【0005】
【特許文献1】特開2002−155293号公報
【特許文献2】特許第2641203号公報
【特許文献3】特開平8−20790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、従来の塩素系潤滑油と同等かあるいはそれ以上の高い耐焼付性能及び潤滑性能を有する非塩素系の金属材料加工用の潤滑油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の(1)〜(3)に記載した発明である。
(1)潤滑油基油に、(a)硫黄系極圧剤と、(b)有機亜鉛化合物と、(c)カルシウム系添加剤と、(d)エステル化合物と、を配合してなる金属材料加工用の潤滑油であって、以下の条件、
(a)成分の硫黄含有量が、潤滑油全量基準で、5重量%以上である、
(b)成分の亜鉛含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、
(c)成分のカルシウム含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、
(d)成分のエステル含有量が、潤滑油全量基準で、1.0重量%以上である、
をすべて満たすことを特徴とする金属材料加工用の潤滑油。
(2)せん断加工用の潤滑油である、上記(1)に記載の金属材料加工用の潤滑油。
(3)金属材料と工具との間に上記(1)に記載の金属材料加工用の潤滑油を供給する工程を有する、金属材料のせん断加工方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の塩素系潤滑油と同等かあるいはそれ以上の高い耐焼付性能及び潤滑性能を有する非塩素系の金属材料加工用の潤滑油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、潤滑油基油に、(a)硫黄系極圧剤と、(b)有機亜鉛化合物と、(c)カルシウム系添加剤と、(d)エステル化合物と、を配合してなる金属材料加工用の潤滑油である。本発明に係る金属材料加工用の潤滑油は、次の4つの条件、すなわち、(a)成分の硫黄含有量が、潤滑油全量基準で、5重量%以上である、(b)成分の亜鉛含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、(c)成分のカルシウム含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、(d)成分のエステル含有量が、潤滑油全量基準で、1.0重量%以上である、の条件を満たしている。これにより、塩素系の添加剤を含有せず、しかも、塩素系潤滑油と同等かそれ以上の高い耐焼付性能及び潤滑性能を有する金属材料加工用の潤滑油を実現することができる。
【0010】
[潤滑油基油について]
本発明に係る潤滑油では、鉱油、合成油、及び油脂の中から選ばれる少なくとも1種が潤滑油基油として用いられる。これらの鉱油、合成油、及び油脂については、一般に金属加工油の基油として用いられているものであればよく、特に制限するものではないが、40℃における動粘度が1mm2 /s以上1000mm2 /s以下の範囲にあるものが好ましく、5mm2 /s以上100mm2 /s以下の範囲にあるものがより好ましい。
【0011】
このような鉱油、合成油、及び油脂には各種のものがあり、用途などに応じて適宜選定すればよい。
鉱油としては、例えば、石油精製業の潤滑油製造プロセスで常法を用いて精製される鉱油を使用することができる。より具体的には、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの処理を1つ以上行って精製したものが挙げられる。
【0012】
合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シリコーンオイルなどを挙げることができる。
【0013】
また、油脂の具体例としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、並びにこれらの水素化物などを挙げることができる。
【0014】
本発明に係る潤滑油においては、上記基油のうちの1種のみを単独で用いてもよく、2種以上の基油を混合して用いてもよい。
【0015】
次に、上記の潤滑油基油に配合される4つの成分、すなわち、(a)硫黄系極圧剤、(b)有機亜鉛化合物、(c)カルシウム系添加剤、及び(d)エステル化合物、について説明する。
【0016】
(a)硫黄系極圧剤について
硫黄系極圧剤としては、硫黄原子を有し、極圧効果を発揮しうるものを使用することができる。硫黄系極圧剤の具体例としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ポリサルファイド類、チオカーバメート類、硫化鉱油などを挙げることができる。ここで、硫化油脂は硫黄と油脂(ラード油,鯨油,植物油,魚油等)を反応させて得られるものである。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。
【0017】
硫化オレフィンは、炭素数2〜15のオレフィン又はその2〜4量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られる。
【0018】
ポリサルファイド類の具体例としては、ジベンジルポリサルファイド、ジ−tert−ノニルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを挙げることができる。
【0019】
チオカーバメート類の具体例としては、ジンクジチオカーバメート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。
【0020】
硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。単体硫黄を溶解させる鉱油は特に制限はないが、例えば、上記基油の説明において例示された鉱油系潤滑油基油を使用することができる。
【0021】
本発明において、上記(a)成分は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その硫黄含有量は、潤滑油全量基準で、好ましくは1重量%以上50重量以下、より好ましくは、5重量%以上30重量%以下の範囲である。この範囲よりも少なすぎると、潤滑性能を維持できない場合があり、この範囲よりも多すぎると、配合量に見合う効果の向上が得られないので好ましくない。なお、ここでいう「硫黄含有量」とは、(a)成分における硫黄原子の含有量のことである。
【0022】
(b)有機亜鉛化合物について
有機亜鉛化合物の好ましいものとしては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPという。)、及び、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛(以下、ZnDTCという。)を挙げることができる。ZnDTP、及び、ZnDTCのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。すなわち、ZnDTP及びの構造式では、リン原子に対して酸素原子を介して2つのアルキル基が結合しているが、これらのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、ZnDTCの構造式では、窒素原子に対して2つのアルキル基が結合しているが、これらのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ZnDTP及びZnDTCのアルキル基は、炭素数3以上のアルキル基又はアリール基が好ましい。
【0023】
本発明においては、上記(b)成分は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その亜鉛含有量は、潤滑油全量基準で、好ましくは0.01重量%以上10重量%以下、より好ましくは、0.5重量%以上5重量%以下の範囲である。この範囲よりも少なすぎると、潤滑性能を維持できない場合があり、この範囲よりも多すぎると、配合量に見合う効果の向上が得られないので好ましくない。なお、ここでいう「亜鉛含有量」とは、(b)成分における亜鉛原子の含有量のことである。
【0024】
(c)カルシウム系添加剤
カルシウム系添加剤の好ましいものとして、カルシウムスルフォネート、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネートが挙げられる。特に動粘度、価格の点より、カルシウムスルフォネートが好ましい。より好ましくは、塩基性カルシウムスルフォネートである。更に好ましくは、塩基価が300mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートである。
【0025】
本発明においては、上記(c)成分は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、そのカルシウム含有量は、潤滑油全量基準で、好ましくは0.01重量%以上10重量%以下、より好ましくは、0.5重量%以上5重量%以下の範囲である。この範囲よりも少なすぎると、潤滑性能を維持できない場合があり、この範囲よりも多すぎると、配合量に見合う効果の向上が得られないので好ましくない。なお、ここでいう「カルシウム含有量」とは、(c)成分におけるカルシウム原子の含有量のことである。
【0026】
(d)エステル化合物
エステル化合物の好ましいものとして、ポリオールエステルと、コンプレックスエステルを挙げることができる。潤滑油基油に対しては、これらのうち1種のみを配合してもよく、2種以上を配合してもよい。
ポリオールエステルとは、脂肪族多価アルコールと直鎖状又は分岐状の脂肪酸とのポリオールエステル類のことである。ポリオールエステル類を形成する脂肪族多価アルコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等を挙げることができる。また、上記脂肪族多価アルコールと直鎖状又は分岐状の脂肪酸との部分エステル類も使用できる。
コンプレックスエステルとは、脂肪族多価アルコールと直鎖状又は分岐状の脂肪酸、及び直鎖状又は分岐状の脂肪族二塩基酸とのコンプレックスエステル類のことである。脂肪族多価アルコール成分としては、例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。また、脂肪酸成分としては、例えば、脂肪族カルボン酸、例えばヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等を挙げることができる。二塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、ペメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、カルボキシオクタデカン酸、カルボキシメチルオクタデカン酸、ドコサン二酸等を挙げることができる。
【0027】
これらのポリオールエステル及び/又はコンプレックスエステルは、100℃での動粘度が100mm2/s以上10000mm2 /s以下の範囲にあるものが好ましく、1000mm2 /s以上5000mm2 /s以下の範囲にあるものがより好ましい。
ポリオールエステル及び/又はコンプレックスエステルのエステル含有量は、潤滑油全量を基準として、0.5重量%以上40重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1.0重量%以上20重量%以下である。これらのエステル化合物の含有量が0.5重量%未満であると、耐焼付き性が低下する傾向があり、40重量%を越えると、潤滑油が高粘度になり取り扱い性が悪化する。
【0028】
本発明に係る潤滑油は、潤滑油基油に上記(a)〜(d)成分を配合することにより得られるが、金属加工油としての基本的な性能を維持するために、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0029】
上記各種公知の添加剤としては、防錆剤、酸化防止剤、防食剤、着色剤、消泡剤、香料等が挙げられる。上記防錆剤としては、カルシウム系防錆剤、バリウム系防錆剤、ワックス系防錆剤等を、上記酸化防止剤としては、アミン系化合物、フェノール系化合物等を、上記防食剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール等を、必要に応じて適宜添加することができる。上記着色剤としては、染料や顔料等を用いることができる。
【0030】
本発明に係る潤滑油は、金属材料の各種プレス加工、例えば、打抜き加工、半抜き加工、曲げ加工等に対して優れた効果を発揮するのみならず、プレス加工の中でも、特に、打抜き加工等のせん断加工に対して優れた効果を発揮する。さらに、本発明に係る潤滑油は、せん断加工の中でも、特に、ファインブランキング加工(FB加工)等の精密せん断加工に対して優れた効果を発揮する。
また、本発明に係る潤滑油は、塩素成分を含有しないため、製品や工具の発錆の問題を回避することができる。本発明に係る潤滑油は、被加工材料である金属の種類に限定されることなく用いることができる。例えば、ステンレス鋼、合金鋼、炭素鋼、アルミニウム合金等に対して使用することができる。本発明に係る潤滑油は、このうち特に炭素鋼、合金鋼に対して優れた効果を発揮する。
【0031】
本発明に係る潤滑油を金属材料と工具との間に供給することによって、金属材料の加工精度が向上する。潤滑油の供給方法は特に制限するものではないが、例えば、ローラーによる金属材料表面への塗布、スプレーによる金属材料表面への塗布、などの方法を使用することができる。また、本発明に係る潤滑油を金属材料と工具との間に供給することによって、工具の錆びや損傷を防止することができるので、工具の使用寿命を長くすることができる。
本発明は、金属材料の加工方法として構成することも可能である。すなわち、金属材料と工具との間に、潤滑油基油に対して上記(a)〜(d)成分が配合されている潤滑油を供給する工程を有する、金属材料のせん断加工方法も、本発明に含まれる。この方法によれば、塩素系の添加剤が配合されている潤滑油を使用する必要がなくなる。また、従来の塩素系潤滑油を使用した場合と同等かあるいはそれ以上の高い加工精度で金属材料のせん断加工が可能になる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明に係る金属材料加工用潤滑油の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1〜6及び比較例1においては、それぞれ以下に示す基油及び添加剤を用いて、表1に示す組成を有する潤滑油を調製した。
(基油)
基油1:パラフィン系鉱油(40℃における動粘度:450mm/s)
基油2:ナフテン系鉱油(40℃における動粘度:46mm/s)
基油3:パラフィン系鉱油(40℃における動粘度:10mm/s)
(a)成分
a1:ポリサルファイド(硫黄含有量:37重量%)
a2:ポリサルファイド(硫黄含有量:32重量%)
a3:硫化油脂(硫黄含有量:15重量%)
a4:硫化油脂(硫黄含有量:11重量%)
(b)成分
b1:ZnDTP(亜鉛含有量:9重量% 硫黄含有量:16質量%)
b2:ZnDTP(亜鉛含有量:5重量% 硫黄含有量:11質量%)
b3:ZnDTP(亜鉛含有量:9重量% 硫黄含有量:15質量%)
(c)成分
c1:カルシウムスルフォネート(カルシウム含有量:15重量%)
(d)成分
d1:ポリオールエステル及び/又はコンプレックスエステル
(その他の成分)
e1:塩素化パラフィン(塩素含有量:50重量%)
e2:植物系油脂
e3:合成油
【0034】
表1に示す組成にて調製した潤滑油について、以下の装置・方法を用いて性能評価を行った。
(評価試験装置)
プレス機:AIDA リンクプレス VL−6000(生産速度:70spm)
材料送り:23.5mm
被加工材料:SPH440(板幅:70mm 板厚:4.6mm)
潤滑油の供給方法:樹脂ロールにて被加工材料表面に均一に供給
パンチ材質1:SKD11
パンチ材質2:SKD11+TiNコーティング
ダイス材質:SKD11
【0035】
(評価方法)
表1の組成にて調製した潤滑油を、被加工材料の表面に対して樹脂ロールにて均一に供給した後に、2種類のパンチにて、縦10mm×横12mm×深さ4.6mmの穴を2箇所に同時に打抜きした。そして、パンチによる打抜きに要したプレス荷重を測定するとともに、打抜き後のパンチ表面の状態を目視にて観察して評価を行った。また、打抜き後の穴のせん断面の状態を目視にて観察して評価を行った。
【0036】
【表1】

【0037】
表1では、各実施例及び比較例で使用した潤滑油の組成を重量部で表している。また、「硫黄分(%)」とあるのは、潤滑油全量を基準としたときの、(a)成分に含まれる硫黄分(硫黄原子)の割合(重量%)を示している。「亜鉛分(%)」とあるのは、潤滑油全量を基準としたときの、(b)成分に含まれる亜鉛分(亜鉛原子)の割合(重量%)示している。「カルシウム分(%)」とあるのは、潤滑油全量を基準としたときの、(c)成分に含まれるカルシウム分(カルシウム原子)の割合(重量%)を示している。「エステル分(%)」とあるのは、潤滑油全量を基準としたときの、(d)成分の割合(重量%)を示している。
【0038】
表1の実施例1〜実施例7の結果を見れば分かるように、本発明に係る潤滑油を使用した場合には、打抜き加工後のパンチ表面の状態が良好であった。具体的には、パンチの表面における焼付きや損傷等が全く確認されず、また、SKD11の材質にTiNコーティングを施したパンチを用いた場合でも、コーティングの脱落や剥離等は全く確認されなかった。パンチにより打抜きされた穴のせん断面の状態も極めて良好であり、穴の周囲におけるバリやダレが少なく、予定した寸法通りの精密な穴が形成されていた。
これに対して、表1の比較例の結果を見れば分かるように、塩素化パラフィンが含有されている従来の塩素系潤滑油を使用した場合には、パンチの表面及び穴のせん断面の状態は概ね良好ではあるものの、本発明に係る潤滑油を使用した実施例3,4,5,7の場合と比較すると、パンチによる打抜き加工に要する荷重が増大する結果となった。
以上の結果より、本発明に係る潤滑油は、金属材料のせん断加工用の潤滑油として非常に優れた性能を発揮することが実証された。また、従来の塩素系潤滑油と同等かあるいはそれ以上の高い耐焼付性能及び潤滑性能を発揮することが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(a)硫黄系極圧剤と、(b)有機亜鉛化合物と、(c)カルシウム系添加剤と、(d)エステル化合物と、を配合してなる金属材料加工用の潤滑油であって、以下の条件、
(a)成分の硫黄含有量が、潤滑油全量基準で、5重量%以上である、
(b)成分の亜鉛含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、
(c)成分のカルシウム含有量が、潤滑油全量基準で、0.5重量%以上である、
(d)成分のエステル含有量が、潤滑油全量基準で、1.0重量%以上である、
をすべて満たすことを特徴とする金属材料加工用の潤滑油。
【請求項2】
せん断加工用の潤滑油である、請求項1に記載の金属材料加工用の潤滑油。
【請求項3】
金属材料と工具との間に請求項1に記載の金属材料加工用の潤滑油を供給する工程を有する、金属材料のせん断加工方法。


【公開番号】特開2008−56707(P2008−56707A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69040(P2005−69040)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000211145)中京化成工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】