説明

金属被覆スチールストリップ

MgSi粒子をコーティング微細構造中に有するAl−Zn−Si−Mg合金被覆ストリップを開示する。上記MgSi粒子の分布は、コーティングの表面が少量のMgSi粒子しか有さないかまたは少なくとも実質的にMgSi粒子を含まないような分布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストリップ、概して耐食性金属アロイコーティングを有するスチールストリップに関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明は、特に、アルミニウム−亜鉛−ケイ素−マグネシウムを主要元素として含む耐食性金属アロイコーティングに関し、以下、これに基づいて「Al−Zn−Si−Mg合金」と云う。この金属コーティングは、意図的なアロイング添加として存在するかまたは不可避の不純物として存在する別の元素を含んでいてもよい。従って、用語「Al−Zn−Si−Mg合金」は、そのような別の元素を意図的なアロイング添加として含むかまたは不可避の不純物として含む合金をカバーすると理解される。
【0003】
本発明は、これに限るわけではないが、特に、上記Al−Zn−Si−Mg合金で被覆され、最終用途製品、例えばルーフィング製品(roofing product)に冷間成形(例えば、ロール成形による。)されていてもよいスチールストリップに関する。
【0004】
典型的には、本発明のAl−Zn−Si−Mg合金は、下記重量%範囲のアルミニウム元素、亜鉛元素、ケイ素元素およびマグネシウム元素:
アルミニウム: 40〜60%
亜鉛: 40〜60%
ケイ素: 0.3〜3%
マグネシウム: 0.3〜10%
を含有する。
【0005】
典型的には、本発明の耐食性金属アロイコーティングは、溶融めっき法によってスチールストリップ上に生成される。
【0006】
常套の溶融金属めっき法では、スチールストリップは、概して、1以上の熱処理炉を通り、その後、コーティングポット(coating pot)中に保持される溶融金属アロイの槽に入り、通る。コーティングポットに隣接する熱処理炉は、上記槽の上面の下の位置に向かって下向きに延びる排出スナウト(outlet snout)を有する。
【0007】
この金属アロイは、通常、加熱用誘導子の使用によってコーティングポット中で溶融状態が維持される。ストリップは、通常、槽に浸かる細長い炉進出シュート(exit chute)またはスナウトの形態の出口末端セクションを通って熱処理炉を出る。槽内で、ストリップは、1以上のシンクロールの周りを通り、槽から上方に取り出され、槽を通ると金属アロイで被覆される。
【0008】
溶融めっき浴を離れた後、金属アロイ被覆ストリップは、コーティング厚制御ステーション、例えばガスナイフまたはガスワイピングステーション(gas wiping station)、を通り、ここで、被覆面をワイピングガスの噴流に曝してコーティングの厚さを制御する。
【0009】
次に、金属アロイ被覆ストリップは冷却セクションを通り、強制冷却を受ける。
【0010】
その後、要すれば、この被覆ストリップをスキンパス圧延セクション(テンパー圧延セクションとしても知られている。)および張力均質化セクション(tension levelling section)に連続に通すことによって、冷却された金属アロイ被覆ストリップを状態調節してもよい。状態調節されたストリップをコイル巻きステーション(coiling station)においてコイル巻きする。
【0011】
55%Al−Zn合金コーティングはよく知られているスチールストリップ用の金属アロイコーティングである。固化後、55%Al−Zn合金コーティングは、通常、α−Alデンドライトおよびコーティングのインターデンドライト領域中のβ−Zn相からなる。
【0012】
溶融めっき法においてスチール基材と溶融コーティングとの間の過度の合金化を防ぐためにコーティングアロイ組成物にケイ素を添加することが知られている。ケイ素の一部は4元合金層生成に関与するが、ケイ素の大部分は固化中に針状の純粋なケイ素粒子として析出する。上記針状ケイ素粒子はコーティングのインターデンドライト領域にも存在する。
【0013】
55%Al−Zn−Si合金コーティング組成物中にMgが含まれると、Mgは生成される製品の腐食性を変化させることによって製品の性能にある有益な影響、例えば改良されたカットエッジ保護、をもたらすことが本出願人によって発見された。
【0014】
しかしながら、本出願人は、MgがSiと反応してMgSi相を生成することおよびMgSi相の生成が上記Mgの有益な影響を多くの方法で構成することも発見した。
【0015】
本発明の焦点である特定の事項は、「まだら(mottling)」と呼ばれる表面欠陥である。本出願人は、ある固化条件のもとでAl−Zn−Si−Mg合金コーティングにまだらが生じることを発見した。まだらは、コーティング面におけるMgSi相の存在に関連する。
【0016】
より詳細には、まだらは、多数の粗いMgSi粒子がコーティングの表面上に互いに集まり、審美的観点から容認できないしみのような外観をもたらす欠陥である。とりわけ、集まったMgSi粒子は、サイズ約1〜5mmの暗い領域を生じ、コーティングの外観に非均一性を導入し、均一な外観が重要な用途に望ましくない被覆製品をつくる。
【0017】
上記記載はオーストラリア内外で公知の承認されている事柄として見なされない。
【0018】
本発明は、コーティングの表面が少量のMgSi粒子しか有さないかまたは少なくとも実質的にMgSi粒子を含まないようなMgSi粒子の分布でMgSi粒子をコーティング微細構造中に有するAl−Zn−Si−Mg合金被覆ストリップである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、Al−Zn−Si−Mg合金へのSrの添加の効果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願人は、コーティング微細構造中のMgSi粒子の上記分布が著しい利点を提供すること、およびコーティング微細構造中のMgSi粒子の上記分布が下記(a)〜(c):
(a) コーティング合金へのストロンチウムの添加、
(b) めっき浴を出る所定のコーティング質量(すなわちコーティング厚)に対する被覆ストリップの固化中の冷却速度の選択、および
(c) コーティング厚の変化の微小化
のいずれか1つ以上によって達成されることを発見した。
【0021】
本発願人は、以下に詳細に説明するSr添加が、コーティングの表面が少量のMgSi粒子しか有さないかまたは少なくとも実質的にMgSi粒子を含まず、それによってMgSiまだらのリスクがかなり低くなるように、Al−Zn−Si−Mg合金コーティングの厚さ方向におけるMgSi相の分布特性を制御することを発見した。
【0022】
特に、本出願人は、Al−Zn−Si−Mg合金を含むめっき浴に少なくとも250ppmのSr、好ましくは250〜3000ppmのSrを添加するとコーティング厚方向におけるMgSi相の分布特性がこのSrの添加によってSrがめっき浴に存在しない場合の分布から完全に変化することを発見した。特に、本出願人は、これらのSrの添加が少量のMgSi粒子しか有さないかまたはMgSi粒子を含まないコーティングの表面の生成を促進し、結果として表面まだらのリスクを非常に低くすることを発見した。
【0023】
本出願人は、更に、めっき浴を出る被覆ストリップの固化中の冷却速度を、冷却速度閾値(threshhold cooling rate)よりも低く、典型的には片側のストリップ表面1mあたり100グラムよりも低いコーティング質量に対して80℃/秒よりも低くなるように選択することが、MgSi相の分布特性を表面が少量のMgSi粒子しか有さないかまたは少なくとも実質的にMgSi粒子を含まないように制御し、それによってMgSiまだらのリスクがかなり低くなることも発見した。
【0024】
本出願人は、更に、コーティングの厚さの変化を微小化することが、表面が少量のMgSi粒子しか有さないかまたは少なくとも実質的にMgSi粒子を有さないようにMgSi相の分布特性を制御し、それによってMgSiまだらのリスクが相当低くなることも発見した。Sr添加および固化中の冷却速度の選択と同様に、生じるコーティング微細構造は、外観、耐食性の増加およびコーティング延性の改良に関して有利である。
【0025】
本発明によると、コーティングの微細構造がMgSi粒子を含有し、上記MgSi粒子の分布がコーティングの表面に少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは少なくとも実質的にMgSi粒子が存在しないAl−Zn−Si−Mg合金のコーティングをスチールストリップ上に備えるAl−Zn−Si−Mg合金被覆スチールストリップが提供される。
【0026】
コーティングの表面領域における少量のMgSi粒子は、MgSi粒子の10wt.%以下であってもよい。
【0027】
典型的には、上記Al−Zn−Si−Mg合金は、下記重量%範囲のアルミニウム元素、亜鉛元素、ケイ素元素、およびマグネシウム元素:
アルミニウム: 40〜60%
亜鉛: 40〜60%
ケイ素: 0.3〜3%
マグネシウム: 0.3〜10%
を含有する。
【0028】
Al−Zn−Si−Mg合金は、更に、別の元素、例えば一例として、鉄、バナジウム、クロムおよびストロンチウムの任意の1種類以上も含みうる。
【0029】
典型的には、コーティングの厚さは30μm未満である。
【0030】
好ましくはコーティングの厚さは7μmよりも厚い。
【0031】
好ましくは、コーティングは、Srを250ppmよりも多く含み、Sr添加はコーティング中の上記分布のMgSi粒子の生成を促進する。
【0032】
好ましくは、コーティングは、Srを500ppmよりも多く含む。
【0033】
好ましくは、コーティングは、Srを1000ppmよりも多く含む。
【0034】
好ましくは、コーティングは、Srを3000ppm未満含む。
【0035】
Al−Zn−Si−Mg−Sr合金コーティングは、別の元素を意図的な添加として含んでいても不可避な不純物として含んでいてもよい。
【0036】
好ましくは、コーティング厚変化は微小である。
【0037】
本発明によると、Al、Zn、Si、Mg、および250ppmよりも多くのSrおよび要すれば別の元素を含む溶融めっき浴にスチールストリップを通し、合金コーティングをストリップ上に生成することを特徴とし、コーティング微細構造にMgSi粒子を少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは実質的にMgSi粒子をコーティングの表面に含まない分布で有する耐食性Al−Zn−Si−Mg合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する溶融めっき法も提供される。
【0038】
コーティングの表面領域における少量のMgSi粒子は、MgSi粒子の10wt.%以下である。
【0039】
好ましくは、コーティングは、Srを500ppmよりも多く含む。
【0040】
好ましくは、コーティングは、Srを少なくとも1000ppm含む。
【0041】
好ましくは、溶融浴は、Srを3000ppm未満含む。
【0042】
Al−Zn−Si−Mg−Sr合金コーティングは、他の元素を意図的な添加剤として含んでいても不可避な不純物として含んでいてもよい。
【0043】
本発明によると、Al、Zn、Si、およびMgおよび要すれば別の元素を含む溶融めっき浴にスチールストリップを通し、合金コーティングをスチールストリップ上に生成し、めっき浴を出る被覆ストリップをコーティングの固化中にコーティング微細構造中のMgSi粒子の分布がコーティングの表面に少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは実質的にMgSi粒子が存在しないように制御された速度で冷却することを特徴とする耐食性Al−Zn−Si−Mg合金のコーティングをスチールストリップ上に生成するための溶融めっき法も提供される。
【0044】
コーティングの表面領域における少量のMgSi粒子は、MgSi粒子の10wt.%以下である。
【0045】
好ましくは、本発明の方法は、上記めっき浴を出る被覆ストリップの冷却速度を冷却速度閾値よりも低くなるように選択する工程を包含する。
【0046】
あらゆる状況で、要求される冷却速度の選択は、コーティングの厚さ(またはコーティングの質量)に関連する。
【0047】
好ましくは、本発明の方法は、めっき浴を出る被覆ストリップの冷却速度を、ストリップ表面1mあたりの片側のコーティング質量75グラム以下に対して80℃/秒未満になるように選択する工程を包含する。
【0048】
好ましくは、本発明の方法は、めっき浴を出る被覆ストリップの冷却速度を、ストリップ表面1mあたりの片側のコーティング質量75〜100グラムに対して50℃/秒未満になるように選択する工程を包含する。
【0049】
典型的には、本発明の方法は、冷却速度を少なくとも11℃/秒になるように選択する工程を包含する。
【0050】
一例として、平均厚22μmのコーティングに関して、固化中の冷却速度は好ましくは下記の通りである:
(a) 600〜530℃の温度範囲において55℃/秒、
(b) 530〜500℃の温度範囲において70℃/秒、および
(c) 500〜300℃の温度範囲において80℃/秒。
【0051】
上記めっき浴および上記めっき浴中で被覆されるスチールストリップ上のコーティングはSrを含んでいてもよい。
【0052】
本発明によると、コーティング微細構造中のMgSi粒子の分布がコーティングの表面に少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは実質的にMgSi粒子が存在しないようになるようにAl、Zn、SiおよびMgおよび要すれば別の元素を含む溶融めっき浴にスチールストリップを通し、合金コーティングをコーティングの厚さを微小変化でストリップ上に生成することを特徴とする耐食性Al−Zn−Si−Mg合金のコーティングをスチールストリップ上に生成するための溶融めっき法も提供される。
【0053】
コーティングの表面領域における少量のMgSi粒子は、MgSi粒子の10wt.%以下である。
【0054】
好ましくは、コーティングの任意の直径5mmのセクションにおけるコーティングの厚さの変化は40%以下であるべきである。
【0055】
より好ましくは、コーティングの任意の直径5mmのセクションにおけるコーティングの厚さの変化は30%以下であるべきである。
【0056】
いずれの場合も、適切な厚さの変化の選択はコーティングの厚さ(またはコーティングの質量)に関連する。
【0057】
一例として、コーティングの厚さ22μmに関しては、好ましくは直径が1mmよりも大きいコーティングの領域における最大厚は27μmであるべきである。
【0058】
好ましくは、本発明の方法は、めっき浴を出る被覆ストリップの固化中の冷却速度を冷却速度閾値未満になるように選択する工程を包含する。
【0059】
めっき浴および上記めっき浴中で被覆されるスチールストリップ上のコーティングはSrを含みうる。
【0060】
溶融めっき法は、上記常套の方法であっても別の好適な方法であってもよい。
【0061】
本発明の利点としては下記利点が挙げられる。
・まだら欠陥の排除および改良された初回最高(first−time−prime)製造速度。まだら欠陥のリスクは少なくとも実質的に排除され、生じるコーティングの表面は美しい銀色の金属的な外観を維持する。結果として、初回最高製造速度が改良され、収益性が上げられる。
・Srの添加によるまだら欠陥の防止は、高い冷却速度の使用を可能にし、ポットの後に必要とされる冷却装置の長さを短くする。
【実施例】
【0062】
本出願人は、スチール基材を被覆する、Srを最大3000ppmまで有する一連の55%Al−Zn−1.5%Si−2.0%Mg合金組成物に対して実験室での実験を行った。
【0063】
上記実験の目的は、コーティングの表面におけるまだらへのSrの影響を調査することである。
【0064】
図1は、本出願人によって行われた本発明を説明する一連の実験の結果をまとめている。
【0065】
この図面の左側は、コーティングが55%Al−Zn−1.5%Si−2.0%Mg合金を含有し、Srを含まない、被覆スチール基材の上面図並びにこのコーティングを横切る断面図である。上記コーティングは、上で議論される固化中の冷却速度およびコーティング厚のバリエーションの選択に関して生成されなかった。
【0066】
そのようなコーティング組成物から生じるまだらは、上面図で矢印によって特定されている。断面図から、MgSi粒子がコーティング厚全体に分布することが明らかである。このことは、上記理由で問題がある。
【0067】
この図面の右側は、コーティングが55%Al−Zn−1.5%Si−2.0%Mg合金およびSr 500ppmを含有する、被覆スチール基材の上面図並びにこのコーティングを横切る断面図である。まだらが全く存在しないことは、上面図から明らかである。加えて、この断面図は、コーティング表面における上の領域およびスチール基材との界面における下の領域を示しており、これらがMgSi粒子を全く含まず、MgSi粒子がコーティングの中央帯に閉じ込められていることを示している。このことは、上記理由から有利である。
【0068】
図1の顕微鏡写真は、Al−Zn−Si−Mgコーティング合金へのSrの添加の効果を明示している。
【0069】
実験室の実験から、図1の右側に示される微細構造が250〜3000ppmの範囲のSr添加で生成されたことが判明した。
【0070】
本出願人は、更に、スチール基材を被覆する55%Al−Zn−1.5%Si−2.0%Mg合金組成物(Srを含まない。)上でライン・トライアル(line trial)も行った。
【0071】
上記トライアルの目的は、冷却速度およびコーティング質量の、コーティングの表面におけるまだらへの影響を調査することであった。
【0072】
上記トライアルは、ストリップの表面1mあたりの片側のコーティングの質量範囲60〜100グラムを冷却速度90℃/秒以下でカバーした。
【0073】
本出願人は、上記トライアルで、コーティング微細構造、特にコーティング中のMgSi粒子の分布に影響を及ぼす2つの因子を発見した。
【0074】
第1の因子は、めっき浴を出るストリップのコーティングの固化を完了する前の冷却速度の効果である。本出願人は、冷却速度の制御がまだらを避けることを可能にすることを発見した。
【0075】
一例として、本出願人は、AZ150クラスのコーティング(またはストリップの片側1mあたり75グラムのコーティング−オーストラリアの規格AS1397−2001を参照。)に関して、冷却速度が80℃/秒よりも高いと、MgSi粒子がコーティングの表面上に形成されることを発見した。特に、冷却速度が100℃/秒よりも高いと、まだらが生じる。
【0076】
本出願人は、更に、同じコーティングに関して、冷却速度を低くしすぎること、特に11℃/秒未満にすることが望ましくないことも発見した。なぜなら、この場合コーティングが欠陥のある「バンブー(bamboo)」構造を発生させ、それによって、亜鉛リッチな相がコーティング面からスチール界面まで垂直に真っ直ぐな腐食パス(corrosion path)を生じ、このことがコーティングの腐食性能を構成するからである。
【0077】
従って、AZ150クラスのコーティングに関しては、試験される実験条件下で、冷却速度を11〜80℃/秒の範囲になるように制御して表面におけるまだらを避けるべきである。
【0078】
他方、本出願人は、更に、AZ200クラスのコーティングに関して、冷却速度が50℃/秒よりも高いと、コーティングの表面に形成されるMgSi粒子およびまだらが生じることも発見した。
【0079】
従って、AZ200クラスのコーティングに関して、試験される実験条件下では、11〜50℃/秒の範囲の冷却速度が望ましい。
【0080】
本出願人によって発見された第2の重要な因子は、ストリップ表面を横切るコーティング厚の均一性である。
【0081】
本出願人は、ストリップ表面上のコーティングが、通常、(a)広い範囲(ストリップの幅全体にわたり、直径50mmのディスク上で「ウェイト−ストリップ−ウェイト(weight−strip−weight)」法によって測定される。)および(b)狭い範囲(ストリップ幅方向に25mm毎にわたる。倍率500倍の顕微鏡の下でコーティングの断面で測定。)の厚変化を有することを発見した。製造実態では、広範囲の厚変化は、通常、関連する国家規格に規定されているように最小コーティング質量の要求に合うように調節される。製造実態では、出願人が知る限りでは、関連する国家規格に規定されているような最小コーティング質量要求に合う限り、狭い範囲の厚変化への調節がなされない。
【0082】
しかしながら、本出願人は、狭い範囲のコーティング厚変化が非常に高くなることがあり、特別な操作手段を適用して変化を制御する必要があることを発見した。製品が関連する国家規格に規定されている最小コーティング質量要求に完璧に合っていても、実験作業においてコーティング厚がほんの5mmの距離を超えて2以上の因子によって変化することは珍しくなかった。この狭い範囲のコーティング厚変化は、コーティングの表面におけるMgSi粒子に対して著しい影響力があった。
【0083】
一例として、本出願人は、AZ150クラスのコーティングに対して、上記望ましい冷却速度範囲内でも、狭い範囲のコーティング厚変化がストリップ表面を横切る5mmの距離内で公称コーティング厚を40%より多く超える場合、MgSi粒子がコーティングの表面に生成し、それによってまだらのリスクを増加させることを発見した。
【0084】
従って、試験される実験条件のもとで、ストリップ表面を横切る5mmの距離内で公称コーティング厚を40%よりも多く超えないように狭い範囲のコーティング厚変化を制御してまだらを防ぐべきである。
【0085】
広範囲にわたる、部分的に上に記載した、本出願人がAl−Zn−Si−Mgコーティングの固化に対して行った研究活動は、本出願人がコーティングにおけるMgSi相の生成およびコーティングにおけるMgSi相の分布に影響を及ぼす因子の解釈を進めることを助けている。本出願人は、下記考察に制約されることを望むわけではないが、この解釈は下記に示すとおりである。
【0086】
Al−Zn−Si−Mg合金コーティングを560℃付近の温度に冷却する時、α−Al相は最初に核生成する相である。次に、α−Al相はデンドライトの形態に成長する。α−Al相が成長すると、MgおよびSiは、他の溶質元素と共に、溶融液相に排斥され、そのようにしてインターデンドライト領域に残る溶融液はMgおよびSi豊富になる。
【0087】
インターデンドライト領域中のMgおよびSiの濃縮があるレベルに到達すると、MgSi相が生成し始め、これは温度約465℃に相当する。単純化のために、コーティングの外面付近のインターデンドライト領域を領域Aと仮定し、スチールストリップ表面の4元合金層付近の別のインターデンドライト領域を領域Bと仮定する。更に、領域AにおけるMgおよびSiの濃縮レベルが領域Bにおけるそれと同じと仮定する。
【0088】
465℃以下では、MgSi相は領域Aにおいて領域Bと同じ核生成傾向がある。しかしながら、金属物性の原則は、好ましくは生じるシステムのフリーエネルギーが最小になる位置において新規の相が核生成することを教示している。めっき浴がSrを含まない場合、MgSi相は、通常、好ましくは領域Bにおける4元合金層上に核生成する(Sr含有コーティングでのSrの役割は、下記で考察する。)。本出願人は、このことが上記原則に従っており、4元合金相とMgSi相との間には結晶格子構造に一定の類似性が存在し、このことがシステムのフリーエネルギーのあらゆる増加を最小化することによってMgSi相の核生成に有利に働くと考える。対照的に、領域Aにおけるコーティングの表面酸素上で核生成するMgSi相に関しては、システムのフリーエネルギーの増加が大きかったと考えられる。
【0089】
領域Bにおける核生成では、MgSi相は、インターデンドライト領域中の溶融液体チャネルに沿って領域Aに向かって上方に成長する。MgSi相の成長面(領域C)では、領域Aと比較して溶融液相がMgおよびSi不足になる(液相とMgSi相との間のMgとSiとの分配係数に依存する。)。従って、領域Aと領域Cとの間に拡散対が生じる。言い換えると、溶融液相中のMgおよびSiは領域Aから領域Cへと拡散する。注目すべきは、領域A中でのα−Al相の成長は、領域Aが常にMgおよびSi豊富であることを意味し、液相がMgSi相に関して「過冷却」されているので、領域AではMgSi相の核生成傾向が常にあることである。
【0090】
MgSi相が領域Aにおいて核生成するかまたはMgおよびSiが領域Aから領域Cへと拡散し続けるかは、局所温度と関連して、領域AにおけるMgおよびSiの濃縮のレベルに依存し、この濃縮レベルはα−Al成長によって領域Cに排斥されるMgとSiとの量と、拡散によって領域Aから離れるMgとSiとの量とのバランスに依存する。L→Al−Zn共晶反応(Lは溶融液相である。)が起こる前にMgSi核生成/成長プロセスが温度約380℃において完了しなければならないので、拡散に割り当てられる時間もまた限られる。
【0091】
本出願人は、拡散に割り当てられる時間とMgおよびSiの拡散距離とのバランスの制御が次のMgSi相の核生成または成長やMgSi相のコーティング厚方向における最終分布を制御できることを発見した。
【0092】
特に、本出願人は、一連のコーティング厚に関して、MgSi相が領域Aにおいて核生成するリスクを避けるために冷却速度を特定の範囲に、特に温度閾値を超えないように、調節するべきであることを発見した。これは一連のコーティング厚(または領域AとCとの間の比較的一定の拡散距離)に関して、より速い冷却速度はα−Al相をより速く成長させ、より多くのMgおよびSiを領域Aの液相に排斥し、MgおよびSiのより強力な濃縮、すなわちMgSi相が核生成する高いリスク、を領域Aにもたらす(このことは望ましくない。)からである。
【0093】
他方、一連の冷却速度に関して、より厚いコーティング(またはより厚い局所コーティング領域)は領域Aと領域Cとの間の拡散距離を増加させ、より少量のMgとSiとしか所定の時間で拡散によって領域Aから領域Cへと移動することを可能にせず、MgおよびSiのより強力な濃縮、すなわちより高いMgSi相が核生成するリスク、を領域Aにもたらす(このことは望ましくない。)。
【0094】
特に、本出願人は、本発明のMgSi粒子の分布を達成するために、すなわち、被覆ストリップの表面上のまだら欠陥を避けるために、めっき浴を出る被覆ストリップの冷却速度は、ストリップ表面1mあたりの片側のコーティング質量75グラム以下に対しては11〜80℃/秒、ストリップ表面1mあたりの片側のコーティング質量75〜100グラムに対しては11〜50℃/秒の範囲でなければならないことを発見した。狭い範囲のコーティング厚変化もまたストリップ表面を横切る5mmの距離内で公称コーティング厚を40%より多く超えないように制御して本発明のMgSi粒子の分布を達成しなければならない。
【0095】
本出願人は、更に、Srがめっき浴中に存在すると、上記MgSi核生成速度が大きく影響を受けることも発見した。あるSr濃度レベルでは、Srは4元合金層中に強く偏析する(すなわち、4元合金相のケミストリーを変化させる。)。Srは、更に、溶融コーティングの表面酸化の特性も変化させ、コーティング面上の表面酸化物を薄くする。そのような変化は、MgSi相の優先核生成位置を大きく変え、結果として、コーティング厚方向のMgSi相の分布パターンを大きく変える。特に、本出願人は、めっき浴中でSrが濃度250〜3000ppmにおいてMgSi相が4元合金層上や表面酸化物上に核生成することを実質的に不可能にすることを発見した。恐らくそうでなければ非常に高レベルの系のフリーエネルギーの増加が発生するからである。代わりに、MgSi相は、コーティングの中央領域において厚方向にしか核生成できず、コーティング外面領域とスチール表面付近の領域の両方では実質的にMgSiを含まないコーティング構造をもたらす。従って、コーティング中の所望のMgSi粒子分布を達成する効果的な方法の1つとして、250〜3000ppmの範囲でのSr添加を提案する。
【0096】
本発明の精神および範囲から逸脱せずに、多くの変更が上記本発明になされうる。
【0097】
この関連で、本発明の上記明細書は、MgSi粒子のコーティングにおける所望の分布、すなわち、少なくとも実質的にコーティングの表面にMgSi粒子が存在しないこと、を達成する手段として(a)Al−Zn−Si−Mgコーティング合金へのSrの添加、(b)冷却速度(所定のコーティング質量に対する。)および(c)狭い範囲のコーティング厚変化の制御、に着目しているが、本発明はそのように限定されず、コーティングにおけるMgSi粒子の所望の分布を達成するための好適な手段の使用に拡張される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングの微細構造がMgSi粒子を含有し、コーティングの表面に少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは少なくとも実質的にMgSi粒子がコーティングの表面に存在しないように該MgSi粒子が分布しているスチールストリップ上のAl−Zn−Si−Mg合金のコーティングを備える、Al−Zn−Si−Mg合金被覆スチールストリップ。
【請求項2】
該コーティングの表面領域における該少量のMgSi粒子がMgSi粒子の10wt.%以下である、請求項1に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項3】
該Al−Zn−Si−Mg合金が下記重量%範囲のアルミニウム元素、亜鉛元素、ケイ素元素、およびマグネシウム元素:
アルミニウム: 40〜60%
亜鉛: 40〜60%
ケイ素: 0.3〜3%
マグネシウム: 0.3〜10%
を含有する、請求項1または請求項2に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項4】
該コーティング厚が30μm未満である、従前請求項のいずれか一項に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項5】
該コーティング厚が7μmよりも厚い、従前請求項のいずれか一項に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項6】
該コーティングがSrを250ppmよりも多く含み、Sr添加がコーティング中のMgSi粒子の上記分布の生成を促進する、従前請求項のいずれか一項に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項7】
該コーティングがSrを500ppmよりも多く含む、請求項6に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項8】
該コーティングがSrを1000ppmよりも多く含む、請求項6に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項9】
該コーティングがSrを3000ppm未満含む、従前請求項のいずれか一項に記載の合金被覆スチールストリップ。
【請求項10】
Al、Zn、Si、Mgおよび250ppmよりも多くのSrおよび任意に別の元素を含む溶融めっき浴にスチールストリップを通し、MgSi粒子をコーティング微細構造中に有する合金コーティングを、コーティングの表面に少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは実質的にMgSi粒子がコーティングの表面に存在しないMgSi粒子の分布で該ストリップ上に生成することを特徴とする、スチールストリップ上に耐食性Al−Zn−Si−Mg合金のコーティングを生成するための溶融めっき方法。
【請求項11】
該コーティングの表面領域における該少量のMgSi粒子がMgSi粒子の10wt.%以下である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該コーティングがSrを500ppmよりも多く含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該コーティングがSrを少なくとも1000ppm含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該溶融浴がSrを3000ppm未満含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
Al、Zn、Si、およびMgおよび任意に別の元素を含む溶融めっき浴にスチールストリップを通し、該ストリップ上に合金コーティングを生成し、該コーティングの固化中に該めっき浴を出る被覆ストリップを、該コーティング微細構造中のMgSi粒子の分布がコーティングの表面に少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは実質的にMgSi粒子が存在しないように制御された速度で冷却することを特徴とする、耐食性Al−Zn−Si−Mg合金のコーティングをスチールストリップ上に生成するための溶融めっき方法。
【請求項16】
該コーティングの表面領域における該少量のMgSi粒子が該MgSi粒子の10wt.%以下である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
該めっき浴を出る被覆ストリップの冷却速度を冷却速度閾値よりも低くなるように選択する工程を包含する、請求項15または請求項16に記載の方法。
【請求項18】
該めっき浴を出る被覆ストリップの冷却速度を、ストリップ表面1mあたりの片側のコーティング質量75グラム以下に対して80℃/秒未満になるように選択する工程を包含する、請求項15〜請求項17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
該めっき浴を出る被覆ストリップの冷却速度をストリップ表面1mあたりの片側のコーティング質量75〜100グラムに対して50℃/秒未満になるように選択する工程を包含する、請求項15〜請求項18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
該冷却速度を少なくとも11℃/秒になるように選択する工程を包含する、請求項15〜請求項19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
平均厚22μmのコーティングに関して、該めっき浴を出る被覆ストリップの固化中の冷却速度を、
(a) 600〜530℃の温度範囲において55℃/秒
(b) 530〜500℃の温度範囲において70℃/秒、および
(c) 500〜300℃の温度範囲において80℃/秒
になるように選択する工程を包含する、請求項15または請求項16に記載の方法。
【請求項22】
Al、Zn、Si、およびMgおよび任意に別の元素を含む溶融めっき浴にスチールストリップを通し、コーティング微細構造中のMgSi粒子の分布がコーティングの表面に少量のMgSi粒子しか存在しないかまたは実質的にMgSi粒子が存在しないようにコーティングの厚さの微小変化で該ストリップ上に合金コーティングを生成することを特徴とする、耐食性Al−Zn−Si−Mg合金のコーティングをスチールストリップ上に生成するための溶融めっき方法。
【請求項23】
該コーティングの任意の直径5mmのセクションにおける該コーティングの厚さの変化が40%以下である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該コーティングの任意の直径5mmのセクションにおける該コーティングの厚さの変化が30%以下である、請求項22または請求項23に記載の方法。
【請求項25】
コーティング厚22μmに関して、コーティングの直径が1mmよりも大きい領域の最大厚が27mmである、請求項22〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
該めっき浴を出る被覆ストリップの固化中の冷却速度が冷却速度閾値よりも低くなるように選択する工程を包含する、請求項22〜25のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−514934(P2011−514934A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−549998(P2010−549998)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000305
【国際公開番号】WO2009/111842
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(505132312)ブルースコープ・スティール・リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】BLUESCOPE STEEL LIMITED
【住所又は居所原語表記】Level 11, 120 Collins Street, Melbourne, Victoria 3000, Australia
【Fターム(参考)】