説明

金属酸化物粒子の製造方法及び製造装置

【課題】反応管の内壁部に固着する膜状生成物の生成を抑制して、金属塩化物の蒸気と酸素とを急加熱・急冷却させて金属酸化物粒子を効率よく連続的に製造する金属酸化物粒子の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】中空外筒1の上流部に中空内筒5が挿入された部分二重管構造を有する反応管11に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する方法であって、中空内筒5に金属塩化物を含む前記反応ガスを流すとともに、中空内筒5と中空外筒1との間に金属塩化物を含まないバリアガスを流しつつ、中空内筒5の下流端部5bよりも上流において前記反応ガスと前記バリアガスとを予熱し、中空内筒5の下流端部5bよりも下流側に離れた領域において前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させる金属酸化物粒子の製造方法を用いることにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粒子の製造方法及び製造装置に関する。本発明は、特に、気相で金属塩化物蒸気と酸素とを急加熱して、金属酸化物粒子を製造する際の効率的な製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒として酸化チタン粒子が注目され、その製造方法が検討されている。たとえば、特許文献1、2及び非特許文献1には、10面体の箱型形状を有し、主としてアナターゼ型結晶からなる酸化チタン粒子(以下、「10面体酸化チタン粒子」と称する。)とその製造方法が開示されている。この10面体酸化チタン粒子は、単位質量当たりの表面積が大きく、結晶性が高いとともに内部欠陥も少ないので、光触媒として高い活性を有していることが記載されている。さらにまた、非特許文献2には、前記10面体酸化チタン粒子は、反応性の高い(001)面の比率が高く、光触媒として有望であることが記載されている。
【0003】
非特許文献2に記載の10面体酸化チタン粒子の製造方法は、フッ酸を用いた水熱反応を利用しており、工業的な製造には適さないので、特許文献1、2及び非特許文献1に開示された10面体酸化チタン粒子の製造方法を我々は追試した。
【0004】
特許文献1、2及び非特許文献1に開示された10面体酸化チタン粒子の製造方法は、反応管の外部から加熱することによって、反応管内に導入した四塩化チタン蒸気と酸素とを急加熱・急冷却させて、次の反応式(1)で示される反応を行う方法である。
【0005】
【化1】

【0006】
上記反応式(1)の反応により、反応領域の下流側で、10面体酸化チタン粒子を含む粉末生成物が得られた。しかし、前記粉末生成物は全生成物のうちの40%未満であって、残りは白い膜状の生成物となり、前記反応領域で反応管の内壁面に固着した。
【0007】
以上のように、特許文献1、2及び非特許文献1に開示された10面体酸化チタン粒子の製造方法においては、膜状生成物が多量に反応管の内壁面に固着してしまい、10面体酸化チタン粒子の生産性が低下するという問題が生じた。
さらに、前記膜状生成物が反応管の内壁面に固着した状態で上記反応を継続すると、膜状生成物が一層生成しやすくなるとともに、徐々に粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率が低下する結果が得られた。
【0008】
また、この製造方法は、10面体酸化チタン粒子を製造する場合に限らず、酸化チタン粒子を合成する場合でも同様の結果を生じ、前記反応領域において、生成物の50%以上が膜状生成物として反応管の内壁面に固着してしまう問題が生じた。
このことから、10面体酸化チタン粒子もしくはそれ以外の酸化チタン粒子を効率よく連続的に生成するためには、反応管の内壁面に膜状生成物を生じさせないことが必要である。
【特許文献1】国際公開第04/063431号パンフレット
【特許文献2】特開2006−52099号公報
【非特許文献1】草野大輔、寺田佳弘、阿部竜、大谷文章、第98回触媒討論会(平成18年9月)、討論会A予稿集、234頁
【非特許文献2】Hua Gui Yang et al.、Nature、Vol.453,p.638〜p.641
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、反応管の内壁部に固着する膜状生成物の生成を抑制して、金属塩化物の蒸気と酸素とを急加熱・急冷却させて金属酸化物粒子を効率よく連続的に製造する金属酸化物粒子の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、中空外筒と、中空外筒の上流側から途中まで挿入されてなる中空内筒とからなる二重管を用い、前記中空外筒に四塩化チタン蒸気を含まないガスを流し、前記中空内筒に四塩化チタン蒸気を含むガスを流し、中空内筒の下流側で、前記2種類のガスを合流させた状態で急加熱・急冷却させることによって、反応管の内壁面に生成する膜状生成物を抑制して、10面体酸化チタン粒子もしくはそれ以外の酸化チタン粒子を効率的に製造できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
【0011】
(1) 中空外筒の上流部に中空内筒が挿入された部分二重管構造を有する反応管に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する方法であって、前記中空内筒に金属塩化物を含む前記反応ガスを流すとともに、前記中空内筒と前記中空外筒との間に金属塩化物を含まないバリアガスを流しつつ、前記中空内筒の下流端部よりも上流において前記反応ガスと前記バリアガスとを予熱し、前記中空内筒の下流端部よりも下流側に離れた領域において前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させることを特徴とする金属酸化物粒子の製造方法。
(2) 前記金属塩化物が四塩化チタンであり、前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子であることを特徴とする(1)に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(3) 前記酸化チタン粒子が10面体酸化チタン粒子であることを特徴とする(2)に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(4) 前記予熱の温度が136℃以上750℃以下であることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【0012】
(5) 前記本加熱の温度が800℃以上1500℃以下であることを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(6) 前記反応ガスが、酸素ガスまたは/および窒素ガスを含むことを特徴とする(1)〜(5)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(7) 前記バリアガスが、酸素ガス、窒素ガス、アルゴン、水蒸気またはこれらのうち少なくとも2種類のガスを含むことを特徴とする(1)〜(6)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(8) 前記中空内筒の反応ガスの流路断面積に対して、前記中空外筒と前記中空内筒との間のバリアガスの流路断面積が2倍以上であることを特徴とする(1)〜(7)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【0013】
(9) 前記中空内筒の反応ガスの流路断面積に対して、前記中空内筒の下流端部よりも下流側の反応管の流路断面積が3倍以上であることを特徴とする(1)〜(8)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(10) 前記中空内筒の下流端部よりも上流側で、前記反応ガスの線速度に対して、前記バリアガスの線速度が0.1〜10の範囲内であることを特徴とする(1)〜(9)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(11) 前記中空内筒の下流端部よりも上流側で、前記反応ガスに含まれる前記金属塩化物の濃度が0.5〜50体積%であることを特徴とする(1)〜(10)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(12) 前記中空内筒の下流端部よりも下流側で、前記合流ガスに含まれる前記金属塩化物の濃度が0.1〜20体積%であることを特徴とする(1)〜(11)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【0014】
(13) 前記中空内筒の下流端部から噴出された前記反応ガスが800℃以上とされた本加熱領域の最上流端に達するまでの時間が250ミリ秒以下であることを特徴とする(1)〜(12)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(14) 前記反応ガスが前記本加熱領域に滞留する時間が2〜500ミリ秒であることを特徴とする(13)に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(15) 前記反応ガスのレイノルズ数が10〜10000であることを特徴とする(1)〜(14)の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
(16) 中空外筒の上流部に中空内筒が挿入された部分二重管構造を有する反応管に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する装置であって、前記中空内筒の下流端部よりも上流に、前記中空内筒に流した金属塩化物を含む前記反応ガスと、前記中空内筒と前記中空外筒との間に流した金属塩化物を含まないバリアガスと、を予熱する予熱領域が設けられ、前記中空内筒の下流端部よりも下流側に離れた領域に、前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させる本加熱領域が設けられていることを特徴とする金属酸化物粒子の製造装置。
【発明の効果】
【0015】
上記の構成によれば、反応管の内壁部に固着する膜状生成物の生成を抑制して、金属塩化物の蒸気と酸素とを急加熱・急冷却させて金属酸化物粒子を効率よく連続的に製造する金属酸化物粒子の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【0016】
本発明の金属酸化物粒子の製造方法は、中空外筒の上流部に中空内筒が挿入された部分二重管構造を有する反応管に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する方法であって、前記中空内筒に金属塩化物を含む前記反応ガスを流すとともに、前記中空内筒と前記中空外筒との間に金属塩化物を含まないバリアガスを流しつつ、前記中空内筒の下流端部よりも上流において前記反応ガスと前記バリアガスとを予熱し、前記中空内筒の下流端部よりも下流側に離れた領域において前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させる構成なので、短時間に本加熱に好適な温度にして、金属塩化物の蒸気と酸素との間の酸化反応を速やかに行うことができるとともに、反応管の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、光触媒材料として好適な10面体酸化チタン粒子もしくはそれ以外の酸化チタン粒子などの金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0017】
本発明の金属酸化物粒子の製造装置は、中空外筒の上流部に中空内筒が挿入された部分二重管構造を有する反応管に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する装置であって、前記中空内筒の下流端部よりも上流に、前記中空内筒に流した金属塩化物を含む前記反応ガスと、前記中空内筒と前記中空外筒との間に流した金属塩化物を含まないバリアガスと、を予熱する予熱領域が設けられ、前記中空内筒の下流端部よりも下流側に離れた領域に、前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させる本加熱領域が設けられている構成なので、反応管の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態の各々に限定されるものではなく、例えば、これら実施形態の構成要素同士を適宜組み合わせても良い。
【0019】
(第1の実施形態)
<金属酸化物粒子の製造装置>
図1は、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置の一例を示す模式図である。以下、酸化チタン粒子を製造する場合を一例として説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置101は、中空外筒1と、中空外筒1の上流側1aから途中まで挿入されてなる中空内筒5と、からなる二重管構造部52と、中空外筒1のみからなる一重管構造部51とを有する反応管11と、一重管構造部51を局所的に加熱するように、反応管11の外部に配置された加熱装置2と、中空外筒1の上流側1aに接続されたバリアガス導入管4、4aと、中空内筒5の上流側5aに接続された反応ガス導入管25a、25bと、中空外筒1の下流側1bに接続された生成物回収部3と、が備えられて概略構成されている。反応管11としては、例えば、石英などからなる円筒管を挙げることができる。
すなわち、反応管11で、中空内筒5の下流端部5bよりも上流側は二重管構造部52(部分二重管構造)とされ、中空内筒5の下流端部5bよりも下流側は一重管構造部51とされている。
【0020】
中空外筒1の上流側1aには、四塩化チタンなどの金属塩化物を含まないバリアガスを導入するためのバリアガス導入管4が接続されており、バリアガス導入管4は気化器6を介して別のバリアガス導入管4aに接続されている。
図では省略しているが、別のバリアガス導入管4aは、バルブを介して酸素(O)、窒素(N)及び水の供給源に接続されている。気化器6の温度は、たとえば、165℃とされており、別のバリアガス導入管4aから導入された水を気化して水蒸気とする。これにより、酸素、窒素及び水蒸気の混合ガスからなるバリアガスをバリアガス導入管4から中空外筒1に供給できる構成とされている。
【0021】
中空内筒5の上流側5aには、別の気化器7を介して、四塩化チタン(TiCl)などの金属塩化物の蒸気を含む反応ガスを導入するための反応ガス導入管25a、25bが接続されている。
図では省略しているが、反応ガス導入管25aは、バルブを介して四塩化チタンの供給源に接続されており、四塩化チタンを中空内筒5に供給できる構成とされている。
また、反応ガス導入管25bは、バルブを介して酸素及び窒素の供給源に接続されており、酸素及び窒素ガスを中空内筒5に供給できる構成とされている。
気化器7の温度は、たとえば、165℃とされており、四塩化チタンを気化して四塩化チタン蒸気とする。これにより、酸素、窒素及び塩化チタン蒸気の混合ガスからなる反応ガスを中空外筒1に供給できる構成とされている。
【0022】
中空内筒5は、中空外筒1の上流側1aから途中まで挿入されてなり、その下流端部5bは、中空外筒1の長手方向で中心付近となるように配置されている。これにより、反応管11は、中空外筒1と中空内筒5とからなる二重管構造部52と、中空外筒1のみからなる一重管構造部51とを有している。
二重管構造部52では、中空内筒5の内径で規定される中空内筒開口部26と、中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27との2つの開口部が設けられている。また、一重管構造部51では、中空外筒1の内径で規定される中空外筒開口部28が設けられている。
二重管構造部52では、中空外筒1と中空内筒5が同軸構造を有することが好ましい。反応ガスを中心軸側に集めることにより、反応管11の内壁面へ反応ガスの拡散を抑制して、膜状生成物の発生を抑制することができるためである。
【0023】
中空内筒5としては、同軸平行流、斜交流、十字流等を与える中空内筒を用いることができるが、同軸平行流を与える中空内筒が好ましい。
一般に、同軸平行流を与える中空内筒5は、斜交流や十字流を与える中空内筒と比べて混合の程度が劣る。本発明においては、中空内筒5を流れる四塩化チタン蒸気を含む反応ガスと、中空内筒5の外側を流れる四塩化チタン蒸気を含まないバリアガスとが、中空内筒5の下流端部5bより下流側で合流する際に、反応ガスとバリアガスとの混合が起こりにくいほうが好ましい。反応ガスとバリアガスとの混合が起こりにくいほうが、反応管11の内壁面へ反応ガスの拡散を抑制して、膜状生成物の発生を抑制することができるためである。
従って、二重管構造部52は、中空外筒1と、中空外筒1と同軸平行流を与える中空内筒5とからなることが好ましい。
【0024】
図1に示すように、気化器6の出口6bから中空外筒1までの領域は、予熱領域Xとされている。また、気化器7の出口7bから中空内筒5の下流端部5bまでの領域は、予熱領域Yとされている。
予熱領域X、Yでは、バリアガス導入管4、反応管11の二重管構造部52を、外部に配置した電気ヒーターなどで加熱して、バリアガス導入管4、反応管11の二重管構造部52の内部を流れるガスを予熱する。すなわち、中空内筒5を流れる四塩化チタン蒸気を含む反応ガス並びにバリアガス導入管4及び二重管構造部52の中空外筒1の内側であって中空内筒5の外側を流れる四塩化チタン蒸気を含まないバリアガスを予熱する。
【0025】
中空内筒5の下流端部5bの位置から下流側は、中空外筒1のみからなる一重管構造部51とされている。一重管構造部51を局所的に加熱するように、反応管11の外部に2つの加熱装置2が配置されている。
加熱装置2としては、たとえば、赤外線を照射して加熱を行う赤外線ゴールドイメージ炉(アルバック理工株式会社製)を挙げることができる。しかし、本実施形態で用いる加熱装置はこれに限定されず、例えば、酸水素バーナーや電気ヒーターなどを用いてもよい。
なお、中空内筒5の下流端部5bを、加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2の上流側の赤外線が照射されない位置に配置したが、赤外線が照射される位置に配置してもよい。
【0026】
中空内筒5の下流端部5bより下流側には、反応管11を取り囲むように白金板(図示略)が巻き付けられてなる本加熱領域Aが設けられている。
白金板は加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2から照射される赤外線を吸収して発熱するので、反応管1は、白金板と接触している部分のみが局所的に加熱される。これにより、反応管11の内部を流れる四塩化チタンなどの金属塩化物が気相で酸化反応されて、酸化チタン粒子などの金属酸化物粒子を生成する。
【0027】
本加熱領域Aの温度は、白金板と加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2との組み合わせによって、精密な温度制御が可能とされており、加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2から照射される赤外線の強さを温度制御器(図示略)で制御して、800℃以上1500℃以下の任意の温度に設定することが可能とされている。
【0028】
図1に示すように、予熱領域Yと本加熱領域Aとの間には、外部から直接加熱されない中間領域Zが設けられている。中間領域Zで、中空内筒5から流れ出た反応ガスと、中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27から流れ出たバリアガスとが合流して、合流ガスとなる。
【0029】
中空外筒1の下流側1bには、排出管8を介して、金属酸化物粒子などの生成物を回収する生成物回収部3が接続されている。生成物回収部3は、バグフィルターなどからなる。
また、生成物回収部3の下流側には、排気ポンプ3aと圧力調整バルブ3bとが接続されている。通常、生成物回収部3に生成物がたまり、フィルターが目詰まりするにつれて、反応管11の内部の圧力が上昇する。排気ポンプ3aにより吸引することによって、この圧力上昇を押さえて、常圧付近で金属塩化物の酸化反応させることができる。
なお、この際、圧力調整バルブ3bを調整することによって、排気ポンプ3aの吸引力を調節することにより、金属酸化物粒子をより効率的に生成することができる。
【0030】
生成物回収部3で回収される金属酸化物粒子は、たとえば、10面体酸化チタン粒子もしくはそれ以外の酸化チタン粒子である。
本実施形態の10面体酸化チタン粒子とは、特許文献1での定義と同様に、10面体の箱型形状を有する酸化チタン粒子を意味する。
また、本実施形態の10面体酸化チタン粒子以外の酸化チタン粒子とは、本実施形態の製造方法で得られた酸化チタン粒子のうち、上記の10面体酸化チタン粒子として定義されないものを意味する。
【0031】
<多重管構造を有する反応管>
図1では、二重管構造を有する反応管11を備えた製造装置について説明したが、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置は、これに限定されるものではなく、三重管構造を有する反応管を製造装置など、より多重管構造を有する反応管を用いた製造装置であってもよい。
【0032】
例えば、中空外筒と、その内側に配置された中空内筒(中間部の中空内筒)と、更にその内側に、すなわち、反応管内の最も内側に配置された中空内筒(内側の中空内筒)とを、同軸平行流を与えるように配置した三重管構造を有する反応管を備えた金属酸化物粒子の製造装置では、内側の中空内筒の下流端部と中間部の中空内筒の下流端部とが長手方向で同位置となるように配置した状態で、内側の中空内筒に四塩化チタンなどの金属塩化物を含まないバリアガスを流し、内側の中空内筒と中間部の中空内筒との間のリング状開口部に四塩化チタンなどの金属塩化物を含む反応ガスを流し、さらに中間部の中空内筒と中空外筒との間の別のリング状開口部に四塩化チタンなどの金属塩化物を含まないバリアガスを流すことにより、各中空内筒の下流端部より下流側において、反応ガスをバリアガスで包み込むことができ、反応管の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、酸化チタン粒子を得ることができる。
【0033】
三重管構造を有する反応管を用いる利点は、四塩化チタンなどの金属塩化物を含む反応ガスを、内側の中空内筒と中間部の中空内筒との間のリング状開口部に流すことができるので、反応ガスの流路断面積を、二重管構造の反応管を用いた場合の反応ガスの流路断面積に比べて大きくすることができる点である。これにより、単位時間当たりの四塩化チタンの反応量をより大きくでき、金属酸化物粒子の生産性を高めることができる。なお、中空外筒と2つの中空内筒の配置は、同軸でも偏心のいずれでもよいが、同軸であることが好ましい。
【0034】
<金属酸化物粒子の製造方法>
次に、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法について、図1に示した金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、酸化チタン粒子を製造する場合を一例として説明する。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、金属酸化物粒子の製造装置101で、中空内筒5に金属塩化物の蒸気を含む反応ガスを流すとともに、中空外筒1に金属塩化物の蒸気を含まないバリアガスを流し、二重管構造部52で、前記反応ガスと前記バリアガスとをそれぞれ予熱する工程(予熱工程)と、一重管構造部51で、前記反応ガスと前記バリアガスとを合流させた後に、前記反応ガスと前記バリアガスとからなる合流ガスを本加熱して、金属酸化物粒子を製造する工程(本加熱工程)と、を有する。
【0035】
<予熱工程>
まず、バリアガス導入管4aから酸素、窒素及び水を導入する。気化器6で水を水蒸気とした後、バリアガス導入管4へ酸素、窒素及び水蒸気からなる混合ガス(以下、バリアガス)が流し込まれる。
このバリアガスは、四塩化チタンなどの金属塩化物を含まないガスである。具体的には、このバリアガスは、酸素(O)、窒素、アルゴン、水蒸気及びオゾン(O)などであり、これらを単独で用いても、混合して用いてもよい。従って、酸素のみ、窒素のみ、アルゴンのみ、酸素と不活性ガスとの混合ガス、酸素と水蒸気との混合ガス、酸素と水蒸気と不活性ガスとの混合ガスまたは水蒸気と不活性ガスとの混合ガスなどを用いることができる。なお、酸素と不活性ガスの混合ガスとして、空気を用いてもよい。
バリアガス導入管4から二重管構造部52の間には予熱領域Xが設けられているので、バリアガス導入管4へ流し込まれて、二重管構造部52の中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27を通過する間に、バリアガスは一定の予熱温度に加熱される。
【0036】
一方、反応ガス導入管25aからは四塩化チタンを導入する。気化器7で四塩化チタンが蒸気とされた後、別の反応ガス導入管25bから導入された酸素及び窒素と混合されて、四塩化チタンの蒸気、酸素及び窒素からなる混合ガス(以下、反応ガス)が中空内筒5に流し込まれる。
この反応ガスは、四塩化チタンの蒸気を含むガスである。具体的には、この反応ガスは、四塩化チタンの蒸気と酸素との混合ガス、四塩化チタンの蒸気と不活性ガスとの混合ガスまたは四塩化チタンの蒸気と酸素と不活性ガスとの混合ガスなどを用いることができる。なお、酸素と不活性ガスの混合ガスとして、空気を用いてもよい。
中空内筒5の上流側から二重管構造部52の間の領域は予熱領域Yとされているので、中空内筒5に流し込まれた反応ガスは一定の予熱温度に加熱される。予熱領域Yの予熱温度は、たとえば、150℃とされる。
【0037】
<反応ガスとバリアガスの組み合わせ>
反応ガスとバリアガスの組み合わせとしては、反応ガスとして四塩化チタンの蒸気と酸素とからなる混合ガスを用い、バリアガスとして酸素ガスを用いることが、最も好ましい。この組み合わせを用いることにより、「粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率」を高くすることができるとともに、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制することができる。
なお、「粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率」とは、任意にサンプリングした酸化チタンからなる粉末生成物を走査型電子顕微鏡で任意の視野で観察して得られる酸化チタン粒子に対する10面体酸化チタン粒子の比率である。
【0038】
なお、反応ガスとして四塩化チタンの蒸気と酸素とからなる混合ガスを用い、バリアガスとして窒素ガスを用いた場合には、「粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率」は高くすることができるが、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を十分抑制することができず、反応管11の内壁面に膜状生成物が若干生成する。
【0039】
また、反応ガスとして四塩化チタンの蒸気と酸素とからなる混合ガスを用い、バリアガスとして酸素と水蒸気とからなる混合ガスを用いた場合には、(水の物質量[mol])/(四塩化チタンの物質量[mol])の比の値により、生成物の状態が変化する。
まず、(水の物質量[mol])/(四塩化チタンの物質量[mol])の比を3以上とした場合には、反応管11の内壁面に膜状生成物が全く固着されないが、中空内筒5の下流端部5bに、筒状の固形生成物が成長する。この現象は(水の物質量[mol])/(四塩化チタンの物質量[mol])の比が大きくなるほど顕著になる。また、粉末生成物中の粒子同士の融着も非常に大きくなる。
【0040】
また、(水の物質量[mol])/(四塩化チタンの物質量[mol])の比を0.5〜3の範囲内とした場合には、中空内筒5の下流端部5bに生じる筒状の固形生成物はあまり成長せず、その長さは短くなる。また、この範囲内で水蒸気の供給量を増すほど、膜状生成物の量は減り、粉末生成物中の粒子同士の融着が大きくなる。
【0041】
また、反応ガスとして四塩化チタンの蒸気と窒素とからなる混合ガスを用い、バリアガスとして酸素ガスを用いた場合には、「粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率」は高くすることができるが、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制することができず、反応管11の内壁面に膜状生成物が若干生成する。
【0042】
<予熱温度>
本実施形態に示すように、四塩化チタンの蒸気と酸素とを含む反応ガスを用いる場合に、予熱領域X、Yの予熱温度を上げすぎて、前記反応ガスの温度を800℃以上とすると、中空内筒5内を流れる四塩化チタンの蒸気と酸素との間で酸化反応が進行して、中空内筒5内で酸化チタン粒子が生成されるとともに、中空内筒5の内壁面に膜状生成物が生成する。この状態で、酸化チタン粒子の製造を続けた場合には、中空内筒5内が膜状生成物によって閉塞される場合が生じる。そのため、予熱温度は少なくとも800℃未満とすることが好ましい。
【0043】
また、中空内筒5を流れる四塩化チタンの蒸気を含む反応ガスが酸素を含まない場合には、バリアガスに酸素を含有させることが必要となる。この場合でも、予熱領域X、Yの予熱温度を上げすぎて、反応ガスとバリアガスの予熱温度を、それぞれ750℃超にすると、中空内筒5の内壁面に針状生成物が生成して、中空内筒5の下流端部5bが閉塞する場合が生じる。
そのため、予熱領域X、Yの反応ガスとバリアガスの予熱温度は、それぞれ750℃以下とすることがより好ましい。
【0044】
逆に、予熱領域X、Yの予熱温度を、四塩化チタンの沸点の136℃未満とすると、四塩化チタンの蒸気が中空内筒5内で一部凝縮する場合が発生する。
以上により、予熱領域X、Yの予熱温度は、136℃以上750℃以下の温度範囲とすることが好ましい。また、予熱領域X、Yの予熱温度は、150℃以上500℃以下の温度範囲とすることがより好ましく、150℃以上250℃以下の温度範囲とすることが更に好ましい。
予熱領域X、Yの予熱温度を上記温度範囲とすることにより、予熱領域X、Yでは、四塩化チタンと酸素の酸化反応が進行するのに必要な熱量を供給せず、前記酸化反応を進行させない。しかし、予熱領域X、Yで上記の予熱温度としておくことにより、本加熱領域Aで短時間に本加熱温度にすることができる。これにより一気に反応させることができ、酸化チタン粒子の製造効率を向上させることができる。
【0045】
<本加熱工程>
予熱領域X、Yで加熱された反応ガスとバリアガスは、中間領域Zで合流されて、合流ガスとされる。その後、合流ガスは本加熱領域Aで本加熱温度に急加熱された後、本加熱領域Aの下流側の領域で急冷却されて、金属酸化物粒子を生成する。
中空内筒5の下流端部5bから下流側に、この中間領域Zを設けず、本加熱領域を形成した場合には、中空内筒5の下流端部5bから反応管11内に噴出されたところで、すぐに金属塩化物の分解反応が生じ、中空内筒5の下流端部5bに膜状生成物を生成する。これにより、中空内筒5を詰まらせる場合を生ずる。しかし、中間領域Zを設けることにより、中間領域Zで反応ガスを含む合流ガスは加熱されず、前記合流ガスの温度は800℃未満とされるので、上記問題を生ずることはない。
【0046】
<本加熱温度>
本加熱領域Aの加熱温度は、800℃以上1500℃以下の温度範囲とすることが好ましい。
本加熱領域Aの加熱温度が800℃未満の場合には、先に記載した一般反応式(1)に示される四塩化チタン蒸気と酸素との間の酸化反応が進行せず、酸化チタン粒子を生成できない。
逆に、本加熱領域Aの加熱温度が1500℃超の場合には、酸化チタン粒子が互いに融着して、酸化チタン粒子の比表面積を低下させる。これにより、酸化チタン粒子の光触媒特性が劣化する。
【0047】
本加熱領域Aの加熱温度は、1000℃以上1300℃以下の温度範囲とすることがより好ましく、1100℃以上1300℃以下の温度範囲とすることが更に好ましい。
本加熱領域Aの加熱温度が1100℃未満の場合には、反応管11内に供給された四塩化チタン蒸気の全てが消費されるわけではなく、一部が未反応のまま残留する場合が生じる。
逆に、本加熱領域Aの加熱温度が1300℃超の場合には、酸化チタン粒子同士の融着が著しくなり、酸化チタン粒子の比表面積を低下させるとともに、酸化チタン粒子の光触媒特性を劣化させる。
【0048】
本加熱領域Aは、外部の加熱装置2により加熱される反応管11の内壁面が最も高温とされるので、この部分で酸化反応が生じやすくなり、反応管11の内壁面に膜状生成物が固着する。この膜状生成物は、四塩化チタン蒸気の濃度が高いほど生成しやすい。
二重管構造部52から一重管構造部51へガスが流れるときに、中空内筒5から反応ガスが流れ出し、中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27からバリアガスが流れ出す。バリアガスが反応ガスを取り囲み、反応ガスが反応管11の内壁面へ近づかないようにすることができるので、本加熱領域Aで反応管11の内壁面が最も高温とされても、反応管11の内壁面に膜状生成物を生成することを抑制することができる。
【0049】
<四塩化チタンの濃度>
二重管構造部52で、中空内筒5内を流れる四塩化チタンの濃度は、0.5〜50体積%とすることが好ましく、1〜30体積%とすることがより好ましく、2〜15体積%とすることが更に好ましい。中空内筒5内を流れる四塩化チタンの濃度を上記範囲内とすることにより、四塩化チタン蒸気の反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側への拡散を遅らせて、反応ガスが反応管11の内壁面へより近づかないようにすることができる。これにより、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生をより抑制することができる。
中空内筒5内を流れる四塩化チタンの濃度が50体積%よりも高い場合には、反応管11の内壁面に固着する膜状生成物の量が多くなる。
逆に、中空内筒5内を流れる四塩化チタンの濃度が0.5%よりも低い場合には、粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率が低下する。
【0050】
一重管構造部51で、中空外筒1内を流れる合流ガス中の四塩化チタンの濃度は、0.1〜20体積%とすることが好ましく、0.1〜5体積%とすることがより好ましく、0.2〜2体積%とすることが更に好ましい。中空外筒1内を流れる合流ガス中の四塩化チタンの濃度を上記範囲内とすることにより、四塩化チタン蒸気の反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側への拡散を遅らせて、反応ガスが反応管11の内壁面へより近づかないようにすることができる。これにより、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生をより抑制することができる。
中空外筒1内を流れる合流ガス中の四塩化チタンの濃度が20体積%よりも高い場合には、反応管11の内壁面に固着する膜状生成物の量が多くなる。
逆に、中空外筒1内を流れる合流ガス中の四塩化チタンの濃度が0.1%よりも低い場合には、粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率が低下する。
【0051】
一重管構造部51に反応ガスとバリアガスが噴出されるときには、反応管11の中心軸付近に配置された中空内筒5から四塩化チタン蒸気が含有された反応ガスが噴出されるので、反応管11の中心軸付近の四塩化チタンの濃度が最も高い。
合流ガスとして本加熱領域Aを通過する際に、四塩化チタン蒸気は反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側へ徐々に拡散していく。つまり、下流側にいくほど反応管11の内壁面側の四塩化チタンの濃度が徐々に高まり、反応管11の内壁面に膜状生成物が生成されるおそれも高まる。
【0052】
そのため、反応管11の中心軸付近に四塩化チタンが存在している本加熱領域Aの上流側で、四塩化チタン蒸気を酸素と効率よく反応させて、四塩化チタン蒸気を消費することが求められる。
さらに、四塩化チタン蒸気を酸素と効率よく反応させるためには、内筒開口部、リング状開口部及び外筒開口部の断面積及び反応ガス、バリアガス及び合流ガスの線速度を最適に設定することが求められる。
【0053】
<内筒開口部、リング状開口部及び外筒開口部の断面積>
反応管11の二重管構造部52は、断面視すると、円形の内筒開口部26を有する中空内筒5を取り囲むように、円形の外筒開口部28を有する中空外筒1が配置される。これにより、中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27が設けられる。すなわち、二重管構造部52では、中空内筒5の内径で規定される内筒開口部26と、中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27との2つの開口部が設けられている。また、一重管構造部51では、中空外筒1の内径で規定される外筒開口部28が設けられている。
【0054】
反応ガスは内筒開口部26を通過し、バリアガスは中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27を通過する。さらに、反応ガスとバリアガスとが合流されてなる合流ガスは、外筒開口部28を通過する。
【0055】
中空内筒5の反応ガスの流路断面積、すなわち、内筒開口部26の断面積に対して、中空外筒1と中空内筒5との間のバリアガスの流路断面積、すなわち、中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27の断面積が2倍以上であることが好ましい。
バリアガスの流路断面積が、反応ガスの流路断面積の2倍以上とされるので、一重管構造部51に反応ガスとバリアガスが噴出されたときに、反応ガスが反応管11の内壁面へより近づかないようにすることができる。これにより、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生をより抑制することができる。
【0056】
また、バリアガスの流路断面積が、反応ガスの流路断面積の2倍以上とされることにより、反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側への四塩化チタン蒸気の拡散を遅らせることができ、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制することができる。
なお、この比は大きくするほど、膜状生成物の生成量が減る傾向にあるので、内筒開口部26の断面積に対して、中空外筒1と中空内筒5との間のリング状開口部27の断面積は4倍以上とすることがより好ましく、8倍以上とすることが更に好ましい。
【0057】
一定の内径を有する中空外筒1を用いて、内筒開口部26の断面積に対するリング状開口部27の断面積の比を大きくする手法としては、中空内筒5の外径を一定にして、中空内筒5の肉厚を厚くして中空内筒5の内径を小さくする手法と、中空内筒5の内径を一定にして、中空内筒5の肉厚を薄くして中空内筒5の外径を小さくする手法とがある。
【0058】
中空内筒5の反応ガスの流路断面積、すなわち、内筒開口部26の断面積に対して、中空内筒5の下流端部5bよりも下流側の反応管11の流路断面積、すなわち、外筒開口部28の断面積が3倍以上であることが好ましい。
反応ガスの流路断面積が、合流ガスの流路断面積の3倍以上とされるので、一重管構造部51に反応ガスとバリアガスが噴出されたときに、反応ガスが反応管11の内壁面へより近づかないようにすることができる。これにより、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生をより抑制することができる。
【0059】
また、合流ガスが流れる空間の断面積が、反応ガスの流路断面積の3倍以上とされることにより、反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側への四塩化チタン蒸気の拡散を遅らせることができ、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制することができる。
なお、この比は大きくするほど、膜状生成物の生成量が減る傾向にあるので、内筒開口部26の断面積に対して、外筒開口部28の断面積は6倍以上とすることがより好ましく、10倍以上とすることが更に好ましい。
【0060】
内筒開口部26の断面積に対する外筒開口部28の断面積の比を大きくする手法としては、中空外筒1の内径を一定として、中空内筒5の内径を小さくする手法と、中空内筒5の内径を一定として中空外筒1の内径を大きくする手法とがある。
【0061】
<線速度>
二重管構造部52で、反応ガスの線速度に対して、バリアガスの線速度を0.1〜10の範囲内とすることが好ましく、0.25〜4の範囲内とすることがより好ましく、0.5〜2の範囲内とすることが更に好ましい。
反応ガスとバリアガスをほぼ同一の速度で流すことにより、反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側への四塩化チタン蒸気の拡散を遅らせて、反応ガスが反応管11の内壁面へより近づかないようにすることができる。これにより、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生をより抑制することができる。
【0062】
二重管構造部52で、反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度を0.1未満とすると、反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側への四塩化チタン蒸気の拡散を抑制することができず、反応管11の内壁面に固着する膜状生成物の量が多くなる。
逆に、反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度を10超とすると、反応管11の内壁面に固着する膜状生成物の量がさらに多くなる。
【0063】
<経過時間>
中空内筒5の下流端部5bから噴出された反応ガスが800℃以上とされた本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間(以下、経過時間)は、250ミリ秒以下であることが好ましく、70ミリ秒以下であることがより好ましい。
なお、前記反応ガスは、中間領域Zで形成されたバリアガスと合流されて合流ガスとされているので、前記合流ガスが、中空内筒5の下流端部5bから噴出されてから、800℃以上とされた本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間としてもよい。
前記経過時間が250ミリ秒以下である場合には、中間領域Zで形成された反応ガスとバリアガスとからなる合流ガスが、本加熱領域Aに直ちに送り込まれ、反応ガスに含まれる四塩化チタンが酸化反応により直ちに消費される。すなわち、反応管11の中心軸付近から反応管11の内壁面側への四塩化チタン蒸気の拡散により反応管11の内壁面の近傍の四塩化チタン蒸気の濃度が高くなる前に、四塩化チタン蒸気が消費される。これにより、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の量を減らすことができる。
前記経過時間が250ミリ秒よりも長く、前記合流ガスが本加熱領域Aに直ちに送り込まれない場合、中間領域Zの反応管11の内壁面の近傍における四塩化チタン蒸気の濃度分布が高くなり、反応管11の内壁面に固着する膜状生成物の量が増える。
【0064】
<滞留時間>
反応ガス、すなわち、合流ガスが本加熱領域Aに滞留する時間(以下、滞留時間)は、2〜500ミリ秒の範囲内であることが好ましく、2〜300ミリ秒の範囲内であることがより好ましく、50〜250ミリ秒の範囲内であることが更に好ましい。
前記滞留時間が500ミリ秒超の場合には、酸化チタン粒子同士が融着しやすくなり、粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率が低下する。
逆に、前記滞留時間が2ミリ秒未満の場合には、本加熱領域Aを通過する際に完全に四塩化チタンの酸化反応が行われず、未反応の四塩化チタンが残り、酸化チタン粒子の生産性が低下するとともに、粉末生成物中の10面体酸化チタン粒子の比率も低下する。
【0065】
<レイノルズ数>
反応ガス、すなわち、合流ガスのレイノルズ数は、10〜10000の範囲であることが好ましく、20〜2000の範囲であることがより好ましく、50〜500の範囲であることが更に好ましい。
レイノルズ数を上記範囲内とすることにより、反応管11の外側への四塩化チタン蒸気の拡散を抑制するバリアガスの効果を高めることができる。これにより、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の量を減らすことができる。また、この効果が最も高いのは、レイノルズ数が50〜500の範囲の層流となる場合である。
【0066】
レイノルズ数が10000を超える場合には、合流ガスの乱流状態が顕著になり、反応管11の中心軸付近から内壁面側への四塩化チタン蒸気の拡散を抑制するバリアガスの効果が失われ、反応管11の内壁面への膜状生成物の固着量が増える。
逆に、レイノルズ数が10未満の場合には、反応ガス及びバリアガスの線速度がそれぞれ低くなり、反応管11の中心軸付近から内壁面側への四塩化チタン蒸気の拡散を抑制するバリアガスの効果が失われ、反応管11の内壁面への膜状生成物の固着量が増える。
【0067】
レイノルズ数Reは、Re=D×u×ρ/μという式で計算する。ここで、Dは中空外筒1の内径(m)であり、uは線速度(m/s)であり、ρは密度(kg/m)であり、μは粘度[kg/(m×s)]である。
【0068】
<中空外筒の内径D>
本実施形態では、中空外筒1の内径Dの値として21(mm)を用いる。また、uの値としては、反応後の合流ガス(Cl+O)の線速度(1200℃換算値)を用いる。ρの値としては、反応後の合流ガス(Cl+O)の密度(1200℃換算値)を用いる。さらに、μの値としては、反応後の合流ガスの粘度(1200℃換算値)を用いる。
【0069】
<合流ガスの線速度u>
反応後の合流ガス(Cl+O)の線速度uの値として、反応ガス(TiCl+O)の線速度u(1200℃換算値)を用いる。
先に記載した反応式(1)の反応により、反応ガスに含有させたTiClがすべて消費された場合には、TiClの2倍の(流)量のClが生成するとともに、OはTiClの分だけ消費されて、O流量が減少する。しかし、生成するTiOは粒子でありガスではないので、この反応前後で流れる気体全体の流量は変わらない。
【0070】
<合流ガスの密度ρ>
反応後の合流ガス(Cl+O)の密度ρの値を計算するために、単位時間当たりに流れる反応後の合流ガスの流量(すなわち、反応ガスの流量)を用いる。
まず、反応後の合流ガスの流量を1200℃換算した流量をX1200℃(m)とする。反応後の合流ガスの流量X1200℃(m)の標準状態(0℃、1atm)における流量を用いて、合流ガスの質量Y0℃,1atm(kg)が求まる。このとき、反応後の合流ガスの密度ρ=Y0℃,1atm(kg)/X1200℃(m)となる。
【0071】
<合流ガスの粘度μ>
反応後の合流ガス(Cl+O)の粘度μの計算には、μ=exp{a+b×ln(t+273)}という算出式を用いる。上記算出式において、tは温度であり、ここでは1200℃である。また、a、bは使用するガスの種類によって決まる定数であり、Clについてはa=0.015、b=0.864であり、Oについてはa=1.289、b=0.711という値である。なお、a、bのこれらの値は、すでに既知となっているtとμの組み合わせから、aとbの連立方程式を解いて得た値である。
【0072】
<合流ガスの粘度μ>
以下の式により、反応後の合流ガス(Cl+O)の粘度μを平均化して、反応後の合流ガスの粘度μ(1200℃時)を求める。
反応後の合流ガスの粘度μ(1200℃時)={(Clの流量の1200℃換算値)×(1200℃時のClの粘度)+(Oの流量の1200℃換算値)×(1200℃時のOの粘度)}/{反応後の合流ガス(Cl+O)の流量}
【0073】
以上、金属酸化物粒子として酸化チタン粒子を例として説明したが、これに限られるものではなく、たとえば、金属酸化物粒子は、酸化ケイ素粒子、酸化スズ粒子などであってもよい。これらの場合、それぞれ四塩化ケイ素蒸気及び四塩化スズ蒸気を含む反応ガスを使用する。
【0074】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、中空外筒1の上流部に中空内筒5が挿入された部分二重管構造(二重管構造部52)を有する反応管11に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する方法であって、中空内筒5に金属塩化物を含む前記反応ガスを流すとともに、中空内筒5と中空外筒1との間に金属塩化物を含まないバリアガスを流しつつ、中空内筒5の下流端部5bよりも上流において前記反応ガスと前記バリアガスとを予熱し、中空内筒5の下流端部5bよりも下流側に離れた領域において前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させる構成なので、短時間に本加熱に好適な温度にして、金属塩化物の蒸気と酸素との間の酸化反応を速やかに行うことができるとともに、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、光触媒材料として好適な10面体酸化チタン粒子もしくはそれ以外の酸化チタン粒子などの金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0075】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、金属塩化物が四塩化チタンであり、金属酸化物粒子が酸化チタン粒子である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、酸化チタン粒子を効率的に製造することができる。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、酸化チタン粒子が10面体酸化チタン粒子である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、10面体酸化チタン粒子を効率的に製造することができる。
【0076】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、予熱の温度が136℃以上750℃以下である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、本加熱の温度が800℃以上1500℃以下である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0077】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、反応ガスが、酸素ガスまたは/および窒素ガスを含む構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、バリアガスが、酸素ガス、窒素ガス、アルゴン、水蒸気またはこれらのうち少なくとも2種類のガスを含む構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0078】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、中空内筒5の反応ガスの流路断面積(内筒開口部26断面積)に対して、中空外筒1と中空内筒5との間のバリアガスの流路断面積(リング状開口部27断面積)が2倍以上である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、中空内筒5の反応ガスの流路断面積(内筒開口部26断面積)に対して、中空内筒5の下流端部5bよりも下流側の反応管11の流路断面積(外筒開口部28断面積)が3倍以上である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0079】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、中空内筒5の下流端部5bよりも上流側(二重管構造部52)で、反応ガスの線速度に対して、バリアガスの線速度が0.1〜10の範囲内である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、中空内筒5の下流端部5bよりも上流側(二重管構造部52)で、反応ガスに含まれる金属塩化物の濃度が0.5〜50体積%である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0080】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、中空内筒5の下流端部5bよりも下流側(一重管構造部51)で、反応ガスに含まれる金属塩化物の濃度が0.1〜20体積%である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、中空内筒の下流端部から噴出された前記反応ガスが、800℃以上とされた本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間が250ミリ秒以下である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0081】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、前記反応ガスが、前記本加熱領域に滞留する時間が2〜500ミリ秒である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、前記反応ガスのレイノルズ数が10〜10000である構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0082】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置101は、中空外筒1の上流部に中空内筒5が挿入された部分二重管構造(二重管構造部52)を有する反応管11に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する装置であって、中空内筒5の下流端部bよりも上流に、中空内筒5に流した金属塩化物を含む前記反応ガスと、中空内筒5と中空外筒1との間に流した金属塩化物を含まないバリアガスと、を予熱する予熱領域X、Yが設けられ、中空内筒5の下流端部5bよりも下流側に離れた領域に、前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させる本加熱領域Aが設けられている構成なので、反応管11の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【0083】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置の別の一例を示す模式図である。第1の実施形態で示した部材と同じ部材については同じ符号を付して示している。
図2に示すように、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置102は、中空内筒5の下流端部5bが2つの加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2に挟まれた領域に大きくはみ出すように、中空内筒5が配置されており、予熱領域Yの下流側末端から下流端部5bの位置まで、中空外筒1に白金板(図示略)が巻きつけられて、別の予熱領域Bが形成されている他は、第1の実施形態で示した金属酸化物粒子の製造装置101と同様の構成とされている。
【0084】
この加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2は、上流側と下流側でそれぞれ独立した温度制御器(図示略)で制御されている。これにより、予熱領域Bと本加熱領域Aは、それぞれ別の任意の温度に設定して制御できる構成とされている。
予熱領域X、Yに加えて、別の予熱領域Bを通過させることにより、反応ガスとバリアガスの温度をそれぞれ136℃以上750℃以下の温度範囲でより精密に制御することができる。
【0085】
次に、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法の別の一例について、図2に示した金属酸化物粒子の製造装置を用いて説明する。
まず、第1の実施形態で示した金属酸化物粒子の製造方法と同様に、バリアガス導入管4a、4からバリアガスを反応管12の中空外筒1に導入するとともに、反応ガス導入管25a、25bから反応ガスを反応管12の中空内筒5に導入する。このとき、水は気化器6により水蒸気とし、四塩化チタンは気化器7により四塩化チタンの蒸気とする。
【0086】
次に、予熱領域X、Yでバリアガスと反応ガスとを加熱した後、別の予熱領域Bでバリアガスと反応ガスとを更に加熱して、反応ガスとバリアガスの温度をそれぞれ136℃以上750℃以下の温度範囲の所定の予熱温度となるように精密に制御する。
次に、中間領域Zで反応ガスとバリアガスとを合流させた後、本加熱領域Aで前記合流ガスを800℃以上1500℃以下の温度範囲で本加熱する。
本加熱領域Cを通過した合流ガスは直ちに冷却されて、酸化チタン粒子を生成する。この酸化チタン粒子は、生成物回収部3で回収される。
【0087】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造方法は、第1の実施形態で示した効果の他、予熱領域X、Yでバリアガスと反応ガスとを加熱した後、別の予熱領域Bでバリアガスと反応ガスとを更に加熱して、反応ガスとバリアガスの温度をそれぞれ136℃以上750℃以下の温度範囲の所定の予熱温度となるように精密に制御する構成なので、反応管12の内壁面に生成する膜状生成物の発生をより抑制して、金属酸化物粒子をより効率的に製造することができる。
【0088】
本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置102は、中空外筒1と、中空外筒1の上流側から途中まで挿入されてなる中空内筒5と、からなる二重管構造部52と、中空外筒1のみからなる一重管構造部51とを有する反応管12と、一重管構造部51の一部を局所的に加熱するように、反応管12の外部に配置された加熱装置2と、中空外筒1の上流側に接続されたバリアガス導入管4、4aと、中空内筒5の上流側に接続された反応ガス導入管25a、25bと、中空外筒1の下流側に接続された生成物回収部3と、が備えられている構成なので、反応管12の内壁面に生成する膜状生成物の発生を抑制して、酸化チタン粒子などの金属酸化物粒子を効率的に製造することができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例1)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下のようにして、酸化チタン粒子を製造した。
まず、中空外筒1としては外径25.0mm、内径21.0mm、厚み2.0mmの石英管を使用し、中空内筒5としては外径12.7mm、内径10.0mm、厚み1.3mmの石英管を使用して、中空外筒1と中空内筒5とが同軸となるように配置して二重管構造を有する反応管11を作製した。これにより、内筒開口部断面積に対するリング状開口部断面積は2.6倍となり、内筒開口部断面積に対する外筒開口部断面積は4.09倍となった。
【0090】
次に、反応管11の一部に白金板を16cm巻きつけ、この部分に赤外線が当たるように加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2を配置して、本加熱領域Aを設定した。
また、中空内筒5の下流端部5bが本加熱領域Aの上流端から7cm上流の位置となるように、中空内筒5を配置した。これに合わせて電気ヒーターを配置して、反応ガスとバリアガスとを予熱する予熱領域X、Yを設定した。
【0091】
酸素(O)ガスからなるバリアガスをバリアガス導入管4aに導入した後、165℃に保温した気化器6内を通過させて、中空外筒1へバリアガスを導入した。なお、バリアガスの流量は、2316NmL/minとした。
反応ガスとしては四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素の混合ガスを用いた。まず、反応ガス導入管25aから導入した四塩化チタンを、165℃に保温した気化器7を通過させて四塩化チタンの蒸気とするとともに、酸素を反応ガス導入管25bから導入して、これらを混合ガスとした状態で、中空内筒5へ反応ガスを導入した。
【0092】
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は2.7体積%とし、反応ガスの流量は848NmL/minとした。また、予熱領域X、Yにおける反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度の比は1.0とした。
【0093】
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.72体積%とした。また、中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は72とした。なお、このレイノルズ数は、中空内筒5の下流端部5bのより下流において、合流ガスが1200℃になっていると仮定した場合の値である。また、中間領域Zで合流ガスが形成された後、前記合流ガスが本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間(経過時間)は、88ミリ秒であった。
【0094】
次に、本加熱領域Aで、加熱装置2を温度制御器(図示略)で、白金板の表面温度が1200℃になるように制御して、合流ガスを加熱した。
このとき、合流ガスの本加熱領域Aでの滞留時間は200ミリ秒とした。なお、この滞留時間は、中空内筒5の下流端部5bのより下流において、合流ガスが1200℃になっていると仮定した場合の値である。最後に、生成物回収部3で酸化チタン粒子を回収した。
原料に対する粉末生成物の収率は84%であった。また、酸化チタン粒子を走査型電子顕微鏡で観察することにより、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は70%であることが分かった。
【0095】
(実施例2)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
まず、中空内筒5としては外径12.0mm、内径7.9mm、厚み2.1mmの石英管を使用して、反応管11を作製した。これにより、内筒開口部断面積に対するリング状開口部断面積は4.8倍となり、内筒開口部断面積に対する外筒開口部断面積は7.07倍となった。
【0096】
次に、酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2546NmL/minとした。
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は4.2体積%とし、反応ガスの流量は534NmL/minとした。
【0097】
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.73体積%とした。また、中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は70とした。
次に、本加熱領域Aで、加熱装置2を温度制御器(図示略)で、白金板の表面温度が1200℃になるように制御して、合流ガスを加熱した。このとき、合流ガスの本加熱領域Aでの滞留時間は200ミリ秒とした。最後に、生成物回収部3で酸化チタン粒子を回収した。
原料に対する粉末生成物の収率は84%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は70%であった。
【0098】
(実施例3)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
まず、中空内筒5としては外径12.4mm、内径6.0mm、厚み3.2mmの石英管を使用して、反応管11を作製した。これにより、内筒開口部断面積に対するリング状開口部断面積は8.1倍となり、内筒開口部断面積に対する外筒開口部断面積は12.4倍となった。また、本加熱領域A及び予熱領域X、Yを設定した。
【0099】
次に、酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2742NmL/minとした。
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は6.6体積%とし、反応ガスの流量は338NmL/minとした。
【0100】
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.73体積%とした。また、中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は70とした。
次に、本加熱領域Aで、加熱装置2を温度制御器(図示略)で、白金板の表面温度が1200℃になるように制御して、合流ガスを加熱した。このとき、合流ガスの本加熱領域Aでの滞留時間は200ミリ秒とした。
原料に対する粉末生成物の収率は90%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は80%であった。なお、図5は、本実施例で得られた酸化チタン粒子の電子顕微鏡写真である。
【0101】
(実施例4)
中空内筒5の下流端部5bの位置を、本加熱領域Aの上流端から2cm上流の位置に配置した以外は実施例3と同じ条件で、酸化チタン粒子を製造した。なお、中間領域Zで合流ガスが形成された後、前記合流ガスが本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間(経過時間)は、25ミリ秒であった。
原料に対する粉末生成物の収率は94%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は70%であった。
【0102】
(実施例5)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例3と同様の条件とした。
まず、中空内筒5としては外径12.6mm、内径4.1mm、厚み4.2mmの同軸平行流の石英管を使用して、反応管11を作製した。これにより、内筒開口部断面積に対するリング状開口部断面積は16.9倍となり、内筒開口部断面積に対する外筒開口部断面積は26.3倍となった。
中空内筒5の下流端部5bの位置を、本加熱領域Aの上流端から2cm上流の位置に配置した。なお、中間領域Zで合流ガスが形成された後、前記合流ガスが本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間(経過時間)は、25ミリ秒であった。
【0103】
次に、酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2908NmL/minとした。
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は13.0体積%とし、反応ガスの流量は172NmL/minとした。
原料に対する粉末生成物の収率は96%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は80%であった。
【0104】
(実施例6)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2327NmL/minとした。
【0105】
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は1.0体積%とし、反応ガスの流量は831NmL/minとした。
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.26体積%とした。また、中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は71とした。
原料に対する粉末生成物の収率は80%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は70%であった。
【0106】
(実施例7)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2327NmL/minとした。
【0107】
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は5.7体積%とし、反応ガスの流量は831NmL/minとした。
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は1.5体積%とした。また、中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は73とした。
原料に対する粉末生成物の収率は72%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は80%であった。
【0108】
(実施例8)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2552NmL/minとした。
【0109】
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は3.7体積%とし、反応ガスの流量は606NmL/minとした。
また、予熱領域X、Yにおける反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度の比は1.5とした。
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.72体積%とした。
原料に対する粉末生成物の収率は72%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は50%であった。
【0110】
(実施例9)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2458NmL/minとした。
【0111】
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は3.2体積%とし、反応ガスの流量は700NmL/minとした。
また、予熱領域X、Yにおける反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度の比は1.25とした。
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.72体積%とした。
原料に対する粉末生成物の収率は82%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は60%であった。
【0112】
(実施例10)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2185NmL/minとした。
【0113】
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は2.3体積%とし、反応ガスの流量は973NmL/minとした。
また、予熱領域X、Yにおける反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度の比は1/1.25とした。
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.72体積%とした。
原料に対する粉末生成物の収率は81%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は60%であった。
【0114】
(実施例11)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、バリアガスの流量は、2058NmL/minとした。
【0115】
次に、予熱領域X、Yで、反応ガスとバリアガスをそれぞれ150℃に加熱した。なお、予熱領域X、Yにおける反応ガス中の四塩化チタン濃度は2.1体積%とし、反応ガスの流量は110NmL/minとした。
また、予熱領域X、Yにおける反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度の比は1/1.5とした。
次に、予熱した反応ガスとバリアガスを、中間領域Zで合流させて、合流ガスとした。中間領域Zにおける合流ガス中の四塩化チタンの濃度は0.72体積%とした。
原料に対する粉末生成物の収率は80%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は60%であった。
【0116】
(実施例12)
中空内筒5の下流端部5bの位置を、本加熱領域Aの上流端から5cm上流の位置に配置した以外は実施例3と同じ条件で、酸化チタン粒子を製造した。なお、中間領域Zで合流ガスが形成された後、前記合流ガスが本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間(経過時間)は、63ミリ秒であった。
原料に対する粉末生成物の収率は91%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は50%であった。
【0117】
(実施例13)
中空内筒5の下流端部5bの位置を、本加熱領域Aの上流端から4cm上流の位置に配置した以外は実施例3と同じ条件で、酸化チタン粒子を製造した。なお、中間領域Zで合流ガスが形成された後、前記合流ガスが本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間(経過時間)は、50ミリ秒であった。
原料に対する粉末生成物の収率は95%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は50%であった。
【0118】
(実施例14)
図2に示す金属酸化物粒子の製造装置102を用いて、以下のようにして、酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例13と同様の条件とした。
中空内筒5の下流端部5bより上流側に、8cmの長さの白金板を巻いた別の予熱領域Bを設定した。
また、中空内筒5の下流端部5bより下流側に、7cm幅の中間領域を挟んで、16cmの長さの白金板を巻いた本加熱領域Aを設定した。
そして、これら2つの領域に赤外線が照射されるように、加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2を設置した。
【0119】
加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2を制御して、別の予熱領域Bの白金板の表面温度を500℃にするとともに、本加熱領域Aの白金板の表面温度を1200℃にした。最後に、生成物回収部3で酸化チタン粒子を回収した。
原料に対する粉末生成物の収率は95%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は50%であった。
【0120】
(実施例15)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と窒素(N)とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は69とした。
原料に対する粉末生成物の収率は77%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は80%であった。
【0121】
(実施例16)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
窒素(N)ガスからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素(O)とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。
原料に対する粉末生成物の収率は71%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は60%であった。
【0122】
(実施例17)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスと水蒸気とからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素(O)とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、四塩化チタンの蒸気と水蒸気の体積比は1:0.5とした。中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は69とした。
原料に対する粉末生成物の収率は89%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は50%であった。
【0123】
(実施例18)
図1に示す金属酸化物粒子の製造装置101を用いて、以下の条件で酸化チタン粒子を製造した。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
酸素(O)ガスと水蒸気とからなるバリアガスを中空外筒1へ導入し、四塩化チタン(TiCl)の蒸気と酸素(O)とからなる反応ガスを、中空内筒5へ導入した。なお、四塩化チタンの蒸気と水蒸気の体積比は1:1とした。中間領域Zでの合流ガスのレイノルズ数は69とした。
原料に対する粉末生成物の収率は95%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は40%であった。
【0124】
(比較例1)
図3に示す金属酸化物粒子の製造装置201を用いて、以下の条件で、酸化チタン粒子を製造した。ここで、実施例1で示した部材と同じ部材については同じ符号を付して示している。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
図3に示すように、金属酸化物粒子の製造装置201は、中空内筒5の下流端部5bが、加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)2から上流側に大きく離間して設置されて、反応管31に二重管構造部が設けられていない点と、反応管31にバッフル9が挿入されている点が、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置101、102と大きく異なる。なお、反応管31としては、実施例1と同じ寸法の石英管を用いた。
反応ガスとしては、四塩化チタンの蒸気と酸素(O)との混合ガスを用い、気化器7を通過させると同時に、中空内筒5の下流端部5bから反応管31の内部に導入した。
【0125】
バッフル9は、反応管31の下流側1bから挿入されている。バッフル9としては、図3に示すように、例えば、石英管の先端を閉塞して尖った形状にしたものが使用され、中空内筒5から反応管31内に導入される反応ガスを、高温状態にされた反応管31の内壁面側へと導く。なお、本比較例では、バッフル9の外径を12.7mmとした。
気化器7を通過した後の混合ガス中の四塩化チタンの濃度は0.72体積%とし、流量を合計で2264NmL/minとした。
【0126】
反応管31の表面には、実施例1と同じ長さの白金板が巻き付けられて、本加熱領域Dが設定されている。本加熱領域Dにおける反応ガスの滞留時間及び白金板の表面温度は実施例1と同様にされて、本加熱がなされた。最後に、生成物回収部3で酸化チタン粒子を回収した。
原料に対する粉末生成物の収率は31%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は70%であった。また、反応管31の内壁面に膜状生成物が形成され、その収率は63%であった。
【0127】
(比較例2)
バッフル9が設置されていない他は同様の金属酸化物粒子の製造装置201を用いて、気化器7を通過させた後の四塩化チタンの蒸気と酸素(O)との反応ガスの流量を、3461NmL/minとした他は比較例1と同様の条件で、金属酸化物粒子を製造した。
原料に対する粉末生成物の収率は40%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は40%であった。また、反応管31の内壁面に膜状生成物が形成され、その収率は55%であった。
【0128】
(比較例3)
図4に示す金属酸化物粒子の製造装置202を用いて、以下の条件で、酸化チタン粒子を製造した。ここで、実施例1で示した部材と同じ部材については同じ符号を付して示している。なお、以下に示す条件以外は、実施例1と同様の条件とした。
図4に示すように、金属酸化物粒子の製造装置202は、二重管構造部52の一部と、一重間構造部51の一部とに重なるように、中空外筒1の表面に白金板が巻きつけられて、加熱領域Fが形成されている点と、反応管32にバッフル9が挿入されている点が、本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置102と大きく異なる。なお、反応管32及び中空内筒5としては、実施例1と同じ寸法の石英管を用いた。
【0129】
バッフル9は、その先端が中空内筒5の下流端部5bと対向するように、反応管32の下流側1bから挿入されている。これにより、バッフル9は、中空内筒5から反応管32内に導入される反応ガスを、高温状態にされた反応管32の内壁面側へと導く。なお、本比較例では、バッフル9の外径を12.7mmとした。
【0130】
バリアガスとしては、酸素と水蒸気とからなる混合ガスを用い、2530NmL/minの流量で流した。
反応ガスとしては、四塩化チタンの蒸気と酸素とからなる混合ガスを用い、気化器7を通過した後の混合ガス中の四塩化チタンの濃度は2.7体積%とし、流量が合計で928NmL/minとした。また、四塩化チタン蒸気と水蒸気の体積比は1:3とした。
さらに、反応ガスの線速度に対するバリアガスの線速度の比、合流ガス中の四塩化チタン濃度及び合流ガスのレイノルズ数は実施例1と同じ値とした。
【0131】
反応管31の表面には、24cmの長さの白金板が巻き付けられて、本加熱領域Fが設定されている。また、中空内筒5の下流端部5bが、本加熱領域Fの上流端から8cm下流側の位置となるように、中空内筒5が配置されている。そのため、本加熱領域Fは、中空内筒5と中空外筒1とからなる二重管構造の部分Fと、中空外筒1のみからなる一重管構造の部分Fとを有する。本加熱領域Fの温度を1200℃としたので、二重管構造の部分F及び一重管構造の部分Fはともに1200℃となった。
【0132】
図4に示す金属酸化物粒子の製造装置202では、中間領域Zを設けない構成なので、前記合流ガスが本加熱領域Aの最上流端に達するまでの時間(経過時間)は、0ミリ秒であった。
本加熱領域Fの一重管構造の部分Fにおける反応ガスの滞留時間は200ミリ秒とした。また、白金板の表面温度を実施例1と同様にして、本加熱を行った。最後に、生成物回収部3で酸化チタン粒子を回収した。
原料に対する粉末生成物の収率は40%であり、粉末生成物中の10面体酸化チタンの比率は40%であった。また、反応管31の内壁面に膜状生成物が形成され、その収率は58%であった。
【0133】
実施例1〜18及び比較例1〜3の製造条件について、表1にまとめた。また、実施例1〜18及び比較例1〜3で得られた酸化チタン粒子、膜状生成物及び10面体酸化チタン粒子の収率について、表2にまとめた。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
ここで、酸化チタン粒子の収率は、使用した四塩化チタンの質量に対して製造された酸化チタン粒子の質量の割合である。また、膜状生成物の収率は、使用した四塩化チタンの質量に対して製造された膜状生成物の質量の割合である。さらに、10面体酸化チタン粒子の収率は、走査型電子顕微鏡により5箇所以上の視野にて、製造された酸化チタン粒子を観察して、酸化チタン粒子に対する10面体酸化チタン粒子の割合を算出したものである。
【0137】
表1に示すように、比較例1〜3においては、粉末生成物(酸化チタン粒子)の収率は30〜40%と低く、逆に、膜状生成物が収率60%程度で反応管の内壁に固着した。
これに対して、反応管に二重管構造部を設け、バッフルを除いた実施例1では、膜状生成物の収率が大幅に減り、粉末生成物の収率が84%と大幅に増えた。
【0138】
実施例1〜5では、中空内筒外径をほぼ一定としたまま、中空内筒の内径を小さくしていき、内筒開口部断面積に対するリング状開口部断面積の割合を大きくした。同時に、内筒開口部断面積に対する外筒開口部断面積の割合も大きくした。内筒開口部断面積に対するリング状開口部断面積及び外筒開口部断面積の割合を大きくするにつれて、粉末生成物の収率が高まった。
【0139】
実施例1、6、7では、二重管構造部と一重管構造部の四塩化チタンの濃度(体積%)を変えて、比較を行った。四塩化チタンの濃度を変えても72%以上の高収率で粉末生成物が得られた。また、粉末生成物に対する10面体酸化チタン粒子の比率も70%以上であった。
【0140】
実施例1、8〜11では、反応ガスとバリアガスの線速度の比を変えて、比較を行った。前記線速度の比を変えても、72%以上の高収率で粉末生成物が得られた。また、粉末生成物に対する10面体酸化チタン粒子の比率も50%以上であった。
特に、前記線速度の比を1対1付近とした際に、粉末生成物の収率が84%と最も高まり、粉末生成物に対する10面体酸化チタン粒子の比率も70%と最も高まった。
【0141】
実施例3、4、12、13では、中空内筒の下流端部から白金板までの距離を変えることにより、反応ガスとバリアガスとからなる合流ガスが本加熱領域の最上流端に達するまでの時間(経過時間)を変化させて、比較を行った。ここで、本加熱領域は白金板が巻かれた領域であって、本加熱温度である1200℃とされた領域である。
この時間を50ミリ秒以下に短くすることで、粉末生成物の収率が94〜96%まで高まった。
【0142】
実施例13に対して実施例14では、別の予熱領域を設ける構成とした。別の予熱領域の予熱温度を500℃と高くしても、95%と高収率で粉末生成物が得られ、粉末生成物に対する10面体酸化チタン粒子の比率も50%と高かった。
【0143】
実施例1に対して実施例15では、反応ガスの種類を変えた。実施例15に示すように、反応ガスが四塩化チタンの蒸気と窒素とからなる混合ガスであっても、77%と高収率で粉末生成物が得られ、粉末生成物に対する10面体酸化チタン粒子の比率も80%と高かった。
【0144】
実施例1に対して実施例16〜18では、バリアガスの種類を変えた。
実施例16に示すように、バリアガスを窒素としても、71%と高収率で粉末生成物が得られ、粉末生成物に対する10面体酸化チタン粒子の比率も60%と高かった。
また、実施例17、18に示すように、バリアガスとして酸素と水蒸気を用いた場合、四塩化チタンの蒸気に対する水蒸気の体積比を増やすほど、粉末生成物の収率が増えたが、粉末生成物に対する10面体酸化チタン粒子の比率は低下した。
以上、本発明の金属酸化物粒子の製造方法及び製造装置によれば、反応管の内壁部に生成する膜状生成物の発生を抑制して、10面体酸化チタン粒子もしくはそれ以外の酸化チタン粒子を効率よく製造することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の金属酸化物粒子の製造方法及び製造装置は、反応管の内壁部に生成する膜状生成物の発生を抑制して、光触媒材料として好適な10面体酸化チタン粒子もしくはそれ以外の酸化チタン粒子を効率よく製造することができるので、光触媒産業などにおいて利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態である金属酸化物粒子の製造装置の別の一例を示す模式図である。
【図3】金属酸化物粒子の製造装置の比較例を示す模式図である。
【図4】金属酸化物粒子の製造装置の別の比較例を示す模式図である。
【図5】実施例3の金属酸化物粒子(酸化チタン粒子)の走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0147】
1…中空外筒。
1a…上流側。
1b…下流側。
2…加熱装置(赤外線ゴールドイメージ炉)。
3…生成物回収部。
3a…排気ポンプ。
3b…圧力調整バルブ。
4、4a…バリアガス導入管。
5…中空内筒。
5a…上流側。
5b…下流側(下流端部)。
6、7…気化器。
8…排出管。
9…バッフル。
11、12…反応管。
25a、25b…反応ガス導入管。
26…内筒開口部。
27…リング状開口部。
28…外筒開口部。
31、32…反応管。
101、102、201、202…金属酸化物粒子の製造装置。
A…本加熱領域。
B…予熱領域。
D…本加熱領域。
F…本加熱領域。
…本加熱領域。
…本加熱領域。
X…予熱領域。
Y…予熱領域。
Z…中間領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空外筒の上流部に中空内筒が挿入された部分二重管構造を有する反応管に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する方法であって、
前記中空内筒に金属塩化物を含む前記反応ガスを流すとともに、前記中空内筒と前記中空外筒との間に金属塩化物を含まないバリアガスを流しつつ、前記中空内筒の下流端部よりも上流において前記反応ガスと前記バリアガスとを予熱し、前記中空内筒の下流端部よりも下流側に離れた領域において前記反応ガスを本加熱して、前記金属塩化物を熱分解させることを特徴とする金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩化物が四塩化チタンであり、前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタン粒子が10面体酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項2に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記予熱の温度が136℃以上750℃以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記本加熱の温度が800℃以上1500℃以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記反応ガスが、酸素ガスまたは/および窒素ガスを含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記バリアガスが、酸素ガス、窒素ガス、アルゴン、水蒸気またはこれらのうち少なくとも2種類のガスを含むことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記中空内筒の反応ガスの流路断面積に対して、前記中空外筒と前記中空内筒との間のバリアガスの流路断面積が2倍以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記中空内筒の反応ガスの流路開口部断面積に対して、前記中空内筒の下流端部よりも下流側の反応管の流路断面積が3倍以上であることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
前記中空内筒の下流端部よりも上流側で、前記反応ガスの線速度に対して、前記バリアガスの線速度が0.1〜10の範囲内であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項11】
前記中空内筒の下流端部よりも上流側で、前記反応ガスに含まれる前記金属塩化物の濃度が0.5〜50体積%であることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項12】
前記中空内筒の下流端部よりも下流側で、前記反応ガスと前記バリアガスとからなる合流ガスに含まれる前記金属塩化物の濃度が0.1〜20体積%であることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項13】
前記中空内筒の下流端部から噴出された前記反応ガスが800℃以上とされた本加熱領域の最上流端に達するまでの時間が250ミリ秒以下であることを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項14】
前記反応ガスが、前記本加熱領域に滞留する時間が2〜500ミリ秒であることを特徴とする請求項13に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項15】
前記反応ガスのレイノルズ数が10〜10000であることを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項16】
中空外筒の上流部に中空内筒が挿入された部分二重管構造を有する反応管に反応ガスを流通させて金属酸化物粒子を製造する装置であって、
前記中空内筒の下流端部よりも上流に、前記中空内筒に流した金属塩化物を含む前記反応ガスと、前記中空内筒と前記中空外筒との間に流した金属塩化物を含まないバリアガスと、を予熱する予熱領域が設けられ、前記中空内筒の下流端部よりも下流側に離れた領域に、前記反応ガスを本加熱して前記金属塩化物を熱分解させる本加熱領域が設けられていることを特徴とする金属酸化物粒子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−95401(P2010−95401A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266675(P2008−266675)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】