説明

金属複合材および金属複合材の製造方法

【課題】所望の耐摩耗性を維持できる摺動寿命を延長でき得る金属複合材および金属複合材の製造方法を提案する。
【解決手段】珪酸塩水和物3から結晶水を除去してなる多孔質状の珪酸塩化合物3’が、金属母材6’内に分散しており、外表面に、多孔質状の珪酸塩化合物3’が露出してなる金属複合材10である。この金属複合材10を、多孔質状の珪酸塩化合物3’と強化材2とを混在するプリフォーム1を成形し、金属の溶湯6を加圧含浸し、外表面を研磨することにより製造する。珪酸塩化合物3’は、その結晶水が除去された痕に極めて微細な空孔を有し、且つ吸着性を有していることから、外表面に露出した珪酸塩化合物3’内に潤滑オイルを保持することができる。そのため、比較的長期間摺動停止した後でも、摺動初期から、金属母材6’と相手材とに焼き付きが発生することを防止でき、所望の耐摩耗性を発揮でき得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等の金属母材と強化材とを複合化してなる金属複合材、およびこの金属複合材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車には、燃費や走安性等を向上させるために、軽量化、高耐久性、低熱膨張性等に優れるアルミニウム合金等の軽金属から製造された部品が増加する傾向にある。さらに、アルミニウム合金等の軽金属とセラミック繊維等の強化材とを複合化した金属複合材が、軽金属の特性を有し且つ耐摩耗性が向上したものとして、エンジンを構成するシリンダやピストン等の所謂摺動部材に適用されている。尚、このような金属複合材は、一般的に、セラミックの短繊維や粒子等の強化材を焼結して所定形状のプリフォームを成形し、このプリフォームに、ダイカスト成形等により金属の溶湯を加圧含浸することによって製造される。
【0003】
上記した金属複合材としては、シリンダ等の摺動部材に適用する場合、高速で繰り返し摺動することに充分に耐え得る耐摩耗性が必要とされていることから、自己摺動性を有する黒鉛や活性炭などのセラミック粒子を含有した構成のものが一般的に良く知られている。このような金属複合材からなる摺動部材は、その摺動面に、前記した黒鉛等のセラミック粒子を露出することにより、耐摩耗性を向上するようにしている。そして、この摺動面には、金属母材(例えば、アルミニウム合金)も露出していることから、該摺動面の金属母材と相手材との間で焼き付きが発生することを防止するために、所定の潤滑オイルが使用されている。この摺動オイルによって、摺動面を保護し、金属母材が摺動相手材と直接接触することを防ぐことができるため、所望の耐摩耗性を長期に亘って維持することができ得る。
【0004】
また、例えば、特許文献1には、金属母材中に中空粒子が分散され、外表面に、該中空粒子がその中空孔を開口するように露出している構成のものが提案されている。この構成は、外表面に露出した中空粒子の中空孔内に、潤滑オイルを保持できるため、摺動時に中空孔内に保持した潤滑オイルが流出し、所望の耐摩耗性を発揮する寿命(以下、摺動寿命という)を向上でき得る。
【0005】
また、本発明の発明者らは、以前に、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を、外表面に露出してなる構成の金属複合材を提案している(特許文献2)。ここで、ホウ酸アルミニウム粒子は、その空孔内に潤滑オイルを保持する特性を有していることから、上記と同様に、この摺動部材に適用することによって、摺動時に空孔内から潤滑オイルが滲み出て、その摺動寿命を向上することができ得る。この構成にあっては、ホウ酸アルミニウム粒子を、その多孔質状を維持して摺動面(外表面)に露出するために、金属の溶湯が該ホウ酸アルミニウム粒子の孔内に侵入してしまうことを防ぐことを要する。そのため、プリフォームを成形する過程で、負に帯電したシリカ粒子を有するシリカゾルと正に帯電したアルミナ粒子を有するアルミナゾルとを混合し、電気的に中性となったシリカ粒子とアルミナ粒子とをホウ酸アルミニウム粒子の表面に凝集することにより、該ホウ酸アルミニウム粒子の孔内に、金属の溶湯が侵入しないようにした製造方法が提案されている。そして、摺動面(外表面)を研磨することによって、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子が露出するようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−10078号公報
【特許文献2】特開2008−19484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、シリンダ等の摺動部材が適用されるところには、通常、潤滑オイルが使用され、摺動面と相手材との間で焼き付き等が発生することを防止している。ところで、エンジンのシリンダ等は、一般的に、その摺動面が上下方向となるように配設される構成である。そのため、例えば、比較的長期間駆動停止している場合などでは、潤滑オイルが下方へ流れてしまい、摺動面に対して潤滑オイルが不足した状態となり得る。この状態で摺動開始すると、例え、上記のように自己摺動性のセラミック粒子を摺動面に露出している構成であっても、摺動開始した直後(以下、摺動初期という)に、該潤滑オイルの少ない領域で、金属母材と相手材とを直接接触してしまうこともあり、そこで焼き付きが発生し易くなる。
【0008】
また、上述した特許文献1にかかる構成にあっては、中空粒子がその中空孔を4μm〜200μmとするものが具体的に用いられている。このような大きさの中空孔が摺動面に露出することによって、潤滑オイルを保持する油溜まりを構成している。ところが、シリンダ等の摺動部材に適用した場合、上記したように、摺動面が上下方向に配されていることから、該摺動面に露出した中空孔(油溜まり)内に溜まっている潤滑オイルが零れてしまう。これは、中空粒子の中空孔が、前記のように、比較的大きなサイズであるため、顕著に生じ得る。そのため、比較的長期間駆動停止している場合にあっては、摺動面に露出した中空孔内の潤滑オイルが流出してしまい、次に摺動開始した場合に、その摺動初期で、上記と同様、潤滑オイル不足が生じて、金属母材と相手材とに焼き付きが発生し易くなる。
【0009】
一方、上述した特許文献2にかかる構成にあっては、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子の孔径が1μm以下であり、比較的小さいこと、およびホウ酸アルミニウム粒子が吸着性を有している。そのため、上記と同様の、摺動面が上下方向に配されるシリンダ等に適用した場合にあっても、摺動面に露出したホウ酸アルミニウム粒子の孔内に保持した潤滑オイルが零れ難く、該潤滑オイルを保持する効果が高い。そのため、比較的長期間駆動停止した後に駆動開始しても、その摺動初期から、摺動面に露出したホウ酸アルミニウム粒子内から潤滑オイルが滲み出て、金属母材と相手材とに焼き付きが発生することを防止する効果が高い。
【0010】
ところが、この特許文献2の構成にあっては、上述したように、ホウ酸アルミニウム粒子の多孔質状を維持するために、金属の溶湯を含浸する前に、該ホウ酸アルミニウム粒子の表面を被覆して、該溶湯の侵入を防ぐ必要がある。そして、ホウ酸アルミニウム粒子の表面を被覆する方法として、シリカ粒子とアルミナ粒子とを凝集する方法が提案されているが、この凝集作用によって全てのホウ酸アルミニウム粒子を完全かつ均一に被覆することは難しい。そのため、各ホウ酸アルミニウム粒子の多孔質状を維持する作用にバラツキが生じ易く、潤滑オイルを保持する効果の安定性に限界があった。而して、潤滑オイルの保持性を、適正かつ安定して発揮できる構成のものが希求されていた。
【0011】
本発明にあっては、上記のように、エンジンのシリンダ等に適用した場合にあっても、潤滑オイルの保持性に優れ、所望の摺動寿命を安定して発揮し得る金属複合材および金属複合材の製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、珪酸塩水和物からその結晶水を除去してなる多孔質状の珪酸塩化合物が、金属母材内に分散されており、外表面に、多孔質状の珪酸塩化合物が露出されてなるものであることを特徴とする金属複合材である。
【0013】
ここで、珪酸塩水和物は、珪酸塩化合物と結晶水とが結合したものであり、加熱により、結晶水が除去されて、該結晶水が存在していた痕(結晶水除去痕)に極めて微細な空孔(以下、微細空孔)が生じ、多孔質状の珪酸塩化合物を生成する。この珪酸塩化合物の微細空孔は、その大きさが数オングストローム〜数十オングストローム程度であるため、その孔内に金属母材が侵入していない。そのため、金属母材内に分散した状態でも、各珪酸塩化合物の微細空孔は埋まっておらず、外表面に露出した珪酸塩化合物もその多孔質状が維持されており、当該珪酸塩化合物の微細空孔が外表面に開口した状態となっている。
【0014】
さらに、珪酸塩化合物は、珪素と金属酸化物とからなるものであり、吸着性を有している。そのため、本発明にかかる金属複合材にあっては、エンジンを構成するシリンダ等の摺動部材に適用した場合、外表面に露出した珪酸塩化合物の微細空孔内に潤滑オイルを吸入して保持することができる。そして、この珪酸塩化合物は、上記したように微細空孔を有し且つ吸着性を有していることから、本構成の金属複合材を、摺動面が上下方向に配されるシリンダ等に適用した場合にあっても、外表面に露出した珪酸塩化合物の微細空孔内に潤滑オイルを保持する効果が高い。そのため、エンジンを比較的長期間駆動停止した後に駆動開始しても、その摺動初期から、摺動面に露出した珪酸塩化合物の微細空孔内から潤滑オイルが滲み出て、金属母材と相手材とに焼き付きが発生することを防止する効果が発揮される。このように摺動初期から所望の耐摩耗性を発揮できることから、エンジンなどの摺動寿命を向上できる。
【0015】
外表面に露出した珪酸塩化合物の微細空孔内に保持された潤滑オイルは、摺動に伴って徐々に滲み出る。そのため、長期に亘って摺動を繰り返しても、珪酸塩化合物の微細空孔内から徐々に滲み出た潤滑オイルによって、外表面の摩耗を抑制することができるから、所望の耐摩耗性を維持することができ、その摺動寿命が著しく延びる。尚、長期に亘って摺動を繰り返すと、潤滑オイルが徐々に劣化していくが、珪酸塩化合物の微細空孔内から滲み出る潤滑オイルによって補充されることから、所望の耐摩耗性を維持することが可能となる。
【0016】
尚、本構成の金属複合材では、多孔質状の珪酸塩化合物が露出した外表面に、予め所定の潤滑オイルを塗布することによって、該珪酸塩化合物の空孔内に潤滑オイルを保持することができる。このように潤滑オイルを外表面に塗布することによっても、上述と同様に焼き付きを防止し且つ摺動寿命を向上する効果を発揮することができ得る。また、このように潤滑オイルを予め保持しておくことによって、該潤滑オイルを比較的多量に用いることができないところにも適用できる。この場合には、珪酸塩化合物の微細空孔内から滲み出た潤滑オイルが外表面を膜状に覆うため、この油膜により、外表面の耐摩耗性が向上し、摺動寿命を向上することができる。
【0017】
また、珪酸塩化合物にあっては、上述した特許文献2のホウ酸アルミニウム粒子に比して加工性に優れていることから、エンジンのシリンダ等に適用した場合に、その生産性を向上することができるという優れた利点も有する。
【0018】
本構成の金属複合材にあっては、摺動部材を構成する場合には少なくともその摺動面となる特定の外表面に、多孔質状を維持した珪酸塩化合物を露出したものとすれば、上記した作用効果を発揮することが可能である。
【0019】
上記した金属複合材にあって、焼結により珪酸塩水和物中の結晶水が除去されて、その結晶水除去痕により生成される微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、所定の強化材とが混在してなるプリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸したものであり、外表面の研磨により、多孔質状を維持した珪酸塩化合物が露出されてなる構成が提案される。ここで、強化材としては、セラミック繊維やセラミック粒子が好適に用い得る。特に、繊維長200μm〜1000μmのアルミナ短繊維が、強化材として好適である。ここで、アルミナ短繊維の繊維長は、プリフォームが強度と通気性とをバランス良く発揮できるように設定しており、好適に用い得る。
【0020】
かかる構成にあっては、プリフォームを成形する焼結により、珪酸塩水和物の結晶水を除去して多孔質状の珪酸塩化合物を生成し、当該プリフォームに金属の溶湯を含浸して外表面を研磨することによって得られるものである。上述したように、珪酸塩化合物の微細空孔は、極めて小さいことから、プリフォームに金属の溶湯を含浸しても、該微細空孔内に金属の溶湯が侵入しない。そのため、金属母材内に存在する全ての珪酸塩化合物は均一に多孔質状を維持されている。而して、外表面に露出した珪酸塩化合物によって、上述した、焼き付きを防止する効果や摺動寿命を向上するという、本発明の作用効果を適正かつ安定して発揮することができ得る。
【0021】
ここで、プリフォームを成形する焼結に要する温度は、強化材としてセラミック繊維やセラミック粒子を用いている場合、通常、1000℃以上である。しかし、このような高温で焼結すると、珪酸水和物からその結晶水を除去してなる珪酸塩化合物が形状変化してしまうため、結晶水除去痕の微細空孔が無くなってしまう。そのため、珪酸塩化合物の微細空孔を維持するように焼結することによって、本構成の金属複合材を得るようにしている。
【0022】
また、外表面の研磨としては、切削刃や砥石等による機械研磨、薬品等による化学研磨、該機械研磨と化学研磨の組み合わせる等、様々な研磨方法を用い得る。
【0023】
上記した金属複合材にあって、珪酸塩水和物が、ゼオライトである構成が提案される。
【0024】
ここで、ゼオライトは、珪酸塩水和物を構成する珪素原子の一部をアルミニウム原子に置き換えた構造を有するアルミノ珪酸塩水和物であって、その結晶中に結晶水が結合した微細空孔を有するものである。本構成にあっては、加熱により、ゼオライトの結晶水を除去して、その結晶水除去痕により生成される微細空孔を有するアルミノ珪酸塩化合物(結晶水が除去されたゼオライト)を、金属母材中に分散してなるものである。そして、ゼオライトは、優れた吸着性を有していることから、結晶水除去痕により生成された微細空孔内に、潤滑オイルを吸入して保持する作用が高く、上述した本発明の作用効果を一層高く発揮することができ得る。
【0025】
尚、ゼオライトとしては、モルデナイト(mordenite)系やクリノプチロライト(clinoptilolite)系の鉱石を粉砕して細粒化したものが好適に用い得る。
【0026】
一方、上述した金属複合材を製造するため製造方法として、本発明は、珪酸塩水和物の結晶水を除去し且つ該結晶水除去痕により生成される微細空孔を維持する所定の焼結温度で焼結することにより、該微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、所定の強化材とが混在するプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸し、外表面を研磨することにより、多孔質状を維持した珪酸塩化合物が露出する金属複合材を成形するようにした方法である。ここで、強化材としては、セラミック繊維やセラミック粒子が好適に用い得る。特に、繊維長200μm〜1000μmのアルミナ短繊維が、強化材として好適である。ここで、アルミナ短繊維の繊維長は、プリフォームが強度と通気性とをバランス良く発揮できるように設定しており、好適に用い得る。
【0027】
珪酸塩水和物は、上述したように、加熱によって、結晶水を除去し、その結晶水除去痕に微細空孔を生じて、多孔質状の珪酸塩化合物として生成される。本方法にあっては、強化材と珪酸水和物とが混在したもの(以下、予備混合体)を焼結することによって、その焼結温度で前記した多孔質状の珪酸塩化合物を有するプリフォームを生成するようにしたものである。ここで、強化材としてセラミック繊維やセラミック粒子等を用いた場合、一般的に1000℃以上の焼結温度とするが、このような高温では、前記した珪酸塩化合物が形状変化を生じて、結晶水除去痕の微細空孔が無くなってしまう。そのため、微細空孔を維持できる焼結温度により焼結を行い、本発明にかかるプリフォームを成形する。尚、この焼結温度としては、具体的には、800℃以下に設定する。
【0028】
このような製造方法によれば、上述した本発明の金属複合材を製造することができる。そして、この金属複合材は、上述した本発明の作用効果を発揮し得るものである。
【0029】
また、珪酸塩化合物の微細空孔は、上述したように、数オングストローム〜数十オングストロームであるから、金属の溶湯が侵入できない。そのため、上述した従来の特許文献2と異なり、珪酸塩化合物の微細空孔に金属の溶湯が侵入しないための特別な手段を必要としないという優れた利点を有する。
【0030】
上述した金属複合材の製造方法にあって、珪酸塩水和物と所定の強化材とを水中で混ぜて混合水溶液を調合する混合工程と、該混合水溶液から水分を除去して、予備混合体を形成する脱水工程と、該予備混合体を、前記珪酸塩水和物の結晶水を除去し且つ該結晶水除去痕により生成される微細空孔を維持する所定の焼結温度で焼結することにより、該微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、前記強化材とが混在するプリフォームを成形する焼結工程と、該プリフォームに、金属の溶湯を加圧鋳造により含浸する溶湯含浸工程と、外表面を研磨することにより、多孔質状の珪酸塩化合物を露出する研磨工程とを備えている方法が提案される。
【0031】
かかる方法にあっては、珪酸塩水和物を水中で混合して脱水することにより、珪酸塩水和物を均一に分散した予備混合体を形成し、該予備混合体を所定の焼結温度で焼結することにより、多孔質状の珪酸塩化合物と強化材とが均一に混在するプリフォームを得ることができる。そして、焼結工程により生成される珪酸塩化合物は、空孔径が数オングストローム〜数十オングストロームという微細空孔を有しているため、次の溶湯含浸工程にあって、金属の溶湯が、珪酸塩化合物の微細空孔内に侵入できず、当該微細空孔が維持される。そして、研磨工程によって、外表面に多孔質状の珪酸塩化合物を露出形成した金属複合材を得ることができる。
【0032】
この製造方法により製造した金属複合材は、上述した本発明の作用効果を発揮し得るものである。
【0033】
尚、研磨工程にあっては、上述したように、機械研磨、化学研磨、該機械研磨と化学研磨の組み合わせる等、様々な研磨方法を用い得る。また、本構成の研磨には、前記した機械研磨や化学研磨のように、研磨する工程を単独で行う場合だけでなく、外表面を所定の寸法形状に加工して整える機械加工をも含むものとする。尚、この機械加工では、比較的高い精度で外表面の寸法形状を整えることができるように、例えば、ダイヤモンドチップなどの切削刃を用いることが好適である。
【0034】
上述した金属複合材の製造方法にあって、珪酸塩水和物が、ゼオライトである方法が提案される。
【0035】
ゼオライトは、上記したように、アルミノ珪酸塩水和物であって、結晶水を結合する微細空孔を有するものである。そして、その結晶水を除去することにより、その結晶水除去痕により生成した微細空孔を有するアルミノ珪酸塩化合物を生成する。さらに、ゼオライトは、優れた吸着性を有している。そのため、上述したように、溶湯含浸工程で、金属の溶湯が侵入できず、外表面に露出したアルミノ珪酸塩化合物(結晶水が除去されたゼオライト)の微細空孔内に潤滑オイルを保持することができるため、上述した本発明の作用効果に優れた金属複合材を得ることができる。
【0036】
尚、ゼオライトとしては、モルデナイト(mordenite)系やクリノプチロライト(clinoptilolite)系の鉱石を粉砕して細粒化したものが好適に用い得る。
【0037】
上述した金属複合材の製造方法にあって、焼結工程が、400℃以上かつ800℃以下の焼結温度により焼結するようにした方法が提案される。
【0038】
珪酸塩水和物は、上述したように、セラミック繊維やセラミック粒子の焼結温度である1000℃以上に加熱すると、珪酸塩化合物の形状変化を生じ、結晶水除去痕である微細空孔が無くなってしまう。このような珪酸塩化合物の形状変化を抑えるために、焼結温度を800℃以下で行う。ここで、焼結温度を低くしたことにより、焼結を補助する焼結剤を用いることが好適である。但し、400℃より低い温度では、前記焼結剤を用いても、セラミック繊維やセラミック粒子などの強化材を充分に焼結することができない。したがって、強化材を焼結し、かつ珪酸塩化合物の多孔質状を維持するために、焼結温度を400℃〜800℃の範囲に設定する。尚、焼結温度は、この範囲内で、珪酸塩水和物や強化材に応じて適宜設定することができる。
【0039】
尚、焼結温度としては、珪酸塩化合物の形状変化を抑制する効果が高く、微細空孔を維持する効果が一層高くなるように、600℃以下とすることが好適である。また、上記した焼結剤を用いた場合にあっても、強化材を焼結する作用効果が向上するように、500℃以上とすることが好適である。
【発明の効果】
【0040】
本発明の金属複合材は、珪酸塩水和物からその結晶水を除去してなる多孔質状の珪酸塩化合物が、金属母材内に分散されており、外表面に、多孔質状の珪酸塩化合物が露出されてなるものであるから、外表面に露出した珪酸塩化合物が有する微細空孔内に、潤滑オイルを保持することができるため、摺動部材に適用することにより耐摩耗性を向上することができる。そして、珪酸塩化合物は、結晶水の除去された痕に極めて微細な空孔を有し且つ吸着性を有していることから、摺動面が上下方向に配された摺動部材に適用した場合にあっても、外表面に露出した珪酸塩化合物内に潤滑オイルを保持する効果が高い。これにより、比較的長期間摺動停止した後に摺動開始しても、その摺動初期から、珪酸塩化合物内から滲み出る潤滑オイルにより、金属母材と相手材とに焼き付きが発生することを防ぎ得る。そして、長期に亘って摺動を繰り返しても、珪酸塩化合物内から滲み出る潤滑オイルにより、所望の耐摩耗性を維持できる。このように、本構成によれば、所望の耐摩耗性を維持する摺動寿命を向上することができる。また、金属母材内の全ての珪酸化合物は、その微細空孔に金属が侵入していないことから、前記した作用効果を安定して発揮することができ得る。
【0041】
上記した金属複合材にあって、焼結により珪酸塩水和物中の結晶水が除去されて、その結晶水除去痕により生成される微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、所定の強化材とが混在してなるプリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸したものであり、外表面の研磨により、多孔質状を維持した珪酸塩化合物が露出されてなる構成にあっては、珪酸塩化合物の微細空孔内に金属の溶湯が侵入せず、さらに該珪酸塩化合物が吸着性を有していることから、金属母材と相手材とに焼き付きが発生することを防ぎ、摺動寿命を向上するという、本発明の作用効果を適正かつ安定して発揮し得る。
【0042】
上記した金属複合材にあって、珪酸塩水和物がゼオライトである構成とした場合には、該ゼオライトが、その結晶中に結晶水が結合した微細空孔を有するものであり、さらに、優れた吸着性を有していることから、結晶水を除去して生成された微細空孔内に潤滑オイルを吸入して保持する作用が高く、上述した本発明の作用効果を一層高く発揮することができ得る。
【0043】
一方、本発明の金属複合材の製造方法は、珪酸塩水和物の結晶水を除去し且つ該結晶水除去痕により生成される微細空孔を維持する所定の焼結温度で焼結することにより、多孔質状の珪酸塩化合物と所定の強化材とが混在するプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸し、外表面を研磨して、多孔質状の珪酸塩化合物が露出する金属複合材を成形するようにした方法である。この製造方法によれば、珪酸塩水和物の結晶水が除去されてなる多孔質状の珪酸化合物を金属母材内に分散し、該珪酸化合物を外表面に露出してなる、上述した本発明の金属複合材を得ることができる。そして、このように製造された金属複合材は、上述した本発明の作用効果を発揮するものである。
【0044】
上述した金属複合材の製造方法にあって、珪酸塩水和物と強化材とを混合した混合水溶液から水分を除去して予備混合体を形成し、該予備混合体を所定の焼結温度で焼結することにより、前記珪酸塩水和物の結晶水を除去してなる、微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、強化材とを混在するプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を含浸し、外表面を研磨することにより金属複合材を製造する方法である。この方法によれば、多孔質状の珪酸塩化合物が均一に分散する金属複合材を、安定して成形することができる。そして、このように製造された金属複合材は、上述した本発明の作用効果を発揮するものである。
【0045】
上述した金属複合材の製造方法にあって、珪酸塩水和物が、ゼオライトである方法とした場合には、該ゼオライトが、その結晶中に結晶水が結合した微細空孔を有するものであり、さらに、優れた吸着性を有していることから、結晶水を除去して生成した微細空孔内に潤滑オイルを吸入して保持する作用が高く、上述した本発明の作用効果に優れた金属複合材を得ることができる。
【0046】
上述した金属複合材の製造方法にあって、焼結工程が、400℃以上かつ800℃以下の焼結温度により焼結するようにした方法にあっては、珪酸塩水和物の結晶水を除去し且つ該結晶水除去痕により生成された微細空孔を維持した珪酸塩化合物を有するプリフォームを安定して成形することができる。この方法によれば、上述した本発明の金属複合材を安定して製造することができ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の実施例を添付図面を用いて詳述する。
図1は、プリフォーム1を成形する工程を表している。また、図2は、ダイカスト成形工程によって、前記のプリフォーム1にアルミニウム合金の溶湯6を含浸して金属複合材10を成形する工程を表している。さらに、ダイカスト成形工程後には、図示しない研磨工程によって、所望の形状寸法に機械加工する。以下、このような各工程に従って、本発明にかかる金属複合材10を成形する過程について順次説明する。
【0048】
上記したプリフォーム成形工程は、混合工程(図1(A))、脱水工程(図1(B))、乾燥工程(図示省略)、焼結工程(図1(C))から構成されており、順次行われる。
【0049】
混合工程にあっては、図1(A)のように、所定の容器21内の水中に下記(i)〜(v)の各材料を入れて、攪拌棒31により攪拌して各材料を混合した混合水溶液8をつくる。
(i)アルミナ短繊維2(平均繊維径3μm、平均繊維長400μm)
(ii)ゼオライト3(モルデナイト系(化学成分;SiO2:68.9%,Al2O3:12.4%,Fe2O3:1.4%,MgO:0.2%,CaO:2.6%,Na2O:1.6%,K2O:2.2%,その他)、平均粒径10μm)
(iii)アルミナゾル4(濃度約30%のコロイド状水溶液)
(iv)ポリアクリルアミド5(濃度約10%の水溶液)
(v)ガラス粉末7(ほう珪酸硝子、軟化点500℃)
ここで、平均繊維径、平均繊維長、平均粒径は、それぞれ繊維径、繊維長、粒径の平均値であり、バラツキを有している。尚、アルミナ短繊維2が、本発明の強化材であり、アルミナゾル4が無機バインダーである。また、ポリアクリルアミド5が凝集剤であり、各材料を安定して接着する。また、ガラス粉末7は、焼結剤であり、焼結工程で各材料を焼結する。
【0050】
上記したゼオライト3の拡大写真を図3に示す。このゼオライト3は、珪酸塩水和物であって、その珪素原子の一部がアルミニウム原子に置き換えた構造を持つ、所謂アルミノ珪酸塩水和物である。このゼオライト3は、珪素とアルミニウムとが酸素を媒介して結合された多孔質状のアルミノ珪酸塩化合物3’(図4参照)と、結晶水とが結合した結晶構造をなし、該アルミノ珪酸塩化合物3’の微細孔内に結晶水が結合している。尚、このアルミノ珪酸塩化合物3’が、本発明にかかる珪酸塩化合物である。
【0051】
このゼオライト3は、加熱により結晶水を除去することによって、その結晶水除去痕により微細空孔が生成される。ここで、本実施例にあって、ゼオライト3は、天然に産出したモルデナイト系の鉱物を粉砕して細粒化したものを用いており、その粒径が0.2〜80μm(平均粒径10μm)のものである。尚、このゼオライト3の微細空孔は、その孔径が約5〜10オングストロームである。
【0052】
このような混合工程にあって、上記したアルミナ短繊維2は、その後の脱水工程および乾燥工程により成形した予備混合体9の体積率で5体積%以上かつ8体積%以下の添加量となるように調整している。また、ゼオライト3は、同じく予備混合体9の体積率で8体積%以上かつ12体積%以下の添加量となるように調整している。
【0053】
この混合工程によって、上記した(i)〜(v)の各材料が水中でほぼ均一に分散して存在している混合水溶液8を得る。
【0054】
次に、この混合水溶液8を吸引成形器22に移し、上述の脱水工程(図1(B))に移行する。この吸引成形器22には、内部をフィルター24により上下に区画され、その上部領域26aに混合水溶液8が流入される円筒形状の水溶液滞留部26と、この水溶液滞留部26の下方に設けられ、該水溶液滞留部26の下部領域26bと連通する水滞留部27と、この水滞留部27に接続され、該水滞留部27を経て、水溶液滞留部26から水分を吸引する真空ポンプ23とを備えている。
【0055】
脱水工程にあっては、吸引成形器22の水溶液滞留部26の上部領域26aに、上述の混合水溶液8を流入した後、真空ポンプ23を作動させることにより、該混合水溶液8の水分を、水滞留部27から水溶液滞留部26の下部領域26bを経て吸引する。これにより、混合水溶液8の水分がフィルター24を通過して流下し、上記した各材料が混合してなる円筒形状の予備混合体9を得る。さらに、この予備混合体9を吸引成形器22から取り出し、約100℃の乾燥炉等に入れ、充分に水分を除去する乾燥工程を行う(図示省略)。
【0056】
ここで、上記した脱水工程後の予備混合体9は、混合工程で各材料がほぼ均一に分散されて存在する混合水溶液8から成るものであるから、同様に各材料がほぼ均一に分散された状態となっている。すなわち、ゼオライト3も予備混合体9の全体に亘ってほぼ均一に分散して存在している。
【0057】
次に、上述した焼結工程(図1(C))に移行する。上記の予備混合体9を、加熱炉25内に設置されたテーブル32上に置く。そして、約600℃まで加熱して、約30分間保持する。この焼結工程では、焼結温度を約600℃という、比較的低い温度に設定している。これは、上記したゼオライト3の結晶水を完全に除去し、且つ、該結晶水除去痕により生成される微細空孔が無くならないようにするためである。詳述すれば、ゼオライト3は、通常、800℃を越える高温で加熱すると、当該ゼオライト3を構成するアルミノ珪酸塩化合物3’の結晶構造が変化してしまうため、結晶水除去痕である微細空孔が無くなってしまう。そのため、セラミック繊維やセラミック粒子等の強化材を焼結するために一般的に用いられる1000℃以上の高温では、アルミノ珪酸塩化合物3’がその多孔質状を維持できない。これに対して、600℃では焼結温度が低いことから、強化材同士が充分に焼結しないことが懸念されるため、本実施例にあっては、軟化点が約500℃のガラス粉末7を焼結剤として混合し、600℃まで加熱することによって、軟化したガラス粉末7により強化材同士を強固に結合するようにしている。
【0058】
この焼結工程によって、多孔質状のアルミノ珪酸塩化合物3’とアルミナ短繊維2とを混在する円筒状のプリフォーム1を成形する。このプリフォーム1は、図4のように、アルミナ短繊維2、アルミノ珪酸塩化合物3’がそれぞれほぼ均一に分散されており、夫々隣り合うもの同士が、上記したガラス粉末7の軟化やアルミナゾル4の結晶化によって、比較的強固に結合してなるものとなっている。ここで、アルミノ珪酸塩化合物3’は、上記したように、焼結温度による加熱によって、ゼオライト3の結晶水を除去し、その結晶水除去痕により生成される微細空孔を有する構成である。
【0059】
尚、上述したプリフォーム1を成形する工程にあっては、混合工程でゼオライト3を混合し、焼結工程で600℃の焼結温度により焼結した以外は、セラミック繊維やセラミック粒子を強化材とする、一般的なプリフォームの成形工程と同じである。
【0060】
このようなプリフォーム1に、上述したダイカスト成形工程で、アルミニウム合金の溶湯6を加圧含浸することにより、金属複合材10を成形する(図2参照)。ダイカスト成形装置33は、凸形状の上型34aと凹形状の下型34bとからなる金型34を備えており、該金型34が円筒状のキャビティ35を形成するものとなっている。このキャビティ35内に、円筒状に形成されたプリフォーム1が嵌入可能となっている。また、この金型34の下型34bには、スリープ37が接続される接続部(図示省略)と、該スリープ37が接続された場合に、スリープ37内の溶湯6がキャビティ35内に流入する湯口36とが設けられている。尚、上型34aと下型34bとが嵌め合わされた場合には、キャビティ35と湯口36とを連通する湯路39も形成されるようになっており、湯口36から流入した溶湯6は湯路39を通じてキャビティ35内へ流入する。
【0061】
ダイカスト成形工程では、先ず、プリフォーム1を約500℃で予熱すると共に、金型34を200〜250℃に保持しておく。そして、図2(A)のように、下型34bに予熱したプリフォーム1を配置して、上型34aを嵌め合わせる。これにより、金型34の円筒形状のキャビティ35にプリフォーム1が収容される。一方、金型34の下方位置に在って、プランジャーチップ38を退出位置(図示省略)としたスリーブ37に、約680℃に保持したアルミニウム合金の溶湯6を注入する。ここで、本実施例にあっては、アルミニウム合金に「JIS ADC12」を用いている。
【0062】
その後、図2(B)のように、スリープ37を昇動して、金型34の湯口36に該スリーブ37の上端部を接続する。そして、プランジャーチップ38を退避位置から所定駆動速度で進出駆動して、スリープ37内の溶湯6をキャビティ35内へ射出する。ここで、湯口36から流入する溶湯6を、約500atmの加圧力で射出するように、プランジャーチップ38の駆動速度を調整している。このようにして、アルミニウム合金の溶湯6を、キャビティ35内に配置したプリフォーム1へ加圧含浸する。
【0063】
そして、図2(C)のように、キャビティ35内に溶湯6が充填されると、プランジャーチップ38が停止して該溶湯6の注入が止まり、冷却後にスリーブ37を降動して金型34から取り外す。そして、金型34の上型34aと下型34bとを分離して、図2(D)のように、該金型34から金属複合材10を取り出す。この金属複合材10は、アルミニウム合金6’を母材として、アルミナ短繊維2とアルミノ珪酸塩化合物3’とが複合化されたものであり、アルミニウム合金6’の母材中に、アルミナ短繊維2とアルミノ珪酸塩化合物3’とがほぼ均一に分散している。そして、アルミノ珪酸塩化合物3’の微細空孔内には、アルミニウム合金6’が侵入していない。これは、上記したように、アルミノ珪酸塩化合物3’の微細空孔が約5〜10オングストロームという極めて微細な孔径であることから、アルミニウム合金の溶湯6が侵入できないためである。すなわち、金属複合材10に分散する全てのアルミノ珪酸塩化合物3’は、その多孔質状が維持されている。
【0064】
このようなダイカスト成形工程は、アルミニウム合金の溶湯6をプリフォーム1に加圧含浸する工程であり、本発明にかかる溶湯含浸工程を構成している。
【0065】
次に、上述したようにダイカスト成形工程で成形した金属複合材10を、フライス盤により切削加工する。この切削加工工程では、図2(D)のように、金型34から取り出した状態で湯口36及び湯路39により形成された部位を除去して、円筒形状とする。さらに、この金属複合材10の外周表面を切削することにより、該外周表面を機械研磨する(図示省略)。これにより、金属複合材10を所望寸法形状に整えている。すなわち、このフライス盤による切削加工工程により、本発明にかかる研磨工程が構成されている。
【0066】
このように金属複合材10の外周表面を切削加工することにより、図5のように、該外周表面に、多孔質状のアルミノ珪酸塩化合物3’が露出する。外周表面に露出したアルミノ珪酸塩化合物3’は、その微細空孔が開口しており、該微細空孔内にアルミニウム合金6’が侵入していない。このように、外周表面を切削加工すると、該金属複合材10内に分散されているアルミノ珪酸塩化合物3’のなかで、外周表面付近に存在するものが露出し、その微細空孔が外周表面で開口する。
【0067】
尚、本実施例にあっては、円筒形状の外周表面を切削加工(研磨)することにより所望の金属複合材10を製造していることから、この外周表面が、本発明にかかる外表面となっている。
【0068】
次に、このように成形した金属複合材10のオイル保持性を測定する試験を実施した。このオイル保持性の測定試験は、金属複合材10の外周表面を30mm×40mmの長方形とするように切り出した矩形状の試験片を準備し、該試験片の外周表面に、自動車用のエンジンオイル(潤滑オイル)を塗布し、塗布前後の重量増加を測定する。ここで、エンジンオイルを塗布した後は、10分間放置し、外周表面を布で拭き取る作業を行う。この拭き取り作業は、測定した重量が安定するまで繰り返し行う。そして、安定した重量から得た増加分が、オイルの保持量を表しており、これに従って保持性を評価している。
【0069】
このオイル保持性の測定試験は、比較例として、ゼオライト3に換えてホウ酸アルミニウム粒子を添加した構成、およびアルミニウム合金のみで成形した構成についても実施した。ここで、比較例の、ホウ酸アルミニウム粒子を添加した構成としては、平均粒径40μmのホウ酸アルミニウム粒子(9Al・2B)を、乾燥工程後の予備混合体9の体積率で8体積%以上かつ12体積%以下の添加量となるように調整して、混合工程で添加する。そして、上述した実施例と同様に、プリフォーム成形工程によりプリフォームを成形した後、アルミニウム合金の溶湯を含浸し、研磨工程を経て、比較例の金属複合材を成形した。尚、この比較例は、ゼオライト3に換えて、ホウ酸アルミニウム粒子を添加した以外は、上述した実施例と同様の製造工程により成形している。そのため、ホウ酸アルミニウム粒子が多孔質状であっても、ダイカスト成形工程でアルミニウム合金の溶湯6が侵入してしまい、多孔質状を維持できていない。
【0070】
オイル保持性の測定結果を図6に示す。この結果から、実施例の金属複合材10から切り出した試験片では、優れたオイル保持性を有していることが明らかである。これは、エンジンオイルが、金属複合材10の外周表面に露出したアルミノ珪酸塩化合物3’の微細空孔内に吸入して保持されているためであると言える。そして、このアルミノ珪酸塩化合物3’は、上述したように、ゼオライト3の結晶水を除去して生成されたものであり、優れた吸着性を有していることから、その極小さい微細空孔内に、エンジンオイルを吸入して保持する効果が高い。
【0071】
一方、比較例のホウ酸アルミニウム粒子を有する構成では、オイル保持性をほとんど有していない。これは、外表面に露出したホウ酸アルミニウム粒子に、その空孔内までアルミニウム合金6’が侵入してしまっているためであり、該空孔が、上記したアルミノ珪酸塩化合物3’に比して大きいことから、アルミニウム合金の溶湯が容易に侵入できることが原因である。また、アルミニウム合金のみからなる比較例の試験片では、オイル保持量が0であり、エンジンオイルの保持性を全く有していない。以上のことからも、本実施例の構成が、優れたオイル保持性を有していることが明らかである。
【0072】
上述したように、本実施例の金属複合材10は、その外周表面に露出したアルミノ珪酸塩化合物3’の微細空孔内に潤滑オイルを保持することができるものであるから、シリンダ等の摺動部材に適用することにより、高い耐摩耗性を発揮することが可能である。すなわち、本実施例と同様に成形した金属複合材10から所望の摺動部材を形成し、その摺動面を、上記の外周表面と同様に研磨する。このように製造した摺動部材は、その摺動面に、多孔質状を維持したアルミノ珪酸塩化合物3’が露出形成されたものとなる。
【0073】
そして、摺動部材としてエンジンのシリンダやピストンを、本実施例の金属複合材10により形成した場合には、この摺動部材はエンジンオイル中で摺動することから、その摺動面に露出したアルミノ珪酸塩化合物3’の微細空孔内にエンジンオイルが吸入して保持される。そして、摺動が繰り返されるに従って、珪酸塩化合物の微細空孔内に保持したエンジンオイルが徐々に滲み出てくる。そのため、摺動部材の周囲に存在するエンジンオイルが、摺動を繰り返すことによって徐々に劣化しても、珪酸塩化合物の微細空孔内から滲み出たエンジンオイルにより、該摺動部材の摩耗を抑制することができる。
【0074】
さらに、シリンダやピストンは一般的に上下方向に配されることから、エンジンを比較的長期間駆動していない場合には、エンジン内のエンジンオイルが重力により下方へ流れてしまい、シリンダとピストンとの間にエンジンオイルが偏在している状態となってしまう。このような状態でエンジンを駆動開始しても、本実施例の構成の場合、摺動開始に伴って、摺動面に露出したアルミノ珪酸塩化合物3’の微細空孔内にからエンジンオイルが滲み出てくるため、摺動初期から所望の耐摩耗性を発揮できる。そのため、摺動面のアルミニウム合金6’と相手材との間で焼き付きが発生することを防止できる。そして、所望の耐摩耗性を維持する摺動寿命を向上することができる。
【0075】
以上のように、本実施例の金属複合材10により構成したシリンダやピストンは、所望の耐摩耗性を維持できる摺動寿命が延び、耐久性が著しく向上する。
【0076】
また、このような金属複合材10にあって、そのアルミノ珪酸塩化合物3’は、上記したように、その微細空孔にアルミニウム合金6’が侵入していない。そのため、全てのアルミノ珪酸塩化合物3’の各微細空孔が維持されている。そのため、外周表面の研磨により露出したアルミノ珪酸塩化合物3’によって、上記したオイル保持性を安定して発揮することができ得る。すなわち、上記したシリンダ等の摺動部材に適用した場合にあっても、本発明にかかる作用効果が安定して発揮されるため、高い品質のものを安定供給することが可能である。
【0077】
上述した実施例にあっては、ゼオライトとして、モルデナイト系の鉱石を用いた構成であるが、これに限らず、クリノプチライト系など様々な種類のものを用いることができる。さらに、ゼオライトは、天然に産出した鉱石だけでなく、人工的につくられたものを用いることも可能である。また、ゼオライトの他に、珪酸塩水和物としてカオリンを用いることもできる。ここで、カオリンは、含水珪酸アルミニウムを主成分とする粘土鉱物である。このカオリンを用いても、ゼオライトと同様に、オイル保持性に優れた金属複合材を得ることができ得る。
【0078】
さらに、珪酸塩水和物として、例えば、ムライト系のアルミナ短繊維、シリカ粒子、シリカゾルなどを用いることもできる。ここで、上記の実施例にあって、ゼオライトに換えてシリカ粒子を混合した構成、シリカゾルを混合した構成について、それぞれ同様の製造方法に従って夫々の金属複合材を成形した。ここで、シリカ粒子は、平均粒径20μmであり、その予備混合体に対して10体積%とするように混合している。一方、シリカゾルは、濃度約40%のコロイド状水溶液であり、平均粒径80nmのシリカ粒子を含有している。このシリカゾルを、アルミナ短繊維2に対して0.3重量比となるように混合している。そして、これらの金属複合材について、上記したオイル保持性の測定試験を実施した。この結果を、図6に並記する。シリカ粒子、シリカゾルを混合した両構成とも、アルミニウム合金のみのものに比して、オイル保持性が高くなることがわかった。これにより、これら構成にあっても、摺動部材に適用して、摺動寿命を向上することができ得る。
【0079】
本発明にあっては、上述した実施例に限定されるものではなく、その他の構成についても、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更可能である。例えば、強化材として、アルミナ短繊維の他に、炭素繊維やガラス繊維を用いることも可能であり、さらに短繊維の他に粒子やウィスカを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例のプリフォーム1を成形するプリフォーム成形工程を表す説明図である。
【図2】同上のプリフォーム成形工程で成形したプリフォーム1から、ダイカスト成形工程および切削加工工程により金属複合材10を成形する工程を表す説明図である。
【図3】(A)ゼオライト3の拡大写真と、(B)(A)におけるX部分をさらに拡大した写真である。
【図4】(A)本実施例のプリフォーム1の拡大写真と、(B)(A)におけるY部分をさらに拡大した写真である。
【図5】本実施例の金属複合材10の外周表面の拡大写真である。
【図6】実施例の金属複合材10の、オイル保持性を測定した結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0081】
1 プリフォーム
2 アルミナ短繊維(強化材)
3 ゼオライト(珪酸塩水和物)
3’ アルミノ珪酸塩化合物(珪酸塩化合物)
6 アルミニウム合金の溶湯(金属の溶湯)
6’ アルミニウム合金(金属母材)
8 混合水溶液
9 予備混合体
10 金属複合材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸塩水和物からその結晶水を除去してなる多孔質状の珪酸塩化合物が、金属母材内に分散されており、外表面に、多孔質状の珪酸塩化合物が露出されてなるものであることを特徴とする金属複合材。
【請求項2】
焼結により珪酸塩水和物中の結晶水が除去されて、その結晶水除去痕により生成される微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、所定の強化材とが混在してなるプリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸したものであり、
外表面の研磨により、多孔質状を維持した珪酸塩化合物が露出されてなることを特徴とする請求項1に記載の金属複合材。
【請求項3】
珪酸塩水和物が、ゼオライトであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属複合材。
【請求項4】
珪酸塩水和物の結晶水を除去し且つ該結晶水除去痕により生成される微細空孔を維持する所定の焼結温度で焼結することにより、該微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、所定の強化材とが混在するプリフォームを成形し、
該プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸し、外表面を研磨することにより、多孔質状を維持した珪酸塩化合物が露出する金属複合材を成形するようにしていることを特徴とする金属複合材の製造方法。
【請求項5】
珪酸塩水和物と所定の強化材とを水中で混ぜて混合水溶液を調合する混合工程と、
該混合水溶液から水分を除去して、予備混合体を形成する脱水工程と、
該予備混合体を、前記珪酸塩水和物の結晶水を除去し且つ該結晶水除去痕により生成される微細空孔を維持する所定の焼結温度で焼結することにより、該微細空孔を有する多孔質状の珪酸塩化合物と、前記強化材とが混在するプリフォームを成形する焼結工程と、
該プリフォームに、金属の溶湯を加圧鋳造により含浸する溶湯含浸工程と、
外表面を研磨することにより、多孔質状の珪酸塩化合物を露出する研磨工程と
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項6】
珪酸塩水和物が、ゼオライトであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項7】
焼結工程が、400℃以上かつ800℃以下の焼結温度により焼結するようにしていることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の金属複合材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−209418(P2009−209418A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54308(P2008−54308)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】