説明

金属酸化物分散体

【課題】性能の向上した光電変換素子を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される金属原子錯体、金属酸化物半導体粒子、及び溶剤からなる金属酸化物分散体が、前記溶剤としてケトン系溶剤を含む事を特徴とする金属酸化物分散体を用いた光電変換素子。一般式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物分散体、その分散体を用いた金属酸化物半導体ペースト、金属酸化物半導体電極及び光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はクリーンな再生型のエネルギー源として大きく期待されており、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系の太陽電池、テルル化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物半導体からなる太陽電池が主に研究されているが、家庭用電源として普及させる為には、いずれの太陽電池もコストが高いことや、原材料の確保の問題など、多くの問題を抱えている。
【0003】
こうした状況の中、色素増感太陽電池はコスト、大面積化、原材料の点で非常に有利であると言われている。色素増感太陽電池は色素増感された光電変換素子を含み、この光電変換素子は、導電性支持体上に形成された色素を吸着した半導体微粒子含有層からなる光電極、電荷移動層、及び対極から構成される。特にNature(第353巻、737〜740頁、1991年)および米国特許4927721号等には、色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこれを作製するための材料および製造技術が開示されている。
【0004】
上述した光電変換素子及び太陽電池は、光吸収色素によって分光増感された多孔質半導体膜によって構成される光電極と、ヨウ素、臭素等のハロゲン類の酸化還元種を含有する電荷移動層としての電解質と、導電性を有する基体上に、必要に応じて酸化還元電解質への電子授受を容易ならしめる触媒が固定された対電極とを具える。特に、前記多孔質半導体膜を酸化チタンから構成し、増感色素をルテニウム金属錯体から構成し、電解質をヨウ素レドックスを有機溶媒に溶解させて得た電解液から構成し、対電極を白金金属を酸化スズ透明導電性ガラスに固定したものから構成した場合において、高い光電変換効率が得られる事が知られている。
【0005】
そこで現在では、色素増感太陽電池のモジュール化の検討が盛んになっているが、モジュール化において、光電変換素子である多孔質半導体膜の作製方法が重要になってくる。多孔質半導体膜の作製方法としては、スピンコート法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、噴霧法など様々な方法があるが、モジュール化の為の複雑な電極形状を作る為には、スクリーン印刷法が望ましい。
【0006】
スクリーン印刷用の一般的なペーストは、無機粉末フィラー、樹脂、溶媒からなる。ここで色素増感太陽電池用酸化物光半導体ペーストとしては、無機粉末フィラーとして酸化チタン、樹脂としてエチルセルロース、溶媒にはα-テルピネオールやブチルカルビトールなどが知られているが(例えば、特開2004−153030号公報)、これらの組成では、水系から溶剤系への溶媒置換操作が必要であり、前述したα-テルピネオールやブチルカルビトールでは、水への溶解性が無いので一度低沸点の中間溶剤へ置換しなければならずコストが高いという問題が生じていた。また溶剤としてアルコールを使用した場合、分散性には優れているものの速乾性のため直ぐにペーストが半乾きしスクリーン印刷に適しておらず、適切な溶剤が求められていた。
【0007】
【非特許文献1】Nature(第353巻、737〜740頁、1991年)
【特許文献1】米国特許4927721号明細書
【特許文献2】特開2004−153030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属酸化物分散体において、金属酸化物の分散性に優れ、スクリーン印刷時の乾燥性が非常に小さく印刷転写率が非常に大きい事から、厚膜印刷、自動印刷、大量印刷が可能であるとともに、前記分散体を用いた金属酸化物半導体ペースト、金属酸化物半導体電極及び光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される金属原子錯体、金属酸化物半導体粒子、及び溶剤からなる金属酸化物分散体であって、前記金属酸化物分散体が、溶剤としてケトン系溶剤を含むことを特徴とする金属酸化物分散体に関する。
【0010】
一般式(1)
【化1】

【0011】
(式中、Mは1価から6価の金属原子を示す。
1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を示す。
矢印は酸素原子からMへの配位結合またはイオン結合を示す。
破線はジケトナート化合物構造中の非局在結合を示す。
nは1〜3の整数であり、ジケトナート化合物の配位数を示す。)
【0012】
また本発明は、ケトン系溶剤が、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、2−ベンジルアセト酢酸エチル、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、4−メトキシフェニルアセトン、3−メチル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−アセチルシクロヘキサノン、4−エチルシクロヘキサノン及びイソホロンから選ばれる少なくとも一種のケトン系溶剤であることを特徴とする金属酸化物分散体に関する。
【0013】
また本発明は、溶剤がアルコール系溶剤とケトン系溶剤との混合溶剤であることを特徴とする、金属酸化物分散体に関する。
【0014】
また本発明は、アルコール系溶剤が、炭素数1以上30以下の直鎖一級アルキルアルコールであることを特徴とする金属酸化物分散体に関する。
【0015】
また本発明は、アルコール系溶剤とケトン系溶剤との混合溶剤において、アルコール系溶剤とケトン系溶剤の比率がアルコール系溶剤60〜95重量%と、ケトン系溶剤5〜40重量%であることを特徴とする、金属酸化物分散体に関する。
【0016】
また本発明は、金属酸化物半導体粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化スズの少なくとも1つを含むことを特徴とする金属酸化物分散体に関する。
【0017】
また本発明は、金属酸化物半導体粒子の粒径が、100nm以下であることを特徴とする金属酸化物分散体に関する。
【0018】
また本発明は、金属酸化物分散体と、バインダー樹脂とからなることを特徴とする金属酸化物半導体ペーストに関する。
【0019】
また本発明は、バインダー樹脂が、金属酸化物分散体に対して0.1重量%以上10.0重量%未満含有されていることを特徴とする金属酸化物半導体ペーストに関する。
【0020】
また本発明は、透明電極基材上に金属酸化物半導体ペーストを印刷されてなることを特徴とする金属酸化物半導体電極に関する。
【0021】
また本発明は、増感色素を吸着させた金属酸化物半導体電極、電解質および導電性対極より構成される光電変換素子に関する。
【0022】
また本発明は、透明電極基材および導電性対極の基材が高分子フィルムであることを特徴とする光電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ケトン系の溶剤はアルコールとの相溶性が良く、酸化物半導体をアルコールとケトン系の混合溶剤に分散させて得たスクリーン印刷用の酸化物光半導体ペーストにおいては、所定の基板(電極)上にスクリーン印刷によって塗布した場合においても、分散性に優れており、乾燥性を低下させる効果があることを見出した。この結果、厚膜印刷及び自動印刷及び大量印刷を簡易に実行できることができ、良好な特性を有する金属酸化物電極、光電変換素子、さらには色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールを作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(光電変換材料の説明)
(金属酸化物半導体粒子)
本発明で用いられる金属酸化物半導体粒子の平均粒子径に制限はないが、好ましくは平均粒子径100nm以下である。なお本発明で用いられている金属酸化物半導体粒子の平均粒子径は動的光散乱法を測定原理に用いたナノトラック粒度分析計装置UPA-EX(日機装株式会社製)にて測定している。金属酸化物半導体粒子としての材質は、シリコン、ゲルマニウム、III族‐V族系半導体、金属カルコゲニド等が挙げられる。さらに、本発明で用いられる平均粒子径100nm以下の本発明で用いられる金属酸化物半導体粒子としての材質は、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ランタノイド、酸化イットリウム、酸化バナジウム等を挙げることができるが、これらが同一溶液中で金属原子錯体と共にペーストを作り、成膜後、加熱により焼結して金属酸化物多孔質層を形成し、さらに増感色素を連結することによって可視光および/又は近赤外光領域までの光電変換が可能となるものであればこれに限らない。金属酸化物多孔質層表面が増感色素によって増感されるためには金属酸化物多孔質層の電導帯が増感色素の光励起順位から電子を受け取りやすい位置に存在することが望ましい。このため前記金属酸化物半導体粒子の中でも酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ等が特に用いられる。さらに、価格や環境衛生性等の点から、酸化チタンが特に用いられる。本発明においては平均粒子径100nm以下の金属酸化物半導体粒子として前記金属酸化物半導体粒子および金属酸化物半導体粒子から一種又は複数の種類を選択して組み合わせることができる。酸化チタンの結晶構造には、ルチル型(正方晶高温型)、アナターゼ型(正方晶低温型)、ブルッカイト型(斜方晶)が知られているが、本発明ではアナターゼ型が良好にアルカリ金属を含有できるために好適に用いられる。
【0025】
(金属原子錯体)
本発明で用いられる金属原子錯体はペースト作成に用いる金属酸化物半導体粒子表面に吸着し分散処理剤として機能し得る物である。さらにはこのペーストを透明電導層に塗布して電極層の作成を行った後、焼成後あるいは非焼成時においてもこれが高い密着性と変換効率を与えることができるものである。
【0026】
本発明で用いられる金属原子錯体は以下の構造を有する。
【0027】
一般式(1)
【化2】

【0028】
(式中、Mは1価から6価の金属原子を示す。
1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を示す。
矢印は酸素原子からMへの配位結合またはイオン結合を示す。
破線はジケトナート化合物構造中の非局在結合を示す。
nは1〜3の整数であり、ジケトナート化合物の配位数を示す。)
本発明で言う1価の置換基の代表例としては、ハロゲン基、アルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、チオシアン酸基、イソチオシアン酸基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニル基(アシル基)、アリールカルボニル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸エステル基、フタルイミドメチル基等がある。
【0029】
本発明でいうハロゲン基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等がある。
【0030】
本発明でいうアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロヘキシル基等がある。これらは不飽和結合を有しても良い。
【0031】
アリール基としては、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、クオーターフェニリル基、o−、m−、およびp−トリル基、キシリル基、o−、m−、およびp−クメニル基、メシチル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、ビナフタレニル基、ターナフタレニル基、クオーターナフタレニル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、インダセニル基、フルオランテニル基、アセナフチレニル基、アセアントリレニル基、フェナレニル基、フルオレニル基、アントリル基、ビアントラセニル基、ターアントラセニル基、クオーターアントラセニル基、アントラキノリル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、プレイアデニル基、ピセニル基、ペリレニル基、ペンタフェニル基、ペンタセニル基、テトラフェニレニル基、ヘキサフェニル基、ヘキサセニル基、ルビセニル基、コロネニル基、トリナフチレニル基、ヘプタフェニル基、ヘプタセニル基、ピラントレニル基、オバレニル基等がある。
【0032】
複素環基としては、チエニル基、ベンゾ[b]チエニル基、ナフト[2,3−b]チエニル基、チアントレニル基、フリル基、ピラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、キサンテニル基、フェノキサチイニル基、2H−ピロリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、インドリジニル基、イソインドリル基、3H−インドリル基、インドリル基、1H−インダゾリル基、プリニル基、4H−キノリジニル基、イソキノリル基、キノリル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサニリル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、4aH−カルバゾリル基、カルバゾリル基、β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ペリミジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、フェナルサジニル基、イソチアゾリル基、フェノチアジニル基、イソキサゾリル基、フラザニル基、フェノキサジニル基、イソクロマニル基、クロマニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、イミダゾリジニル基、イミダゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピラゾリニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、インドリニル基、イソインドリニル基、キヌクリジニル基、モルホリニル基等がある。
【0033】
アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソペンチルオキシ基等がある。
【0034】
アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、イソプロピルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、イソペンチルチオ基等がある。
【0035】
アリールチオ基としては、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基、9−アンスリルチオ基、9−フェナントリルチオ基がある。
【0036】
モノアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、ドデシルアミノ基、オクタデシルアミノ基、イソプロピルアミノ基、イソブチルアミノ基、イソペンチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、sec−ペンチルアミノ基、tert−ペンチルアミノ基、tert−オクチルアミノ基、ネオペンチルアミノ基、シクロプロピルアミノ基、シクロブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、シクロヘプチルアミノ基、シクロオクチルアミノ基、シクロドデシルアミノ基、1−アダマンタミノ基、2−アダマンタミノ基等がある。
【0037】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジヘプチルアミノ基、ジオクチルアミノ基、ジノニルアミノ基、ジデシルアミノ基、ジドデシルアミノ基、ジオクタデシルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジイソペンチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、メチルブチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基、シクロプロピルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、ピペラジノ基等がある。
【0038】
モノアリールアミノ基としては、N−アリールアミノ基、アニリノ基、1−ナフチルアミノ基、2−ナフチルアミノ基、o−トルイジノ基、m−トルイジノ基、p−トルイジノ基、2−ビフェニルアミノ基、3−ビフェニルアミノ基、4−ビフェニルアミノ基、1−フルオレンアミノ基、2−フルオレンアミノ基、2−チアゾールアミノ基、p−ターフェニルアミノ基等がある。
【0039】
ジアリールアミノ基としては、ジアリールアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−フェニル−1−ナフチルアミノ基、N−フェニル−2−ナフチルアミノ基等がある。
アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ターフェニリルオキシ基、クオーターフェニリルオキシ基、o−、m−、およびp−トリルオキシ基、キシリルオキシ基、o−、m−、およびp−クメニルオキシ基、メシチルオキシ基、ペンタレニルオキシ基、インデニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ビナフタレニルオキシ基、ターナフタレニルオキシ基、クオーターナフタレニルオキシ基、アズレニルオキシ基、ヘプタレニルオキシ基、ビフェニレニルオキシ基、インダセニルオキシ基、フルオランテニルオキシ基、アセナフチレニルオキシ基、アセアントリレニルオキシ基、フェナレニルオキシ基、フルオレニルオキシ基、アントリルオキシ基、ビアントラセニルオキシ基、ターアントラセニルオキシ基、クオーターアントラセニルオキシ基、アントラキノリルオキシ基、フェナントリルオキシ基、トリフェニレニルオキシ基、ピレニルオキシ基、クリセニルオキシ基、ナフタセニルオキシ基、プレイアデニルオキシ基、ピセニルオキシ基、ペリレニルオキシ基、ペンタフェニルオキシ基、ペンタセニルオキシ基、テトラフェニレニルオキシ基、ヘキサフェニルオキシ基、ヘキサセニルオキシ基、ルビセニルオキシ基、コロネニルオキシ基、トリナフチレニルオキシ基、ヘプタフェニルオキシ基、ヘプタセニルオキシ基、ピラントレニルオキシ基、オバレニルオキシ基等がある。
【0040】
アルキルカルボニル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、シクロペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基等がある。
【0041】
アリールカルボニル基としては、ベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基、シンナモイル基、3−フロイル基、2−テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、9−アンスロイル基、5−ナフタセノイル基等がある。
【0042】
前記置換基の各々はさらに置換基を有しても良く、それらを有しても良い置換基としては前述したR1〜R3における置換基がある。
【0043】
本発明で用いられる一般式(1)中のMは、金属酸化物に成りうる金属原子であれば制限はないが好ましくは、Mg、Al、Si、Sc、Ti、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、In、Sn、Ba、La、Ta、VO、Fe、Cu、Co、Crであり、更に好ましくはTi、Zn、Nb、Sn、Fe、Cu、Co、Cr、Alである。
【0044】
これらの金属原子錯体が同一溶剤中で分散処理剤として機能することにより平均粒子径100nm以下の金属酸化物半導体粒子と共にペーストを作り、成膜後、加熱により焼結して金属酸化物多孔質層を形成し、さらに増感色素を連結することによって可視光および/又は近赤外光領域までの光電変換が可能となる。さらに成膜後の密着性を向上させる。金属酸化物多孔質層表面が増感色素によって増感されるためには金属酸化物多孔質層の電導帯が増感色素の光励起順位から電子を受け取りやすい位置に存在することが望ましい。本発明において金属原子錯体は複数の種類を選択して組み合わせることができる。また、使用する金属原子錯体のMは、同一ペースト中で使用する平均粒子径100nm以下の金属酸化物半導体粒子中の元素と同一元素であっても良く、異種元素であっても良く、同一元素と異種元素の組合せであっても良い。
【0045】
金属酸化物半導体粒子と、これと同種の金属原子を有する金属原子錯体とを接触させることにより、金属原子錯体は半導体粒子表面に吸着して金属酸化物半導体粒子−金属原子錯体複合体となり、これを焼成することにより金属酸化物半導体粒子表面に新たな同種金属酸化物層を形成した金属酸化物半導体粒子が得られるものと考えられる。同様にして、金属酸化物半導体粒子と、これと異種の金属原子を有する金属原子錯体とを接触させると、金属原子錯体は半導体粒子表面に吸着して金属酸化物半導体粒子−金属原子錯体複合体となり、これを焼成することにより金属酸化物半導体粒子表面に異種金属酸化物層を形成したコアシェル型の金属酸化物半導体粒子が得られるものと考えられる。これら焼成により新たに形成される金属酸化物層は、金属酸化物半導体粒子同士の結合を促進し、粒子間の電子の移動が行いやすくなるため、低温焼成プロセスであっても比較的高い性能の金属酸化物半導体電極を得ることができる。
【0046】
これら金属原子錯体は、市販品として購入できるものもあるが、たとえば無機元素のハロゲン化物とアルコール類、カルボン酸類、遊離の状態のベータージケトン類等と反応させることで得ることもできる。
【0047】
(ペーストの作成)
本発明で用いられる金属酸化物分散体作成に用いることのできる溶剤としてはケトン系溶剤が必須であり、具体的にはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、2−ベンジルアセト酢酸エチル、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、4−メトキシフェニルアセトン、3−メチル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−アセチルシクロヘキサノン、4−エチルシクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトンなどがある。これらのうちα−アセチル−γ−ブチロラクトン、2−ベンジルアセト酢酸エチル、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、4−メトキシフェニルアセトン、3−メチル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−アセチルシクロヘキサノン、4-エチルシクロヘキサノン又はイソホロンを用いる事が好ましい。本発明で用いられる溶剤としては、更にエタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−ノナノール、1−デカノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶剤、ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭水化物系位溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドン、水等を用いることができる。また、二種類以上の溶剤を混合して用いても良い。
【0048】
これらのうち、ケトン系溶剤と併用する溶剤としてはアルコール系溶剤が好ましい。ここでケトン系溶剤は金属酸化物半導体粒子やアルコールとの相溶性に優れており、かつ沸点が200℃以上あるため、アルコールとケトン系溶媒の混用溶剤を使用した金属酸化物半導体ペーストの調整は溶剤にアルコール単体を使用した時となんら調整に差異はなく、なお且つペーストの乾燥性を大きく低下させる効果がある。
【0049】
本発明において分散体に使用するアルコール系溶剤としては炭素数1以上30以下の直鎖一級アルキルアルコールを用いることが好ましく、更に好ましくは炭素数6以上10以下の直鎖一級アルキルアルコールである。具体的には1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−ノナノール、1−デカノールである。1−オクタノールは異臭を発生する事、法規制がある事から実際に使用する事は難しい。直鎖一級アルキルアルコールを用いた場合と、これに該当しないイソプロピルアルコール、ターシャリーブチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、1−メトキシ−2−プロパノールノ、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−プロパノール、3−ペンタノール、2−エトキシエタノール等を用いた場合のペーストを比較すると、成膜し、140℃で加熱後の変換効率では同沸点領域の溶剤同士の比較において直鎖一級アルキルアルコールを用いる方が変換効率は高い。これは金属酸化物半導体粒子表面に存在する金属原子錯体にアルコールのOH末端が吸着あるいは結合し、金属酸化物半導体粒子の分散に寄与すると考えられ、さらにこれが直鎖一級アルキルアルコールの場合はアルコール同士が立体的に阻害しにくい為、吸着あるいは結合が良好となり、分散性も良好となる。その結果、成膜時には密な粒子同士の接触やネッキングが得やすくなり、光電変換性能が高くなると考えられる。
【0050】
金属酸化物半導体粒子は、溶剤100重量部に対して、0.1重量部以上90重量部未満の範囲で用いられることが好ましい。0.1重量部未満では、如何なる印刷方式を用いても金属酸化物半導体電極に最適な数ミクロンから十数ミクロンの厚みに成膜するのに膨大な重ね印刷回数を必要とする等の点で好ましくないことがある。また、90重量部以上では、ペーストとして分散させることが出来なくなる等の点で好ましくないことがある。
【0051】
本発明で金属酸化物半導体電極作成用に用いられるペーストは、同一ペースト中に平均粒子径100nm以下の金属酸化物半導体粒子と、分散処理剤として金属原子錯体とを含んでいる。このとき、金属原子錯体は、処理前の金属半導体粒子100重量部に対して、0.01重量部〜100重量部の範囲で用いられることが好ましい。0.01重量部未満では、金属原子錯体の処理による分散性向上や低温焼成による変換効率向上等の効果が認められなくなる等の点で好ましくないことがある。また、100重量部を越える場合は、金属原子錯体が金属酸化物半導体表面の処理に対して過剰となるので、ペースト中に単独に存在する金属原子錯体が増加し、成膜時に密着性が低下するなど、膜質を悪化させる点で好ましくないことがある。このとき、同一ペースト中に金属酸化物半導体粒子を含む全ての組成を同時に投入した後に分散処理を行ってもかまわない。さらには金属酸化物半導体粒子を含む分散溶液を別に作成し、金属原子錯体と溶液中に溶解する他の成分を含む溶液とを混合し、さらに分散処理を行ってもかまわない。分散処理はたとえばジルコニア製ビーズを使用し、ペイントシェーカーやミルで行うのが一般的であるがこれに限らない。
【0052】
目標とするペースト粘度は、これを利用した成膜方法によって異なる。たとえばスキージーを利用した成膜方法用であれば0.001〜10Pa.s程度、スクリーン印刷を利用した成膜方法用であれば0.1〜100Pa.s程が目安であるがこれに限らない。インクジェット印刷方式を利用するペーストは0.02Pa.s以下が望ましいがこれに限らない。粘度調節には金属酸化物半導体粒子、金属原子錯体、溶液の量比を変えたり、分散度合いを変えたり、適切量のバインダー樹脂などの増粘成分を添加して調節する。
【0053】
バインダー樹脂としては、セルロース系、ポリエチレングリコール系、アクリル系、ウレタン系、ポリオール系、ポリエチレン系、ポリアミド系などが挙げられるがペーストの適切な粘度や成膜性、成膜後の金属酸化物半導体電極としての特性を得られるものであればこれに限らない。バインダー樹脂は、処理金属半導体粒子100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部未満の範囲で用いられることが好ましい。0.1重量部未満では、粘度を変化させたり、成膜性を向上させたりの効果がみとめられなくなる等の点で好ましくないことがある。また、10重量部以上では、ペーストとしての粘度が上がりすぎたり、成膜しづらくなったりする点で好ましくないことがある。さらに、本発明の金属酸化物半導体ペーストには必要に応じて添加剤を加えることができる。ペーストの保存安定性、乾燥性、基板密着性、成膜適正等の性質を向上させる目的で種々の添加剤を加えることができる。
【0054】
(透明電導膜)
用いられる透明導電膜としては、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない導電材料なら特に限定されないが、ITO(インジウム−スズ酸化物)や酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛等の電導性の良好な金属酸化物が好適である。
【0055】
(透明電極用透明基材)
電導性表面を有した電極に用いられる透明基材としては太陽光の可視から近赤外領域に対して光り吸収が少ない材料であれば特に限定されない。石英、並ガラス、BK7、鉛ガラス等のガラス基材透明電極、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラート、ポリプロピレン、テトラアセチルセルロース、シンジオクタチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ、塩化ビニール等の樹脂基材透明電極等を用いることができる。
【0056】
(ペーストを使用した成膜)
本発明において用いられる光電変換材料を、電導性表面を有する透明基材の電導面に積層する方法としては、電導面にペースト化した金属酸化物半導体粒子を塗布後乾燥又は焼結させて金属酸化物多孔質体を形成し、これを透明基材ごと増感色素を溶解させた溶液中に浸すことにより金属酸化物多孔質表面と増感色素の連結器の親和性を利用して増感色素を金属酸化物多孔質表面に結合させる方法が一般的であるが、この方法に限定されない。ペーストを透明基材の電導面に塗布する方法としてはスピンコーターによる塗布方法やスクリーン印刷法、スキージーを用いた塗布方法、ディップ法、吹き付け法、ローラー法等が用いられる。塗布された金属酸化物半導体ペーストは乾燥又は焼成後ペースト中の揮発成分が除去され透明基材の電導面上に金属酸化物多孔質体を形成する。
【0057】
本発明による処理金属半導体粒子およびそれによる成膜工程においては、加水分解処理は行わない。加水分解処理を入れると金属原子錯体と金属酸化物粒子又は金属酸化物多孔質体との結着性を阻害し、ひいては粒子の分散性不良、成膜後の基板への密着性不良、成膜中の粒子同士の結着性不良の原因となり、変換効率を低める。とりわけこの傾向は、フィルム基材の透明電極に成膜を行い、たとえば140℃付近の低温焼成を行おうとする場合に顕著である。本発明で言う加水分解処理は液体の水又は高温の水蒸気、さらにはこれに酸を加える等して高濃度の水と温度との作用で金属原子錯体を直接分解する事を指し、光触媒作用の際に光によって活性化された金属酸化物半導体粒子表面の作用で大気雰囲気中の水分子が介在する場合など実質的に加水分解の影響が見られない場合は指さない。
【0058】
ガラス基材透明電極で金属酸化物半導体電極を作成する場合、乾燥又は焼成の条件としてはたとえば400℃から500℃の温度で1時間の熱エネルギーを与える方法が一般的であるが、透明基材の電導面に密着性を有し、太陽光照射時に良好な起電力が得られる乾燥又は焼成方法であるならこれに限らない。
【0059】
特に本発明の製造法によって得られるペーストは透明基材が樹脂である場合にこれが溶解しない250℃以下の加熱条件でも良好な起電力を与えることが可能である。
【0060】
本発明のペーストで得られた樹脂基材透明電極上の金属酸化物半導体電極は室温〜250℃の処理でも高い変換効率を与えることができるが、さらに加熱の前後または加熱と同時に、金属酸化物半導体電極に加圧又は超音波溶着処理又はマイクロ波照射処理又は紫外光照射処理又は太陽光照射処理などの追加処理を加えて変換効率や膜の密着性などを上げることができる。この場合の太陽光照射はソーラーシュミレーターに使用するキセノンランプの様に紫外〜近赤外まで広い波長分布を有する光源をも含んでいる。加熱と同時に電極に紫外光を照射を行うと効果的に粒子表面の有機成分が減少する。この場合変換効率は加熱による温度が高いほど高い値が得られる。UV−オゾン処理でも同様に有機物を減少させ、変換効率を向上させる事ができる。
【0061】
増感色素の溶液を作るための溶剤は、増感色素を溶解させ、金属酸化物層に色素吸着の仲立ちを行える溶剤である必要がある。増感色素を溶解させるために必要に応じて加熱、溶解助剤の添加を行っても良く、不溶不純物等はろ過して取り除いても良い。溶剤は二種類以上の溶剤を混合して用いても良く、溶剤としてエタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、サクサンブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶剤、ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭水化物系位溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドン、水等を用いることができるがこれに限らない。溶剤は二種類以上の溶剤を混合して用いても良い。
【0062】
透明基材の電導面上に形成される金属酸化物多孔質層の膜厚は3μm以上50μm以下であることが望ましい。膜厚がこの範囲未満である場合有効な変換効率が得られない。又膜厚がこの範囲より厚い場合成膜時に割れや剥がれが生じる等作成が困難になる反面、金属酸化物多孔質体表層と電導面との距離が増えるために発生電荷が電導面に有効に伝えられなくなるので、良好な変換効率を得にくくなる。
【0063】
(光電変換用増感色素の説明)
本発明において用いられる光電変換用増感色素は、金属酸化物半導体電極が光電変換できない波長領域の光を吸収して励起された電子を金属酸化物半導体の荷電子帯へ注入する役割を有している。ソーラロニクス社等から得ることができるルテニウム色素(N719色素等)等が代表例であるが、希少元素を用いる点で資源枯渇、コスト面で懸念があり、近年これに代わる有機系の増感色素が多く開発されている。クマリン系、シアニン系、ロダニン系、スクワリリウム系、ジケトピロロピロール系、フェニレンビニレン系、フルオレン系色素、メロシアニン系色素等がこれにあたるが、これらも本発明の増感色素として用いることができる。これらの有機色素の中には鮮やかな赤色や青色を呈するものがあり、意匠性を重視した用途に応じて選択して用いることができるという利点もある。これら有機系色素では三菱製紙株式会社のメロシアニン系色素がよく知られており、同社よりD77、D102、D149などを入手することができる。
【0064】
(他の増感色素)
本発明において用いられる光電変換用増感色素は、他の増感色素と組み合わせて用いる事ができる。ここにおいて他の増感色素としてはアゾ系色素、キナクリドン系色素、ジケトピロロピロール系色素、スクワリリウム系色素、シアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィン系色素、クロロフィル系色素、ルテニウム錯体系色素、インジゴ系色素、ペリレン系色素、オキサジン系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素等、およびその誘導体が挙げられる。これらの増感色素はその構造中に連結基を1個以上有する場合は、金属半導体多孔質体表面に連結することができ、光励起された色素の励起電子を金属半導体多孔質体の電導帯に迅速に伝えることができるので望ましい。
【0065】
(光電変換セル)
本発明において用いられる光電変換電極は、電解質層を介して導電性対極を組み合わせることによって光電変換セルを形成する。
【0066】
(電解質層)
本発明で用いられる電解質層は電解質、媒体、および添加物から構成されることが好ましい。本発明の電解質はI2とヨウ化物(例としてLiI、NaI、KI、CsI、MgI2、CaI2、CuI、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等)の混合物、Br2と臭化物(例としてLiBr等)の混合物、Inorg. Chem. 1996,35,1168−1178に記載の溶融塩等を用いることができるがこの限りではない。この中でもI2とヨウ化物の組み合わせとしてLiI、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等を混合した電解質が本発明では好ましいがこの組み合わせ方に限らない。
【0067】
好ましい電解質濃度は媒体中I2が0.01M以上0.5M以下でありヨウ化物の混合物が0.1M以上15M以下である。
【0068】
本発明で電解質層に用いられる媒体は、良好なイオン電導性を発現できる化合物であることが望ましい。溶液状の媒体としては、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなど非プロトン極性物質、水などを用いることができる。
【0069】
又、固体状(ゲル状を含む)の媒体を用いる目的で、ポリマーを含ませることもできる。この場合、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーを前記溶液状媒体中への添加や、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを前記溶液状媒体中で重合させて媒体を固体状にする。
【0070】
電解質層としてはこの他、CuI、CuSCN媒体を必要としない電解質および、Nature,Vol.395, 8 Oct. 1998,p583-585記載の2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)9,9’−スピロビフルオレンのような正孔輸送材料を用いることができる。
【0071】
本発明に用いられる電解質層には光電変換セルの電気的出力を向上させる事や、耐久性を向上させる働きをする添加物を添加することができる。電気的出力を向上させる添加物として4−t−ブチルピリジンや、2−ピコリン、2,6−ルチジン、シクロデキストリン等が挙げられる。耐久性を向上させる添加物としてMgI等が挙げられる。
【0072】
(導電性対極)
本発明で用いられる電導性対極は光電変換セルの正極として機能するものである。具体的に対極に用いる導電性の材料としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、金属酸化物(ITO(インジウム‐スズ酸化物)やFTO((フッ素ドープ酸化スズ)、酸化亜鉛)、または炭素等が挙げられる。対極の膜厚は、特に制限はないが、5nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0073】
(組み立て方)
前記の光電変換電極と導電性対極とを電解質層を介して組み合わせることによって光電変換セルを形成する。必要に応じて電解質層の漏れや揮発を防ぐために、光電変換セルの周囲に封止を行う。封止には熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、ガラスフリット等を封止材料として用いることができる。光電変換セルは必要に応じて小面積の光電変換セルを連結させて作る。光電変換セルを直列に組み合わせることによって起電圧を高くすることができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を具体的に示すが本発明は以下に限定されるものではない。なお、使用した溶剤の含水量は、いずれも試薬レベルで1重量%未満であった。
【0075】
実施例1
・金属酸化物分散体の作成
1−ヘキサノール27g、2−アセチルシクロヘキサノン9gにチタンアセチルアセトナート(Ti(acac)3)を混合し、日本アエロジル社製酸化チタンP−25(平均粒子径 24nm、平均粒子径は動的光散乱法を測定原理に用いたナノトラック粒度分析計装置UPA-EX(日機装株式会社製)にて測定)を36.6g加え、ジルコニアビーズと混合し、ペイントシェーカーを用いて分散し金属酸化物分散体を得た。
【0076】
・金属酸化物半導体ペーストの作成
この分散体にエチルセルロース(ハーキュレス社製N−100)0.6gを溶解混練して金属酸化物半導体ペーストを得た。
・金属酸化物半導体電極の作成
このペーストを1.5cm×18.5cmのパターンを3mmおきに15本形成したステンレス製メッシュスクリーン(#200)を用いて30×21cmのITO膜付きのPENフィルム(トービ社製113B−N125N)上に連続で塗布した。この時スクリーン上に塗布したペーストの半乾きは全くおこらず、同品質の金属酸化物半導体電極塗布膜が1000枚得られた。この印刷物を140℃1時間加熱し乾燥成膜することで導電性透明基板上に金属酸化物半導体電極を形成した。
【0077】
・成膜後処理
金属酸化物半導体電極を、サムコ社製UVオゾン処理装置(UV and OZONE dry stripper model UV−300)を用いて、温度140℃で15分間UVオゾン処理を行った。
【0078】
・増感色素の吸着
t−ブチルアルコールとアセトニトリルの1:1混合液に増感色素(三菱製紙:D149色素)5×10-4Mと添加剤ケノデオキシコール酸1.0×10-3Mを溶解し、さらにメンブランフィルターで不溶分を除去した。この色素溶液に先ほど作成した金属酸化物半導体電極1000枚中10枚を浸し、40℃で1時間放置する。着色した電極表面を使用溶剤で洗浄した後乾燥させることで増感色素の吸着した光電変換電極を得た。
【0079】
・電解質溶液の調整
下記処方で電解質溶液を得た。
溶剤 3−メトキシアセトニトリル
LiI 0.1M
2 0.05M
1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨーダイド 0.6M
【0080】
・光電変換セルの組み立て
図1の様に光電変換セルの試験サンプルを組み立てた。
導電性対極にはFTOガラス基板(旭ガラス社製 タイプU−T CO)の導電層上にスパッタリング法により150nmの白金層を積層した物を用いた 。樹脂フィルム製スペーサーとしては、三井・デュポンポリケミカル社製 「ハイミラン」フィルムの25μm厚の物を用いた。
【0081】
・変換効率の測定方法
ORIEL社製ソーラーシュミレーター(#8116)とエアマスフィルターとを組み合わせ、光量計で1−SUN の光量に調整して測定用光源とし、光電変換セルの試験サンプルに光照射をしながらKEITHLEY社製2400型ソースメータを使用してI−Vカーブ特性を測定した。変換効率ηは、I−Vカーブ特性測定から 得られたVoc(開放電圧値)、Isc(短絡電流値)、ff(フィルファクター値) を用いて下式により算出した。
【0082】
【化3】

【0083】
その結果、平均値でVoc=0.71V、Isc=10.8mA/cm2、ff=0.68、η=5.20%を得た。
【0084】
実施例2
基板にFTOガラス基板(旭ガラス社製 タイプU−T CO)を用いる事以外は実施例1と同様にしてペーストをFTOガラス基板上に連続で塗布した。この時スクリーン上に塗布したペーストの半乾きは全くおこらず、同品質の金属酸化物半導体電極塗布膜が1000枚得られた。続いて金属酸化物半導体電極塗布膜を乾燥させ、更に470℃で1時間焼成し、成膜することで導電性透明基板上に金属酸化物半導体電極を形成した。このうち10枚の光電変換セルの性能を測定したところ、平均値でVoc=0.72V、Isc=12.8mA/cm2、ff=0.63、η=5.80%を得た。
【0085】
実施例3〜9
2−アセチルシクロヘキサノンの代わりに表1のケトン系溶剤を用いること以外は実施例1と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。これらの連続印刷の結果及び光電変換セルの性能を併せて表1に示す。
【0086】
表1
【表1】

【0087】
実施例10〜16
2−アセチルシクロヘキサノンの代わりに表2のケトン系溶剤を用いること以外は実施例2と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。これらの連続印刷の結果及び光電変換セルの性能を併せて表2に示す。
【0088】
表2
【表2】

【0089】
実施例17〜19
1−ヘキサノールの代わりに表2のアルコールを用いること以外は実施例1と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。これらの連続印刷の結果及び光電変換セルの性能を併せて表3に示す。
【0090】
表3
【表3】

【0091】
実施例20〜22
1−ヘキサノールの代わりに表4のアルコールを用いること以外は実施例2と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。これらの連続印刷の結果及び光電変換セルの性能を併せて表4に示す。
【0092】
表4
【表4】

【0093】
実施例23
1−ヘキサノール27g、2−アセチルシクロヘキサノン9gの代わりに2−アセチルシクロヘキサノン36gを用いること以外は実施例1と同様にして金属酸化物半導体電極を連続で700枚作製した。これらの電極のうち10枚の光電変換セルの性能を測定したところ、平均値でVoc=0.70V、Isc=9.3mA/cm2、ff=0.66、η=4.30%を得た。
【0094】
実施例24
1−ヘキサノール27g、2−アセチルシクロヘキサノン9gの代わりに2−アセチルシクロヘキサノン36gを用いること以外は実施例2と同様にして金属酸化物半導体電極を連続で680枚作製した。これらの電極のうち10枚の光電変換セルの性能を測定したところ、平均値でVoc=0.71V、Isc=12.0mA/cm2、ff=0.61、η=5.19%を得た。
【0095】
実施例25〜26
酸化チタンの代わりに表5の金属酸化物を用いること、チタンアセチルアセトナートの代わりに表5の金属原子錯体を用いる以外は実施例1と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。これらの連続印刷の結果及び光電変換セルの性能を併せて表5に示す。
【0096】
表5
【表5】

【0097】
実施例27〜28
酸化チタンの代わりに表6の金属酸化物を用いること、チタンアセチルアセトナートの代わりに表6の金属原子錯体を用いる以外は実施例2と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。これらの連続印刷の結果及び光電変換セルの性能を併せて表6に示す。
【0098】
表6
【表6】

【0099】
比較例1
1−ヘキサノール27g、2−アセチルシクロヘキサノン9gの代わりに1−ヘキサノール36gを用いること以外は実施例1と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。この時スクリーン上に塗布したペーストの半乾きが早かったため同品質の金属酸化物半導体電極は10枚程度しか得られなかった。この10枚の電極を用いた光電変換セルの性能を測定したところ、平均値でVoc=0.71V、Isc=10.4mA/cm2、ff=0.67、η=4.94%を得た。
【0100】
比較例2
1−ヘキサノール27g、2−アセチルシクロヘキサノン9gの代わりに1−ヘキサノール36gを用いること以外は実施例2と同様にして金属酸化物半導体電極を作製した。この時スクリーン上に塗布したペーストの半乾きが早かったため同品質の金属酸化物半導体電極は10枚程度しか得られなかった。この10枚の電極を用いた光電変換セルの性能を測定したところ、平均値でVoc=0.72V、Isc=12.3mA/cm2、ff=0.63、η=5.58%を得た。
【0101】
比較例3〜6
2−アセチルシクロヘキサノン(沸点224〜226℃)の代わりに表7の溶剤を用いること以外は実施例1と同様にして金属酸化物分散体の調整を試みた。しかしいずれも分散中に液の粘度が高くなり分散体の作成ができなかった。
【0102】
表7
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により、製造時の安全性が高く、コストが低い、光電変換性能の優れた金属酸化物半導体電極を大量生産する事ができる。同電極は焼成温度が低いためにフィルム基材に対して適用することができるので、軽量でフレキシブルであり、さらに比較的性能の高い色素増感太陽電池を低コストで作成することが可能となる。そのため、新規用途に向けた太陽電池の開発に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は光電変換セル試験サンプルの模式図である。
【符号の説明】
【0105】
1.金属酸化物半導体多孔質層(光電変換用増感色素が吸着済)
2.電解質溶液層
3.透明電極層(フッ素ドープ型酸化スズ、又はITO)
4.Pt電極層
5.透明基材(ガラスまたは樹脂フィルム)
6.樹脂フィルム製スペーサー
7.変換効率測定用導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される金属原子錯体、金属酸化物半導体粒子、及び溶剤からなる金属酸化物分散体であって、前記金属酸化物分散体が、溶剤としてケトン系溶剤を含むことを特徴とする金属酸化物分散体。
一般式(1)
【化1】



(式中、Mは1価から6価の金属原子を示す。
1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を示す。
矢印は酸素原子からMへの配位結合またはイオン結合を示す。
破線はジケトナート化合物構造中の非局在結合を示す。
nは1〜3の整数であり、ジケトナート化合物の配位数を示す。)
【請求項2】
ケトン系溶剤が、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、2−ベンジルアセト酢酸エチル、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、4−メトキシフェニルアセトン、3−メチル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−アセチルシクロヘキサノン、4−エチルシクロヘキサノン及びイソホロンから選ばれる少なくとも一種のケトン系溶剤であることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物分散体。
【請求項3】
溶剤がアルコール系溶剤とケトン系溶剤との混合溶剤であることを特徴とする、請求項1又は2記載の金属酸化物分散体。
【請求項4】
アルコール系溶剤が、炭素数1以上30以下の直鎖一級アルキルアルコールであることを特徴とする請求項3記載の金属酸化物分散体。
【請求項5】
アルコール系溶剤とケトン系溶剤との混合溶剤において、アルコール系溶剤とケトン系溶剤の比率がアルコール系溶剤60〜95重量%と、ケトン系溶剤5〜40重量%であることを特徴とする、請求項3又は4記載の金属酸化物分散体。
【請求項6】
金属酸化物半導体粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化スズの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の金属酸化物分散体。
【請求項7】
金属酸化物半導体粒子の粒径が、100nm以下であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の金属酸化物分散体。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の金属酸化物分散体と、バインダー樹脂とからなることを特徴とする金属酸化物半導体ペースト。
【請求項9】
バインダー樹脂が、金属酸化物分散体に対して0.1重量%以上10.0重量%未満含有されていることを特徴とする請求項8記載の金属酸化物半導体ペースト。
【請求項10】
透明電極基材上に請求項8又は9記載の金属酸化物半導体ペーストを印刷されてなることを特徴とする金属酸化物半導体電極。
【請求項11】
増感色素を吸着させた請求項10記載の金属酸化物半導体電極、電解質および導電性対極より構成される光電変換素子。
【請求項12】
透明電極基材および導電性対極の基材が高分子フィルムであることを特徴とする請求項11記載の光電変換素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−92782(P2010−92782A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263355(P2008−263355)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】