説明

金属表面用水分散性樹脂処理剤及び表面処理金属板

【課題】 防錆性、金属への付着性等に優れ、クロムを必要としない、鋼板、ガルバリウム鋼板等の表面処理、下塗り用に好適な金属表面用水分散性樹脂処理剤を提供する。
【解決手段】 下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する金属表面用水分散性樹脂処理剤。
(A)エポキシ基、酸基及び水酸基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)と、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)と、酸基含有重合性不飽和モノマー(c)と、水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)と、特定構造の環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)とからなる不飽和単量体混合物が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物
(B)ジルコニウム化合物
(C)シランカップリング剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属表面用水分散性樹脂処理剤及び表面処理金属板に関する。さらに詳しくは、本発明は、防錆性、金属に対する付着性、アルキド塗料、建材断熱材としての発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の上塗り材との付着性、耐水性、耐沸騰水性、耐アルカリ性及び耐ブロッキング性に優れ、さらにクロム酸、クロム酸塩系顔料を含まない、一般鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ガルバリウム鋼板等の表面処理用に好適な金属表面用水分散性樹脂処理剤及び表面処理金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の内外装用下塗り塗料や、家具、家電の筐体、農業ビニルハウスの支柱管、家畜小屋等の屋根材、自動車の車体、シャーシ、エンジン周囲部及び缶等の金属構造物の前塗装鋼板(プレコートメタル)用下塗り塗料としては、有機溶剤系のフタル酸アルキド塗料、ウレタン系塗料やエポキシ樹脂塗料が用いられてきた。しかしながら、近年有機溶剤による地球環境問題や火災の危険性等から、従来の有機溶剤系塗料に代わって、水性樹脂塗料の利用が求められている。ところが、これまでの水性樹脂塗料は、防錆性、金属への付着性、上塗り材への付着性、耐水性、耐沸騰水性、耐アルカリ性、耐ブロッキング性及び滑り性等が劣り、有機溶剤系塗料の代替には不十分であった。
【0003】
金属表面の腐蝕に関しては、例えば亜鉛メッキ鋼板などでは大気中の酸素による亜鉛の酸化腐蝕のため、表面に白錆びが発生する。また、55%アルミニウム・亜鉛メッキ鋼板である通称ガルバリウム鋼板の場合は、その美しい外観により、例えば建材用素材として無塗装のまま大量に使用されているが、コンクリート等セメント材料の強アルカリに曝されるとアルミニウムがアルカリにより腐蝕され、黒錆びを発生する。これらいずれの場合も外観を著しく低下させ、耐久性にも悪影響を及ぼし問題となる。
【0004】
そこでこれら金属素材の耐蝕性及び耐久性能を改善する目的で、クロム酸もしくは重クロム酸またはその塩を含有する処理液で表面を処理するクロメート処理が一般に行われている(例えば特許第2097278号公報、特開平7−251128号公報、特開2000−5697号公報)。しかしながら、クロメート処理中の6価クロムは人体に直接重大な悪影響を及ぼし、地球環境エコロジーの観点からは著しく後退するものであった。
【0005】
そこで特開2003−201578号公報には、アルミニウム・亜鉛系合金メッキ鋼板の表面に、カルボキシル基及び酸アミド結合を有する水溶性ウレタン樹脂と、N−メチルピロリドンと、ジルコニウム金属化合物と、シランカップリング剤とを含有する表面処理剤が報告されている。しかしながら、先ず水溶性ウレタン樹脂では耐水性が非常に悪く、かかる要求に耐えるにはほど遠いものとなる。水溶性ウレタン樹脂なる記述を広義に解釈して水性ウレタンディスパージョンとしても、一般にアクリル樹脂などと比較して耐侯性が劣り、また高価格であるという難点がある。その上高沸点溶剤であるN−メチルピロリドンを含み、環境衛生面からは問題となる。
【0006】
次に、特開2003−201579号公報には、カルボキシル基と酸アミド結合―CONH―を有する水系樹脂、具体的にはウレタン樹脂又はアクリル樹脂と、Al,Mg,Ca,Zn,Ni,Co,Fe,Zr,Ti,V,W,Mn及びCeの金属化合物と、珪素化合物を含有する金属板材用表面処理剤が紹介されている。このうち、ウレタン樹脂については上記耐侯性と経済性の欠点があり、アクリル樹脂について酸アミド結合―CONH―を有する水分散性樹脂は、上記の金属化合物や珪素化合物との反応性が強すぎ、混和安定性に乏しく、ライフが短いため作業性が極めて悪く、工業的応用上問題がある。
【0007】
このように、従来技術では上記要求を満足し、且つクロムを全く含有しないガルバリウム鋼板等の表面処理用に好適な金属表面用水分散性樹脂処理剤は得られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特許第2097278号公報
【特許文献2】特開平7−251128号公報
【特許文献3】特開2000−5697号公報
【特許文献4】特開2003−201578号公報
【特許文献5】特開2003−201579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来の金属表面用水分散性樹脂処理剤の欠点を克服し、防錆性、金属への付着性、アルキド塗料、建材断熱材としての発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等上塗り材との付着性、耐水性、耐沸騰水性、耐アルカリ性及び耐ブロッキング性に優れ、さらにクロム酸、クロム酸塩系顔料を必要としない、鋼板、ガルバリウム鋼板等の表面処理、下塗り用に好適な金属表面用水分散性樹脂処理剤及び表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、(A)成分として特定組成の不飽和単量体混合物を乳化重合することにより得られた共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物と、(B)成分としてジルコニウム(Zr)化合物と、(C)成分としてシランカップリング剤とを含有する金属表面用水分散性樹脂処理剤によって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する金属表面用水分散性樹脂処理剤を提供する。
(A)エポキシ基、酸基及び水酸基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)と、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)と、酸基含有重合性不飽和モノマー(c)と、水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)と、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜10の2価のアルキレン基を示し、R3は炭素数2又は3の2価のアルキレン基を示す)
で表される環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)とからなる不飽和単量体混合物が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物
(B)ジルコニウム化合物
(C)シランカップリング剤
【0012】
上記(A)成分において、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)、酸基含有重合性不飽和モノマー(c)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)の使用量が、それぞれ重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して0.1〜10重量%であり、環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)の使用量が前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して0.1〜5重量%であるのが好ましい。
【0013】
(A)成分において、エポキシ基、酸基及び水酸基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)が、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、又は前記アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)と、スチレン系モノマー(a-2)、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(a-4)及び多官能ビニル基含有重合性不飽和単量体(a-5)からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーとの混合モノマーが好ましく用いられる。
【0014】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)としては、例えば、メタクリルアミドエチルエチレン尿素、メタクリルアミドエチルプロピレン尿素、アクリルアミドエチルエチレン尿素及びアクリルアミドエチルプロピレン尿素からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーを使用できる。
【0015】
(A)成分における共重合体樹脂エマルジョンは、重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して0.3〜6重量%の反応性界面活性剤(f)の存在下で不飽和単量体混合物が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンであるのが好ましい。
【0016】
(A)成分における共重合体樹脂エマルジョンは、好ましくはコア・シェル型樹脂エマルジョンである。(B)成分の固形分使用量は、(A)成分である水分散性樹脂組成物の固形分に対して0.1〜20重量%の範囲であるのが好ましい。また、(C)成分の固形分使用量は、(A)成分である水分散性樹脂組成物の固形分に対して0.1〜10重量%の範囲であるのが好ましい。前記金属表面用水分散性樹脂処理剤は、好ましくは実質的にクロムを含有しない。
【0017】
本発明は、また、金属板の表面が前記の金属表面用水分散性樹脂処理剤により処理されている表面処理金属板を提供する。
【0018】
金属板表面における金属表面用水分散性樹脂処理剤の固形分付着量は、例えば0.2〜10g/m2である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属表面用水分散性樹脂処理剤は、防錆性、金属への付着性、アルキド塗料、発泡ポリウレタンや発泡ポリエチレン等の上塗り材との付着性、耐水性、耐沸騰水性、耐アルカリ性、耐ブロッキング性及び滑り性に優れる。また、クロム酸、クロム酸塩系顔料の添加を必要とせず、地球環境保護の観点からも優れている。本発明の表面処理金属板は金属板表面が上記のような優れた特性を有する処理剤により処理されているので、錆びにくく、耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の金属表面用水分散性樹脂処理剤中の(A)成分(水分散性樹脂組成物)は、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の乳化重合によって得られる共重合体樹脂エマルジョンを含んでいる。
【0021】
エポキシ基、酸基及び水酸基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)としては、その代表的な例として、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、スチレン系モノマー(a-2)、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(a-4)、多官能ビニル基含有重合性不飽和単量体(a-5)などが挙げられる。重合性不飽和モノマー(a)は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。なかでも、アルキル基の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0023】
スチレン系モノマー(a-2)としては、スチレンのほかに、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらのモノマーは1種又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(a-4)としては、例えばγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられる。
【0025】
多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-5)としては、例えばジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート等のジビニル化合物のほか、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組合わされて使用される。
【0026】
エポキシ基、酸基及び水酸基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)としては、良好な成膜性と高い膜硬度を得るためには、少なくとも前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)を用いるのが好ましく、特に前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)とスチレン系モノマー(a-2)とを併用するのが好ましい。また、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)及びスチレン系モノマー(a-2)とともに、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(a-4)及び多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-5)から選択された少なくとも1種のモノマーを用いるのも好ましい。
【0027】
(メタ)アクリロニトリル(a-3)を共重合モノマーとして用いると、シアノ基のポリマー中での配向、結晶化効果により緻密で強靭な樹脂膜が形成され、これによって水や防錆に悪影響を及ぼす成分の透過が抑制され、防錆性がより向上する。また、膜硬度が上がることから、耐ブロッキング性、滑り性も向上する。
【0028】
加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(a-4)を共重合モノマーとして用いると、共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物やそれを用いた金属表面用水分散性樹脂処理剤の耐水性が増し、結果として防錆力が向上する。また、架橋により耐ブロッキング性、滑り性も改善される。さらに、加水分解性シリル基の持つシランカップリング効果及びシラン基の金属基材に対する親和性により、密着性が向上する。また、本発明で配合される(C)成分であるシランカップリング剤と高い架橋反応性を示し、シラノール結合による高度な架橋構造が形成される。そのためより高い防錆力と耐水性、特に耐アルカリ性の優れた樹脂膜が得られる。
【0029】
多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-5)を共重合モノマーとして用いると、エマルジョン粒子内架橋が促進され、樹脂膜の耐ブロッキング性、耐磨耗性、滑り性が改善される。また、耐水性や耐アルカリ性向上効果もある。
【0030】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、例えば20〜100重量%、好ましくは30〜80重量%、さらに好ましくは35〜70重量%程度である。スチレン系モノマー(a-2)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、例えば0〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、さらに好ましくは30〜60重量%程度である。また、(メタ)アクリロニトリル(a-3)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜20重量%(例えば1〜20重量%)、好ましくは0〜10重量%(例えば1〜10重量%)程度である。また、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(a-4)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜10重量%(例えば1〜10重量%)、好ましくは0〜5重量%(例えば0.5〜5重量%)程度である。多官能ビニル基含有重合性不飽和単量体(a-5)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜10重量%(例えば1〜10重量%)、好ましくは0〜5重量%(例えば1〜5重量%)程度である。
【0031】
エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)としては、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、グリシジルクロネ−ト、グリシジルアリルエーテル、β−グリシジルメタクリレート等のグリシジル基を有するモノマーのほか、(3,4−エポキシクロロヘキシル)メチルメタクリレート、3−エポキシクロロー2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。通常は、グリシジルメタクリレートが使用されることが多い。
【0032】
エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)を用いることによって、エポキシ基の有する金属表面への親和性と、上記酸基含有重合性不飽和モノマー(c)の金属表面への密着性との相乗効果により、金属への密着性がより促進され、防錆効果の一層の向上に大きな効果が発揮される。さらに、樹脂組成物中でエポキシ基とカルボキシル基との架橋反応により三次元網目構造が形成され、樹脂組成物に耐水性、耐沸騰水性、耐アルカリ性、耐ブロッキング性及び滑り性を付与する効果が発揮される。
【0033】
エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)の量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量を基準として、例えば0.1〜10重量%、好ましくは1〜7重量%である。エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)の量をこの範囲に設定することにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物を金属表面用水分散性樹脂処理剤として用いた場合において、樹脂膜の金属表面に対する親和性が増し、密着性が向上すると同時に優れた防錆力が得られる。エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(b)の上記使用量が0.1重量%未満では、樹脂膜の防錆力が弱く、耐水性、耐沸騰水性及び耐ブロッキング性が低下しやすい。一方、10重量%を超えると、逆に樹脂膜の内部構造にミクロゲル的な不均一部分を生じ、歪によりクラックを生じたり、水の透過や、錆び発生の触媒成分である塩素イオンや硫酸イオンの透過を助長したりするため、防錆力が弱く、その上樹脂膜の強度も低下する傾向となる。
【0034】
酸基含有重合性不飽和モノマー(c)としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基等から選ばれる少なくとも1つの酸基を分子内に有するエチレン性不飽和化合物を使用できる。
【0035】
酸基含有重合性不飽和モノマー(c)のうち、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、α−エチルアクリル酸、β−エチルアクリル酸、β−プロピルアクリル酸、β−イソプロピルアクリル酸,イタコン酸、無水マレイン酸およびフマール酸等が挙げられる。スルホン酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。リン酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステルなどが挙げられ、これらは商品名「ライトエステルPM」(共栄社化学社製)として市販されている。酸基含有重合性不飽和モノマー(c)は単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用できる。
【0036】
酸基含有重合性不飽和モノマー(c)を共重合成分として用いることにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物やそれを用いた金属表面用水分散性樹脂処理剤の保存安定性、機械的安定性、及び凍結に対する安定性等の諸安定性が得られる。また、樹脂膜形成時における金属基材との密着性が強いため、金属基材と樹脂膜との界面へ水が進入したり、錆びの生成の促進及び触媒効果を及ぼす塩素イオンや硫酸イオン等が進入したりすることが阻止されるため、高い防錆力が得られる。さらに、酸基含有重合性不飽和モノマー(c)を共重合成分として用いることにより、本発明で配合される硬化剤成分(B)であるジルコニウム化合物、(C)成分であるシランカップリング剤と架橋反応し、より高い防錆力と優れた耐アルカリ性を有する塗膜が得られる。
【0037】
酸基含有重合性不飽和モノマー(c)の量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量を基準として、例えば0.1〜10重量%、好ましくは1〜7重量%である。酸基含有重合性不飽和モノマー(c)の上記使用量が0.1重量%未満では、共重合体エマルジョンの重合安定性及び上記諸安定性が悪くなり、樹脂膜の金属表面に対する密着性及び防錆力が弱くなりやすい。一方、10重量%を超えると、共重合体樹脂エマルジョンの重合安定性及び上記諸安定性が悪くなり、得られた樹脂膜の耐水性、耐アルカリ性が弱くなりやすい。
【0038】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)としては、水酸基を有する不飽和モノマーであれば特に限定されないが、例えば アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマー等の水酸基含有アクリル系モノマーなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上が組み合わされて使用される。ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーとしては、ダイセル化学工業(株)製の商品名「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」、及び「プラクセルFM−5」などが好ましく用いられる。
【0039】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)を共重合成分として用いることにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物やそれを用いた金属表面用水分散性樹脂処理剤の親水性及び水素結合形成性が増し、樹脂膜形成後に建材断熱材としての発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の上塗り材との親和性が増し、密着性を助長する。また、本発明で配合される(C)成分であるシランカップリング剤との架橋反応も起こり、より高い防錆力と優れた耐アルカリ性を有する塗膜が得られる。
【0040】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)の量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量を基準として、例えば0.1〜10重量%、好ましくは1〜7重量%である。水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)の上記使用量が0.1重量%未満では、上記上塗り材との親和性が乏しく、密着性が不足しやすい。一方、10重量%を超えると、親水性が強すぎて樹脂膜の耐水性が弱くなりやすい。
【0041】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)は、前記式(1)で表される。式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜10の2価のアルキレン基(原料入手の観点からは、好ましくは炭素数2〜3の2価のアルキレン基)を示し、R3は炭素数2又は3の2価のアルキレン基を示す。
【0042】
2における炭素数2〜10の2価のアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン、ジメチルエチレン、トリメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状のC2-10アルキレン基が挙げられる。R3における炭素数2又は3の2価のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、トリメチレン基が含まれる。
【0043】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)の代表的な例として、メタクリルアミドエチルエチレン尿素(MAEEU)(R1=メチル基、R2=エチレン基、R3=エチレン基)、メタクリルアミドエチルプロピレン尿素(R1=メチル基、R2=エチレン基、R3=プロピレン基)、アクリルアミドエチルエチレン尿素(R1=水素原子、R2=エチレン基、R3=エチレン基)、及びアクリルアミドエチルプロピレン尿素(R1=水素原子、R2=エチレン基、R3=プロピレン基)等が挙げられる。
【0044】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)を用いることによって、金属表面等の基材、特に湿潤面に対する樹脂組成物の接着性を向上させる効果が発揮される。さらに、上塗り塗料、特にアルキド塗料、建材断熱材としての発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレンなどの上塗り材との親和性、及び接着性が著しく向上する。これらの優れた効果に対するメカニズムについては、厳密な意味での科学的根拠は必ずしも明確ではないが、おおよそ次のように推定される。
【0045】
第1に、極性相互作用が考えられる。環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)のアミド基及び環状ウレイド基は、基材及び上塗り塗材に作用することで、樹脂組成物の基材及び上塗り塗材への密着性に寄与する双極性相互作用を与える。環状ウレイド基の双極子モーメントは4.5Debyeと大きく、特にアルキド樹脂表面と強い相互作用を形成することが考えられる。また、水酸基及びカルボキシル基等との水素結合の寄与も考えられる。
【0046】
第2に、濡れ現象が考えられる。環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)が界面張力を低下させることにより、基材及び上塗り塗材の湿潤性が向上し、樹脂組成物が濡れやすくなり、両者の強い相互作用が発現しやすくなる。
【0047】
第3に、スペーサー基の寄与が考えられる。例えば環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)がMAEEUの場合、主鎖とエチレンウレア基との間にアミド基とエチレン鎖とがスペーサー基として存在し、このスペーサー基がエチレンウレア基をポリマー主鎖から十分に離している。このためエチレンウレア基の自由度が大きくなり、基材表面及び上塗り塗材と相互作用を及ぼしやすくなる。
【0048】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)の使用量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量を基準として0.1〜5重量%が好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)の使用量をこの範囲に設定することにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物を金属表面用水分散性樹脂処理剤として用いた場合において、基材、特に湿潤面に対する濡れ性及び親和性が増し、密着性が向上するとともに防錆力が向上する。さらに、上塗り塗料、上塗り材、特にアルキド塗料との接着性が向上する。共重合体樹脂中の環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)の使用量が0.1重量%未満では、基材への密着性及び防錆力が低下しやすくなる。一方、5重量%を超えると、樹脂膜の耐水性が低下しやすくなる。
【0049】
本発明の乳化重合において用いられる乳化剤は、非反応性の一般乳化剤であってもよいが、後に述べる理由により反応性界面活性剤(f)を用いるのが金属表面用水分散性樹脂処理剤の性能上有利である。
【0050】
非反応性の一般乳化剤としては特に制限されるものではないが、例えば、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩部分エステル、リン酸塩、リン酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物;分子内にポリオキシアルキレン基を有するミセル化合物などから選ばれるアニオン系又は非イオン系(ノニオン系)の乳化剤が好ましく用いられる。このうち、アニオン系乳化剤としては、アルコキシフェノール類又は高級アルコール類の硫酸ハーフエステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホネートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸ハーフエステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。これらの非反応性乳化剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。またこれらの一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤は、次に述べる分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル、メタクリル、プロペニル、アリル、アリルオキシ、マレイン酸基などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性界面活性剤とも適宜組み合わされて使用される。
【0051】
反応性界面活性剤(f)は、特に制限されるものではなく、重合性不飽和基等の反応性基を含む基と、ノニオン系親水基やアニオン系親水基などの界面活性作用を発現する基とを有するいかなる反応性界面活性剤を用いてもよい。前記重合性不飽和基等の反応性基を含む基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタクリル基、アリルオキシ基、メタリルオキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。
【0052】
代表的な反応性界面活性剤(f)には、例えば、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)又は(8)で表される化合物が含まれる。
【0053】
【化2】

(式中、A1は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数7〜24の炭化水素基又は炭素数7〜24のアシル基、Xは水素原子、又はノニオン系若しくはアニオン系の親水基、mは0〜100の整数を示す)
【0054】
【化3】

(式中、A2は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R6は炭素数1〜18の炭化水素基、R7は水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基、pは2〜200の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0055】
【化4】

(式中、A3は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R8は水素原子又はメチル基、R9は水素原子又はアルキル基、qは0〜100の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0056】
【化5】

(式中、R10は置換基を有していてもよい炭化水素基、R11は水素原子又はメチル基、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0057】
【化6】

(式中、R12は置換基を有していてもよい炭化水素基、R13は水素原子又はメチル基、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0058】
【化7】

(式中、Φは多官能フェニル基、A4、A5は、それぞれ炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R14は水素原子又はメチル基、r、sは、それぞれ1〜100の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0059】
【化8】

(式中、A6は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R15は水素原子又はメチル基、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0060】
前記式(2)において、A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン基、又はこれらに、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ基等のC1-4アルコキシ基など)などの置換基が結合したアルキレン基などが挙げられる。R5における炭素数7〜24の炭化水素基としては、例えば、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などのアルキル基;オクテニル、デセニル基などのアルケニル基;4−メチルフェニル、4−プロピルフェニル、4−オクチルフェニル、4−ノニルフェニル、4−デシルフェニル、4−ドデシルフェニル、4−テトラデシルフェニル、4−ヘキサデシルフェニル基などのアルキルアリール基などが挙げられる。R5における炭素数7〜24のアシル基としては、オクタノイル、ノナノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、4−ノニルベンゾイル基などの脂肪族、脂環式又は芳香族アシル基が挙げられる。mは、好ましくは0〜50程度の整数である。
【0061】
Xにおけるノニオン系若しくはアニオン系の親水基としては、例えば、ポリオキシアルキレン基や、スルホン酸基、カルボキシル基等を含む種々の基が挙げられるが、代表的な基として、下記式(9)
【化9】

(式中、A7は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、Mはアルカリ金属又はNH4、nは0〜100の整数を示す)
で表される基が例示される。A7における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。Mにおけるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。nは、好ましくは0〜30程度の整数である。
【0062】
式(3)において、A2における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。R6、R7における炭素数1〜18の炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などのアルキル基;ビニル、アリル、ヘキセニル、オクテニル、ノネニル、デセニル基などのアルケニル基;ベンジル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル基などのアラルキル基などが挙げられる。これらのなかでも炭素数4〜18の炭化水素基が特に好ましい。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。pは好ましくは2〜50程度の整数である。
【0063】
式(4)において、A3における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。R9におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル基などの炭素数1〜20程度のアルキル基等が挙げられる。qは、好ましくは0〜50程度の整数である。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。
【0064】
式(5)及び式(6)において、R10、R12における置換基を有していてもよい炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などのアルキル基;ビニル、アリル、ヘキセニル、オクテニル、デセニル基などのアルケニル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル、2−フェニルエチルなどのアラルキル基;又はこれらに、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ基等のC1-4アルコキシ基など)などの置換基が結合した炭化水素基などが挙げられる。Mは前記と同様である。
【0065】
式(7)において、A4、A5における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。r、sは、好ましくは1〜50程度の整数である。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。式(6)で表される反応性界面活性剤として、日本乳化剤(株)製の商品名「アントックスMS−60」等が市販されている。
【0066】
式(8)において、A6における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。
【0067】
反応性界面活性剤(f)は、前記モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)と共重合、またはグラフトし、重合後は高分子量の重合体の構成単位として存在する。そのため非反応性の一般乳化剤が重合後も水相中にフリーに水溶性のまま低分子の形で存在し、最終的に得られた樹脂分散液のキャストフィルムがそのために耐水性、耐煮沸性、耐アルカリ性、防錆性、耐溶剤性と接着性の劣るものとなるのに対し、反応性界面活性剤を用いて得られた樹脂分散液のキャストフィルムは高度な耐水性、耐煮沸水性、耐アルカリ性、防錆性、耐溶剤性と接着性を発揮する。
【0068】
反応性界面活性剤(f)の乳化重合における使用量は、前記モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して、例えば0.3〜6重量%である。この使用量が0.3重量%未満の場合は、乳化重合の安定性が悪く、重合中にグリッツが発生しやすく、また重合後得られた樹脂分散液の安定性が劣り、商品価値の劣るものとなりやすい。また6重量%を超えると、耐水性、耐煮沸水性、耐アルカリ性、防錆性、耐溶剤性と接着性などに支障をきたす可能性がある上、経済性などにおいて問題となる場合も想定され、好ましくない。
【0069】
本発明では、防錆性、付着性、耐水性、耐アルカリ性等の特性を損なわない範囲で、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)に加えて、又はこれらと反応性界面活性剤(f)に加えて、他の重合性不飽和モノマーを共重合させてもよい。このような重合性不飽和モノマーの使用量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0070】
本発明では、共重合体樹脂エマルジョンとしては、特にコア・シェル型樹脂エマルジョンであるのが好ましい。ここで、コア・シェルの定義であるが、乳化重合において、重合を多段(例えば2段)で行う場合、第1段目の重合で形成された核となる樹脂成分をコアと称し、第2段目以降の重合で前記コアの表面に形成された殻となる樹脂成分をシェルと称する。例えばモノマーを2段に分けて滴下し、重合を行う場合、第1段目にモノマーを滴下して、重合により形成される樹脂成分がコアに相当し、コア形成後、第2段目にモノマーを滴下して、重合により形成される樹脂成分がシェルに相当する。
【0071】
上記コア・シェル型合成樹脂エマルジョンにおいて、コア部とシェル部の割合は、重量基準で、合計重量に対して、コア部が20重量%〜95重量%、好ましくは30重量%〜90重量%、シェル部が5重量%〜80重量%、好ましくは10重量%〜70重量%の範囲内であるのが望ましい。コア部及びシェル部は、それぞれ、前記のモノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)(又はこれらの成分及び反応性界面活性剤(f))から形成されていればよい。
【0072】
本発明においてコア・シェル型合成樹脂エマルジョンが特に好ましい理由は、均一重合エマルジョンに比し、より強靭で高硬度の樹脂皮膜が得られるため、耐ブロッキング性や滑り性において有利となるためである。上記コア部とシェル部の割合の範囲から外れた場合はいずれもこのような特徴が得られにくくなる。
【0073】
乳化重合は、前記モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)を水性液中で、ラジカル重合開始剤を用いて、一般乳化剤及び/又は反応性界面活性剤(f)の存在下で、撹拌下加熱することによって実施できる。反応温度は例えば30〜100℃程度、反応時間は例えば1〜10時間程度が好ましい。水と一般乳化剤及び/又は反応性界面活性剤(f)とを仕込んだ反応容器にモノマー混合液又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
【0074】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、水溶性アゾ系開始剤が水溶液の形で、また油溶性のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイルなどがそれぞれ単独で、また過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
【0075】
また、乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコール等の分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)を併用することは、乳化重合を進める観点から、また例えば樹脂膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させ、防錆性を向上させる観点から好ましい場合が多く、適宜状況に応じて行われる。
【0076】
乳化重合の方法としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法等、いずれの重合法もとることができる。
【0077】
このようにして本発明における共重合体樹脂エマルジョンが調製される。共重合体樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に5万〜100万程度であり、好ましくは10万〜80万程度である。
【0078】
本発明における水分散性樹脂組成物は、前記共重合体樹脂エマルジョンを主体として、さらに、塩基性化合物等の添加剤を含んでもよい。塩基性化合物としては、アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属塩等のアルカリ金属化合物などが用いられる。塩基性化合物を加えることによって共重合体樹脂エマルジョン中に含まれる酸の一部又は全量が中和され、共重合体樹脂エマルジョンの安定性が確保される。
【0079】
本発明において(B)成分であるジルコニウム化合物は、(A)成分中に共重合された酸基含有重合性不飽和モノマー(c)(不飽和カルボン酸等)の酸基(カルボキシル基等)と架橋反応して、塗膜に優れた防錆力と耐アルカリ性、耐水性、耐溶剤性を付与する。特に耐アルカリ性に対する寄与は大である。
【0080】
ジルコニウム化合物としては、分子内にジルコニウム(Zr)を含む化合物であれば特に限定されないが、ジルコンフッ化水素酸、ジルコンフッ化アンモニウム、ジルコンフッ化カリウム、ジルコンフッ化ナトリウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、アセチルアセトナートジルコン化合物等が挙げられる。ジルコニウム化合物は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0081】
ジルコニウム化合物の固形分使用量は、(A)成分の水分散性樹脂組成物の固形分に対して0.1〜20重量%程度であるのが好ましく、より好ましくは0.3〜15重量%であり、さらに好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。0.1重量%未満では、ジルコニウム化合物による樹脂の架橋効果が乏しく、望ましい耐アルカリ性と防錆力が得られにくい。20重量%より多い場合は、造膜性に問題が生じやすく、また経済性の点でも不利となる。
【0082】
本発明において(C)成分であるシランカップリング剤は、(A)成分中の酸基(カルボキシル基等)、水酸基及び加水分解性シリル基(アルコキシシリル基等)などと架橋反応するが、シランカップリング剤同士及び金属素材との架橋反応も起こり、密着性を向上させ、塗膜に優れた防錆力と耐アルカリ性、耐水性、耐溶剤性を付与する。
【0083】
配合するシランカップリング剤は特に限定されず、公知のシランカップリング剤を使用できる。シランカップリング剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシシラン)、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピレントリメトキシシラン、メルカプトプロピレントリエトキシシラン等の水溶液中で比較的安定なものの中から選ばれる。
【0084】
シランカップリング剤の固形分使用量は、(A)成分の水分散性樹脂組成物の固形分に対して0.1〜10重量%程度であるのが好ましく、より好ましくは0.3〜8重量%であり、さらに好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。0.1重量%未満では、シランカップリング剤による樹脂の架橋効果が乏しく、したがって緻密な膜が得られず、また金属基材へのカップリング効果が乏しく、密着性が劣り、望ましい耐アルカリ性と防錆力が得られない。10重量%より多い場合は、造膜性に問題が生じ、また経済性の点でも不利となる。
【0085】
本発明の金属表面用水分散性樹脂処理剤は、前記(A)成分である水分散性樹脂組成物と、(B)成分であるジルコニウム化合物と、(C)成分であるシランカップリング剤とを混合、撹拌することにより調製できる。(B)成分や(C)成分はそのまま混合に供してもよいが、水等の溶媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液の形態で混合に供してもよい。混合、撹拌は公知乃至慣用の方法で行うことができる。
【0086】
本発明の金属表面用水分散性樹脂処理剤は、そのまま金属板(特にガルバリウム鋼板等の鋼板)の表面にコーティング剤として、主としてクリヤー皮膜を形成させるために塗装される。この表面処理金属板は、表面が保護される上、本来の美しい外観がそのまま保持されるので、商品価値が著しく増大する。
【0087】
本発明において、金属表面用水分散性樹脂処理剤に、潤滑剤として二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系ワックスエマルジョン等を添加し、表面の滑り性を増すことができる。また、さらに着色顔料により着色することも可能である。また、本来の性能を損なわない範囲で水性ウレタン樹脂ディスパージョン等の樹脂ディスパージョン、消泡剤及びレベリング剤等の適宜な添加剤の添加も可能である。
【0088】
金属表面用水分散性樹脂処理剤中の固形分含有量は、用途に応じて適宜設定できるが、一般には10〜70重量%程度である。コーターなどによる実機塗布に際しては、作業性を考慮して粘度調節が必要で、状況に合わせて適宜希釈することが望ましい。従って、実機塗布時の固形分濃度は、例えば15〜40重量%が好ましい。本発明の金属表面用水分散性樹脂処理剤は、クロム化合物を全く含まなくても、金属素材の耐蝕性及び耐久性能を大幅に向上させる。
【0089】
本発明の金属表面用水分散性樹脂処理剤を用いて、金属板(特にガルバリウム鋼板等の鋼板)の表面を処理する方法としては、特に限定されないが、例えばウレタンゴムロールほか任意の方法で塗装することが可能である。塗布後の乾燥は、例えばジェット乾燥機などを用いて板温が80℃位になるまで60秒以内の乾燥時間で乾燥させて樹脂皮膜を形成させるのが好ましい。
【0090】
ガルバリウム鋼板等の金属板上への本発明の金属表面用水分散性樹脂処理剤の塗布量は、特に限定するものではないが、乾燥膜厚で通常0.5〜10μmの範囲であり、1〜5μmの範囲であることが好ましい。塗布量が0.5μm未満の場合は、表面の保護機能が乏しく好ましくない。一方、10μmを越えると、外観が曇る場合もあり、また経済性の点で好ましくない。また、金属板表面における金属表面用水分散性樹脂処理剤の固形分付着量は、一般に0.2〜10g/m2程度である。固形分付着量が0.2g/m2未満の場合は、表面保護機能が小さく、10g/m2より大きいと、外観が低下しやすくなる。
【0091】
こうして得られる表面処理ガルバリウム鋼板等の表面処理金属板は、建材用として、建家の屋根材や外壁材、農業ビニルハウスの支柱管、家具、家電製品、産業機器の筐体、ガードレール、防音壁、排水溝などの土木製品、自動車の車体、シャーシ、エンジン周囲部及び缶等の金属構造物の前塗装鋼板(プレコートメタル)等として利用できる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に記載のない限り重量基準である。
【0093】
実施例1(一段重合)
撹拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器を備えた通常のアクリル系樹脂エマルジョン製造用の反応容器に、水400部と一般乳化剤[商品名「ニューコール707SF」、日本乳化剤(株)製;ポリオキシエチレン多環フェニールエーテル硫酸エステル塩、30%水溶液]5部を仕込み、75℃に昇温した。別途、次に示すモノマー、乳化剤及び水の混合液を高圧ホモジナイザーを用いて均一に乳化し、モノマー乳化液として滴下ロートに仕込んだ。
(モノマー乳化液)
一般乳化剤[商品名「ニューコール707SF」] 13部
MMA(メタクリル酸メチル)(a1) 57部
SM(スチレン)(a2) 177部
2EHA(アクリル酸2−エチルヘキシル)(a3) 99部
GMA(グリシジルメタクリレート)(b1) 25部
MAA(メタクリル酸)(c1) 12部
2HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(d1) 12部
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー[商品名「サイポマーWAM−II」、メタクリルアミドエチルエチレン尿素MAEEU(e1)とMAA(c1)の1:1混合物、ローディア日華(株)製] 20部
水 197部
また、次に示す滴下用開始剤水溶液を別の滴下ロートに仕込んだ。
(滴下用開始剤水溶液)
過硫酸カリウム 1部
水 50部
次に、前記反応容器内に、前記モノマー乳化液の5%を添加し、75℃に加熱後、前記滴下用開始剤水溶液の5%を投入し、10分間プレ重合反応を行った。この間反応容器の内温は自動的に80℃に上昇した。その後、残りのモノマー乳化液及び滴下用開始剤水溶液を80℃で3時間かけて一定速度で同反応容器内に滴下した。滴下終了後、80℃に保持して1時間熟成反応を行い、室温に冷却した後、アンモニア水(25%)4部を反応容器内に投入し、水分散性樹脂組成物(合成樹脂エマルジョン)を得た。
得られた水分散性樹脂組成物100gに、ジルコニウム化合物として炭酸ジルコニウムアンモニウムの20%水溶液15gと、シランカップリング剤としてフェニルトリメトキシシラン2gと水20gの混合溶解液を添加し、プロペラ撹拌機にてよく撹拌して金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0094】
実施例2
実施例1において、シランカップリング剤フェニルトリメトキシシランの代わりに、同量のメルカプトプロピレントリメトキシシランを用いた以外は、すべて実施例1と同様の操作を行い、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0095】
実施例3
実施例1において、当初仕込みの一般乳化剤(商品名「ニューコール707SF」)5部の代わりに、下記式(10)
【化10】

(式中、Rはアルキル基を示す)
で表される反応性界面活性剤[商品名「アデカリアソープSR−10」、旭電化工業(株)製](f1)1.5部を用いるとともに、モノマー乳化液における一般乳化剤(商品名「ニューコール707SF」)13部及び水197部の代わりに、前記式(10)で表される反応性界面活性剤[商品名「アデカリアソープSR−10」、旭電化工業(株)製](f1)4部及び水209部を用いた以外は、すべて実施例1と同様にて、金属表面用水分散性樹脂処理剤を得た。
【0096】
実施例4
実施例3において、シランカップリング剤フェニルトリメトキシシランの代わりに、同量のメルカプトプロピレントリメトキシシランを用いた以外は、すべて実施例3と同様の操作を行い、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0097】
実施例5
実施例3において、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSR−10」)(f1)の代わりに、同量の下記式(11)
【化11】

で表される反応性界面活性剤[商品名「アクアロンHS−10」、第一工業製薬(株)製](f2)を用いた以外は、すべて実施例3と同様にして重合を行い、水分散性樹脂組成物を得、同様にして金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0098】
実施例6(二段重合)
撹拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器を備えた通常のアクリル系樹脂エマルジョン製造用の反応容器に、水470部と一般乳化剤[商品名「ニューコール707SF」、日本乳化剤(株)製;ポリオキシエチレン多環フェニールエーテル硫酸エステル塩、30%水溶液]5部を仕込み、75℃に昇温した。別途、次に示すモノマー、乳化剤及び水の混合液を高圧ホモジナイザーを用いて均一に乳化し、第1段目モノマー乳化液として滴下ロートに仕込んだ。
(第1段目モノマー乳化液)
一般乳化剤[商品名「ニューコール707SF」] 13部
MMA(メタクリル酸メチル)(a1) 28部
SM(スチレン)(a2) 90部
2EHA(アクリル酸2−エチルヘキシル)(a3) 60部
MAA(メタクリル酸)(c1) 9部
2HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(d1) 9部
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー[商品名「サイポマーWAM−II」、メタクリルアミドエチルエチレン尿素MAEEU(e1)とMAA(c1)の1:1混合物、ローディア日華(株)製] 20部
水 127部
また、別途、次に示すモノマー混合液を第2段目モノマーとして滴下ロートに仕込んだ。
(第2段目モノマー)
MMA(メタクリル酸メチル)(a1) 29部
SM(スチレン)(a2) 87部
2EHA(アクリル酸2−エチルヘキシル)(a3) 39部
MAA(メタクリル酸)(c1) 3部
2HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(d1) 3部
GMA(グリシジルメタクリレート)(b1) 25部
さらに、別途、次に示す滴下用開始剤水溶液を別の滴下ロートに仕込んだ。
(滴下用開始剤水溶液)
過硫酸カリウム 1部
水 50部
次に、前記反応容器内に、前記第1段目モノマー乳化液の5%を添加し、75℃に加熱後、前記滴下用開始剤水溶液の5%を投入し、10分間プレ重合反応を行った。この間反応容器の内温は自動的に80℃に上昇した。その後、残りの第1段目モノマー乳化液を80℃で2時間かけて、また滴下用開始剤水溶液を80℃で3.5時間かけて一定速度で同反応容器内に滴下した。第1段目モノマー乳化液の滴下終了後、80℃に保持して0.5時間熟成反応を行い、第2段目モノマーを1時間かけて滴下した。その後、80℃に1時間保ち、熟成を行い、室温に冷却した後、アンモニア水(25%)4部を反応容器内に投入し、水分散性樹脂組成物(合成樹脂エマルジョン;コア−シェル型エマルジョン)を得た。
得られた水分散性樹脂組成物100gに、ジルコニウム化合物として炭酸ジルコニウムアンモニウムの20%水溶液15gと、シランカップリング剤としてフェニルトリメトキシシラン2gと水20gの混合溶解液を添加し、プロペラ撹拌機にてよく撹拌して金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0099】
実施例7
実施例6において、当初仕込みの水470部、当初仕込みの一般乳化剤[商品名「ニューコール707SF」]5部の代わりに、水482部、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSR−10」)(f1)1.5部を用いるとともに、第1段目モノマー乳化液の一般乳化剤[商品名「ニューコール707SF」]13部の代わりに、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSR−10」)(f1)4部用いた以外は、すべて実施例6と同様にして重合を行い、水分散性樹脂組成物(合成樹脂エマルジョン;コア−シェル型エマルジョン)を得、同様にして金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0100】
比較例1
実施例1において、MMA57部、MAA12部の代わりに、MMA69部、MAA0部にした以外は、実施例1と全く同様に乳化重合を行い、水分散性樹脂組成物を得、同様にしてジルコニウム化合物及びシランカップリング剤を混合して、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0101】
比較例2
実施例1において、MMA57部、2HEMA12部の代わりに、MMA69部、2HEMA0部にした以外は、実施例1とまったく同様に乳化重合を行い、水分散性樹脂組成物を得、ジルコニウム化合物及びシランカップリング剤を混合して、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0102】
比較例3
実施例1において、MMA57部、商品名「サイポマーWAM−II」20部の代わりに、MMA77部、商品名「サイポマーWAM−II」0部にした以外は、実施例1とまったく同様に乳化重合を行い、水分散性樹脂組成物を得、ジルコニウム化合物及びシランカップリング剤を混合して、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0103】
比較例4
実施例1において、MMA57部、GMA25部の代わりに、MMA82部、GMA0部にした以外は、実施例1とまったく同様に乳化重合を行い、水分散性樹脂組成物を得、ジルコニウム化合物及びシランカップリング剤を混合して、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0104】
比較例5
実施例1において、ジルコニウム化合物の炭酸ジルコニウムアンモニウムを用いなかった以外は、すべて実施例1と同様の操作を行い、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0105】
比較例6
実施例1において、シランカップリング剤のフェニルトリメトキシシランを用いなかった以外は、すべて実施例1と同様の操作を行い、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0106】
比較例7
実施例1において、ジルコニウム化合物の炭酸ジルコニウムアンモニウムとシランカップリング剤のフェニルトリメトキシシランを用いなかった以外は、すべて実施例1と同様の操作を行い、金属表面用水分散性樹脂処理剤を調製した。
【0107】
性能評価試験
実施例及び比較例において得られた各金属表面用水分散性樹脂処理剤に、MFTが20℃以下になるように、ブチルセロソルブ水溶液を添加し、ガルバリウム鋼板の表面上に乾燥膜厚が1μmとなるように、#4バーコーターで塗装し、板温が80℃に達してから10秒乾燥後空冷し、24時間放置後、以下の各特性を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(1)常態密着性
常温で塗膜の100目盛りゴバン目テープ試験を行い、常態密着性を測定した。ゴバン目の数100(分母)に対する剥離せずに残ったゴバン目の数(分子)による分数で表示した。
【0109】
(2)発泡ポリウレタン密着性
塗膜上に発泡ポリウレタンを熱融着した後、剥離し、接着状態を観察し、5点法で評価した。
5;剥離時、発泡ポリウレタン部の100%が凝集破壊した
4;剥離時、発泡ポリウレタン部の90%以上100%未満が凝集破壊した
3;剥離時、発泡ポリウレタン部の50%以上90%未満が凝集破壊し、残りが界面 剥離した
2;剥離時、発泡ポリウレタン部の20%以上50%未満が凝集剥離し、残りが界面 剥離した
1;剥離時、発泡ポリウレタン部のほぼ全面で界面剥離した
【0110】
(3)耐蝕性(耐SS性)
塩水噴霧試験機にて塗装鋼板の耐ソルトスプレーテスト(SST)を240時間行い、塗面のブリスター、剥離状態等を観察した。
○;ブリスター、剥離等はほとんどなく、良好であった
△;ブリスター、剥離等が塗面の1/3以上、2/3未満に発生した
×;ブリスター、剥離等が塗面の2/3以上又は全面に発生した
【0111】
(4)耐ブロッキング性
塗面同士を合わせて重ね、40℃で200Kg/cm2(=19.6MPa)の荷重をかけ、7日間放置後、剥がし、固着状態を観察した。
○;固着なし
△;やや固着
×;固着
【0112】
(5)耐沸騰水性
塗板の塗面以外の部分をパラフィンでシールした後、95℃の熱水に96時間浸漬し、塗面の軟化状態、ブリスターの発生状態等外観を目視判定した。
○;ブリスター等はなく外観は良好である
△;ブリスターの発生はあるものの、皮膜が金属に密着している
×;ブリスターが多量に発生し、皮膜が金属面より剥離している
【0113】
(6)耐アルカリ性
塗板の塗面以外の部分をパラフィンでシールした後、20℃で、1%水酸化ナトリウム水溶液に5時間浸漬し、塗面の外観変化、特に黒ずみ状態をもとの塗装前と目視により比較し、5点法で評価した。
5;外観変化なく良好である
4;塗面全体の20%程度が黒ずんでいる
3;塗面全体の50%程度が黒ずんでいる
2;塗面全体の50〜80%程度が黒ずんでいる
1;塗面全体が黒ずんでいる
【0114】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する金属表面用水分散性樹脂処理剤。
(A)エポキシ基、酸基及び水酸基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)と、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)と、酸基含有重合性不飽和モノマー(c)と、水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)と、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜10の2価のアルキレン基を示し、R3は炭素数2又は3の2価のアルキレン基を示す)
で表される環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)とからなる不飽和単量体混合物が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物
(B)ジルコニウム化合物
(C)シランカップリング剤
【請求項2】
(A)成分において、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(b)、酸基含有重合性不飽和モノマー(c)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)の使用量が、それぞれ重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して0.1〜10重量%、環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)の使用量が前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して0.1〜5重量%である請求項1記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項3】
(A)成分において、エポキシ基、酸基及び水酸基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)が、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、又は前記アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)と、スチレン系モノマー(a-2)、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(a-4)及び多官能ビニル基含有重合性不飽和単量体(a-5)からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーとの混合モノマーである請求項1記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項4】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(e)が、メタクリルアミドエチルエチレン尿素、メタクリルアミドエチルプロピレン尿素、アクリルアミドエチルエチレン尿素及びアクリルアミドエチルプロピレン尿素からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーである請求項1記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項5】
(A)成分における共重合体樹脂エマルジョンが、重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の総量に対して0.3〜6重量%の反応性界面活性剤(f)の存在下で不飽和単量体混合物が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンである請求項1記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項6】
(A)成分における共重合体樹脂エマルジョンがコア・シェル型樹脂エマルジョンである請求項1又は5記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項7】
(B)成分の固形分使用量が、(A)成分である水分散性樹脂組成物の固形分に対して0.1〜20重量%の範囲である請求項1〜6の何れかの項に記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項8】
(C)成分の固形分使用量が、(A)成分である水分散性樹脂組成物の固形分に対して0.1〜10重量%の範囲である請求項1〜7の何れかの項に記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項9】
実質的にクロムを含有していない請求項1〜8の何れかの項に記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤。
【請求項10】
金属板の表面が請求項1〜9の何れかの項に記載の金属表面用水分散性樹脂処理剤により処理されている表面処理金属板。
【請求項11】
金属板表面における金属表面用水分散性樹脂処理剤の固形分付着量が0.2〜10g/m2である請求項10記載の表面処理金属板。

【公開番号】特開2006−89589(P2006−89589A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276673(P2004−276673)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】