説明

金属発泡体の製造方法

【課題】 厚さ方向の熱伝導率が低く断熱性が改良されている金属発泡体を得ることができる金属発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】 超塑性金属からなる複数の金属板と、粉末状の発泡剤とを準備し、複数の金属板の間に発泡剤を挟む工程、発泡剤を挟んだ複数の金属板を圧延し、複数の金属板を相互に接合して、プリフォームを得る工程、及び、プリフォームを超塑性金属の超塑性温度で加熱して発泡剤を分解し、発泡させる工程を含む、金属発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属発泡体の製造方法に関する。特に本発明は、金属発泡体の平面方向と平行に円盤状の気孔を多数導入することにより、厚さ方向の断熱性が改良された金属発泡体が得られる、金属発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡材料は軽量であって断熱性、防音性等に優れた材料として、様々な分野で応用されている。例えば、水素を液体水素の状態で輸送、貯蔵するための容器(液体水素用タンク)では、内側に低温脆性及び水素脆性に対して耐久性のあるアルミニウム合金を用い、その外側に断熱性に優れたウレタン等の高分子発泡体を貼り付けるという構造を採用するのが一般的であった。このような構造を有する容器の場合、アルミニウム合金自体には断熱性がないため、容器に液体水素を長期間充填しておくと、容器の高分子発泡体が液体水素温度(20K)に達することにより、発泡体内部の気孔中の空気が液化することに伴って気孔の内圧が急激に低下し、高分子発泡体がその構造を維持することができずに潰れてしまうという問題があった。この問題を解決するため、高分子発泡体の強度を向上させたり厚さを増加させるなどの試みがなされてきたが、容器の製造コストの上昇やサイズの増大などの新たな問題点を伴うことから、有効な解決手法は得られていないのが実情である。一方、液体水素タンクの内側に用いられているアルミニウム合金が断熱特性を有するものとすることができれば、タンク内部に充填された液体水素による高分子発泡体の温度低下を抑制することによって上記問題を解決することができ、さらには、高分子発泡体の厚さを減少させることが可能となり容器の重量及び寸法を減少させることができると考えられる。
【0003】
アルミニウム等の各種金属あるいは合金を用いて金属発泡体を製造する方法として、従来、金属粉末と発泡剤とを混合しバルク化した後に加熱により多孔質化させる方法が採用されてきた。例えば、特開2001−342503号公報には、金属粉末と水素化物の粉末を混合して容器内に封入し、中温度において強加工を加えることにより粉末をバルク化した後、高温度の超塑性発現加工条件下で水素化物を分解させてバルク化した材料を多孔質化させる、多孔質体の製造方法が開示されている。また、特開2001−342504号公報には、金属粉末と水素化物の粉末を混合して容器内に封入し、中温度において強加工を加えることにより粉末のバルク化と同時に粉末と容器材料を一体化した後、高温度の超塑性発現加工条件下で水素化物を分解させてバルク化した材料を多孔質化させる、複合多孔質体の製造方法が開示されている。
これらの方法はいずれも、製造原料として高価な金属粉末を使用するものであるため、発泡体の製造コストが高くなるという問題を有していた。また、得られる発泡体は製造プロセスから必然的に球状の気孔を有するものとなるため、これら従来の方法によって発泡体の軽量化を図ることはできても、薄くて断熱性の高い発泡体を得ることは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−342503号公報
【特許文献2】特開2001−342504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、球状の気孔を有する従来の発泡体に比べて、同じ気孔率で比較すると厚さ方向の熱伝導率が低く断熱性が改良されている金属発泡体を得ることができ、しかも従来法に比べて製造コストが安価な金属発泡体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、超塑性金属からなる複数の金属板の間に発泡剤を挟んで圧延して金属板を接合した後に、得られたプリフォームを超塑性金属の超塑性温度で加熱して発泡剤を分解し、発泡させることにより、厚さ方向の断熱性に優れた金属発泡体を得ることができるとの知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明の方法によれば、発泡剤を挟んだ金属板を圧延して接合することにより、異方性を有する圧延集合組織を形成することができ、さらに、金属板を構成する材料として超塑性を有する金属を使用してその超塑性温度でプリフォームを加熱して発泡剤を分解し、発泡させることにより、圧延集合組織の異方性を維持したまま発泡を行うことができることから、発泡剤の分解による発泡方向に異方性が生じ、得られる金属発泡体中の気孔の形状が円盤状(金属発泡体の厚さ方向に球を潰した形状)となるため、球状の気孔を有する従来の発泡体に比べて、同じ気孔率で比較すると厚さ方向の熱伝導率が低く断熱性が改良された金属発泡体が得られるものと考えられる。
【0007】
すなわち、本発明は、超塑性金属からなる複数の金属板と、粉末状の発泡剤とを準備し、該複数の金属板の間に該発泡剤を挟む工程、前記発泡剤を挟んだ前記複数の金属板を圧延し、該複数の金属板を相互に接合して、プリフォームを得る工程、及び、前記プリフォームを前記超塑性金属の超塑性温度で加熱して前記発泡剤を分解し、発泡させる工程を含む、金属発泡体の製造方法を提供する。
本発明の方法において、前記プリフォームを得る工程がさらに、前記相互に接合した複数の金属板を切断する工程、及び、前記切断した金属板を重ね合わせ、該重ね合わせた金属板を圧延する工程を含む工程を1回以上含むのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、厚さ方向の断熱性が改良された金属発泡体を安価に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法では、まず、超塑性金属からなる複数の金属板と、粉末状の発泡剤とを準備し、複数の金属板の間に発泡剤を挟む。
本発明で使用する金属板は、超塑性金属からなるものであって圧延可能であれば特に制限はなく、Al−Mg系(5000系)合金、Al−Zn−Mg系(7000系)合金、Al−Cu−Mg系(2000系)合金、Al−Mg−Si系(6000系)合金等のアルミニウム合金、AZ31、AZ91等のマグネシウム合金、Ti−6Al−4V、SP700等のチタン合金、Zn−Al共析合金、鉄合金等の合金板を好適に使用することができる。これらのうち、軽量性等の観点からアルミニウム合金を使用するのが好ましく、超塑性特性に優れた5083アルミニウム合金を使用するのがさらに好ましい。
なお、使用する金属板の枚数は、金属板の厚さ及び圧延工程で使用する圧延装置等の性能、得ようとする金属発泡体の気孔率等により、適宜決定することができる。圧延対象物の全体厚さが厚くなると、圧下力の大きな高性能の圧延装置が必要となることなどから、使用する金属板の枚数は2〜12枚程度であるのが望ましく、また金属板の厚さは0.5〜3mm程度であるのが望ましい。なお、本発明の方法により得ようとする金属発泡体の気孔率は、通常30〜80%程度である。
一方、本発明で使用する粉末状の発泡剤は、使用する超塑性金属の超塑性温度で十分に分解し、発泡が可能なものであれば特に制限はなく、水素化チタン、水素化ジルコニウム等の無機発泡剤や、アゾジカルボンアミド(ADCA)等のアゾ系有機発泡剤あるいはp,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)等のヒドラジン誘導体等の有機発泡剤を好適に使用することができる。良好な金属発泡体を得るためには、使用する超塑性金属の超塑性温度に近い分解温度を有する発泡剤を使用するのが望ましい。このような観点から、分解温度が一般に有機発泡剤に比べて高い無機発泡剤を使用するのが好ましい。例えば、超塑性金属として、500〜550℃の超塑性温度を有する上記5083アルミニウム合金を使用する場合には、分解温度が約400℃である水素化チタンを使用するのが好ましい。
粉末状の発泡剤の粒径は、一般に、十分に小さいことが望ましいが、作業過程における粉末の凝集の問題等の観点から、10〜50μm程度であるのが好ましい。
粉末状の発泡剤を複数の金属板の間に挟む際には、常法に従い、例えば一の金属板の表面の上にふるいにかけながら発泡剤を散布し、次いでその上に他の金属板を重ねればよい。
また、発泡剤の使用量は、得ようとする金属発泡体の気孔率並びに使用する発泡剤及び超塑性金属の種類等により、適宜決定することができる。例えば、超塑性金属として上記5083アルミニウム合金を使用し、粉末状の発泡剤として水素化チタン発泡剤を使用する場合、気孔が容易に合体し粗大化するのを防止する一方で、プリフォームの十分な発泡を担保する観点から、5083アルミニウム合金板の重量を基準として0.5〜1.5重量%程度の粉末状の水素化チタン発泡剤を使用するのが好ましい。
【0010】
本発明の方法では、次いで、発泡剤を挟んだ複数の金属板を圧延し、複数の金属板を相互に接合して、プリフォームを得る。
金属板の圧延は、常法により、例えば冷間ロール圧延等のロール圧延により行えばよい。また、圧延の際に金属板に印加する圧力は、金属板を構成する超塑性金属の種類等に応じて適宜決定すればよい。同様に、圧延速度についても、使用する圧延装置等の性能等により、適宜決定することができる。なお、これらの条件及びその他の圧延条件は、圧延により複数の金属板が相互に接合したプリフォームが得られるものである必要があり、また、異方性を有する圧延集合組織を形成することなどにより、発泡剤の分解による発泡の際に発泡方向に異方性が生じるようにするものである必要がある。具体的には、圧延の際の圧下率が50%以上であることが望ましい。ただし、圧延による上記効果は1回の圧延によって達成される必要はなく、圧延を複数回繰り返すことにより上記圧延の効果を達成して、プリフォームを得ることとしても良い。
【0011】
本発明の方法では、上記プリフォームを得る工程がさらに、相互に接合した複数の金属板を切断する工程、及び、切断した金属板を重ね合わせ、重ね合わせた金属板を圧延する工程を含む工程を1回以上含むのが好ましい。
この工程の具体的な態様について図面を用いて説明すると、図1を参照して、まず、第1の工程において、超塑性金属からなる複数の金属板1と、粉末状の発泡剤2とを準備し、一の金属板1の表面の上にふるいにかけながら発泡剤2を散布し、次いでその上に他の金属板1を重ね、これらの作業を繰り返すことにより、複数の金属板1の間に、発泡剤2を挟む。次いで、第2の工程において、発泡剤2を挟んだ複数の金属板1を圧延機3を用いて圧延し、複数の金属板を相互に接合してプリフォームを得る際に、相互に接合した複数の金属板を切断し、切断した金属板を重ね合わせ、重ね合わせた金属板を圧延する作業を、1回以上行う。
ここで、接合した金属板を切断する方法は常法によればよい。また切断、重ね合わせ及び圧延からなるサイクルを繰り返す回数は、得ようとする金属発泡体の気孔率等により、適宜決定することができる。一般に、金属板中の発泡剤の分散状態を良好なものとする等の観点から、繰返し回数は多いほど好適であるが、出発時の金属板の厚さ及び枚数に応じて、繰返し回数を調整するのが望ましい。例えば、出発時の金属板の厚さが1mm、枚数が6枚であって、圧延の際の圧下率を50%として上記サイクルをn回繰り返した場合、発泡剤の粒子が存在する金属板の界面の数は5×2n-1個、界面間の平均間隔は6×(5×2n-1-1mmとなる。すなわち、この場合の界面間の平均間隔は、サイクルの繰返し回数が6回では37.5μm、8回では9.375μmとなるから、発泡剤の粒径が10〜50μm程度である場合には、サイクルの繰返し回数はこの程度で十分であり、これ以上回数を増加しても、発泡剤の分散状態の一層の向上は期待できないと考えられる。
なお、切断した金属板を重ね合わせる際、重ね合わせる金属板の間に追加の発泡剤を挟むようにしてもよい。
【0012】
本発明の方法では、さらに、上記工程で得られたプリフォームを超塑性金属の超塑性温度で加熱して発泡剤を分解し、発泡させることにより、金属発泡体を得る。
プリフォームを加熱する温度は、金属板を構成する超塑性金属の超塑性温度であり、使用する超塑性金属の種類に応じて決定すればよいが、通常、0.7Tm≦T≦0.85Tm(式中、Tmは使用する超塑性金属の絶対温度での融点である。)の範囲の温度Tである。また、上記加熱温度は、発泡剤の分解温度以上の温度であることを要する。本発明においては、圧延により得られた圧延集合組織の異方性を維持したまま発泡を行うことなどにより、発泡剤の分解による発泡方向に異方性が生じるようにすることが重要であり、このような観点からプリフォームの加熱温度、加熱時間等の加熱条件を決定する必要がある。例えば、プリフォームを融点近傍まで加熱すると、マトリックスの流動応力が極端に低下するため、圧延集合組織の異方性を維持することは極めて困難となるが、上記のような超塑性温度で加熱すれば、このような問題は生じない。
なお、プリフォームの加熱方法は、使用する超塑性金属の種類によらず同一の方法を採用することができるが、マグネシウムや鉄のように酸化しやすい材料を含む超塑性金属を使用する場合には、大気中で加熱することにより酸化皮膜が金属表面に生成し、発泡を阻害するのを防止する観点から、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で加熱するのが望ましい。
以下に、本発明について、実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
厚さ1mm、幅30mm、長さ300mmの5083アルミニウム合金の板を6枚準備した。一方の合金板の表面を洗浄した後、合金板の重量を基準として1重量%の粉末状の水素化チタン発泡剤(粒径45μm)を、ふるいにかけながら均一に散布し、次いでその上に、洗浄した表面を下にして他方の合金板を重ねた。
このようにして得られた積層体を、二段式ロール圧延機を用いて圧延温度350℃、圧下率50%の条件で圧延して接合した。圧延した積層体を半分の長さに切断し、切断した積層体を重ね合わせ、重ね合わせた積層体を上記と同様の条件で圧延接合した。切断、重ね合わせ及び圧延からなるサイクルを合計で8回行うことにより、厚さ3mmのプリフォームを得た。このプリフォームの切断面を顕微鏡で観察したところ、水素化チタン粉末はアルミニウム合金のマトリクス中に均一に分散しており、その粒径は10μm程度まで微細化されていた。
得られたプリフォームを、電気炉中で5083アルミニウム合金の超塑性温度(550℃)で10分間保持することにより、水素化チタン発泡剤を分解して水素を放出させて、アルミニウム合金の発泡体を得た。
得られたアルミニウム合金の発泡体の断面(圧延方向(RD面)及びこれに垂直な方向(TD面))を顕微鏡で観察したところ、図2に示すとおり、発泡体の気孔の形状が、発泡体の厚さ方向に球を潰した円盤状となっていることが確認された。本発明の方法により得られた円盤状の気孔を有する本発明による発泡体が、球状の気孔を有する従来の発泡体に比べて、同じ気孔率で比較すると厚さ方向の熱伝導率が低くなっていることは、マイクロメカニックス解析等の手法により確認することができる。
本発明の方法により得られた上記アルミニウム合金発泡体を利用して、図3に示すように、内側にアルミニウム合金発泡体5を用い、その外側に高分子発泡体6を貼り付けた構造を有する液体水素用タンクを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の金属発泡体の製造方法の活用例としては、液体水素用タンクの内側部材として使用することができるような、厚さ方向の断熱性に優れた金属発泡体を製造するための方法としての利用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の方法の一態様を示す模式図である。
【図2】本発明の方法により得られる金属発泡体の断面の顕微鏡写真である。
【図3】本発明の方法により得られる金属発泡体の応用例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0016】
1 金属板
2 発泡剤粉末
3 圧延機
4 液体水素
5 金属発泡体
6 高分子発泡体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超塑性金属からなる複数の金属板と、粉末状の発泡剤とを準備し、該複数の金属板の間に該発泡剤を挟む工程、
前記発泡剤を挟んだ前記複数の金属板を圧延し、該複数の金属板を相互に接合して、プリフォームを得る工程、及び、
前記プリフォームを前記超塑性金属の超塑性温度で加熱して前記発泡剤を分解し、発泡させる工程、
を含む、金属発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記プリフォームを得る工程がさらに、
前記相互に接合した複数の金属板を切断する工程、及び、
前記切断した金属板を重ね合わせ、該重ね合わせた金属板を圧延する工程、
を含む工程を1回以上含む、請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−97075(P2006−97075A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283686(P2004−283686)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発表行事名:日本金属学会2004年春期(第134回)大会 発表年月日:2004年4月1日 発表場所 :東京工業大学大岡山キャンパス南1号館E会場 発表論文掲載誌・掲載頁:日本金属学会講演概要集(2004年春期大会)、140頁 掲載誌発行日:2004年3月30日
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】