説明

金属缶用ホットメルト組成物及びこれを用いて成る金属缶

【課題】金属缶の口頸部等への塗工が容易で生産性に優れていると共に、形成されるシール材が高温状態に付された場合にも密封性を維持できる、耐熱性に優れた金属缶用ホットメルト組成物を提供することである。
【解決手段】熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、ワックス、ポリオレフィン樹脂から成るホットメルト組成物であって、前記ワックスが140〜160℃の軟化点(R&B式)を有するものであることを特徴とする金属缶用ホットメルト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属缶用ホットメルト組成物に関するものであり、より詳細には、金属缶の成形に際して金属端縁の保護に好適に使用し得る耐熱性に優れたホットメルト組成物及びこれを用いて成る金属缶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属缶としては、口頸部にキャップが螺合可能な螺子部が形成されたリシール機能を有する金属缶が広く使用されている。このようなリシール機能を有する金属缶においては、口頸部の開口端縁が外側に巻き返されたカール部が形成されている。
このような形状を有する金属缶においては、開口端縁において金属缶を構成する樹脂被覆金属板の金属板が露出した状態になっているため、金属板が鋼板である場合には、水分の付着により錆が発生するおそれがあり、特にカール部はその内部に空間を有しているため、カール部内の空間に水が浸入した場合には、発錆のおそれがあると共に、錆水が流出するおそれがあるため好ましくない。
【0003】
このような観点から、カール部と口頸部外面とが当接する部分に硬化型塗膜を形成しカール部内部への水の浸入を防止して、カール部内部に存在する鋼板端縁に水が付着することを防止していたが、キャップを締め付けた際の荷重や熱膨張によってカール部が変形した際に、塗膜の接着面に大きな剪断力が作用するため、硬化型塗膜では剥離しやすく、シール不良が生じやすいという問題があった。
このような問題を解決するために、本出願人により、カール部と口頸部外面とが対向する環状の隙間にシール材を介装して密封することが提案されており、シール材としてはスチレンブタジエンゴム等のゴムや、ポリプロピレン等のフィルムを用いることが記載されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−203481号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術によれば、キャップの締め付け等によりカール部が変形してもシール材が剥離することがなく、シール不良が防止されている。その結果、カール部内に水が浸入することがなく、カール部における発錆が有効に防止されている。
しかしながら、シール材としてゴムを用いる場合には、一般に塗工性の点から固形分の濃度をあまり高くすることができないため、一度に厚塗りすることができず、その結果一回の塗工では密封性に優れたシール材を形成することが困難である。またシール材としてフィルムを用いる場合には、フィルムの貼付に際して煩雑な工程が必須となり、生産性に劣ると共に、やはり満足のいく密封性を得ることは難しいという問題がある。
【0006】
また、優れた塗工性を有し、生産性にも優れたシール材として、ホットメルト組成物を使用することも考えられるが、一般に熱可塑性エラストマーをベースポリマーとするホットメルト組成物は軟化点が低く、高温域で流動化することは避けられず、このような通常のホットメルト組成物を用いた場合には、図1に示すように、レトルト殺菌に付される前の状態においては、シール材は、カール部内の上部にまで行き渡り、カール部内の密封性が確保されると共に、金属端縁の保護も十分であるが(図1(A))、レトルト殺菌、特に125℃を超えるような高温のレトルト殺菌条件下におかれると、ホットメルト組成物から成るシール材が軟化すると共に、カール部内の空気が膨張し、口頸部の開口端縁と口頸部外面の間からシール材がスクイズしてしまい(図1(B))、カール部の密封性に劣るという問題がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、金属缶の口頸部等への塗工が容易で生産性に優れていると共に、形成されるシール材が高温状態に付された場合にも密封性を維持できる、耐熱性に優れた金属缶用ホットメルト組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、レトルト殺菌のような高温湿熱条件下に置かれた場合にも、シール材の密封性能が低下することがなく、金属端縁の発錆が有効に防止された金属缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、ワックス、ポリオレフィン樹脂から成る金属缶用ホットメルト組成物であって、前記ワックスが140〜160℃の軟化点(R&B式)を有するものであることを特徴とする金属缶用ホットメルト組成物が提供される。
本発明の金属缶用ホットメルト組成物においては、
1.熱可塑性エラストマーが、スチレンブロック共重合体であり、温度230℃荷重2.16kgfにおけるメルトフローレートが2〜70g/10分であること、
2.粘着付与剤が、115〜160℃の軟化点(R&B式)であること、
3.熱可塑性エラストマー15〜30wt%、粘着付与剤20〜65wt%、ワックス5〜20wt%、ポリオレフィン樹脂15〜35wt%から成ること、
4.温度130℃荷重5kgfにおけるメルトフローレートが0.01〜25g/10分であり、荷重5kgfにおける流出開始温度が105〜150℃であること、
5.130℃における粘度(フローテスターによる測定:ダイ径0.49mm、ダイ長さ1mm、荷重5kgf)が20〜1500Pa・s、190℃における粘度(B型粘度計、#3ローター、12rpm)が2000〜10000mPa・sであり、且つ軟化点(R&B式)が140〜160℃であることが好適である。
【0009】
本発明によればまた、金属缶本体、及び該金属缶本体から突出しリシール用のキャップが着脱可能な口頸部とを備え、該口頸部の開口縁には外側に巻き返された環状のカール部を有する金属缶において、前記カール部と口頸部外面とが対向する環状の隙間に、上記金属缶用ホットメルト組成物から成るシール材が介装され密封されていることを特徴とする金属缶が提供される。
本発明の金属缶においては、シール材が、50〜70mg/cmの量で口頸部外面に塗工されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属缶用ホットメルト組成物によれば、優れた耐熱性を有しているため、レトルト殺菌に付される金属缶のシール材として使用された場合にも、スクイズ発生を有効に防止することができるため、優れた密封性能を維持することが可能となる。
また常温で固体であるため、リシール機能を有する金属缶の口頸部に形成されたカール部のような箇所に施す場合にも、厚塗りすることが可能であり、密封性に優れたシール材を塗工性よく成形することができ、生産性にも優れている。
またかかる金属缶用ホットメルト組成物をカール部の端縁保護に用いられた金属缶においては、レトルト殺菌のような高温湿熱条件下におかれた場合にも、カール部と口頸部外面の密封性に優れているため、カール部内に水が侵入してしまうようなことがなく、金属端縁の発錆が有効に防止されている。
また本発明の金属缶用ホットメルト組成物は、上記リシール機能を有する金属缶のカール部のシール材以外にも、エアゾール缶におけるマウンテンカップと缶本体との巻締め部分のシール材、或いは溶接缶の継目部分の防錆処理材等として有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の金属缶用ホットメルト組成物は、熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、ワックス、ポリオレフィン樹脂から成る従来公知のホットメルト組成物において、特にワックスとして、軟化点(R&B式)が140〜160℃の範囲にあるものを用いることが重要な特徴である。
従来より、粘着付与剤、ワックスを配合した、熱可塑性エラストマーをベースポリマーとする、シール材を形成し得るホットメルト組成物は知られているが、本願発明においては、金属缶用のホットメルト組成物として、特に軟化点(R&B式)が140〜160℃の範囲にあるワックスを用いることにより、金属缶への塗工性に優れると共に、優れた耐熱性を実現でき、レトルト殺菌に付された場合にも、ホットメルト組成物から成るシール材のスクイズによる密封性の低下という問題を生じることなく、発錆を完全に防止することが可能となるのである。
尚、レトルト殺菌は、金属缶に収容される内容物の種類や量等によってその条件が異なり、一般的には90〜120℃の温度範囲、特に高温殺菌を必要とする場合には、120〜125℃の温度範囲で時間を調整して適宜行われる。
【0012】
本発明の金属缶用ホットメルト組成物は、温度130℃荷重5kgfにおけるメルトフローレート(MFR)が0.01〜25g/10分であり、且つ荷重5kgfにおける流出開始温度が105〜150℃の範囲にあるため、レトルト殺菌に付された場合にもスクイズを生じることがなく、シール材としての密封性を維持することが可能となる。
すなわち、高温レトルト殺菌の温度である125℃に付されても、シール材の流動を抑制することができ、上述したようなシール材のスクイズが有効に防止されるのである。
また本発明の金属缶用ホットメルト組成物は、130℃における粘度(フローテスターによる測定:ダイ径0.49mm、ダイ長さ1mm、荷重5kgf)が20〜1500Pa・s、190℃における粘度(B型粘度計、#3ローター、12rpm)が2000〜10000mPa・sであり、且つ軟化点(R&B式)が140〜160℃の範囲にあるため、優れた耐熱性を有し、高温レトルト殺菌に付された場合にもスクイズを生じることがないと共に、塗工性に優れ、リシール機能を有する金属缶のカール部に適用された場合にも生産性よくシール材を形成することが可能となるのである。
【0013】
本発明のこのような作用効果は後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわち、本発明の金属缶用ホットメルト組成物から成るシール材は、190℃における粘度が2000〜10000mPa・sで、優れた塗工性を有していると共に、125℃×30分のレトルト殺菌に付されても、シール材のスクイズは生じることがなく、カール部の密封性は確保されていた。(実施例1〜11)。
また軟化点が108℃のポリメチレンワックスを用いた場合には、高温レトルト殺菌は勿論、通常のレトルトによりシール材がスクイズしてしまい、カール部の密封性が損なわれていることが明らかである(比較例1)。
更に金属缶用ホットメルト組成物中にポリオレフィン樹脂を全く配合していない場合には、金属缶用ホットメルト組成物の密着性、柔軟性に劣り、生産性よくカール部にシール材を形成することができなかった(比較例2)。
【0014】
(熱可塑性エラストマー)
本発明の金属缶用ホットメルト組成物における熱可塑性エラストマーは、金属缶用ホットメルト組成物のベースポリマーと成るものである。
熱可塑性エラストマーとしては、一般に通称SIS系熱可塑エラストマーと言われるSIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)や、SBS系熱可塑エラストマーと言われるSBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、及びSBS系熱可塑エラストマーの水素付加物であるSEBS系熱可塑エラストマーと言われるSEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体)等を用いることができる。
これらの中でも、特に熱安定性及び他の成分との相溶性などの点からSEBS系熱可塑エラストマー(SEBS,SEPS)が好適である。
【0015】
熱可塑性エラストマーは、温度230℃荷重2.16kgfにおけるメルトフローレートが2〜70g/10分の範囲にあることが、塗工性の点で好ましい。
本発明の金属缶用ホットメルト組成物における熱可塑性エラストマーの配合量は、15〜30wt%、特に18〜24wt%の範囲にあることが好ましく、熱可塑性エラストマーの配合量が15wt%未満の場合は、柔軟性に欠けると共に、耐熱性に劣り、レトルト殺菌の際のスクイズ防止効果が低く、一方配合量が30wt%を超える場合は、加熱溶融時の流動性が悪くなり、塗工性等の点で好ましくない。
【0016】
(粘着付与剤)
本発明の金属缶用ホットメルト組成物における粘着付与剤は、上述した熱可塑性エラストマーを可塑化させると共に、金属缶用ホットメルト組成物の接着性を向上させるために配合する。
本発明の金属缶用ホットメルト組成物において粘着付与剤は、レトルト殺菌に付された場合におけるスクイズを防止するために、特に軟化点(R&B式:JIS K 6863
ホットメルト接着剤の軟化点試験方法に準拠)が115〜160℃の範囲にあることが望ましい。
【0017】
粘着付与剤としては、ロジン系粘着付与剤、テルペン系粘着付与剤、石油系粘着付与剤等を挙げることができ、ロジン系粘着付与剤としては天然ロジン、重合ロジン及びそれらの誘導体(水素化ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、アクリル酸変性ロジン、フマル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン、それらのロジンエステル(アルコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどのエステル化ロジンなど))があり、テルペン系としてはテルペン(α−ピネン、β−ピネン)系、テルペンフェノール系及びそれらの誘導体(芳香族変性テルペン樹脂、水素化テルペン樹脂)があり、石油系粘着付与剤としては脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族石油樹脂、クマロン−インデン樹脂、スチレン系樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。
本発明においては、上記粘着付与剤の中でも特に、テルペン系粘着付与剤及び石油系粘着付与剤を用いることが好ましく、色相の美しさ等の意匠性を考慮するとそれらの水素付加されたものであることがより好ましい。
粘着付与剤の配合量は20〜65wt%、特に30〜50wt%であることが好ましく、粘着付与剤の配合量が20wt%未満の場合には接着性能及び柔軟性が低下し、一方配合量が65wt%を超える場合には、レトルト殺菌の際のスクイズ防止効果が低下するため好ましくない。
【0018】
(ワックス)
本発明の金属缶用ホットメルト組成物に用いるワックスは、140〜160℃の軟化点(R&B式:JIS K 6863 ホットメルト接着剤の軟化点試験方法に準拠)を有することが重要な特徴であり、これにより、金属缶用ホットメルト組成物全体の軟化点を上昇させ、レトルト殺菌にも耐え得る耐熱性を付与することが可能となるのである。
ワックスの軟化点が140℃未満の場合、レトルト殺菌の際のスクイズ防止効果が低く、一方160℃を超える場合には、溶融に高温を要し、生産性に劣る等、いずれの場合も使用に適さない。
本発明で使用し得る上記範囲の軟化点を有するワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸、脂肪酸グリセライド、これらを酸化したワックス、エチレン−アクリル酸共重合体ワックス及びエチレン−メタクリル酸共重合体ワックス等を挙げることができる。上記ワックスの中でも高温レトルト殺菌にも耐え得るには軟化点の高さを考慮するとポリプロピレンワックスが特に好ましい。
本発明の金属缶用ホットメルト組成物に用いるワックスは、一般に5000〜30000の分子量を有すると共に、温度170℃における粘度が4000mPa・s以下ものであることが望ましい。
ワックスの配合量は5〜20wt%、特に10〜15wt%の範囲にあることが好ましく、ワックスの配合量が5wt%未満の場合、レトルト殺菌に耐え得る耐熱性を付与することができず、一方配合量が20wt%を超える場合は、密着性及び柔軟性が低下するため好ましくない。
【0019】
(ポリオレフィン樹脂)
本発明の金属缶用ホットメルト組成物においては、金属缶用ホットメルト組成物の粘度を調整し、柔軟性を付与すると共に、耐熱性を向上して、レトルト殺菌に付された場合のスクイズを有効に防止する目的でポリオレフィン樹脂が配合される。
ポリオレフィン樹脂は、熱可塑性エラストマーと同様の作用を呈するものであるが、熱可塑性エラストマーのみを用いた場合には、粘度が高くなりすぎ、密封性や塗工性に劣るようになることから、ポリオレフィン樹脂を配合することによって、金属缶用ホットメルト組成物によって形成されるシール材の硬さを調整することができる。
ポリオレフィン樹脂としては、アタクチック構造をもつ熱可塑性ポリオレフィンであり、非晶質のものであることが好適である。具体的にはアモルファスポリα−オレフィン(プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンコポリマー、プロピレン−ブテンコポリマー、プロピレン−エチレン−ブテンターポリマー)、アタクチックポリプロピレン等を挙げることができ、中でも軟化点を考慮するとプロピレンホモポリマーを好適に用いることができる。
ポリオレフィン樹脂の配合量は15〜35wt%であり、15wt%未満の場合柔軟性及びレトルト時のスクイズ防止効果が低下し、配合量が35wt%を超える場合には、加熱溶融時の流動性が悪くなり生産性に劣るようになる。
【0020】
(その他)
本発明の金属缶用ホットメルト組成物においては、粘着付与剤の効果を補助する目的で鉱油を使用してもよい。鉱油としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アロマ系オイル等を挙げることができる。
鉱油の配合量は、0〜20wt%、特に0〜10wt%の範囲にあることが好ましい。
また本発明の金属缶用ホットメルト組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、着色剤等の各種添加剤を、従来公知の配合割合で配合することができる。
【0021】
(金属缶)
本発明の金属缶は、図2に示すように、金属缶本体10と、金属缶本体10から突出しリシール用のキャップ50が着脱可能の金属製の口頸部20とを備えてなり、口頸部20の開口縁には外側に巻き返された環状のカール部30を有し、このカール部30と口頸部20の外面との環状の隙間に、本発明の金属缶用ホットメルト組成物から成るシール材40が介装されていることが特徴である。
金属缶本体10は、有底円筒形状の胴部11と、胴部11上端から上方に向かって内向きに傾斜する肩部12とを備え、この肩部12から上記口頸部20が突出しており、金属缶本体10と口頸部20は一枚のブランクから絞り成形により一体成形された構造となっている。
【0022】
口頸部20は、雄ねじ21aが成形された大径のねじ筒部21と、ねじ筒部21上端から一段小径に絞られた開口筒部22と、ねじ筒部21と開口筒部22間を連結する段部23とを備えている。段部23は開口筒部下端から下方に向かって所定角度傾斜する傾斜壁となっている。
カール部30は、開口筒上端から半径方向外方に向かって上方に凸形状に湾曲する上部湾曲部31と、上部湾曲部31の外径端から半径方向内方に向かって下方に凸形状に湾曲する下部湾曲部32とを備えている。上部湾曲部31は半円形状で、下部湾曲部32は1/4円弧形状となっており、下部湾曲部32の中途位置から先端(内径端)までの部分が段部23と所定の隙間を介して対向している。
図2に示す具体例では、シール材40はカール部30の下部湾曲部32と段部23との間の環状の隙間に介装されている。また、シール材40によって、下部湾曲部31の内径端に金属面が露出する切断端面33が位置し、この切断端面はシール材40によって被覆されている。
【0023】
本発明の金属缶において、本発明の金属缶用ホットメルト組成物を用いたカール部の形成方法としては、この方法に限定されないが、図3に示すような、初期カール成形(1stカール)後において、所定箇所に本発明の金属缶用ホットメルト組成物41を装着する成形方法によって好適に形成することができる。
すなわち図3(A)はカール部を成形するカーリング工程前の状態で、図3(B)は初期カール成形された状態である。初期カール部301は、図示例では断面が半円よりも進んだ3/4円弧程度まで湾曲した形状となっている。
この初期カール成形された状態で、カール成形筒部300の所定箇所にシール材40となる金属缶用ホットメルト組成物41を環状に付着させる。続くカーリング工程により(図3(C),(D)参照)、金属缶用ホットメルト組成物41がカール部30に巻き込まれて変形し、図3(C)に示すように、金属缶用ホットメルト組成物41の一部41aがカール部30の切断端面33を被覆する状態でカール部30内に充填され、カール部309に入りきらない残りの部分41bが開口筒部22外周から段部23外面上に残るような形状となる(図3(D)参照)。
【0024】
カール成形後のシール範囲は、金属缶用ホットメルト組成物41の付着量、付着位置等によって調整可能であるが、本発明の金属缶用ホットメルト組成物から成るシール材は、好適には50〜70mg/cmの量で口頸部外面に塗工されることが好ましい。上記範囲よりも塗工量が少ない場合には、十分な密封性を確保することが困難になり、一方上記範囲よりも多くても密封性の一層向上を図ることはできず、経済性に劣るようになるので好ましくない。
【0025】
尚、この方法において、カーリング工程(図3(C),(D))で金属缶用ホットメルト組成物41を巻き込まないで、カール部30の先端部をシール材40に圧接させて密封するようにしてもよい。
この方法によれば、カール部30の先端位置と金属缶用ホットメルト組成物41の位置を正確に設定することが可能となり、本発明の金属缶用ホットメルト組成物の使用と相俟って、優れた密封性を確保でき、カール部内への水の浸入や金属端縁の発錆を有効に防止することが可能となる。
【0026】
本発明の金属缶には、従来金属缶に用いられていた種々の樹脂被覆金属板を使用することができる。
金属板としては、各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板が使用されるが、本発明の金属缶は、金属端縁への水分の付着が有効に防止されているので、特に発錆のおそれがある鋼板に有効に使用することができる。表面処理鋼板としては、冷圧延鋼板を焼鈍した後二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の表面処理の一種または二種以上行ったものを用いることができる。また樹脂被覆としては、熱可塑性ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を具体的に示す。
【0028】
(金属缶用ホットメルト組成物の作製方法)
表1及び2に示した粘着付与剤及び鉱油を撹拌機を備えたステンレスビーカーに加え、加熱する。加熱は内容物が180℃以上にならないように注意して行う。溶融したら撹拌を行い均一になるようにする。次に熱可塑性エラストマーを徐々に加える。最後にワックス、ポリオレフィン樹脂を添加して金属缶用ホットメルト組成物を作製する。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1及び表2中に示した熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、ワックス、ポリオレフィン樹脂、鉱油の詳細は下記の通りである。
[熱可塑性エラストマー]
H−1:SEPS(MFR、230℃、2.16kg、7g/10min・スチレン量13%)
H−2:SEPS(MFR、230℃、2.16kg、70g/10min・スチレン量30%)
H−3:SEBS(MFR、230℃、2.16kg、10g/10min・スチレン量29%)
【0032】
[粘着付与剤]
TF−1:脂環族系石油樹脂(軟化点115℃・完全水添)
TF−2:脂環族系石油樹脂(軟化点115℃・部分水添)
TF−3:脂肪族/脂環族系石油樹脂(軟化点140℃・完全水添)
TF−4:脂肪族/脂環族系石油樹脂(軟化点135℃・部分水添)
TF−5:テルペン系樹脂(軟化点150℃・完全水添)
TF−6:脂肪族系石油樹脂(軟化点130℃・完全水添)
TF−7:脂肪族系石油樹脂(軟化点130℃・部分水添・水添率低)
TF−8:DCPD系石油樹脂(軟化点140℃・完全水添)
【0033】
[ワックス]
W−1:ポリプロピレンワックス(軟化点148℃)
W−2:ポリプロピレンワックス(軟化点156℃)
W−3:ポリメチレンワックス(軟化点108℃)
【0034】
[ポリオレフィン樹脂]
AP−1:プロピレンホモ(粘度2300mPa・s/190℃)
【0035】
[鉱油]
O−1:流動パラフィン
【0036】
(金属缶用ホットメルト組成物の評価方法)
(1)軟化点
軟化点の測定方法は、「日本工業規格」JIS(JAPAN Industrial Standard)
K 6863-1944による環球法による軟化点試験方法で行った。
【0037】
(2)190℃粘度の測定方法
190℃粘度の測定方法は、JIS K 6862(A法)に準じて行った。予め200℃付近まで溶融させた金属缶用ホットメルト組成物300gを試験容器に入れ、大気中において棒温度計で充分に撹拌しながら190℃になったところでB型粘度計(東機産業(株)製
TOKIMEC VISCOMETER MODEL:BM)を用いて行った(使用したローターは、必要に応じて適当なものを用いた)。
【0038】
(3)130℃粘度及び130℃MFRの測定方法
130℃粘度及び130℃MFRは島津製作所(株)製フローテスターCFT500Cを用いて行った。180℃で溶融した金属缶用ホットメルト組成物を所定の型に流し込み、長さ20mm、直径10mmの円筒形成型物を作製し、定温法、130℃、荷重5kgf、ダイ径0.49mm、ダイ長さ1mm条件下においてフローテスターCFT500Cにセットし測定を行った。
【0039】
(4)流出開始温度の測定方法
流出開始温度は島津製作所(株)製フローテスターCFT500Cを用いて行った。180℃で溶融した金属缶用ホットメルト組成物を所定の型に流し込み、長さ20mm、直径10mmの円筒形成型物を作製し、昇温法、開始温度80℃、昇温速度5℃/分、荷重5kgf、ダイ径1mm、ダイ長さ10mm条件下においてフローテスターCFT500Cにセットし測定を行った。
【0040】
(5)レトルト後のスクイズ評価
金属缶用ホットメルト組成物を50〜70mg/cmの量で口頸部外面に塗工し、カール成型する。次いで125℃×30分のレトルト殺菌後に金属缶全体を観察した。スクイズが生じていない場合を◎、スクイズの長さが0.5mm以下の場合○、スクイズの長さが0.5mmを越えた場合×と判定した(図1(B)参照)。
【0041】
(6)密着性の試験方法
金属缶用ホットメルト組成物を金属缶に190℃で0.8g/mの塗布量でビード状に塗布し、手指による引き剥がしでの脱落の有無を測定した。全く脱落しない場合を◎、一部欠けがある場合を○、缶上に塗膜が残らず完全に脱落した場合を×と判定した。
【0042】
(7)柔軟性の試験方法
金属缶用ホットメルト組成物を内側の1辺の長さ100mm、厚さ1mmの金属枠にはみ出さないように流し込み、固化させた後、油圧プレス機を用いて厚さ1mmのフィルムを得る。このフィルムを0℃雰囲気下に2時間以上放置し、2つに折り曲げた際の皮膜の割れの有無を確認した。皮膜のひび割れ及び破断が発生しない場合を◎、皮膜のひび割れは発生するが破断しない場合を○、皮膜が破断した場合を×と判定した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来のホットメルト組成物を用いたカール部のレトルト殺菌前後の状態を示した写真の模式図である。
【図2】本発明の金属缶の一例を示す側面図及び口頸部の一部拡大断面図である。
【図3】図2に示す金属缶の口頸部のカーリング工程の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 金属缶、10 金属缶本体、11 胴部、12 肩部、20 口頸部、21 ねじ筒部、22 開口筒部、23 段部、30 カール部、31 上部湾曲部、32 下部湾曲部、33 切断端面、40 シール材、41 金属缶用ホットメルト組成物、300 カール成形筒部、301 初期カール部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、ワックス、ポリオレフィン樹脂から成るホットメルト組成物であって、前記ワックスが140〜160℃の軟化点(R&B式)を有するものであることを特徴とする金属缶用ホットメルト組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレンブロック共重合体であり、温度230℃荷重2.16kgfにおけるメルトフローレートが2〜70g/10分である請求項1記載の金属缶用ホットメルト組成物。
【請求項3】
前記粘着付与剤が、115〜160℃の軟化点(R&B式)である請求項1又は2記載の金属缶用ホットメルト組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー15〜30wt%、粘着付与剤20〜65wt%、ワックス5〜20wt%、ポリオレフィン樹脂15〜35wt%から成る請求項1乃至3の何れかに記載の金属缶用ホットメルト組成物。
【請求項5】
温度130℃荷重5kgfにおけるメルトフローレートが0.01〜25g/10分であり、荷重5kgfにおける流出開始温度が105〜150℃である請求項1乃至4の何れかに記載の金属缶用ホットメルト組成物。
【請求項6】
130℃における粘度(フローテスターによる測定:ダイ径0.49mm、ダイ長さ1mm、荷重5kg)が20〜1500Pa・s、190℃における粘度(B型粘度計、#3ローター、12rpm)が2000〜10000mPa・sであり、且つ軟化点(R&B式)が140〜160℃である請求項1乃至5の何れかに記載の金属缶用ホットメルト組成物。
【請求項7】
金属缶本体、及び該金属缶本体から突出しリシール用のキャップが着脱可能な口頸部とを備え、該口頸部の開口縁には外側に巻き返された環状のカール部を有する金属缶において、前記カール部と口頸部外面とが対向する環状の隙間に、請求項1乃至6の何れかに記載の金属缶用ホットメルト組成物から成るシール材が介装され密封されていることを特徴とする金属缶。
【請求項8】
前記シール材が、50〜70mg/cmの量で口頸部外面に塗工されたものである請求項7記載の金属缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−45076(P2008−45076A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223843(P2006−223843)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(591004881)東洋ペトロライト株式会社 (51)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】