説明

金属板の冷間圧延方法及び冷間タンデム圧延機

【課題】設備コスト及びランニングコストを増大させること無く、低速圧延状態であっても高強度鋼板の冷間タンデム圧延における圧延スタンドの潤滑性を安定的に向上させて圧延負荷を軽減させることで、高強度鋼板の高圧下圧延を可能とする金属板の冷間圧延方法及び冷間タンデム圧延機を提供する。
【解決手段】冷間圧延前の0.2%耐力が220MPa以上の金属板を冷間タンデム圧延機により圧延する金属板の冷間圧延方法であって、少なくとも一つの圧延スタンドのワークロールが、表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたものである冷間タンデム圧延機を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間タンデム圧延機を用いて鋼板等の金属板を圧延する際の金属板の冷間圧延方法、特に冷間圧延前の0.2%耐力が220MPa以上の高強度鋼板の高圧下圧延が可能な金属板の冷間圧延方法及び冷間タンデム圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を冷間圧延する際には、圧延中の鋼板とロールとの間に生ずる摩擦を低減させるための潤滑剤として、また、圧延時に生ずる摩擦発熱および加工発熱により高温となったロールならびに鋼板の冷却を行うための冷却剤として潤滑油が用いられる。ここで、通常の冷間圧延においては、前記潤滑油としてエマルション圧延油が用いられる。なお、エマルションとは、圧延油の粒子が水に安定して懸濁した状態の混合液体をいう。エマルションは濃度及び平均粒径で特徴づけられる。エマルション濃度とは、エマルション全体積中の油分体積の比率である。平均粒径とは、エマルション中の圧延油の粒子の平均径である。
【0003】
図2は、従来技術に係る5スタンドを有する循環給油方式の冷間タンデム圧延機の概略構成の一例を示した図である。図2に示す冷間タンデム圧延機は、鋼板1を、入側から第1〜第5の5スタンドの圧延機(鋼板の入側から2a〜2e)により連続的に圧下を行うものである。
【0004】
循環給油方式とは、圧延油を濃度1〜5質量%に希釈し、界面活性剤を用いて水に油が分散したO/Wエマルションにしたエマルション圧延油を循環使用する方式をいう。循環給油方式では、各スタンドのロールバイト入側において潤滑のためのスプレーノズルを備えると共に、圧延ロールに冷却用のスプレーノズルを備えるのが通常であり、潤滑用スプレーと冷却用スプレーとを同一のエマルション圧延油によって行うものである。図2に示すエマルション圧延油のクリーンタンク20には、循環使用されるエマルション圧延油10が蓄えられており、循環系統の配管8を通じて各スタンドに供給される。
【0005】
このとき循環使用されるエマルション圧延油10としては、種々のエマルション濃度、平均粒径のものを使用し得るが、代表例としてはエマルション濃度1.5%、平均粒径8μm程度のものを使用することができる。このエマルション圧延油には、2質量%のノニオン系界面活性剤が含有されており、配管8に配置されるポンプやスプレーノズルにおけるせん断によって、安定なO/Wエマルションのまま循環使用される。
【0006】
循環使用するエマルション圧延油を供給するためのスプレーノズルの配置位置は、対象材の種類、圧延速度等によって異なるが、図2に示す例では、すべてのスタンド入側に、潤滑用として供給されるエマルション圧延油10のスプレーノズル3a〜3eが、それぞれロールバイトに向けてエマルション圧延油10が供給されるように配置されている。また、同一のエマルション圧延油10が、第2,第3,第4スタンド出側に配置されるスプレーノズル4b〜4d、及び、第4,第5スタンド入側に配置されるスプレーノズル5d,5eからそれぞれの圧延ロールを冷却するために供給される。
【0007】
冷間タンデム圧延機のワークロールは、通常研磨仕上げによりスタンドごとに適正な表面粗さに加工されている。例えば、第1スタンドのワークロールは#60〜#80の砥石により、表面の平均粗さRaが0.8〜1.5μm程度に仕上げられており、後段スタンドに行くほど前記表面の平均粗さを小さくしている。また、最終スタンドについてはショットブラスト加工によるダルロールが使用される場合が多く、大きさが0.8〜1.2mm程度のグリットを用いたショットブラスト加工により、表面の平均粗さRaが1.5〜3.0μm程度に仕上げたワークロール(ダルロール)が使用される。その際のグリットの形状は、ロール表面を研掃するために角張った形状をしているものが使用される。
【0008】
一方、近年において、自動車車体の軽量化や衝突安全性の向上のために高強度鋼板が積極的に採用されるようになってきている。しかし、高強度鋼板は、普通鋼に比べて変形抵抗が大きいため、冷間圧延における圧延荷重の増大により、鋼板の形状に乱れが生じ、絞りによる板破断等の問題が生じる場合がある。
【0009】
また、冷間圧延における圧延荷重を軽減するためには、冷間圧延前の鋼板の板厚を薄くして冷間タンデム圧延機でのトータル圧下率を下げる必要があるが、この場合には上工程である熱間圧延工程での圧延負荷が増大すると共に、熱延鋼板のコイル長が長くなることにより酸洗工程での生産性が低下するという問題が生じる。さらに、冷間タンデム圧延機でのトータル圧下率を低く抑えると、製品のランクフォード値が低下してプレス成形における成形性が低下するという問題が生じる。
【0010】
このような問題に対しては、例えば特開2005−95928号公報(特許文献1)において、第1スタンドのワークロールの表面粗度を通常よりも低下させること、及び、第1スタンド入側においてテフロンパウダー(登録商標)を噴霧又は塗布することによって、摩擦係数を低下させて圧延荷重を減少させる対策が開示されている。
【特許文献1】特開2005−95928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記特許文献1に開示されているように、単に圧延ロールの表面粗度として、特に第1スタンドの圧延ロールの表面粗度を低下させただけでは、機械的な油膜の引き込みが弱くなるので、潤滑性向上が十分ではない。
【0012】
また、第1スタンド入側においてテフロンパウダーを噴霧又は塗布するためには、テフロンパウダーが周囲に飛散しないようにするためのチャンバーを設置したり、乾燥装置を設置する必要があり、設備コストの増大を招くという問題がある。さらに、前記チャンバーのシール部の劣化によるテフロンパウダーの飛散や、乾燥装置により乾燥したテフロンパウダーが落下して周囲に移着する可能性がある。この場合、高強度鋼板以外の普通鋼を圧延する場合のように、潤滑性能を高める必要がないためテフロンパウダーを噴霧又は塗布する必要はないものに関しても、周囲に飛散したテフロンパウダーが搬送ロール等に付着して、それが普通鋼の表面に部分的に付着することで鋼板の蛇行や形状の乱れを生じさせる場合がある。
【0013】
また、圧延途中に鋼板から剥離したテフロンパウダーが循環しているエマルション圧延油中に混入してエマルションの安定性を阻害する場合がある。さらに、テフロンパウダーにより循環系統のフィルターが目詰まりを起こして、圧延油中から金属粉を除去するというフィルター機能が十分発揮できず、鋼板に表面疵を発生させるという問題がある。さらに、テフロンパウダーの使用量が増大すると、ランニングコストの増大を招くという問題がある。
【0014】
そこで本発明は、設備コスト及びランニングコストを増大させること無く、低速圧延状態であっても高強度鋼板の冷間タンデム圧延における圧延スタンドの潤滑性を安定的に向上させて圧延負荷を軽減させることで、高強度鋼板の高圧下圧延を可能とする金属板の冷間圧延方法及び冷間タンデム圧延機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有する。
[1]冷間圧延前の0.2%耐力が220MPa以上の金属板を冷間タンデム圧延機により圧延する金属板の冷間圧延方法であって、
少なくとも一つの圧延スタンドのワークロールが、表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたものである冷間タンデム圧延機を用いることを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
[2]上記[1]において、表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたワークロールを使用する圧延スタンドの入側に、循環使用される第1のエマルション圧延油と同一種類の圧延油を含み、且つ、前記第1のエマルション圧延油と比較してエマルション濃度が高く及び/または平均粒径の大きい第2のエマルション圧延油、または、前記第1のエマルション圧延油に含有される圧延油のニート油を、前記第1のエマルション圧延油とは別系統により供給することを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
[3]少なくとも一つの圧延スタンドのワークロールが、表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたものであることを特徴とする金属板の冷間タンデム圧延機。
[4]上記[3]において、表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたワークロールを使用する圧延スタンドの入側に、循環使用される第1のエマルション圧延油とは別系統の第2のエマルション圧延油、または、前記第1のエマルション圧延油に含有される圧延油のニート油を供給するための供給手段を備えることを特徴とする金属板の冷間タンデム圧延機。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圧延速度が高い場合だけでなく、低速圧延状態であっても、高強度鋼板の冷間タンデム圧延における潤滑性を向上させて圧延負荷を軽減させることで、高強度鋼板の高圧下圧延を可能とする金属板の冷間圧延方法及び冷間タンデム圧延機が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0018】
図1は、本発明が適用される複数スタンドを有する循環給油方式の冷間タンデム圧延機の概略構成の一例を示した図である。なお、図1は、鋼板の入側から第1〜第5の5スタンドの圧延機(鋼板の入側から2a〜2e)を有する冷間タンデム圧延機の場合を示している。
【0019】
図1に示す冷間タンデム圧延機は、上述の図2で示した従来技術に係る冷間タンデム圧延機において、第1スタンド及び第2スタンドのワークロールとして、表面の平均粗さRaが0.2〜1.0μmで、平均粒子径が200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により、前記表面の粗さが付与されたもの(以下、このワークロールを「本発明に係るワークロール」という。)を使用している。具体的には、前記第1スタンドのワークロールは、例えば、ガスアトマイズによって製造された平均粒子径55μmの球状ハイス粒子をショット粒子として用いて、空気式ショット装置により表面の平均粗さRaを0.7μmに仕上げたものを使用できる。また、前記第2スタンドのワークロールは、前記第1スタンドのワークロールの場合と同一のショット粒子を使用して、空気式ショット装置の空気圧を調整することで、平均粗さRaを0.35μmに仕上げたものを使用できる。
【0020】
なお、本実施形態では、第3スタンド及び第4スタンドについては、圧延速度が速く、十分な油膜形成が可能な条件となっているため、ワークロールの表面の粗さは従来のままとしている。また、最終の第5スタンドについてはショットブラスト加工によるダルロールが使用され、圧下率5%以下の軽圧下により鋼板表面へのダル目の転写を行うためのスタンドであり、本発明に係るワークロールの適用は行わなかった。
【0021】
上述のように、本発明に係るワークロールに対しては、平均粒子径が200μm以下の球状粒子をショット粒子として用いたショットブラスト加工により表面粗度を付与する。前記ショット粒子として球状粒子を使用するのは、球状粒子がショットブラスト加工によりロール表面に衝突した場合に、ロール表面にディンプル状の凹部を付与するためである。このようなディンプル状の凹部は、冷間圧延のロールバイト入口において、ロールバイト内部に油膜を引き込む効果を生じるため、ロールバイト内部での摩擦を低減して、圧延負荷を軽減させる効果が得られる。
【0022】
前記球状粒子としては、例えば、ガスアトマイズ法により作成されたスチールビーズ、ハイスビーズ、SUSビーズ、超硬ビーズ、セラミックス系ビーズなど各種粒子を使用することができる。なお、粒子の形状は、完全な球である必要はなく、ロール表面からみて、円状にくぼみを形成させる程度の球状で構わない。
【0023】
また、前記球状粒子の平均粒子径を200μm以下としているのは、平均粒子径が200μmを超える大きな粒子を使用すると、ロール表面に形成される円状の凹部も大きくなり、その結果ロールバイト内へ油膜を引き込む際の圧延油の逃げ道が生じ、却って油膜の引き込み効果が低減するからである。また、ロール表面の粗さが大きくなる結果、油膜厚の増加による摩擦低減効果よりも、凸部による摩擦抵抗の増加の影響が大きくなり、摩擦係数を増加させてしまうからである。
【0024】
したがって、ショットブラスト加工に使用する前記球状粒子は小さいほど望ましいが、その粒子径を小さくし過ぎると、ロール表面に粒子が衝突するときの運動エネルギーを高めることが難しく、十分な凹部を形成するのが難しくなる。そのため、実用上は40〜80μm程度の平均粒子径の球状粒子を使用するのが好ましい。
【0025】
一方、このように球状粒子によってロール表面を仕上げる場合の表面の平均粗さRaは0.2〜1.0μmとする。前記平均粗さRaが1.0μmを超えると、ロール表面の凹凸が大きくなり、ディンプル状の凹部による油膜の引込み効果よりも、凸部による摩擦抵抗の増加の影響が大きくなり、全体として摩擦係数を増加させてしまう。また、前記平均粗さRaが0.2μm未満の場合には、ディンプル状の凹部が小さく、十分な油膜の引込み効果が得られなくなる。
【0026】
なお、上記特許文献1では、第1スタンドのワークロールの表面粗度Raを、0.20μm以上、0.50μm以下とすることが記載されているが、その加工方法についての記載はない。また、通常、第1スタンドのワークロール表面は砥石研磨により仕上げられており、通常の第1スタンドのワークロールよりも表面粗度を低下させる特許文献1では、当然、細かな砥石による研磨仕上げを行っていると思われ、本発明とは表面粗さの付与方法が根本的に異なる。
【0027】
ここで、本発明に係るワークロールは、冷間タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいて適用すればよいが、特に、高強度鋼板の圧下率を大きくとりたい圧延スタンドに適用することが効果的である。図1に示す例においては、第1及び第2スタンドの圧下率または圧下量が他と比較して大きいため、本発明に係るワークロールを第1及び第2スタンドに対して適用した。なお、第1スタンドは、第2スタンドに比べて圧延速度がさらに低く、通常の研磨仕上げのワークロールでは油膜の引込み効果が小さく、ロールバイト内での油膜厚みを大きくすることが困難である。そのため、第1スタンドに対して本発明に係るワークロールを適用することが最も効果的である。
【0028】
また、本発明においては、前記本発明に係るワークロールを使用する圧延スタンドの入側に、循環使用される第1のエマルション圧延油とは別系統の第2のエマルション圧延油を供給するための供給手段を備えることが好ましい。
【0029】
上記方法を達成する手段として、図1に示す例では、図2に示す従来の冷間タンデム圧延機に対して、第1及び第2スタンドの入側の鋼板表面にエマルション圧延油13(第2のエマルション圧延油)を供給するためのノズルであるスプレーノズル9a,9bが配置された構成となっている。そして、前記スプレーノズル9a,9bには、循環使用されるエマルション圧延油10(第1のエマルション圧延油)の供給系統とは別系統のエマルション圧延油13が供給される。
【0030】
前記エマルション圧延油13は、貯蔵タンク11内に貯蔵され、この貯蔵タンク11内に設けられた攪拌器であるアジテータ12の攪拌回転数を調整することでエマルション圧延油13の平均粒径の調整が行われる。前記貯蔵タンク11内に貯蔵されるエマルション圧延油13は、ポンプ15により抜き出され配管14を通して前記スプレーノズル9a,9bから鋼板1表面に供給される。
【0031】
ここで、前記貯蔵タンク11、アジテータ12、配管14、ポンプ15、スプレーノズル9a,9bにより前記エマルション圧延油13の供給手段が構成される。
【0032】
また、図1に示すように、クリーンタンク20内に貯蔵される前記エマルション圧延油10は、ポンプ23により抜き出され、配管8を通して、すべてのスタンド入側に配置されるスプレーノズル3a〜3eからそれぞれロールバイトに向けて供給され、さらに、第2,第3,第4スタンド出側に配置されるスプレーノズル4b,4c,4d、及び、第4,第5スタンド入側に配置されるスプレーノズル5d,5eからそれぞれの圧延ロールを冷却するために圧延機内に供給される。
【0033】
前記スプレーノズル9a,9bから供給されたエマルション圧延油13及び前記スプレーノズル3a〜3e,4b,4c,4d,5d,5eから供給されたエマルション圧延油10は、鋼板によって系外に持ち出されたり、蒸発によって失われたものを除いて、オイルパン6により回収される。この回収されたエマルション圧延油は、回収配管7により一旦ダーティタンク21に蓄えられ、フィルター装置22により圧延油中の異物などが除去された後に、ポンプ24によりクリーンタンク20に送られる。
【0034】
なお、前記クリーンタンク20、ポンプ23、配管8、スプレーノズル3a〜3e,4b,4c,4d,5d,5e、オイルパン6、回収配管7、ダーティタンク21、ポンプ24、フィルター装置22により供給されたエマルション圧延油10,13を回収し循環させるための循環系統が構成される。
【0035】
また、本発明に係る冷間タンデム圧延機においては、供給されたエマルション圧延油を回収し循環させるための循環系統の途中に、界面活性剤を追加添加する手段25を備えることが好ましい。これにより、前記循環使用されるエマルション圧延油に含有される界面活性剤の対油濃度を調整することが可能となるからである。
【0036】
循環使用されるエマルション圧延油に含まれる界面活性剤の濃度が経時的に減少すると、循環使用されるエマルション圧延油の安定性を低下させることになる。そのため、前記界面活性剤を追加添加する手段25を循環系統の途中、例えば、エマルション圧延油の循環系統の途中に設けられたフィルター装置22とクリーンタンク20との間の配管に接続して、循環使用されるエマルション圧延油中で不足する界面活性剤を追添加するようにする。ここで、前記界面活性剤を追加添加する手段25としては、例えば、界面活性剤の貯蔵タンク、追加する界面活性剤の流量を調整する調整弁等により構成することができ、循環使用されるエマルション圧延油中の界面活性剤の濃度やエマルションの粒径分布の変化等に応じて、界面活性剤の追加量を決定することができる。
【0037】
また、本発明に係る冷間タンデム圧延機においては、前記エマルション圧延油13の供給手段を、鋼板表面に付着した圧延油が下流側圧延スタンドのロールバイトに到達するまでの時間が0.1秒以上となる位置に配置することが好ましい。ここでは、鋼板表面にエマルション圧延油13を供給するための供給手段を構成するスプレーノズル9a,9bを、それぞれのノズルから鋼板表面に供給され、付着したエマルション圧延油13が、それぞれ下流側圧延スタンドのロールバイトに到達するまでの時間が0.1秒以上となる位置に配置する。なお、通常の冷間タンデム圧延機では、圧延の最高速度は1300mpm程度であるので、この場合でも前記スプレーノズル9a〜9eからそれぞれの後段側のロールバイトまでの距離を2.2m以上とすればよい。
【0038】
以上、図1に示す本発明に係る冷間タンデム圧延機の実施形態においては、5スタンドの圧延機を有する冷間タンデム圧延機について示したが、上記5スタンドの場合に限られず本発明を適用することができる。
【0039】
上記のような構成の冷間タンデム圧延機において、本発明に係る冷間タンデム圧延方法の一実施形態は、上記本発明に係るワークロールを、冷間タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドに用いることを特徴とするものである。これにより、圧延速度が高い場合だけでなく、低速圧延状態であっても、高強度鋼板の冷間タンデム圧延における潤滑性が向上し、その結果圧延負荷を軽減させることができ、高強度鋼板の高圧下圧延が可能となる。
【0040】
また、上記のような構成の冷間タンデム圧延機において、本発明に係る冷間タンデム圧延方法の他の実施形態は、上記本発明に係るワークロールを使用する圧延スタンドの入側に、循環使用される第1のエマルション圧延油と同一種類の圧延油を含み、且つ、前記第1のエマルション圧延油と比較して平均粒径の大きい及び/またはエマルション濃度の高い第2のエマルション圧延油を、前記第1のエマルション圧延油とは別系統により供給するものである。
【0041】
前記循環使用されるエマルション圧延油10(第1のエマルション圧延油)は、圧延中に生ずる摩耗粉や圧延機の作動油等が混入して、経時的にエマルションの安定性が低下する。そのため、循環系統にはフィルター装置22が備えられると共に、エマルション圧延油中に含有される界面活性剤の種類や添加量が適宜調整され、外乱に対しても安定なエマルションが形成されるようなエマルション圧延油が選択される。但し、外乱に対しても安定なエマルションを形成するために含有される界面活性剤の添加量が多くなると、潤滑のために圧延スタンド入側で供給されたエマルション圧延油10が、転相によって安定な油膜を形成しにくくなるという問題がある。
【0042】
そこで、本発明においては、前記循環使用されるエマルション圧延油10よりも平均粒径の大きい及び/またはエマルション濃度が高いエマルション圧延油13(第2のエマルション圧延油)を、前記本発明に係るワークロールを使用するスタンドの入側に供給する。これにより、前記エマルション圧延油13からの転相が容易になり、油膜が形成されやすくなることによって、前記本発明に係るワークロールによる油膜の引込み効果が一層増大することになる。また、供給された前記エマルション圧延油13の一部は、循環使用されているエマルション圧延油10に混入し回収されることから、前記エマルション圧延油10と同一種類の圧延油を含むエマルション圧延油13を供給する。
【0043】
ここで、前記エマルション圧延油を構成する圧延油としては、通常の冷間圧延に用いられるものとして、天然油脂、脂肪酸エステル、炭化水素系合成潤滑油のいずれかを基油としたものを用いることができる。例えば、前記天然油脂としては、鉱物油、パーム油等の植物油や牛脂等の動物油を用いることができる。また、前記脂肪酸エステルとしては、一価アルコールと二価脂肪酸とのエステルであるジエステルや、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと一価脂肪酸との組合せによるポリオールエステル等を用いることができる。また、前記炭化水素系合成潤滑油としては、種々の粘度を得ることができるポリ−α−オレフィン等を用いることができる。さらに、これらの圧延油には、油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤などの通常の冷間圧延油に用いられる添加剤を加えても良い。
【0044】
また、前記界面活性剤としては、イオン系、非イオン系のいずれを用いても良く、通常の循環式クーラントシステムに使用されるものを用いればよい。
【0045】
一例として、例えば前記循環使用されるエマルション圧延油10としては、圧延油を濃度1〜5質量%に希釈し、界面活性剤を用いて水に油が分散したO/Wエマルションにしたものが用いられる。また、その平均粒径としては5μm〜12μm程度、エマルション濃度としては1.2%〜2.0%程度のものを用いることができる。
【0046】
また、前記エマルション圧延油13としては、上述のように、エマルション圧延油10と同一種類の圧延油を含み、且つ、前記エマルション圧延油10と比較して平均粒径の大きい及び/またはエマルション濃度の高いものが用いられる。具体的には、前記循環使用されるエマルション圧延油10と比較して、平均粒径が1.5倍以上であり、及び/または、エマルション濃度が2倍以上のものを用いることができる。
【0047】
ここで、前記エマルション圧延油10と比較して平均粒径の大きいエマルション圧延油13を供給しても、そこに含まれる界面活性剤の種類及び対油濃度が同一であれば、循環ポンプやスプレーノズルのせん断仕事によって容易に小径化して、循環使用されるエマルション圧延油10としてそのまま使用することができる。また、エマルション濃度の高いエマルション圧延油13を供給しても、エマルション圧延油10の供給量と同程度であれば、循環中のエマルション圧延油10の濃度上昇はほとんど生じない。
【0048】
前記エマルション圧延油10と比較して平均粒径が大きなエマルション圧延油13は、水と圧延油とを混合する際に攪拌器により付与する機械的エネルギーをエマルション圧延油10の調整時よりも低減させることで調製することができる。また、前記エマルション濃度は、エマルション全体積中の油分体積の比率を調整することで行うことができる。
【0049】
ここで、第1及び第2スタンドの入側に、循環使用されるエマルション圧延油10よりも平均粒径が大きく及び/またはエマルション濃度が高濃度のエマルション圧延油13を供給するのは、エマルション圧延油中の油分が鋼板表面に付着して油膜を形成(以下、この現象を「プレートアウト」と呼ぶ)する際の油膜形成能力を向上させ、エマルション圧延油10を用いた場合よりも厚い油膜を形成可能とすることで、ロールバイトへの圧延油の引込み量を増加させ、圧延時の潤滑性能をより向上させるためである。
【0050】
なお、本発明においては、主として冷間圧延前の0.2%耐力が220MPa以上の金属板を対象とする。冷間圧延前の0.2%耐力が220MPa以上の金属板であれば金属の種類を問わないが、主に、冷間圧延、焼鈍、調質圧延により引張強度が390MPa以上となるような高強度鋼板を対象とする。本発明によれば、このような高強度の金属板を冷間圧延する場合においても、圧延負荷が軽減でき、高圧下圧延が可能となる。
【0051】
また、本発明に係る冷間タンデム圧延方法においては、前記エマルション圧延油13に含有される界面活性剤を、循環使用されるエマルション圧延油10に含有される界面活性剤に対して同一種類且つ低い対油濃度とすると共に、冷間タンデム圧延機から回収したエマルション圧延油に界面活性剤を追加添加することにより循環使用されるエマルション圧延油に含有される界面活性剤の対油濃度を調整するようにしてもよい。
【0052】
前記循環使用されるエマルション圧延油10とは別系統により供給されるエマルション圧延油13は、鋼板の表面に供給されると、エマルション圧延油13中の油分が鋼板表面に付着して油膜を形成する。そして、鋼板表面に付着しなかったエマルション圧延油13中の油分はエマルション圧延油13の他の成分と共に循環使用されるエマルション圧延油10に混入して回収される。その際、混入するエマルション圧延油13中に含まれる界面活性剤の種類が、循環使用されるエマルション圧延油10中に含まれる界面活性剤と種類が異なると、循環使用されるエマルション圧延油10のエマルションの安定性を阻害する場合がある。そこで、本実施形態では、別系統により供給されるエマルション圧延油13に含まれる界面活性剤は、循環使用されるエマルション圧延油10の界面活性剤と同一種類とする。
【0053】
さらに、前記別系統により供給されるエマルション圧延油13に含まれる界面活性剤の対油濃度は、循環使用されるエマルション圧延油10に含まれる界面活性剤の対油濃度よりも低くすることが好ましい。前記エマルション圧延油13に含まれる界面活性剤の対油濃度を前記エマルション圧延油10に含まれる界面活性剤の対油濃度よりも低くすることにより、エマルション圧延油13中の平均粒径をエマルション圧延油10中の平均粒径より大径化することが容易になり、エマルション圧延油13のプレートアウト性をより高めることが可能となるからである。
【0054】
ただし、界面活性剤の対油濃度が低いエマルション圧延油13を別系統により供給しつづけると、循環使用されるエマルション圧延油10に含まれる界面活性剤の濃度が経時的に減少し、循環使用されるエマルション圧延油10のエマルションの安定性を低下させることになる。そのため、供給されたエマルション圧延油を回収し循環させるための循環系統の途中に界面活性剤を追加添加することが好ましい。これにより、循環使用されるエマルション圧延油10中の界面活性剤の濃度を経時的に安定させることが可能となり、エマルションの安定性化を図ることが可能となる。
【0055】
なお、前記エマルション圧延油13に含まれる界面活性剤の対油濃度を、循環使用されるエマルション圧延油10に含まれる界面活性剤の対油濃度と同じとすれば、循環使用されるエマルション圧延油10に含まれる界面活性剤の濃度の経時的変化はほとんど起こらず、界面活性剤を追加添加する必要はない。
【0056】
さらに、本発明に係る冷間タンデム圧延方法においては、前記エマルション圧延油13を、圧延スタンド間の鋼板表面であって、鋼板に付着したエマルション圧延油13が下流側圧延スタンドのロールバイトに到達するまでの時間が0.1秒以上となる位置に供給することが好ましい。
【0057】
前記エマルション圧延油13は、鋼板表面に供給されることで、プレートアウトにより鋼板表面に油膜が形成されることになる。しかし、O/Wエマルションである前記エマルション圧延油13から水が排除され油膜が鋼板表面に形成されるまでには一定以上の時間的余裕が必要である。例えば、冷間圧延前の0.2%耐力が220MPa以上の高強度鋼板に対しては、鋼板表面にエマルション圧延油13が供給され、付着してからロールバイトへ到達するまでの時間を0.1秒以上確保することで、鋼板表面により安定な油膜を形成することができ、潤滑性をより向上させることが可能となる。
【0058】
なお、図1に示す場合において、スプレーノズル9a,9bからの前記エマルション圧延油13の供給流量は、スプレーノズル3a〜3eから供給されるエマルション圧延油10の流量の10分の1以下で十分であり、実用的には各スタンド共に鋼板の表裏面に合計で100L/min程度供給できるスプレーノズルとすればよい。
【0059】
また、本発明に係る冷間タンデム圧延方法においては、前記エマルション圧延油13の代わりに、循環使用されるエマルション圧延油10に含有される圧延油のニート油を、前記エマルション圧延油10とは別系統により供給するようにしてもよい。ここでは、上述のエマルション圧延油13を供給して鋼板表面に油膜を形成する方法とは異なり、ニート油がエマルションとされることなく、そのまま鋼板の表面に供給される。ただし、鋼板の表面に付着しなかったニート油の一部が、循環使用されるエマルション圧延油10の循環系統に混入した場合に、前記エマルション圧延油10のエマルションの安定性を阻害しないように、前記ニート油としてはエマルション圧延油10に使用されているものと同一種類の圧延油を用いることが好ましい。
【0060】
また、上記と同様の理由によりニート油中には循環使用されるエマルション圧延油10と同一種類で、同一の対油濃度の界面活性剤を含有させることが好ましい。循環系に前記ニート油が混入しても、循環ポンプのせん断仕事等により、循環使用されるエマルション圧延油10と同一のエマルションが形成され、循環使用を継続してもエマルション圧延油10の安定性に影響を与えないからである。
【0061】
なお、ニート油の供給においては少量の圧延油を均一に供給することが好ましいため、多数のノズルによりミスト状のニート油を噴霧する方式で鋼板上に供給するようにすることが好ましい。
【0062】
ここで、上記方法を実現するためには、図1に示す冷間タンデム圧延機において、貯蔵タンク11内にニート油を貯蔵して、スプレーノズル9a,9bからはその貯蔵されたニート油が鋼板表面に供給される構成とすればよい。ただし、この場合にはアジテータ12は必要なく、前記スプレーノズル9a,9bも鋼板の表面に必要な油膜を形成するために必要な分の油のみを供給するために、ミスト状に噴霧する方式が好ましく、その流量も10L/min以下程度のノズルを用いれば十分である。
【0063】
また、本発明に係る冷間タンデム圧延方法においては、より高い潤滑性能を得るためには、循環使用されるエマルション圧延油10とは別系統により供給される前記エマルション圧延油13、または、循環使用されるエマルション圧延油10とは別系統により供給される前記ニート油の供給位置と、その下流側圧延スタンドのロールバイト入側との間の鋼板表面には、循環使用されるエマルション圧延油10を供給しないことが好ましい。前記エマルション圧延油13または前記ニート油を供給することにより鋼板表面にはプレートアウトにより油膜が形成されるが、前記プレートアウトにより油膜が形成された後に、循環使用されるエマルション圧延油10を鋼板表面に供給すると、前記形成された油膜が洗い流されて、潤滑性が低下する場合があるからである。
【0064】
また、前記エマルション圧延油13または前記ニート油を供給する位置から、次スタンドのロールバイト入側までの位置の間には、ロールバイトに向けて循環系のエマルション圧延油10を供給するスプレーノズルだけでなく、スタンド間に鋼板の冷却用スプレーが設置されエマルション圧延油10が供給される場合もある。このようなエマルション圧延油10も鋼板に対して供給しないことで、ロールバイト内に十分な油膜を形成させることができるため、前記エマルション圧延油13または前記ニート油を供給するスタンドにおいては供給しないようにすることが好ましい。
【0065】
ただし、前記エマルション圧延油13または前記ニート油を供給する位置から次スタンドのロールバイト入側までの位置の間にエマルション圧延油10を供給しないと、鋼板の冷却が不足する場合もあるので、そのような場合にはエマルション圧延油10を供給するようにしてもよい。
【実施例1】
【0066】
以下、本発明例として、図1に示す構成の循環給油方式の冷間タンデム圧延機による圧延結果について記載する。この冷間タンデム圧延機は、5スタンドの4Hiミルであって、各ワークロール径は500〜560mmで、スピンドルを介して電動機により駆動されている。
【0067】
循環使用されるエマルション圧延油10は、合成エステルをベースに植物油脂が添加された基油に対して、油性剤、酸化防止剤がそれぞれ1質量%ずつ添加され、界面活性剤としてノニオン系界面活性剤が対油濃度で3質量%添加されているものであり、温度50℃においてエマルション濃度1.5%、平均粒径8μmのエマルションを形成しているものを使用した。
【0068】
また、本発明例として、本発明に係るワークロールの加工は、ガスアトマイズ法により作成したハイス粒子を使用し、表面仕上げの粗さレベルに応じて、粒子径を変更して加工を行った。なお、ショットブラスト加工には、空気式ショット装置を使用し、空気圧を調整することで仕上げ粗さを変更した。
【0069】
本発明例A−1〜A−5、B−1〜B−4では、第1スタンドのワークロールのみ本発明に係るワークロールを使用し、第2〜第5スタンドのワークロールに関しては従来のワークロールを使用した。第1スタンドのワークロールを下表1に示す種々の表面の粗さ条件となるように加工して、第1スタンドの圧延荷重への影響を評価した。
【0070】
なお、本発明例A−1〜A−5では、スプレーノズル9a,9bからのエマルション圧延油13の供給は行わず、スプレーノズル3a〜3eから従来方法により前記エマルション圧延油10の供給を行った(なお、下表1にはエマルション圧延油10の濃度(%)及び平均粒径(μm)を記載している。)。また、本発明例B−1〜B−4では、スプレーノズル9aからのみ下表1に示すエマルション濃度(%)及び平均粒径(μm)のエマルション圧延油13の供給を行い、スプレーノズル3a〜3eからは従来方法により前記エマルション圧延油10の供給を行った。
【0071】
また、比較例として、第1スタンドのワークロールを、研磨仕上げにより下表1に示す条件となるように表面粗さの調整を行ったもの(比較例C−1〜C−3)、通常のショットブラスト加工に用いるスチールグリットを用いて下表1に示す条件となるように表面粗さの調整を行ったもの(比較例D−1,D−2)について第1スタンドの圧延荷重への影響を評価した。なお、スプレーノズル3a〜3eからは従来方法により前記エマルション圧延油10の供給を行った。
【0072】
本発明例及び比較例とも、板厚2.8mm、板幅1650mmの熱延・酸洗コイルであって、冷間圧延前の0.2%耐力が240MPaの高強度鋼板に対して冷間圧延を施した。この熱延・酸洗コイルを板厚0.65mmまで冷間圧延し、最終スタンドの圧延速度が300mpmと低速の場合における第1スタンドの圧延荷重を調べた。
【0073】
その際、従来の圧延条件として、第1スタンドのワークロールを、研磨仕上げにより表面の平均粗さRaを0.9μmとした場合の圧延荷重(比較例C−2の場合)を基準として、それに対する各条件での荷重比を評価指標とした。すなわち、荷重比が小さいほど、潤滑性が向上し、高圧下が可能なことを示すものである。評価結果(荷重比)を下表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
上表1からは、本発明例により、従来の圧延条件である比較例による場合に比べて、10%以上の荷重低減効果が得られていることが分かる。これにより、冷間タンデム圧延機におけるトータル圧下率を向上させることができる。また、パススケジュールの変更により、特定のスタンドにおける圧延荷重が低減することで、当該スタンドの圧下率を高めることが可能となり、結果として他のスタンドの圧下率を低減させて、全体の圧延荷重を軽減することができ、板形状の安定化を図ることができることもわかる。
【0076】
さらに、第2スタンドについても、上記本発明例の第1スタンドと同様の方法により本発明に係るワークロールを適用することにより、高強度鋼板として同一の板幅、板厚を製造するための母材厚を、第1スタンドのみ本発明に係るワークロールを適用した場合に2.8mmであったものを3.1mmにまで厚くすることが可能となり、生産工程全体の能率をさらに拡大することができることがわかった。
【0077】
なお、本実施例は、最終スタンドの圧延速度が300mpmの低速域における結果であるが、圧延速度が大きいほど、ロールバイトへの油膜の引込み効果が顕著になるので、最終スタンドの圧延速度が速い場合には荷重低減効果は拡大することになる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明が適用される複数スタンドを有する循環給油方式の冷間タンデム圧延機の概略構成の一例を示した図である。
【図2】従来技術に係る5スタンドを有する循環給油方式の冷間タンデム圧延機の概略構成の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0079】
1 鋼板
2a,2b,2c,2d,2e 圧延機
3a〜3e,4b〜4d,5d,5e,9a〜9e スプレーノズル
6 オイルパン
7 回収配管
8,14 配管
10,13 エマルション圧延油
11 貯蔵タンク
12 アジテータ
15,23,24 ポンプ
20 クリーンタンク
21 ダーティタンク
22 フィルター装置
25 界面活性剤を追加添加する手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延前の0.2%耐力が220MPa以上の金属板を冷間タンデム圧延機により圧延する金属板の冷間圧延方法であって、
少なくとも一つの圧延スタンドのワークロールが、表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたものである冷間タンデム圧延機を用いることを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
【請求項2】
表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたワークロールを使用する圧延スタンドの入側に、
循環使用される第1のエマルション圧延油と同一種類の圧延油を含み、且つ、前記第1のエマルション圧延油と比較して平均粒径の大きい及び/またはエマルション濃度の高い第2のエマルション圧延油、または、前記第1のエマルション圧延油に含有される圧延油のニート油を、前記第1のエマルション圧延油とは別系統により供給することを特徴とする請求項1に記載の金属板の冷間圧延方法。
【請求項3】
少なくとも一つの圧延スタンドのワークロールが、表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたものであることを特徴とする金属板の冷間タンデム圧延機。
【請求項4】
表面の平均粗さRaが、0.2μm以上、1.0μm以下であって、前記表面の粗さが、平均粒子径200μm以下の球状粒子を用いたショットブラスト加工により付与されたワークロールを使用する圧延スタンドの入側に、
循環使用される第1のエマルション圧延油とは別系統の第2のエマルション圧延油、または、前記第1のエマルション圧延油に含有される圧延油のニート油を供給するための供給手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の金属板の冷間タンデム圧延機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−144472(P2007−144472A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343169(P2005−343169)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】