説明

金属状態検出装置及び金属状態検出方法

【課題】第一発振回路(第一検出コイル)及び第二発振回路(第二検出コイル)を用いて金属の状態を高精度に検出するにあたり、相互干渉による検出精度の低下を回避すると共に、応答周期を短縮する。
【解決手段】第一検出コイルL1のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路2と、第二検出コイルL2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路3とを備え、両発振回路2、3から出力される発振波の位相ズレに基づいて、金属の状態を検出するにあたり、相互干渉を避けるために、第一発振回路2と第二発振回路3を交互に駆動させる。また、第一発振回路2の駆動終了時及び第二発振回路3の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路2に係る最新の測定時間(位相ズレ)と第二発振回路3に係る最新の測定時間(位相ズレ)との差分を求めて出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の状態を検出する金属状態検出装置及び金属状態検出方法に関し、特に、金属の応力、疲労、損傷、欠陥、材質などの状態検出に適した金属状態検出装置及び金属状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の状態を、その金属の磁気的な特性変化(透磁率変化など)に基づいて検出する金属状態検出装置や金属状態検出方法が知られている。例えば、回転軸のトルク(捻り応力)を、磁歪の逆効果を利用して検出する磁歪式トルクセンサは、電動アシスト自転車のトルクアシストシステムなどにおいて既に実用化されている。
【0003】
従来の磁歪式トルクセンサは、回転軸の二つの外周領域に、それぞれ+45°と−45°の磁気異方性を付与すると共に、各外周領域に対向して一対の検出コイルを配置し、これらの検出コイル間に生じる差動電圧を出力するように構成される。つまり、回転軸にトルクを加えると、磁歪の逆効果により各外周領域の透磁率が背反的に変化するため、検出コイル間に差動電圧が生じ、トルクに比例した出力が得られる(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平7−83769号公報
【特許文献2】特開平11−37863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の金属状態検出装置では、ブリッジ回路などを用いて、検出コイル間に生じる僅かな差動電圧を検出し、この差動電圧を増幅回路で増幅しているため、ノイズの影響を受けやすく、高精度な検出が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の如き実情に鑑み、これらの課題を解決することを目的として創作された本発明の金属状態検出装置は、金属の状態を検出する金属状態検出装置であって、金属の状態変化に応じてインダクタンスが変化するように配置される第一検出コイル及び第二検出コイルと、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路と、第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出する第一位相ズレ検出手段と、第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出する第二位相ズレ検出手段と、第一発振回路に係る測定時間と第二発振回路に係る測定時間との差分を求めて出力する差分検出手段とを備え、第一発振回路と第二発振回路は、相互干渉を避けるために、交互に駆動され、差分検出手段は、第一発振回路の駆動終了時及び第二発振回路の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路に係る最新の測定時間と第二発振回路に係る最新の測定時間との差分を求めて出力することを特徴とする。
このような金属状態検出装置によれば、金属の状態を高精度に検出することができる。すなわち、上記のような発振回路から出力される発振波においては、金属の状態(透磁率変化など)が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、金属の状態に応じて変化する位相ズレを高精度に検出できる。また、発振波の位相ズレを、発振波カウント処理に要した時間として測定するので、安価なデジタル回路を用いて高分解能測定を行うことができる。つまり、本発明における金属状態検出の分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の金属状態検出を行うことができる。また、第一発振回路に係る測定時間(位相ズレ)と第二発振回路に係る測定時間(位相ズレ)との差分を検出するので、温度誤差や変位誤差を容易に排除することができる。また、第一発振回路と第二発振回路は、交互に駆動されるので、相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。また、第一検出コイルの検出領域と第二検出コイルの検出領域を、相互干渉を考慮せずに任意に設定することができるので、使用条件に応じた検出領域の最適化が容易となる。また、第一発振回路の駆動終了時及び第二発振回路の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路に係る最新の測定時間と第二発振回路に係る最新の測定時間との差分を求めて出力するので、応答周期を短縮し、良好な応答性が得られる。つまり、第一発振回路及び第二発振回路の駆動が終了した時点で差分を求めるのではなく、各発振回路の駆動が終了する毎に差分を求めるので、前者に比べて応答周期を約1/2に短縮することができる。
また、本発明の金属状態検出方法は、金属の状態を検出する金属状態検出方法であって、金属の状態変化に応じてインダクタンスが変化するように配置される第一検出コイル及び第二検出コイルと、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路とが用いられ、第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出し、第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出し、第一発振回路に係る測定時間と第二発振回路に係る測定時間との差分を求めて出力するにあたり、第一発振回路と第二発振回路を、相互干渉を避けるために、交互に駆動させ、第一発振回路の駆動終了時及び第二発振回路の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路に係る最新の測定時間と第二発振回路に係る最新の測定時間との差分を求めて出力することを特徴とする。
このような金属状態検出方法によれば、金属の状態を高精度に検出することができる。すなわち、上記のような発振回路から出力される発振波においては、金属の状態(透磁率変化など)が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、金属の状態に応じて変化する位相ズレを高精度に検出できる。また、発振波の位相ズレを、発振波カウント処理に要した時間として測定するので、安価なデジタル回路を用いて高分解能測定を行うことができる。つまり、本発明における金属状態検出の分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の金属状態検出を行うことができる。また、第一発振回路に係る測定時間(位相ズレ)と第二発振回路に係る測定時間(位相ズレ)との差分を検出するので、温度誤差や変位誤差を容易に排除することができる。また、第一発振回路と第二発振回路は、交互に駆動されるので、相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。また、第一検出コイルの検出領域と第二検出コイルの検出領域を、相互干渉を考慮せずに任意に設定することができるので、使用条件に応じた検出領域の最適化が容易となる。また、第一発振回路の駆動終了時及び第二発振回路の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路に係る最新の測定時間と第二発振回路に係る最新の測定時間との差分を求めて出力するので、応答周期を短縮し、良好な応答性が得られる。つまり、第一発振回路及び第二発振回路の駆動が終了した時点で差分を求めるのではなく、各発振回路の駆動が終了する毎に差分を求めるので、前者に比べて応答周期を約1/2に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。ただし、図面に示す波形には、実際の検出波形とシミュレーション波形が含まれる。
【0007】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る金属状態検出装置(磁歪式トルクセンサ)の構成を示すブロック図である。この図に示される金属状態検出装置は、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸S(又は静止軸)のトルクを検出する磁歪式トルクセンサ1であり、第一検出コイルL1、第二検出コイルL2、第一発振回路2、第二発振回路3及び検出回路4を備えて構成されている。
【0008】
第一検出コイルL1は、軸表面において第一方向(例えば、+45°方向)の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する。また、第二検出コイルL2は、軸表面において第二方向(例えば、−45°方向)の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する。
【0009】
本実施形態の検出コイルL1、L2は、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、高透磁率材料を用いて形成されコアと、該コアに巻装されるコイルとを備えて構成されている。具体的には、フェライト、パーマロイ、アモルファスなどの高透磁率材料からなるU字コア2a、3aに、コイルを巻装して構成されており、U字コア2a、3aの両端を軸表面に近接させることにより、軸表面との間で閉磁路を構成するようになっている。これにより、軸表面の限られた領域に第一方向及び第二方向の磁路を形成し、該磁路における透磁率変化を検出することが可能になる。
【0010】
第一発振回路2は、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルL1のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせるように構成される。また、第二発振回路3は、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルL2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせるように構成される。例えば、シュミット発振回路の帰還回路に検出コイルL1、L2を配置すれば、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレが生じる発振回路2、3を構成することができる。
【0011】
シュミット発振回路は、シュミットインバータINVのヒステリシス特性を利用した発振回路であり、シュミットインバータINVと、シュミットインバータINVの入力側に接続されるコンデンサCと、シュミットインバータINVの出力をシュミットインバータINVの入力側に帰還させる帰還回路と、この帰還回路に介在する抵抗要素とを備えて構成されている。
【0012】
初期状態のシュミット発振回路では、コンデンサCに電荷が溜まっていないため、コンデンサCの両端の電圧は0Vとなっている。このとき、シュミットインバータINVは、入力側電圧VinがV以下なので、出力がHレベル(5V)となる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが5Vのときは、帰還回路2aを介してシュミットインバータINVの入力側に電流が流れるので、コンデンサCに電荷が徐々に溜まり、その両端の電圧が上昇する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVに達すると、シュミットインバータINVの出力がLレベル(0V)に切換わる。シュミットインバータINVの出力側電圧Voutが0Vになると、コンデンサCが放電し、シュミットインバータINVの入力側電圧Vinが徐々に降下する。そして、シュミットインバータINVの入力側電圧VinがVまで降下すると、シュミットインバータINVの出力がHレベルに切換わる。
【0013】
以上の動作の繰り返しにより、シュミットインバータINVの出力側から所定周波数の矩形波が得られる。そして、シュミット発振回路の発振周波数f(=1/T)は、蓄電期間Tと放電期間Tにより決まり、蓄電期間Tと放電期間Tは、コンデンサC及び抵抗要素の定数により決まる。したがって、抵抗要素として帰還回路に検出コイルL1、L2を配置すれば、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じてシュミット発振回路の発振波に位相ズレを生じさせることができる。
【0014】
なお、本発明の発振回路がシュミット発振回路に限定されないことは勿論であり、検出コイルL1、L2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる発振回路であれば、CR発振回路、LC発振回路、水晶発振回路などを用いてもよい。
【0015】
検出回路4は、例えば、CPU、ROM、RAM、I/Oなどが内蔵されたマイコン(1チップマイコン)を用いて構成され、ROMに書き込まれたプログラムに従って後述するトルク検出処理を行う。なお、検出回路4は、複数のマイコンで構成したり、一又は複数のICで構成することもできる。
【0016】
検出回路4は、第一発振回路2から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第一方向の透磁率変化を検出する第一方向透磁率検出手段(第一位相ズレ検出手段)と、第二発振回路3から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第二方向の透磁率変化を検出する第二方向透磁率検出手段(第二位相ズレ検出手段)と、第一方向の透磁率と第二方向の透磁率との差分にもとづいて、回転軸Sのトルクを検出するトルク検出手段(差分検出手段)とを備える。
【0017】
このようにすると、磁歪式トルクセンサ1のトルク検出精度を向上させることができる。つまり、上記のように構成された第一発振回路2や第二発振回路3から出力される発振波においては、軸表面の透磁率変化が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、第一方向及び第二方向の透磁率変化を高精度に検出し、その差分から回転軸Sのトルクを高精度に検出することが可能になる。また、発振回路2、3から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて蓄積された発振波の位相ズレ(透磁率変化)を測定するので、発振波の位相ズレ成分を安価なデジタル回路を用いて高精度に測定することができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路2、3の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路2、3の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の応力検出を行うことができる。
【0018】
第一発振回路2と第二発振回路3は、相互干渉を避けるために、交互に駆動される。このようにすると、相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。しかも、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域を、相互干渉を考慮することなく、任意に設定することができるので、使用条件に応じた検出領域の最適化が容易となる。
【0019】
また、第一発振回路2と第二発振回路3を交互駆動させるにあたり、検出回路4は、第一発振回路2の駆動終了時及び第二発振回路3の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路2に係る最新の測定時間と第二発振回路3に係る最新の測定時間との差分を求めて出力するように構成される。このようにすると、応答周期を短縮し、良好な応答性が得られる。つまり、第一発振回路2及び第二発振回路3の駆動が終了した時点で差分を求めるのではなく、各発振回路2、3の駆動が終了する毎に差分を求めるので、前者に比べて応答周期を約1/2に短縮することができる。
【0020】
第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2は、軸表面における検出領域及び検出方向を限定するために、軸表面との間で閉磁路を構成することが好ましい。つまり、本発明の磁歪式トルクセンサ1では、トルクに応じた発振波の位相ズレを、発振波の数だけ蓄積して検出するので、発振波の位相ズレに含まれる誤差成分も蓄積されてしまうことになるが、軸表面における検出領域や検出方向を限定することにより、SN比を高めることができるので、蓄積される誤差成分を抑制し、検出精度を向上させることができる。また、検出コイルL1、L2側で検出方向を限定することができるので、軸表面に、溝、スリット、薄膜などで縞模様を加工する必要がない。その結果、これらの加工が許容されない回転軸Sであっても、本発明によるトルク検出の適用が可能となる。
【0021】
磁歪式トルクセンサ1でトルクを検出する回転軸Sの軸表面は、メッキ法により成膜された磁歪膜5であることが好ましい。例えば、回転軸Sの一部又は全体の領域に、ニッケル合金からなる磁歪膜5を全周に亘ってメッキする。このようにすると、トルクに応じた磁歪膜5における磁歪の逆効果にもとづいて、トルクを高精度に検出できるだけでなく、トルク検出におけるヒステリシスを抑えることができる。しかも、本発明の磁歪式トルクセンサ1では、メッキ法により成膜された磁歪膜5であっても、十分な検出精度が得られるので、接着法、スパッタ法、真空蒸着法などでアモルファスなどの磁歪膜を形成する場合に比べ、大幅なコストダウンが図れるだけでなく、ニッケルメッキなどが施された既存の部材(樹脂を含む)を対象として、高精度なトルク検出を行うことができる。
【0022】
次に、本発明における発振波の位相ズレ蓄積作用について、図2及び図3を参照して説明する。
【0023】
図2は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図、図3は、発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。これらの図に示す波形は、一回の検出処理における発振回路2、3の出力波形であって、発振回路2、3から出力される発振波の数をカウントし、カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを測定するにあたり、発振波カウント処理における発振波のカウント数Nを100とした場合の波形であり、上側の波形は、回転軸Sにトルクを加えない場合を示し、下側の波形は、回転軸Sにトルクを加えた場合を示している。これらの図から明らかなように、検出波形の始端部、つまり発振波カウント処理における発振波のカウント数Nが少ない段階では、位相ズレがあまり蓄積されていないため、その差が明確ではないが(図2参照)、カウント数Nが多くなると、発振波の位相ズレが蓄積され、その差が明確になるので、位相ズレの測定が容易になることがわかる(図3参照)。そして、発振波の位相ズレは、回転軸Sに作用するトルクに比例して大きくなるので、発振波の位相ズレにもとづいて、回転軸Sに作用するトルクを高精度に測定することが可能になる。また、各発振回路2、3から出力される発振波の位相ズレは、磁歪の逆効果にもとづいて背反方向に現れるので、その差分にもとづいて回転軸Sのトルク量及びトルク極性を検出できるだけでなく、温度誤差や変位誤差が相殺された検出値を得ることができる。
【0024】
次に、検出回路4の具体的な検出処理手順について、図4〜図7を参照して説明する。
【0025】
図4に示すトルク検出処理では、まず、初期設定(S11:発振波カウント数Nの初期値設定を含む)を行った後、カウント数変更処理(S12)を行い、前回の検出方向を判断する(S13)。ここで、前回の検出方向が第二方向(又は無し)であると判断した場合は、第一方向透磁率検出処理(S14:第一位相ズレ検出手段)を実行し、前回の検出方向が第一方向であると判断した場合は、第二方向透磁率検出処理(S15:第二位相ズレ検出手段)を実行する。その後、透磁率検出処理(S14、S15)で得られた最新の第一方向透磁率検出値(第一発振回路2に係る測定時間)と最新の第二方向透磁率検出値(第二発振回路3に係る測定時間)の差分を演算すると共に(S16:差分検出手段)、演算した差分を所定の検出信号形式に変換して出力することにより(S17)、一回のトルク検出処理が終了する。
【0026】
図5に示すカウント数変更処理では、まず、カウント数変更信号の入力を判断し(S21)、該判断結果がYESの場合は、カウント数変更信号に含まれる発振波カウント数Nを読み取り(S22)、これに従って発振波カウント数Nを変更する(S23)。
【0027】
図6に示す第一方向透磁率検出処理では、第一発振回路2の駆動を開始した後(S31)、カウンタクリア処理(S32)と、発振波カウント処理(S33、S34)と、時間測定処理(S35)を実行し、その後に第一発振回路2の駆動を停止させる(S36)。カウンタクリア処理は、発振波カウンタ及び時間計測カウンタをクリアする処理である(S32)。また、発振波カウント処理は、第一発振回路2から出力される発振波の数をカウントし(S33)、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する処理である(S34)。また、時間測定処理は、発振波のカウント数がNになったら、時間計測カウンタ値(第一方向透磁率検出値)を読み込む処理である(S35)。
【0028】
図7に示す第二方向透磁率検出処理では、第二発振回路3の駆動を開始した後(S41)、カウンタクリア処理(S42)と、発振波カウント処理(S43、S44)と、時間測定処理(S45)を実行し、その後に第二発振回路3の駆動を停止させる(S46)。カウンタクリア処理は、発振波カウンタ及び時間計測カウンタをクリアする処理である(S42)。また、発振波カウント処理は、第二発振回路3から出力される発振波の数をカウントし(S43)、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する処理である(S44)。また、時間測定処理は、発振波のカウント数がNになったら、時間計測カウンタ値(第二方向透磁率検出値)を読み込む処理である(S45)。
【0029】
図8は、比較例(A)と本実施例(B)の応答周期を示している。つまり、第一発振回路2と第二発振回路3を交互駆動させるにあたり、第一発振回路2の駆動終了時及び第二発振回路3の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路2に係る最新の測定時間と第二発振回路3に係る最新の測定時間との差分を求めて出力する本実施例の応答周期は、第一発振回路2及び第二発振回路3の駆動が終了した時点で差分を求めて出力する比較例の応答周期に比べ、約1/2に短縮されていることがわかる。なお、一方の発振回路の駆動停止に伴う差分処理開始時に、他方の発振回路の駆動を開始し、差分処理と他方の発振回路に係る位相ズレ検出処理とを並列的に行うようにしてもよい。このようにすると、応答周期をさらに短縮することが可能になる。
【0030】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して回転軸Sのトルクを検出する磁歪式トルクセンサ1であって、軸表面において第一方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第一検出コイルL1と、軸表面において第二方向の透磁率変化を検出すべく配置され、当該透磁率変化をインダクタンスの変化として検出する第二検出コイルL2と、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルL1のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路2と、所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルL2のインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路3と、第一発振回路2から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第一方向の透磁率変化を検出し、第二発振回路3から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて、第二方向の透磁率変化を検出し、第一方向の透磁率と第二方向の透磁率との差分にもとづいて、回転軸Sのトルクを検出する検出回路4とを備えるので、トルク検出精度を向上させることができる。
【0031】
つまり、上記のように構成された第一発振回路2や第二発振回路3から出力される発振波においては、軸表面の透磁率変化が位相ズレとなって明確に現れ、しかも、発振波における位相ズレは、発振波の数だけ蓄積されるので、第一方向及び第二方向の透磁率変化を高精度に検出し、その差分から回転軸Sのトルクを高精度に検出することが可能になる。また、発振回路2、3から出力される発振波の数をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間にもとづいて蓄積された発振波の位相ズレ(透磁率変化)を測定するので、発振波の位相ズレ成分を安価なデジタル回路を用いて高精度に測定することができる。しかも、その分解能は、時間測定用のカウンタ速度により決まり、発振回路2、3の基準周波数に依存しないので、検出対象に応じて発振回路2、3の基準周波数を最適化しつつ、高分解能の応力検出を行うことができる。
【0032】
また、第一発振回路2と第二発振回路3は、相互干渉を避けるために、交互に駆動されるので、相互干渉による検出精度の低下を回避することができる。しかも、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域を、相互干渉を考慮することなく、任意に設定することができるので、使用条件に応じた検出領域の最適化が容易となる。
【0033】
また、第一発振回路2と第二発振回路3を交互駆動させるにあたり、検出回路4は、第一発振回路2の駆動終了時及び第二発振回路3の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路2に係る最新の測定時間と第二発振回路3に係る最新の測定時間との差分を求めて出力するので、応答周期を短縮し、良好な応答性が得られる。つまり、第一発振回路2及び第二発振回路3の駆動が終了した時点で差分を求めるのではなく、各発振回路2、3の駆動が終了する毎に差分を求めるので、前者に比べて応答周期を約1/2に短縮することができる。
【0034】
[第二実施形態]
つぎに、本発明の第二実施形態に係る金属状態検出装置(磁歪式トルクセンサ)について、図9〜図11を参照して説明する。ただし、第一実施形態と共通の部分については、第一実施形態と同一符号を付し、第一実施形態の説明を援用する。
【0035】
図9に示すように、第二実施形態に係る磁歪式トルクセンサ11は、各発振回路2、3がそれぞれ複数の検出コイルL1、L2を備える点が第一実施形態と相違している。具体的に説明すると、第一発振回路2は、直列(又は並列)に接続された複数(例えば、4つ)の第一検出コイルL1を備え、第二発振回路3は、直列(又は並列)に接続された複数(例えば、4つ)の第二検出コイルL2を備える。このようにすると、第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2を、軸表面にそれぞれ複数配置することにより、軸表面に存在する温度や材質のばらつき、さらには、検出コイルL1、L2と軸表面との間のギャップ変動などを平均化することができるので、これらの誤差要因による検出精度の低下を回避できる。
【0036】
図10及び図11に示すように、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2は、回転軸Sの同一円周上に並ぶように配置することが好ましい。このようにすると、軸表面の円周方向に存在する温度や材質のばらつき、さらには、検出コイルL1、L2と軸表面との間のギャップ変動などを平均化することができるのだけでなく、軸方向に存在する温度勾配の影響を最小化し、これらの誤差要因による検出精度の低下を回避できる。なお、複数の第一検出コイルL1及び複数の第二検出コイルL2は、環状のボビンBで所定の位置に保持される。ボビンBは、一体型でも良いし、分割型であっても良い。
【0037】
複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2を、回転軸Sの同一円周上に並ぶように配置する場合、図9に示すように、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域とが交互になるような配置構成とすることができる。このようにすると、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域とのズレに起因する誤差の発生を抑制できるだけでなく、この誤差を回転軸Sの回転にもとづいて排除することができる。
【0038】
また、複数の第一検出コイルL1と複数の第二検出コイルL2を、回転軸Sの同一円周上に並ぶように配置する場合、図10に示すように、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域とが重なるような配置構成としてもよい。例えば、第一検出コイルL1と第二検出コイルL2の高さ寸法を相違させ、平面視で交差するように配置する。このようにすると、第一検出コイルL1の検出領域と第二検出コイルL2の検出領域とのズレに起因する誤差の発生を防止することができる。
【0039】
[第三実施形態]
つぎに、本発明の第三実施形態に係る金属状態検出装置(引張・圧縮応力センサ)について、図12を参照して説明する。ただし、第一実施形態と共通の部分については、第一実施形態と同一符号を付し、第一実施形態の説明を援用する。
【0040】
図12に示される引張・圧縮応力センサ21は、第一実施形態の磁歪式トルクセンサ1と略同じ構成であるが、第一検出コイルL1及び第二検出コイルL2の配置方向が第二実施形態の磁歪式トルクセンサ1と相違している。具体的に説明すると、引張・圧縮応力センサ21は、軸表面に生じる磁歪の逆効果を利用して静止軸Sの引張応力及び圧縮応力を検出する金属状態検出装置であって、第一検出コイルL1は、軸表面において軸方向の透磁率変化を検出するように配置され、第二検出コイルL2は、軸表面において周方向の透磁率変化を検出するように配置されている。つまり、軸方向の透磁率は、引張応力及び圧縮応力に応じて背反的に変化するため、第一検出コイルL1によって引張応力及び圧縮応力を良好に検出することができる。また、周方向の透磁率は、引張応力及び圧縮応力に応じて殆ど変化しないため、第二検出コイルL2によって温度変化を検出し、第一検出コイル1の温度補償を行うことができる。
【0041】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、金属の状態を検出する金属状態検出装置や金属状態検出方法であれば、磁歪式トルクセンサや引張・圧縮応力センサに限らず、金属の疲労、損傷、欠陥、材質などの状態検出にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第一実施形態に係る金属状態検出装置(磁歪式トルクセンサ)の構成を示すブロック図である。
【図2】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形始端部を拡大)を示す説明図である。
【図3】発振波の位相ズレ蓄積作用(検出波形終端部を拡大)を示す説明図である。
【図4】検出回路におけるトルク検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】検出回路におけるカウント数変更処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】検出回路における第一方向透磁率検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】検出回路における第二方向透磁率検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】(A)は比較例に係るタイミングチャート、(B)は実施例に係るタイミングチャートである。
【図9】本発明の第二実施形態に係る金属状態検出装置(磁歪式トルクセンサ)の構成を示すブロック図である。
【図10】(A)は検出コイルの第一の配置例を示す展開平面図、(B)は検出コイルの第一の配置例を示す側面図である。
【図11】(A)は検出コイルの第二の配置例を示す展開平面図、(B)は検出コイルの第二の配置例を示す側面図である。
【図12】本発明の第三実施形態に係る金属状態検出装置(引張・圧縮応力センサ)の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
1、11 磁歪式トルクセンサ
2 第一発振回路
3 第二発振回路
4 検出回路
L1 第一検出コイル
L2 第二検出コイル
S 回転軸
21 引張・圧縮応力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の状態を検出する金属状態検出装置であって、
金属の状態変化に応じてインダクタンスが変化するように配置される第一検出コイル及び第二検出コイルと、
所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、
所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路と、
第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出する第一位相ズレ検出手段と、
第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出する第二位相ズレ検出手段と、
第一発振回路に係る測定時間と第二発振回路に係る測定時間との差分を求めて出力する差分検出手段とを備え、
第一発振回路と第二発振回路は、相互干渉を避けるために、交互に駆動され、
差分検出手段は、第一発振回路の駆動終了時及び第二発振回路の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路に係る最新の測定時間と第二発振回路に係る最新の測定時間との差分を求めて出力する
ことを特徴とする金属状態検出装置。
【請求項2】
金属の状態を検出する金属状態検出方法であって、
金属の状態変化に応じてインダクタンスが変化するように配置される第一検出コイル及び第二検出コイルと、
所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第一検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第一発振回路と、
所定の基準周波数で自律的に発振すると共に、第二検出コイルのインダクタンス変化に応じて発振波に位相ズレを生じさせる第二発振回路とが用いられ、
第一発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出し、
第二発振回路から出力される複数の発振波をカウントし、該カウント数が所定数Nに達したか否かを判断する発振波カウント処理を行い、該発振波カウント処理に要した時間測定にもとづいて、蓄積された発振波の位相ズレを検出し、
第一発振回路に係る測定時間と第二発振回路に係る測定時間との差分を求めて出力するにあたり、
第一発振回路と第二発振回路を、相互干渉を避けるために、交互に駆動させ、
第一発振回路の駆動終了時及び第二発振回路の駆動終了時に、それぞれ、第一発振回路に係る最新の測定時間と第二発振回路に係る最新の測定時間との差分を求めて出力する
ことを特徴とする金属状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−31257(P2009−31257A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88922(P2008−88922)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【出願人】(591123274)株式会社アヅマシステムズ (31)
【Fターム(参考)】