説明

金属部材、防錆処理剤、及び防錆処理方法

【課題】化学物質管理促進法に抵触する環境負荷物質を含まない高耐食性の防錆皮膜被覆金属部材、及びその防錆皮膜を1工程処理で金属面上に形成できる防錆処理剤を提供する。
【解決手段】前記防錆皮膜は、20℃の水100gに1.0g以上溶解する分子量400以下の有機化合物〔(X)成分〕、酸化珪素原子団〔(SiO)成分〕とジルコニル原子団〔(ZrO)成分〕を主たる構成成分とし、前記(X)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基、スルフィニル基又はホスホリル基の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基、ヒドロキシル基又はメルカプト基の中心原子であるN原子、O原子又はS原子の質量の合計[NOS]と、前記(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=O)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はZrO2+)の質量の合計[SZO]との関係が、([CSP]+[NOS]):[SZO]=97:3〜10:90である防錆皮膜で被覆された金属部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の少なくとも一部に防錆皮膜が被覆形成された金属部材、防錆皮膜を被覆形成するための防錆処理剤、及び、防錆皮膜を被覆形成する防錆処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種金属材料の耐食性や上塗り塗装皮膜との密着性等を改良するため、金属面上に種々の皮膜形成処理がなされている。工業的に広く活用されている防錆皮膜の代表例は、クロメート又はりん酸塩による化成処理皮膜であり、中でもクロメート処理は、金属材料表面に形成された6価クロムを含む不働態皮膜が、腐食因子に対する優れた遮蔽性と皮膜損傷に対する自己修復機能を発揮するため、非常に有効な防錆皮膜である。さらに、上塗り塗装皮膜との密着性に優れた塗装下地処理としても機能し、家電、建材、自動車部品等の分野で広く用いられている。鋼板メーカーのめっきラインでクロメート処理する場合、十分な防錆性を発揮する皮膜付着量(膜厚)を得るまでの処理時間が数秒〜数十秒と短いため、通常のラインスピードでの連続短時間処理が可能なことも大きな利点である。
【0003】
ところが、近年の地球環境問題に対する関心の高まりを背景に、6価及び3価クロム(特に環境負荷性の高い6価クロム)を全く含まない防錆処理金属材料が求められており、クロメート処理を用いない、金属製品の6価及び3価クロムフリー防錆処理技術の開発が進められている。6価及び3価クロムを含まない無機系化合物の中には、ある程度の腐食抑制機能を持つ皮膜を金属材料表面に形成するものが既に見出されており、クロメート処理液の主成分であるクロム酸塩と同様に、古くから金属材料の防錆処理に利用されてきた。
【0004】
例えば、クロメート処理と並ぶ代表的な無機系被覆処理であるりん酸塩処理では、6価及び3価クロムを含まないりん酸亜鉛、りん酸マンガン等を主成分とする化成処理皮膜を金属表面に形成する。これらは、金属材料の上塗り塗装後の耐食性、上塗り塗膜の密着性、加工時の潤滑性等を高めるため、自動車外板、家電ハウジング等の下地処理や摺動部品等に広く用いられている。しかしながら、りん酸亜鉛等の化成処理皮膜は、結晶性でポーラスなため腐食因子に対するバリア性に劣り、防錆力はクロメート処理のそれに全く及ばない。また、りん酸塩結晶を金属表面上に均一にかつ速やかに析出させるため、結晶核形成剤(例えば、チタンコロイド)で予め金属表面調整を行ったり、りん酸塩処理液の成分濃度や温度を結晶析出の最適状態に制御しなければならず、1工程処理で非晶質皮膜を形成できるクロメート処理に比べ、りん酸塩化成処理は、基本的に金属表面調整とりん酸塩皮膜形成の2工程処理が必要で、かつ操業管理が煩雑という欠点を有する。さらに、皮膜の形成性、摺動性、上塗り塗膜の耐水二次密着性等を高めるため、りん酸塩化成処理液には、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(以下、化学物質管理促進法と称する)の対象となる第一種指定化学物質を含む場合が多い(例えば、耐摩耗性の皮膜形成剤としてりん酸マンガン、皮膜の結晶核形成剤としてニッケルイオンやマンガンイオン、金属表面エッチング剤としてフッ化水素酸、等)。化学物質管理促進法の対象となる第一種指定化学物質は、取り扱いに当り、環境への排出量の届け出や製品安全データシート(以下、MSDS(Material Safety Data Sheet)と称する)の交付等が義務付けられており、環境負荷物質として、環境保全の面からだけでなく、工業的な製造、管理面から大きな制約を受ける。化学物質管理促進法の指定化学物質を使わないようにする動きの例として、ニッケルイオンを含まないりん酸塩処理液による化成処理方法が開示されているが(例えば、特許文献1参照)、この特許文献1に記載の構成では、従来技術と同様、金属表面調整後にりん酸塩化成処理が続く煩雑な2工程処理であり、改良技術としては不十分であった。
【0005】
他の無機系処理の例として、酸化力の強い過マンガン酸塩をベースとした処理剤は、金属材料の腐食をかなり軽減するが、安定性や効力においてクロム酸塩には及ばない(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。また、バナジン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等は、クロム酸塩と同様のオキソ酸化合物であり、多くの金属面を不働態化するが、単独使用ではクロム酸塩による皮膜の防錆力には及ばない。タングステン酸塩を除くこれらの金属系化合物の多くは、6価クロムほどではないものの環境負荷性、安全性の面からも問題があり、例えば、バナジン酸塩には毒性がある。過マンガン酸塩、モリブデン酸塩は、6価及び3価クロム化合物と同様、化学物質管理促進法の対象となる第一種指定化学物質に該当し、環境負荷物質として、工業的な製造、管理面から大きな制約を受ける。
【0006】
金属材料を被覆する無機系防錆処理の他の例として、シリカコロイドを主体とする水性処理剤を用いた6価及び3価クロムフリー防錆処理技術が開示されているが(例えば、特許文献2参照)、この特許文献2の構成では、形成皮膜にクロメート処理に匹敵する防錆力を発現させるためには、化学物質管理促進法の第一種指定化学物質であるコバルト化合物の処理液への添加が必須であり、環境負荷物質を含む処理剤として、工業的な製造、管理面から大きな制約を受ける。一方、有害性が殆どない無機系防錆処理の例として、金属表面に安定な保護皮膜を形成するポリりん酸塩、ポリけい酸塩等の無機系高分子皮膜が用いられているが(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)、クロメート処理皮膜の防錆力に及ばないのが現状である。
【0007】
以上、これまでに実施あるいは提案されている種々の無機系処理技術について特徴を説明したが、化学物質管理促進法の指定化学物質を含まない無機系の金属表面処理技術で、かつクロメート処理の優れた防錆力や操業性(1工程処理で防錆皮膜を形成できる簡便性)に匹敵するものは見当たらなかった。
【0008】
一方、有機系樹脂を活用し、金属材料の6価及び3価クロムフリー防錆処理を行う技術の開発も広く進められている。例えば、水分散性又は水溶性樹脂の他に、シリカ粒子、ホスホン酸誘導体等を含む金属表面処理剤と該処理剤を塗布した亜鉛系めっき鋼板(例えば、特許文献3参照)、ポリヒドロキシエーテルからなるセグメントと不飽和単量体混合物の重合体からなるセグメントを有する水分散性樹脂、燐酸、燐酸系金属化合物を含む金属表面処理剤と該処理剤を塗布した冷延鋼板、めっき鋼板(例えば、特許文献4参照)、水分散性又は水溶性樹脂と高分子キレート化剤を含む表面処理剤を塗布した亜鉛系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板(例えば、特許文献5参照)、水性樹脂、硫化物イオン、又は、さらに難溶性の硫化物、燐酸イオンを含む無被覆鋼、亜鉛系被覆鋼の表面処理剤(例えば、特許文献6参照)等が開示されている。これらの特許文献3〜6に記載の処理液を用いた防錆処理(又は、特許文献3〜6に記載の防錆処理鋼板)は、防錆性(又は耐食性)に優れるためクロメート処理(又はクロメート処理鋼板)を代替でき、処理剤の主成分である水性有機系樹脂には化学物質管理促進法の対象化合物が含まれないこと、処理液の塗工時に有機溶剤を用いないこと、6価及び3価クロムフリーであること等から、環境保全上有用である。しかしながら、水性有機樹脂は、合成に手間がかかるため、多くの有機系及び無機系の低分子化合物に比べ高価であり、かつ、有機系樹脂を主成分とする防錆皮膜が金属表面で十分な防錆性を発現するには、一般に無機系防錆皮膜の数倍〜10倍以上の膜厚が必要で、皮膜コストが甚大となる欠点があった。
【0009】
【特許文献1】特開2001-49451号公報
【特許文献2】特開2000-328271号公報
【特許文献3】特開平11-36079号公報
【特許文献4】特開平11-50010号公報
【特許文献5】特開2000-519号公報
【特許文献6】特開平8-67834号公報
【非特許文献1】前田重義、表面、21、37(6)、1999年発行
【非特許文献2】腐食防食協会編、"金属防蝕技術便覧(新版4版)"、p.551、日刊工業新聞社 1977年発行
【非特許文献3】腐食防食協会編、"防食技術便覧(初版)"、p.652、日刊工業新聞社 1986年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のように、従来技術には問題点がある。即ち、無機系皮膜の被覆処理技術では、煩雑な皮膜形成工程、又は化学物質管理促進法に抵触する化学物質の含有、防錆力不足等、一方、有機系樹脂を主成分とする皮膜の被覆処理技術では、甚大な皮膜コストがかかる等の問題点がある。本発明の目的は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、化学物質管理促進法の指定化学物質を含まない低環境負荷性の防錆皮膜が1工程処理で簡便に形成された金属部材、その防錆皮膜を形成するための防錆処理剤、及び、その防錆皮膜を形成する防錆処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々の検討を行った結果、化学物質管理促進法の指定化学物質を含まない特定の防錆皮膜で被覆した金属部材が前記課題をすべて解決するものであり、この防錆皮膜は1工程処理で簡便に形成可能で、かつ、十分な耐食性を発現することを見出した。
【0012】
本発明は、このような知見を基にして完成されたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0013】
(1) 表面の少なくとも一部が防錆皮膜で被覆された金属部材であって、
前記防錆皮膜は、下記に示す、(X)成分のいずれか1種又は2種以上、(SiO)成分と(ZrO)成分のいずれか1種又は2種以上、を主たる構成成分とし、前記(X)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS]と、前記(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との関係が、([CSP]+[NOS]):[SZO]=97:3〜10:90であることを特徴とする金属部材。
【0014】
(X)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解する分子量400以下の有機化合物であって、1分子中に2基以上の活性水素含有基を有し、前記活性水素含有基の2基以上が、カルボニル基(>C=O)を含む官能基、スルフィニル基(>S=O)を含む官能基、ホスホリル基(≡P=O)を含む官能基、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、又は、メルカプト基(-SH)のいずれか1種又は2種以上である有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基から一部又は全部の活性水素が脱離した原子団、の一方又は双方。
(SiO)成分 : 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)。
(ZrO)成分 : ジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)。
【0015】
(2) 前記のカルボニル基(>C=O)を含む官能基が、カルボキシル基(-COOH)、アルデヒド基(-CHO)、アミド基(-CONH2)のいずれか1種又は2種以上である(1)記載の金属部材。
【0016】
(3) 前記のスルフィニル基(>S=O)を含む官能基が、スルホン酸基(-SO3H)、スルフィン酸基(-SO2H)の1種又は2種である(1)記載の金属部材。
【0017】
(4) 前記のホスホリル基(≡P=O)を含む官能基が、構造式O=POH(OR)2又はO=P(OH)2(OR) (Rは炭化水素基)のリン酸エステルを構成する極性原子団O=P(OH)<又はO=P(OH)2-の1種又は2種である(1)記載の金属部材。
【0018】
(5) 前記(X)成分が、下記に示す、(a)成分、(b)成分、(c)成分のいずれか1種又は2種以上である(1)記載の金属部材。
【0019】
(a)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中に2基以上のカルボキシル基(-COOH)を有する脂肪族又は芳香族カルボン酸、又は、前記カルボン酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離したカルボン酸の残基。
【0020】
(b)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸、又は、前記ヒドロキシ酸のカルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離したヒドロキシ酸の残基。
【0021】
(c)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族アルデヒド酸、又は、前記アルデヒド酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離するか、又は、前記カルボキシル基からの水素脱離の有無に関わらず、前記アルデヒド酸のアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離したアルデヒド酸の残基。
【0022】
(6) 表面の少なくとも一部が防錆皮膜で被覆された金属部材であって、
前記防錆皮膜は、下記に示す、(A)成分、(B)成分、(C)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO)成分と(ZrO)成分のいずれか1種又は2種以上、を主たる構成成分とし、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO]と、前記(SiO)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団 (>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との質量比が、[CO]:[SZO]=97:3〜10:90であることを特徴とする金属部材。
【0023】
(A)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族カルボン酸、又は、該脂肪族カルボン酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離したカルボン酸の残基。
【0024】
(B)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族ヒドロキシ酸、又は、該ヒドロキシ酸のカルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離したヒドロキシ酸の残基。
【0025】
(C)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族アルデヒド酸、又は、該アルデヒド酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離するか、又は、前記カルボキシル基からの水素脱離の有無に関わらず、該アルデヒド酸のアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離したアルデヒド酸の残基。
(SiO)成分 : 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)。
(ZrO)成分 : ジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)。
【0026】
(7) 前記脂肪族カルボン酸が、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜5の飽和脂肪族ジカルボン酸(構造式は、HOOC-(CH2)(a1)-COOH。(a1)は整数で0≦(a1)≦5。-(CH2)(a1)-鎖部位にはメチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)、又は、カルボキシル炭素を除く炭素数が2〜5の不飽和脂肪族ジカルボン酸(構造式は、HOOC-(CH2)(b1)-CH=CH-(CH2)(b2)-COOH。(b1)と(b2)は0以上の整数で、0≦(b1)+(b2)≦3。-(CH2)(b1)-鎖、-(CH2)(b2)-鎖部位には、メチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)のいずれか1種又は2種以上である(5)又は(6)に記載の金属部材。
【0027】
(8) 前記脂肪族カルボン酸が、蓚酸(HOOC-COOH)、マロン酸(HOOC-CH2-COOH)、コハク酸(HOOC-(CH2)2-COOH)、グルタル酸(HOOC-(CH2)3-COOH)、アジピン酸(HOOC-(CH2)4-COOH)、α-ケトグルタル酸(HOOC-CH2-CH2CO-COOH)、マレイン酸(cis-HOOC-CH=CH-COOH)のいずれか1種又は2種以上である(5)、(6)又は(7)に記載の金属部材。
【0028】
(9) 前記脂肪族ヒドロキシ酸が、カルボキシル炭素を除く炭素数が1〜4の脂肪族ヒドロキシ酸(構造式は、CH(c1)(-COOH)(c2)(-OH)(c3)-[CH(d1)(-COOH)(d2)(-OH)(d3)](p1)-[CH(e1)(-COOH)(e2)(-OH)(e3)](p2)-[CH(f1)(-COOH)(f2)(-OH)(f3)](p3)。(p1)、(p2)、(p3)は0又は1。(c1)〜(c3)、(d1)〜(d3)、(e1)〜(e3)、(f1)〜(f3)はいずれも0以上の整数で、(c1)+(c2)+(c3)=3、(d1)+(d2)+(d3)=2、(e1)+(e2)+(e3)=2、(f1)+(f2)+(f3)=3。分子中のカルボキシル基の総数(c2)+(d2)+(e2)+(f2)≧1、分子中のヒドロキシル基の総数(c3)+(d3)+(e3)+(f3)≧1)のいずれか1種又は2種以上である(5)又は(6)に記載の金属部材。
【0029】
(10) 前記脂肪族ヒドロキシ酸が、グリコール酸(CH2(OH)-COOH)、乳酸(CH3CH(OH)-COOH)、グリセリン酸(CH2(OH)-CH(OH)-COOH)、クエン酸(HOOC-CH2-C(OH)(COOH)-CH2-COOH)、酒石酸(HOOC-CH(OH)-CH(OH)-COOH)、又は、リンゴ酸(HOOC-CH(OH)-CH2-COOH)のいずれか1種又は2種以上である(5)、(6)又は(9)に記載の金属部材。
【0030】
(11) 前記脂肪族アルデヒド酸が、カルボキシル炭素及びアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜4の脂肪族アルデヒド酸(構造式は、CHO-COOH、又は、CH(g1)(-COOH)(g2)(-CHO)(g3)-[CH(h1)(-COOH)(h2)(-CHO)(h3)](q1)-[CH(i1)(-COOH)(i2)(-CHO)(i3)](q2)-[CH(j1)(-COOH)(j2)(-CHO)(j3)](q3) ((q1)、(q2)、(q3)は0又は1。(g1)〜(g3)、(h1)〜(h3)、(i1)〜(i3)、(j1)〜(j3)はいずれも0以上の整数で、(g1)+(g2)+(g3)=3、(h1)+(h2)+(h3)=2、(i1)+(i2)+(i3)=2、(j1)+(j2)+(j3)=3。分子中のカルボキシル基の総数 (g2)+(h2)+(i2)+(j2)≧1、分子中のアルデヒド基の総数 (g3)+(h3)+(i3)+(j3)≧1)のいずれか1種又は2種以上である(5)又は(6)に記載の金属部材。
【0031】
(12) 前記脂肪族アルデヒド酸が、グリオキシル酸(CHO-COOH)である(5)、(6)又は(11)に記載の金属部材。
【0032】
(13) 前記防錆皮膜の付着量が0.02g/m2〜5.0g/m2である(1)〜(12)のいずれかに記載の金属部材。
【0033】
(14) 下記に示す、(X*)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO*)成分と(ZrO*)成分のいずれか1種又は2種以上、水を主たる構成成分とし、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-)と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との関係が、([CSP*]+[NOS*]):[SZO*]=97:3〜10:90であることを特徴とする防錆処理剤。
【0034】
(X*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解する分子量400以下の有機化合物であって、1分子中に2基以上の活性水素含有基を有し、前記活性水素含有基の2基以上が、カルボニル基(>C=O)を含む官能基、スルフィニル基(>S=O)を含む官能基、ホスホリル基(≡P=O)を含む官能基、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、又は、メルカプト基(-SH)のいずれか1種又は2種以上である有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基の一部又は全部の活性水素が他の陽イオンで置換された塩、の一方又は双方。
【0035】
(SiO*)成分 : 加水分解性のアルコキシ基(-OR3、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤。
(ZrO*)成分 :ジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩。
【0036】
(15) 前記(X*)成分が、下記に示す、(a*)成分、(b*)成分、(c*)成分のいずれか1種又は2種以上である(14)記載の防錆処理剤。
【0037】
(a*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中に2基以上のカルボキシル基(-COOH)を有する脂肪族又は芳香族カルボン酸、又は、脂肪族又は芳香族カルボン酸塩。
【0038】
(b*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸、又は、脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸塩。
【0039】
(c*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族アルデヒド酸、又は、脂肪族又は芳香族アルデヒド酸塩。
【0040】
(16) 下記に示す、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO*)成分と(ZrO*)成分のいずれか1種又は2種以上と、水を主たる構成成分とし、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-)と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団 (>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との質量比が、[CO*]:[SZO*]=97:3〜10:90であることを特徴とする防錆処理剤。
【0041】
(A*)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸塩。
【0042】
(B*)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族ヒドロキシ酸、又は、脂肪族ヒドロキシ酸塩。
【0043】
(C*)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族アルデヒド酸、又は、脂肪族アルデヒド酸塩。
【0044】
(SiO*)成分 : 加水分解性のアルコキシ基(-OR3、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はアルデヒド基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤。
(ZrO*)成分 :ジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩。
【0045】
(17) 前記(SiO*)成分が、アミノアルキルシラン[NH2-R*-Si(-OR3)3]とエポキシアルキルシラン[CH2-(O)-CH-R*-Si(-OR3)3] (R*は炭素数が7個までの有機基、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)のいずれか1種又は2種以上である(14)又は(16)に記載の防錆処理剤。
【0046】
(18) 前記(SiO*)成分が、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン[NH2(CH2)2-NH(CH2)3-Si(OCH3)3]とγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン[CH2-(O)-CH-CH2O-(CH2)3-Si(OCH3)3] のいずれか1種又は2種以上である(14)、(16)又は(17)に記載の防錆処理剤。
【0047】
(19) 前記(ZrO*)成分が、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO)2)、酢酸ジルコニル(ZrO(CH3COO)2)、プロピオン酸ジルコニル(ZrO(C2H5COO)2)、酪酸ジルコニル(ZrO(C3H7COO)2)、蓚酸(HOOC-COOH)とジルコニルイオンの塩、マロン酸(HOOC-CH2-COOH)とジルコニルイオンの塩、又は、コハク酸(HOOC-(CH2)2-COOH)とジルコニルイオンの塩から選ばれる1種又は2種以上である(14)又は(16)に記載の防錆処理剤。
【0048】
(20) (14)〜(19)のいずれかに記載の防錆処理剤を金属表面の少なくとも一部に塗布して乾燥し、防錆皮膜を形成することを特徴とする防錆処理方法。
【発明の効果】
【0049】
本発明による金属部材は、化学物質管理促進法の指定物質等の環境負荷物質を含まず、かつ、クロメート処理材レベルの優れた耐食性を有するため、家電やオフィスオートメーション機器、建築や土木あるいは、自動車や車輌分野等で広く用いられている金属部材として好適である。また、本発明に係る防錆処理剤で金属表面を被覆処理することにより、クロメート処理材レベルの優れた耐食性を有する金属部材を安価な防錆処理コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0051】
本発明の金属部材は、その表面の少なくとも一部に、環境負荷物質を含まない防錆皮膜を有している。十分な耐食性を発現する金属部材を得るための防錆皮膜形成のポイントは、水に溶解し、分子量400以下で、かつ特定の活性水素含有基を2基以上有する特定の有機化合物を、これらの活性水素含有基と反応し易い特定のシラン化合物又はジルコニル化合物で架橋することである。本発明の金属部材においては、防錆処理剤を金属表面に塗布、加熱乾燥させることにより防錆皮膜を形成する。その際、前記の特定の有機化合物と、特定のシラン化合物又はジルコニル化合物との反応により金属面上に緻密なバリア層を形成し、水性腐食因子の金属面への進入を抑制する。また、これらの特定の有機化合物、シラン化合物、ジルコニル化合物は、前記防錆皮膜の構成化合物となるだけでなく、金属表面や金属表面を覆っている金属腐食生成物と反応し、前記防錆皮膜と金属表面との密着性を高める作用も有する。また、前記防錆皮膜に上塗り塗装する場合は、前記の特定の有機化合物、シラン化合物、ジルコニル化合物の一部は上塗り塗膜とも相互作用し、塗膜への化学結合、水素結合や吸着等により、前記防錆皮膜と上塗り塗膜との密着性を高める作用も有する。
【0052】
本発明において、前記防錆皮膜は、以下に示す、(X)成分のいずれか1種又は2種以上、(SiO)成分と(ZrO)成分のいずれか1種又は2種以上、を主たる構成成分とし、前記(X)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS]と、前記(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との関係が、([CSP]+[NOS]):[SZO]=97:3〜10:90であることを特徴とする。ここでいう原子団とは、一般的な定義に従うもので、分子中に含まれる特定の原子の集群である。例えば、酸化珪素原子団は、酸素と珪素という特定の原子からなる原子団、また、ジルコニル原子団は、ジルコニウムと酸素とからなる原子団である。
【0053】
ここで、前記(X)成分は、20℃の水100gに1.0g以上溶解する分子量400以下の有機化合物であって、1分子中に2基以上の活性水素含有基を有し、前記活性水素含有基の2基以上が、カルボニル基(>C=O)を含む官能基、スルフィニル基(>S=O)を含む官能基、ホスホリル基(≡P=O)を含む官能基、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、又は、メルカプト基(-SH)のいずれか1種又は2種以上である有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基から一部又は全部の活性水素が脱離した原子団、の一方又は双方、である。そして、前記(SiO)成分は、酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)であり、また、前記(ZrO)成分は、ジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)である。
【0054】
また、本発明における防錆処理剤は、以下に示す(X*)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO*)成分と(ZrO*)成分のいずれか1種又は2種以上、水を主たる構成成分とし、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団≡Si-O-と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との関係が、([CSP*]+[NOS*]):[SZO*]=97:3〜10:90であることを特徴とする。
【0055】
ここで、前記(X*)成分は、20℃の水100gに1.0g以上溶解する分子量400以下の有機化合物であって、1分子中に2基以上の活性水素含有基を有し、前記活性水素含有基の2基以上が、カルボニル基(>C=O)を含む官能基、スルフィニル基(>S=O)を含む官能基、ホスホリル基(≡P=O)を含む官能基、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、又は、メルカプト基(-SH)のいずれか1種又は2種以上である有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基の一部又は全部の活性水素が他の陽イオンで置換された塩、の一方又は双方、である。そして、(SiO*)成分は、加水分解性のアルコキシ基(-OR3、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤であり、また、(ZrO*)成分は、ジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩である。
【0056】
本発明において、防錆皮膜を構成する(X)成分又は防錆処理剤の(X*)成分(以下、(X+X*)成分と表記することもある)に含まれる有機化合物は、20℃の水100gに1.0g以上溶解し、かつ、分子量が400以下でなければならない。本発明の防錆皮膜の形成は、防錆処理剤を構成する各成分が水に均一に溶解あるいは微分散した水性防錆処理剤を金属面に塗布、加熱乾燥することによる。20℃の水100gに1.0g未満しか溶解しない難溶性の有機化合物の場合、これを溶かして水性防錆処理剤を作成できないため、本発明の水性処理剤を構成する主成分として用いることができない。また、前記有機化合物の分子量が400を超える場合、分子が嵩高く水性防錆処理剤中での動きが鈍いため、水性防錆処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、前記有機化合物とシラン化合物又はジルコニル化合物との架橋反応が遅く、金属面上に緻密なバリア層が生成しないため、水性腐食因子の金属面への進入を抑制できない。
【0057】
本発明において、(X+X*)成分に含まれる有機化合物は、2基以上の活性水素含有基を持つ必要がある。活性水素含有基を全く持たないか、あるいは1基しか持たない場合、これらの有機化合物1分子当たりの活性反応サイト数が1以下のため、共存するシラン化合物又はジルコニル化合物との反応により高分子量の架橋体を形成できず、金属面上に緻密なバリア層を形成できない。
【0058】
本発明において、(X+X*)成分に含まれる2基以上の活性水素含有基を持つ有機化合物は、それらの活性水素含有基の2基以上が、カルボニル基(>C=O)を含む官能基、スルフィニル基(>S=O)を含む官能基、ホスホリル基(≡P=O)を含む官能基、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、又は、メルカプト基(-SH)のいずれか1種又は2種以上でなければならない。これら以外の水素含有基は、水性処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、シラン化合物やジルコニル化合物との架橋反応が遅いか、あるいは全く反応しないため、金属面上に緻密なバリア層を形成できない。
【0059】
前記の有機化合物の少なくとも一部は、水性処理剤の金属表面への塗布、加熱乾燥工程で、共存するシラン化合物又はジルコニル化合物との架橋反応や、前記金属表面又は金属表面を覆っている金属腐食生成物との反応等により、活性水素含有基から一部又は全部の活性水素が脱離した原子団となり、金属面上の緻密なバリア皮膜を構成する高分子量の架橋複合体の一部となる。従って、本発明における防錆皮膜の構成成分の1つである(X)成分は、前記有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基から一部又は全部の活性水素が脱離した原子団、の一方又は双方、である。また、本発明の水性処理剤中では、前記有機化合物は、その活性水素含有基の一部又は全部の活性水素が他の陽イオンで置換された塩として処理剤に溶解又は分散している場合もあるため、本発明における防錆処理剤の構成成分の1つである(X*)成分は、前記有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基の一部又は全部の活性水素が他の陽イオンで置換された塩、の一方又は双方、である。
【0060】
本発明において、(X+X*)成分に含まれる前記有機化合物がカルボニル基(>C=O)を含む官能基を持つ場合、この官能基が、カルボキシル基(-COOH)、アルデヒド基(-CHO)、アミド基(-CONH2)のいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。水性処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、これらの官能基は、シラン化合物やジルコニル化合物との架橋反応が比較的速く、かつ、金属表面や金属表面を覆っている金属腐食生成物と反応し、前記防錆皮膜と金属表面との密着性を高めるためである。
【0061】
本発明において、(X+X*)成分の有機化合物として有機酸を用いる場合、カルボキシル基(-COOH)又はカルボキシル残基(-COO)を少なくとも1基持つものを使うのが好ましい。カルボキシル基(-COOH)又はカルボキシル残基(-COO)を全く持たず、これら以外の酸性官能基又はその残基を持つ場合、このような有機酸は、酸性が強過ぎて金属表面を過度にエッチングしたり、(SiO*)成分や(ZrO*)成分と高分子量の架橋複合体を形成できず有効な防錆皮膜を形成できなかったり、産業界での使用量が僅少で高価であったりする可能性がある。ここで、有機酸とは、有機化合物の内の酸性を持つものの総称で、大部分がカルボン酸である。
【0062】
本発明において、防錆皮膜の(X)成分に含まれる前記有機化合物がカルボキシル基(-COOH)を持つ場合、前記(X)成分が、下記に示す、(a)成分、(b)成分、(c)成分のいずれか1種又は2種以上であることがより好ましい。これらの特定のカルボキシル化合物は、他のカルボキシル化合物に比べ、水性処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、シラン化合物やジルコニル化合物との架橋反応が速いためである。
【0063】
(a)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中に2基以上のカルボキシル基(-COOH)を有する脂肪族又は芳香族カルボン酸、又は、前記カルボン酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離したカルボン酸の残基。
【0064】
(b)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸、又は、前記ヒドロキシ酸のカルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離したヒドロキシ酸の残基。
【0065】
(c)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族アルデヒド酸、又は、前記アルデヒド酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離するか、又は、前記カルボキシル基からの水素脱離の有無に関わらず、前記アルデヒド酸のアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離したアルデヒド酸の残基。
【0066】
また、本発明において、(X+X*)成分に含まれる前記有機化合物がスルフィニル基(>S=O)を含む官能基を持つ場合、この官能基が、スルホン酸基(-SO3H)、スルフィン酸基(-SO2H)の1種又は2種であることが好ましい。また、(X+X*)成分に含まれる前記有機化合物がホスホリル基(≡P=O)を含む官能基を持つ場合、構造式O=POH(OR)2又はO=P(OH)2(OR)(Rは炭化水素基)のリン酸エステルを構成する極性原子団O=P(OH)=又はO=P(OH)2-の1種又は2種であることが好ましい。水性処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、これらの官能基は、シラン化合物やジルコニル化合物との架橋反応が比較的速く、かつ、金属表面や金属表面を覆っている金属腐食生成物と反応し、前記防錆皮膜と金属表面との密着性を高めるためである。
【0067】
スルホン酸基(-SO3H)を持ち、本発明の目的に使用可能な有機化合物としては、例えば、ヒドロキシルアミン-O-スルホン酸(分子式H2N-O-SO3H;20℃の水100gへの溶解度>1.0g;分子量113.09)、m-アミノベンゼンスルホン酸(分子式H2N-C6H4-SO3H;20℃の水100gへの溶解度1.4g;分子量173.19)、タウリン(分子式H2N-CH2-CH2-SO3H;20℃の水100gへの溶解度2.0g;分子量125.15)等が挙げられる。スルフィン酸基(-SO2H)を持ち、本発明の目的に使用可能な有機化合物の塩としては、例えば、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム(分子式CH2(OH)-SO2Na;20℃の水100gへの溶解度68g;分子量154.12)等が挙げられる。また、構造式O=POH(OR)2又はO=P(OH)2(OR)(Rは炭化水素基)のリン酸エステルで本発明の目的に使用可能な有機化合物としては、例えば、アデノシン5’-1リン酸(アデノシンのリン酸エステル、簡略構造式O=P(OH)2-(ORade)のRade部分がアデノシン残基、アデノシンは生体のリボ核酸の構成成分でヒドロキシル基(-OH)とアミノ基(-NH2)を含む;20℃の水100gへの溶解度>1.0g;分子量347.22)、シチジン3’-1リン酸(シチジンのリン酸エステル、簡略構造式O=P(OH)2-(ORcyt)のRcyt部分がシチジン残基、シチジンは生体のリボ核酸の構成成分でヒドロキシル基(-OH)とアミノ基(-NH2)を含む;20℃の水100gへの溶解度3.0g;分子量323.2)が挙げられる。
【0068】
本発明において、防錆処理剤の(X*)成分に含まれる前記有機化合物がカルボキシル基(-COOH)を持つ場合、前記(X*)成分が、下記に示す、(a*)成分、(b*)成分、(c*)成分のいずれか1種又は2種以上であることがより好ましい。これらの特定のカルボキシル化合物は、他のカルボキシル化合物に比べ、水性処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、シラン化合物やジルコニル化合物との架橋反応が速いためである。
【0069】
(a*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中に2基以上のカルボキシル基(-COOH)を有する脂肪族又は芳香族カルボン酸、又は、脂肪族又は芳香族カルボン酸塩。
【0070】
(b*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸、又は、脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸塩。
【0071】
(c*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族アルデヒド酸、又は、脂肪族又は芳香族アルデヒド酸塩。
【0072】
また、本発明における防錆皮膜は、以下に示す、(A)成分、(B)成分、(C)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO)成分と(ZrO)成分のいずれか1種又は2種以上、を主たる構成成分とし、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO]と、前記(SiO)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団 (>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との質量比が、[CO]:[SZO]=97:3〜10:90であることを特徴とする。
【0073】
ここで、前記(A)成分は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族カルボン酸、又は、該脂肪族カルボン酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離した前記カルボン酸の残基である。前記(B)成分は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族ヒドロキシ酸、又は、該ヒドロキシ酸のカルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離した前記ヒドロキシ酸の残基である。前記(C)成分は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族アルデヒド酸、又は、該脂肪族アルデヒド酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離するか、又は、前記カルボキシル基からの水素脱離の有無に関わらず、該アルデヒド酸のアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離したアルデヒド酸の残基である。そして、前記(SiO)成分は、酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)であり、また、前記(ZrO)成分は、ジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)である。
【0074】
前記(A)成分、(B)成分、(C)成分は、前記(X)成分のような水への溶解度や分子量についての制限はない。即ち、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分は、20℃の水100gに1.0g以上溶解しなければならないという制限はなく、かつ、分子量400以下という制限もない。特定のカルボキシル化合物である(A)成分、(B)成分、(C)成分は、他のカルボキシル化合物に比べ、水性処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、シラン化合物やジルコニル化合物との架橋反応がかなり速く進み、短時間の加熱乾燥で、非常に緻密な高分子バリア皮膜を形成する。
【0075】
また、本発明における防錆処理剤は、以下に示す(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO*)成分と(ZrO*)成分のいずれか1種又は2種以上と、水を主たる構成成分とし、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-)と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団 (>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との質量比が、[CO*]:[SZO*]=97:3〜10:90であることを特徴とする。
【0076】
ここで、前記(A*)成分は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族カルボン酸、又は脂肪族カルボン酸塩である。前記(B*)成分は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族ヒドロキシ酸、又は脂肪族ヒドロキシ酸塩である。前記(C*)成分は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族アルデヒド酸、又は脂肪族アルデヒド酸塩である。そして、(SiO*)成分は、加水分解性のアルコキシ基(-OR3、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はアルデヒド基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤であり、また、前記(ZrO*)成分は、ジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩である。
【0077】
前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分は、前記(X*)成分のような水への溶解度や分子量の制限はない。即ち、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分は、20℃の水100gに1.0g以上溶解しなければならないという制限はなく、かつ、分子量400以下という制限もない。特定のカルボキシル化合物である(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分は、他のカルボキシル化合物に比べ、水性処理剤の金属面への塗布、加熱乾燥工程で、シラン化合物やジルコニル化合物との架橋反応がかなり速く進み、短時間の加熱乾燥で、非常に緻密な高分子バリア皮膜を形成する。
【0078】
本発明において、防錆皮膜を構成する(A)成分、及び、防錆処理剤の(A*)成分として好適に用いられる脂肪族カルボン酸又はその残基あるいは塩(以下、カルボン酸等と表記することもある)は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸、又は、このカルボン酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離した脂肪族カルボン酸残基、又は、この残基と他の電子吸引性(陽性)の原子又は原子団が結合したカルボン酸塩である。このようなカルボン酸塩の例としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸のNa塩、K塩等のアルカリ金属塩、Mg塩、Ca塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。前記カルボン酸等は、前記防錆皮膜中では、被覆された金属表面の金属原子、(SiO)成分の有機官能基の構成原子、又は、(ZrO)成分の構成原子等の他原子と結合しているか、前記金属表面等に吸着しているか、又は、単独でイオン化している。また、このようなカルボン酸等は、前記防錆処理剤中では、その一部が水中でイオン化し、単独又は会合状態で存在する。前記(A)成分は、カルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離した前記脂肪族カルボン酸残基だけでなく、全く水素脱離していない脂肪族カルボン酸を含んでいてもよい。また、前記(A*)成分は、前記脂肪族カルボン酸残基だけでなく、水素脱離していない脂肪族カルボン酸も含んでいる。このような脂肪族カルボン酸は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である。
【0079】
本発明において、防錆皮膜を構成する(B)成分、及び、防錆処理剤の(B*)成分として好適に用いられる脂肪族ヒドロキシ酸又はその残基あるいは塩(以下、ヒドロキシ酸等と表記することもある)は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族ヒドロキシ酸、又は、このヒドロキシ酸のカルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離した脂肪族ヒドロキシ酸残基、又は、この残基と他の電子吸引性(陽性)の原子又は原子団が結合したヒドロキシ酸塩である。ここで、ヒドロキシ酸とは、1分子中にカルボキシル基(-COOH)とアルコール性ヒドロキシル基(-OH)とを有する有機化合物のことである。
【0080】
本発明で用いることができるヒドロキシ酸塩の例としては、例えば、前記脂肪族ヒドロキシル酸のNa塩、K塩等のアルカリ金属塩、Mg塩、Ca塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。本発明で用いることができるヒドロキシ酸等は、前記防錆皮膜中では、被覆された金属表面の金属原子、(SiO)成分の有機官能基の構成原子、又は、(ZrO)成分の構成原子等の他原子と結合しているか、前記金属表面等に吸着しているか、又は、単独でイオン化している。また、このようなヒドロキシ酸等は、前記防錆処理剤中では、その一部が水中でイオン化し、単独又は会合状態で存在する。前記(B)成分は、カルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離した前記脂肪族ヒドロキシ酸残基だけでなく、全く水素脱離していない脂肪族ヒドロキシ酸を含んでいてもよい。また、前記(B*)成分は、前記脂肪族ヒドロキシ酸残基だけでなく、水素脱離していない脂肪族ヒドロキシ酸も含んでいる。このような脂肪族ヒドロキシ酸は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である。
【0081】
本発明において、防錆皮膜を構成する(C)成分、及び、防錆処理剤の(C*)成分として好適に用いられる脂肪族アルデヒド酸又はその残基あるいは塩(以下、アルデヒド酸等と表記することもある)は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族アルデヒド酸、又は、このアルデヒド酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離するか、あるいは、前記アルデヒド酸のアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離したアルデヒド酸残基、又は、この残基と他の電子吸引性(陽性)の原子又は原子団が結合したアルデヒド酸塩である。ここで、アルデヒド酸とは、1分子中にカルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)とを有する有機化合物のことである。
【0082】
本発明で用いることができるアルデヒド酸塩の例としては、例えば、前記脂肪族アルデヒド酸のNa塩、K塩等のアルカリ金属塩、Mg塩、Ca塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。本発明で用いることができるアルデヒド酸等は、前記防錆皮膜中では、被覆された金属表面の金属原子、(SiO)成分の有機官能基の構成原子、又は、 (ZrO)成分の構成原子等の他原子と結合しているか、前記金属表面等に吸着しているか、又は、単独でイオン化している。また、このようなアルデヒド酸等は、前記防錆処理剤中では、その一部が水中でイオン化し、単独又は会合状態で存在する。前記(C)成分は、カルボキシル基又はアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離した前記脂肪族アルデヒド酸残基だけでなく、水素又は酸素が全く脱離していない脂肪族アルデヒド酸を含んでいてもよい。また、前記(C*)成分は、前記脂肪族アルデヒド酸残基だけでなく、水素、酸素が全く脱離していない脂肪族アルデヒド酸も含んでいる。このような脂肪族アルデヒド酸は、全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である。
【0083】
本発明の防錆皮膜の主成分として好適に用いられる(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び、本発明の防錆処理剤の主成分として好適に用いられる(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分を構成する分子は、分子中に、カルボキシル基(-COOH)又はカルボキシル残基(-COO)を少なくとも1基持つ。これらを全く持たない場合、(SiO)成分又は(ZrO)成分、又は、(SiO*)成分又は(ZrO*)成分、又は、金属表面との結合や吸着等の相互作用がやや不十分となり、有効な防錆皮膜を形成できないことがある。
【0084】
本発明における(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分を構成する分子は、1分子につき全炭素数が2個以上でなければならず、10個以下であるのが好ましい。炭素数が1個のカルボン酸(即ち、蟻酸(HCOOH))から水素脱離した残基(HCOO)は、結合や吸着が可能な部位を1個しか持たないため(ここでは、-COO)、(SiO)成分又は(ZrO)成分、又は、(SiO*)成分又は(ZrO*)成分と高分子量の架橋複合体を形成することができず、有効な防錆皮膜を形成できない。また、炭素数が1個のヒドロキシ酸、アルデヒド酸は存在しない。一方、全炭素数が10個を超えると、金属部材表面の皮膜形成反応に関わる元のカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルデヒド酸の分子量が過大となり、これらが水に溶け難いため、処理剤の製造が不可能な場合が多い。また、例え処理剤が製造できたとしても、これらの分子が大きくて処理剤中で迅速に移動できないため、(SiO)成分又は(ZrO)成分、又は、(SiO*)成分又は(ZrO*)成分との架橋反応が遅く、皮膜形成が困難である。前記と同様の理由で、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分を構成する分子は、1分子につき、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個であるのが好ましい。
【0085】
(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分を構成する分子のカルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基及びこれらの残基の総数は、1分子につき2基以上でなければならず、かつ8基以下であるのが好ましい。総数が1基の場合は、脂肪族モノカルボン酸又はその残基であり、前記の蟻酸の場合と同様、(SiO)成分又は(ZrO)成分、又は、(SiO*)成分又は(ZrO*)成分と高分子量の架橋複合体を形成することができず、有効な防錆皮膜を形成できない。一方、8基を超えると、極性官能基の数が多過ぎて耐水性が低下し、有効な防錆皮膜を形成できない恐れがある。
【0086】
前記防錆皮膜の主成分として好適に用いられる (A)成分、(B)成分、(C)成分それぞれの必須成分である脂肪族カルボン酸又はその残基、脂肪族ヒドロキシ酸又はその残基、脂肪族アルデヒド酸又はその残基のすべてを1つの化学構造式で包括的に示すことは容易でないが、次のように、幾つかにまとめることができる。即ち、蓚酸(HOOC-COOH)又はその残基(HOOC-COO、OOC-COO)、グリオキシル酸(OHC-COOH)又はその残基(OHC-COO、OC-COOH、HC-COOH、OC-COO、HC-COO)、及び、全炭素数が2〜10個のR6(-COOH)a(-COO)b(-OH)c(-O)d(-CHO)e(-CO)f(-CH)g (ここで、R6は炭素数が1個〜6個までの炭化水素基、-COOはカルボキシル残基、-Oはヒドロキシル残基、-COと-CHはアルデヒド残基である。また、a、b、c、d、e、f、gは0以上の整数で、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基及びこれらの残基の総数は2≦a+b+c+d+e+f+g≦8、カルボキシル基とカルボキシル残基の総数は1≦a+b≦8、ヒドロキシル基、アルデヒド基及びこれらの残基の総数は0≦c+d+e+f+g≦7である。)のいずれか1種又は2種以上である。前記防錆処理剤の主成分として好適に用いられる(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分それぞれの必須成分である脂肪族カルボン酸又はその残基、脂肪族ヒドロキシ酸又はその残基、脂肪族アルデヒド酸又はその残基の化学構造式も、前記と同様の表記である。
【0087】
本発明において、前記防錆皮膜を構成する(SiO)成分、(ZrO)成分は、それぞれ、1個の珪素原子と1個の酸素原子からなる酸化珪素原子団、1個のジルコニウム原子と1個の酸素原子からなるジルコニル原子団であり、防錆皮膜中で、活性水素含有基を2基以上有する(X)成分、又は(A)成分、(B)成分、(C)成分と結合して高分子量の架橋複合体を形成し、緻密な防錆皮膜の一部となっている。また、本発明の防錆皮膜で被覆された金属やその酸化物の表面と結合し、前記金属やその酸化物と、防錆皮膜との密着性を高めている。
【0088】
本発明において、反応によりその一部又は全部が前記 (SiO)成分、(ZrO)成分となる出発化合物(反応前の元の化合物)や、その反応経路を特に限定しないが、出発物質は、本発明の防錆処理剤に含まれる(SiO*)成分、(ZrO*)成分が好ましい。これらの(SiO*)成分、(ZrO*)成分は、皮膜被覆しようとする金属表面に塗布、乾燥処理する際に、防錆処理剤に含まれる(X*)成分、又は、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、又は、金属表面と反応し、それぞれ(SiO)成分、(ZrO)成分を含む残基となって防錆皮膜の構成成分となる。
【0089】
これらの内、(SiO*)成分は、加水分解性のSi-OR3基(R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、前記(X*)成分の活性水素含有基や、(A*)成分のカルボキシル基、(B*)成分のカルボキシル基又はヒドロキシル基、(C*)成分のカルボキシル基又はアルデヒド基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤である。前記Si-OR3基は、水分が共存しない状態では常温で安定に存在するが、水との共存下(例えば、本発明の防錆処理剤中)では、Si-OR3基のアルコキシ基(-OR3)部位が加水分解してシラノール基(Si-OH)となる。前記シラノール基は、前記(X)成分や(B)成分の元になるヒドロキシ酸や、ヒドロキシル基(-OH)を有する金属表面等が共存すれば、それらのヒドロキシル基と脱水縮合し、それぞれ、Si-ヒドロキシル酸残基の共有結合、又は、Si-O-金属表面の共有結合を形成し、防錆皮膜成分の一部となる架橋複合体を形成し、また、防錆皮膜と金属表面との密着性を高める。市販のシランカップリング剤の中には、Si原子に直接結合している加水分解性の置換基として、例えば、Cl等のハロゲン原子を用いているものがあるが、このようなSi-ハロゲン基(例えば、Si-Cl)を持つシランカップリング剤は、加水分解性が非常に強く、水と混合すると直ちに多量のシラノール基(Si-OH)が生成し、これらのシラノール基含有分子同士が速やかに脱水縮合し、不活性なシロキサン結合(Si-O-Si)を含む化合物を短時間で多量に生成する。このような化合物を含む水性処理剤を金属に塗布しても、前記化合物のシロキサン結合部位は、金属又はその酸化物の表面のヒドロキシル基や、前記(X*)成分や(B*)成分のヒドロキシル基等と反応しないため、金属面と密着した高分子量の架橋複合体を形成することができず、有効な防錆皮膜を形成できない。これに対し、前記Si-OR3基を持つシランカップリング剤は、そのアルコキシ基(-OR3)が比較的緩やかな加水分解性を有するため、水と混合するとシラノール基(Si-OH)が徐々に生成する。このような化合物を含む水性処理剤を金属に塗布すると、前記化合物は、金属又はその酸化物の表面のヒドロキシル基や、前記(X*)成分や(B*)成分のヒドロキシル基等と反応するため、金属面又はその酸化物表面と密着した高分子量の架橋複合体を形成することができ、有効な防錆皮膜を形成できる。従って、本発明の(SiO*)成分のシランカップリング剤としては、Si原子に直接結合している置換基が前記アルコキシ基(-OR3)であるものを用いる。そして、前記シランカップリング剤の官能基で、前記(X*)成分の活性水素含有基と反応可能な有機官能基としては、例えば、エポキシ基(CH2-(O)-CH-)、アミノ基(-NH2)、ビニル基(CH2=CH-)等である。
【0090】
本発明の防錆処理剤に含まれる(ZrO*)成分は、ジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩である。前述のように、本発明において、反応によりその一部又は全部が皮膜中の(ZrO)成分となる出発化合物(反応前の元の化合物)や、その反応経路を特に限定しないが、出発物質は、前記(ZrO*)成分が好ましい。(ZrO*)成分を含む本発明の防錆処理剤を金属表面に塗布、乾燥処理する際に、防錆処理剤に含まれる(X*)成分、又は、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、又は、金属表面又はその酸化物の表面と(ZrO*)成分とが反応することにより、ジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+))が生成する。これらのジルコニル残基は、防錆皮膜中で、(X)成分の活性水素含有基と共有結合、配位結合又はイオン結合することにより、高分子量の架橋複合体の一部となり、かつ、本発明の防錆皮膜で被覆された金属やその酸化物の表面と共有結合、配位結合又はイオン結合することにより、前記金属や酸化物と前記防錆皮膜との密着性を高めている。
【0091】
本発明の防錆皮膜では、前記(X)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS]と、前記(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との関係が、([CSP]+ [NOS]):[SZO]=97:3〜10:90であり、好ましくは、([CSP]+ [NOS]):[SZO]=90:10〜30:70である。
【0092】
また、本発明の防錆処理剤では、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団≡Si-O-と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との関係が、([CSP*]+[NOS*]):[SZO*]=97:3〜10:90であり、好ましくは、([CSP*]+[NOS*]):[SZO*]=90:10〜30:70である。
【0093】
前記の防錆皮膜、又は防錆処理剤の場合、[SZO]の質量比(又は[SZO*]の質量比)が3%未満では、架橋反応に与る(SiO)成分と(ZrO)成分の合計(又は(SiO*)成分と(ZrO*)成分の合計)が、(X)成分(又は(X*)成分)に比べ少ないため、皮膜中で、(SiO)成分や(ZrO)成分を介する(X)成分相互の連結部位が少なくなり、緻密な架橋ネットワークが形成されず、膜の防錆性が不十分となる。[SZO]の質量比(又は[SZO*]の質量比)が90%を超える場合、(SiO)成分と(ZrO)成分の合計(又は(SiO*)成分と(ZrO*)成分の合計)が、(X)成分(又は(X*)成分)に比べ多いため、皮膜中で、(X)成分との架橋高分子に組み込まれず、かつ皮膜に被覆された金属面とも結合していない(SiO)成分、(ZrO)成分が多くなる。皮膜中のこのような(SiO)成分、(ZrO)成分の多くは、未反応の低分子量の酸化珪素化合物や低分子量ジルコニル化合物の構成基であり、これらは(X)成分の架橋高分子が作るネットワーク構造の緻密性を低下させるため、腐食因子が皮膜を貫入し易くなり、その結果、防錆性が不十分となる。
【0094】
更に、本発明の防錆皮膜では、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO]と、前記(SiO)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との質量比が、[CO]:[SZO]=97:3〜10:90であり、好ましくは、[CO]:[SZO]=90:10〜30:70である。
【0095】
また、本発明の防錆処理剤では、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO*]と、前記(SiO*)成分に含まれる原子団≡Si-O-と前記(ZrO*)成分に含まれる原子団(>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との質量比が、 [CO*]:[SZO*]=97:3〜10:90であり、好ましくは、[CO*]:[SZO*]=90:10〜30:70である。
【0096】
前記の防錆皮膜、又は防錆処理剤の場合、[SZO]の質量比(又は[SZO*]の質量比)が3%未満では、架橋反応に与る(SiO)成分と(ZrO)成分の合計(又は(SiO*)成分と(ZrO*)成分の合計)が、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計(又は(A*)成分と(B*)成分と(C*)成分の合計)に比べ少ないため、皮膜中で、(SiO)成分や(ZrO)成分を介する(A)成分、(B)成分、(C)成分相互の連結部位が少なくなり、(SiO)成分、(ZrO)成分(又は(SiO*)成分、(ZrO*)成分)が(X)成分(又は(X*)成分)と共存する場合と同様、緻密な架橋ネットワーが形成されず、膜の防錆性が不十分となる。[SZO]の質量比(又は[SZO*]の質量比)が90%を超える場合、(SiO)成分と(ZrO)成分の合計(又は(SiO*)成分と(ZrO*)成分の合計)が、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計(又は(A*)成分と(B*)成分と(C*)成分の合計)に比べ多いため、皮膜中で、(A)成分、(B)成分、(C)成分との架橋高分子に組み込まれず、かつ皮膜に被覆された金属面とも結合していない(SiO)成分、(ZrO)成分が多くなる。皮膜中のこのような(SiO)成分、(ZrO)成分の多くは、未反応の低分子量の酸化珪素化合物や低分子量ジルコニル化合物の構成基であり、これらは(A)成分、(B)成分、(C)成分の架橋高分子が作るネットワーク構造の緻密性を低下させるため、腐食因子が皮膜を貫入し易くなり、その結果、防錆性が不十分となる。
【0097】
本発明において、金属表面上への防錆皮膜の付着量は0.02〜5.0g/m2が好ましく、0.1〜2.0 g/m2が特に好ましい。0.02g/m2未満では、腐食因子の透過抑止効果が小さく、十分な防錆性が得られない可能性があり、5.0g/m2を超えると、腐食因子の透過抑止効果は優れるが、皮膜コストが上昇し、かつ導電性、溶接性に劣るため実用的でない。
【0098】
本発明の防錆皮膜の構成成分として使用可能な(A)成分に含まれる脂肪族カルボン酸、及び、本発明の防錆処理剤の構成成分として使用可能な(A*)成分に含まれる脂肪族カルボン酸が、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜5の飽和脂肪族ジカルボン酸(構造式は、HOOC-(CH2)(a1)-COOH。(a1)は整数で0≦(a1)≦5。-(CH2)(a1)-鎖部位にはメチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)、及び、カルボキシル炭素を除く炭素数が2〜5の不飽和脂肪族ジカルボン酸(構造式は、HOOC-(CH2)(b1)-CH=CH-(CH2)(b2)-COOH。(b1)と(b2)は0以上の整数で、0≦(b1)+(b2)≦3。-(CH2)(b1)-鎖、-(CH2)(b2)-鎖部位にはメチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)のいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。このような脂肪族カルボン酸を用いると、防錆性やコストの点等で良好な防錆皮膜が得られる。前記の飽和脂肪族ジカルボン酸が水素脱離して生じる飽和脂肪族ジカルボン酸残基の構造式は、HOOC-(CH2)(a2)-COO-及び -OOC-(CH2)(a3)-COO- ((a2)、(a3)は整数で、0≦(a2)≦5、0≦(a3)≦5。-(CH2)(a2)-鎖、-(CH2)(a3)-鎖部位にはメチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)のいずれか1種又は2種以上である。また、前記の不飽和脂肪族ジカルボン酸が水素脱離して生じる不飽和脂肪族ジカルボン酸残基の構造式は、HOOC-(CH2)(b3)-CH=CH-(CH2)(b4)-COO-及び-OOC-(CH2)(b5)-CH=CH-(CH2)(b6)-COO- ((b3)、(b4)、(b5)、(b6)は0以上の整数で、0≦(b3)+(b4)≦3、0≦(b5)+(b6)≦3。-(CH2)(b3)-鎖、-(CH2)(b4)-鎖、-(CH2)(b5)-鎖、-(CH2)(b6)-鎖部位にはメチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)のいずれか1種又は2種以上である。
【0099】
さらに、本発明では、本発明の防錆皮膜の構成成分として使用可能な(A)成分に含まれる飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸、及び、本発明の防錆処理剤の構成成分として使用可能な(A*)成分に含まれる飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸が、蓚酸(HOOC-COOH)、マロン酸(HOOC-CH2-COOH)、コハク酸(HOOC-(CH2)2-COOH)、グルタル酸(HOOC-(CH2)3-COOH)、アジピン酸(HOOC-(CH2)4-COOH)、α-ケトグルタル酸(HOOC-CH2-CH2CO-COOH)、マレイン酸(cis-HOOC-CH=CH-COOH)のいずれか1種又は2種以上であることがより好ましい。このような脂肪族カルボン酸を用いると、防錆性やコストの点等でより良好な防錆皮膜が得られる。
【0100】
また、本発明では、本発明の防錆皮膜の構成成分として使用可能な(B)成分に含まれる脂肪族ヒドロキシ酸、及び、本発明の防錆処理剤の構成成分として使用可能な(B*)成分に含まれる脂肪族ヒドロキシ酸が、カルボキシル炭素を除く炭素数が1〜4の脂肪族ヒドロキシ酸 (構造式は、CH(c1)(-COOH)(c2)(-OH)(c3)-[CH(d1)(-COOH)(d2)(-OH)(d3)](p1)-[CH(e1)(-COOH)(e2)(-OH)(e3)](p2)-[CH(f1)(-COOH)(f2)(-OH)(f3)](p3)。(p1)、(p2)、(p3)は0又は1。(c1)〜(c3)、(d1)〜(d3)、(e1)〜(e3)、(f1)〜(f3)はいずれも0以上の整数で、(c1)+(c2)+(c3)=3、(d1)+(d2)+(d3)=2、(e1)+(e2)+(e3)=2、(f1)+(f2)+(f3)=3。分子中のカルボキシル基の総数 (c2)+(d2)+(e2)+(f2)≧1、分子中のヒドロキシル基の総数 (c3)+(d3)+(e3)+(f3)≧1)のいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。このような脂肪族ヒドロキシ酸を用いると、防錆性やコストの点等で良好な防錆皮膜が得られる。前記の脂肪族ヒドロキシ酸が水素脱離して生じる脂肪族ヒドロキシ酸残基の構造式は、CH(c4)(-COOH)(c5)(-COO)(c6)(-OH)(c7)(-O)(c8)-[CH(d4)(-COOH)(d5)(-COO)(d6)(-OH)(d7)(-O)(d8)](p4)-[CH(e4)(-COOH)(e5)(-COO)(e6)(-OH)(e7)(-O)(e8)](p5)-[CH(f4)(-COOH)(f5)(-COO)(f6)(-OH)(f7)(-O)(f8)](p6) (-COOはカルボキシル残基、-Oはヒドロキシル残基。(p4)、(p5)、(p6)は0又は1。(c4)〜(c8)、(d4)〜(d8)、(e4)〜(e8)、(f4)〜(f8)はいずれも0以上の整数で、(C4)+(C5)+(C6)+(C7)+(C8)=3、(d4)+(d5)+(d6)+(d7)+(d8)=2、(e4)+(e5)+(e6)+(e7)+(e8)=2、(f4)+(f5)+(f6)+(f7)+(f8)=3。分子中のカルボキシル基及びカルボキシル残基の総数(c5)+(c6)+(d5)+(d6)+(e5)+(e6)+(f5)+(f6)≧1、分子中のヒドロキシル基及びヒドロキシル残基の総数(c7)+(c8)+(d7)+(d8)+(e7)+(e8)+(f7)+(f8)≧1。)のいずれか1種又は2種以上である。
【0101】
さらに、本発明では、本発明の防錆皮膜の構成成分として使用可能な(B)成分に含まれる脂肪族ヒドロキシ酸、及び、本発明の防錆処理剤の構成成分として使用可能な(B*)成分に含まれる脂肪族ヒドロキシ酸が、グリコール酸(CH2(OH)-COOH)、乳酸(CH3CH(OH)-COOH)、グリセリン酸(CH2(OH)-CH(OH)-COOH)、クエン酸(HOOC-CH2-C(OH)(COOH)-CH2-COOH)、酒石酸(HOOC-CH(OH)-CH(OH)-COOH)、又は、リンゴ酸(HOOC-CH(OH)-CH2-COOH)のいずれか1種又は2種以上であることがより好ましい。このような脂肪族ヒドロキシ酸を用いると、防錆性やコストの点等でより良好な防錆皮膜が得られる。
【0102】
また、本発明では、本発明の防錆皮膜の構成成分として使用可能な(C)成分に含まれる脂肪族アルデヒド酸、及び、本発明の防錆処理剤の構成成分として使用可能な(C*)成分に含まれる脂肪族アルデヒド酸が、カルボキシル炭素及びアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜4の脂肪族アルデヒド酸(構造式は、CHO-COOH、又は、CH(g1)(-COOH)(g2)(-CHO)(g3)-[CH(h1)(-COOH)(h2)(-CHO)(h3)](q1)-[CH(i1)(-COOH)(i2)(-CHO)(i3)](q2)-[CH(j1)(-COOH)(j2)(-CHO)(j3)](q3) ((q1)、(q2)、(q3)は0又は1。(g1)〜(g3)、(h1)〜(h3)、(i1)〜(i3)、(j1)〜(j3)はいずれも0以上の整数で、(g1)+(g2)+(g3)=3、(h1)+(h2)+(h3)=2、(i1)+(i2)+(i3)=2、(j1)+(j2)+(j3)=3。分子中のカルボキシル基の総数(g2)+(h2)+(i2)+(j2)≧1、分子中のアルデヒド基の総数(g3)+(h3)+(i3)+(j3)≧1)のいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。このような脂肪族アルデヒド酸を用いると、防錆性やコストの点等で良好な防錆皮膜が得られる。前記の脂肪族アルデヒド酸が水素又は酸素が脱離して生じる脂肪族アルデヒド酸残基の構造式は、グリオキシル酸残基OHC-COO、OC-COOH、HC-COOH、OC-COO、HC-COO、又は、CH(g4)(-COOH)(g5)(-COO)(g6)(-CHO)(g7)(-CO)(g8)(-CH)(g9)-[CH(h4)(-COOH)(h5)(-COO)(h6)(-CHO)(h7)(-CO)(h8)(-CH)(h9)](q4)-[CH(i4)(-COOH)(i5)(-COO)(i6)(-CHO)(i7)(-CO)(i8)(-CH)(i9)](q5)-[CH(j4)(-COOH)(j5)(-COO)(j6)(-CHO)(j7)(-CO)(j8)(-CH)(j9)](q6) (-COOはカルボキシル残基、-COと-CHはアルデヒド残基。(q4)、(q5)、(q6)は0又は1。 (g4)〜(g9)、(h4)〜(h9)、(i4)〜(i9)、(j4)〜(j9)はいずれも0以上の整数で、(g4)+(g5)+(g6)+(g7)+(g8)+(g9)=3、(h4)+(h5)+(h6)+(h7)+(h8)+(h9)=2、(i4)+(i5)+(i6)+(i7)+(i8)+(i9)=2、(j4)+(j5)+(j6)+(j7)+(j8)+(j9)=3。分子中のカルボキシル基及びカルボキシル残基の総数(g5)+(g6)+(h5)+(h6)+(i5)+(i6)+(j5)+(j6)≧1、分子中のアルデヒド基及びアルデヒド残基の総数(g7)+(g8)+(g9) +(h7)+(h8)+(h9)+(i7)+(i8)+(i9)+(j7)+(j8)+(j9)≧1。)のいずれか1種又は2種以上である。
【0103】
さらに、本発明では、本発明の防錆皮膜の構成成分として使用可能な(C)成分に含まれる脂肪族アルデヒド酸、及び、本発明の防錆処理剤の構成成分として使用可能な(C*)成分に含まれる脂肪族アルデヒド酸が、グリオキシル酸(CHO-COOH)であることがより好ましい。脂肪族アルデヒド酸としてグリオキシル酸を用いると、防錆性の点等でより良好な防錆皮膜が得られる。
【0104】
本発明の(SiO*)成分 は、加水分解性のアルコキシ基(-OR3、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はアルデヒド基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤である。本発明では、前記(SiO*)成分が、アミノアルキルシラン[NH2-R*-Si(-OR3)3]とエポキシアルキルシラン[CH2-(O)-CH-R*-Si(-OR3)3] (R*は炭素数が7個までの有機基、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)のいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。これらは、防錆皮膜形成時、前記(X*)成分、又は、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、及び、金属表面やその酸化物表面とよく反応し、緻密な高分子複合体や金属表面との強固な結合を形成するため、良好な防錆皮膜が得られる。また、前記(SiO*)成分は、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン[NH2(CH2)2-NH(CH2)3-Si(OCH3)3]とγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン[CH2-(O)-CH-CH2O-(CH2)3-Si(OCH3)3] のいずれか1種又は2種以上であることが特に好ましい。これらは、防錆皮膜形成時、前記(X*)成分、又は、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、及び、金属表面やその酸化物表面と速やかに反応し、特に緻密な高分子複合体や金属表面との強固な結合を形成するため、優れた防錆皮膜が得られる。
【0105】
本発明の防錆処理剤に含まれる(ZrO*)成分であるジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩は、水性かつ酸性であれば特に制限はなく、例えば、硝酸ジルコニル(ZrO(NO3)2)や硫酸ジルコニル(ZrOSO4)等が挙げられるが、低級カルボン酸とジルコニル(ZrO2+)の水溶性塩であることが好ましく、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO)2)、酢酸ジルコニル(ZrO(CH3COO)2)、プロピオン酸ジルコニル(ZrO(C2H5COO)2)、酪酸ジルコニル(ZrO(C3H7COO)2)、蓚酸(HOOC-COOH)とジルコニル(ZrO2+)の塩、マロン酸(HOOC-CH2-COOH)とジルコニルの塩、又は、コハク酸(HOOC-(CH2)2-COOH)とジルコニルの塩の1種又は2種以上であることが好ましい。これらの酸性塩は、金属表面上に防錆皮膜を形成する際、前記(X*)成分、又は、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、及び、金属表面やその酸化物表面とよく反応し、緻密な高分子複合体や金属表面との強固な結合を形成するため、良好な防錆皮膜が得られる。
【0106】
本発明の防錆皮膜、及び、防錆処理剤は、化学物質管理促進法が指定する化学物質を含んでいてはならない。例えば、化学物質管理促進法の第一種指定化学物質であるモノクロロ酢酸(CH2Cl-COOH)とジルコニル(ZrO2+)の塩等は、防錆処理剤の(ZrO*)成分から除外される。
【0107】
本発明の防錆皮膜、及び、防錆処理剤には、前記(X)成分、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分、前記(SiO)成分、(ZrO)成分、及び、前記(X*)成分、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、前記(SiO*)成分、(ZrO*)成分以外に、水性の防錆添加剤がさらに含まれていてもよい。このような防錆添加剤としては、防錆皮膜中で腐食抑制機能を発揮し、本発明の防錆処理剤に溶解、均一分散あるいは懸濁させることができ、かつ化学物質管理促進法の指定化学物質以外のものであれば、どのようなものを用いてもよい。このような防錆添加剤の例としては、分子中に種々の金属吸着性官能基を持つ有機又は無機系の化合物、例えば、各種チオール類、アミン類、カルボン酸塩類、チオ硫酸塩類、タングステン酸塩類、りん酸塩類、亜りん酸塩類、次亜りん酸塩類、及び、種々の架橋剤、例えば、(SiO*)成分以外のシランカップリング剤、チタンカップリング剤、及び、防錆顔料、等が挙げられる。前記防錆添加剤は、本発明の処理剤に直接添加しても、予め水に溶解、分散あるいは懸濁させてから処理剤に添加してもよい。前記防錆添加剤と水との濡れ性を高めるため湿潤剤を用いたり、処理剤中での防錆添加剤の分散性を高めるため分散剤(界面活性剤)を用いたり、湿潤剤と分散剤を併用したり、粒子の沈降を防ぐため増粘剤を添加してもよい。
【0108】
本発明の防錆皮膜、及び、防錆処理剤には、前記の防錆添加剤以外にも、その目的を損なわない範囲で、各種の無機系あるいは有機系の化合物を含んでいても差し支えない。このような添加剤の例としては、無機系又は有機系潤滑剤、無機系又は有機系コロイド粒子、各種の無機系又は有機系顔料、各種の水性樹脂等が挙げられる。これらのような各種の無機系あるいは有機系の化合物を添加する場合、本発明の防錆皮膜、及び、防錆処理剤の目的を損なわないよう、防錆皮膜の総質量の20質量%以下、及び、防錆処理剤の非揮発分総質量に対し20質量%以下の添加がよい。
【0109】
本発明において、防錆皮膜で被覆される金属としては、金属部材として各産業分野で用いられるどのような金属でもよく、例えば、アルミニウム、チタン、亜鉛、銅、ニッケル、鋼等が適用可能である。この内、鋼を使用する場合には、成分を特に限定せず、普通鋼であっても、Cr等の添加元素含有鋼であっても良い。
【0110】
また、鋼の表面に被覆めっき層があってもよいが、その種類を特に限定せず、適用可能なめっき層としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケルのいずれか1種からなるめっき、及び、これらの金属元素やさらに他の金属元素、非金属元素を含む合金めっきが挙げられる。めっき層の形成方法も特に限定せず、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよく、例えば、溶融めっきでは、連続式は主に薄板材、線材類に用いられ、バッチ式のめっきは、管類、圧延材、加工品、ボルト・ナット類、鋳鍛造品類等の最終製品に成形した後に溶融めっき浴に浸漬することによる(いわゆる後めっき)。
【0111】
また、鋼板へのめっき後の処理として、溶融めっき後の外観均一処理であるゼロスパングル処理、めっき層の改質処理である焼鈍処理、表面状態や材質調整のための調質圧延等があり得るが、本発明においては特にこれらを限定せず、いずれを適用することも可能である。
【0112】
本発明において、防錆皮膜と金属との界面に化学物質管理促進法の指定化学物質を含有しない下地処理皮膜を設けてもよい。該皮膜組成を特に限定しないが、金属面と上層防錆皮膜のそれぞれに対し、密着性に優れ、かつ腐食抑制能を有する化合物により形成されることが好ましい。例えば、ジルコニウム、タングステン又は希土類元素の1種又は2種以上を含む金属系化合物、該金属系化合物以外のりん酸塩、亜りん酸塩、次亜りん酸塩、シロキサン結合を有する化合物、前記(SiO*)成分以外のシランカップリング剤、チタンカップリング剤等から選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0113】
本発明において、金属面、又は、金属面の下地処理皮膜上への防錆皮膜形成の方法としては、前記防錆処理剤を金属表面の少なくとも一部に塗布して乾燥する方法が好ましい。前記防錆処理剤が塗布された金属表面上で、前記(X*)成分、又は、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分と、(SiO*)成分、(ZrO*)成分が緻密な高分子複合体や架橋重合体を形成し、また、更にこれらの成分の一部が金属表面又は金属面上の下地処理皮膜と反応して皮膜密着性を高めることができる方法であれば、特に限定しない。このような方法としては、例えば、防錆処理剤への金属のディップ、防錆処理剤のロールコート、バーコート、刷毛塗り、あるいはスプレー等の後、熱風等で加熱乾燥すればよいが、他の方法で塗布、皮膜形成させてもよく、ここで掲げた方法に限定しない。しかしながら、安定製造の観点から、塗布後、金属表面到達温度が60℃以上になるようにすることがより好ましい。
【0114】
本発明において、防錆皮膜上に、化学物質管理促進法の指定化学物質を含有しない塗装皮膜が形成されていてもよい。該塗装皮膜の組成を特に限定しないが、該防錆皮膜に対し密着性に優れることが好ましい。例えば、種々の有機樹脂系皮膜、無機系皮膜、有機-無機混合系の皮膜、これらの皮膜を組合せて複層した多層皮膜等が挙げられる。
【0115】
防錆皮膜中の、(X)成分、又は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び、(SiO)成分、(ZrO)成分、また、防錆処理剤中の、(X*)成分、又は、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、及び、(SiO*)成分、(ZrO*)成分の存在確認(同定)方法及び定量方法としては、どのような方法を用いてもよい。防錆皮膜の場合、皮膜中で、有機化合物である(X)成分、又は、(A)成分、(B)成分、(C)成分と、無機原子団である(SiO)成分又は(ZrO)成分とが相互に結合し、有機-無機高分子複合体や有機-無機架橋重合体を形成しているため、皮膜をそのまま分析するより、皮膜を加熱し、熱分解して得た生成物中の有機成分を分析する方が、各成分の同定や定量が容易な場合が多い。そこで、例えば、 有機化合物である(X)成分、又は、(A)成分、(B)成分、(C)成分は、熱分解GC-MS法(試料を加熱分解し、分解生成物の混合ガスをガスクロマトグラフで分離後、それぞれの分解生成物を質量分析により同定、定量する方法)を用いて分析できる。熱分解GC-MS法による分析は、例えば、金属部材表面から削り取った数十mg程度の皮膜を500℃、5秒間熱分解し、各分解生成物の定量分析結果から、(X)成分、又は、(A)成分、(B)成分、(C)成分が皮膜中に存在するかどうか判断し、存在する場合は皮膜中の含有率を算出する。また、有機基を持たない無機原子団である(SiO)成分又は(ZrO)成分は、例えば、以下のような方法で同定や定量ができる。まず、防錆皮膜で被覆された金属部材をフッ化水素酸に浸漬し、皮膜中の有機-無機高分子複合体や有機-無機架橋重合体を他の構成成分と分離する。フッ化水素酸を用いると、前記金属部材の金属部分(白金と金以外のすべての金属)を溶解除去でき、かつ、コロイダルシリカ等のSiO2系の無機添加物や、酸化ジルコニウム等のZrO2系の無機添加物が皮膜に含まれる場合でも、これらを容易に溶解除去でき、フッ化水素酸に侵されない有機-無機高分子複合体や有機-無機架橋重合体、有機樹脂、有機化合物等が固体として残る。次に、この残存物を空気中で500℃、5分間加熱分解して得た二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)を、原子吸光分析、広角X線回折法を用いた分析、蛍光X線分析等のいずれかで定量し、それらの質量から酸素1個分の質量を除くことにより、前記の有機-無機高分子複合体や有機-無機架橋重合体に含まれる(SiO)成分及び(ZrO)成分を定量できる。
【0116】
防錆処理剤中の(X*)成分、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分、(SiO*)成分、(ZrO*)成分はいずれも有機基を持つため、液体クロマトグラフィーで分離後の各化合物の質量分析、赤外分光分析等を併用することにより定量できる。
【0117】
以上の各成分の定量値から、防錆皮膜の場合には、(X)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS]と、前記(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]を算出する。(A)成分、(B)成分、(C)成分を含む防錆皮膜の場合は、(A)成分、(B)成分、(C)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO]を算出する。
【0118】
防錆処理剤の場合には、(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団≡Si-O-と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]を算出する。(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分を含む防錆処理剤の場合は、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO*]を算出する。
【0119】
また、調査する防錆皮膜の構成成分の内、前記(X)成分がカルボニル基(>C=O)を含む成分に限られることが判っている場合、又は、調査する防錆皮膜の構成成分がカルボニル基(>C=O)を含む(A)成分、(B)成分、(C)成分のいずれかであることが判っている場合、また、更に、調査する防錆処理剤の構成成分の内、前記(X*)成分がカルボニル基(>C=O)を含む成分に限られることが判っている場合、又は、調査する防錆処理剤の構成成分がカルボニル基(>C=O)を含む(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分のいずれかであることが判っている場合、前記[CSP]や[CSP*]、前記[CO]や[CO*]は、防錆皮膜又は防錆処理剤をそのまま分光分析することにより、比較的容易に定量できる。例えば、カルボニル基の強い赤外特性吸収(COの伸縮振動に基づく吸収スペクトル、出現波数は1700cm-1付近)による定量や、防錆処理剤の場合は、さらに、溶液の紫外線吸収スペクトル(COの吸収スペクトルの波長帯は270〜300nm付近)による定量を利用できる。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0121】
[金属の種類]
1. EG:電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm)
2. GA:合金化溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm)
【0122】
[防錆皮膜の形成]
1. 本発明の防錆皮膜
水性防錆処理剤の構成成分として、本発明の(X*)成分、(SiO*)成分、(ZrO*)成分を用いた。用いた薬品を表1、2に示す。ここで防錆皮膜形成に用いた(X*)成分のうち、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分のいずれかに該当するものについては、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分の別を併記した。ここで用いた(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分はすべて(X*)成分でもあり、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分のいずれかであって(X*)成分でないもの(例えば、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分の内、20℃の水100gに1.0g未満しか溶解しないもの、又は、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分の内、分子量400を超えるもの)は用いなかった。
【0123】
表1の(X*)成分に水を加え、さらに(SiO*)成分、又は、(ZrO*)成分を添加し、本発明の水性防錆処理剤を作成した。前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]を合わせたもの([CSP*]+[NOS*])と、(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団≡Si-O-と(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量合計[SZO*]との比率([CSP*]+ [NOS*]):[SZO*]は、(X*)成分、(SiO*)成分、(ZrO*)成分の添加量から求めた。この防錆処理剤を前記金属表面にバーコータにより塗布し、金属表面到達温度が80℃になるように250℃の熱風炉内に約10秒間静置、乾燥して皮膜形成し、放冷して被験材とした。ここで、皮膜中の(X)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS]を合わせたもの([CSP]+[NOS])は、対象となる官能基の赤外特性吸収の強さから定量した。また、該皮膜中の(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]は、皮膜を空気中で500℃、5分間加熱分解して得た二酸化ケイ素(SiO2)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)の質量から算出した。
【0124】
2. 比較材
(1) 表1に示す、本発明の(X*)成分、(X*)成分以外の有機化合物、及び、表2に示す、本発明の(SiO*)成分、(SiO*)成分以外のシラン化合物、本発明の(ZrO*)成分、(ZrO*)成分以外のジルコニル化合物を用いた。(X*)成分に水を加え、さらに、(SiO*)成分以外のシラン化合物、又は(ZrO*)成分以外のジルコニル化合物を添加し、処理剤を作成できたものについては、前記と同様に金属表面に塗布、加熱乾燥し、成膜した。また、(X*)成分以外の有機化合物に水を加え、さらに、本発明の(SiO*)成分又は(ZrO*)成分を添加し、処理剤を作成できたものについては、前記と同様に金属表面に塗布、加熱乾燥し、成膜した。
【0125】
(2) 前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]を合わせたもの([CSP*]+[NOS*])と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団≡Si-O-と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量合計[SZO*]との質量比が、([CSP*]+[NOS*]):[SZO*]=98:2又は5:95の処理剤を作成し、前記と同様に金属表面に塗布、加熱乾燥し、成膜した。
【0126】
前記(1)、(2)の処理剤中の有機化合物に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]を合わせたもの([CSP*]+[NOS*])と、(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団≡Si-O-と(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量合計[SZO*]との比率([CSP*]+ [NOS*]):[SZO*]は、用いた有機化合物、シラン化合物、ジルコニル化合物の添加量から求めた。また、金属表面に成膜できたものについて、皮膜に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS]を合わせたもの([CSP]+[NOS])は、対象となる官能基の赤外特性吸収の強さから定量した。皮膜に含まれる(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]は、皮膜を空気中で500℃、5分間加熱分解して得た二酸化ケイ素(SiO2)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)の質量から算出した。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

【0129】
各処理剤の構成成分、及び、前記の質量比([CSP*]+ [NOS*]):[SZO*]を、表3〜6に示す。また、前記の質量比([CSP]+ [NOS]):[SZO]を、表7〜10に示す。
【0130】
【表3】

【0131】
【表4】

【0132】
【表5】

【0133】
【表6】

【0134】
[比較クロメート皮膜の形成]
前記の処理皮膜に対する比較材として、前記の各金属に、日本パーカライジング(株)製の塗布クロメート処理剤ZM1300-ANを用いてCr付着量14mg/m2 の塗布型クロメート処理を行ったものを用い、前記の防錆処理皮膜を形成した金属と耐食性を相対比較した。
【0135】
[耐食性の評価]
(1) 平板耐食性
前記の防錆処理金属材及び比較クロメート材について、JIS-Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、48時間後の白錆発生面積を測定し、防錆処理金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより、耐食性の合否を判定した。防錆処理金属、比較クロメート材の白錆発生面積率をそれぞれX%、Y%とすると、判定基準は、
評点 4 X<Y
3 X≒Y
2 Y<X<2Y
1 2Y≦X
とし、評点3以上を合格とした。
【0136】
(2) 加工部耐食性
前記の防錆処理金属材及び比較クロメート材に7mmのエリクセン加工を施し、JIS-Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、48時間後の加工部における白錆発生面積を測定し、防錆処理金属材と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより、加工部耐食性の合否を判定した。判定基準は、前記の平板耐食性の場合と同じで、
評点 4 X<Y
3 X≒Y
2 Y<X<2Y
1 2Y≦X
とし、評点3以上を合格とした。
【0137】
耐食性の評価結果を、まとめて表7〜10に示す。
【0138】
【表7】

【0139】
【表8】

【0140】
【表9】

【0141】
【表10】

【0142】
本発明の要件を満たす防錆処理剤を金属面に塗布後、加熱乾燥すると、本発明の要件を満たす防錆皮膜被覆金属部材が得られ、その耐食性は、クロメート処理材のレベルに匹敵するものであることが分かる。これらの防錆処理剤、及び金属部材表面を被覆する防錆皮膜は、化学物質管理促進法の指定化学物質を含まず、低環境負荷性である。また、本発明の防錆処理剤を用いると、金属表面の1工程処理で簡便に皮膜形成できる。
【0143】
一方、処理剤に含まれる有機化合物成分が本発明にて用いる(X*)成分以外の場合、又は、処理剤に含まれるシラン化合物が本発明にて用いる(SiO*)成分以外の場合、処理剤に含まれる化合物が本発明にて用いる(ZrO*)成分以外の場合、金属表面に皮膜を形成できなかったり、皮膜を形成できても、皮膜を形成した部位の耐食性はクロメート処理材のレベルに及ばない。また、処理剤に含まれる有機化合物成分が本発明にて用いる(X*)成分であり、かつ、処理剤に含まれるシラン化合物、ジルコニル化合物がそれぞれ本発明にて用いる(SiO*)成分、(ZrO*)成分であっても、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]を合わせたもの([CSP*]+[NOS*])と、(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団≡Si-O-と(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量合計[SZO*]との比率([CSP*]+ [NOS*]):[SZO*]が、本発明で許容される範囲を逸脱している場合、皮膜を形成した部位の耐食性はクロメート処理材のレベルに及ばない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部が防錆皮膜で被覆された金属部材であって、
前記防錆皮膜は、下記に示す、(X)成分のいずれか1種又は2種以上、(SiO)成分と(ZrO)成分のいずれか1種又は2種以上、を主たる構成成分とし、前記(X)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP]と、前記(X)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS]と、前記(SiO)成分に含まれる 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との関係が、([CSP]+[NOS]):[SZO]=97:3〜10:90であることを特徴とする金属部材。
(X)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解する分子量400以下の有機化合物であって、1分子中に2基以上の活性水素含有基を有し、前記活性水素含有基の2基以上が、カルボニル基(>C=O)を含む官能基、スルフィニル基(>S=O)を含む官能基、ホスホリル基(≡P=O)を含む官能基、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、又は、メルカプト基(-SH)のいずれか1種又は2種以上である有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基から一部又は全部の活性水素が脱離した原子団、の一方又は双方。
(SiO)成分 : 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)。
(ZrO)成分 : ジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)。
【請求項2】
前記のカルボニル基(>C=O)を含む官能基が、カルボキシル基(-COOH)、アルデヒド基(-CHO)、アミド基(-CONH2)のいずれか1種又は2種以上である請求項1記載の金属部材。
【請求項3】
前記のスルフィニル基(>S=O)を含む官能基が、スルホン酸基(-SO3H)、スルフィン酸基(-SO2H)の1種又は2種である請求項1記載の金属部材。
【請求項4】
前記のホスホリル基(≡P=O)を含む官能基が、構造式O=POH(OR)2又はO=P(OH)2(OR) (Rは炭化水素基)のリン酸エステルを構成する極性原子団O=P(OH)<又はO=P(OH)2-の1種又は2種である請求項1記載の金属部材。
【請求項5】
前記(X)成分が、下記に示す、(a)成分、(b)成分、(c)成分のいずれか1種又は2種以上である請求項1記載の金属部材。
(a)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中に2基以上のカルボキシル基(-COOH)を有する脂肪族または芳香族カルボン酸、又は、前記カルボン酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離したカルボン酸の残基。
(b)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2基以上である脂肪族または芳香族ヒドロキシ酸、又は、前記ヒドロキシ酸のカルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離したヒドロキシ酸の残基。
(c)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2基以上である脂肪族または芳香族アルデヒド酸、又は、前記アルデヒド酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離するか、又は、前記カルボキシル基からの水素脱離の有無に関わらず、前記アルデヒド酸のアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離したアルデヒド酸の残基。
【請求項6】
表面の少なくとも一部が防錆皮膜で被覆された金属部材であって、
前記防錆皮膜は、下記に示す、(A)成分、(B)成分、(C)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO)成分と(ZrO)成分のいずれか1種又は2種以上、を主たる構成成分とし、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO]と、前記(SiO)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)と前記(ZrO)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO]との質量比が、[CO]:[SZO]=97:3〜10:90であることを特徴とする金属部材。
(A)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族カルボン酸、又は、該脂肪族カルボン酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離したカルボン酸の残基。
(B)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族ヒドロキシ酸、又は、該ヒドロキシ酸のカルボキシル基又はヒドロキシル基から一部又は全部の水素が脱離したヒドロキシ酸の残基。
(C)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族アルデヒド酸、又は、該アルデヒド酸のカルボキシル基から一部又は全部の水素が脱離するか、又は、前記カルボキシル基からの水素脱離の有無に関わらず、該アルデヒド酸のアルデヒド基から一部又は全部の水素又は酸素が脱離したアルデヒド酸の残基。
(SiO)成分 : 酸化珪素原子団(≡Si-O-、>Si=Oのいずれか1種又は2種)。
(ZrO)成分 : ジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)。
【請求項7】
前記脂肪族カルボン酸が、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜5の飽和脂肪族ジカルボン酸(構造式は、HOOC-(CH2)(a1)-COOH。(a1)は整数で0≦(a1)≦5。-(CH2)(a1)-鎖部位にはメチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)、又は、カルボキシル炭素を除く炭素数が2〜5の不飽和脂肪族ジカルボン酸(構造式は、HOOC-(CH2)(b1)-CH=CH-(CH2)(b2)-COOH。(b1)と(b2)は0以上の整数で、0≦(b1)+(b2)≦3。-(CH2)(b1)-鎖、-(CH2)(b2)-鎖部位には、メチレン基-CH2-以外の脂肪族基又はメチレン基の一部の水素と置換した脂肪族基を含んでいてもよい。)のいずれか1種又は2種以上である請求項5又は6に記載の金属部材。
【請求項8】
前記脂肪族カルボン酸が、蓚酸(HOOC-COOH)、マロン酸(HOOC-CH2-COOH)、コハク酸(HOOC-(CH2)2-COOH)、グルタル酸(HOOC-(CH2)3-COOH)、アジピン酸(HOOC-(CH2)4-COOH)、α-ケトグルタル酸(HOOC-CH2-CH2CO-COOH)、マレイン酸(cis-HOOC-CH=CH-COOH)のいずれか1種又は2種以上である請求項5、6又は7に記載の金属部材。
【請求項9】
前記脂肪族ヒドロキシ酸が、カルボキシル炭素を除く炭素数が1〜4の脂肪族ヒドロキシ酸(構造式は、CH(c1)(-COOH)(c2)(-OH)(c3)-[CH(d1)(-COOH)(d2)(-OH)(d3)](p1)-[CH(e1)(-COOH)(e2)(-OH)(e3)](p2)-[CH(f1)(-COOH)(f2)(-OH)(f3)](p3)。(p1)、(p2)、(p3)は0又は1。(c1)〜(c3)、(d1)〜(d3)、(e1)〜(e3)、(f1)〜(f3)はいずれも0以上の整数で、(c1)+(c2)+(c3)=3、(d1)+(d2)+(d3)=2、(e1)+(e2)+(e3)=2、(f1)+(f2)+(f3)=3。分子中のカルボキシル基の総数(c2)+(d2)+(e2)+(f2)≧1、分子中のヒドロキシル基の総数(c3)+(d3)+(e3)+(f3)≧1)のいずれか1種又は2種以上である請求項5又は6に記載の金属部材。
【請求項10】
前記脂肪族ヒドロキシ酸が、グリコール酸(CH2(OH)-COOH)、乳酸(CH3CH(OH)-COOH)、グリセリン酸(CH2(OH)-CH(OH)-COOH)、クエン酸(HOOC-CH2-C(OH)(COOH)-CH2-COOH)、酒石酸(HOOC-CH(OH)-CH(OH)-COOH)、又は、リンゴ酸(HOOC-CH(OH)-CH2-COOH)のいずれか1種又は2種以上である請求項5、6又は9に記載の金属部材。
【請求項11】
前記脂肪族アルデヒド酸が、カルボキシル炭素及びアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜4の脂肪族アルデヒド酸(構造式は、CHO-COOH、又は、CH(g1)(-COOH)(g2)(-CHO)(g3)-[CH(h1)(-COOH)(h2)(-CHO)(h3)](q1)-[CH(i1)(-COOH)(i2)(-CHO)(i3)](q2)-[CH(j1)(-COOH)(j2)(-CHO)(j3)](q3) ((q1)、(q2)、(q3)は0又は1。(g1)〜(g3)、(h1)〜(h3)、(i1)〜(i3)、(j1)〜(j3)はいずれも0以上の整数で、(g1)+(g2)+(g3)=3、(h1)+(h2)+(h3)=2、(i1)+(i2)+(i3)=2、(j1)+(j2)+(j3)=3。分子中のカルボキシル基の総数 (g2)+(h2)+(i2)+(j2)≧1、分子中のアルデヒド基の総数 (g3)+(h3)+(i3)+(j3)≧1)のいずれか1種又は2種以上である請求項5又は6に記載の金属部材。
【請求項12】
前記脂肪族アルデヒド酸が、グリオキシル酸(CHO-COOH)である請求項5、6又は11に記載の金属部材。
【請求項13】
前記防錆皮膜の付着量が0.02g/m2〜5.0g/m2である請求項1〜12のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項14】
下記に示す、(X*)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO*)成分と(ZrO*)成分のいずれか1種又は2種以上、水を主たる構成成分とし、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基のカルボニル基(>C=O)、スルフィニル基(>S=O)又はホスホリル基(≡P=O)の質量の合計[CSP*]と、前記(X*)成分に含まれるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)又はメルカプト基(-SH)の中心原子である窒素原子(N)、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)の質量の合計[NOS*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-)と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団(>Zr=O、≡Zr-O-又はジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との関係が、([CSP*]+[NOS*]):[SZO*]=97:3〜10:90であることを特徴とする防錆処理剤。
(X*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解する分子量400以下の有機化合物であって、1分子中に2基以上の活性水素含有基を有し、前記活性水素含有基の2基以上が、カルボニル基(>C=O)を含む官能基、スルフィニル基(>S=O)を含む官能基、ホスホリル基(≡P=O)を含む官能基、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、又は、メルカプト基(-SH)のいずれか1種又は2種以上である有機化合物、又は、前記有機化合物の活性水素含有基の一部又は全部の活性水素が他の陽イオンで置換された塩、の一方又は双方。
(SiO*)成分 : 加水分解性のアルコキシ基(-OR3、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、前記(X*)成分に含まれる活性水素含有基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤。
(ZrO*)成分 :ジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩。
【請求項15】
前記(X*)成分が、下記に示す、(a*)成分、(b*)成分、(c*)成分のいずれか1種又は2種以上である請求項14記載の防錆処理剤。
(a*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中に2基以上のカルボキシル基(-COOH)を有する脂肪族または芳香族カルボン酸、又は、脂肪族または芳香族カルボン酸塩。
(b*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸、又は、脂肪族又は芳香族ヒドロキシ酸塩。
(c*)成分 : 20℃の水100gに1.0g以上溶解し、分子量400以下で、1分子中のカルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2基以上である脂肪族又は芳香族アルデヒド酸、又は、脂肪族又は芳香族アルデヒド酸塩。
【請求項16】
下記に示す、(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分のいずれか1種又は2種以上と、(SiO*)成分と(ZrO*)成分のいずれか1種又は2種以上と、水を主たる構成成分とし、前記(A*)成分、(B*)成分、(C*)成分に含まれるカルボニル原子団(>C=O)の質量の合計[CO*]と、前記(SiO*)成分に含まれる酸化珪素原子団(≡Si-O-)と前記(ZrO*)成分に含まれるジルコニル原子団 (>Zr=O、≡Zr-O-、ジルコニルイオン(ZrO2+)のいずれか1種又は2種以上)の質量の合計[SZO*]との質量比が、[CO*]:[SZO*]=97:3〜10:90であることを特徴とする防錆処理剤。
(A*)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸塩。
(B*)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とヒドロキシル基(-OH)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族ヒドロキシ酸、又は、脂肪族ヒドロキシ酸塩。
(C*)成分 : 全炭素数が2〜10個、カルボキシル基(-COOH)とアルデヒド基(-CHO)の総数が2〜8基、カルボキシル炭素とアルデヒド炭素を除く炭素数が0〜6個である脂肪族アルデヒド酸、又は、脂肪族アルデヒド酸塩。
(SiO*)成分 : 加水分解性のアルコキシ基(-OR3、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)と、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はアルデヒド基と反応可能な有機官能基とを持つシランカップリング剤。
(ZrO*)成分 : ジルコニルイオン(ZrO2+)と酸基の塩。
【請求項17】
前記(SiO*)成分が、アミノアルキルシラン[NH2-R*-Si(-OR3)3]とエポキシアルキルシラン[CH2-(O)-CH-R*-Si(-OR3)3] (R*は炭素数が7個までの有機基、R3は炭素数が3個までの炭化水素基)のいずれか1種又は2種以上である請求項14又は16に記載の防錆処理剤。
【請求項18】
前記(SiO*)成分が、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン[NH2(CH2)2-NH(CH2)3-Si(OCH3)3]とγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン[CH2-(O)-CH-CH2O-(CH2)3-Si(OCH3)3] のいずれか1種又は2種以上である請求項14、16又は17に記載の防錆処理剤。
【請求項19】
前記(ZrO*)成分が、蟻酸ジルコニル(ZrO(HCOO)2)、酢酸ジルコニル(ZrO(CH3COO)2)、プロピオン酸ジルコニル(ZrO(C2H5COO)2)、酪酸ジルコニル(ZrO(C3H7COO)2)、蓚酸(HOOC-COOH)とジルコニルイオンの塩、マロン酸(HOOC-CH2-COOH)とジルコニルイオンの塩、又は、コハク酸(HOOC-(CH2)2-COOH)とジルコニルイオンの塩から選ばれる1種又は2種以上である請求項14又は16に記載の防錆処理剤。
【請求項20】
請求項14〜19のいずれか1項に記載の防錆処理剤を金属表面の少なくとも一部に塗布して乾燥し、防錆皮膜を形成することを特徴とする防錆処理方法。

【公開番号】特開2006−316342(P2006−316342A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304419(P2005−304419)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】