説明

金属超微粉スラリー

【課題】導電ペースト作製工程における省力化、処理時間の短縮化を図ることができ、また、超微粒子の凝集を防止することで凝集粒子が存在しない、分散性および乾燥膜密度に優れる金属超微粉スラリーの提供。
【解決手段】有機溶媒と、界面活性剤と、金属超微粉とを含有する金属超微粉スラリーであって、前記界面活性剤が、オレオイルサルコシンであり、前記金属超微粉スラリー中に、前記金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有し、前記界面活性剤を前記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2.0質量部未満含有する金属超微粉スラリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属超微粉スラリーに関し、より詳しくは導電ペーストフィラや積層セラミックコンデンサの内部電極用に用いられる分散性に優れた金属超微粉スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられるニッケル超微粉等の金属超微粉として、例えば、平均粒径が0.1〜1.0μmで粒子形状がほぼ球形の純度の高い金属粉に、有機樹脂等のバインダを加えてペースト化されたものが用いられている。ぺースト化された金属超微粉をスクリーン印刷等によりセラミックグリーンシート上に薄層に塗布し、塗布後のセラミックグリーンシートを数百にも積層することで積層体(内部電極層)が形成され、さらに、脱脂工程、焼結工程、焼成工程を経て積層セラミックコンデンサが作成される。ここで、平均粒径は、個数基準分布の体面積平均径(d3)を示すものである。
【0003】
最近の積層セラミックコンデンサは、小型で大容量化を達成させるために、内部電極層を伴ったセラミックグリーンシートの積層数を数百から1000層程度にまで増加させることが要求されており、この技術を完成させるために、内部電極層の厚みを従来の3μmであるものから1.5μm以下にする検討がなされてきている。
また、金属超微粉の分散性が悪く、塊状物等の凝集体が存在すると、セラミックシート層を突き抜けてしまうため電極が短絡した不良品となり、また、たとえ突き抜けない場合であっても、電極間距離が短くなることで部分的な電流集中が発生するため積層セラミックコンデンサの寿命劣化の原因となっていた。
そのため、内部電極層の材料である金属超微粉の粒度分布のD90は、できる限り小さいことが望まれている。ここで、「粒度分布(D90)」とは、体積基準の積算分率で90%(D90)に相当する粒子径のことをいう。
【0004】
従来の化学気相法(CVD(chemical vapor deposition))による金属超微粉の製造工程(図2)では、精製のための湿式洗浄工程である金属粉精製工程(金属水スラリー)21で、金属超微粉の原料である金属塩化物の残留分を除去・精製して金属水スラリーを得た後に、金属粉乾燥工程22を経て金属超微粉製品(乾燥粉23)を生成している。
しかしながら、上記金属粉乾燥工程22においては、液体架橋による力および粒子間に作用するファンデルワールス力を原因とする乾燥凝集が不可避的に起こるため、有機溶媒への分散24が不十分となる問題があった。
また、上記金属粉乾燥工程22では、金属超微粉粒子表面に金属水酸化物が生成するため、金属超微粉は有機溶媒に対して十分な濡れ性(親油性)が得られず、乾燥粉23の有機溶媒への分散24においても、有機溶媒に濡れにくい金属超微粉同士による凝集が起こるという問題もあった。
そのため、ボールミル分散処理、超音波分散処理、ロールミル分散処理などの数種類の分散処理25を組み合わせて実施しているが、金属粉乾燥工程22を経た金属超微粉は分散処理25工程でも凝集しやすく分散性に劣り、従来の乾燥粉からの分散処理では金属超微粉含有量が50質量%程度のペーストを得られるのが限界であった。
【0005】
一般的に、ユーザーには乾燥粉23が納入される。そのため使用に際しては、ユーザー側で、まず乾燥粉23を有機溶媒に分散24し、最終的に粘度調整27を施してペースト化している。
そのため、上述した金属粉乾燥工程22で発生した凝集粒子および有機溶媒への分散24で生じた凝集粒子を破壊するためには、ボールミル分散処理、超音波分散処理、ロールミル分散処理等を組み合わせた分散処理25やろ過処理26等の複雑な処理が別途必要となり、多大の手間と時間を要するという問題があった。
したがって、金属超微粉の乾燥製品23は、凝集粒子のない、分散性の良好なものが要求されている。
【0006】
かかる要求を満たす超微粉ニッケル粉末分散体に関する技術として、特許文献1には、「平均粒径1μm以下の超微粉ニッケル粉末と水溶媒からなる水分散体に、有機溶媒を添加し、この有機溶媒によって上記水溶媒を少なくとも部分的に置換し、次いで極性溶媒を添加してニッケル粉末が処理されていることを特徴とするニッケル粉末分散体」が記載されている。
特許文献1に記載の発明においては、ニッケル粉末水分散体を形成する際、炭酸水溶液で処理を行うことが望ましいとしており、炭酸水溶液中でニッケル粉末を処理することにより、ニッケル粉末表面に付着あるいは吸着した水酸化物が除去され、その結果としてニッケル粉末の分散性がさらに向上すると記載されている。また、その理由として、ニッケル粉末の表面に水酸化物が吸着していると、OH基の極性により粉末どうしが互いに引き合うとともに、親水性(懸濁性)が低下し、その結果、ニッケル粉末が凝集し易くなると推測している。
また、特許文献1に記載の発明においては、有機溶媒による水置換において、界面活性剤を添加したのちに有機溶剤を添加し、その後静置して水をデカンテーションにて分離し、更に50〜150℃に加温して水分を除去する方法が記載されている。また、界面活性剤として数多くのものが例示されており、界面活性剤の添加により有機溶媒による水溶媒の置換が容易になるとともに、最終的に優れたペースト特性を発揮すると記載されている。さらに、HLB(親水親油バランス)価が通常3〜20である非イオン性界面活性剤が好ましく用いられると記載されている。
【0007】
一方、上述した要求を満たす他の技術として、本発明者は、「有機溶媒と、親水基と親油基を有する界面活性剤を含有する金属超微粉スラリーであって、60質量%超え、95質量%未満の金属超微粉を含み前記界面活性剤の親水基がスルホナト基、スルホ基、スルホニルジオキシ基、ポリオキシエチレン基とカルボキシル基またはポリオキシエチレン基とリン酸基であり、親油基が炭素数が12以上のアルキル基またはアルキルフェニル基であることを特徴とする分散性に優れた金属超微粉スラリー」を提案している(特許文献2参照。)。
【0008】
特許文献1に記載の発明では、有機溶媒への置換方法は重力差を用いた分離、つまり、重力差という物理的操作と水分の蒸発除去操作であるため、デカンテーション操作、乾燥処理等が必要であり、具体的には、特許文献1に記載の実施例1のように、ニッケル粉末1kgに対して、120℃で16時間、さらに100℃で48時間の乾燥処理を実施する必要があることから、導電ペースト作製工程における省力化、処理時間の短縮化に改善する余地があった。
【0009】
一方、上記特許文献2に記載の発明によれば、分散性の優れた金属超微粉スラリーを提供することは可能であるが、導電ペーストの品質等の要求特性の向上に伴い、金属超微粉スラリー自体の特性(特に、分散性、塗布後の乾燥膜密度)をより向上させる必要が生じてきた。すなわち、乾燥膜密度が低くなると、焼成した際に電極膜の収縮量が大きくなる。その結果、電極膜の途切れを生じることにより、有効電極面積(被覆面積)が減少して所定の電気容量値が得られない。これは製品の歩留まりの低下にもなる。
【0010】
最近における技術開発動向としては、積層セラミックコンデンサの電気容量の高容量化を志向している。高容量化の達成のためには、電極膜の薄層化技術が必須となっている。電極膜の薄層化により、1層当たりの金属粒子の重なりは従来の約1/3となる4〜8個となってきている。
従来の積層セラミックコンデンサでは、各層の厚み方向の粒子の重なりによって、焼成後の有効電極面積を確保していたが、薄層化した場合に同様の原理で焼成後の有効電極密度を確保することは困難である。したがって、薄層化した場合、塗布後の乾燥膜密度、すなわち、粒子密度を高くすることによって、焼成後の有効電極密度を確保することが必要となる。
【0011】
【特許文献1】特開2003−342607号公報
【特許文献2】特開2004−158397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、導電ペースト作製工程における省力化、処理時間の短縮化を図ることができ、また、超微粒子の凝集を防止することで凝集粒子が存在しない、分散性および塗布後の乾燥膜密度に優れる金属超微粉スラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、炭酸ガスまたは炭酸水溶液でのpH調整を実施せずに、未中和で酸型の界面活性剤であるオレオイルサルコシン
(Oleoyl sarcosine)(化学式:C1733CON(CH3)CH2COOH)を用いた界面化学反応(中和反応)による有機溶媒置換を利用することにより、導電ペースト作製工程における省力化、処理時間の短縮化を図ることができ、また、得られる金属超微粉スラリーに凝集粒子が存在せず、分散性および乾燥膜密度に優れることを見出し、本発明を達成するに至った。これは、オレオイルサルコシンを用いた界面化学反応(中和反応)を利用しているため反応完了後の生成物が金属超微粉スラリーとして回収されるため、デカンテーション操作、乾燥処理等が必要なくなるという新たな知見と、オレオイルサルコシンが金属超微粉の表面に存在する水酸化物を除去すると同時に該金属超微粉の表面に吸着して、金属微粉粒子同士の凝集を防止することができるとういう新たな知見に基づくものである。
ここで、一般のイオン性活性剤が原料である酸をアルカリで中和させた塩タイプであるのに対し、「未中和の酸型」とは、中和させていない酸を原料としていることを示す。
【0014】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)に示す金属超微粉スラリーを提供するものである。
【0015】
(1)有機溶媒と、界面活性剤と、金属超微粉とを含有する金属超微粉スラリーであって、
上記界面活性剤が、オレオイルサルコシンであり、
上記金属超微粉スラリー中に、上記金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有し、
上記界面活性剤を上記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2.0質量部未満含有する金属超微粉スラリー。
【0016】
(2)上記金属超微粉の粒度分布D90の値が1.2μm未満であり、平均粒径である粒度分布D50の値が0.1〜1.0μmである上記(1)に記載の金属超微粉スラリー。
【0017】
(3)上記金属超微粉が、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルト(Co)およびタンタル(Ta)からなる群より選択される1種からなる上記(1)または(2)に記載の金属超微粉スラリー。
【0018】
(4)上記金属超微粉が、ニッケルに、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)およびカルシウム(Ca)からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有させたニッケル合金からなる上記(1)または(2)に記載の金属超微粉スラリー。
【0019】
(5)金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有し、
オレオイルサルコシンを前記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超、2質量部未満含有し、
残部が有機溶媒である金属超微粉スラリー。
【0020】
なお、本発明において「粒度分布(D90)」とは、JIS R 1629−1997「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に倣い、体積基準の積算分率で90%(D90)に相当する粒子径を意味する。また、「粒度分布D50」とは、体積基準の積算分率で50%に相当する粒子径を意味し、金属超微粉の平均粒径を表すものとして一般に用いられている。以下、本明細書において、「平均粒径D50」とする。
【発明の効果】
【0021】
以下に説明するように、本発明によれば、金属超微粉の含有量が著しく高く、超微粒子の凝集を防止することで凝集粒子が存在しない、分散性および塗布後の乾燥膜密度に優れる金属超微粉スラリーを提供することができる。また、この金属超微粉スラリーは、導電ペースト作製工程における省力化、処理時間の短縮化を図ることができ、さらに乾燥粉による粉塵を吸い込む作業の危険性がなくなるので、作業環境性にも優れており、安全衛生上の価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の金属超微粉スラリーは、有機溶媒と、界面活性剤と、金属超微粉とを含有する金属超微粉スラリーであって、上記界面活性剤が、オレオイルサルコシンであり、上記金属超微粉スラリー中に、上記金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有し、上記界面活性剤を上記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2質量部未満含有する金属超微粉スラリーであり、好ましくは、上記金属超微粉の粒度分布D90の値が1.2μm未満であり、平均粒径D50の値が0.1〜1.0μmである。
【0023】
以下に、本発明の金属超微粉スラリーを製造する工程を図1を用いて説明するが、本発明の金属超微粉スラリーの製造工程はこれに限定されない。
図1は、本発明の金属超微粉スラリーを製造する工程の一例を示すフローである。金属超微粉精製工程(金属水スラリー)11は、図2に示す従来の化学気相法による金属超微粉の製造工程における金属粉精製工程21と同様である。
【0024】
本発明の金属超微粉スラリーを製造する金属超微粉スラリー製造工程10では、金属粉乾燥工程(図2の22)を設けることなく、金属超微粉水スラリーの水を有機溶媒と直接置換する有機溶媒置換工程12に移行する。
【0025】
具体的には、例えば、まず金属超微粉水スラリー(金属超微粉濃度:50質量%)に界面活性剤(オレオイルサルコシン)を金属超微粉100質量部に対して0.3質量部添加したものを、プロセスホモジナイザー等を用いた分散処理を所定時間実施して、水中における金属超微粉の凝集体を一次粒子にまで分散させた後に、有機溶媒として、例えばターピネオールを金属超微粉100質量部に対して10質量部添加する。
次に、ターピネオールを添加した混合溶液を、温度15℃±5℃で所定時間、プロセスホモジナイザー等で混合処理を実施する。この混合処理により、金属超微粉の表面に吸着させたオレオイルサルコシンにターピネオールが吸着されることでターピネオール層が形成され、金属超微粉の周りにある水がターピネオールに置換される。
【0026】
金属超微粉を含むターピネオール層が連続相になることで有機溶媒置換工程12が完了し、金属超微粉とターピネオールとオレオイルサルコシンとからなる金属超微粉のターピネオールスラリーが沈殿物となる。置換された水は上澄み液として直ちに(静置することなく)分離され、上澄み液の排水により金属超微粉含有量が90質量%の金属超微粉ターピネオールスラリー(金属超微粉有機溶媒スラリー13)が得られる。
【0027】
この金属超微粉有機溶媒スラリー13は、乾燥工程を経ていないので、従来技術と異なり凝集粒子を含まない。添加する有機溶媒量を調整することで、金属超微粉の含有量が70質量%以上95質量%以下のものを得ることができる。
また、この金属超微粉有機溶媒スラリー13は、この状態で導電ペースト用の金属原料となる。そのため、ユーザーでの導電ペースト作製工程では、粘度調整14で必要量のバインダー樹脂(例えば、エチルセルロース)溶液を添加することで導電ペーストが得られるため、従来のような複雑な分散処理、ろ過処理等(図2の25、26等)の処理を省略することができる。また、このように導電ペーストの金属原料が乾燥粉から金属超微粉有機溶媒スラリーとなるため、乾燥粉による粉塵発生の危険性がなくなることで作業環境が改善できる。
【0028】
以下に、本発明の金属超微粉スラリーを構成する金属超微粉、界面活性剤および有機溶媒について詳述する。
【0029】
(1)金属超微粉の金属、もしくは合金の種類
本発明に用いる金属超微粉は、平均粒径D50が0.1〜1.0μm金属もしくは合金からなるものであれば特に限定されず、粒子形状がほぼ球形であるのが好ましい。ここで、粒子形状がほぼ球形と言った場合、粒子の最大長と最小幅との比、すなわち、最大長を最小幅で除した値(アスペクト比=最大長/最小幅)が1以上1.8未満であることを意味する。なお、アスペクト比の測定は、走査型電子顕微鏡で観察し、視野内のサンプル数500個について、個々の粒子のアスペクト比を求め、これらを平均することによって求めた。
【0030】
このような金属もしくは合金の種類としては、具体的には、例えば、ニッケル、銅、銀、モリブデン、タングステン、コバルト、タンタル等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、ニッケル、銅、銀、タンタルを用いるのが電気伝導性が優れる理由から好ましい。
特に、合金としては、ニッケルに、バナジウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、マグネシウム、チタン、バリウムおよびカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を、Ni粒子100質量部に対して、合計で0.03質量部以上10質量部以下含有させたニッケル合金を用いるのがペースト化した後に塗布した状態での熱収縮が小さい理由から好ましい。
【0031】
このような金属もしくは合金からなる金属超微粉は、気相法や液相法など公知の方法により製造することができる。特に、金属塩化物を気化後、H2などで還元して金属粉を得る化学的気相反応で製造することが好ましい。化学的気相反応による製造であれば、生成する金属粉の粒子径を容易に制御することができ、さらに球状の粒子が効率よく製造することができる。
【0032】
(2)金属超微粉の含有量:70質量%以上95質量%以下
本発明においては、上記金属超微粉スラリー中に、上記金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有する。金属超微粉の含有量をこのような著しく高い範囲にすることができるのは、金属超微粉の1つ1つの表面に有機溶媒の皮膜が形成されているためであると考えられる。従来、金属超微粉と、有機溶媒と、界面活性剤と、から成るスラリーは、ペースト製造工程中に中間品として存在するが、金属超微粉の含有量は50質量%程度以下のものであった。乾燥膜密度を向上させる観点からは、さらに多量の金属超微粉を含有するスラリーが望ましいが、金属超微粉を多量に含有させようとした場合、複雑な処理を行ったとしても、スラリー中に生じた金属超微粉の凝集物を破壊し、分散性を確保することが困難であった。このような凝集が生じたスラリーを導電ペースト用金属原料に用いて、セラミックコンデンサを製造した場合、適切な性能のセラミックコンデンサを得ることが困難になる。
【0033】
すなわち、金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有しているにもかかわらず、分散性に優れ、塗布後の乾燥膜密度を向上することができる金属スラリーは、従来得ることができず、本発明によって初めて実現したものである。
本発明によれば、金属超微粉を凝集粒子のない実質的に一次粒子の状態で有機溶媒中に分散させることができる。スラリー中において、金属超微粉は緻密で均一なマトリックスを形成する。
【0034】
金属超微粉の含有量の範囲が70質量%以上95質量%以下であれば、得られる本発明の金属超微粉スラリーを用いた導電ペーストの乾燥膜密度を高くすることが可能となり、また、有機溶媒の添加量も有機溶媒層を形成するのに十分な量となり、金属超微粉粒子の凝集体の生成を抑制することができる。
金属超微粉の含有量が70質量%未満である場合、金属粒子間に有機溶媒量が局所的に多くなる部分が存在する。このため、スラリー中で金属超微粉が形成するマトリックスが不均一となり、塗布後の乾燥膜密度が低下する。金属超微粉の含有量が95質量%を超える場合、有機溶媒の量が、金属超微粉の周りに吸着して、有機溶媒層を形成するには不十分な量となるため、局所的に金属超微粉粒子の凝集体が形成してしまう。この場合も、スラリー中で金属超微粉が形成するマトリックスが不均一となり、塗布後の乾燥膜密度が低下する。金属超微粉の含有量は、80質量%超、93質量%未満であることが好ましい。
なお、金属超微粉の含有量は、有機溶媒の添加量の調整により行うことができる。
【0035】
(3)金属超微粉の粒度分布D90(1.2μm未満)および平均粒径D50(0.1〜1.0μm)
また、本発明においては、上記金属超微粉の粒度分布D90の値が、1.2μm未満であるのが好ましく、1.0μm未満であるのがより好ましい。
ここで、粒度分布D90とは、レーザー粒度分析計を用いて測定した金属超微粉の有機溶媒スラリーの粒度分布のうち、体積基準の積算分率における90%の粒子径のことをいい、レーザー粒度分析計は有機溶媒中の金属粒子の分散状態を評価するのに広く用いられている。
上記金属超微粉の粒度分布D90の値が、1.2μm未満であれば、分散性がよく、緻密で平滑な電極膜が形成されるため、優れたセラミックコンデンサを得ることができる。なお、電極膜の突起物を軽減させる観点からは、D90の値が1.0μm未満であることが好ましい。
【0036】
また、本発明においては、上記金属超微粉の平均粒径D50の値が、0.1〜1.0μmであるのが好ましい。
一般に粒度分布D90を小さくするためには、平均粒径D50が小さい粒子を用いたほうが好ましい。平均粒径D50が1.0μm未満の金属粒子を用いた場合、一般に粒度分布D90が1.2μm未満となる。さらに、電極膜の突起物を軽減させる観点からは、平均粒径D50の値が0.61μm以下であることが好ましい。平均粒径D50が0.1μm未満の金属粒子は、表面活性が高くなるため、実用的ではないと考えられる。しかしながら、何らかの手段で表面活性を抑制することができた場合、本発明に適用することができる。
【0037】
(4)界面活性剤:オレオイルサルコシン
本発明に用いる界面活性剤は、未中和で酸型の界面活性剤であるオレオイルサルコシンである。
本発明において、未中和で酸型の界面活性剤に求められる特性、および、特にオレオイルサルコシンを用いる理由を、Ni超微粉の例にとり以下に説明する。なお、Ni以外の金属超微粉であっても同様の機構による説明することができる。
【0038】
水分散媒中のNi超微粉の表面状態は、酸化皮膜が存在する部分と金属Niが存在する部分がある。また、Ni超微粉粒子表面には、生成メカニズムの違いから以下に示す2種類の親水性OH基が存在していると考えられている。
(1)Ni超微粉粒子表面に水分子が吸着した後にプロトン(H+)を放出する、すなわち、脱プロトン化することで生成するOH基
(2)Ni超微粉粒子表面でイオン化された金属イオンと水分子とが化合することで生成するNi水酸化物に由来のOH基
【0039】
ここで、上記Ni水酸化物の生成機構を詳細に説明する。Ni超微粉粒子表面から溶出したNiイオンは、水分子を配位子として含む組成の水和イオンとなる。ついで脱プロトン化により、ヒドロキシイオンが生成される。このヒドロキシイオンを介して隣接するNi原子同士が結合して、複核錯イオンを作る。この複核錯イオンの脱プロトン化および隣接する複核錯イオン同士の結合により、Ni水酸化物がNi超微粉粒子表面に形成される。このNi水酸化物の分子構造には、配位子として親水性OH基と水分子が存在する。この親水性OH基の効果と水分子の存在のため、溶媒である水との親和性が向上すると考えられる。つまり、水中に分散されたNi超微粉粒子表面には、水とよくなじむ構造体、すなわち、親水性OH基が存在していると考えられる。
そのため、金属水スラリー中の水を水と相溶しない有機溶媒に置換するためには、Ni超微粉粒子表面に存在する上記(1)および(2)に記載のOH基を除去する必要がある。
したがって、界面活性剤には、Ni超微粉粒子表面に存在するOH基をプロトン(H+)で中和し、Ni水酸化物を水中に溶解させることで、OH基をNi超微粉粒子表面から除去する作用が要求されており、また、OH基を除去した後のNi超微粉粒子表面に吸着することで、Ni超微粉同士の凝集を防止するための立体障害物として作用することも要求される。
【0040】
ここで、有機溶媒に置換された後に、Ni超微粉粒子表面に水酸化物が残存するNi超微粉が複数個存在すると、該Ni超微粉は有機溶媒と親和性がないため、該Ni超微粉同士が水媒体(有機溶剤に置換された後に残存する水分)で凝集し、分散性が劣化することになる。
本発明は、上述した作用(要求)を満たす界面活性剤として、未中和の酸型のものでなければならないという新たな知見に基づくものであり、例えば、背景技術に記載した特許文献1および2に記載されている界面活性剤では、Ni超微粉粒子表面のOH基を完全に中和させることはできず、有機溶剤に置換された後に水分が多く残存するため、凝集体が形成し、分散性に劣るものとなる。
また、本発明は、未中和の酸型の界面活性剤のうちでも、特にオレオイルサルコシンを用いることにより、得られる金属超微粉スラリーが分散性のみならず乾燥膜密度も良好になるという全く新しい知見に基づくものである。
【0041】
未中和の酸型の界面活性剤のうちでも、特にオレオイルサルコシンを用いることにより、得られる金属超微粉スラリーが分散性のみならず、塗布後の乾燥膜密度も良好になる理由は、明らかではないが、以下のように考えられる。
表1に異なる種類の界面活性剤(未中和の酸型の界面活性剤)を用いて、金属スラリーの粘度を比較した実験データを示した。なお、表1中、実験例1は後に示す実施例1に対応する。また、実験例2〜4は、それぞれ後に示す比較例5〜7に対応する。表1中の用語については、後に示す実施例を参照することとした。なお、金属スラリーの粘度測定は、ブルックフィールド社製回転粘度計で測定した。なお、測定温度は20℃とした。回転数10rpmとした。
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、オレオイルサルコシンを界面活性剤として使用した実験例1の場合、他の未中和の酸型の界面活性剤を用いた実験例2〜4に比べて、金属スラリーの粘度が大幅に低くなっている。金属微粉を高濃度で含有する金属スラリーにおいては、金属スラリーの粘度が低いことが分散性に優れていることの指標となっている。このため、表1の結果は、オレオイルサルコシンを界面活性剤として使用した実験例1の金属スラリーが、他の未中和の酸型の界面活性剤を使用した実験例2〜4の金属スラリーに比べて分散性に優れていることを示している。
【0043】
実験例2〜4に比べて、実験例1の金属スラリーの粘度が大幅に低くなっているのは、実験例1の場合、Ni金属粒子にオレオイルサルコシンが吸着することによって、Ni金属粒子間の摩擦力を低下させる作用が生じたことによると考えられる。オレオイルサルコシンを界面活性剤とした場合にこのような作用が生じるのは、オレオイルサルコシンと他の未中和の酸型の界面活性剤とは、その化学構造の違いにより、Ni金属粒子への吸着形態が異なるためと考えられる。オレオイルサルコシンを使用した場合、カルボニル基(C=O)と窒素原子の不対電子対が吸着点として有効に作用するので、親油性の官能基である(C1733−)が有機溶媒を吸着させて、Ni金属粒子表面に均一な有機溶媒皮膜を形成させると考えられる。
【0044】
また、表1から明らかなように、オレオイルサルコシンを界面活性剤として使用した実験例1の場合、他の未中和の酸型の界面活性剤を用いた実験例2〜4に比べて乾燥膜密度が高くなっている。
これは、Ni金属粒子間の摩擦力を低下させる作用によって、乾燥膜形成時にNi金属粒子が移動しやすい状態になり、Ni金属粒子が容易に緻密に詰まるためだと考えられる。また、Ni金属粒子表面に均一な有機溶媒皮膜を形成させることにより、導電ペーストに使用した場合に、バインダーとして添加されるエチルセルロースと、オレオイルサルコシンのカルボニル基と窒素原子の不対電子対と、が架橋することで、Ni金属粒子の周囲にエチルセルロースを分散させることが容易になり、バインダーの凝集も軽減する作用をすると推定される。
オレオイルサルコシンを界面活性剤として使用した実験例1の場合、これらの作用によって導電ペーストの乾燥膜密度が高くなったものと考えられる。
【0045】
本発明に用いるオレオイルサルコシンは、金属水スラリー中の金属超微粉粒子表面のOH基をプロトンで中和する反応と金属超微粉粒子表面への化学吸着反応とを同時に進行させることができ、その結果、金属超微粉粒子の表面全体に吸着単分子膜層が形成される。
この吸着単分子膜層においては、オレオイルサルコシンの親油性の官能基(C1733−)が外側に向いた構造をとる。そのため、この親油性の官能基に有機溶媒分子が吸着すると金属超微粉粒子のまわりに有機溶媒層が形成されることになり、該有機溶媒層に包まれた金属超微粉が複数個集まり、該有機溶媒層による連続層形成に十分な臨界点を越えると、有機溶媒の金属超微粉スラリー(金属超微粉有機溶媒スラリー)が形成される。
この金属超微粉有機溶媒スラリーは、比重が5〜6g/cm3と水よりもはるかに大きいので反応生成物として沈殿回収される。
また、金属超微粉に吸着していた水分子は、有機溶媒分子が吸着し、金属超微粉粒子のまわりに有機溶媒による連続層が形成されたときに除去される。この水分子を除去する能力は、界面活性剤の親油性の官能基が水分子との親和性が低く、有機溶媒分子との親和性が高い場合に効果的に作用する。そのため、親油基の官能基が(C1733−)であるオレオイルサルコシンは、水分子を除去する能力も非常に高く、金属超微粉に吸着している水分子を効果的に除去することができる観点からも有用である。
【0046】
本発明においては、上述したように、オレオイルサルコシンは親油性の官能基があるので金属超微粉粒子のまわりに有機溶媒層を形成する効果がある。この効果があると粒子1つ1つが有機溶媒に包まれるので、金属水スラリー中の金属超微粉を有機溶媒中に移行させる有機溶媒置換を可能にする。また、オイルサルコシンを用いることにより、ペースト化の際に新たに添加される別の有機溶媒に対しての親和性があることから、ペースト中に均一に金属超微粉粒子を分散させることができるため、導電ペーストの乾燥膜密度を高くすることが可能となる。
具体的には、後述する実施例にも示すように、上述した特許文献2に記載の発明により作製された導電ペーストは、平均粒径0.4μmのニッケル超微粉を用いた場合には乾燥膜密度が5.6g/cm3までしか向上しなかったが、界面活性剤にオレオイルサルコシンを用いる本発明により作製された導電ペーストは、5.8g/cm3以上に向上する。これは、親油性の官能基である(C1733−)が、有機溶媒に対して分散性の効果を示すことのほかに、カルボニル基(C=O)と窒素原子の不対電子が、導電ペースト作製時に添加されるエチルセルロースと酸塩基反応にて結合して緻密な膜を形成するためであると考えられる。
【0047】
(5)オレオイルサルコシンの含有量:金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2.0質量部未満
上記界面活性剤(オレオイルサルコシン)の含有量は、金属水スラリー中の金属超微粉粒子表面全体へ均一に吸着される量が適正量であり、本発明においては、オレオイルサルコシンを上記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2.0質量部未満含有する。金属超微粉100質量部に対してオレオイルサルコシンの含有量が0.05質量部未満である場合、オレオイルサルコシンを金属微粉表面全体に十分吸着させることができず、有機溶媒中への置換が不十分になる。一方、金属超微粉100質量部に対して、オレオイルサルコシンの含有量が2.0質量部を超えると、金属超微粉表面全体に均一に吸着される量を十分超えているため、さらに含有量を増加したことによる効果が小さく経済的でない。
オレオイルサルコシンの含有量が、金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2.0質量部未満であれば、金属超微粉粒子表面全体に十分に吸着し、吸着単分子膜層を形成することができるため有機溶媒中への置換が容易となり、導電ペースを作製した際の乾燥密度が向上し、また、経済的でもあるため好ましい。
【0048】
(6)有機溶媒
本発明において、金属超微粉ペーストから金属超微粉と界面活性剤を除いた残部が有機溶媒である。本発明に用いる有機溶媒は、通常、導電ペースト用溶剤として用いられる溶剤であれば特に限定されないが、テルペンアルコール系、脂肪族炭化水素系等の溶剤が好ましい。
テルペンアルコール系の溶剤としては、具体的には、例えば、ターピネオール(テルピネオール)、ジハイドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ボルネオール、ゲラニオール、リナロール等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
脂肪族炭化水素系の溶剤としては、n−デカン、n−ドデカン、ミネラルスピリット等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明においては、上記有機溶媒の含有量は、上述した金属超微粉およびオレオイルサルコシンの含有量により設定されるため、3.1〜30質量%程度(金属超微粉100質量部に対して3.2〜31.6質量部程度)となる。
【0050】
本発明の金属超微粉スラリーは、上述した種々の特性から、導電ペースト用の金属原料として好適に用いることができ、導電ペーストフィラーや積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられる。
本発明の金属超微粉スラリーを用いて積層セラミックコンデンサを製造する場合、公知の方法、すなわち、従来の製造原料および製造方法を用いて製造することができる。
例えば、所定の組成からなるセラミックグリーンシートをドクターブレード法でPETフィルムに印刷して製造する。グリーンシートの厚みは、小型で大容量化用とするためには2〜10μmであることが望ましい。このセラミックグリーンシート上に導電性金属ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥させて電極を形成する。電極厚み、すなわち、乾燥後の膜厚が2μm以下になるように塗布量を調整する。なお、金属換算質量で0.7mg/cm2以下になるように導電ペーストを塗布すると、乾燥後の膜厚が2μm以下となる。
【0051】
上記手順で導電性金属ペーストが塗布されたセラミックグリーンシートを複数積層し、熱プレス成形を実施する。得られた積層成形体を所定のサイズに切断することにより、積層セラミックコンデンサの原型が得られる。
上記手順で得られた積層セラミックコンデンサの原型を、乾燥炉を用いて大気中280〜300℃で2〜3時間脱脂処理した後、非酸化性雰囲気中1100〜1300℃で2〜3時間焼成する。焼成後酸素分圧20〜30ppmの雰囲気中900〜100℃で2時間再酸化処理を行うことにより、積層セラミック焼成体が得られる。得られた積層セラミック焼成体の各端に外部電極として銅ペーストを塗布し、内部電極と電気的に接続することで積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
まず、化学的気相反応によって製造された、平均粒径D50が0.4μmの純度の高いNi超微粉水スラリー(Ni超微粉濃度:50質量%)を10L用意する。これは、図1に示す金属超微粉精製工程11終了後のものである。
次に、Ni超微粉水スラリーに、界面活性剤としてオレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)を、Ni超微粉100質量部に対して0.3質量部となるように添加した。その後、温度15℃±5℃で、プロセスホモジナイザー(エスエムテー製)を用いた分散装置による予備処理を翼回転数8000rpmで30分間実施した。
【0053】
次に、予備処理されたNi超微粉水スラリーに、有機溶媒としてターピネオール(ヤスハラケミカル社製)を、Ni超微粉100質量部に対して10質量部添加した。添加後の混合溶液を、温度15℃±5℃で、プロセスホモジナイザー(エスエムテー製)を用いた分散装置による処理(有機溶媒置換工程)を翼回転数5000rpmで15分間実施した。これにより、Ni超微粉の周りにある水がターピネオールに置換されて、Ni超微粉のターピネオールスラリーが、水中に沈殿物として得られた。
【0054】
その後、分離された上澄み液を排水して、Ni超微粉とターピネオールとオレオイルサルコシンとからなる、Ni超微粉含有量が90質量%のNi超微粉のターピネオールスラリー(Ni有機溶媒スラリー)を得た。
【0055】
<溶媒置換性>
得られたNi超微粉のターピネオールスラリーの溶媒置換性を、以下の基準で評価した。すなわち、完全に置換されているものを「○」と評価し、置換不十分(上澄み液中にNi粉が浮遊)のものを「△」と評価し、置換不完全(Ni有機溶媒スラリーが形成されない)のものを「×」と評価した。その結果を下記表2に示す。
また、溶媒置換後のNi有機溶媒スラリーの水分量をカールフィッシャー水分計を用いて測定した。残存水分量が小さいものほど溶媒置換性に優れている。さらに有機溶媒中での残存水分によるNi粉の凝集発生が小さいことになる。その結果を下記表2に示す。
【0056】
<粒度分布の測定>
得られたNi超微粉のターピネオールスラリーをレーザー粒度分析計を用いて、下記に示す条件で粒度分布を測定した。なお、測定は、予備分散を実施した溶液を所定の吸光度になるまで分析計内に注入した後に行った。
測定装置:レーザー粒度分析計(島津製作所製SALD-2100型)
屈折率:1.60
試料質量:30.00〜36.00mg
分散溶液:ターピネオール 100ml
予備分散処理:超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製US-600型)
予備分散時間:5分間
【0057】
分散性は、粒度分布D90を用いて、以下の基準で評価した。すなわち、D90が、1.2μm未満であれば「○」と評価し、1.2μm以上1.5μm未満であれば「△」と評価し、1.5μm以上2.0μm未満であれば「×」と評価した。その結果を下記表2に示す。
【0058】
<乾燥膜密度(ρG:g/cm3)の測定>
得られたNi超微粉のターピネオールスラリー(Ni超微粉含有量:90質量%)111質量部に、ターピネオールに8質量%のエチルセルロースを含有させたバインダー樹脂溶液を62.5質量部添加し、それらを攪拌機で30分間混合した後に、Ni超微粉が約50質量%になるようにターピネオールを添加して粘度調整を行い導電ペーストを得た。
得られた導電ペーストを離形処理の施されたPETフィルム上に塗布表面が均一になるようアプリケーターを用いて印刷した。印刷されたPETフィルムを80〜150℃に設定されたホットプレートで乾燥させたのち、PETフィルムからはがして乾燥塗膜を得た。円形型打ち抜き冶具を用いて、得られた乾燥塗膜から直径2cmの円形塗装膜を得た。
得られた円形塗装膜の質量と体積を求め、乾燥膜密度を算出した。ここで体積について、厚みはマイクロメーターで数点(5〜6点程度)測定し、その平均値を用いた。その結果を下記表2に示す。乾燥膜密度が5.8g/cm3以上であれば、十分緻密な膜であるため、積層セラミックコンデンサの内部電極として好適である。
【0059】
(実施例2)
オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)の添加量をNi超微粉100質量部に対して0.1質量部にした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0060】
(実施例3)
オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)の添加量をNi超微粉100質量部に対して1.0質量部にした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0061】
(実施例4)
オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)の添加量をNi超微粉100質量部に対して1.9質量部にした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0062】
(実施例5)
ターピネオールの添加量をNi超微粉100質量部に対して25質量部にした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリー(Ni超微粉含有量:80質量%)を得た。
【0063】
(実施例6)
ターピネオールの添加量をNi超微粉100質量部に対して5.3質量部にした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリー(Ni超微粉含有量:95質量%)を得た。
【0064】
(実施例7)
ターピネオールの添加量をNi超微粉100質量部に対して42質量部にした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリー(Ni超微粉含有量:70質量%)を得た。
【0065】
(実施例8)
有機溶媒を脂肪族炭化水素のn−ドデカン(n−C1227)にした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のドデカンスラリーを得た。
【0066】
(実施例9)
有機溶媒をジハイドロターピネオールにした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のジハイドロターピネオールスラリーを得た。
【0067】
(実施例10)
有機溶媒をターピネオールアセテートにした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールアセテートスラリーを得た。
【0068】
(実施例11)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのCu超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をCu超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Cu超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0069】
(実施例12)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのAg超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をAg超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ag超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0070】
(実施例13)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのMo超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をMo超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Mo超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0071】
(実施例14)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのW超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をW超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、W超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0072】
(実施例15)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのCo超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をCo超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Co超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0073】
(実施例16)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのTa超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をTa超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ta超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0074】
(実施例17)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−バナジウム合金(Ni:V=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−バナジウム合金(Ni−V合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−V合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0075】
(実施例18)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−クロム合金(Ni:Cr=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−クロム合金(Ni−Cr合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Cr合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0076】
(実施例19)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−ニオブ合金(Ni:Nb=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−ニオブ合金(Ni−Nb合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Nb合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0077】
(実施例20)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−モリブデン合金(Ni:Mo=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−モリブデン合金(Ni−Mo合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Mo合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0078】
(実施例21)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−タンタル合金(Ni:Ta=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−タンタル合金(Ni−Ta合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Ta合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0079】
(実施例22)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−タングステン合金(Ni:W=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−タングステン合金(Ni−W合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−W合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0080】
(実施例23)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−ジルコニウム合金(Ni:Zr=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−ジルコニウム合金(Ni−Zr合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Zr合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0081】
(実施例24)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−イットリウム合金(Ni:Y=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−イットリウム合金(Ni−Y合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Y合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0082】
(実施例25)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−ランタン合金(Ni:La=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−ランタン合金(Ni−La合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−La合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0083】
(実施例26)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−マグネシウム合金(Ni:Mg=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−マグネシウム合金(Ni−Mg合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Mg合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0084】
(実施例27)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−チタン合金(Ni:Ti=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−チタン合金(Ni−Ti合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Ti合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0085】
(実施例28)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−バリウム合金(Ni:Ba=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−バリウム合金(Ni−Ba合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Ba合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0086】
(実施例29)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−カルシウム合金(Ni:Ca=95:5)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−カルシウム合金(Ni−Ca合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Ca合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0087】
(実施例30)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−タングステン−カルシウム合金(Ni:W:Ca=95:3:2)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−タングステン−カルシウム合金(Ni−W−Ca合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−W−Ca合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0088】
(実施例31)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−マグネシウム−ジルコニウム合金(Ni:Mg:Zr=95:3:2)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−マグネシウム−ジルコニウム合金(Ni−Mg−Zr合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Mg−Zr合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0089】
(実施例32)
金属超微粉に平均粒径D50が0.4μmのニッケル−モリブデン−マンガン合金(Ni:Mo:Mn=95:3:2)超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)をニッケル−モリブデン−マンガン合金(Ni−Mo−Mn合金)超微粉100質量部に対して0.3質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni−Mo−Mn合金超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0090】
(実施例35)
オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)の添加量をNi超微粉100質量部に対して0.06質量部とした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0091】
(比較例1)
従来の化学気相法によるペースト中間品作製工程と同じ工程(図2の21、22、23、24)を経てNi超微粉のターピネオールスラリーを作製した。
具体的には、まず、化学的気相反応によって製造された、平均粒径D50が0.4μmの純度の高いNi超微粉製品(乾燥粉)1000g、ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)をNi超微粉100質量部に対して100質量部添加してNi超微粉含有量が50質量%になるように調整した。
次いで、界面活性剤としてオレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)を、Ni超微粉100質量部に対して0.5質量部となるように添加した。その後、ケーキミキサーで1時間分散処理を行い、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0092】
(比較例2)
ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)の添加量をNi超微粉100質量部に対して3質量部にした以外は比較例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリー(Ni超微粉含有量:97質量%)を得た。
【0093】
(比較例3)
オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)の添加量をNi超微粉100質量部に対して0.01質量部にした以外は比較例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリー(Ni超微粉含有量:90質量%)を得た。
【0094】
(比較例4)
オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)の含有量をNi超微粉100質量部に対して0.04質量部にした以外は比較例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリー(Ni超微粉含有量:90質量%)を得た。
【0095】
(比較例5)
界面活性剤として、カルボキシル化ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ECT−7、日光ケミカルズ社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0096】
(比較例6)
界面活性剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(RLM−45、日光ケミカルズ社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0097】
(比較例7)
界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸(ライポンLH−200、ライオン社製)を用い、Ni超微粉100質量部に対して0.2質量部添加した以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0098】
(比較例8)
界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(エマルゲン707、花王社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0099】
(比較例9)
界面活性剤として、ソルビタン脂肪酸エステル(レオドールSP−030、花王社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
【0100】
このようにして得られた実施例2〜32、35および比較例1〜9のスラリーについて、実施例1と同様の方法により、溶媒置換性、水分量、分散性(粒度分布(D90))および乾燥膜密度を評価測定した。その結果を下記表2に示した。
【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
表2に示す結果から、実施例1〜32、35で得られた金属超微粉スラリーは、比較例1〜9で得られた金属超微粉スラリーに比べ、溶媒置換性および分散性に優れ、さらに導電ペーストの乾燥膜密度も高くなることが分かった。
【0105】
次に、導電性ペーストととしての分散性と導電性ペースト作製工程での省力化を確認するために、本発明で得られたのNi超微粉スラリーを原料として導電ペーストを作製した。
(実施例33)
実施例1で得られたニッケル超微粉のターピネオールスラリー100質量部に、ターピネオールに12質量%のエチルセルロースを含有させたバインダー樹脂溶液10質量部を添加し、攪拌機で30分間混合し、Ni超微粉が約80質量%になるように粘度調整を行い導電ペーストを得た。
【0106】
(実施例34)
実施例11で得られたCu超微粉のターピネオールスラリーを用いた以外は、上記本発明例1と同様にして導電ペーストを得た。
【0107】
(比較例10)
比較例1で得られたNi超微粉のターピネオールスラリー100質量部に、ターピネオールに12質量%のエチルセルロースを含有させたバインダー樹脂溶液10質量部を添加し、攪拌機で1時間混合し、3本ロールミルを5回パスしたものをカートリッジフィルター式加圧ろ過装置でろ過処理を行い、Ni超微粉が約45質量%になるように粘度調整を行い導電ペーストを得た。
【0108】
実施例33、34および比較例10で得られた導電ペーストにおける分散性の評価は、得られた導電ペーストを乾燥膜厚が1〜2μmになるように、手刷り式スクリーン印刷でガラス板上に塗布した後、乾燥炉で乾燥させて得られた乾燥塗膜表面に現われる突起物を目視により計数した。
評価面積が1cm×1cm四方に存在する突起物数で評価した。突起物数が少ないほど分散性が優れていることを示している。上記で得られた導電ペーストの組成および分散性評価結果を下記表3に示す。
【0109】
【表5】

【0110】
表3に示す結果から、実施例33および34で得られた導電ペーストは、比較例10で得られた導電ペーストに比べ、金属超微粉の含有量を多くしても、突起物数が著しく少ないことから、分散性が著しく優れた導電ペーストであることが分かり、これにより工程の省力化が可能であることも明らかとなった。
【0111】
次に、金属超微粉の平均粒径D50と、金属超微粉スラリーの分散性と、の関係を調べた。なお、分散性の指標には、金属超微粉の粒度分布D90と、塗布後の乾燥塗膜表面の突起物数を用いた。
【0112】
(実施例40〜48)
金属超微粉として、平均粒径D50が0.13〜1.15のNi超微粉を用い、オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ社製サルコシネートOH)の添加量をNi超微粉100質量部に対して0.3質量部とした以外は実施例1と同様にして、Ni超微粉のターピネオールスラリーを得た。
なお、乾燥塗膜表面の突起数による分散性の評価は以下の手順で実施した。
上記で得られたNi超微粉のターピネオールスラリーを乾燥膜厚が1〜2μmになるように、アプリケーターを用いてガラス板上に塗布した後、乾燥炉で乾燥させて得られた乾燥塗膜表面に現れる突起物を目視により計数した。評価面積1cm×1cm四方に存在する突起物数を以下の基準で評価した。なお、突起物数が少ないほど分散性が優れていることを示している。
分散性の評価基準
突起物数:10個以上 ・・・×
5個以上10個未満・・・△
5個未満 ・・・○
結果を表4に示した。
【0113】
【表6】

【0114】
表4から明らかなように、平均粒径D50が0.13〜0.96μmのNi超微粉を使用した実施例40〜46は、D90が1.2μm未満であり、分散性に優れていることが分かった。また、平均粒径D50が0.61〜0.96μmのNi超微粉を使用した実施例40〜44は、突起物数が4個以下であり、さらに分散性に優れていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、本発明の金属超微粉スラリーを製造する工程の一例を示すフローである。
【図2】図2は、従来の化学気相法による金属超微粉の製造工程を示すフローである。
【符号の説明】
【0116】
10 金属超微粉スラリーの製造工程
11 金属超微粉精製工程(金属水スラリー)
12 有機溶媒置換工程
13 金属超微粉有機溶媒スラリー
14 粘度調整
20 従来の金属超微粉ペーストの製造工程
21 金属超微粉精製工程(金属水スラリー)
22 金属超微粉乾燥工程
23 金属超微粉製品(乾燥粉)
24 有機溶媒への分散
25 分散処理
26 ろ過処理
27 粘度調整

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒と、界面活性剤と、金属超微粉とを含有する金属超微粉スラリーであって、
前記界面活性剤が、オレオイルサルコシンであり、
前記金属超微粉スラリー中に、前記金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有し、
前記界面活性剤を前記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2.0質量部未満含有する金属超微粉スラリー。
【請求項2】
前記金属超微粉の粒度分布D90の値が1.2μm未満であり、平均粒径である粒度分布D50の値が0.1〜1.0μmである請求項1に記載の金属超微粉スラリー。
【請求項3】
前記金属超微粉が、ニッケル、銅、銀、モリブデン、タングステン、コバルトおよびタンタルからなる群より選択される1種からなる請求項1または2に記載の金属超微粉スラリー。
【請求項4】
前記金属超微粉が、ニッケルに、バナジウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、マグネシウム、チタン、バリウムおよびカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有させたニッケル合金からなる請求項1または2に記載の金属超微粉スラリー。
【請求項5】
金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有し、
オレオイルサルコシンを前記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超、2.0質量部未満含有し、
残部が有機溶媒である金属超微粉スラリー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−63441(P2006−63441A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206925(P2005−206925)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】